2022年11月01日

●「ツイッターの買収で何が起きるか」(第5845号)

 10月27日のことです。米起業家のイーロン・マスク氏は、
総額440億ドル(約6兆4000億円)で、ツイッターの買収
取引を完了しています。ツイッター買収に関して、イーロン・マ
スク氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 僕がツイッターを取得したのは、文明の未来のため、共通のデ
ジタルな町の広場が必要だからだ。健全な形で、暴力をふるうこ
となく、幅広い考えを話し合うことのできる場所が。今では、ソ
ーシャルメディアが、極右と極左のエコーチェンバー(自分が聞
きたい意見だけが増幅されて響く空間)になって、さらに憎悪を
生み出してこの社会を分断する、そういう危険が増している。
 ほとんどの伝統的メディアはクリックをひっきりなしに追求す
ることで、こうした極端な分断をあおり、材料を提供してきた。
それが自分たちの収入になると信じているからだ。しかし、そう
することで対話の機会が失われてしまう。だから僕はツイッター
を買った。それが、簡単だからでも、金もうけになるからでもな
い。自分が愛する人類を助けるためにそうした。(中略)
 もちろんツイッターは、誰でも何でも好き勝手に言えて何の責
任もとらない、そんな無法地帯になってはならない!国の法に従
うのに加えて、このプラットフォームは温かい、全員を歓迎する
場所でなくてはならない。自分の好みに従って、望む経験を選べ
る場所でなくてはならない。     ──イーロン・マスク氏
                 https://bbc.in/3Fr6MtV
─────────────────────────────
 「SNSは、自分が聞きたい意見だけが増幅されて響くエコー
チェンバーであってはならない」──確かにマスク氏のいう通り
であり、なかなか見事な表現であると思います。私も、実名です
が、ツイッターは2010年からやっているので、今後のツイッ
ターの変化には強い関心を持っています。
 マスク氏は、表現の自由を重視し、投稿への介入は可能な限り
減らす方針であるともいっています。そのうえで、ツイートが表
示されるアルゴリズムを公開し、「スパム」と呼ばれる不正行為
を極力減らす方針であるといいます。
 マスク氏によるツイッターの買収は、米国の保守層には歓迎さ
れ、強い期待を示しているといわれます。もともとマスク氏は、
次のように保守層の声に理解を示していたからです。
─────────────────────────────
 ツイッターはサンフランシスコに本社があり、左派に強く偏っ
ている。もっと公平になる必要がある。 ──イーロン・マスク
─────────────────────────────
 このような情勢から、トランプ前大統領とその支持者は、マス
ク氏によるツイッター買収完了に大きな期待を抱いているといわ
れています。しかし、マスク氏がトランプ氏らのアカウントの復
活を許すかどうかは今のところ不透明です。
 また、マスク氏のツイッター社の経営方針にも不安な面もあり
ます。それは、買収後にツイッターを上場廃止にする方針を示し
ているからです。非公開化されれば開示すべき情報も減り、外部
からのチェックがしにくくなるからです。マスク氏はテスラの広
報部門も解散しており、米メディアの取材にも応じていないと聞
いています。
 日本では、いわゆるGAFA関連の有名SNSを使っている人
がほとんどですが、米国では、特定の政治的な意見を掲載するS
NSがたくさんあります。昨日のEJでご紹介したパーラーをは
じめ、他にもたくさんあります。
 「Gab」というSNSがあります。パーラーと同じ保守系の
SNSです。他のSNSを追放された極右のネット・ユーザーが
プラットフォームとして使っているSNSです。パーラーと同じ
ような経過でGAFAから締め出され、自社サーバーを構築して
立ち上げたのがGabです。Gabは、ネオナチ、白人至上主義
者、オルタナ右翼などといった、極端な政治思想の持ち主にとっ
て「安息の地」とされています。
 自社サーバーの構築は容易ではありませんが、Gabにはサー
バー構築のエンジニアは大勢いるといいます。いずれも、GAF
Aからクビになったエンジニアたちです。これについて、深田萌
絵氏は自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 Gabは2021年1月当時、1時間に1万人以上のユーザー
が増えていた。サーバーを増やすには、ただアンカーサーバーを
増やすだけでなく、ロードバランサーなど数種類のサーバーを用
意して増やしていくので結構時間がかかる。幸いにもサーバーを
構築するエンジニアがたくさん来ていると話していた。2020
年の選挙でシリコンバレーに勤める多くのトランプ支持者がクビ
になったことが影響していたかもしれない。以前からトランプ支
持者はいじめられ、GAFAに勤めるエンジニアはトランプ支持
でクビになっている。        ──深田萌絵著/宝島社
     『メタバースがGAFA帝国の世界支配を破壊する』
─────────────────────────────
 ちなみにトランプ前大統領は、ツイッターなど、著名SNSか
ら締め出されて、新しいSNSを立ち上げています。それは、ト
ランプ氏が経営するメディア企業「トランプ・メディア&テクノ
ロジー・グループ(TMTG)」の「Truth Social」です。この
iOSアプリが、2022年2月22日に米アップ・ストアに公
開されています。しかし、このアプリをダウンロードして、アカ
ウントを作成しようとすると、ウェイティング(順番待ち)リス
トに登録されたという画面が表示されるだけだといいます。例え
ば、「需要の急増のため、あなたをウェイトリストに追加しまし
た。あなたの順番は13万5828番目です」という表示が行わ
れます。おそらくサーバーの容量の不足が原因であると考えられ
ます。だから、トランプ氏はツイッターのアカウント復帰を切望
しているのです。   ──[ウェブ3/メタバース/021]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏「良識ある人に渡った」/マスク氏のツイッター
  買収を歓迎
  ───────────────────────────
   米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任
  者(CEO)が買収した米ツイッターについて、トランプ前
  米大統領は、28日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャ
  ル」の投稿で、「ツイッターが良識のある人の手に渡り、と
  てもうれしい」とコメントした。
   トランプ氏は「ツイッターは(自動的に投稿を拡散する)
  ボットやフェイクアカウントを取り除くための努力をしなけ
  ればならない。(ツイッターは)より小さくなるが、良くな
  る」として、マスク氏の買収を歓迎した。
   一方で、自身のSNSについて「先週、ティックトック、
  ツイッター、フェイスブックなどを含めた他のプラットフォ
  ームより多くの数字を得た」として、「私の目には(自身の
  SNSが)より良くみえる」とコメントした。
   トランプ氏の「数字」の意味は不明だが、フェイスブック
  を運営する米メタだけでグループ全体の月間利用者は約37
  億人いる。米フォーブス誌は今春、トゥルース・ソーシャル
  の利用者数を約200万人と報じていた。マスク氏がツイッ
  ターを買収したことで、トゥルース・ソーシャルなどの保守
  系の新興SNSには逆風になるとの見方もある。トランプ氏
  は投稿で「私はトゥルースを愛している!」として、引き続
  き自身のSNSを使う意向を示した。(サンフランシスコ=
  五十嵐大介)          https://bit.ly/3gSBVfG
  ───────────────────────────
イーロン・マスク氏.jpg
イーロン・マスク氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月02日

●「GAFAMの直近業績に問題あり」(第5846号)

 インフレの急速な進行により、米国の景気減速が顕著です。米
国の経済をけん引してきた米IT大手、いわゆるGAFAMの成
長に黄信号が点滅しています。2022年7〜9月期の業績は、
次の通りです。
─────────────────────────────
  ◎米IT大手/2022年7月〜9月期業績/1
                売上高    増減率
      アップル  901.46億ドル   8%
   マイクロソフト  501.22億ドル  11%
   アルファベット  690.92億ドル   6%
        メタ  277.14億ドル  ▲4%
      アマゾン 1271.01億ドル  15%
  ◎米IT大手/2022年7月〜9月期業績/2
                純利益    増減率
      アップル  207.21億ドル   1%
   マイクロソフト  175.56億ドル ▲14%
   アルファベット  139.10億ドル ▲27%
        メタ   43.95億ドル ▲52%
      アマゾン   28.72億ドル ▲ 9%
        ──2022年10月29日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 これによると、GAFAMのうち、アップルをのぞく4社は減
益に追い込まれており、景気減速と競争激化が原因であると考え
られます。これを受けて株式市場では、市場予想を下回ったとし
て、失望売りが広がり、GAFAMの時価総額の合計は、この1
週間で約4300億ドル(約63兆円)減少しています。
 アマゾンは、決算説明会において、CFO(最高財務責任者)
は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 消費者は、買い物に慎重になり、企業もテクノロジーや広告へ
の支出を見直す傾向が強まっている。
           ──ブライアン・オルサブスキーCFO
        ──2022年10月29日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、景気の影響を受けやすい広告事業と違って、アマゾン
マイクロソフト、アルファベット(グーグルの持ち株会社)の3
強にはクラウド事業があります。クラウド事業は、おりしも新型
コロナ禍が後押しした企業のDX(デジタルトランスフォーメー
ション)の波に乗って、ここ数年は、ドル箱となっていたはずで
す。しかし、これら3強はいずれも「景気後退がクラウドの成長
を妨げている」と口を揃えています。
 クラウド事業は急成長しましたが、景気が減速し、過剰なクラ
ウド投資に対する懸念が生じ始めています。それに、エネルギー
コストの上昇も懸念されています。電気や天然ガスの価格が高騰
し、ここ数年で2倍に跳ね上がっているからです。
 売上高の増減率でみると、GAFAM5社中アルファベットと
メタの2社が低くなっています。メタにいたっては、広告事業が
ほとんどなので、4%のマイナスです。これは、競争の激化によ
るものとして、日本経済新聞は次のように書いています。
─────────────────────────────
 さらに深刻なのは、競争の激化だ。SNS(交流サイト)では
中国発のTikTok(ティックトック)が若年層を中心に利用
者を増やし、広告の売上高が急増している。メタの画像共有アプ
リ、インスタグラムなどと、利用者層が重なり、アルファベッド
の動画共有サービス、ユーチューブとも競合。7〜8月期にユー
チューブの広告売上高は、初めて減少した。
        ──2022年10月29日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 この7〜9月期の業績で凋落が目立つのは、メタ(フェイブッ
ク)です。メタの売上高は、前年同期比4%減の、277億ドル
(約4兆円)、純利益は、52%減の44億ドル(約6400億
円)になっていますが、4半期連続で前年同期を下回っており、
これは過去10年で初めてのことです。
 そもそも2021年10月28日にフェイスブックがメタに社
名を変更した理由は、直接的には、顧客情報保護をめぐるアップ
ルとの対立です。この事情について、2021年10月29日付
の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 フェイブックが社名を変更した背景には、同社が世界で36億
人近い利用者を抱える一方、事業基盤を他社に依存している弱み
がある。直近では米アップルがスマートフォンでプライバシー保
護策を強めたことで、主力の広告事業が直撃を受けた。ザッカー
バーグ氏は2021年10月28日もアップルのアプリ配信サー
ビスなどを念頭に「選択肢の乏しさと高い手数料が技術革新を阻
害している」と主張した。   ──2021年10月29日付
       日本経済新聞 https://s.nikkei.com/3DhMe4w
─────────────────────────────
 フェイブックは、交流サイト(SNS)で収集した個人データ
を分析し、利用者の関心に沿った広告を表示するターゲティング
(追跡型)広告で巨額の利益を上げてきたのですが、アップルは
2021年春からアプリによる利用者情報の追跡通知の可否を利
用者に求めると表明。これに対してフェイスブックは、収益源の
広告ビジネスが打撃を受けると猛反対し、シリコンバレーの隣人
同士の争いが泥沼化したのです。この理由について、アップルの
クックCEOは次のように述べています。
─────────────────────────────
 生活の全データが収集され、販売されるのが当たり前になれば
私たちは人間としての自由を失う。──アップル/クックCEO
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/022]

≪画像および関連情報≫
 ●Amazon赤字転落、Google減益、Facebook株価暴落/GA
  FAの「この世の春」はなぜ終わったのか
  ───────────────────────────
   2022年になってアップルを除くGAFAの業績悪化が
  顕在化している。業績悪化の原因はそれぞれ異なるようなの
  で、会社別に詳しく見てみよう。
  【アマゾン】
   2022年第1四半期の最終損益は38億ドルの赤字だっ
  た。アマゾンの赤字転落は2015年1〜3月期以来7年ぶ
  り。アマゾンのCEO(最高財務責任者)によると、赤字要
  因はインフレ、生産性低下および過剰設備による60億ドル
  (約8100億円)ものコスト増で、中でも米国外への輸送
  コストはコロナ前の2倍以上に、燃料費は1年前の1・5倍
  になっているそうだ。
   アマゾンは主に単価の低い日用品等を高頻度で小口配送す
  る業態だ。「プライム会員は何回でも配送料無料」という看
  板サービスは(米国内で)10年前の79ドルから、現在は
  119ドルまで値上げしているが、筆者はここに「物流コス
  トの高騰分をストレートに価格転嫁できない」という弱点が
  あるとみている。アマゾンの株価は7月15日終値で113
  ・55ドル。昨年11月18日の最高値から38%も下げて
  いる。コロナパンデミックによる物流の混乱はいまだ続いて
  おり、米国内の人件費高騰、燃料費高騰も長引きそうだ。こ
  れらが解消されるまで同社の収益は不安定な状況が続くだろ
  う。              https://bit.ly/3DpNzX1
  ───────────────────────────
米IT大手の株価/2021.jpg
米IT大手の株価/2021
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月04日

●「日本でGAFAが生まれない理由」(第5847号)

 ここで考えてみるべきことがあります。日本にはなぜ「GAF
A」が生まれないのでしょうか。
 このことに関連する深刻な事実があります。2018年度に中
央省庁が発注した競争契約の70%が「一者応札」であったとい
う事実です。一者応札とは何でしょうか。
 一者応札は、競争入札において、1者しか応札者がない入札事
例のことで、1者応募ともいいます。これは、とくに官公庁の一
般競争入札において問題視されています。とくに既存システムの
改修案件に関しては1者応札が94%を超えているのです。これ
は1社独占につながるので大問題です。しかし、なぜ、こんなに
高率になってしまうのでしょうか。
 この状態を「ベンダーロックイン」といいます。ベンダーロッ
クインとは、特定の事業者(ベンダー)を利用し続けなくてはな
らなくて、他社の参入が困難な状態のことをいいます。ソフトウ
ェアの機能改修やバージョンアップ、ハードウェアのメンテナン
スなどの情報システムを独自仕様にしていまうと、業者を他社へ
の切り替えすることが難しくなってしまいます。
 なぜこんなことが起きるのかというと、システムの改修を受注
した業者が、過度にカスタマイズを重ねることによって、システ
ムを開発したITベンダー以外が、改修やメンテナンスの受注を
困難にしてしまうからです。
 これによって、NTTデータやNEC、富士通、日立製作所な
どのITゼネコンといわれる大手ベンダーやその子会社によって
受注が独占され、新しいアイデアを豊富に持つスタートアップ企
業が誕生しにくくなってしまうのです。
 さくらインターネット株式会社という企業があります。大阪市
北区に本社を置く、ホスティングサーバーを中心とするデータセ
ンター事業およびインターネットサービス事業を行う企業です。
日本のインターネット黎明期よりホスティングサーバーの提供を
行っており、日本最大手企業です。このさくらインターネットの
社長である田中邦裕氏は、ベンダーロックインについて次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 ソフトウェアはコピーすれば簡単に大量生産できます。にもか
かわらず、わざわざ一件一件カスタマイズした割高なシステムを
作り上げて売って回って、利益を上げようとする。要は、ソフト
を売っているのではなく、ヒトとモノを売っている。ソフトウェ
ア産業のような顔をしたモノづくり産業のままなんです。
           ──田中邦裕さくらインターネット社長
                  https://bit.ly/3sRNF4X
─────────────────────────────
 確かにソフトウェアはコピーできるし、標準的なOSを利用す
れば、時間の経過によって、ソフトウェアの機能は大幅に向上し
ていきます。それは、1995年に日本にウインドウズ95が導
入された以降のITの発達を見れば、明らかです。このような時
代に、標準的なシステムにあえて背を向けて、特殊なシステムを
作り上げる愚を日本は冒しています。だから、1者応札から脱却
できないのです。
 「iモード」によって世界に先行したはずの「ガラ携」でもそ
うであったように、日本は世界の標準になるようなシステムを作
るのが苦手なのです。だから、カラパゴスといわれるのです。そ
の証拠にアイフォーンの登場によって、日本式ケータイはあっと
いう間に吸収されてしまったではありませんか。ここに、日本に
おけるITのスタートアップが育たない原点があります。
 ところで、さくらインターネットの社長、田中邦裕氏とはどう
いう人物なのでしょうか。
 田中裕也氏は京都の舞鶴工業高校専門学校在学中の1996年
にレンタルサーバー事業を始めています。年齢は18歳です。マ
イクロソフトのビル・ゲイツ氏、フェイスブック(メタ)のザッ
カー・バーク氏が19歳で起業したことを考えると、田中氏は1
年早い。そういう意味で田中邦裕氏は、当時GAFAに一番近い
位置にいたといえます。さくらインターネット創業のきっかけに
ついて、田中氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 創業のきっかけは、高専の級友らに自分が立てたウェブサーバ
を貸してあげたことだったという。自分でサーバを立て、所属す
るロボコンサークルのホームページを作ったら、それがあまりに
楽しいので周囲にもサイト作りを勧め、サーバを貸してあげたら
「同級生の間にあっという間に広がった」。金を払ってでもサー
バを借りたいという友人らの声を聞き、「これはビジネスになる
な」と思ったのだ。
 90年代後半は、日本でIT業界が盛り上がりを見せ始めた時
期だった。田中の創業と同じ96年には、ソフトバンクと米国ヤ
フーが合弁で日本法人のヤフーを設立。ホリエモンこと堀江貴文
(48歳)がライブドアの前身、有限会社オン・ザ・エッヂを設
立したのも96年だった。楽天は97年、サイバーエージェント
は98年の創業である。       https://bit.ly/3sRNF4X
─────────────────────────────
 このように、90年代後半は日本において、多くの企業が誕生
し、IT業界が盛り上がった時期だったのですが、現在生き残っ
ている企業は数えるほどしかいないのです。これについて、田中
社長は、「日本という国はスタートアップがGAFAになろうと
すると、潰す力が加わる」といっています。
 田中社長はその典型的な例として、ライブドア事件を上げてい
ます。ライブドア事件とは、2004年9月期の決算報告に虚偽
があるということで、証券取引法などの違反により、ホリエモン
や取締役が起訴された事件のことです。これによって、堀江貴文
氏は逮捕され、実刑が確定しています。しかし、現在でも何が問
題か堀江氏と検察側の意見は食い違ったままです。
           ──[ウェブ3/メタバース/023]

≪画像および関連情報≫
 ●ライブドア事件の3つの争点/堀江貴文氏の主張
  ───────────────────────────
   そもそもライブドア事件というのは、私は「違法でない」
  と考えております。3つの争点があります。「マネーライフ
  事件」「ファンドでの自社株取引」「架空取引」、この3つ
  の論点があるわけです。
   まず、マネーライフ事件ですが、これは、2006年1月
  16日の強制捜査及びその1週間後の私の逮捕容疑になった
  事件です。マネーライフ事件では、ライブドアファイナンス
  が実質所有していると言われているファンドが持っていたマ
  ネーライフという会社を、バリュークリックジャパンという
  会社に売った時の(マネーライフの)株価の算定方法に、D
  CF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法という方式
  を採っていたのですが、「この企業価値評価が適正でない」
  と検察庁から指摘されています。DCF(ディスカウント・
  キャッシュ・フロー)法 ・・・ 将来発生するキャッシュ
  が、現時点でどのくらいの価値があるのかを算出する手法の
  こと。
   マネーライフは赤字の会社だったのですが、こういった会
  社を売る際に将来伸びるということを前提にして、「『今は
  赤字だけども、将来黒字になってお金をたくさん稼ぐ』とい
  うことまで評価して企業を売買する」というのはベンチャー
  企業の世界では当たり前のことで、米国でも赤字なのに何千
  億円という価値で取引されている会社は山ほどあります。日
  本にもたくさんあります。こういったことを「NO」だと検
  察庁は判断しました。      https://bit.ly/3h8hH1s
  ───────────────────────────
さくらインターネット/田中邦裕社長.jpg
さくらインターネット/田中邦裕社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月07日

●「ソフトウェアが理解できぬ日本人」(第5848号)

 今でもそうですが、日本という国は「もの作り国家」としての
誇りを持っています。これは、日本の国家としての「強み」では
ありますが、世界中でPCが普及しはじめた1990年代以降は
それが日本にとって大きなブレーキになり、成長の足を引っ張っ
ているように思えます。
 1995年にウインドウズ95が発売され、多くの人がPCを
使うようになり、それに備えて、PCの操作を電話でサポートす
る米国のコールセンターの業者が、続々と日本に上陸してきたの
です。しかし、それから数年後、それらの業者は、ほとんど日本
から引き上げてしまっています。何が起きたのでしょうか。
 それは、日本のPCユーザーは、PCのハードウェアやソフト
ウェアの知識に乏しく、電話では業者との対話が成立しなかった
からです。例えば、PCを操作している途中で、PCが動かなく
なったとします。ユーザーがコールセンターに電話すると、コー
ルセンター側は当然PCの現在の状態を聞こうとします。
 しかし、ユーザーは「PCが突然動かなくなった」としか、状
況を説明できないのです。当時のPCのユーザーの多くは、ハー
ドウェアとソフトウェアを一体のもの、すなわち、ハードととら
えており、「動作停止=PCの故障」という発想の人が多かった
からです。つまり、ソフトウェアはPCというハードウェアを動
かすパーツのような存在として見ていたのだと思います。これで
はコールセンターはその役割を果たせないので、空しく引き上げ
てしまったのです。
 もう少し時代を遡って、1985年(昭和60年)という年を
考えてみます。なぜ、1985年かというと、この年の著作権法
の改正で、コンピュータのプログラムが「プログラムの著作物」
(著作権法10条1項9号)として、著作権法の保護の対象にな
ることが決まったからです。
 この年代は、日本の対米輸出が増加し、米国による市場開放圧
力はすさまじかったのです。そのとき、日本が、積極的に輸入関
税撤廃に動いたのが、コンピュータや周辺機器の分野だったので
す。当時日本は「電子立国」を目指していて、その自負もあった
のでしょう。その結果、日本のコンピュータメーカーの対米輸出
は急伸しており、結果として日本の貿易収支は「入超」から「出
超」に転じ、1984年には、日本側の黒字は、20億ドルも増
加しています。
─────────────────────────────
       ◎入超
        輸入額が輸出額を上回ること
       ◎出超
        輸出額が輸入額より多いこと
─────────────────────────────
 当時の通産省(現経産省)もこの状況を見て、これなら輸入関
税を撤廃できると考えたのです。しかし、この判断は、日本とい
う国が、コンピュータというものをいかにハードウェアしか見て
いないかをあらわしています。つまり、ソフトウェアというもの
をハードウェアの一部の部品として見ていたことの証明です。
 すなわち、確かにコンピュータのハードウェアは「出超」でも
ソフトウェアから見ると「入超」だったからです。これではいか
に輸出が伸びても、利益が上がらない、一向に儲からないことに
なります。当時の日本にはソフトウェアという概念はなく、ソフ
トウェアの輸入の統計すらなかったのですが、日銀の「国際収支
統計月報」によると、1984年度の日本の技術貿易収支は16
億ドルの赤字になっています。これは、そのほとんどはおそらく
ソフトウェアだったと思われます。
 かつて日本には、ソフトウェアの概念がなかったことの証明と
もいうべき象徴的なマシン(機械)が存在したのです。それが、
「日本語ワードプロセッサ」です。それは、ハードとソフトが一
体となった日本語の文章を作成するマシンです。
 1977年(昭和52年)にシャープが試作機を開発し、それ
をビジネスショウに出品しています。私はそのマシンを実際に見
ています。しかし、このマシンには、かな漢字変換機能は装備さ
れていなかったのです。
 1985年になると、かな漢字変換機能が装備され、プリンタ
付きのマシンが出現してきています。カシオが「HW100」を
59800円で発売すると、これに対抗して、キャノンが「PW
−10E」を49800円で発売するなど、販売競争が過熱した
のです。マスコミには「電卓競争の再現」として取り上げられ、
ソニー、セイコーエプソンなどの企業も参入して、ますますヒー
トアップしていったのです。
 今から考えると、このワープロ専用機が普及したことが、日本
のデジタル化の遅れの一因になっているといえます。当時欧米の
ほとんどの国が、現在我々が行っているOS上のアプリケーショ
ンとしてワープロを使っているときに、日本では文章を作るマシ
ンを使っていたからです。
 実際このワープロ専用機はなかなか便利なマシンなのです。日
本語タイプライターは、漢字やひらがなの数が多いため、大掛か
りなマシンであり、価格も高いし、操作も煩雑であるのに対し、
ワープロ専用機はタイプライターよりも小さく、漢字変換機能も
装備されており、プリンタも付いているので、日本語の文章を作
成するには、PCよりも非常に便利なマシンだったといえます。
 しかし、このワープロ専用機を使い続けたことにより、PCの
普及が遅れ、、日本としては、このデジタル時代に不可欠である
次の3つのことが欠落してしまう結果になったといえます。
─────────────────────────────
     @PCをハードとソフトの合体として捉える
     Aソフトウェアの概念が欠落してしまうこと
     BOSとアプリケーションの概念が欠落する
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/024]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のIT業界の失われた50年、人月商売清算の日は近い
  ───────────────────────────
   「要員の高齢化が進むなかで膨大な既存システムのメンテ
  ナンス作業に追われ、新しく生じる経営ニーズに十分応じき
  れないのが実情といわれ、また時間的余裕と適切な教育機会
  の不足等により、急速に発展を続ける技術情報や高度な実務
  的専門知識を取得することすら困難な状況にある」
   「産業社会全体として優秀なソフトウェア技術者が不足し
  ているといいながら、彼らを処遇する方法がいっこうに改善
  されていない。日本のソフトウェア技術者をめぐる問題は解
  決していない」
   いかがだろうか。最初がある調査報告書の文面、次が識者
  のコメントだ。ユーザー企業側、ITベンダー側を問わず、
  技術者なら誰もが「全くその通り」と激しく同意することだ
  ろう。だが同時に「何を今さら、散々言い尽くされてきた事
  を改めて言っているだけではないか」と失笑を漏らすかもし
  れない。実は、これらは1983年、つまり35年前に出版
  された本の一節である。
   『ソフト技術者の反乱・情報革命の戦士たち』(下田博次
  著、日本経済新聞社刊)。最近、この本を自宅の本棚の中か
  ら見つけた。ほこりを被った本棚を掃除しようと、最初に手
  に取ったのがこの本だった。明らかに未読。パラパラとペー
  ジをめくって目にとまったのが、冒頭で紹介した2つの見解
  だ。予想できたこととはいえ、今の技術者の状況と瓜二つ、
  寸分たがわない。       https://bit.ly/3UqN5qr
  ───────────────────────────
日本語ワードプロセッサ/HW100.jpg
日本語ワードプロセッサ/HW100
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月08日

●「日本のベンチャー投資は少ないか」(第5849号)

 このセッションでは、なぜ、日本ではGAFAが生まれないの
かについて考えています。
 さくらインターネットの田中邦裕社長は、1985年の著作権
法の改正で、コンピュータのプログラムが著作権法の保護の対象
になった時点で、日立、NEC、富士通などの日本の巨大ITベ
ンダーは、ソフトウェア会社に転換すべきではなかったかと問い
かけています。その理由について田中社長は、次のように意見を
述べています。
─────────────────────────────
 ソフトウェアなしにはコンピューターは動かない。しかも、ソ
フトウェアはオンラインで簡単に配布でき、一度開発すれば無限
にコピーでき、著作権法で守られている。限界費用が限りなくゼ
ロに近くて、ものすごく効率がいい。だから、ソフトウェアを自
社で持っている会社はうまくいきましたよね。
 例えば、独立系システムインテグレーターのオービックは、自
社開発の会計ソフトなどパッケージソフトが好調で、時価総額は
1兆8000億円。これはNECより高い。
            ──さくらインターネット田中邦裕氏
                  https://bit.ly/3U69JEF
─────────────────────────────
 田中社長が激白するのは、巨大ITベンダーである日立、NE
C、富士通などが、ソフトウェア産業ではなく、ソフトウェア製
造業になってしまっているからです。年間2兆円近い国や地方自
治体のIT調達の多くは、ITゼネコンと化しているソフトウェ
ア製造業の日立、NEC、富士通などの巨大ITベンダーが受注
しています。これがベンダーロックインを招き、極めて割高な発
注になってしまっている。これでは、中小のIT企業、ましてス
タートアップ企業には資金は回らない。これについて田中社長は
さらに次のように批判しています。
─────────────────────────────
 ソフトウェア産業とソフトウェア製造業は全く違う商売。だが
日本では、ソフトウェア製造業ばかりに金が集まるので、そこに
安住し、本当のソフトウェア産業に生まれ変わろうとはしなかっ
た。IT企業を名乗りながら、売っているのはモノと人。ソフト
ウェアは海外からの借りもののまま。これでは、いつまでもイノ
ベーションは生まれない。──さくらインターネット田中邦裕氏
                  https://bit.ly/3U69JEF
─────────────────────────────
 日本では、巨大ITベンダーがベンダーロックインを招き、中
小IT企業やスタートアップ企業に資金が回らないことに加えて
そもそも日本のベンチャー投資額が他国に比べて非常に低いこと
が上げられます。
 7万社のベンチャー企業の資金調達データを持つオランダの調
査会社、ディールームの資料によると、2021年の国別のベン
チャー投資の流入額は、1位は米国の3761億ドル(約49兆
円)で、全体の62%を占めて圧倒的です。2位は中国の611
億ドル、3位はインドの477億ドルです。
 日本は11位の35億ドルで全体に占める割合は、0・57%
でしかないのです。米国の100分の1です。これは、英国、ド
イツ、フランス、スウェーデンなど欧州各国よりも低い。
 米国には、世界の羨望のマトになっているベンチャーキャピタ
ルが存在します。ベンチャーキャピタルとは、基本的には、新興
企業の事業計画と人材の質について、念入りに評価をくだし、潜
在的な成長力が大きいとみなせた企業に初期段階で投資します。
 ある聡明な起業家が新しいウェブサービスのアイデアを思い付
いたとします。しかし、このアイデアは2%の確率で大成功を収
めるが、失敗する確率は98%であるとします。
 銀行は、資金の回収のことを最優先に考えるし、これらの新興
企業は、質の高い担保も提供できないので、この種のビジネスに
は関心を示さないはずです。しかし、もしその企業が成功した場
合、当然ですが、その恩恵に浴せないことになります。
 この場合のベンチャーキャピタルの考え方について、米国の経
済学者のタイラー・コーエン氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 ベンチャーキャピタルは、成功の確率が乏しいことを承知のう
えで投資をおこない、成功した場合に恩恵を手にする。ベンチャ
ーキャピタルは、何十社、時には何百社にも投資する。その大半
が失敗しても、ごく一握りが成功するだけで十分な利益を得られ
ると考えているのだ。ベンチャーキャピタルが新興企業に提供す
るのは、資金だけではない。専門知識や経験を提供する体制も整
えている。助言や指導、メンタリングや監督もおこなう。
 シリコンバレーのベンチャーキャピタルが最も力を入れるのは
新興企業の人材の質を見極めること、そして、投資先企業が優れ
た人材を採用し、適切な取締役をそろえ、有用な人的ネットワー
クをはぐくむのを支援することだ。有能なベンチャーキャピタリ
ストは人を見る目が肥えていて、人と人とを結びつけ、ほかの人
たちの活動を後押しすることに長けている。投資を通じて創造的
活動に人材を結集させ、大きな成果を生み出させているのだ。こ
の点で、ベンチャーキャピタルは、人々の能力を最大限発揮させ
る役割を果たしていると言える。   https://bit.ly/3NFADRK
─────────────────────────────
 ベンチャーキャピタルとIPOは、米国の資本主義システムの
なかで銀行融資や債券市場とともに、資金が流れる企業を選別す
る役割を果たしています。IPOは、株を投資家に売り出して証
券取引所に上場することをいいます。
 しかし、日本は、長い間にわたって、「ゾンビ銀行」や「ゾン
ビ企業」を生き延びさせてきています。これでは、新しいビジネ
スに資金が流れにくくなるのです。ベンチャーキャピタルを増や
し、的確に資金を提供する必要があります。
           ──[ウェブ3/メタバース/025]

≪画像および関連情報≫
 ●日本ではスタートアップ企業が育たない。その深刻な理由
  ───────────────────────────
   日本では、年間40万人にも及ぶ人口減が問題として騒が
  れているが、実は企業数も急激に減少している。2017版
  中小企業白書によると、99年には484万社あった企業数
  が、09年には421万社へ、さらに14年には382万社
  へと減っている。15年間で実に100万社以上の減少であ
  る。09年から14年で見ると、開業数は66万社、廃業は
  113万社であった。中小企業の経営者の高齢化が進んでい
  ることを考えると、廃業数が増えるのは仕方がない。問題は
  開業数が増えないことである。特に、将来の大企業に発展し
  ていく可能性のあるIT、バイオテクノロジー、ロボティッ
  クス等のスタートアップ企業の不足は深刻である。
   なぜ、日本でスタートアップが育たないのか。
   まず考えられるのは、ベンチャー・キャピタルが育ってい
  ないことである。ベンチャー企業の16年の資金調達額は、
  2099億円、そのうち950億円をベンチャー・キャピタ
  ルが占めている。14年の資金調達額が1390億円、15
  年は1716億円であったから、順調に伸びてきていること
  は間違いない。しかし、アメリカの状況と比較してみると、
  その差に愕がく然ぜんとする。 https://bit.ly/3zKSTTR
  ───────────────────────────
日本のベンチャー投資額/米国の100分の1.jpg
日本のベンチャー投資額/米国の100分の1
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月09日

●「GAFAの対抗勢力は出現しない」(第5850号)

 2022年10月6日付の日本経済新聞に、GAFAに関する
次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
◎クラウドにも不況の足音/アマゾン採用凍結
【シリコンバレー=佐藤浩実】高成長を続けてきたクラウドコン
ピューティング基盤の市場に変調の兆しが出てきた。7〜9月期
は市場の成長率が3割を下回り、最大手の米アマゾン・ドット・
コムは採用凍結に動く。金融引き締めによる景気後退やインフレ
の長期化を警戒する顧客の倹約姿勢が「不況に強い」とされるク
ラウドにも影響を及ぼし始めた。
         ──2022年10月6日付の日本経済新聞
─────────────────────────────
 現在、米国は急速なインフレに見舞われ、不況が懸念されてい
ます。といっても、アマゾンの場合、7〜9月期のAWSの売上
高が、前年同期比27%増の205億ドル(約3兆円)を維持し
ています。
 しかし、4〜6月期と比べて伸び率は6ポイント落ちており、
今後成長率は20%台半ばまで下がるとみられています。想定よ
りも減速が急ピッチであることから、採用凍結に踏み切ったもの
と考えられます。
 しかし、不況になると、企業は自社設備への投資を控えてクラ
ウドに切り替える企業が多くなることが予想され、成長率は20
%台を維持できるものの、その分競争が激化し、値引きも広がる
ので、利益率が下がることが考えられます。
 さて、なぜ、日本にはGAFAが誕生しないのかの話を続ける
ことにします。実は米国でもヨーロッパでも、フェイスブックが
IPOする前後は、第2のGAFAに憧れて、SNSベンチャー
やクラウドアーカイブや動画配信企業などが多く誕生しています
が、そのほとんどは撤退しています。もちろん、ユニークなもの
は、GAFAに買収され、GAFAの一部になっています。なぜ
生き残れないのかについては、次の3つの理由があります。
─────────────────────────────
     @データーセンターの費用が莫大である
     Aユーザーを増加させるのが困難である
     B事業の収益化戦略が極めて困難である
─────────────────────────────
 第1は「データーセンターの費用が莫大である」ことです。
 多くの若手起業家は、ウェブサービスに、そんな巨大なデータ
ーセンターが必要であるとは考えていないのです。クラウドサー
ビスを利用する方法がないわけではないが、割高なコストがかか
り、自社デ―ターセンターを持つ同業他社にコスト面で太刀打ち
できないことは明らかです。
 なぜ、データセンターが必要かについて深田萌氏は、自著で次
のように述べています。
─────────────────────────────
 クラウドサービスを本気で始めれば、サーバーの数が足りない
どころの話ではない。皆さんが投稿するデータ、写真から動画ま
で保管するわけなので、ストレージがたくさん必要だ。
 そのストレージにアクセスするサーバー、そのサーバーを繋ぐ
ゲートウェイ、そこから外に出て行く回線、回線費用があって、
その電力を賄わなければならない。さらに電力を使っているから
データセンターの中はとても熱くなる。熱くなると、ハードウェ
アは不具合を起こすので、今度はガンガン冷却しなければいけな
い。冷却の電気代を節約しようとすれば、寒い地方にデータセン
ターを作らなければならない。東北や北海道にデータセンターを
作るのはそのためである。      ──深田萌絵著/宝島社
     『メタバースがGAFA帝国の世界支配を破壊する』
─────────────────────────────
 現在、GAFAMは、米アリゾナ州で相次いで巨大データセン
ターを建設しています。フェイスブック(メタ)は、アリゾナ州
の州都フェニックスに近いメサ市に8億ドルをかけてデーターセ
ンターを構築すると発表しているし、グーグルも同市に10億ド
ルを投じてデーターセンターを建設中です。なお、メサ市には、
アップルも130平方フィートのデーターセンターや運用管理セ
ンターを建設しています。さらにマイクロソフトもアリゾナ州に
マイクロソフト・アジュールの新リージョンを開設するという具
合で、砂漠の都市アリゾナ州では目下GAFAMのデーターセン
ターの建設ラッシュです。
 なぜ、砂漠に作るのかというと、太陽光発電を使うので、脱炭
素図れるからです。しかし、データーセンターは、1日に400
万ガロン(約1510万リットル)の水を使うので、深刻な干ば
つに見舞われているメサ市では、データーセンターは迷惑施設扱
いにされているといわれます。
 第2は「ユーザーを増加させるのが困難である」ことです。
 これらデーターセンター建設費用や維持費は、ベンチャーキャ
ピタルから資金を集めるしかありませんが、ベンチャーキャビタ
ルは、技術力よりもユーザー数を重視します。しかし、ユーザー
数を増やすには、先行のGAFAが既に集めているので、大きく
ユーザー数を伸ばすのは困難です。
 2021年5月にメサ市議会はフェイスブックによるデータ−
センター建設計画について審議し、このデーターセンターが1日
につき、175万ガロン(約660万リットル)の水を冷却用に
使うとして、建設に反対する意見が出されたといわれます。
 第3は「事業の収益化戦略が極めて困難である」ことです。
 もともとGAFAのビジネスモデルの収益化には時間がかかる
のです。しかも、GAFAが既に存在している状況での後発のビ
ジネスでの収益化はさらに困難です。GAFAは既に先行の利を
得ており、GAFAと同じようなビジネスでは成功させることは
きわめて困難であるといえます。
           ──[ウェブ3/メタバース/026]

≪画像および関連情報≫
 ●進化するDCに最適な運用が求められる
  ───────────────────────────
   従来、DC(データーセンター)には社会システムを支え
  る「安定性」、運用コスト面での「経済性」、そして省エネ
  実現による「環境性」が求められてきた。「これに対し新型
  コロナウイルスが社会活動に甚大な影響を及ぼす中で、DC
  にも新しい役割が求められるようになってきました」とJD
  CCの藤巻秀明氏は指摘する。それは、企業などに浸透する
  テレワークの基盤となり、そこでの新たな情報の共有や伝達
  手段を提供し、次世代ワークスタイルの実現を支援していく
  ということだ。
   こうした要件を受けて、単独DCによる高信頼性の追求か
  ら複数DCの利用によって可用性を担保するという運用形態
  が増加する一方、ネットワークハブDCの重要性も高まって
  いる。例えば、5Gの基盤を念頭にGAFAに代表されるハ
  イパースケーラーが、キャリアの統括局にエッジDCを展開
  するという動きも顕著だ。さらに、ハイブリッドクラウドの
  本格的普及に対応してDC間の閉域網接続による運用も拡大
  している。また、ハイパースケーラーが自社のクラウド基盤
  をラック単位で顧客のプライベートクラウドのDC内に展開
  するといった動きも見られるという。
   こうしたDCの形態の変化に伴い、当然、新たな運用スタ
  イルが必要になる。「JDCCではDC運用の標準マニュア
  ル化を進めており、プロアクティブなキャパシティ管理の考
  え方やインシデント発生時の標準手順の作成法、高効率運用
  技術、パンデミック対策など基本部分に加え、新たなDCの
  形態に即した運用の在り方を解説する『データセンター運用
  ガイドブック』を2020年12月に上梓。ぜひご活用いた
  だければと思います」と藤巻氏は語る。
                https://nkbp.jp/3E6n6iW
  ───────────────────────────
フェイスブックメサデーターセンター完成図.jpg
フェイスブックメサデーターセンター完成図
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月10日

●「日本ではGAFAMは誕生しない」(第5851号)

 「ウィナー・テイクス・オール/Winner takes all」という言
葉があります。「一人勝ち」「勝者総取り」という意味です。元
来選挙用語──とくに米国の大統領選挙において使われている用
語です。州での勝者がその州の代議員を総取りする仕組みです。
 この現象が米国でGAFAにおいて起きているのです。GAF
Aは、高いシェアと売上高を獲得し、結果としてビッグデータを
取得する。そしてGAFAは、それらを駆使しながらさらに新し
いソリューションをユーザーに提供し、ますますシェアを伸ばし
不動の地位を確立するという「ウィナー・テイクス・オール」が
実現されつつあります。
 したがって、日本にGAFAのような企業が生まれないのは、
当然であるといえます。先行者利益が大きいので、同じような企
業は育たないのです。これについて、カルフォルニア大学バーク
レー校のスティーヴン・ヴォ―ゲル教授は、ベンチャーキャピタ
ルや活発な労働市場の土台がない日本ではGAFAは育たないと
して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本にGAFAがないことは、賃金停滞の一要因かもしれませ
んが、主要因、ましてや最大の要因だとは思いません。繰り返し
ますが、GAFAがあるのは米国だけだからです。中国には独自
のテック大手がありますが、それは、国内市場が巨大で閉鎖的だ
という理由によるものです。
 欧州にもGAFAはありませんが、欧州経済はGAFAなしで
も大丈夫でしょう?韓国では日本を上回る賃上げが見られますが
韓国にもGAFAはありません。日本は独自のGAFAを持たず
とも賃金と経済成長を押し上げる大きな可能性を秘めています。
 日本が第2のシリコンバレーを目指し、うまくいかなかったか
らといって、ほかの分野でもだめだというわけではありません。
米国モデルを真似るのではなく、独自の道で、成功を目指すべき
です。もちろん、日本がデジタル革命のリーダーだったとしたら
生産性の大幅な上昇に伴い、賃金も上がっていたことでしょう。
しかし、そのようなシナリオは描きにくいうえに、そうした道を
目指すことが日本にとって最も生産的な戦略だとも思いません。
   ──「プレジデント・オンライン」/2022年6月8日
                  https://bit.ly/3Ut8teL
─────────────────────────────
 スティーヴン・ヴォ―ゲル教授は、日本はデジタル化など、不
得意な分野で勝負しようとせず、得意な分野で力を発揮すべきで
あるといっています。かつての日本や日本経済は、イノベーショ
ンに溢れていたと教授はいいます。ひとつ例を上げるならば、現
在、世界中に浸透している自動車の製造モデルは、トヨタ式の日
本型モデルを基準にしています。自動車の先進国の米国でさえト
ヨタ式を取り入れています。これはとても凄いことであるといえ
ます。とにかく日本は、製造業の分野においては、見事なまでイ
ノベーティブであったと教授はいいます。
 ところが世界第2の経済大国になった頃から、日本はイノベー
ション力を失っているようにみえます。どうしたのでしょうか。
豊かな国になったので、気が緩んでしまったのでしょうか──ス
ティーヴン・ヴォ―ゲル教授はこのようにいっています。
 日本のデジタル化について、スティーヴン・ヴォ―ゲル教授は
次のように日本にアドバイスしています。とても的確な指摘であ
ると思います。
─────────────────────────────
 米国のデジタル革命は、ユーザー側から推し進められたもので
す。それがインターネット革命の本質なのです。米IBMや米通
信大手のAT&Tがトップダウンでできるものではありません。
顧客のソフトウェア企業やメガバンクなどが、情報システムを使
うための新しいアプリや方法を生み出し、ボトムアップで進んで
いったのがデジタル革命なのです。
 日本には、ボトムアップ型のデジタル革命が必要です。日本は
米国のように、デジタル革命の配当をめいっぱい享受するところ
までいっていません。デジタル革命は生産性を高めますが、革命
が道半ばであれば、生産性の上昇も道半ばです。
 日本はデジタル化を進めるべきです。それもかなり積極的に。
それには、ソフトウエア・エンジニアを増やす必要があります。
もっと多くの人々がプログラミングを学ぶべきです。
             ──スティーヴン・ヴォ―ゲル教授
                 https://bit.ly/3WAHfVg
─────────────────────────────
 岸田内閣は「リスキリング(学び直し)」を強化する政策を推
進しようとしていますが、それなら、スティーヴン・ヴォ―ゲル
教授がいうように、プログラミングを強化すべきです。「国民総
プログラミング」ぐらいの気持ちでやるべきではないかと思いま
す。そうすれば、日本のデジタル化は一挙に進みます。
 ところで「リスキリング」とは何でしょうか。
 リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは今の職
業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要な
スキルを獲得する、獲得させることをいいます。岸田首相は「労
働移動を促しながら、就業者のデジタル分野などでのリスキリン
グ支援を大幅に強化する」といい、そのために「5年で1兆円を
注ぎ込む」と言明しています。
 「リスキリング」と似た言葉に「リカレント教育」というのが
あります。リカレント教育とは、一旦仕事から離れて、大学や専
門学校などの教育機関で学ぶことを意味しています。したがって
リカレント教育は、多くの場合、「従業員が自主的に別のスキル
を学ぶ」ことを意味しています。これに対して、リスキリングの
場合は、仕事から一旦離れるのではなく、業務と並行しながら必
要なスキルを身につけていきます。これを多くの国民が生かせれ
ば、日本はかつてのイノベーティブな力を取り戻せるはずです。
           ──[ウェブ3/メタバース/027]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田政権が注力する「リスキリングで資格取得」の時代錯誤
  本来学ぶべきスキルとは
  ───────────────────────────
   今年、ビジネス分野で注目されている言葉のひとつが「リ
  スキリング」だ。社会人が、市場のニーズや成長分野のビジ
  ネスに対応できるよう、新たなスキルを身につけることであ
  る。岸田政権も“人への投資”に大きな予算を振り分ける方
  針を打ち出し、「リスキリング支援」に1兆円を投じること
  を示した。だが、経営コンサルタントの大前研一氏は「岸田
  政権の唱えるリスキリングでは経済成長につながらない」と
  指摘する。
   岸田文雄首相は開会中の臨時国会の所信表明演説で、個人
  のリスキリング(成長分野に移動するための学び直し)に対
  する公的支援に「5年間で1兆円」を投じると表明した。も
  ともと政府は6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基
  本方針(骨太の方針)」の中で「人への投資」に3年間で、
  4000億円規模の予算を投入するとしていたが、そのパッ
  ケージをさらに拡充することにしたのである。
   主要な経済誌も、こぞって大特集を組み、官民挙げてリス
  キリングやリカレント(社会人になっても、それぞれのタイ
  ミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていく
  こと)、資格取得のブームを盛んに煽っているが、その中身
  は噴飯物である。なぜなら、そこで主に勧めているのは公認
  会計士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、宅
  地建物取引士、不動産鑑定士、中小企業診断士、建築士など
  のいわゆる「サムライビジネス(士業)」だからである。こ
  れらは国家資格であり、各分野の専門知識の記憶力を問う試
  験に合格すれば取得できる。  https://bit.ly/3TgIeam
  ───────────────────────────
スティーヴン・ヴォ―ゲル教授.jpg
スティーヴン・ヴォ―ゲル教授
posted by 平野 浩 at 06:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月11日

●「日の丸半導体の大躍進の80年代」(第5852号)

