Aの仲間外れのような「プラスM」の状態です。どうして、こう
なったのか、マイクロソフトの現状について考えます。
2012年6月のことです。講談社の野間省伸社長が南アフリ
カのケープタウンで行われた国際出版連合(IPA)の会議に参
加したとき、「GAFMA(ガフマ)」という言葉を耳にしたと
いわれます。これが出版業界に対する脅威であるとみなしてそう
呼んだのです。「M」はもちろんマイクロソフトのことです。
ところが、その後、「GAFMA」からマイクロソフトのMが
外れ、「GAFA」と呼ばれるようになっています。マイクロソ
フトに何があったのでしょうか。
マイクロソフトといえば、PCのOSで圧倒的なシェアを獲得
しているIT業界の盟主ですが、基本的なデバイスが、PCから
スマホへと移行するなかで、モバイル化、クラウド化という技術
革新の波に乗り遅れ、GAFAの台頭を許しています。
もちろんマイクロソフトほどの企業が何もしなかったわけでは
ありません。2000年には「ウィンドウズモバイル」を開発し
携帯情報端末PDAに搭載したのですが、スマホへの対応は遅れ
てしまっています。
2011年には当時携帯電話のトップだったフィンランドのノ
キアと提携し、ウィンドウズモバイルを搭載した「ウィンドウズ
フォン」を発売したのですが、既にスマホ市場では、アップルの
「iOS」とグーグルの「アンドロイド」によって席巻された後
のことだったのです。
クラウド事業にもマイクロソフトは遅れをとっています。クラ
ウド事業は2006年にアマゾンがAWSをリリースし、競合相
手がいないなかで市場シェアを急伸していたからです。マイクロ
ソフトが「ウィンドウズ・アジュール」をリリースしたのは20
10年であり、アマゾンに4年遅れています。しかも、マイクロ
ソフトは当初クラウドには消極的だったのです。それまでのマイ
クロソフトのビジネスモデルに合わないからです。
2013年にマイクロソフトは、ノキアを7000億円で買収
し、ウィンドウズフォンで、アップルとグーグルに戦いを挑みま
すが、状況を変えることはできず、当時のCEOのスティーブ・
バルマー氏は、ノキア買収の責任をとって、辞任に追い込まれて
しまいます。
クラウド事業がマイクロソフトのビジネスモデルと合わない点
について、立教大学ビジネススクール教授である田中道昭氏は次
のように述べています。
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マイクロソフトの収益の柱は、ウィンドウズのライセンス料と
同OS上で動くアプリケーションソフトの「オフィス」の販売で
す。ウィンドウズがPCの標準ソフトとなり、世界中に広がって
いくにつれ、莫大な利益をもたらしました。ワードやエクセル、
パワーポイントが使える「オフィス」はパッケージ商品として販
売されてきたソフトです。バージョンやグレードによって価格が
変わるものの、1本あたり数万円という値段で販売されます。
一方のクラウド事業はネットサービスやソフトを文字通りクラ
ウド上で提供します。パッケージ化された商品ではありません。
仮にクラウド事業で「オフィス」をはじめとするアプリケーショ
ンソフトの提供を始めてしまうと、パッケージ商品の存在意義が
なくなってしまいます。この点が「クラウドサービスが以前のマ
イクロソフトとは相容れないビジネスモデル」である所以なので
す。 ──田中道昭教授 https://bit.ly/3tqnxyh
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2014年、バルマー氏の後を継いで、マイクロソフト3代目
のCEOに就任したのはサディア・ナデラ氏です。当時マイクロ
ソフトは、既に大企業になっており、大企業にありがちな深刻な
組織の硬直化と固定マインドセットが起きていたのです。
納期を守ること、目標数字を達成することなど、形式的なこと
が何よりも重視され、かつてのマイクロソフトにあった自由闊達
さがなくなってしまっています。また、部下は直接上司より上の
上司と話すことが禁じられ、上層幹部が組織の下のほうにいる社
員と話すときは上司を通してしかできず、上下のコミュニケーシ
ョンがうまくとれない状況になっていたといえます。
加えて、技術のトレンドなど、世の中の新しい動きに対しても
実際にそのことを知らないでも「そんなこと知ってる」というス
タンスをとり、企業として新しいトレンドに対応する柔軟さが欠
落してしまっています。これを固定マインドセットといい、これ
があると、新しい変化の波に対応できず、改革を阻み、現状維持
をとしとする態度が組織に充満してしまうのです。
こういう現状のマイクロソフトをナデラCEOは、次の目標に
したがって改革に着手したのです。
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マイクロソフトは「モバイルファースト」と「クラウドファー
スト」という世界を見据えた「生産性とプラットフォーム」カン
パニーである。 ──マイクロソフトの理想の世界観
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ナデラCEOがやったことはいろいろありますが、なかでも、
看板商品である「オフィス」のクラウド版をリリースし、これを
iOSやアンドロイドなどのスマホOS上でも動くようにしたこ
とが画期的です。なぜなら、これによって従来の「OSと一緒に
ソフトを売る」というマイクロソフトの戦略を一変させたからで
す。これはマイクロソフトにとって大変化です。
そして、クラウド版の「オフィス」にサブスクリプション(定
期購読/継続購入)を導入し、月額あるいは年額で利用できるよ
うにしています。これは、マイクロソフトにとって、大変革であ
るといえます。この「ナデラ改革」については、明日のEJでも
続いて取り上げることにします。
──[ウェブ3/メタバース/031]
≪画像および関連情報≫
●変貌するMS/かつては囲い込み、いま「オープン化」
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米マイクロソフト(MS)が変貌(へんぼう)している。
かつては他社を押しのけてウィンドウズを販売し、顧客を囲
い込む姿勢で知られたが、今のキーワードは「オープン化」
と「多角化」だ。グーグル、アマゾン、フェイスブック、ア
ップルの「GAFA」の陰に隠れてかつてほどめだたないが
実は今の時価総額は4社を上回る。何が起こっているのか。
「オープンソースのプロジェクトとして、各国における自
由で公正な選挙を守る事業を始めます」
6日朝、シアトルで開いたMSの開発者向け会議の冒頭で
サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)はこのように宣
言した。ロシアによる2016年の米大統領選への介入など
が問題になる中で、その基盤となる強固な選挙システムのソ
フトを、オープンソースで作る取り組みだ。
世界中の技術者が自由にソフトを改良できる「オープンソ
ース」にMSが注力する姿は、創業者のビル・ゲイツ氏が率
いたころと比べると隔世の感がある。
1990年代から2000年代にかけて、基本ソフト(O
S)「ウィンドウズ」の売り上げを伸ばしてきたMSは、自
社ソフトの知的財産を厳しく管理。ウィンドウズとビジネス
統合ソフト「オフィス」を二本柱に、オープンソース陣営と
は激しく対立してきた。 https://bit.ly/3UQKeHF
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ナデラ/マイクロソフトCEO