2022年10月03日

●「インターネットが変わりつつある」(第5825号)

 ダグラス・アダムズという英国のSF作家がいますが、ご存知
でしょうか。『銀河ヒッチハイク・ガイド』という著作で知られ
この本は、彼の存命中に、全世界で、1500万冊も売れたそう
です。最初は、1978年にBBCのラジオドラマとして始まり
2005年には映画化もされています。
 ネタバレになるので、ごく簡単にその概要を述べると、次のよ
うなSFドラマです。
─────────────────────────────
 宇宙バイパス建設のために、ある日突然、地球は破壊されてし
まう。宇宙人に救出され、最後の地球人となってしまったのは、
ごく平凡な英国男性のアーサー・デント(マーティン・フリーマ
ン)。宇宙でのサバイバル術を銀河系最大のベストセラー「銀河
ヒッチハイク・ガイド」で学び、生き残りをかけて宇宙をさまよ
う。 ──2005年9月10日公開 https://bit.ly/3fsIN2F
─────────────────────────────
 このダグラス・アダムズには、「ダグラス・アダムズの法則」
といわれるものが伝えられていますが、こちらは非常に示唆に富
むものです。
─────────────────────────────
≪ダグラス・アダムズの法則≫
 1.自分が生まれたときに世の中に存在したものは、普通で当
  たり前のものと感じる。
 2.15歳から35歳までに発明されたものは、新しく刺激的
  で、革命的に感じ、その分野で自分のキャリアを積むことが
  できる。
 3.35歳以降に発明されたものは、物事の自然の摂理に反し
  たものと感じる。       https://bit.ly/3Rst3dd
─────────────────────────────
 来年2023年4月に企業に入社する予定の大卒新入社員は、
2000年生まれであり、インターネットが実用レベルになった
年に生まれています。2000年時点における日本におけるイン
ターネットの普及率は37・1%でしたが、その後、光回線の登
場により、ネット普及率は64・3%に跳ね上がり、全人口の半
分以上がネットにつながったのです。
 ダグラス・アダムズの法則によると、2000年生まれの人は
実用レベルに達しているインターネットを自然な世界の一部とし
て受け止め、ごく自然に使いこなしている世代、すなわち、デジ
タルネイティブの世代ということになります。
 そのインターネットが変わりつつあります。そのバズワードは
「Web3」と「Web3.0」 「メタバース」などです。最近
の新聞や雑誌にも、このバズワードは盛んに登場するようになっ
ています。これは、インターネットが変わろうとしていることを
示しています。
 「Web3」と「Web3.0」 はどう違うのでしょうか。そ
もそもインターネットと「Web/ウェブ」の違いは?──そん
な細かいことはどうでもいいじゃないかという人もいるかも知れ
ませんが、インターネットが変化しようとしているときなので、
知識を整理しておく必要があります。
 インターネットとWeb(ウェブ)との違いは何でしょうか。
 時代によって解釈が違ってきています。インターネットの普及
初期の頃は次の関係だったといえます。
─────────────────────────────
   インターネット=Web
   Web=WWW/World Wide Web/クモの巣状のもの
─────────────────────────────
 「Web」というのは、くもの巣を意味しています。したがっ
て、「WWW」は、地球を覆い尽くしているくもの巣状のものと
いう意味で、インターネットそのものを指しています。もう少し
ていねいにいうと、「世界中どこにいても、コンピューターなど
によって情報を得られるシステム」がWWWです。
 しかし、現時点では、インターネットとWebは、分けてとら
えるべきです。その捉え方は次の通りです。
─────────────────────────────
   インターネット ・・・  ネットワークインフラ
       Web ・・・ ネット上に築かれるもの
─────────────────────────────
 インターネットは、インフラなのです。道とか情報ハイウェー
という表現もあります。つまり、インターネットは「道」であり
「Web」はその道を通るデータということができます。この場
合、ウェブサイトはWebということになります。インフラであ
るインターネット上に築かれるものだからです。
 それでは、「Web3」と「Web3.0」 は、どう違うので
しょうか。
 これは、同じ意味の場合もあるし、そうでないときもあると思
います。「Web3.0」 という場合は、Webの変遷を説明す
るときは次のように使います。新しいWebそのものを指すとき
は「Web3/ウェブ・スリー」となります。いずれにしても厳
密なものではありません。私は、全体を意味するときは「ウェブ
3」と表記することにします。
─────────────────────────────
     Web1.0/Web2.0/Web3.0
─────────────────────────────
 さて、今日からはじまるEJの新テーマは、次のようにしたい
と考えています。
─────────────────────────────
   「メタバースとは何か/ウェブ3で何が変わるか」
     ── メタバースのビジネスへの影響 ──
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/001]

≪画像および関連情報≫
 ●野村証券は悩んでいる/Web3、熱狂と不信
  日本経済新聞
  ───────────────────────────
   「もっとコミットしないと生き残れない」「あまり踏み込
  むな」。今春、野村ホールディングス(HD)の経営会議は
  紛糾した。暗号資産(仮想通貨)を含むデジタル資産にどう
  関わるか。激論の末、グループ最高経営責任者(CEO)の
  奥田健太郎がひきとった。「新しい技術を無視はできない」
   野村は仮想通貨に半身の構えだった。2020年に機関投
  資家向けにデジタル資産の管理サービスを始めたが、海外に
  限定していた。巨額の仮想通貨が流出した、18年のコイン
  チェック事件以降、金融庁が規制強化に乗り出していたから
  だ。だが、技術の進歩は速い。ブロックチェーン(分散型台
  帳)を基盤にした次世代インターネット「Web3(ウェブ
  スリー)」が登場。世界のWeb3企業は株式ではなく、事
  業やプロジェクトの価値を裏付けに発行するトークンを使っ
  て資金調達を始めた。
   株式の引き受けや新規株式公開など、「株式会社」ととも
  に成長してきた証券会社の事業モデルは今後も続くのか。答
  えを迫られた野村は株式とトークンを組み合わせた資金調達
  支援に乗り出す。執行役員の池田肇は言う。「トークンの世
  界を理解するのは時間がかかる。だが触っておかないと気付
  いた時には市場の変化に取り残されているかもしれない」
   1990年代に離陸したネットは、利用者が「見るだけ」
  のWeb1.0、 SNS(交流サイト)などで「自ら発信す
  る」Web2.0 へと進化したが、米GAFAなどにデータ
  や利益が集中するようになった。
              https://s.nikkei.com/3dYfLaQ
  ───────────────────────────
ダグラス・アダムズ.jpg
ダグラス・アダムズ
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2022年10月04日

●「Webはどのように変遷したのか」(第5826号)

 Web、すなわち、インターネットの変遷について考える必要
があります。それをまとめると、次のようになります。
─────────────────────────────
       Web1.0  ・・・   見る
       Web2.0  ・・・   書く
       Web3.0  ・・・ 参加する
─────────────────────────────
 「Web1.0」の特色は「見る」です。
 かつて情報を公開する方法としては、出版社による紙媒体の書
籍や新聞や雑誌と、放送局を通じての電波によるラジオやテレビ
しかありませんでした。まして、情報の公開者と情報の受信者が
直接つながることは簡単なことではなかったのです。
 それが、いわゆるウェブサイト(ホームページ)を通じて、出
版社や放送局の介在なしで、誰でも情報を公開でき、その情報に
誰もがウェブブラウザによって、ダイレクトにつながることがで
きるようになったのです。これはきわめて画期的なことであった
といえます。これによって、ウェブサイトを通じてモノを売るe
コマースも可能になっています。
 ところで、日本で個人として、最初のウェブサイトを立ち上げ
たのは、誰だかご存知ですか。
 日本で最初の個人ホームページは「富ヶ谷」と命名され、株式
会社デジタルガレージの前身である有限会社エコシスが立ち上げ
ています。この有限会社エコシスというのは、伊藤穰一氏が創業
した企業です。1993年のことです。
 1993年といえば、ウインドウズ95の発売よりも前であり
日本におけるPCの世帯普及率は10%台程度、一部専門家やマ
ニアに限られた普及だったといえます。199O年代後半、とく
にウインドウズ95が発売されてからは、一挙に世帯普及率が倍
増し、2000年には50%台に乗っています。
 しかし、ウインドウズ95が発売された1995年には、検索
エンジンはまだ登場していなかったのです。1995年12月に
ソフトバンクが、米国のヤフー!株を一部買い取り、1996年
4月から、日本版の「ヤフー!ジャパン」サービスを開始してい
ます。ポータルサイトの出現です。これによって、インターネッ
ト上のウェブサイトを探す「ネットサーフィン」が大流行するこ
とになります。
 ポータルサイトとは、インターネットにアクセスするさい、最
初に訪問するサイトのことです。ポータルとは、門や入口を意味
し、特に大きな建物の門に使われた言葉です。ユーザーは、PC
を立ち上げると、ブラウザを起動し、ポータルサイトにアクセス
します。そこには、項目別にサイトのありかを示すURLが整理
されているので、自分が探したいサイトにアクセスできます。
 そうすると、ポータルサイトには多くのユーザーがアクセスす
ることになるので、そこは有力な広告媒体になります。
 ところが、1998年にグーグルが、独創的な検索技術──ロ
ボット型検索エンジンを開発し、バナー広告などを排除したシン
プルな画面を提供することによって、多くのユーザーを集めるこ
とに成功します。
 以上が「Web1.0」 の概要です。そのキーワードは、あく
までウェブサイトを「見る」であったのです。このWeb1.0
から現在のインターネットであるWeb2.0 への変化に関して
スタートアップ企業Kusan の創業者兼CEOである高橋卓巳氏は
自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 1990年代、欧州原子核研究機構(CERN)のティム・バ
ーナーズ=リー氏が開発したのがWWW(ワールド・ワイド・ウ
ェブ)。これを使って個人や企業がホームページを開設し始めた
Web1.0 は、利用者が様々な情報に触れられる(read)よう
になった革命だった。続く2000年代に、米オライリーのティ
ム・オライリー氏が提唱したWeb2.0 は、ブログなどからは
じまり、SNSが登場したことで個人が誰でも自由に自ら情報を
世界に発信(Write) 可能にする革命だった。市民によるSNS
への書き込みは社会や政治を左右し、10年末には中東で民主化
活動「アラブの春」が起こった。  ──高橋卓巳著/日経BP
『Web3コンテンツ革命/個人と企業の経済ルールが変わる』
─────────────────────────────
 ここで覚えておくべきは、ウェブサイトの開発者の名前です。
これほど画期的な発明をしながら、ほとんどの人、少なくとも日
本人でティム・バーナーズ=リー氏のことを知っている人が少な
いからです。
 「Web2.0」 の特色は「書く」です。
 「Web2.0」 は現在のインターネットのことです。その典
型はブログの登場です。これによって、「Web1.0」 の「見
る」に加えて、個人の情報発信がさらに容易になり、それをホス
ティングする企業が登場しています。ホスティングとは、サーバ
ーを貸し出すことをいいます。2005年頃のことです。
 それまで、ウェブサイトを立ち上げるには、自らサーバーを用
意し、プログラミングをする必要があり、そのハードルは、いさ
さか高かったのです。しかし、ブログは、サーバーをホスティン
グする企業の提供するツールによって、誰でも容易に立ち上げる
ことができるようになったのです。これによって、ブログを含む
ウェブサイトを見たり、書いたりできるようになっていきます。
 2005年3月末の日本国内のブログの閲覧者数は、1651
万人に達しています。これは、月に一度はブログを閲覧する人の
人数を意味しています。
 2008年にアイフォーンが発売されると、日本語対応のフェ
イスブックとツイッターが使えるようになって、一段とウェブに
「書く」ことが簡単になり、ウェブ上で、見ることも書くことも
簡単にできるようになっています。これが「Web2.0」 の概
要です。       ──[ウェブ3/メタバース/002]

≪画像および関連情報≫
 ●Web2.0 的キーマンに聞く/次世代ビジネスモデル
              小川浩氏/2005年12月
  ───────────────────────────
   筆者は、自分自身でもWeb2.0 に関わる事業を行って
  いく立場にあります。また、さまざまなブログや著作を通し
  て自らの見解を発表させていただく機会にも恵まれているわ
  けですが、本連載ではWeb2.0 におけるビジネスモデル
  情報・分析を適宜お届けしていきたいと考えています。
   特にケーススタディを重要視し、原則としてWeb2.0
  という領域に関わる企業や、組織のキーマンをお招きして、
  Web2.0 をキーワードにインタビューしていきます。実
  際に事業に携わる最前線の人たちの生の言葉をお伝えするこ
  とで、Web2.0 のリアルな部分に焦点を合わせていける
  ことでしょう。
   今回はその導入部として、まず筆者が「Web2.0 とは
  何か」を整理してみたいと思います。改めて、Web2.0
  という言葉を目にしたり耳にしたことがある方は、少なから
  ずいると思います。
   この数年間にWebの世界で起きたさまざまなイベントに
  よって、Webの環境が激変してきており、その状態を分析
  した多くの識者が、現在から近未来にかけての方向性をまと
  めて定義づけようとしていますが、それらを端的に表現した
  もの、それがWeb2.0 です。
   その意味で、Web2.0 はいまだ進行形であり、現時点
  での静的なポイントを示すものというより、数年間のスパン
  での“環境変化”として認識されるべきと筆者は考えていま
  す。             https://bit.ly/3dYlRYJ
  ───────────────────────────
ティム・バーナーズ・リー氏.jpg
ティム・バーナーズ・リー氏
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2022年10月05日

●「GAFAが破壊者と呼ばれる理由」( 第5827号)

 昨日のEJで示した「インターネットの変遷のまとめ」を再現
します。「Web2.0」 の話を続けます。
─────────────────────────────
       Web1.0  ・・・   見る
     → Web2.0  ・・・   書く
       Web3.0  ・・・ 参加する
─────────────────────────────
 「Web2.0」 は、現在、我々が利用しているインターネッ
トです。その利用率は2020年で83.4% です。これは平均
利用率ですが、13〜59歳の利用率は約95%、6〜12歳/
60〜69歳でも82%、70歳以上でも半数以上の人が利用し
ています。したがって、ほぼ全年齢でインターネットは使われて
いるといえます。もはやインターネットなしの生活は、考えられ
ないものになっているのです。これが現在のインターネットであ
る「Web2.0」 の利用状況です。
 インターネットの利用がこれほど増えたのは、スマホの普及が
大きく貢献しています。インターネットを利用する場合、かつて
はPCからでしたが、現在では、ほとんどがスマホからの利用に
なっています。2020年におけるスマホからのインターネット
利用率は68.3% であり、約7割がスマホです。現在、スマホ
などのモバイル端末の保有率は90%を超えています。
 なぜ、スマホによるインターネットの利用が増えたかというと
PCからの利用は、ユーザー自身がブラウザの立ち上げなど、若
干の手続きが必要であるのに対して、スマホでは、必要なときに
自動的にインターネットにつながるからです。
 「Web2.0」 の特色は「書く」ですが、これと「見る」が
連結され、SNSを利用するコミュニケーションが普及し、深く
浸透しています。SNSのなかでも、利用者の多いLINEの普
及率は年代別に次のようになっています。
─────────────────────────────
         10代 ・・・・ 93%以上
      20〜40代 ・・・・ 95%以上
       50代以上 ・・・・ 85%以上
─────────────────────────────
 インターネットの普及がここまで進んだということは、それを
使う側から見ると、便利になったということができます。インタ
ーネットに、このような利便性をもたらしたのは、米国を代表す
る大手テック企業「GAFA」──グーグル、アップル、フェイ
スブック、アマゾンの4社であり、これにマイクロソフト社を加
えて「GAFAM」と呼称することがあります。なお、「F」の
フェイスブックは、2021年10月28日、社名を「メタ」に
変更しており、厳密にはGAFAでないのですが、以下も、GA
FAと呼称することにします。
 2020年5月のことです。このGAFAM5社の時価総額が
東証1部約2170社の時価総額を10兆円上回ったのです。
─────────────────────────────
   東証1部2170社の時価総額 ・・ 550兆円
       GAFAMの時価総額 ・・ 560兆円
               ──2020年5月現在
    株式時価総額 =上場企業の株価×発行済株式数
─────────────────────────────
 しかし、その約1年後の2021年8月に、マイクロソフトを
除くGAFAの時価総額は7兆ドル(770兆円)になり、日本
企業すべての時価総額6・9兆ドル(約759兆円)を超えてい
ます。2021年度の日本のGDPは536.3兆円 ですが、こ
れをGAFA4社の時価総額は軽く上回っているのです。これは
まことに驚くべきことです。
 GAFAの4社は、「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれま
す。正確にいうと、「デジタルディスラプター」です。これは、
クラウドやビッグデータ、IоT、AIなどのデジタルテクノロ
ジーを活用することにより、既存の業界の秩序やビジネスモデル
を破壊するプレイヤーを指します。
 「Web1.0」 の時代にディスラプトされたのは、メディア
と広告業界です。それは、ウェブサイトを通じて、情報の発信者
と受信者がダイレクトにつながることができるようになったこと
です。これにより、多くの人をウェブに呼び込むことができるよ
うになり、ウェブのビジネスモデルとして、広告が定着すること
になります。しかも「Web2.0」 になると、ウェブにアクセ
スする人に合わせて関連広告を表示できるようになっています。
まさに広告の革命です。
 「Web2.0」 の時代にディスラプトされたのは、ポータル
サイトです。ポータルサイトの代表格のヤフー!は、世界最大の
ユーザーと、巨額の資金、世界最高の人材を抱えているといわれ
ていましたが、2人の大学院生が設立した200人程度のスター
トアップ企業、グーグルが検索エンジンを作ったとき、絶頂期の
ヤフー!は、検索エンジンが現在のようにネットの入り口になる
とはまったく考えておらず、鷹揚にもグーグルの検索エンジンを
自社のポータルサイトに採用したのです。ヤフー!は、グーグル
の検索エンジンをポータルサイトの機能の一部としか考えていな
かったからです。
 ヤフー!がグーグルの検索エンジンを採用したことは、検索エ
ンジンの優秀性の証明になり、多くのユーザーがグーグル検索エ
ンジンを使うようになり、やがてポータルサイトから離れていく
ことになったのです。ヤフー!が気が付いたときは既に遅く、グ
ーグルに追いつけなくなっていたのです。まさに「庇を貸して母
屋を取れら」という状態になったわけです。
 かつては13兆円の企業価値のあったヤフー!は、2017年
に通信会社ベライゾンに、約5000億円で買収されてしまいま
す。技術の変化の速さを誤ると、こうなってしまうのです。
           ──[ウェブ3/メタバース/003]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人は「GAFAの恐ろしさ」を知らなすぎる
  「四強企業の真実」は現代人の必須科目だ/塩野誠氏
  ───────────────────────────
   あなたの生活は、「地上の人間を殺す権威」を与えられた
  「四騎士」にコントロールされている。ヨハネの黙示録にな
  ぞらえて現代の「四騎士」とされる巨大企業を、人々はGA
  FA(ガーファ)と呼ぶ。そう、あなたもよく知っている、
  グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンである。
   本書の著者スコット・ギャロウェイ氏は、多様な背景を持
  つ大学教授だ。オンライン通販会社の株式上場を経験した起
  業家、そして投資家であり、懐かしい方もいるであろうゲー
  トウェイ・コンピュータの役員を務めた経験もある。
   さらに、ファッションブランドのエディー・バウアーでも
  役員を務め、ニューヨーク大学経営大学院(MBA)では、
  マーケティング論、ブランド戦略を教えている。
   著者のつくったオンライン通販会社はアマゾンによって息
  の根を止められたという。著者が投資を行い、経営改革に乗
  り出したニューヨークタイムズ社のコンテンツはグーグルに
  よって一瞬にして検索結果の奥底(下位)へと飛ばされた。
  四騎士たちGAFAを語るには、ギャロウェイ氏ほどうって
  つけの人間もなかなかいないだろう。本書は神にも擬せられ
  るほどの力を持つようになったGAFAについての力作だ。
  その歴史とビジネスモデルを詳細に分析し、GAFAが支配
  する世界で企業はどうすべきか、個人はどう学び、どういう
  キャリアを目指すべきかを語っている。
                 https://bit.ly/3e1AZEP
  ───────────────────────────
四騎士GAFA.jpg
四騎士GAFA
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2022年10月06日

●「GAFAビジネスについて考える」(第5828号)

 今回のテーマのメインは「Web3.0」 ですが、なかなか本
題に入れないでいます。それは、なぜ、現在のインターネットが
変わらざるを得なくなったのかについて、知っておくべきことが
たくさんあるからです。
 GAFAはプラットフォーム企業といわれています。これらの
企業はインターネット上にプラットフォームという空間を構築し
そこで様々な無料のサービスを提供します。そのサービスが多く
のユーザーに受け入れられれば、そのプラットフォームに多くの
ユーザーが集まることになります。したがって、そこに広告を掲
載すれば、多くの人がそれらの広告を見ることになります。
 この最もシンプルなかたちが初期の「ポータルサイト」である
といえます。グーグルの検索エンジンが登場する前の話であり、
当時のネットユーザーは、PCでブラウザを起動し、最初にポー
タルサイトにアクセスします。当然そのサイトには、多くのアク
セスが集中することになり、有力な広告媒体になります。もちろ
んサイトには一定の広告枠が設けられ、広告主を募集し、バナー
広告を置きます。ユーザーがそのバナーをクリックすると、その
広告主のサイトにジャンプするというわけです。
 その後にグーグルの検索エンジンが登場します。この検索エン
ジンは、高速で、正確な検索結果をユーザーに返すことに特化し
ており、多くのユーザーに無料で提供されたのです。もちろん、
さまざまなポータルサイトにも、グーグルは惜しみなく検索エン
ジンの技術を提供しており、ポータルサイトのほとんどで採用さ
れています。
 しかし、その検索エンジンは、検索窓があるだけのシンプルな
もので、広告などは一切ない。その代わり、検索されたサイトを
グーグル独自の「ページランクアルゴリズム」によって、順番に
掲載し、そこからユーザーが選んでクリックして開いたサイト上
に、ユーザーにマッチングする広告を掲載できるようにしている
のです。当時のポータルサイトとは発想も技術も違うのです。
 このページランクアルゴリズムについて、KDDI総研リサー
チフェローの小林雅一氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 同社(グーグル社)最初の製品(サービス)である検索エンジ
ンは、両創業者(ラリー・ページ/セルゲイ・プリン)の博士課
程における共同研究テーマ「ページランク・アルゴリズム」にも
とづいている。
 これはあるウェブページ(ホームページ)に張られたリンクの
数や、リンク元ページの重要性などを給合的に評価することで、
検索画面における、そのページの表示順位を決める仕組みだ。ち
なみに「ページランク」という呼称は「ウェブページ」ではなく
同アルゴリズムの発案者「ラリー・ページ」のページに由来して
いる。ページランク・アルゴリズムは学術論文の評価方法に似て
いる。つまり「ほかからの引用回数が多い論文ほど評価が高い」
とする着想にもとづいている。学者の両親に育てられたページは
ウェブページへのリンク数が論文の引用回数と同じ意味をもつこ
とを直観的に見抜いていた。       ──小林雅一著論文
                『グーグルのビジネス戦略』
        /出井伸之監修『進化するプラットフォーム』
                  角川インターネット講座
─────────────────────────────
 グーグル以外の例でプラットフォームビジネス戦略について考
えてみることにします。昨日のEJでも示したように、LINE
の普及率は全年齢で見ても90%を超えています。比較的短い期
間で膨大なユーザーを獲得しているからです。これは、携帯電話
各社が提供するレイヤーをプラットフォームとするプラットフォ
ームビジネスといえます。
 各携帯電話会社のスマホ上で、LINEが提供するアプリをダ
ウンロードして使うものですが、その土台(レイヤー)部分は各
携帯電話会社のものです。
 LINEのサービスを使うことによって、パケットが発生しま
すが、このパケット料金については、携帯電話会社とユーザーと
の契約によって携帯電話会社に支払われることになります。しか
し、LINEのアプリ上で発生するすべてのデータはLINEの
ものになり、これをベースとして、LINEはさまざまなサービ
スをユーザーに提供することができます。
 こういう形態は、実は古くから存在し、例えば、不動産仲介業
はプラットフォームビジネスであるということができます。例を
上げます。東京・渋谷に「SHIBUYA109」というショッ
ピングビルがあります。109を運営しているのは、東急モール
ズデベロップメントという東急電鉄の子会社の商業施設運営会社
ですが、東急グループ自身がここに店を出しているわけではない
のです。ここに入っている店舗はすべて東急グループとは資本関
係のないテナントから成り、テナント同士を競合させ、店舗の入
れ替えを頻繁に行うことによって、消費者に新しいファッション
を提供しています。これは、東急グループのプラットフォームビ
ジネスといえます。
 続いてインターネットのホテル予約を考えてみます。楽天トラ
ベルの場合、ユーザーは楽天トラベルの予約サイトにアクセスし
サイト内で多くのホテルのなかから、自由にホテルを選択できる
のです。この場合、楽天トラベルはプラットフォームビジネスと
いうことになります。ホテル側は、楽天トラベルと契約すること
で、このサイトでユーザーにサービスをオファーできます。
 これらがプラットフォームビジネスの概要ですが、GAFAの
場合、それぞれの企業が多彩なサービスをネット上で提供してい
るので、そこには、膨大なサービスの利用履歴がビックデータと
して、ストックされ、積み上げられることになります。この情報
が一か所に集中してビッグデータとして蓄積されることが、現在
大きな社会問題になっているのです。
           ──[ウェブ3/メタバース/004]

≪画像および関連情報≫
 ●マーケットを支配するGAFAのプラットフォーム戦略
  島田晴雄氏
  ───────────────────────────
   GAFAはプラットフォーマーという新しいビジネスモデ
  ルを構築した。いずれも若い企業ながら、瞬く間にIT巨人
  に上り詰めたのは、彼らが多くのデータを集めることにより
  顧客を引きつけ、データ集積によるネットワーク効果を引き
  起こしたために他ならない。4社それぞれの具体的な展開を
  見ていこう。
   もう一つの大きなイノベーションとして、特にGAFAが
  代表したのは、プラットフォーマーというビジネスモデルで
  す。インターネットを通じて、さまざまなサービスのプラッ
  トフォームを提供するのが、プラットフォーマーといわれる
  ものです。
   プラットフォーマーは、情報を伝達するだけでなく情報か
  ら価値を生むということで、新しい情報産業といえます。収
  集する情報は必ずしも機密情報ではなく、フェイスブックの
  「いいね!」のような、それ自体としては価値がなく、ただ
  で集められるもの。ただし大量になって、ディープラーニン
  グをさせると、非常に恐ろしい明確な答えが出てきたりする
  ので、大量に集めることで価値を生みます。
                 https://bit.ly/3C8yf0q
  ───────────────────────────
渋谷109.jpg
渋谷109
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2022年10月07日

●「企業価値を変化させる3つの法則」(第5829号)

 このところ急激な円安が進み、日本の凋落ぶりが一層際立って
います。考えてみると、日本は1991年にバブルが崩壊し、日
本経済は長期の経済停滞に陥っていますが、この時期は日本では
PCが普及し、いわゆるIT革命が始まった時期と一致していま
す。そして、1995年以降になると、企業でも家庭でもインタ
ーネットの利用が始まっています。日本の凋落はちょうどこの頃
から始まり、現在にいたっています。
 20世紀の日本は、ものづくりに成功し、第2次産業革命が生
み出した工業化社会の後半に当たる1980年代には「ジャパン
・アズ・ナンバーワン」であるとか、「21世紀は日本の世紀」
などともてはやされ、米国に次ぐ世界第2位の経済大国に駆け上
がっています。形のあるものづくりでは、日本は世界を制覇した
のです。あの米国が日本車をハンマーで叩き割ったぐらいですか
ら、日本の当時の経済成長は脅威のマトであったのです。
 しかし、インターネットが普及する1990年以降、日本の凋
落がはじまっているという見方があるのです。いわゆるIT革命
がはじまってから日本の凋落がはじまっているという見方ですが
新しい見方であるといえます。つまり、日本は「Web1.0」
の波に乗り遅れ、「Web2.0」 にも乗り遅れているのです。
 2022年10月6日付の日本経済新聞によると、スイスの国
際経営開発研究所(IMD)が、このほど発表した2022年の
「世界デジタル競争力ランキング」で、日本は人材不足などから
世界29位と前年より順位を1つ下げています。これでは、これ
から始まる「Web3.0」 にも乗り遅れること必至です。
 その当時の日本の企業価値の考え方は、総売上高と利益をベー
スにして時価総額が決まると考えてきたのですが、インターネッ
トが普及してからは、その考え方に大きな変化が起きており、日
本はそれについて行っていないのです。
 これについて、今年の6月2日に亡くなった出井伸之元ソニー
社長は、それは次の3つの法則により、企業価値の考え方が変化
したためであるといっています。
─────────────────────────────
 1.ムーアの法則
   インテル社ファウンダーのゴードン・ムーア博士が提唱し
  た経験則で、半導体の集積密度は時間の経過に対して指数関
  数的に上昇する、というもの。CPUのスピードは、1.5
  年で2倍、10年で換算すると、100倍ほどになる。
 2.収穫逓減の法則
   半導体企業は、規模を大きくしていくことで、競争力を増
  していく、というもの。
 3.メトカーフの法則
   インターネットの外部性。SNSなどにみられるように、
  サービスのユーザーが増加することで、情報コンテンツおよ
  びその情報ユーザーが共に自律的な増加をする。そのため、
  企業価値も自律的に飛躍的な増加をみせる。
         ──出井伸之監修/角川インターネット講座
               『進化するプラットフォーム/
          グーグル・アップル・アマゾンを超えて』
─────────────────────────────
 GAFAによって代表されるプラットフォーム企業の発展は、
これら3つの法則に基づいています。出井伸之氏がソニーの社長
になったのは1995年のことです。1995年は象徴的な年で
インターネットの商用化が全世界で解禁され、日本では11月に
「ウインドウズ95」が発売されています。
 その前年の1994年に出井氏は、企画スタッフとして、ロサ
ンゼルスで当時米国の副大統領であったアル・ゴア氏のスピーチ
を聞く機会があったといいます。そのスピーチとは「情報スーパ
ーハイウェイ構想」であり、出井氏はこれを聞いて大きなショッ
クを受けたといいます。
 情報スーパーハイウェイ構想(NII)とは「全米情報基盤」
のことで、1993年にビル・クリントン米大統領の指揮のもと
で推進された、米国合衆国のすべてのコンピュータを光ケーブル
などによる高速通信回線で結ぶという構想のことです。NIIは
次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      ◎情報スーパーハイウェイ構想/NII
       National Information Infrastructure
─────────────────────────────
 この情報スーパーハイウェイ構想を聞いた出井伸之氏は、ソニ
ーの企画役員として、当時のソニーの社長、大賀典雄氏宛てにレ
ポートを送っています。その要旨は次の通りです。
─────────────────────────────
 ・21世紀の初頭には、ネットワークを利用した巨大企業が、
  2、3社出現する。
 ・通信インフラを利用したビジネス統合者が成長する。
          Multiple Software & Service Integrator
 ・メディアは、一方通行マスメディアから、パーソナルメディ
  アへの変革が起きる。
                   1994年1月28日
   ──出井伸之監修/角川インターネット講座の前掲書より
─────────────────────────────
 この出井氏の予測は、プラットフォーマーの出現によって、現
実のものになっています。それから20年後の2015年現在、
ソニーとアマゾングループの比較してみると、2つの企業の総売
上、利益に大差はないものの、ソニーの時価総額は、アマゾング
ループの6分の1程度でしかなかったのです。
 GAFAによって代表されるプラットフォーマーの分析につい
ては、さらに考えて行くことにします。それが「Web3.0」
と深く関連があるからです。
           ──[ウェブ3/メタバース/005]

≪画像および関連情報≫
 ●情報過剰は新たな脅威/[虚実のはざま]第6部
  私の提言<1> 西田亮介東京工業大学准教授
  ───────────────────────────
   ネット空間に真偽不明の情報が飛び交い、社会に混乱や不
  信を生む。その危うさをコロナ禍は浮き彫りにした。しかし
  この問題に特効薬は存在せず、多角的な対策と継続的な議論
  が求められる。私たちはどう備えるべきなのか。シリーズの
  第6部では、各分野の識者が現状を読み解き、ヒントを提示
  する。
   人々に「情報源を確認しよう」と繰り返し呼びかけること
  は重要だ。しかし、それだけでは解決できない段階に来てい
  る。私たちは「情報過剰」という以前とは根本的に異なる環
  境に置かれているからだ。
   発信の中心がマスメディアに限られていた頃とは違い、誰
  でも発信者になれる今、人々は膨大な情報に囲まれている。
  特定の分野で影響力を持つ「インフルエンサー」が無数に現
  れ、選択肢が多様化したのは良いことだが、根拠のない話や
  デマもあふれるようになった。真実かのように巧妙に装い、
  人を操ろうとする発信者もいる。
   しかし、増大する情報量に対し、人間の注意力や認知能力
  は限られている。SNSに流れる投稿の真偽確認に手間や時
  間をかけられる人は多くはない。そもそも一般の人には、調
  べるインセンティブ(動機付け)が働きにくい。人は自分の
  価値観や願望に合う言説に触れていたい習性があり、いくら
  でも自分好みのものが得られる環境で、あえて根拠を確かめ
  る気持ちにはなりにくいだろう。 https://bit.ly/3CcGw3h
  ───────────────────────────
出井伸之元ソニー社長.jpg
出井伸之元ソニー社長
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2022年10月11日

●「日本でGAFAが生まれない理由」(第5830号)

 なぜ米国ではGAFAが生まれ、中国ではBATHが生まれて
いるのに、日本では生まれないのか。米国と中国では、それぞれ
そっくり同じものが生まれているのです。
─────────────────────────────
    ◎GAFA(米国)
     G ・・    グーグル/検索エンジン
     A ・・    アップル/デバイス販売
     F ・・    フェイスブック/SNS
     A ・・     アマゾン/ECサイト
    ◎BATH(中国)
     B ・・    バイドウ/検索エンジン
     A ・・     アリババ/ECサイト
     T ・・      テンセント/SNS
     H ・・  ファーウェイ/デバイス販売
─────────────────────────────
 深田萌絵氏という人がいます。ITコンサルティングサービス
AI、ネットワーク関連の技術協力を提供する Revatron 株式会
社の創業者です。深田萌絵氏は、日本でなぜGAFAやBATH
が生まれない理由について、著書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 米中からは世界が羨望するビッグテックが生まれてきたのだが
なぜ日本からビッグテックが生まれないのか。背景に若い起業家
が抱えるGAFAのビジネスモデルに対する根本的な分析不足、
政治的背景への理解不足と簡単な技術的誤解がある。
 ビジネスプランを競うビジネスコンテストや、起業家を育てる
インキュベーションプロジェクトなどに参加すると、「GAFA
に憧れて起業した」というたくさんの若者に出会う。そして、G
AFAに憧れてクラウドサービスやアプリを始めたという起業家
の多くに根本的な勘違いがあるということを痛感している。
 「そもそもGAFAが何故成功したのか」ということを分析し
ていない。「ガレージでビジネスを始めて、ハッカー精神で成功
した」という「貧乏人でも気合で金持ちになれるというフェアリ
ーテ−ル(おとぎ話)」を信じているのだ。  ──深田萌絵著
    『メタバースがGAFA帝国の世界支配を破壊する!』
                         宝島社刊
─────────────────────────────
 日本は、もの作りの面では、十分世界に対抗できる技術を有し
ている国です。コンピュータの製作でも、他国にけっしてひけを
とっていません。しかし、ITに関しては残念ながら、頗る弱い
といえます。その証拠に、日本では、マイクロソフトやアップル
に対抗できるソフトウェア企業は、ほぼ皆無といってよいです。
日本はかたちのないものを作るのは得意ではないのです。
 それでもSNSでは、フェイスブック(現在はメタ)より前に
日本では「ミクシィ」とソーシャルメディアがあったのです。し
かし、ミクシィは、ユーザーが思うように拡大せず、2021年
11月にガラケー版のミクシィはサービスを終了しています。な
お、PC版のサービスは現在も継続中です。
 なぜ、ミクシィのユーザーが拡大しなかったかというと、「招
待制」という特別な方式をとっていたからです。つまり、既存の
ユーザーからの紹介がないと入会できないシステムになっていた
のです。これは、高級の社交クラブなどにおいて採用されていた
入会のシステムであり、これをSNSに取り入れることによって
特別感を出したかったのでしょう。
 それともうひとつ、グローバル対応という名の多言語対応がな
されなかったことも重要な原因です。そうこうしているうちに、
後発のフェイスブックに抜かれてしまったのです。フェイスブッ
クは、実名での登録が条件ですが、入会そのものには、制限がな
かったからです。
 今から思えば、GAFAが急成長したのは、元ソニー社長の出
井伸之氏の指摘する3つの法則が、本当の意味でよくわかってい
なかったからといえます。3つの法則を再現します。
─────────────────────────────
          @  ムーアの法則
          A 収穫逓増の法則
          Bメトカーフの法則
─────────────────────────────
 これら3つの法則は、それぞれ関連のある法則です。GAFA
のビジネスモデルを理解するうえで、しっかりと理解しておく必
要があります。その概要について、以下にまとめます。
 @は「ムーアの法則」です。
 これは、あまりにも有名な半導体チップに関するの法則で、半
導体の集積密度は時間の経過に対して、指数関数的に上昇すると
いうものです。物理学者でもあり、インテル社のCEOのゴード
ン・ムーア博士が経験則として唱えたものです。
 CPUの速度は1・5年で2倍、10年に換算すると、100
倍程度になるが、価格は変わらないという経験則です。
 Aは「収穫逓増の法則」です。
 これは、もともと経済学用語です。グラフで、時間を横軸にと
り、縦軸に収入(販売高)をとると、最初は緩やかではあるもの
の、時間の経過にしたがって、倍々の速度で、収入規模を拡大さ
せていくというものです。やがて指数関数的に収入が増大するの
で、あっという間に上場企業や巨大企業に成長します。そのよう
な経済・経営の法則のことを「収穫逓増の法則」といいます。
 Bは「メトカーフの法則」です。
 メトカーフというのは、イーサネットの開発者であるロバート
・メトカーフのことで、「ネットワークの価値は、それに接続す
る端末や利用者の数の2乗に比例する」という法則です。これは
「インターネットの外部性」と呼ばれています。明日のEJで、
その意味について考えることにします。
           ──[ウェブ3/メタバース/006]

≪画像および関連情報≫
 ●日本に「GAFA」級の企業が生まれない根本原因
  ───────────────────────────
   ここ数年、政府や自治体、大学、企業などの努力もあって
  スタートアップやベンチャー企業に対する社会の認知度が高
  まり、設立数も徐々に増えている。しかし、イノベーション
  のリーダーであるアメリカに比べるまでもなく、中国に比べ
  ても依然盛り上がりに欠けているのが実情だ。
   スタートアップといえば、アメリカのシリコンバレーと中
  国の深せんがベンチマーク的な存在となっているが、残念な
  がら、日本ではこれに相当する「聖地」が存在しない。
   また、アメリカの調査会社CB Insights が発表したユニコ
  ーン企業数(2020年11月末時点)を見ても、アメリカ
  の242社や中国の119社に比べて日本はわずか4社と存
  在感が小さい。なぜ、このような格差が生じたのか?
   1つの原因はデジタル化の遅れだ。世界各国ではIT技術
  をベースに斬新なモノやサービスを提供するスタートアップ
  企業が競い合っている。しかし、キャッシュレス決済をはじ
  め日本は全般的にデジタル化が遅れており、そこから生まれ
  るスタートアップ企業数も少ない。
   また、アメリカの場合、最初からグローバル市場を視野に
  入れて起業する企業が多く、中国の場合、14億人という巨
  大な市場を抱えているため、企業にとってスケールの大きい
  戦略が描きやすい。これに対して、日本の国内市場は決して
  小さくないが、ユニコーンという巨大な「怪獣」を育てるに
  は物足りない。        https://bit.ly/3EtUUHk
  ───────────────────────────
ゴードン・ムーア博士.jpg
ゴードン・ムーア博士
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2022年10月12日

●「六次の隔たりという考え方がある」(第5831号)

 GAFAを誕生させた3つの法則の1つ「収穫逓増の法則」に
ついて、詳しく考えます。
 はじめにシンプルな例から考えてみます。50人の人がいて、
それぞれの人に50人の友人・知人がいるとします。これらの友
人・知人がそれぞれ重複せず──といってもそういうことはあり
得ませんが──名目的につながったとします。そうすると、5回
目のつながりの人数であるNは、これだけで軽く3億人を超えて
しまいます。
─────────────────────────────
N=50×50×50×50×50=312,500,000人
                   ─→3億1250万人
─────────────────────────────
 続いて、もうひとつ少し複雑な例で考えてみます。
 Aさんという人がいます。このAさんが44人の知り合いを持
っているとします。そのAさんの知り合いであるZさんたち44
人が、Aさんとも互いに重複しない知り合いを44人持ち、Zさ
んの知り合いであるYさんが、AさんともZさんとも互いに重複
しない知り合いを44人持っているとします。さらにYさんの知
り合いであるXさんが、AさんともZさんともYさんとも互いに
重複しない知り合いを44人持っているとする・・・このように
続けて6次まで行くと、その間接的知人は次のようになります。
─────────────────────────────
      44の6乗=7,256,313,856人
         ─→72億5631万3856人
─────────────────────────────
 72億といえば、地球の総人口(70億人/国連人口部/20
11年現在)を超えています。このケースは44人ですが、それ
ぞれの人が持つ重複しない知り合いの数を23人にすると、次の
ようになります。
─────────────────────────────
      23の6乗=148,035,889人
         ─→1億4803万5889人
─────────────────────────────
 これは、日本の総人口(1億2805万7352人/2010
年国勢調査にもとづく2010年10月1日現在の確定値)を上
回ってしまいます。
 このような現象を「六次の隔たり」といいます。すべての物事
は、6ステップ以内でつながっていて、友達の友達を介して、世
界中の人々と間接的な知り合いになることができるというもので
す。この「六次の隔たり」は単なる仮説ですが、この仮説をビジ
ネスモデルとして採用したのがGAFAです。収穫逓増型ビジネ
スモデルといいます。
 従来型のビジネスモデルの場合、規模の拡大を図った先に「収
穫逓減の法則」が待ち構えており、投資効率が次第に悪くなるの
が通例です。それに対して、収穫逓増型ビジネスモデルの場合に
は、一度、損益分岐点を超えてしまえば、それから先は大きな追
加コストをあまり必要としないため、伸びた売り上げのほとんど
全部が利益になります。
 ウェブサイトの使いやすさ研究の第1人者であるヤコブ・ニー
ルセン博士のサイトでは、収穫逓増の原理の有効性について、次
の記述があります。
─────────────────────────────
 収穫逓減が支配する世間一般とは違って、ある種の業界には変
わった傾向が見られる。特にソフトウェア業界は、収穫逓増の原
理で動いているようで、取引規模を拡大した方が、得るものも大
きくなるのである。ソフトウェアの製造費(フロッピーやCD)
は、そもそもコードを開発するのにかかったR&Dの費用に比べ
れば、非常に安価だ。従って、本当に儲けようと思ったら数を売
る以外にない。さらに、顧客は大手ベンダーの製品を買うことに
より大きな価値を見出している。なぜなら、そのソフトを使って
いる人が他にもたくさんいるからである。
 事業規模を2倍にすれば、多少なりとも2倍に近い価値が出せ
るのだろうか?従来の産業では収穫逓減の原理が働いて、100
%拡大しても、たとえば90%くらいの価値しか生み出せない。
 収穫逓増が支配するソフトウェアやその他の産業では、100
%の拡大が、例えば150%の価値を生む。大きいことがいいこ
とかどうか(まあ、だいたいはそうだが)ではなく、大きくなれ
ばどれだけよくなるかが問題なのだ。 https://bit.ly/3VfPUfd
─────────────────────────────
 「収穫逓増の法則」に続いて、「ムーアの法則」について、考
えることにします。
 ムーアの法則の公式は、n年後のトランジスタ倍率をpとする
と、公式は次のようになります。
─────────────────────────────
           p=2n/1.5
─────────────────────────────
 この公式にしたがって、時間の経過と倍率を計算してみると、
次のようになります。
─────────────────────────────
        時間             倍率
      2年後 ・・・・・     2.52倍
      5年後 ・・・・・    10.08倍
     10年後 ・・・・・   101.06倍
     20年後 ・・・・・ 10321.03倍
─────────────────────────────
 インテルの元CEO、ゴードン・ムーア博士が、この法則を提
唱したのは1965年のことです。この法則と収穫逓増の法則の
関係や、インテルの法則が何をもたらしたかについては、明日の
EJで説明することにします。
           ──[ウェブ3/メタバース/007]

≪画像および関連情報≫
 ●IT企業が儲かるメカニズムを経済学的に説明してみた
  ───────────────────────────
   21世紀に入ると、新興のアメリカIT企業が収穫逓増の
  法則に乗ってすさまじい勢いで成長していく。仕事ではパソ
  コンを使うが、日常的にはスマホやタブレットなど、モバイ
  ルが現在は主流だ。モバイルのOSは、2016年時点で、
  アップルのiOSとグーグルのアンドロイドが市場を二分し
  ている(国によってシェアはだいぶ違うが、日本ではほぼ二
  分)。モバイル市場では、さまざまなアプリを供給する企業
  が収穫逓増を実現している。たとえば日本のSNSで知られ
  ミクシィは、SNS市場ではフェイスブックに敗れたものの
  2013年10月に発売したスマホゲーム「モンスタースト
  ライク」の投入で急激に成長した。
   スマホゲームの追加生産要素(労働・資本)はほとんど増
  えない。課金は通信会社が行なう。ユーザーはダウンロード
  するだけだ。ヒットすればかんたんに収穫逓増になる。
   ミクシィの売上高(営業利益)は、2014年3月期で、
  122億円(5億円)と中堅企業並みだったが、「モンスタ
  ーストライク」のヒットが始まった結果、2015年3月期
  には1129億円(527億円)と、売上で9・3倍、営業
  利益で105倍(!)と、絵に描いたような収穫逓増となっ
  た。2016年3月期は2088億円(950億円)とさら
  に増えているが、そろそろ収穫逓増のカーブは収穫逓減に移
  ろうとしている。        https://bit.ly/3TqKE71
  ───────────────────────────
六次の隔たり.jpg
六次の隔たり
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2022年10月13日

●「ムーアの法則についてさらに知る」(第5832号)

 「ムーアの法則」はゴードン・ムーア博士が発見した経験則で
あるといわれます。ところで、「経験則」とは何でしょうか。改
めて考えてみることにします。
 ITの技術に少しでもかかわった人は「ムーアの法則」のこと
はよく知っています。そしてこの法則の提唱者がゴードン・ムー
ア博士であり、そしてそのムーア博士が、著名な半導体メーカー
インテルの創業者であることも知っています。しかし、ムーア氏
が「ムーアの法則」を発表したのがインテルを創業する前であっ
たことを知る人は少ないと思います。
 簡単に経歴を振り返ってみると、ゴードン・ムーア氏は、カル
フォルニア工科大学大学院で、赤外線分光学分野の研究で化学博
士号を取得しています。そして、卒業後ジョンズ・ホプキンス大
学応用物理学研究所に入社していますが、研究チームの解散とと
もに退社。その後、ウィリアム・ショックレー博士に誘われて、
1956年にショックレー半導体研究所に入社。ここではじめて
ムーア氏は半導体の仕事に携わります。
 しかし、ショックレー博士との折り合いの悪さから8人の仲間
とともに同社を退社することになります。後にこの時の8人の研
究員は「8人の裏切り者」と呼ばれることになります。そして、
1957年にムーア氏は仲間と一緒にフェアチャイルドセミコン
ダクターを設立。この企業は、1961年にはICの大量生産に
乗り出し、60年代半ばには世界最大の半導体メーカーに成長し
ています。このように、ムーア氏は1956年から半導体製作の
仕事に関わっており、様々な経験を積んでいるのです。
 1965年の春のことです。ムーア氏は、「エレクトロニクス
マガジン」誌から、同誌の35周年を記念して、コンピュータの
未来についての記事を依頼されます。当時、集積回路の最先端の
試作品でも、1つのコンピュータチップに集積されるトランジス
タの数は30個が限界だったのです。
 ムーア氏は、論文を書くために情報を集めたところ、驚くべき
ことを発見します。それは、1枚のチップに集積されるトランジ
スタの数は、1959年から毎年倍増していたという事実です。
ムーア氏は、この傾向がこれから先も続くと予測し、10年先の
1975年には、それは6万5000個という途方もない数にな
るだろうということを論文に書き上げたのです。
 この論文でムーア氏は、将来家庭用コンピュータが誕生するこ
と、携帯用通信機器や自動操縦の自動車の出現まで予測していま
す。そして、この論文が後に「ムーアの法則」と呼ばれるように
なるのです。しかし、ムーア氏は、トラブルからフェアチャイル
ドセミコンダクタを退社し、1968年7月18日にインテルを
設立します。そして、最初からこの論文を目標に半導体チップの
製造に取り組んだのです。
 つまり、ムーア氏はそれまでの自身の半導体チップ製造の経験
とその技術発展の歴史の調査に基づいて、つまり経験則に立って
チップの製造に取り組んだのです。まさに経験則です。
 これについて、非常にわかりやすいイメージで説明した記事を
ネット上で発見したので、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
 「シリコンチップに搭載されるトランジスタは18〜24カ月
で2倍に増える」というムーアの法則。現在では、当時の4万倍
の数のトランジスタが乗っかっている計算になるという。
 これを理解しようと筆者が頭に浮かべたイメージは30センチ
×60センチお盆があって、その上に直径6センチのコップが、
50個並んでいる。1年後、同じお盆に100個のコップを並べ
てね。と言われて途方に暮れる自分の姿だった。
 普通の人間ならば、「もっと大きいお盆を持って来い」が正解
だと私は思う。しかし、研究者、技術者たちは、毎年のように、
この課題をクリアーし続けてきた。この法則が破られていないと
いうことは、現在(4万倍ならば)200万個のコップを同じお
盆に乗せていることになる。    https://bit.ly/3ehDzGH
─────────────────────────────
 1971年にインテルは、世界初のマイクロ・プロセッサであ
る「インテル4004」(よんまるまるよん)を開発しましたが
これには2300個のトランジスタが詰め込まれていたのです。
さらに、1979年の「8088」は2900個、1995年の
「ペンティアムプロ」には550万個、さらに2015年の第5
世代コアプロセッサには13億個のトランジスタが搭載されてい
ます。これは、ムーアの法則がきちんと働いている結果であると
いえます。
 いうまでもないことながら、ムーア博士によるムーアの法則の
論文が示唆した「家庭用コンピュータ」はPCとして、「携帯用
通信機器」はスマートフォンで既に実現しており、「自動操縦の
自動車」も実現しつつあり、すべて予言は的中しています。
 ムーア博士が86歳になったとき、あるイベントで、10年後
の世界はどうなるのかについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 インターネットの開発は私にとって驚きだ。ネットによって新
しい機会のドアが開くことに気がつかなかったし、高速道路で自
動運転車を見ることになるとも思わなかった。現在は、コンピュ
ーターが人間の利便性を向上するためにどんなことをできるかを
探る初期段階にあり、今後は人工知能が進化していく、と予想す
る。    ──ゴードン・ムーア氏 https://bit.ly/3ErqSnz
─────────────────────────────
 2000年以前の話ですが、、日本は半導体製造分野でトップ
を走っていたことを知る若者は少ないと思います。ムーアの法則
が発表された以後の1980年代、NEC、日立、東芝はトップ
を独走し、インテルがトップになったのは1990年代になって
からです。アイデアも品質も悪くないのですが、世界標準になれ
る製品が作れなかったことが最大の敗因といえます。
           ──[ウェブ3/メタバース/008]

≪画像および関連情報≫
 ●ムーアの法則」もう限界/新たな集積回路探る動き
  ───────────────────────────
   回路の集積度を上げて機能を高めながら製造コストは下げ
  る――。半導体産業の成長を支えてきた「ムーアの法則」が
  限界に近づいている。今の微細加工技術で最小線幅が7ナノ
  (ナノは10億分の1)メートルに達する2020年ごろに
  理論的な壁にぶつかるからだ。その先、半導体はどのような
  技術革新を遂げるのか。新しい集積回路を作るアイデアが議
  論されている。
   「半導体集積回路の集積度は1年半から2年で倍増する」
  半導体最大手の米インテルを創業した一人、ゴードン・ムー
  ア氏は1965年、まだ登場していない集積回路の進歩を展
  望する論文でこんな予測を唱えた。実際に回路の集積度はこ
  の予測通りに高まり、後にムーアの法則と呼ばれるようにな
  った。半導体チップの基本素子のトランジスタは小さくなる
  と性能が高まり、1つのチップに収まる数を多くできる。微
  細化を追究することで性能を向上させてきた。そのために回
  路の線幅をできるだけ細くする技術開発を進めた。
  インテルが71年に発売した最初のプロセッサ「4004」
  は線幅が10マイクロ(マイクロは100万分の1)メート
  ルで、1つのチップに2300個のトランジスタが載ってい
  た。2015年発売の最新型プロセッサー「スカイレイク」
  は線幅が14ナノメートルになり、10億個以上のトランジ
  スタを搭載している。インテルによると、プロセッサーの計
  算能力は半世紀で3500倍向上した。
               https://s.nikkei.com/3TcRr46
  ───────────────────────────
インテル4004.jpg
インテル4004
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2022年10月14日

●「メトカーフの法則について考える」(第5833号)

 ムーアの法則、収穫逓増の法則に続くのは、「メトカーフの法
則」です。ところで、ロバート・メランクトン・メトカーフ(メ
トカフ)とは何者でしょうか。
 メトカーフ氏は、米国の電気工学エンジニアで、パロアルト研
究所在籍時に、イーサネット、すなわち、LANの開発者として
知られています。メトカーフの法則というのは、既に何回もご紹
介しているように、次の内容です。
─────────────────────────────
 ネットワークの価値は、そのネットワークに接続するユーザー
 数の2乗に比例する。        ──メトカーフの法則
─────────────────────────────
 FAXを例にして解説します。FAXは自分一人が持っていて
も誰とも送受信できず、メリットはありません。したがって、こ
のときのFAXによるネットワークの価値は「0」です。
 友達の1人がFAXを購入したとします。そうすると、その友
達とはFAXによる送受信ができるので、送信と受信を別に数え
て、ネットワークの価値は「2」になります。
 さらにもう一人の友達がFAXを購入したとします。3人がF
AX持っているので、3人がそれぞれ自分以外の2人と送受信で
きることになり、ネットワークの価値は「6」になります。式で
書くと次のようになります。
─────────────────────────────
    ネットワークの価値=n×(n−1)
    ネットワークの価値=
    FAXの全ユーザー数×(ユーザー数−1)
─────────────────────────────
 仮に10人がFAXを持っていると、[10×(10−1)=
90]となり、ネットワークの価値は90になります。nが十分
大きくなると、「nの2乗」と一致するため、冒頭のネットワー
クの法則の定義になります。
 ここで重要なのはユーザーの数によるネットワークの価値の増
大が、コストの増大をはるかに上回るということです。このケー
スにおけるコストは「FAXの単価×台数」と考えられるので、
ユーザーの数に比例して増加します。しかし、ネットワークの価
値の増大は、ユーザー数の2乗に比例し、指数関数的に増えるの
で、コストの増大を大きく上回ることになります。
 添付ファイルをご覧ください。これは、NTTデータ経営研究
所が発表したネットビジネスのユーザー数と売上高の推移を表し
たものです。これは、クックパッド、LINE、フェイスブック
(現メタ)について、ユーザー数の推移(上)と売上高(下)を
示しています。いずれも、ユーザー数及び売上高が、時間の経過
とともに、指数関数的に増加していることがわかります。
 これを見ると、ビジネスの初期段階でいかに多くのユーザーを
獲得するかが、ビジネスの成否のカギを握ります。したがって、
初期の段階において、誰もが参加できるプラットフォームをネッ
ト上に用意し、そのプラットフォーム上で、多くの「無料サービ
ス」提供し、ユーザーを囲い込み、ユーザー数を劇的に増加させ
るのです。
 確かに、プラットフォーマー企業は、初期のシステム開発やデ
ーターセンターのコスト、あるいは広告費など、初期コストは膨
大ですが、ユーザーが増えてくると、メトカーフの法則が働いて
コストの割合はどんどん減り、利益率は大きく押し上げられるこ
とになります。
 かつてのものづくり大国の名をほしいままにした日本の製造業
とGAFAに代表されるプラットフォーマー企業とを天動説と地
動説の例で説明しているレポートがあります。アクセンチュア株
式会社製造・流通本部特別顧問の川原崎由博氏のレポートの一部
をご紹介します。興味があれば全文を読むことができます。
─────────────────────────────
 かつて日本の製造業が元気だった時代と現在を、天文学の「天
動説」と「地動説」にたとえて比較してみましょう。「天動説」
の時代は、たとえば自動車産業であれば、自動車メーカーを頂点
に巨大な業界が形成され、中古車販売、レンタル、メンテナンス
保険、金融などの関連業種がその下に連なっていました。自動車
会社はそのヒエラルキーの内部で完結する「企業中心」、「自己
完結型」のスキームを構成し、優れた製品を作り、消費者に提供
してさえいれば、十分な利益を確保することができたのです。
 一方、現在のプラットフォーマーの世界は「地動説」です。こ
れはサプライ側の企業ではなく、サプライチェーンの外側にいる
顧客や消費者といったステークホルダーが中心となって動かす世
界です。まず、消費者中心の社会・生活があって、その周囲をメ
ディアや家電製品、あるいはレジャー、コミュニケーションとい
ったさまざまな領域の製品やサービスが取り囲んでいます。ここ
では消費者が主役であり、自動車でさえ「モビリティ」という1
つの領域の構成要素に過ぎません。
 この世界を支配しているのが、いま「プラットフォーマー」と
呼ばれている新しい企業です。プラットフォーム企業は従来の企
業ヒエラルキーのさらに上位に君臨し、メーカーなどの企業群を
その配下に従えてコントロールする、いわば超越的な存在です。
この劇的な地位交代に戸惑う方も少なくないでしょう。しかし、
これこそがまぎれもなく現在の市場の「世界」なのです。
               https://accntu.re/3rMtRPQ
─────────────────────────────
 日本のビジネス界は、このWeb2.0 の波に完全に乗り遅れ
ています。これから脱却するには、これまで積み重ねてきた経験
値や世界観そのものを、変更するというレベルではなく、一度す
べてを捨て去って、ゼロベースで考える必要があると、川原崎由
博氏はいっています。急がないと、既にWeb2.0 の世界が終
了し、Web3.0 の世界に入ろうとしているからです。
           ──[ウェブ3/メタバース/009]

≪画像および関連情報≫
 ●プラットフォーマー勝者の法則コミュニティとネットワー
  クの力を爆発させる方法
  ───────────────────────────
   もともと伝統的な小売業者、製造業者だった彼らは、いか
  にしてプラットフォーマーとなったか。ビジネスモデルを設
  計、点火、上昇、安定させる方法(ロケットモデル)を明らか
  にする。
   ウーバーは世界最大のタクシー会社だが、クルマを1台も
  所有していない。フェイスブックは世界一の人気メディアだ
  が、コンテンツをまったく生み出さない。アリババは世界一
  の流通企業だが、在庫を全く持たない。エアビーアンドビー
  は世界最大の宿泊提供者だが、不動産を所有していない。
      ――トム・グッドウィン(ゼニスメディア副社長)
   プラットフォーム自体は生産も販売もしないが、2つ以上
  の顧客グループ(ウーバーならドライバーと乗客)を誘致し
  て仲介し、お互いに取引できるようにすることで、大きな価
  値を生み出している。本書は、プラットフォームビジネスと
  伝統的ビジネスモデルの違い、そこで働く経済原理、プラッ
  トフォームビジネスならではの成功法則(ライフステージご
  とに直面する課題と対応策)を明らかにする。
   たとえば、プラットフォームを立ち上げるために必要な手
  間と労力。それは「ロケット」の打ち上げにも匹敵する。2
  つ以上ある市場(サイド)に人を集め、それぞれに拡大策とマ
  ーケティングを実施する必要がある。プラットフォームを始
  動するというのは、2つの会社を同時に起業するようなもの
  だと言ってよい。        https://bit.ly/3VdmvT7
  ───────────────────────────
ネットビジネスのユーザー数と売上高の推移.jpg
ネットビジネスのユーザー数と売上高の推移
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2022年10月17日

●「インターネットはインフラである」(第5834号)

 今回のテーマは、次世代インターネットといわれる「Web3
.0 」を解明することす。しかし、これを解明するには現在のイ
ンターネットである「Web2.0」 について詳しく知る必要が
あり、9回まではそのことについて書いてきています。
 とくに「Web2.0」 上で一大発展を遂げたGAFAによっ
て代表されるプラットフォーム・ビジネスが社会を支配した3つ
の法則、「ムーアの法則」「収穫逓増の法則」「メトカーフの法
則」についても取り上げて検討してきています。
 しかし、ここでもうひとつ踏み込んで、インターネットの社会
インフラとしての本質についても理解しておく必要があります。
そうでないと、現在のインターネットとは何であり、インターネ
ットがなぜサービスプラットフォームとして発展したかがわから
ないからです。
 現在、書店では、Web3.0 やウェブ3に関する本が多く出
版されています。そのほとんどを購入して読んでみましたが、ど
の本も、わかったようなわからないような内容です。それは、多
くの人にとって、現在のインターネットというものが、十分解明
されていないからです。
 このことについて、ネット上で次のように述べている人がいる
のでご紹介します。
─────────────────────────────
 近年、「Web3.0」 というキーワードが急速に注目されて
いる。多くの人が慣れ親しんだ現在のインターネットを「Web
2.0」と定義し、そこから脱却することを提唱する概念だ。
 「Web3.0」 というキーワードを目にする機会が増える一
方で、「わかったようでわからない」という声を聞くことも増え
た。実際に「Web3.0」 のコンセプトを実現可能にするブロ
ックチェーンは大変わかりづらい技術である。さらに、具体例や
ユースケースのイメージも沸かないため、現在のインターネット
との違いを比較してもピンとこない。実際に普及する現実的なイ
メージが湧かないという意見もよく耳にする。
                  https://bit.ly/3CAylxN
─────────────────────────────
 今回のテーマの第1回で、インターネットとWebの違いにつ
いて書きましたが、そのときインターネットを次のように定義し
ています。さらに、インターネットの本質は道路(情報ハイウェ
イ)に近いものであると指摘しています。
─────────────────────────────
    インターネットはネットワークインフラである
─────────────────────────────
 そもそもインフラとは、生活や産業を成り立たせるために必要
な施設やサービスであり、ネットワークインフラは、そのうちの
ひとつであって、生活や産業に必要な「何か」を流通させる目的
をもったインフラです。ここでいう「何か」とは、次の3つのこ
とを意味しています。
─────────────────────────────
          @トランスポート設備
          A流通管理・制御機能
          B    コンテンツ
─────────────────────────────
 添付ファイルをご覧ください。これは、物流の流通サービスを
あらわした図であり、それぞれのインフラのオープン性の大小を
見ることができます。
 これらの3つについて、電気、ガス、水のライフライン、鉄道
のネットワーク、道路のケースを考えてみることにします。
 第1に、ライフラインについです。
 トランスポート設備については、送電線や水道管があります。
これらを利用して、物質やエネルギーを各家庭まで届ける管理・
制御機能があり、この場合のコンテンツに当たる電気やガスの生
成まで、すべてこれらのインフラの提供者である電力会社やガス
会社が行っています。
 これらのインフラについては、電力会社やガス会社が厳重に管
理し、他のいかなる者もそれらのインフラを勝手に使うことは許
されていないのです。エンドユーザーとしては、電力会社やガス
会社が定めたサービス規約にしたがって、電気やガスや水道を決
められた方法で受け取る以外のことはできないのです。
 鉄道については、どうでしょうか。
 鉄道ネットワークを支えるインフラである線路や駅や電車など
はトランスポート設備であり、それらの管理・制御機能は、イン
フラの提供者であるJRをはじめとする鉄道会社が提供していま
す。これらのインフラを鉄道会社以外の何者も、勝手に使うこと
はできないし、線路に自分の好きな乗り物を走らすこともできな
いことはいうまでもないことです。
 しかし、鉄道の場合のコンテンツに当たる鉄道で運ぶもの、つ
まり、人や物質については、法律や鉄道会社の定めたルールに違
反しない限りにおいて、エンドユーザーが自由に持ち込むことが
できます。つまり、鉄道インフラはサービスはクローズであるが
コンテンツはユーザーに解放されており、生活インフラよりもオ
ープンなインフラであるといえます。
 道路についてはどうでしょうか。
 道路も鉄道と同様に、物流や人の移動のための不可欠なネット
ワークインフラです。道路そのものや交差点、信号機などはトラ
ンスポート設備は、国や地方自治体が所有していますが、そこを
走る車や車を使った配送サービスの管理・制御機能、さらにコン
テンツである人や物質はユーザーが持ち込むかたちになっていま
す。どの道をどのように使って、何を、どこに、どういう条件で
運ぶかはすべてユーザーに委ねられています。道路というインフ
ラは、その上で行われるサービスや運ばれる物質に関しては、す
べてオープンなインフラであるということです。
           ──[ウェブ3/メタバース/010]

≪画像および関連情報≫
 ●ネットワークインフラとは?ネットワークインフラの効率化
  に必要なスキルを徹底解説!
  ───────────────────────────
   まずはネットワークインフラとはどんなものなのかを理解
  していきましょう。
   ネットワークインフラを簡単に表すと、インターネットや
  PC、プリンタなどを使えるようにするための土台です。そ
  もそもインフラとは、社会生活や経済の基盤を形成する構造
  物のことを指し、道路や発電所・学校・病院・公園などが該
  当します。
   交通インフラや社会インフラなど、インフラにも様々な分
  野が存在するのです。その中で最近とくに重要視されている
  のがネットワークインフラ(ITインフラ)になります。I
  T業界のインフラに該当するのが、ネットワークであるイン
  ターネットやLAN、ハードウェアやOSなどです。これら
  のものを総称してネットワークインフラといわれています。
   IT業界でシステムを構築するなどで使われるシステムは
  アプリケーションとインフラから成り立っているのです。
   簡単に表すとインフラを道路とするなら、アプリケーショ
  ンは車、システムは社会の構造や仕組みということになりま
  す。つまりエンジニアがシステムを作るとなると、アプリケ
  ーションとインフラの両方の理解が必要になるのです。
                 https://bit.ly/3CY4m4q
  ───────────────────────────
 ●図の出典/出井伸之監修/『進化するプラットフォーム』/
  角川インターネット講座
物流の流通サービス.jpg
物流の流通サービス
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2022年10月18日

●「情報通信インフラとしてのネット」(第5835号)

 昨日に続いて、電気・ガス・水道のライフライン・インフラ、
それよりもオープン性の高い鉄道や道路などの生活に不可欠な移
動インフラと、インターネットを含む情報流通インフラとを比較
することにします。代表的な情報流通インフラとしては、放送、
電話、インターネットがあります。
 ここでの記述は、次の論文を参考にして、記述していることを
お断りしておきます。
─────────────────────────────
  (株)IIJイノベーションインスティテュート代表取締役
浅羽登志也氏の論文『社会の基盤OSとしてのインターネット』
      ──出井伸之監修/『進化するプラットフォーム』
                  角川インターネット講座
─────────────────────────────
 はじめに「放送」について考えます。
 「放送」には、ラジオ放送とテレビ放送がありますが、放送で
は、同じ内容の情報を多くの人に一斉に伝えるサービスを提供し
ます。このサービスを提供する事業者、すなわち放送局は、国か
ら特定の周波数帯の電波の割り当てを受けており、その周波数帯
を使って、放送サービスを提供しています。
 放送局は、電波を発信するためのインフラの構築と、どの曜日
の、どの時間帯に、どの番組を放送するかのサービスの構成や管
理を行い、さらにコンテンツとしての番組の製作までを一貫して
行っています。つまり、放送局は、トランスポートインフラ、サ
ービス制御、コンテンツの全てを管理しているのです。
 この放送に、視聴者であるエンドユーザーが入り込む余地はほ
とんどないといえます。ユーザーが放送に参加する視聴者参加番
組というのはありますが、生中継番組は別として、放送における
視聴者の言動をどこまで流すかに関しては、放送局側の判断で決
められます。つまり、放送局が不適切と判断するコンテンツは放
送されないことになります。
 「電話」について考えます。
 電話や電信は、特定の個人やデバイスを通信回線でつなぎ、そ
の間の通話や電信を媒介するサービスです。通信ネットワークイ
ンフラの構築や電話・電信サービスのコントロールは、すべて通
信事業者が行いますが、コンテンツである通話や電信の内容は、
犯罪にかかわるものは別として、ユーザーが自由に流すことがで
きます。つまり、コンテンツはユーザーが自由に持ち込むことが
できるのです。
 続いて、インターネットのケースを考えますが、その前にミネ
ラルウォーター宅配サービスを例として取り上げます。添付ファ
イルの図を参照してください。
 水は生活インフラとして、水道会社から水道管のネットワーク
を通して全家庭に供給されています。これをユーザーの観点で見
ると、ユーザーは水道の蛇口をひねるだけで、いつでも浄水が得
られるようになっています。
 これに対して、ミネラルウォーターをいつでも飲める宅配サー
ビスがあります。このサービスは、既に実施している業者が複数
あり、利用者が増えつつあります。
 この場合のコンテンツはミネラルウォーターです。業者の立場
に立って考えると、ミネラルウォーターを精製する必要はなく、
第三者から仕入れることも可能です。この場合、次の3つの問題
を解決することが必要になります。
─────────────────────────────
 @ユーザーに届けるミネラルウォーターの容器をどうするか
 Aユーザーにどのようなインターフェースで水を提供するか
 Bユーザーにどういう手順でミネラルウォーターを届けるか
─────────────────────────────
 @のミネラルウォーターの容器としては、専用の大きなペット
ボトルを作り、それを配送するためのトラックを用意します。そ
して道路を使って定期的に家庭に届けます。
 Aユーザーへのインターフェースとして、蛇口が付いたウォー
ターサーバーが必要になります。これは、ユーザーにレンタルし
てもらうなどの方策が必要になります。ユーザーは、定期的に業
者から届くペットボトルをさかさまにしてウォーターサーバーに
セットし、サーバーの蛇口をひねると、ミネラルウォーターが出
てくる仕組みになっています。サーバーによっては、冷水と温水
の両方が出るものがあり、これがセットされると、いつでも冷水
でも温水でも飲むことができます。この場合、蛇口は2つ付くこ
とになります。
 Bのミネラルウォーターの届け方は、宅配のトラックが道路と
いうオープンなネットワークインフラを使って契約宅に定期的に
届けることになります。
 このようにして、上記の3つの問題はすべて解決できます。こ
のミネラルウォーター宅配システムを採用したユーザーの立場に
立つと、家庭には生活インフラとして、いつても水が供給されて
いることに加えて、飲み水については、冷水でも温水でも専用の
サーバーから供給されることになります。
 このサービスは既に実現されています。ジャパネットたかたの
「富士山の天然水定期配送サービス」です。初期費用、冷水温水
付きサーバーレンタル料、水の料金(月3本の場合)、配送料金
全て込みで、毎月4000以下でこのサービスが受けられます。
なかなかよく考えられているサービスであると思います。
 といっても、ここでは、ミネラルウォーター宅配サービスその
ものを宣伝するのが目的ではなく、情報流通インフラとしてのイ
ンターネットの可能性についての説明用モデルとして、このサー
ビスを説明しています。
 インターネットは、情報流通ネットワークインフラにおいて、
物流インフラの道路のような役割を目指すので、明日のEJから
この例を参考に説明していきます。
           ──[ウェブ3/メタバース/011]