 「日本はかつて製造業において、見事なまでイノベーティブで
あった」──スティーヴン・ヴォ―ゲル教授の言葉です。教授は
例として、トヨタ式の自動車製造モデルを上げていましたが、そ
れだけではないのです。1980年代から1990年代は、半導
体の分野においても日本の天下だったのです。
 添付ファイルをご覧ください。これは1971年から1996
年までの半導体メーカーの売上高ランキング(ベスト10)を示
したものです。1986年、1989年、1992年、1996
年のベスト5を以下に示します。日本勢が圧倒的です。
─────────────────────────────
     1986年 1989年 1992年 1996年
  1位   NEC   NEC  インテル  インテル
  2位    日立    東芝   NEC   NEC
  3位    東芝    日立    東芝 モトローラ
  4位 モトローラ モトローラ モトローラ    日立
  5位    TI   富士通    日立    東芝
         註:TI:テキサス・インスツルメント社
─────────────────────────────
 1970年代から1980年代にかけて、半導体製造における
日本企業の進出は驚くべきものだったといいます。日本勢──N
EC、日立、東芝、富士通の各社は、まさに破竹の勢いで驀進し
米国のモトローラ、フェアチャイルド、テキサツインスツルメン
トを駆逐し、上位独占を果たしています。
 実は、その中にインテルも入っています。そもそもインテル社
は半導体メモリの分野で先行し、世界初のSRAMとDRAMを
製造しています。
─────────────────────────────
      ◎1969年 4月
       世界初のSRAM3101を発表
      ◎1970年10月
       世界初のDRAM1103を発表
─────────────────────────────
 しかし、インテルは1985年10月にDRAM事業から撤退
し、CPUの開発・生産に経営資源を集中しています。撤退の理
由は、日本企業の怒涛のような進出です。当時の日本企業はそれ
ほど強かったのです。
 インテルという企業は、1968年7月18日、フェアチャイ
ルドセミコンダクタを退職したロバート・ノイス、ゴードン・ム
ーアらが設立し、3番目の社員として入社したのがアンドルー・
グローヴです。当初は半導体メモリを主力製品とし、磁気コアメ
モリの置き換えと駆逐を目的としたのです。
 それがどうして半導体メモリから撤退することを決断したのか
について、今では入手不能のゴードン・ムーア氏の著書『インテ
ルとともに──ゴードン・ムーア/私の半導体人生』(日経BP
M)に次のように記述されています。きわめて示唆に富む内容で
あるので、少し長いがご紹介します。
─────────────────────────────
 85年の初めのことだ。グローブ社長といよいよDRAM工場
を着工するかどうか、最終的な話し合いをすることになった。グ
ローブ社長は私に、「もし、あなたがインテルを経営するために
外部からスカウトされてきた経営者だったとしたら、DRAMへ
の投資をするだろうか」と尋ねてきた。
 「いいやそうはしないだろう」。私はこう答えた。「私もそう
だ」。グローブ氏もこう言い、インテルのDRAMからの撤退が
決まった。決断は本当につらかった。繰り返しになるが、DRA
Mこそインテルの第一歩だった。それに誰だって劣勢に立たされ
た市場から撤退することを望むはずもない。市場でとても高い評
価を得てもいた。しかしわれわれには明らかによりビジネス的に
魅力のある他の製品があったし、DRAM生産にそれほど大きな
投資をするだけの条件も揃っていなかった。一定のシェアを確保
して大手の一角に人らなければ、事業に関わるメリットはないと
判断せざるをえなかった。
 米国には80年代半ばまで8社のDRAMメーカーがあった。
日本企業の攻勢と半導体不況で1社、また1社と撤退に追い込ま
れていった。インテルもこの「撤退組」の仲間入りをすることに
なった。
 米企業で踏みとどまったのは、DRAM専業で選択肢のなかっ
たマイクロン・テクノロジーとDRAM生産の中核部隊を日本に
移していたテキサス・インスツルメンツの2社だけとなった。
           ──ゴードン・ムーア著/日経BPM刊
/『インテルとともに──ゴードン・ムーア/私の半導体人生』
─────────────────────────────
 日本勢の進出によって名だたる米国の半導体メーカーが次々に
撤退に追い込まれる──GAFAに席巻されている日本企業しか
見ていない現代の若い人の知らない出来事です。2000年以前
にはこんなことがあったのです。
 スティーヴン・ヴォ―ゲル教授がいう「日本はかつて製造業に
おいて、見事なまでイノベーティブであった」というのは、この
ことを指しています。
 しかし、2000年以降の日本は、経済の面でも技術の面でも
サッパリで、デフレの底に沈んでいます。私は現在でもあるIT
企業で新入職員にIT技術を教えていますが、そのさいに、必ず
いっているのは「技術の歴史を調べよ」ということです。
─────────────────────────────
 優れたエンジニアになりたければ、技術の歴史について学ぶべ
きです。歴史とはいい換えれば「他人の経験」ですが、人間は言
語と想像力を駆使することにより、他人の歴史を疑似的に体験で
きるからである。
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/028]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?
  ───────────────────────────
   1980年代にアメリカを追い抜き世界一だった日本の半
  導体はアメリカにより叩き潰され、その間、韓国が追い上げ
  た。土日だけサムスンに通って破格的高給で核心技術を売り
  まくった東芝社員の吐露を明かす時が来た。
   1980年代半ば、日本の半導体は世界を席巻し全盛期に
  あった。技術力だけでなく、売上高においてもアメリカを抜
  いてトップに躍り出、世界シェアの50%を超えたこともあ
  る。特にDRAM(Dynamic Random Access Memory)は
  日本の得意分野で、廉価でもあった。
   それに対してアメリカは通商法301条に基づく提訴や反
  ダンピング訴訟などを起こして、70年代末から日本の半導
  体産業政策を批判し続けてきた。
   「日本半導体のアメリカ進出は、アメリカのハイテク産業
  あるいは防衛産業の基礎を脅かすという安全保障上の問題が
  ある」というのが、アメリカの対日批判の論拠の一つであっ
  た。日米安保条約で結ばれた「同盟国」であるはずの日本に
  対してさえ、「アメリカにとっての防衛産業の基礎を脅かす
  という安全保障上の問題がある」として、激しい批判を繰り
  広げたのである。こうして1986年7月に結ばれたのが、
  「日米半導体協定」(第一次協定)だ。
                  https://bit.ly/2SzCr5g
  ───────────────────────────
半導体メーカーの売上高ランキング.jpg
半導体メーカーの売上高ランキング
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月14日

●「次世代半導体製造会社が誕生する」(第5853号)

 2022年11月11日の日本経済新聞のトップ記事は、日本
が誇るトップクラスの8社、トヨタ自動車、NTT、ソニーグル
ープ、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシアホールディ
ングス、三菱UFJ銀行が新会社「ラピダス」を設立し、202
0年代後半に向けて、半導体製造技術の確立を目指すというもの
です。当然政府も補助金を拠出し支援します。
 11月11日のEJでは、2000年以前の日の丸半導体の活
躍について書いたばかりなので、これは将来に希望の持てるニュ
ースですが、あまりにも遅過ぎの感があります。それでもチャレ
ンジすることには意味があります。
 こういう記事が出た機会に、半導体について、少し述べること
にします。メタバースとも関係があります。現在、半導体におい
て日本がどういうポジションに置かれているかを知ることには、
意味があると思います。
 そもそも「半導体」(semiconductor)とは何でしょうか。
─────────────────────────────
 @導 体 → 電気を通すもの
        金・銅・アルミ・鉄など
 A不導体 → 電気を通さないもの
        ゴム・石英ガラス・セラミックス・雲母など
 B半導体 → ある条件下では電気を通し、特定の条件下で
        は電気を通さないもの
        シリコン、カーボン、ゲルマニウムなど
─────────────────────────────
 半導体の世界には紛らわしい言葉がたくさんあります。ICと
いう言葉があります。ICとは、「集積回路」のことです。IC
(integrated circuit)は、半導体の表面に微細かつ複雑な電子
回路を形成した上で封入した電子部品のことです。これがICで
すが、一般的にICというときは、「半導体集積回路」を意味し
ています。CPUも半導体集積回路であり、ICであるというこ
とです。なお、ICには「SSI」と「LSI」がありますが、
SSIは小規模な集積回路のことであり、LSIは大規模な集積
回路を意味しています。
 今回新会社「ラピダス」が製造を目指す「ロジック半導体」と
いうのは、データ処理を担う「ロジック(論理素子)」といわれ
る集積回路のことです。ロジック半導体は、回路を微細にして計
算を担うトランジスタの数を増やし、その能力を向上させてきて
います。現在、アイフォーンに搭載されている最先端チップには
160億個のトランジスタが敷き詰められています。
 ロジック半導体の性能は、回路の幅が微細なほど性能が高くな
ります。半導体はnm(ナノメートル)という単位を使いますが
1ナノメートルは10億分の1メートルのこと。1ミリメートル
の1000分の1の1マイクロメートルのさらに1000分の1
が1ナノメートルということになります。
 車に使う半導体の場合、28nm、40nm、65nmのもの
ですが、これは5世代前の古い技術です。「ラピダス」が製造を
目指す「ロジック半導体」は、「ビヨンド2ナノ」であり、とて
つもない高度な技術が必要になります。
 現在、5ナノメートル以下のロジック半導体は、台湾のTSM
C(台湾積体電路)と韓国のサムソン電子でしか製造できず、日
本の技術レベルは、40ナノメートルで止まっています。それを
新会社が2ナノ以上にしようというですから、途方もなく高い目
標であるといえます。
 ちなみに半導体には、ロジック半導体のほかに、メモリーやセ
ンサーがあります。メモリーについては、東芝の半導体メモリー
事業を分社化して設立されたキオクシアがNAND型フラッシュ
メモリー生産していますし、センサーについてはソニーが強く、
なかでもイメージセンサーはソニーの独壇場です。
 さらに、2021年6月に日本は、半導体などデジタル基盤を
強化するため、TSMCを日本に誘致することが決まっており、
2024年から稼働することになっています。米国もアリゾナ州
に、TSMCの3ナノメートル製造プロセスの工場建設をを進め
ています。経済安保の一環です。
 しかし、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、TSMCを日本
に誘致する計画について若干疑問を持っているようです。なぜな
ら、日本の半導体産業衰退の原因は、技術者の質ではなく、経営
者の質であるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 1980年代、日本はメモリーで世界の半分を生産、日米半導
体摩擦を起こすまでになった。私の大学の同級生は半導体関係の
仕事についた者が多かったのだが、日本の半導体は、生産面で強
いだけでなく、国際学界でも世界一と誇らしげに語ってくれた。
それを思い出すと、いまの日本の惨状は信じられない。では、ど
うしたら、この状態から脱却できるのだろうか?
 そのための鍵は、半導体製造装置産業を分析すると、見いだす
ことができるように思う。日本の競争力は、半導体では落ちたが
その製造装置では依然として強く、世界シェアも高い。例えば、
半導体テスター最大手のアドバンテストは、海外売上比率は92
%前後だ。東京エレクトロンは85%だ。これら半導体製造装置
メーカーに共通するのは、大手総合電機メーカーから独立してい
ることだ。大企業の一部ではなく、世界の半導体メーカーを相手
にして技術開発に励んできた。そして、世界的水平分業の一環と
しての地位を築いた。つまり、日本の半導体産業衰退の原因は、
技術者の質ではなく、経営者の質であり、不適切な経営戦略だっ
たのだ。そこに手をつけない限り、いくら金を出して最先端ファ
ウンドリーを誘致しても、日本の半導体産業が復活することはな
いだろう。         ──野口悠紀雄一橋大学名誉教授
                  https://bit.ly/3E4tHJ8
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/029]

≪画像および関連情報≫
 ●“日の丸半導体”復活なるか 経産省が『キオクシア』に
  巨額補助
  ───────────────────────────
   「半導体サプライチェーン(供給網)の強靭化や、半導体
  産業の発展に貢献することが期待されている。経済産業省と
  しても、関連人材の確保を含め、地方自治体や関係省庁と連
  携しつつ、しっかりと伴走していく」──こう語るのは、経
  済産業大臣の萩生田光一氏(当時)。
   経済産業省は、半導体大手キオクシアや、協業の米ウエス
  タンデジタルが、三重県四日市市に建設する新たな生産設備
  (第7製造棟)に対し、最大929億円を補助することを決
  めた。経済安全保障上、不可欠な半導体を国内で安定して生
  産できる体制をつくることが目的だ。
   政府は6月に、ファウンドリー(半導体受託製造)世界最
  大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設する新
  工場に対して、最大4760億円を補助することを決定。今
  回が巨額助成の第二弾となる。
   キオクシア社長の早坂伸夫氏は「日本政府からの支援に感
  謝している。経済安全保障の観点において重要な半導体であ
  る最先端フラッシュメモリの安定的な国内生産を継続し、国
  内・地域経済や半導体関連産業の発展に貢献していく」との
  コメントを発表。主力の3次元フラッシュメモリや、次世代
  製品の開発・生産を目指すことになる。
                 https://bit.ly/3toMMRC
  ───────────────────────────
半導体メーカー/世界ランキング2021.jpg
半導体メーカー/世界ランキング2021
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月15日

●「TSMC日本への誘致/真の理由」(第5854号)

 次世代半導体の国産化を目指す共同出資会社「ラピダス」の話
の続きです。実は、国(経済産業省)が主導する半導体のこのよ
うなプロジェクトは初めてのことではないのです。1999年に
NECと日立製作所が半導体メモリー事業を統合して「エルピー
ダ」という企業を立ち上げています。
 1999年というと富士通が、2001年には東芝が、DRA
M事業から撤退しています。そのような年にエルピーダは三菱電
機のDRAM事業を譲受して、国内最後のDRAMメーカーとし
て日の丸を背負ったのです。
 しかし、当時の急激な円高もあって、韓国サムスン電子などと
の競合に敗れ、2012年2月27日に会社更生法を申請し、経
営破綻してしまったのです。日本は、どちらかというと、米国の
ように、このような国家プロジェクトを運営することは、あまり
得意ではなく、ここまで何回も失敗を重ねてきています。
 今回のプロジェクトでも、次世代半導体の量産化を始めるまで
に5兆円規模の資金が必要であり、出資企業からは「これまでの
ように、金をドブに捨てることにならないよう、しっかりと今後
の展開を見ていく必要がある」という慎重な意見があることは確
かです。今回だけは失敗は許されないのです。
 1980年代の日本の半導体ビジネスは、シェアを50%を取
るなど破竹の勢いでしたが、これを潰したのは米国です。具体的
には「日米半導体協定」の存在です。この協定は1986年から
1996年まで日本を縛ったのです。この協定によって、日本は
次のような不平等ルールを守らさられたのです。
─────────────────────────────
 日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に高め
 ること。              ──日米半導体協定
─────────────────────────────
 当時の日本は、米国にとって安全保障をのぞく経済上の最大の
脅威であり、その締め付けは強烈であったのです。当時、外資系
半導体メーカーで日本市場を担当していた人物は「米国政府は国
家戦略で日本の半導体産業をたたいたが、それに対して当時日本
の通産省は中途半端な妥協をしてしまった」と当時のことを振り
返っています。それでは、これから日本は半導体の戦略として、
どのようにしていくべきでしょうか。
 これについて、ビジネスコンサルタントの天野眞也氏がキーマ
ンと対談する「アマノスコーブ」という企画で、東芝チーフエバ
ンジェリストの大幸秀生氏と対談をしているサイトがあります。
「エバンジェリスト」というのはIT業界の新しい職種で、IT
トレンドや技術について啓蒙する仕事を担う人のことです。この
対談のなかにヒントがあるようです。話は「半導体不足」のこと
からはじまっています。
─────────────────────────────
天野:半導体不足の解消の見通しは年内(2021年)というこ
 とですが、この先もやはりこういうことが起こって、半導体が
 なくなるとすごく困っちゃうじゃないですか。
大幸:そうですね。
天野:「こういうふうにしておけばいい」というのは、あるんで
 すか?
大幸:おお、なかなかいい質問ですね(笑)。
天野:いえいえ(笑)。
大幸:従来はマルチベンダーといって、複数の会社が国際標準み
 たいなものを作って、「ピンコンパチブル」という互換性のあ
 るものを世界に供給していたのですが、今はそれがだいぶ少な
 くなっています。
天野:寡占状態になっちゃったというお話がありましたね。
大幸:なっています。集積すればするほど専用チップになっちゃ
 うんですね。スマホ用だったら、スマホ用になっちゃうのです
 が、その中のある部分は、実はドローンに使えるとか、実はデ
 ジカメに使える、というのは当然あるんですよ。
  なので、それをむしろバラして小さな単位で汎用的に使えな
 いかと、複数のチップを1つのパッケージに封止して使う、昔
 は「SiP」(System in Package)とか、「MCM」(Multi
  Chip Module)と呼んでいて、最近は「チップレット」と呼ん
 でいる、最初にすごく高価で高機能の半導体を設計して、それ
 をいつでもバラけられるようにする、というものがあります。
 ファウンドリーができる外のパートナーがいれば、どこでも作
 れるというふうにしていこうという動きがちょっとあります。
大幸:もともとそれ(チップレット)は、AMDという会社が先
 行していました。AMDはインテルのライバルなので、インテ
 ルを横目に見ながら。ただ、最近はそれをインテルが真似しよ
 うとしているという話もあります。
天野:なるほど。ワンチップじゃなくて、全部あとからモジュー
 ルで分離できるのはすごくいいですね。
大幸:そうです。今日本に、台湾のTSMCを誘致するという話
 がありますが、実はそれが1つのポイントになっています。集
 積化のために日本と台湾は手を結ぶのではないと。シリコン上
 に1つにするのは台湾のほうが優れているし、世界中に彼らの
 パートナーはいます。台湾が日本に何を求めているかというと
 チップレットやSiPみたいに、例えば3次元構造でいろいろ
 なチップを積層しながら1つのモジュールにするという技術で
 す。これは日本が長けていると彼らは見ているんですね。
                 https://bit.ly/3Tuq5WS
─────────────────────────────
 このやりとりを読むと、今回の日本と台湾のTSMCの提携は
意義があることが読み取れます。日本はICの小さな単位をパー
ツとして作る技術に優れており、TSMCはそれらのパーツをひ
とつの半導体集積回路(IC)にまとめる技術に優れている──
これが今回のTSMCの日本誘致の裏にあるのではないかと考え
られます。      ──[ウェブ3/メタバース/030]

≪画像および関連情報≫
 ●「日の丸半導体」が凋落したこれだけの根本原因
  ───────────────────────────
  ――そもそも、半導体産業の黎明期に日本は、なぜ勝てたの
  ですか。
   1940年代後半に、半導体を発明したのはアメリカだ。
  1980年代に、そのアメリカに日本は半導体の製造で勝っ
  た。それは、1970年代に日本が新しい技術を作ったから
  だ。たとえばクリーンルームという概念を生み出した。アメ
  リカでは製造現場に靴で入っていたが、日本では清浄な環境
  で造らないと不良が出るクリーンルームを作った。半導体の
  基本特許はアメリカ発かもしれないが、LSI(大規模集積
  回路)にしたのも日本だ。私たちの先輩がゼロから切磋琢磨
  しながらやった。もう1つ大事なことがある。マーケットが
  あったことだ。
   当時、日本の大手電機はみんなNTTファミリーで、通信
  機器やコンピュータを造っていた。半導体は自社の通信機器
  やコンピュータの部門が大口顧客だった。自社のハードを強
  くするために強い半導体がいる。通信機器部門やコンピュー
  タ部門にとって、自社で半導体部門を持つメリットが、あっ
  た。各社が、よりよいコンピュータを作ろうと競い合った。
  自社の大口顧客に応えるために、半導体部門も開発に力を注
  いだ。半導体を利用する顧客が近くにいることでよいものが
  できた。それを外に売れば十分に勝てた。1980年代から
  90年代の初頭まではね。   https://bit.ly/3O2wBmg
  ───────────────────────────
大幸秀成氏と天野眞也氏の対談.jpg
大幸秀成氏と天野眞也氏の対談
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月16日

●「GAFAとマイクロソフトの関係」(第5855号)

 「GAFAM」の最後のM、マイクロソフトは何となくGAF
Aの仲間外れのような「プラスM」の状態です。どうして、こう
なったのか、マイクロソフトの現状について考えます。
 2012年6月のことです。講談社の野間省伸社長が南アフリ
カのケープタウンで行われた国際出版連合(IPA)の会議に参
加したとき、「GAFMA(ガフマ)」という言葉を耳にしたと
いわれます。これが出版業界に対する脅威であるとみなしてそう
呼んだのです。「M」はもちろんマイクロソフトのことです。
 ところが、その後、「GAFMA」からマイクロソフトのMが
外れ、「GAFA」と呼ばれるようになっています。マイクロソ
フトに何があったのでしょうか。
 マイクロソフトといえば、PCのOSで圧倒的なシェアを獲得
しているIT業界の盟主ですが、基本的なデバイスが、PCから
スマホへと移行するなかで、モバイル化、クラウド化という技術
革新の波に乗り遅れ、GAFAの台頭を許しています。
 もちろんマイクロソフトほどの企業が何もしなかったわけでは
ありません。2000年には「ウィンドウズモバイル」を開発し
携帯情報端末PDAに搭載したのですが、スマホへの対応は遅れ
てしまっています。
 2011年には当時携帯電話のトップだったフィンランドのノ
キアと提携し、ウィンドウズモバイルを搭載した「ウィンドウズ
フォン」を発売したのですが、既にスマホ市場では、アップルの
「iOS」とグーグルの「アンドロイド」によって席巻された後
のことだったのです。
 クラウド事業にもマイクロソフトは遅れをとっています。クラ
ウド事業は2006年にアマゾンがAWSをリリースし、競合相
手がいないなかで市場シェアを急伸していたからです。マイクロ
ソフトが「ウィンドウズ・アジュール」をリリースしたのは20
10年であり、アマゾンに4年遅れています。しかも、マイクロ
ソフトは当初クラウドには消極的だったのです。それまでのマイ
クロソフトのビジネスモデルに合わないからです。
 2013年にマイクロソフトは、ノキアを7000億円で買収
し、ウィンドウズフォンで、アップルとグーグルに戦いを挑みま
すが、状況を変えることはできず、当時のCEOのスティーブ・
バルマー氏は、ノキア買収の責任をとって、辞任に追い込まれて
しまいます。
 クラウド事業がマイクロソフトのビジネスモデルと合わない点
について、立教大学ビジネススクール教授である田中道昭氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 マイクロソフトの収益の柱は、ウィンドウズのライセンス料と
同OS上で動くアプリケーションソフトの「オフィス」の販売で
す。ウィンドウズがPCの標準ソフトとなり、世界中に広がって
いくにつれ、莫大な利益をもたらしました。ワードやエクセル、
パワーポイントが使える「オフィス」はパッケージ商品として販
売されてきたソフトです。バージョンやグレードによって価格が
変わるものの、1本あたり数万円という値段で販売されます。
 一方のクラウド事業はネットサービスやソフトを文字通りクラ
ウド上で提供します。パッケージ化された商品ではありません。
仮にクラウド事業で「オフィス」をはじめとするアプリケーショ
ンソフトの提供を始めてしまうと、パッケージ商品の存在意義が
なくなってしまいます。この点が「クラウドサービスが以前のマ
イクロソフトとは相容れないビジネスモデル」である所以なので
す。       ──田中道昭教授 https://bit.ly/3tqnxyh
─────────────────────────────
 2014年、バルマー氏の後を継いで、マイクロソフト3代目
のCEOに就任したのはサディア・ナデラ氏です。当時マイクロ
ソフトは、既に大企業になっており、大企業にありがちな深刻な
組織の硬直化と固定マインドセットが起きていたのです。
 納期を守ること、目標数字を達成することなど、形式的なこと
が何よりも重視され、かつてのマイクロソフトにあった自由闊達
さがなくなってしまっています。また、部下は直接上司より上の
上司と話すことが禁じられ、上層幹部が組織の下のほうにいる社
員と話すときは上司を通してしかできず、上下のコミュニケーシ
ョンがうまくとれない状況になっていたといえます。
 加えて、技術のトレンドなど、世の中の新しい動きに対しても
実際にそのことを知らないでも「そんなこと知ってる」というス
タンスをとり、企業として新しいトレンドに対応する柔軟さが欠
落してしまっています。これを固定マインドセットといい、これ
があると、新しい変化の波に対応できず、改革を阻み、現状維持
をとしとする態度が組織に充満してしまうのです。
 こういう現状のマイクロソフトをナデラCEOは、次の目標に
したがって改革に着手したのです。
─────────────────────────────
 マイクロソフトは「モバイルファースト」と「クラウドファー
スト」という世界を見据えた「生産性とプラットフォーム」カン
パニーである。      ──マイクロソフトの理想の世界観
─────────────────────────────
 ナデラCEOがやったことはいろいろありますが、なかでも、
看板商品である「オフィス」のクラウド版をリリースし、これを
iOSやアンドロイドなどのスマホOS上でも動くようにしたこ
とが画期的です。なぜなら、これによって従来の「OSと一緒に
ソフトを売る」というマイクロソフトの戦略を一変させたからで
す。これはマイクロソフトにとって大変化です。
 そして、クラウド版の「オフィス」にサブスクリプション(定
期購読/継続購入)を導入し、月額あるいは年額で利用できるよ
うにしています。これは、マイクロソフトにとって、大変革であ
るといえます。この「ナデラ改革」については、明日のEJでも
続いて取り上げることにします。
           ──[ウェブ3/メタバース/031]

≪画像および関連情報≫
 ●変貌するMS/かつては囲い込み、いま「オープン化」
  ───────────────────────────
   米マイクロソフト(MS)が変貌(へんぼう)している。
  かつては他社を押しのけてウィンドウズを販売し、顧客を囲
  い込む姿勢で知られたが、今のキーワードは「オープン化」
  と「多角化」だ。グーグル、アマゾン、フェイスブック、ア
  ップルの「GAFA」の陰に隠れてかつてほどめだたないが
  実は今の時価総額は4社を上回る。何が起こっているのか。
   「オープンソースのプロジェクトとして、各国における自
  由で公正な選挙を守る事業を始めます」
   6日朝、シアトルで開いたMSの開発者向け会議の冒頭で
  サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)はこのように宣
  言した。ロシアによる2016年の米大統領選への介入など
  が問題になる中で、その基盤となる強固な選挙システムのソ
  フトを、オープンソースで作る取り組みだ。
   世界中の技術者が自由にソフトを改良できる「オープンソ
  ース」にMSが注力する姿は、創業者のビル・ゲイツ氏が率
  いたころと比べると隔世の感がある。
   1990年代から2000年代にかけて、基本ソフト(O
  S)「ウィンドウズ」の売り上げを伸ばしてきたMSは、自
  社ソフトの知的財産を厳しく管理。ウィンドウズとビジネス
  統合ソフト「オフィス」を二本柱に、オープンソース陣営と
  は激しく対立してきた。    https://bit.ly/3UQKeHF
  ───────────────────────────
ナデラ/マイクロソフトCEO.jpg
ナデラ/マイクロソフトCEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月17日

●「ナデラCEOはどう改革をしたか」(第5856号)

 マイクロソフトという企業は、従業員12万人をかかえる売上
高約10兆円の巨大企業です。これほどの巨大企業を変革するの
は尋常なことではありませんが、サティア・ナデラCEOはそれ
を見事にやり遂げたのです。ナデラCEOが何をやったかについ
ては後から述べることにし、マイクロソフトの最近の業績からそ
の成果の一端を示すことにします。
 前のスティーブ・バルマーCEOのときは、時代の変化である
スマートフォン、ソーシャル・メディア、クラウドなどの変化に
すべて乗り遅れてしまったマイクロソフトですが、直近のマイク
ロソフトの業績を見ると、米国の株式市場において、時価総額で
はアップルとトップ争いを繰り広げています。
─────────────────────────────
 ◎時価総額(ドル)
  第1位:マイクロソフト ・・・ 1兆3211億ドル
  第2位:   アップル ・・・ 1兆2559億ドル
             ──2020年4月14日現在
─────────────────────────────
 2019年6月期のマイクロソフトの売上高は、前年比14%
増の1258億ドル(13兆8380億円)であり、営業利益、
経常利益、純利益を含めていずれも過去最高となっています。
 とくに純利益については、前年比で2・4倍になる392億ド
ル(4兆3120億円)になっています。トヨタ自動車の201
9年3月期の純利益が1兆8829億円ですから、マイクロソフ
トがいかに高収益であるかがわかると思います。
 とくに成長ぶりが際立っているのは、クラウドサービスのウィ
ンドウズ・アジュールです。調査会社のガートナーが2020年
8月に発表したところによると、クラウド市場のシェアは、20
19年8月時点で次のようになっています。
─────────────────────────────
     ◎クラウド市場のシェア
        AWS ・・・・・ 45・0%
      アジュール ・・・・・ 17・9%
       アリババ ・・・・・  9・1%
            ──2020年8月現在
─────────────────────────────
 AWSのシェアは盤石ですが、年間の成長率で見ると、アマゾ
ンの29%に対して、マイクロソフトは57・8%であり、その
差は確実に迫っています。眠れる巨人が今や目を覚ましつつある
といえます。
 サティア・ナデラCEOは、どのようにしてマイクロソフトを
再生させたのでしょうか。
 ナデラCEOは、「企業ミッション」に続いて「世界観」を掲
げたのです。
─────────────────────────────
【Mission(企業ミッション)】
  地球上のすべての個人とすべての組織がより多くのことを達
 成できるようにする
【Worldview(世界観)】
  モバイルファースト、クラウドファースト
─────────────────────────────
 ところで「世界観」とは何でしょうか。
 世界観とは、この世界で自分はどのような役割を果たしていく
ことが期待されているのかを明らかにしたものです。これを企業
ミッションとともに企業が掲げるのは稀有なことです。
 「モバイルファースト、クラウドファースト」という世界観は
さまざまなモバイル機器が世の中に広がり、クラウドによって、
ネットワークが実現されて、どこでも使える、どこでも働けると
いうことを意味しています。
 この世界観は、2年後の2017年に次のように変わっている
のです。
─────────────────────────────
【Worldview(世界観)】
  インテリジェントクラウド、インテリジェントジェット
─────────────────────────────
 この「世界観」について、マイクロソフト日本法人の前社長の
平野拓也氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 サティアはいろんな話をしますが、この世界観というのを、と
ても大事にするんです。ここがひとつ、とてもユニークなところ
だと思いました。ミッションを語るトップは多いと思うのですが
世界観を語る人は、なかなかいないと思います。
 今、我々がいる世界はどこで、今後ある世界はこうですよ、と
いう世界観を毎回、話していくんです。会社が何か変わらないと
いけないというときに、わかりやすい形でシンボリックに語って
いく。(2017年の世界観に関しては)モバイルデバイスは一
度クラウドに接続して、そこから何かをやっていたというところ
から、デバイスにもAIがつき、インテリジェントに自らが動く
時代になるということです。ありとあらゆるもので、デバイス側
でコンピューティングができる時代が来るということです。では
そのために何をしないといけないか。ハードウェアとの関係をど
うしないといけないかですね。
         ──平野拓也前マイクロソフト日本法人社長
                 https://bit.ly/3g4N5hg
─────────────────────────────
 どうやらマイクロソフトのナデラCEOは、かなり変わった人
物のようです。しかし、マイクロソフトは目に見えて着実に立ち
直っており、「+M」の地位から脱却しつつあり、ナデラCEO
の手腕は高く評価されています。明日のEJでは、ナデラCEO
はどのような人物か、さらに探ってみたいと思います。
           ──[ウェブ3/メタバース/032]

≪画像および関連情報≫
 ●マイクロソフトの社風を一変させた“再興の立役者”サティ
  ア・ナデラがすすめる必読書11冊
  ───────────────────────────
   マイクロソフトCEOのサティア・ナデラの人生にとって
  読書は欠かせないものだ。ナデラはグローバル企業のCEO
  の中でもトップクラスの存在感を誇る。そのリーダーシップ
  には定評があり、2020年度の報酬額は、4290万ドル
  (約42億9000万円)にものぼる。
   米キャリア情報サイト「コンパラブリー」の2019年ベ
  ストCEO、また『フォーチュン』の「2019年を代表す
  るビジネスパーソン」にも選出されている。さらにマーケッ
  ツ・インサイダーでは、ナデラ率いるマイクロソフトが創業
  から44年で1兆ドル(約100兆円)を超える企業価値を
  達成したと紹介している。
   そんな輝かしいキャリアを歩むナデラは「自分のアイデア
  は読書習慣によるものだ」と言う。「ファストカンパニー」
  のインタビューでは、次のように話している。
   「この本を数ページ、あの本を数ページと読み進めます。
  もちろん最初から最後まで読む本もありますが、とにかく本
  がないと生きていけないんです」エコノミック・タイムズの
  インタビューではスタンフォード大学の心理学者キャロル・
  ドゥエックの『マインドセット』を読んだことが、マイクロ
  ソフトの文化を変えるきっかけになったと語っている。
   「何でも学ぶ」マインドセットを取り入れた結果、枠にと
  らわれずに考えるようになり、やりづらい企業改革も、進め
  やすくなったという。     https://bit.ly/3GhUJ2O
  ───────────────────────────
サティア・ナデラMS/CEO.jpg
サティア・ナデラMS/CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月18日

●「組織が内向きになる人事評価制度」(第5857号)

 今やメディアではGAFAがいろいろなことで話題になってい
ます。直接的にはアマゾンやメタの大量解雇ですが、これからも
ビジネス環境が変わるなかで、GAFAは話題の中心になり続け
ると思います。
 GAFAに加えてM、すなわち、マイクロソフトは特殊なポジ
ションに置かれています。もともとは「GAFMA」と呼ばれ、
しっかりなかに入っていたのです。それから「GAFA」になっ
て完全にMが外され、さらに「GAFA+M」になり、最近では
「GAFAM」とまた一体化したりしています。いわゆるネット
時代において、マイクロソフトの評価が変化しているのです。
 マイクロソフトの現CEOであるサティア・ナデラ氏について
書く前に、前CEOのスティーブ・バルマー氏がどういう人物で
あったかについて知る必要があります。なぜなら、ナデラ氏とバ
ルマー氏とは、ほぼあらゆる面において、正反対の性格の人物で
あるからです。
 スティーブ・バルマー氏は、高校時代にSATの数学で800
点満点を取るという数学の天才です。SATというのは、カレッ
ジボードという団体が主催する標準テストで、大学入学時に参考
にされるテストです。バルマー氏はハーバード大学に入学します
が、そのとき学生寮の同じ部屋の仲間が、後にマイクロソフトを
設立するビル・ゲイツ氏だったのです。
 ビル・ゲイツ氏は、ハーバード大学を中退していますが、バル
マー氏は、ハーバード大学を第2位優等で卒業し、数学と経済学
の学位を取得しています。卒業後、オハイオ州に本拠を持つ世界
最大の一般消費財メーカーP&Gに、アシスタントプロダクトマ
ネージャーとして2年間勤務しますが、ビル・ゲイツ氏に説得さ
れ、1980年にマイクロソフトに事務担当管理職として入社。
マイクロソフトの30人目の従業員になっています。
 バルマー氏は、OSの開発、経営、販売、サポート事業部門長
などで大活躍します。バルマー氏は、技術者肌のビル・ゲイツ氏
に対して、経営のアドバイザー的な役割を果たし、売上高を3倍
にし、利益を2倍へと押し上げ、マイクロソフトを大企業に仕立
て上げた立役者であることは確かです。しかし、携帯端末事業に
おいては、アップルやグーグルの後塵を拝し、明らかにネット時
代に乗り遅れてしまっているのです。それは、マイクロソフトと
いう組織全体が「内向き」になってしまったことが原因であると
考えられます。
 重要なことは、マイクロソフトが、なぜ「内向き」になってし
まったかにあります。そのひとつとして考えられるのはバルマー
CEOが導入した「スタック・ランキング」という人事評価制度
です。これは、マネージャーが社員をいくつかのレベルにランク
付けする評価制度です。
 あるプロジェクトにエンジニアとマーケターの合計10人が参
加したとすると、それは、次の割合で評価されます。
─────────────────────────────
    ◎「スタック・ランキング」
     「最 高」レベル ・・・ 20%/2人
     「中 間」レベル ・・・ 70%/7人
     「不適格」レベル ・・・ 10%/1人
─────────────────────────────
 プロジェクトの結果に関わらず、この評価の割合は変化しない
のです。この場合、誰でも「不適格」にはなりたくないので、何
とか「中間」レベルに入ろうとし、そのためには評価者に対して
おべっかも含めて、あらゆることをしようとします。このような
状況では、とても外部の諸変化に目を向ける余裕はなくなるし、
「内向き」にならざるを得ないことになります。組織の活力も奪
われてしまうでしょう。
 この「スタック・ランキング」について、関連サイトが次のよ
うに書いているので、ご紹介します。
─────────────────────────────
 たとえば同僚の1人が上司にお世辞を言い続けて、それで「最
高」レベルにランクされたとしたらどうだろうか。他の人たちは
その代わりにそれより下のレベルにランクされてしまうし、必ず
誰かが「不適格」にランクされることになるのだ。
 また、プロジェクトが完了し、その成果が現れるまでには数ヶ
月、場合によっては数年かかるにもかかわらず、評価は短期の間
に下される。本来、プロジェクトの目的は、良い製品を世の中に
送り出すことのはずなのだが、この評価制度だと、誰もが、自分
の社内での短期的な評価を高めることを目的に動くようになる。
他人の功績を横取りすることや、優れたアイデアをすべて自分の
発案のように見せかけることが横行する。
 バルマー時代の有名な風刺画が、その状態を見事に表現してい
る。ひたすら効率を重視するアマゾンの組織が単純な階層構造に
なっていたのに対し、マイクロソフトは、互いが互いに銃口を向
け組織内で皆が常に戦っている状態になっていた。スタック・ラ
ンキングは、社内に無数の「ミニチュアのバルマー」を作り出す
仕組みだった。バルマーのように誰もが皆に対して攻撃的な態度
を取り、誰もがマイクロソフトの中の世界だけに目を向けるよう
になる。              https://bit.ly/3EBxb7K
─────────────────────────────
 バルマーCEOにとって、市場での競争は「ジハード/聖戦」
ととらえ、競合企業をただ打ち負かすのではなく、相手の息の根
を止め、地上から消滅させようとする。確かにPCのOSの世界
においては、アップルにわずかのシェアを許したものの、ほぼ独
占といっても過言ではないと思います。
 どうやら、バルマー前CEOは、マイクロソフトの社員にとっ
ては理想のトップではなかったようです。その証拠に、バルマー
氏が退任することが明らかになったとき、マイクロソフトの株価
は一気に7・5%上昇したことでそれは明らかです。
           ──[ウェブ3/メタバース/033]

≪画像および関連情報≫
 ●【電子版】ゲイツ氏との関係、ハードウエア参入で悪化
  ──MSのバルマー前CEO
  ───────────────────────────
   【ブルームバーグ】米マイクロソフトの前最高経営責任者
  (CEO)スティーブ・バルマー氏は、ハードウエア事業参
  入にかじを切った自身の決断がビル・ゲイツ氏との関係が悪
  化した一因になったと振り返った。ゲイツ氏は同社創業者で
  長年の友人でもあったが、バルマー氏が唯一後悔しているの
  は、もっと早くやらなかったことだという。
   14年間にわたりマイクロソフトCEOを務めたバルマー
  氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、もう
  一度全てをやり直せるとしたら、数年早くモバイル機器事業
  に参入しただろうと発言。最終的に参入を決めた当時、ゲイ
  ツ氏や取締役会の他のメンバーは異議を唱えたと明らかにし
  た。ゲイツ氏と「疎遠になった」のは、マイクロソフトが自
  らのハンドセットやタブレットを生産すべきかをめぐる不一
  致が一因だったと指摘。「われわれ2人のどちらにとっても
  容易なことではまったくなかった。会社の戦略的な方向性に
  ついて、意見にわずかな相違」があったと述べた。
   さらに「ハードウエア事業の重要性について根本的な意見
  の相違があった」とし、「私はサーフェスを推した。取締役
  会はその支援にやや消極的だった。そのような時期に電話事
  業で何をすべきかが議論になり、状況が、最高潮に達した」
  と語った。          https://bit.ly/3WYCQM6
  ───────────────────────────
スティーブ・バルマー前MS/CEO.jpg
スティーブ・バルマー前MS/CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月21日

●「ナデラCEOは何をどう変えたか」(第5858号)

 スティーブ・バルマー氏の後を継いでCEOになったサティア
・ナデラ氏は、インド生まれ。父親は公務員で、転勤が多かった
そうです。ナデラ氏の10代の頃の目標は、名門インド工科大学
ヘの入学です。しかし、試験に失敗。父親は失望、落胆したそう
です。マニパル工科大学に入学し、電気工学の学士号を取得しま
す。コンピュータ関連の学科に入りたかったのですが、そういう
学科がこの大学にはなかったからです。
 21歳のときに大学院に入るため、米国に留学します。しかし
入学したのはMITやカルフォルニア工科大学などの有名校では
なく、どちらかというと、地味なウィスコンシン大学ミルウォー
キー校の情報科学学科でしたが、成績は優秀だったといいます。
サン・マイクロシステムズに入社しますが、マイクロソフトから
オファーがあり、1992年にマイクロソフトに転職します。
 月曜日から金曜日、シアトルのマイクロソフトに勤務しながら
金曜日の夜にはシカゴに飛び、シカゴ大学の土曜日のクラスに出
席し、その後マイクロソフトに戻るという生活をし、2年半かけ
てMBAを取得しています。
 マイクロソフトに入社したナデラ氏は、バルマー氏とは正反対
の穏やかな性格ながら、ゆっくりとではあるが着実に業績目標を
達成し、少しずつ出世の階段を上がっていったのです。
 サーバー部門、ビジネスソリューション部門などを経て、20
08年にオンライン・サービス部門の上級副社長、2011年に
はサーバー&ツール部門副社長、2013年には、クラウドやエ
ンタープライズエンジニアリング部門の上級副社長に就任。そし
て2014年、スティーブ・バルマーCEOの後を継いで、3代
目のCEOに就任しています。
 CEOに就任したサティア・ナデラ氏は、マイクロソフトをど
のように改革したのでしょうか。それは、「内向き」になってい
るマイクロソフトを「外向き」に、いい換えると、外に向かって
心を開くことを求めたのです。
 そのためにまずやったことは、最悪の人事制度といわれる「ス
タック・ランキング」を廃止したことです。これによって、マイ
クロソフトの社員は、自分を守るため、自分の周囲に築いていた
壁を少しずつ壊しはじめ、恐る恐る外に目を向けるようになって
いったといいます。
 ナデラCEOは、社員に対して、次の趣旨のことを繰り返し、
説いています。
─────────────────────────────
 自分の言いたいことばかりを言うのではなく、他人の話によく
耳を傾ければ、向こう見ずに前に進むことは防げるだろう。常に
外に向かって心を開いていれば、固定観念を排除できる。そうす
れば、行動の結果は自ずと良くなるはずだ。他人に惜しみなく何
かを与えられる人になれば、周囲から感謝されるようになる。皆
が互いに感謝し合っている環境では新しいものが生まれやすい。
「敵」とみなせる相手に対しても、過剰に攻撃的にならなければ
敵を仲間に変えられる可能性がある。
 なぜこの態度が良いのかは、立場を反転させてみればよくわか
る。いつも話をよく聴いてくれて、長所を最大限活かせるよう手
助けをしてくれ、絶えず周囲から守ってくれる、そういう人がい
たら、共に働きたいとあなたも思うのではないだろうか。
                  https://bit.ly/3gfQN87
─────────────────────────────
 ナデラCEOは、「マイクロソフトは何のために存在するべき
か」について真剣に考えたといいます。そして、そのときナデラ
CEOは、今起きている次の2つの現象に注目したのです。
─────────────────────────────
          @デバイスの多様化
          Aクラウド化の拡大
─────────────────────────────
 マイクロソフトのかつての戦略は「世界中の机と家庭に1台の
コンピューターを」というものです。これは、PCの普及によっ
て実現しています。そしてそのPCのOSのシェアを制すれば、
マイクロソフト製品は黙っていても売れると考えたのです。
 確かにPCのOSのシェアを制すれば、世界中のソフトウェア
企業は、そのOSをベースにしてソフトウェアを開発せざるを得
なくなり、この分野でマイクロソフトに対抗する企業は消滅する
──これは「敵を完膚なきまで叩きのめし、息の根を止める」戦
略です。マイクロソフトはそれをミッションにし、PCの世界で
はこのミッションを実現しています。
 しかし、「今は違う」とナデラCEOは考えたのです。現在は
PCだけでなく、あらゆるデバイスがインターネットに接続され
る時代です。「一家に1台」どころが、当時のコンピュータより
もはるかに高性能なスマートフォンを1人1台保有して使ってい
ます。つまり、「デバイスの多様化」が起きています。
 これに伴い、各企業の情報を自社コンピュータに保存する、い
わゆるオンプレミスではなしに、外部の事業者のクラウドサービ
スを利用する方式に移行する動きが加速しています。その方がは
るかにメリットが大きいからです。それに、あらゆる情報がデジ
タル化されることで、これによって、物理的な制約を気にするこ
となく、情報の保存や活用が自由にできる状態づくりが進んでい
ます。すなわち、すなわち、「クラウド化の拡大」です。
 ナデラCEOは、現代はハードウェアのモバイル化ではなく、
「経験のモバイル化」が進んでいると見ています。つまり、個々
のデバイスに縛られず、いつでも、どこでも、人間が知的体験が
得られる社会づくりが進んでいるというのです。
 このような社会においては、従来のように、競争に打ち勝って
自社製品を売り込み、成長しても、企業として価値が薄いと考え
たのです。それよりも世の中のすべての企業や個人が力を得られ
るサービスを提供することが価値があると考えたわけです。
           ──[ウェブ3/メタバース/034]

≪画像および関連情報≫
 ●「自分たちはなんのために存在しているのか」売上高10兆
  円企業の改革とは?――マイクロソフト再始動(1)
  ───────────────────────────
   新時代に乗り遅れていたとばかり思われていたマイクロソ
  フトが、実は大きく躍進していることをご存じだろうか。日
  本では、まだまだ知られていないが、売上高10兆円、従業
  員12万人の巨大企業が、大きく変貌を遂げているのだ。株
  価は急伸し、先端企業と十分に伍している。何が変わったの
  か。なぜ変わることができたのか。『マイクロソフト/再始
  動する最強企業』(ダイヤモンド社)の著者、上阪徹氏がお
  届けする第1回目。
   マイクロソフトと聞いてどんなイメージを持つだろうか。
   真っ先に思い浮かぶのは、ウインドウズであり、ワードで
  あり、エクセルであり、パワーポイントであり、ビジネスに
  欠かすことのできないソフトウェアを作っている会社、だろ
  う。ITの世界で近年、大きな話題を獲得してきたのは、い
  わゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、ア
  マゾン)。マイクロソフトは、PC時代からスマートフォン
  時代への切り替わりに乗り遅れ、全盛期はとうに過ぎた企業
  というイメージを持つ人も少なくないかもしれない。しかし
  世界では(日本でもITの世界を知る人たちの間では)、そ
  うではないのだ。マイクロソフトは今、大いなる注目企業な
  のである。ところがこの事実は、日本では一般の人に驚くほ
  ど知られない。         https://bit.ly/3Xb3fXn
  ───────────────────────────
マイクロソフトCEO/サティア・ナデラ.jpg
マイクロソフトCEO/サティア・ナデラ/CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月22日

●「ライバルに力を与える戦略/MS」(第5859号)

 サティア・ナデラ氏がCEOに就任したとき、ITの世界では
次の2つのことが起きていたのです。これについては、昨日触れ
ましたが、再現します。
─────────────────────────────
          @デバイスの多様化
          Aクラウド化の拡大
─────────────────────────────
 2007年6月29日、アップルはアイフォーンを発売。名前
は、世界的に大ヒットしたデジタルオーディオプレーヤー「アイ
ポッド」にちなんで付けた名称です。このアイフォーンについて
バルマーCEOは、単に批判するだけでなく、マイクロソフトの
デベロッパーたちを囲い込むことによって、アイフォーンのエコ
システムへの参入を阻止しようとしたのです。それでも、もし、
デベロッパーたちがアップルと組んだら、今後、マイクロソフト
関連の仕事はそのデベロッパーには一切させないようにすると圧
力をかけています。
 ここで「エコシステム」というのは、一つの製品を作るために
多くの企業が協業することが必要ですが、そういう協業のシステ
ムをエコシステムといいます。アイフォーンの場合、内蔵カメラ
やスクリーン、組み立て、アプリ、販売などをそれぞれの企業が
担当しなければなりませんが、そういう協業のシステムを「エコ
システム」と呼んでいます。元来の意味は、生態系を表す用語で
同じ領域で暮らす生物や植物が、お互いに依存しながら生態系を
維持している仕組みのことを指していう言葉です。
 バルマーCEOのやったことは、アップルを敵とみなして攻撃
し、相手の息の根を止めるというマイクロソフトの従来の戦略で
す。ナデラ氏もそのとき、それはそれで正しいと考えていたとい
います。しかし、アイフォーンは、15億台近くが販売され、ア
プリ開発者とアクセサリーメーカーのための巨大ビジネスを生み
出し、われわれの生活を一変させた驚異のマシンです。
 既にそのとき、従来のマイクロソフトの戦略は機能不全に陥っ
ていたといえます。これについて、プレジデント・オンライン誌
は、バルマー時代のマイクロソフトについて、次のように批判し
ています。
─────────────────────────────
 フォーブス誌は「バルマー氏は、今日のアメリカの大手上場企
業の中で最悪のCEOだ」と断じた。同様の評価をしていたのは
フォーブス誌だけではないだろう。彼の攻撃的な自分以外はすべ
て敵とみなすような態度のせいで、マイクロソフトは、スマート
フォン、ソーシャル・メディア、クラウドなどが中心となる時代
に乗り遅れた。彼の任期中に起きた大きな変化にはすべて乗り遅
れたと言ってもいいだろう。もちろん、ITのように変化の速い
業界で企業を経営していれば、失敗はつきものだが、それにして
も失敗が多すぎた。
 問題はただ新しい発想を排除したことだけではない。バルマー
は元来、極めて知的能力の高い人だ。ビル・ゲイツと同じくハー
バード大学出身で特に数学には秀でた才能を発揮した。また、大
変な読書家でもある。平静な時には、すぐに怒りを露わにする自
分を恥じることもあった。強い気持ちがつい表に出てしまうこと
があるのだと自己弁護をしてはいたが・・・。
 だが、本人がいくらあとで悔やもうと、招いた結果が変わるこ
とはない。バルマーがCEOを退任すると発表した日、マイクロ
ソフトの株価は、一気に7・5パーセントも上昇した。
                  https://bit.ly/3At9XxS
─────────────────────────────
 このバルマーCEOの失敗からナデラCEOは多くのことを学
んでいます。現代はデバイスが多様化しています。いいかえると
「PCからスマートフォンへ」という流れができているのです。
以前はスマホを使う人はPCを持っていたのですが、今ではスマ
ホだけしか持っていない人も増えています。
 この流れが読めていれば、マイクロソフトは、ハードウェアに
は手を出さず、ソフトウェアで勝負すべきであったといえます。
もともとPCのOSで90%以上のシェアを持つマイクロソフト
ですから、マイクロソフトと組めば、その企業は多くのメリット
が得られるはずです。
 創業者のビル・ゲイツ氏は、「マイクロソフトはソフトウェア
の企業である。ハードウェアに手を出すべきでない」というスタ
ンスです。それにもかかわらず、バルマーCEOは、タブレット
としても使えるノートPCの「サーフェス」の開発を行っていま
す。この件で、バルマーCEOは、ビル・ゲイツ氏と意見の対立
があり、不仲になったともいわれています。
 ナデラCEOは、マイクロソフトのソフトウェアを生かすこと
によって、「ライバルに力を与える」戦略に打って出ることを決
め、自らシリコンバレーを訪れ、競合他社のエンジニアたちと会
い、次々と提携を結んでいったのです。とくに長年のライバルで
あるアップルとの提携は注目されます。
 アイフォーンよりも良いハードウェアを作るという従来の戦略
を止め、アイフォーン向けのアプリを作り、アイフォーンでマイ
クロソフト製品を多く使ってもらう戦略に切り換えたのです。こ
れは営業戦略の大転換です。アップルのマックPCやアイパッド
でもマイクロソフトのソフトウェアが使えるようにするだけでな
く、ウインドウズをゲーム機のOSにも、IоTのOSとしても
使えるようにしたのです。
 このことは、マイクロソフトを潤すだけでなく、ライバルにも
力を与えることになります。マイクロソフトはPCのOSで90
%以上のシェアを持つ世界最大のソフトウェア会社であり、他の
企業とのコラボレーションは、相手企業にも多くのメリットを与
えることになるからです。これは、従来のマイクロソフトでは、
考えられないほどの戦略転換であるといえます。
           ──[ウェブ3/メタバース/035]

≪画像および関連情報≫
 ●インド頭脳に未来を託す――マイクロソフトなどグローバル
  企業のトップ人事
  ───────────────────────────
   米国のマイクロソフトが2月初め、新しいCEO(最高経
  営責任者)としてインド生まれのサトヤ・ナデラ(46)を
  抜擢した。グローバル企業の間で、インド系の経営者をトッ
  プに起用する人事が増えており、「CEOはインド最大の輸
  出品」(タイム誌)とも言われている。その半面、インド本
  国の経済が伸び悩んでいることから、人材の国外流出に懸念
  も出ている。
   上級副社長からCEOに昇格したナデラは、今ではIT企
  業がひしめくインド南部のハイテク都市、ハイデラバードに
  生まれた。幼いころは腕白なクリケット好きの少年だった。
  父は上級国家公務員で、マンモハン・シン首相のもとで政府
  の計画委員会の幹部として働いていた。その家庭でエリート
  教育を受け、大学で電子工学を専攻したが、コンピューター
  工学を学ぶ環境は不十分だったため、1980年代後半に米
  国に渡った。「技術で世界を変えたい」という情熱に駆り立
  てられた。
   ウィンスコンシン大学で学んだ後、最初に入社したのは、
  当時、汎用コンピューターから小型化する「ダウンサイジン
  グ」の波に乗っていたサンマイクロシステムだ。同社の創業
  メンバーでインド生まれのIT技術者、ヴィノッド・コスラ
  の存在が若いナデラの事業欲に強い影響を与えた。ナデラは
  1992年にマイクロソフトに転じた。西海岸のシアトルに
  ある本社に勤めながら、休暇をやりくりしてシカゴ大学でM
  BA学位を取得し、技術系経営者の道をひた走った。
                 https://bit.ly/3ErH9Ht
  ───────────────────────────
サーフェス・スタディオ2+.jpg
サーフェス・スタディオ2+
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月24日

●「ナデラCEOによるクラウド戦略」(第5860号)

 このところ、GAFAとマイクロソフトのことを取り上げてい
ますが、このいわゆるGAFAMが、メタバースを推進し、拡大
し、支える企業の中核になると考えているからです。マイクロソ
フトのクラウド事業についても述べる必要があります。
 2022年11月22日付の日本経済新聞にクラウド関連の次
の記事が出ています。
─────────────────────────────
◎米テック、クラウドで競争/普及は「初期から中期」
 米マイクロソフトサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)
は日本経済新聞の単独インタビューに応じ、テクノロジー企業の
競争軸はクラウドになるとの見方を示した。世界経済の減速懸念
が強まるなかでインターネット広告やネット通販は「頭打ちして
いる」と他社との違いを強調。すでに売上高の過半となったクラ
ウド事業の「成長余力は大きい」として、人工知能(AI)へ積
極投資し連携を進める考えを示した。
        ──2022年11月22日付、日本経済新聞
               https://s.nikkei.com/3XmCq2j
─────────────────────────────
 マイクロソフトのナデラCEOは、上記の記事では、「我々は
GAFAとは違う」と胸を張っていますが、マイクロソフトのク
ラウドへの進出は大きく遅れたのです。
 スティーブ・バルマー氏がマイクロソフトのCEOに就任した
のは2000年1月、アマゾンがクラウドサービス「AWS(ア
マゾン・ウェブ・サービス」をリリースしたのは2004年のこ
とです。しかし、マイクロソフトがクラウドサービス「ウィンド
ウズ・アジュール」をスタートさせたのは2010年であり、ア
マゾンと6年の開きがあります。
 なぜ、マイクロソフトは6年も遅れたのでしょうか。当時のマ
イクロソフトは、どちらかというと、クラウドビジネスに消極的
であったからです。
 その理由はマイクロソフトのビジネスモデルにあります。マイ
クロソフトの当時の収益の柱は、PCにOSとしてインストール
されるウィンドウズのライセンス料と、1本当たり数万円といわ
れるパッケージソフト「オフィス」の売り上げがメインです。ウ
ィンドウズPCは世界中で使われているので、とんでもない売上
高になります。しかも、OSのウィンドウズも、パッケージソフ
トの「オフィス」もバージョンがあり、バージョンアップのたび
ごとに料金がとれる。こんなよい商売はないのです。
 クラウドビジネスといっても多岐にわたりますが、マイクロソ
フトがクラウドサービスを始めるとなると、「オフィス」のクラ
ウドサービスから始めることになります。そうなると、これまで
ドル箱である主力の最強パッケージソフトの存在意義が失われる
ことになり、マイクロソフトとしてはなかなか決断できなかった
ものと思われます。
 しかし、スマートフォンがPCに取って代わるようになるにつ
れ、クラウドの重要性はますます高まってきたのです。スマート
フォンで動くアプリのほとんどがクラウド上で動くサービスだっ
たからです。それに何よりも顧客にとってクラウドサービスは、
大きなメリットがあるのです。
 マイクロソフトは、2011年6月に「オフィス365」を発
売しています。これを個人で使うと、買い切り型と比較すると、
次のメリットがあります。バージョンごとに「オフィス」を買う
よりもはるかにメリットがあります。
─────────────────────────────
   @費用は使った分だけ支払うサブスクリプション型
   Aつねに最新バージョンのソフトウェアが使用可能
   Bデータの収録にはオンラインストレージが使える
─────────────────────────────
 しかし、先行したAWSは、マイクロソフトがクラウドへの移
行を逡巡している間にそうそうたる顧客を獲得しています。ゼネ
ラル・エレクトリック(GE)、マクドナルド、ネットメディア
のバスフィード、民泊のエアビーアンドピー、それに、ネットフ
リックスまで名を連ねています。
 日本でも、日立製作所、キャノン、キリンビール、ファースト
リテイリング、三菱UFJ銀行など、業種に関係なく、続々と、
AWSを導入しています。
 決定的といえるのが、米中央情報局(CIA)がAWSの顧客
に加わったことです。2013年に6億ドルで契約を締結してい
ます。政府機関の仕事は、IBMのような昔からの大企業が独占
的に受注してきただけに、IBMとしては大ショックです。IB
Mも提案書を政府に提出し、政府に対して再度検討するよう求め
ましたが、米連邦裁判所は、これに対して次のコメントを出し、
IBMの提案を退けています。
─────────────────────────────
 AWSのオファーの方がIBMよりも技術的に優れており、競
合の結果は、接戦と言いがたいほどかけ離れている。
                     ──米連邦裁判所
─────────────────────────────
 しかし、2014年にナデラCEOが就任すると、それまでの
PCのOSのウィンドウズの企業から、クラウドを中核とする企
業への変革を行っています。それを意識してか、「ウィンドウズ
・アジュール」を「マイクロソフト・アジュール」に、「オフィ
ス365」を「マイクロソフト365」というように、名称を変
更しています。
 ところで「365」とは何を意味しているのでしょうか。これ
は1年の日数であることは確かですが、マイクロソフトがどのよ
うな思いでこの数字を使ったまではわかっていません。「365
日休まず働ける社畜専用サービス」と揶揄する向きもありますが
本当のところはどうなのでしょうか。
           ──[ウェブ3/メタバース/036]

≪画像および関連情報≫
 ●アマゾン/AWSとはとは?
  ───────────────────────────
   「AWS」とは、アマゾンが提供するクラウドサービスの
  総称です。そもそもはアマゾンのインフラを支えるために作
  られたものですが、他社にも提供しようと2006年7月に
  公開されました。利用しているのは、「インターネット上で
  何らかのサービスを提供したい」、「インターネット上にデ
  ータを保存しておきたい」と考える企業や個人です。
   AWSの基本サービスは、レンタルサーバー、データベー
  ス、ストレージを利用したデータ保存、画像認識などです。
  サービスの種類は大きく分けて100以上、細分化すると、
  700以上もあり、今現在も増え続けているそうです!
   種類が多くて便利な反面、多過ぎて全体像が見えにくく、
  具体的にどんなことができるのかがわかりにくいという一面
  もあります。
   そもそも「パブリッククラウド」とは、企業や個人など不
  特定のユーザーに、サーバーやストレージ、データベース、
  ソフトウェアといったクラウドコンピューティング環境をイ
  ンターネットを通じて提供するサービスのことです。AWS
  のほかにも、Google Cloud Platform、IBM Cloud、Alibaba
  Cloudといったパブリッククラウドがあります。
   総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、企業に
  おけるクラウドサービス利用状況は56・9%で、2016
  年から大幅に増加しています。そのうちの85・2%がサー
  ビスの効果を実感しているといいます。
                  https://bit.ly/3ViP5S0
  ───────────────────────────
マイクロソフト・アジュール.jpg
マイクロソフト・アジュール
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月25日

●「iPadでオフィスアプリが動く」(第5861号)

 マイクロソフトのナデラCEOは、スティーブ・バルマー前C
EOまでのマイクロソフトの戦略である競合相手を「敵」とみな
して打ち負かし、息の根を止める戦略を転換し、逆に「ライバル
に力を与える」戦略にチェンジしています。
 その最大の目玉がアップルとの提携であるといえます。PCの
世界において、2021年現在、ウィンドウズは、81・8%の
シェアを確保しており、iOSは7・9%となっています。かつ
てはウィンドウズのシェアは90%に達し、完全にPCのOSを
制覇していたのです。まさに他社の息の根を止めています。
 元来日本はマックファンが多く、世界に比べると、日本のマッ
クPCのシェアは大きいのです。とくにデザイン関係の仕事をす
る人の多くは、昔からマックを使っています。日頃ウィンドウズ
PCを使っている人のなかにも、マックに乗り換えようかという
思いに駆られる人も少なくないはずですが、まったく互換性がな
いので、これまではあきらめる人も多かったと思います。
 マイクロソフト対アップル──これはかつてビデオの世界での
VHSとソニーのベータマックスとの規格の違いによく似ている
と思います。もっとも「VHS対ベータ」といっても、最近の若
い人には何のことかきっとわからない人が多いと思いますが。
 ところが今やデバイスが多様化しています。デスクトップPC
やノートPCの他に、タブレット、スマートフォンなど、PCの
と類似性の高いデバイスが多くなっています。
 ちなみに、日本における2022年6月現在のOSのシェアを
示すと次のようになっています。このパーセンテージは、PCと
モバイルを合わせたシェアです。
─────────────────────────────
       ウィンドウズ ・・ 42.39%
          iOS ・・ 26.33%
       アンドロイド ・・ 14.10%
           不明 ・・  9.17%
          OSX ・・  6.97%
        リナックス ・・  0.47%
          その他 ・・  O.57%
─────────────────────────────
 ナデラCEOの戦略転換により、アップルデバイス上で、ワー
ド、エクセル、パワーポイントなどの「オフィス」のソフトウェ
アが動作するようになっています。ここでいうアップルデバイス
とは、マックPC、アイフォーン、iPadなどです。アップル
以外ですが、アンドロイド・スマホでも利用できます。もっとも
アイフォーンのような小さなディスプレーでは使いにくいでしょ
うが、iPadで動くとなると、これはいろいろなことに活用で
きます。
 これは「マイクロソフト386」で実現しています。当初「オ
フィス365」といっていたのですが、2020年4月22日に
「チームズ/Teams」 (リモートワーク・コラボレーション・ツ
ール)など、いくつかの機能を追加し、名称を「マイクロソフト
365」に変更したのです。その使い勝手については、まだ問題
はあるものの、1カ月間、無料で試すことができます。
 ところで、iPadというマシンの位置づけについて考えてみ
ることにします。アイフォーンとiPadの発売時期を以下に示
すると、意外に接近しています。
─────────────────────────────
      iPhone ・・・・・ 2008年4月
       iPad ・・・・・ 2010年4月
─────────────────────────────
 現在、世界を席巻しているアイフォーンとiPadは、当時の
アップルCEO、スティーブ・ジョブズの主導のもと、開発され
たものです。これらは、2つバラバラに開発されたのではなく、
2つセットで開発されています。ジョブズCEOは、PCには、
次の2つのタイプが必要になると考えたのです。
─────────────────────────────
         @データを「作る」PC
         Aデータを「見る」PC
─────────────────────────────
 PCというのは、元来データを「作る」コンピュータです。エ
クセルで表計算をするのも、ワードで文章で作成するのも、パワ
ーポイントでスライドを作成するのもデータを作っています。使
えば使うほど、データがストックされていきます。したがって、
何らかの仕事に使うコンピュータであり、仕事に使うコンピュー
タであるといえます。
 PCを使う場合、その姿勢は椅子に座って、ディスプレイに向
かい、前かがみの姿勢を取ります。そうしないと、キーボードも
マウスも操作しにくいからです。この姿勢のことを「リーンフォ
ワード」といいます。
 ジョブズCEOは、やがて映像やデータを「見る」コンピュー
タが必要になると考えたのです。そのコンピュータでは、テレビ
やユーチューブなどの映像を見たり、映画を見たり、電子ブック
や新聞の電子版を読んだりできます。これらは、もちろんPCで
も見ることができますが、前かがみのリーンフォワードではいさ
さか窮屈です。やはり、背中をソファにつけた姿勢の方がラクで
あるし、その方が楽しめます。この背中をソファにつけた姿勢の
ことを「リーンバック」といいます。
 これについては、添付ファイルをご覧ください。ジョブズCE
Oは、iPadを紹介するイベントで、舞台にソファを持ち込み
このことをファンに伝えています。このように、アイフォーンと
iPadは、発売時期が重なっていますが、それは、「作る」コ
ンピュータのPCに加えて、「見る」コンピュータのアイフォー
ンとiPadを少しでも同時に発表したかったからなのです。実
際に現代では、アイフォーンとiPadはそのように使われてい
ます。        ──[ウェブ3/メタバース/037]

≪画像および関連情報≫
 ●無料で使える?iPadでMicrosoftのOfficeを賢く使いこ
  なす方法
  ───────────────────────────
   2020年9月15日、iPadシリーズに、フルモデル
  チェンジしたiPadエア(第4世代)が発表されました。
  年々性能が進化して、どのモデルもノートPCと肩を並べる
  性能となっているiPadシリーズ。外出先での仕事や、学
  校の授業でオフィスを利用してより便利に使いたいという方
  も多いことでしょう。今回はiPadシリーズで、マイクロ
  ソフトオフィスを使いこなす方法を紹介します。
   マイクロソフト365のの料金体系は、「家庭向け」と、
  「一般法人向け」に大別されます。家庭向けサブスクリプシ
  ョンサービスの「マイクロソフト365パーソナル」は、ウ
  ィンドウズ、マック、iPadといったタブレットやスマー
  トフォンなど、同一ユーザーが使用するデバイスに5台まで
  同時にサインインできて、料金は年間1万2984円(税込
  み)。月額1284円(税込み)の月払い形式も選択可能で
  す。一般法人向けのサービスは、基本は年間契約。1ユーザ
  ーあたりの価格が設定されていて、一番リーズナブルな「マ
  イクロソフト・ビジネス・ベーシック」は、1ユーザーにつ
  き月額540円(税抜)。そのほか、複数のプランが用意さ
  れています。     https://bit.ly/3U1w6KR
  ───────────────────────────
リーンフォワードとリーンバック.jpg
リーンフォワードとリーンバック
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月28日

●「なぜGAFAMについて知るのか」(第5862号)

 「Web3/メタバース」のタイトルを掲げて、10月3日か
ら書いてきましたが、前回までで37回になります。しかし、こ
こまで書いたことは、GAFAMの話が中心であり、テーマに関
することはほとんど書いていません。それは、現在のインターネ
ットであるWeb2がどういうものであるかについて知る必要が
あるからです。
 GAFAMについての記述が多くなったのは、GAFAMが、
Web2の支配者であるからです。Web3は、そのアンチテー
ゼとして登場してきたものです。
 今回のテーマに関する参考書は、すべて購入し、読み込みまし
たが、非常に難解です。このテーマに関する本には、次の2種類
があります。
─────────────────────────────
       @Web3からの解明を試みる本
       Aメタバースから説明を試みる本
─────────────────────────────
 「メタバース」が何であるか手っ取り早く知りたければ、Aと
いうことになりますが、そうすると、Web3の理解が曖昧にな
ります。そうではなく、Web3から説明しようとすれば、イン
ターネットの歴史を振り返り、とくに現代のインターネットであ
るWeb2についての詳しい説明が必要になります。EJでは熟
慮の結果、@から入ることにしました。したがって、GAFAM
の話が長くなったのです。
 『日経ビジネス』/2022年11月28日号の特集に次の記
事が掲載されています。私は、『日経ビジネス』を雑誌とオンラ
インの両方で契約していますが、Web3の記事が特集として掲
載されたのは今回が初めてです。
─────────────────────────────
   ◎Web3の正体/始まった「デジタル独立運動」
            ──2022年11月28日号
─────────────────────────────
 この『日経ビジネス』の特集の「PART4」にジュリアン・
ポール・アサンジ氏に対する次のような話が出ているので、紹介
することにします。
 2007年7月12日のことです。イラクの首都バクダットに
展開していた米軍の歩兵部隊が敵対勢力からロケットランチャー
によって、攻撃を受けたのです。ロケットランチャーとは、個人
が携帯し、肩に担ぐなどして使用する小火器です。援護を要請さ
れた米軍の攻撃ヘリコプター「アパッチ」は間もなく現場に飛来
し、ロケットランチャーを持つ一団に攻撃ヘリから攻撃を加えて
います。
 しかし、この一団はロイター通信の記者たちで、記者が手にし
ていたのは、望遠レンズ付きのカメラだったのです。それと気が
付かずに攻撃したので、これにより、記者を含む多数の民間人を
殺害してしまったのです。しかし、この事件は、軍事機密として
明らかにされることはなかったのです。
 しかし、それから15年後、この事実は、ジュリアン・アサン
ジ氏の創設による内部告白サイト「ウィキリークス」によって暴
露されてしまいます。米司法省は、多数の国家機密を暴露した罪
で、アサンジ氏を起訴しましたが、アサンジ氏は現在、別の罪で
英国のロンドンの刑務所に収監されています。
 このアサンジ氏の異母弟に当たるガブリエル・シプトン氏は、
何とか「兄ジュリアンの自由を求めて世界最強の軍事力を持つ米
国と戦う」としていますが、そのために手にする武器は、Web
3の中核技術であるブロックチェーンです。これより先について
は、『日経ビジネス』の記事を紹介します。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンは、ネットワークに参加する全員のコンピュ
ーターでデータを管理する、全く新しい発想のデータべ−ス技術
である。国家権力に屈しづらいとされる。権力者が圧力をかけよ
うにも、その相手が広く分散していて曖昧になっているからだ。
ブロックチェーンを土台に開発された「暗号資産(仮想通貨)」
の取引を、国家が阻止するなどといったことは困難だ。
 シプトン氏をはじめとするアサンジ氏の支援者は、訴訟費用を
賄うために22年2月、仮想通貨での募金活動に乗り出し、瞬く
間に5200万ドル(約73億円)相当を集めた。シプトン氏は
「米国政府であろうと、仮想通貨には手出しできないことが改め
て裏付けられた」と強調する。
 「仮想通貨が持つ国家権力への強い耐性を最初に証明したのが
ウィキリークスだった」とシプトン氏は指摘する。ウィキリーク
スは10年に米国政府の外交機密を大量に公開した。その直後か
ら、金融機関や決済機関が一斉に取引を中止したり、口座を凍結
したりして、ウィキリークスの運営資金を支えていた募金活動を
阻止した。米国政府の圧力が背景にあったと考えるのが自然だろ
う。    ──『日経ビジネス』/2022年11月28日号
─────────────────────────────
 もし、ガブリエル・シプトン氏がウィキリークスの運営資金を
ネットによるクラウドファンディングなどで集めようとしたら、
米国政府からの何らかの圧力で、失敗していたはずです。仮想通
貨建て──おそらくビットコインで募金活動をしたので、それに
反対する勢力がどうすることもできなかったといえます。ビット
コインは、ブロックチェーン技術を使っているからです。
 アサンジ氏に続く大物の告発者として、エドワード・スノーデ
ン氏がいます。スノーデン氏は、NASAの元職員で、NASA
が米大手IT各社の協力を得て、世界規模で人々を監視している
事実を暴露しています。スノーデン氏は現在ロシアにいるとされ
ていますが、Web3を信奉するスタートアップ企業家たちは、
何らかの手段で、スノーデン氏を支援しようとしているとされて
います。このようにWeb2は個人情報を守れないのです。
           ──[ウェブ3/メタバース/038]

≪画像および関連情報≫
 ●Web2.0のサービスが新たなセキュリティリスクに
  ───────────────────────────
   シマンテックは2006年11月6日、インターネット上
  に見られる脅威の動向に関する記者説明会を開催。同社で不
  正プログラムの解析などを担当する「セキュリティ・レスポ
  ンス」のメンバーが2006年に見られた脅威の傾向や、2
  007年にかけての見通しを語った。セキュリティ・レスポ
  ンス・オペレーションディレクターであるケビン・ホーガン
  氏(写真)によると、最近の傾向の一つとして、インターネ
  ット・エクスプローラやファイアフォックス、マイクロソフ
  トやジャストシステムのオフィスソフトといった、アプリケ
  ーションのぜい弱性を悪用する攻撃が増えている点が挙げら
  れるという。これは手法としては以前から見られたものだ。
  修正プログラムがリリースされるなどしてOSのぜい弱性が
  以前より発見しにくくなったり、見つけても悪用するために
  さまざまな条件が伴ったりするようになってきた。そのため
  手間を惜しんだ不正プログラム作成者がアプリケーションの
  ぜい弱性に目を向けているのではないかという。「半自動的
  にアプリケーションのぜい弱性を探すツールもあり、OSの
  ぜい弱性よりも探しやすい」(同氏)。感染経路としては、ユ
  ーザーにファイルやリンクをクリックさせて不正プログラム
  をダウンロードさせるというタイプが多い。例えば興味をか
  き立てるような内容のメールを送信し、メール上に貼り付け
  られたURLをクリックすると感染するといったものだ。
                 https://bit.ly/3U9KcK3
  ───────────────────────────
『日経ビジネス』/2022年11月28日号.jpg
『日経ビジネス』/2022年11月28日号
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月29日

●「メタバース/遅れてはならぬ日本」(第5863号)

 2022年11月27日付、日本経済新聞にメタバース関連の
特許数の国際比較が報道されています。記事の一部とランキング
を以下に示します。
─────────────────────────────
◎メタバース韓中勢台頭
 メタバース(仮想空間)端末の開発で韓国と中国の企業が存在
感を高めている。関連特許の件数を調べるとLG電子など韓国勢
が首位と2位になり中国勢も4位につけた。同端末は、スマート
フォンの次の有力な電子機器になるとみられ、2026年の世界
市場は10兆円規模まで拡大する見込み。日本勢が出遅れる一方
巨大市場での主導権獲得に向けて韓中勢が布石を打ちつつある。
◎特許数ランキング
 1位:LG電子(韓国)
 2位:サムスン電子(韓国)
 3位:メタ(米国)
 4位:ファーウェイ(中国)
 5位:マイクロソフト(米国)
 6位:ソニーグループ(日本)
 7位:クアルコム(米国)
 8位:マジックリーブ(米国)
 9位:インテル(米国)
10位:アップル(米国)
        ──2022年11月27日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 上位20社の特許数の合計は7760件ですが、企業の国籍別
では米国が57%、韓国は19%、中国は12%、日本は8%で
す。それにしても韓国は1位と2位を占め、勢いがあります。こ
れは、半導体メモリのDRAMの製造においても、韓国は同様に
第1位と第2位を独占(1位:サムソン電子/2位:SKハイニ
ックス)しています。かつてこの分野では日本が独占していたも
のですが、現在この分野には日本の影もありません。現在の日本
には勢いがないのです。それだけに、Web3において、日本は
絶対に乗り遅れてはならないのです。
 国光宏尚氏という人がいます。スターアップ企業サードバース
の代表者です。サードバースは「10億人が生活する新しい仮想
世界の創造」をビジョンに設立されたスタートアップ企業です。
この国光宏尚氏のメタバース関連の著作の『メタバースとWeb
3』(MDN)は、2022年4月に発売され、私が購入した7
月には6刷を発行しています。よく売れているのです。
 国光氏によると、Web2の入り口は2007年であるとして
います。2007年にはアイフォーンが登場しています。この時
期に重大なパラダイムシフトが起きているのです。
 この時期に日本の国内では、NTTドコモの「iモード」が全
盛時代だったのです。iモードは1999年に登場し、携帯電話
からでもメールが発信できるということで、申し込みが殺到し、
iモードブームが起きています。この頃の日本の携帯電話──後
に「ガラケー」と呼ばれるようになりますが──カメラが付いた
り、カラーディスプレイになるなど、当時、世界をリードしてい
たといっても過言はないといえます。
 2004年にはミクシー、2005年にはグリーが登場し、S
NSも盛んだったのです。ツイッターやフェイスブックが登場す
るのは、それから5年後の2010年のことです。日本にも十分
チャンスがあったはずですが、日本はチャンスを逃しています。
 国光宏尚氏は、これについて、上記の書籍で次のように述べて
います。とても示唆に富む意味のある予言的な内容です。なお、
国光氏の言葉には専門語が多く、難解なので、括弧内に説明を加
えています。
─────────────────────────────
 大きなチャンスは、新しいパラダイムシフトの入り口にこそあ
ります。スマホ、ソーシャル、クラウドの2007年に始まった
Web2.0 の大波、ただおいしいところは最初の頃に始めたプ
レイヤーがとっていき、パラダイムが成熟化してきた今はニッチ
な領域しか残っていない状況になりました。最近の日本のスター
トアップだと、C(コンシューマー)向けのサービスはニッチな
スマホアプリか、インフルエンサー系、D2C(製造者がダイレ
クトに消費者と取り引きをする)ばかり、B(ビジネス)向けも
ニッチなパーティカルSaaSだけになってきて、業界全体に閉
塞感が生まれていました。
 ここに生まれてきたのが新しいパラダイムWeb3.0 (国光
流定義)です。デバイスは、スマホからVR(仮想現実)、AR
(拡張現実)、MR(複合現実)になっていき、データはソーシ
ャルからブロックチェーンへ、データの活用方法はクラウドから
AIへ。この次の10年間のパラダイムは]R(メタバース)、
ブロックチェーン(Web3)、AIへと変わっていきます。
      ──国光宏尚著『メタバースとWeb3』/MDN
─────────────────────────────
 文中の「SaaS」とは、「Software as a Service」 の略で
提供者であるサーバー側で稼働するソフトウェアを利用者である
クライアント側がネットに接続しているPCからソフトウェアを
必要な機能や分量のみを選択して利用できる提供形態のことをい
うのです。
 GAFAMといいますが、Fのフェイスブックは既に「メタ」
に社名を変更しています。そういう意味からも、GAFAMとい
う言葉はやがて消えていくはずです。
 問題は、フェイスブックのCEOのマーク・ザッカーバーク氏
は、なぜ、フェイスブックの社名を「メタ」に変更したかです。
数ある不祥事によるフェイスブックのリブランディングという説
もありますが、本当のところは、ザッカーバークCEOは、アッ
プルを見返したかったのではないかと思われます。
           ──[ウェブ3/メタバース/039]

≪画像および関連情報≫
 ●Facebook、崖っぷちの社名変更 「メタバース」も難路
  ───────────────────────────
  【シリコンバレー=奥平和行】米フェイスブックの創業以来
  の事業転換に打って出る。社名を「メタ」に変更し、軸足を
  SNS(交流サイト)から「メタバース」と呼ぶ仮想空間の
  構築や関連サービスに移す。ただ、収益化への道のりは遠く
  足元では企業体質や管理体制への批判が高まり崖っぷちだ。
  計画が思惑通り進むかは予断を許さない。
   「フェイスブックはSNSの代名詞となったが、当社の幅
  広い事業を代表しなくなり将来はさらに難しくなる」。20
  21年10月28日に開いた開発者会議でマーク・ザッカー
  バーグ最高経営責任者(CEO)は説明した。新社名のメタ
  は「先に」を意味するギリシャ語が語源で、事業の柱とした
  いメタバースからとった。
   2004年の設立から使用してきた社名を変える直接の理
  由は仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などの技術を活用
  して仮想空間で遊んだり交流したりできるメタバースの構築
  を優先するためだ。「本格的な普及は5〜10年後」(ザッ
  カーバーグ氏)だが、2021年だけで約100億ドル(約
  1兆1000億円)を投じる。背景には同社が世界で36億
  人近い利用者を抱える一方、事業基盤を他社に依存している
  弱みがある。直近では米アップルがスマートフォンでプライ
  バシー保護策を強めたことで、主力の広告事業が直撃を受け
  た。ザッカーバーグ氏は28日もアップルのアプリ配信サー
  ビスなどを念頭に「選択肢の乏しさと高い手数料が技術革新
  を阻害している」と主張した。
              https://s.nikkei.com/3AQ7xJU
  ───────────────────────────
国光宏尚氏.jpg
国光宏尚氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月30日

●「アップルとFBに根深い確執あり」(第5864号)

 「メタバース」──今やITのことに関心のない人でも、この
言葉を知らない人がないほど、その認知度は上がっています。こ
のような現象のことを「バズる」と呼んでいますが、これは英語
の「Buzz」からきており、動詞で「がやがや言う・噂になる」と
いう意味になります。
 その原因をつくったのは、間違いなくマーク・ザッカーバーク
氏──現「メタ」(旧フェイスブック)のCEOです。社名変更
は、2021年10月28日に行われています。さらに2022
年1月、かねてから発行を予告していた同社の仮想通貨「ディエ
ム」(前名称リブラ)の発行の断念も発表されています。問題は
なぜ社名を変更したかです。
 2018年以降、フェイスブックは数々の問題を引き起こして
います。約8700万人に及ぶユーザー情報流出問題、プライバ
シーの扱いなどに関する姿勢が問題視された問題などで、ザッカ
ーバークCEOは、これらの件で、2018年4月10日と11
日の両日、米連邦議会上院司法委員会と、米連邦政府下院エネル
ギーおよび商業対策委員会の公聴会に呼び出され、数時間に及ぶ
議員からの質問攻めにあっています。
 こういう状況ではあったものの、ザッカーバークCEOが一番
頭を悩ましていたものは、アップルが2021年春から実施して
いるプライバシー保護を強化するポリシー改訂です。具体的には
オンラインのターゲティング(追跡型)広告をやめるというポリ
シーです。これは、売り上げの98.5 %が広告収入であるフェ
イスブックにとっては、大ショックです。
 Web2.0 の勝者はGAFAMとよくいわれますが、真の勝
者は、アップルとグーグルです。とくに、ハード、OS、ストア
のすべてを握っているのはアップルです。フェイスブックは、そ
のアップルやグーグルの手の平の上で何とか生き残っているみじ
めな存在──ザッカーバークCEOは、フェイスブックをそのよ
うに捉えていたのです。
 アップルのティム・クックCEOは、このところ、いろいろな
ところで、フェイスブックの個人情報の扱いについて、批判を強
めています。いくつかのサイトから、2人の発言の一部をまとめ
て編集すると、次のようになります。
─────────────────────────────
◎ティム・クックCEOのフェイスブック批判
・フェイスブックなどの企業は、複数のソースからかき集めてき
 たデータを使った詳細な個人プロファイルを作っているが、こ
 のように個人データを取り扱うことは抑制されるべきである。
・個人的に規制を行うことは好きではないが、ベストな規制とは
 「規制がないこと」であり、「自己規制」である。しかし、も
 うすでにその段階は超えている気がする。何らかの歯止めが講
 じられる必要がある。
・アップルは、ユーザーではなくハードウェアを売ってビジネス
 を回すという方針が示されている。実際のところもしアップル
 がユーザーをマネタイズしたら莫大なお金が舞い込んでくる。
 しかし、アップルはそうはしないことを選んでいる。
・(あなたがザッカーバークCEOだったらと尋ねられて)私は
 ああいう状況にはならない。    https://bit.ly/3VbdwkF
・われわれは個人情報を取り引きするようなことはしない。われ
 われにとってプライバシーは人権。市民の自由である。
・無料のオンラインサービスにおいて、利用者は顧客ではない。
 利用者は製品である。       https://bit.ly/3F6ZV8p
◎マーク・ザッカーバークCEOの反論
・(フェイスブックがユーザーの収益化から得られる利益を優先
 しているとの指摘に)真実とはまったく一致していない。現実
 には、世界中のすべての人をつなぐのに役立つサービスを構築
 したい場合、支払う余裕がない人がたくさんいる。
               https://nbcnews.to/2pZxAJn
・(プライバシーは人権、市民の自由という主張に対して)もし
 も、金持ちだけに限定されないサービスを作りたいなら、人々
 が恩恵を受けやすいようにしないといけない。誰もがストック
 ホルム症候群(誘拐・監禁の犯人と長時間をともに過ごすこと
 で、犯人に好意や共感を覚えてしまう症状)にかかって、より
 多額の金額を払わせようとする会社に利用者を大切にしている
 と納得させられないことが大事である。馬鹿げたことだと思う
 から。              https://bit.ly/3AOanPy
─────────────────────────────
 ああいえばこういうの議論のようですが、とにかくこの2人、
仲が良くないのです。アップルのクックCEOによる一連のフェ
イスブック批判に対して、ザッカーバークCEOは、それまで社
員に無料でアイフォーンを使わせていたのですが、クック氏の批
判がよほど悔しかったのか、アイフォーンをすべてをアンドロイ
ドに変更したそうです。
 これに関して、昨日のEJでご紹介したサードバース社CEO
の国光宏尚氏は、マーク・ザッカーバークCEOの本音について
次のように述べています。
─────────────────────────────
 だからこそ、次の戦いでは「自分で自分の運命をコントロール
できるプラットフォームを作る」との強い意思で、VRには20
14年から累計数兆円もの資金を投じてきました。
 そして、いよいよ1000万台を超えて、完全にアップルから
独立した自分の城(プラットフォーム)が見えてきた。だから、
もうザッカーバーグ自身はアップルの奴隷に過ぎなかったフェイ
スブックアプリ群には興味がないはずです(笑)。「ここからい
よいよ俺が一国の主だ」と。過去の屈辱とは決別して、ついに自
分の時代になると、社名もメタに変えたわけです。
      ──国光宏尚著『メタバースとWeb3』/MDN
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/040]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブック、強まる批判/検閲疑惑に内部文書
  流出報道も
  ───────────────────────────
   世界最大のSNSの米フェイスブック(FB)への批判が
  強まっている。欧米メディアが内部の情報をもとに、ベトナ
  ムで投稿への検閲を受け入れていたことなどを相次いで報じ
  た。各国の民主主義のあり方に影響を及ぼすような問題が表
  面化しており、FBは対応を迫られている。
   FBはグループで約36億人の利用者がいるまでに大きく
  なった。差別や暴力をあおるような投稿に十分対応してこな
  かったと、これまでも指摘されていた。今回は内部文書とさ
  れる資料や元従業員の証言をもとに複数の問題が浮上し、説
  明が求められている。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任
  者(CEO)は報道に反論しているが、2004年の創業以
  来ともされる厳しい状況に追い込まれた。
   米ワシントン・ポスト紙は25日、3人の関係者らの証言
  として、ザッカーバーグ氏がベトナム共産党の要求を受け入
  れ、反政府派の投稿を検閲することを認めていたと報じた。
  今年1月の共産党大会を前に、「FBは『反国家』の投稿へ
  の検閲を著しく増やし、政府がほぼ完全にプラットフォーム
  をコントロールできるようにした」という。米ニューヨーク
  ・タイムズ(NYT)紙は、FBがインドで反イスラムなど
  の有害な投稿が拡散しているのを知りながら、対応を怠って
  いたと報じた。         https://bit.ly/3F8HqR4
  ───────────────────────────
ザッカーバークCEO/クックCEO.jpg
ザッカーバークCEO/クックCEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ウェブ/メタバース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。