2022年11月14日

●「次世代半導体製造会社が誕生する」(第5853号)

 2022年11月11日の日本経済新聞のトップ記事は、日本
が誇るトップクラスの8社、トヨタ自動車、NTT、ソニーグル
ープ、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシアホールディ
ングス、三菱UFJ銀行が新会社「ラピダス」を設立し、202
0年代後半に向けて、半導体製造技術の確立を目指すというもの
です。当然政府も補助金を拠出し支援します。
 11月11日のEJでは、2000年以前の日の丸半導体の活
躍について書いたばかりなので、これは将来に希望の持てるニュ
ースですが、あまりにも遅過ぎの感があります。それでもチャレ
ンジすることには意味があります。
 こういう記事が出た機会に、半導体について、少し述べること
にします。メタバースとも関係があります。現在、半導体におい
て日本がどういうポジションに置かれているかを知ることには、
意味があると思います。
 そもそも「半導体」(semiconductor)とは何でしょうか。
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 @導 体 → 電気を通すもの
        金・銅・アルミ・鉄など
 A不導体 → 電気を通さないもの
        ゴム・石英ガラス・セラミックス・雲母など
 B半導体 → ある条件下では電気を通し、特定の条件下で
        は電気を通さないもの
        シリコン、カーボン、ゲルマニウムなど
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 半導体の世界には紛らわしい言葉がたくさんあります。ICと
いう言葉があります。ICとは、「集積回路」のことです。IC
(integrated circuit)は、半導体の表面に微細かつ複雑な電子
回路を形成した上で封入した電子部品のことです。これがICで
すが、一般的にICというときは、「半導体集積回路」を意味し
ています。CPUも半導体集積回路であり、ICであるというこ
とです。なお、ICには「SSI」と「LSI」がありますが、
SSIは小規模な集積回路のことであり、LSIは大規模な集積
回路を意味しています。
 今回新会社「ラピダス」が製造を目指す「ロジック半導体」と
いうのは、データ処理を担う「ロジック(論理素子)」といわれ
る集積回路のことです。ロジック半導体は、回路を微細にして計
算を担うトランジスタの数を増やし、その能力を向上させてきて
います。現在、アイフォーンに搭載されている最先端チップには
160億個のトランジスタが敷き詰められています。
 ロジック半導体の性能は、回路の幅が微細なほど性能が高くな
ります。半導体はnm(ナノメートル)という単位を使いますが
1ナノメートルは10億分の1メートルのこと。1ミリメートル
の1000分の1の1マイクロメートルのさらに1000分の1
が1ナノメートルということになります。
 車に使う半導体の場合、28nm、40nm、65nmのもの
ですが、これは5世代前の古い技術です。「ラピダス」が製造を
目指す「ロジック半導体」は、「ビヨンド2ナノ」であり、とて
つもない高度な技術が必要になります。
 現在、5ナノメートル以下のロジック半導体は、台湾のTSM
C(台湾積体電路)と韓国のサムソン電子でしか製造できず、日
本の技術レベルは、40ナノメートルで止まっています。それを
新会社が2ナノ以上にしようというですから、途方もなく高い目
標であるといえます。
 ちなみに半導体には、ロジック半導体のほかに、メモリーやセ
ンサーがあります。メモリーについては、東芝の半導体メモリー
事業を分社化して設立されたキオクシアがNAND型フラッシュ
メモリー生産していますし、センサーについてはソニーが強く、
なかでもイメージセンサーはソニーの独壇場です。
 さらに、2021年6月に日本は、半導体などデジタル基盤を
強化するため、TSMCを日本に誘致することが決まっており、
2024年から稼働することになっています。米国もアリゾナ州
に、TSMCの3ナノメートル製造プロセスの工場建設をを進め
ています。経済安保の一環です。
 しかし、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、TSMCを日本
に誘致する計画について若干疑問を持っているようです。なぜな
ら、日本の半導体産業衰退の原因は、技術者の質ではなく、経営
者の質であるとして、次のように述べています。
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 1980年代、日本はメモリーで世界の半分を生産、日米半導
体摩擦を起こすまでになった。私の大学の同級生は半導体関係の
仕事についた者が多かったのだが、日本の半導体は、生産面で強
いだけでなく、国際学界でも世界一と誇らしげに語ってくれた。
それを思い出すと、いまの日本の惨状は信じられない。では、ど
うしたら、この状態から脱却できるのだろうか?
 そのための鍵は、半導体製造装置産業を分析すると、見いだす
ことができるように思う。日本の競争力は、半導体では落ちたが
その製造装置では依然として強く、世界シェアも高い。例えば、
半導体テスター最大手のアドバンテストは、海外売上比率は92
%前後だ。東京エレクトロンは85%だ。これら半導体製造装置
メーカーに共通するのは、大手総合電機メーカーから独立してい
ることだ。大企業の一部ではなく、世界の半導体メーカーを相手
にして技術開発に励んできた。そして、世界的水平分業の一環と
しての地位を築いた。つまり、日本の半導体産業衰退の原因は、
技術者の質ではなく、経営者の質であり、不適切な経営戦略だっ
たのだ。そこに手をつけない限り、いくら金を出して最先端ファ
ウンドリーを誘致しても、日本の半導体産業が復活することはな
いだろう。         ──野口悠紀雄一橋大学名誉教授
                  https://bit.ly/3E4tHJ8
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/029]

≪画像および関連情報≫
 ●“日の丸半導体”復活なるか 経産省が『キオクシア』に
  巨額補助
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   「半導体サプライチェーン(供給網)の強靭化や、半導体
  産業の発展に貢献することが期待されている。経済産業省と
  しても、関連人材の確保を含め、地方自治体や関係省庁と連
  携しつつ、しっかりと伴走していく」──こう語るのは、経
  済産業大臣の萩生田光一氏(当時)。
   経済産業省は、半導体大手キオクシアや、協業の米ウエス
  タンデジタルが、三重県四日市市に建設する新たな生産設備
  (第7製造棟)に対し、最大929億円を補助することを決
  めた。経済安全保障上、不可欠な半導体を国内で安定して生
  産できる体制をつくることが目的だ。
   政府は6月に、ファウンドリー(半導体受託製造)世界最
  大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設する新
  工場に対して、最大4760億円を補助することを決定。今
  回が巨額助成の第二弾となる。
   キオクシア社長の早坂伸夫氏は「日本政府からの支援に感
  謝している。経済安全保障の観点において重要な半導体であ
  る最先端フラッシュメモリの安定的な国内生産を継続し、国
  内・地域経済や半導体関連産業の発展に貢献していく」との
  コメントを発表。主力の3次元フラッシュメモリや、次世代
  製品の開発・生産を目指すことになる。
                 https://bit.ly/3toMMRC
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半導体メーカー/世界ランキング2021.jpg
半導体メーカー/世界ランキング2021
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする