2022年11月30日

●「アップルとFBに根深い確執あり」(第5864号)

 「メタバース」──今やITのことに関心のない人でも、この
言葉を知らない人がないほど、その認知度は上がっています。こ
のような現象のことを「バズる」と呼んでいますが、これは英語
の「Buzz」からきており、動詞で「がやがや言う・噂になる」と
いう意味になります。
 その原因をつくったのは、間違いなくマーク・ザッカーバーク
氏──現「メタ」(旧フェイスブック)のCEOです。社名変更
は、2021年10月28日に行われています。さらに2022
年1月、かねてから発行を予告していた同社の仮想通貨「ディエ
ム」(前名称リブラ)の発行の断念も発表されています。問題は
なぜ社名を変更したかです。
 2018年以降、フェイスブックは数々の問題を引き起こして
います。約8700万人に及ぶユーザー情報流出問題、プライバ
シーの扱いなどに関する姿勢が問題視された問題などで、ザッカ
ーバークCEOは、これらの件で、2018年4月10日と11
日の両日、米連邦議会上院司法委員会と、米連邦政府下院エネル
ギーおよび商業対策委員会の公聴会に呼び出され、数時間に及ぶ
議員からの質問攻めにあっています。
 こういう状況ではあったものの、ザッカーバークCEOが一番
頭を悩ましていたものは、アップルが2021年春から実施して
いるプライバシー保護を強化するポリシー改訂です。具体的には
オンラインのターゲティング(追跡型)広告をやめるというポリ
シーです。これは、売り上げの98.5 %が広告収入であるフェ
イスブックにとっては、大ショックです。
 Web2.0 の勝者はGAFAMとよくいわれますが、真の勝
者は、アップルとグーグルです。とくに、ハード、OS、ストア
のすべてを握っているのはアップルです。フェイスブックは、そ
のアップルやグーグルの手の平の上で何とか生き残っているみじ
めな存在──ザッカーバークCEOは、フェイスブックをそのよ
うに捉えていたのです。
 アップルのティム・クックCEOは、このところ、いろいろな
ところで、フェイスブックの個人情報の扱いについて、批判を強
めています。いくつかのサイトから、2人の発言の一部をまとめ
て編集すると、次のようになります。
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◎ティム・クックCEOのフェイスブック批判
・フェイスブックなどの企業は、複数のソースからかき集めてき
 たデータを使った詳細な個人プロファイルを作っているが、こ
 のように個人データを取り扱うことは抑制されるべきである。
・個人的に規制を行うことは好きではないが、ベストな規制とは
 「規制がないこと」であり、「自己規制」である。しかし、も
 うすでにその段階は超えている気がする。何らかの歯止めが講
 じられる必要がある。
・アップルは、ユーザーではなくハードウェアを売ってビジネス
 を回すという方針が示されている。実際のところもしアップル
 がユーザーをマネタイズしたら莫大なお金が舞い込んでくる。
 しかし、アップルはそうはしないことを選んでいる。
・(あなたがザッカーバークCEOだったらと尋ねられて)私は
 ああいう状況にはならない。    https://bit.ly/3VbdwkF
・われわれは個人情報を取り引きするようなことはしない。われ
 われにとってプライバシーは人権。市民の自由である。
・無料のオンラインサービスにおいて、利用者は顧客ではない。
 利用者は製品である。       https://bit.ly/3F6ZV8p
◎マーク・ザッカーバークCEOの反論
・(フェイスブックがユーザーの収益化から得られる利益を優先
 しているとの指摘に)真実とはまったく一致していない。現実
 には、世界中のすべての人をつなぐのに役立つサービスを構築
 したい場合、支払う余裕がない人がたくさんいる。
               https://nbcnews.to/2pZxAJn
・(プライバシーは人権、市民の自由という主張に対して)もし
 も、金持ちだけに限定されないサービスを作りたいなら、人々
 が恩恵を受けやすいようにしないといけない。誰もがストック
 ホルム症候群(誘拐・監禁の犯人と長時間をともに過ごすこと
 で、犯人に好意や共感を覚えてしまう症状)にかかって、より
 多額の金額を払わせようとする会社に利用者を大切にしている
 と納得させられないことが大事である。馬鹿げたことだと思う
 から。              https://bit.ly/3AOanPy
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 ああいえばこういうの議論のようですが、とにかくこの2人、
仲が良くないのです。アップルのクックCEOによる一連のフェ
イスブック批判に対して、ザッカーバークCEOは、それまで社
員に無料でアイフォーンを使わせていたのですが、クック氏の批
判がよほど悔しかったのか、アイフォーンをすべてをアンドロイ
ドに変更したそうです。
 これに関して、昨日のEJでご紹介したサードバース社CEO
の国光宏尚氏は、マーク・ザッカーバークCEOの本音について
次のように述べています。
─────────────────────────────
 だからこそ、次の戦いでは「自分で自分の運命をコントロール
できるプラットフォームを作る」との強い意思で、VRには20
14年から累計数兆円もの資金を投じてきました。
 そして、いよいよ1000万台を超えて、完全にアップルから
独立した自分の城(プラットフォーム)が見えてきた。だから、
もうザッカーバーグ自身はアップルの奴隷に過ぎなかったフェイ
スブックアプリ群には興味がないはずです(笑)。「ここからい
よいよ俺が一国の主だ」と。過去の屈辱とは決別して、ついに自
分の時代になると、社名もメタに変えたわけです。
      ──国光宏尚著『メタバースとWeb3』/MDN
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/040]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブック、強まる批判/検閲疑惑に内部文書
  流出報道も
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   世界最大のSNSの米フェイスブック(FB)への批判が
  強まっている。欧米メディアが内部の情報をもとに、ベトナ
  ムで投稿への検閲を受け入れていたことなどを相次いで報じ
  た。各国の民主主義のあり方に影響を及ぼすような問題が表
  面化しており、FBは対応を迫られている。
   FBはグループで約36億人の利用者がいるまでに大きく
  なった。差別や暴力をあおるような投稿に十分対応してこな
  かったと、これまでも指摘されていた。今回は内部文書とさ
  れる資料や元従業員の証言をもとに複数の問題が浮上し、説
  明が求められている。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任
  者(CEO)は報道に反論しているが、2004年の創業以
  来ともされる厳しい状況に追い込まれた。
   米ワシントン・ポスト紙は25日、3人の関係者らの証言
  として、ザッカーバーグ氏がベトナム共産党の要求を受け入
  れ、反政府派の投稿を検閲することを認めていたと報じた。
  今年1月の共産党大会を前に、「FBは『反国家』の投稿へ
  の検閲を著しく増やし、政府がほぼ完全にプラットフォーム
  をコントロールできるようにした」という。米ニューヨーク
  ・タイムズ(NYT)紙は、FBがインドで反イスラムなど
  の有害な投稿が拡散しているのを知りながら、対応を怠って
  いたと報じた。         https://bit.ly/3F8HqR4
  ───────────────────────────
ザッカーバークCEO/クックCEO.jpg
ザッカーバークCEO/クックCEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする