ーズでいうと、黎明期の終わり頃になります。当時ハーバード大
学の准教授であったアイバン・サザランド氏は、学生との共同研
究で、現在のヘッドマウントディスプレイ(HMD)に最も似て
いるディスプレイを発明しています。このディスプレイは「ダモ
クレスの剣」と呼ばれ、現在のHMDの原型になっています。
その「ダモクレスの剣」の貴重な映像があります。説明などの
音声はなく、たった21秒の映像なので、ご覧ください。
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◎ダモクレスの剣/21秒
https://bit.ly/3h020dg
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ところで、なぜ、このHMDは「ダモクレスの剣」といわれて
いるのでしょうか。
ダモクレスというのは、シラクサの王、ディオニシオスの延臣
の名前です。あるとき、ダモクレスは、王位の幸福さをほめそや
したところ、王は彼を天井から髪の毛1本で剣をつるした王座に
座らせ、王者の身辺には常に危険があることを悟らせたという故
事が伝えられています。
サザランド氏が開発したHMDが「ダモクレスの剣」と呼ばれ
るのは、そのような難しい話ではなく、それが非常に重いので、
天井からぶら下げたことに基づいています。しかし、頭に装着す
るというアイデアが後世のHMDの重要なヒントとして、伝わっ
たことは確かです。
アイバン・サザランド──この名前を知る日本人はあまりいな
いと思いますが、既に述べているように、VRにとっては欠かせ
ない存在であるとともに、インターネットの開発にも寄与してお
り、大学教授として多くの部下を育てています。これについて、
加藤直人氏は自著で次のように述べています。
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サザランドの教え子には、「パソコンの父」アラン・ケイ、グ
ラフィックソフトの「フォトショップ」や「イラストレーター」
で有名なアドビの創業者ジョン・ワーノック、ネットスケープを
立ち上げたジェームズ・クラーク、ピクサーの創業者エド・キャ
ットムルなど、錚々たるメンバーが名を連ねている。CGやVR
に関わる系譜をたどっていくと、すべてアイバン・サザランドに
たどり着くといっても過言ではない。 ──加藤直人著
『メタバース/さよならアトムの時代』/集英社
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1990年代に入ると、さまざまな企業がVRに参入して、V
Rは社会現象になります。これが第1次VRブームです。それら
の企業のなかで注目すべきは、VPLリサーチという企業です。
1984年にコンピュータ・サイエンティストのジャロン・ラニ
アー氏が創立した企業です。VPLは次の言葉の省略です。
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◎VPL
Visual Programming Languages
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VPL──ビジュアル・プログラミング・ランゲージとは何で
しょうか。
一般的にプログラミングというと、テキストで記述しますが、
VPLは視覚的なオブジェクトでプログラミングするのです。い
ろいろな種類がありますが、矩形や円を画面上のオブジェクトと
し、それらを矢印や線や弧でつなぐものや、空間上でテキストや
グラフィックシンボルを配置するものや、ブロック状のものなど
いろいろあります。
VPLリサーチ社は、VRに関連する次のようなものを次々と
作り出し、多くの特許を取得したものの、事業としてはうまくい
かず、1999年には倒産し、サン・マイクロシステムズによっ
て買収されています。
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@データグローブ(Data Glove)
A アイフォーン(Eye Phone)
B データスーツ(Data Suit)
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@の「データグローブ」とは、仮想世界の物体と相互作用でき
るグローブです。Aの「アイフォーン」とは、ユーザーがコンピ
ュータシミュレーションの世界に没入できるヘッドマウントディ
スプレイシステムです。Bの「データスーツ」は、腕、脚、そし
て、体幹部の運動を計測するセンサが埋め込まれた全身スーツで
す。そのイメージは、添付ファイルの図をご覧ください。
1989年にVPLリサーチは、サンフランシスコの「テクス
ポ」という展示会のパシフィックベルという電話会社のブースで
同社のHMDである「アイフォーン」をかぶって、バーチャルの
空間で会話できるデモを行っています。VRでの会議が1989
時点で既に行われていたのです。「アイフォーン」とは、つまり
「目の電話」という意味になります。それにしても1989年に
もアイフォーンなるものがあったとは驚きです。
VPLリサーチの創業者、ジャロン・ラニアー氏は、はじめて
展示会のデモや講演のさい、「バーチャル・リアリティ」という
言葉を使っていたといわれます。それまでは「バーチャル・ワー
ルド」という言葉が使われていたようです。
1990年のことです。米国のサンタバーバラに研究者が集ま
り、VRについての初めての国際会議「サンタバーバラ会議」が
行われています。その会議において、それまで別々の名称で呼ば
れていた研究領域を「バーチャル・リアリティ」で同一すること
になったのです。
この会議を契機として、多くの企業がHMDを競って発表する
ようになっています。これが第1次VRブームです。
──[ウェブ3/メタバース/045]
≪画像および関連情報≫
●身の回りにあるバーチャルリアリティ/桜井研三氏
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バーチャルリアリティ(VR)が日本で最初に注目された
のは1980年代末期であるから、2019年の時点で、約
30年が経過したことになる。その間に何度か訪れたVRブ
ームは、3次元立体(3D)テレビと同様に一時的に脚光を
浴びたものの、長くは続かなかったように思える。確かに、
VRと聞いて連想するのは大掛かりな機械に囲まれた特殊な
場所での体験であり,そのような意味でのブームは、続かな
かった。しかしその陰で,VRを構成する個々の基盤技術は
着実に日常生活に浸透しており,心理学が取り組むべき問題
が生まれている。本稿では最初のVRが誕生した背景とその
後の変遷を概観した後,拡張現実感、広視野角と多感覚,モ
ーションキャプチャというVRの3要素を取り上げ,我々の
身の回りにVRが存在する現状を考えてみる。
多くの読者がVRと聞いて連想するのは,ゴーグルのよう
な頭部搭載型ディスプレイ(HMD)を装着してコントロー
ラーを手にした観察者の姿であろう。このタイプのVRの特
徴は,HMDを通して見える範囲が限定されていても観察者
が後ろを向けば後ろの景色が見える点にある。このように観
察者の身体の動きに連動して映像が変化するHMDと他の技
術を組み合わせた現在のVRの原型は、アメリカ航空宇宙局
(NASAWS)のエイムズ研究所で1980年代に誕生し
た。仮想インターフェイス環境ワークステーション(VIE
W)と名づけられたプロジェクトが現在のVRのの出発点で
ある。 https://bit.ly/3unzR2H
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VPL製品