≪画像および関連情報≫
 ●インターネットを支える 通信インフラ/樋口雅文氏
  ───────────────────────────
   1992年に日本初の商用インターネットサービスが開始
  されてから約18年が経った。現在では多くの企業や個人に
  インターネットが利用されるようになり、インターネットは
  社会的インフラの一つとして認知されるに至っている。電子
  メールやWWWなど、インターネットを基盤とするアプリケ
  ーションを多くの人が使うようになり、それらのアプリケー
  ションに依存して、生活やビジネスが運営されている場面も
  多くなった。そのため、インターネットが安定的に運用かつ
  提供されることが社会にとって必然ともいえる状況ができあ
  がっている。本稿では、インターネットサービスを支えるイ
  ンフラ、更に安定してサービスを提供するために用いられる
  技術について解説する。
   まず、日本のインターネットがどのような構造をもってい
  るかについて説明する。大きく分けて以下の三つの部分に分
  けてとらえられる。
   @アクセス系ネットワーク/ユーザのオフィス・自宅から
  ネットワーク拠点(多くの場合、通信事業者の局舎など)ま
  でをつなぐネットワーク。Aアクセス系ネットワーク/全国
  に点在するネットワーク拠点を、相互に接続するネットワー
  ク。Bインターネットデータセンタ/ネットワークそのもの
  ではないが、ネットワークにユーザが接続する際に行う認証
  設備や、利用実績に基づき課金を行うための設備、またサー
  ビスの管理・監視等を行う設備を収容するビルで、バックボ
  ーンネットワークの中核近くに存在する。
                 https://bit.ly/3RZPp69
  ───────────────────────────
道路を用いたミネラルウォーター宅配サービス.jpg
道路を用いたミネラルウォーター宅配サービス
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2022年10月19日

●「情報流通インフラインターネット」(第5836号)

 情報流通のネットワークにおいて、物流インフラの道路に該当
するのがインターネットです。しかし、インターネット上に各種
の情報をそのまま流すことはできません。ミネラルウォーターを
入れる容器(ペットボトル)が必要であったように、情報によっ
てそれぞれ容器、入れ物が必要になります。
 例えば、映像や音声のデータの圧縮規格であるMPEGや、M
PEGで使われている音声圧縮規格のMP3は、まさにその入れ
物に該当します。これらは、映像や音声コンテンツをデジタル化
してインターネット上に流すためのフォーマットになります。
 スカイプ(Skpe)というサービスがあります。2021年7月
にサービスを終了していますが、インターネットを使って音声通
信ができます。なお、音声通信はLINEでも可能です。スカイ
プではコンテンツである音声を運ぶための入れ物としてGIPS
社の音声符号化方式を採用しています。これによりパケットネッ
トワーク上で、リアルコミュニケーションが可能になります。
 さて、ミネラルウォーターの蛇口に当たるものとしては、各種
ヘッドセットがありますし、スマホ上でソフトウェアを起動すれ
ば、そのまま電話機が蛇口になり、耳に音声が流れます。手順と
してはP2P方式などのプロトコルを使っています。P2P方式
は、サーバーがないノード(ネットワークに参加しているPC)
による協調動作によって機能する通信モデルです。
 興味深いのは、公共の普通の水道水の供給サービスと、ミネラ
ルウォーター宅配サービスが、通信インフラである電話と、スカ
イプによる音声通話サービスとよく似ていることです。これは、
情報通信の分野では、今やインターネットは、オープンインフラ
になっており、あらゆる可能性があります。これに関して、II
Jイノベーションインスティテュート代表取締役、浅羽登志也氏
は論文のなかで、次のように述べています。
─────────────────────────────
 オープンインフラの特徴はすべてインターネットにも当てはま
る。例えば、道路が車に何が積まれているかを関知しなかったよ
うに、インターネットもパケットに含まれるデータがどんなもの
かについて関知しない。だからこそ、映像だろうが音声だろうが
何だろうが、インターネットという共通のネットワークの上で流
すことができる。ただ、そのための情報表現フォーマット、ユー
ザーインターフェース、そして、流通のためのプロトコルさえ決
めればよいのである。
 すると、放送網という専用ネットワークで流されていたテレビ
映像も、電話網という専用のネットワークで流されていた音声も
インターネットというひとつの汎用のネットワークの上に融合す
ることができる。(中略)まったく同じサービスを作る必要はな
く、むしろこの新しい付加価値に着目し、そこを伸ばしていくよ
うな発想の方が重要となる。        ──浅羽登志也著
         『社会の基盤OSとしてのインターネット』
      ──出井伸之監修/『進化するプラットフォーム』
                  角川インターネット講座
─────────────────────────────
 インターネットの商用サービスが始まったのは、1990年代
のことです。1989年には、世界初のインターネット・サービ
ス・プロバイダ(ISP)のPSIネットが発足しています。も
ともと米国の国防総省(ペンタゴン)でインターネットの開設に
従事していた人物が設立した企業です。
 インターネットといえば、米国のイメージが強いですが、その
研究・利用に関しては、日本もけっして遅くはないのです。19
84年、東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学が実験的にネッ
トワークを結び実現した「JUNET」、1988年の産学協同
プロジェクト「WIDEプロジェクト」がスタートを切っていま
す。いずれも、村井純慶応義塾大学名誉教授が設立しています。
 もっとも商用接続サービスがスタートした時点では、1990
年代前半のインターネットユーザーは、エンジニアやIT系企業
などのITリテラシーの高い層に限られていたのです。
 ISPにしても、その頃はインターネットにつなぐことだけが
サービスのすべてだったのです。その当時のインターネットの利
用の状況について、浅羽登志也氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 これは道路の比喩でいえば、どこにもつながっていなかった自
宅の前の私道を最寄りの公道につないでもらったので、車を運転
して自由にどこにでも行けるようになった、というのと同じ状態
である。そこから先はユーザーが自分で考えて自分で行動しなけ
れば何もできない。これと同じように、インターネットにつなが
っても、電子メールを使いたければ、自社内でメール配信を行う
ためのサーバーを立ち上げて、ISPのメールサーバーに接続し
クライアントソフトウェアも入手して、その設定も自分でやらな
ければならなかった。情報サービスを利用したければ、そのサー
ビスを利用するために必要なソフトウェアを入手し、サーバーの
ドメイン名など必要な情報を調べ、ソフトウェアの設定を自分で
行わなければならなかったのだ。      ──浅羽登志也氏
   ──出井伸之監修/角川インターネット講座の前掲書より
─────────────────────────────
 どんな技術でもそうですが、その初期の使い勝手はけっしてよ
くないものです。当時のインターネットは、そのプロトコルであ
るTCP/IPプロトコルをよく理解した人でないと、利用する
ことは難しかったのです。
 初期のこのように使い勝手の悪かったインターネットを素人で
も使えるように劇的に変えたのは、ティム・バーナーズ=リー氏
の開発によるWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)だっのです。
WWWについては、明日からのEJで述べることにします。
           ──[ウェブ3/メタバース/012]

≪画像および関連情報≫
 ●インターネットの歴史と発展/IIJ
  ───────────────────────────
   インターネットが発展してきた今日、もはやインターネッ
  トがない世界を想像すらできなくなってしまいました。いま
  や検索だけでなく、ビジネスや金融、公共サービスなど、イ
  ンターネットは、ありとあらゆるものに関係しています。電
  気・ガス・水道に次いで生活に欠かせないものになっている
  といえるでしょう。
   では、インターネットが普及する前は、コンピュータ同士
  の通信はどのような方法が使われていたのでしょうか?
   当時のコンピューターネットワークは、特定の目的のため
  にコンピュータを個別に接続したものを指していました。例
  えば、銀行預金の確認用ネットワークであれば預金確認のみ
  商品発注のネットワークであれば商品発注のみのネットワー
  クで、用途に限ったネットワークだったのです。
   なお、日本で初めてコンピュータのネットワークが実用化
  されたのは、1964年の東京オリンピックだと言われてい
  ます。各会場での競技結果を集計し、放送センターに集まっ
  た各国のマスコミに向けて、情報を伝えるための専用ネット
  ワークとして作られたものでした。そもそもインターネット
  は研究目的で作られたもの。それまで専用のネットワークだ
  ったものを、汎用性のあるものにしようということが研究目
  的のひとつでした。      https://bit.ly/3expTYu
  ───────────────────────────
インターネットの歴史.jpg
インターネットの歴史
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2022年10月20日

●「WWW技術の意味するものは何か」(第5837号)

 インターネットの原型は、1969年に米国で構築されたネッ
トワーク「ARPA(アーパ)ネット」といわれています。この
「ARPA」とは何でしょうか。これは、米国高等研究計画局の
ことです。現在は、これに「Defense」(国防) の「D」が加え
られ、「DARPA(ダーパ)」といわれています。
─────────────────────────────
   ◎ARPA/米国高等研究計画局
    Advanced Research Projects Agency
   ◎DARPA/米国国防等研究計画局
    Defense Advanced Research Projects Agency
─────────────────────────────
 1983年になって、ARPAネットに現在のインターネット
のプロトコルであるTCP/IPが採用され、本当の意味でのイ
ンターネットの原型が出来上がったといえます。
 それはさておき、初期のインターネットは、商用サービスがは
じまったといっても、非常に使い勝手がよくなく、素人ユーザー
が使いこなすにはハードルが高かったといえます。技術者、研究
者しか使いこなせないネットワークであったといえます。その使
いにくさを一挙に変えたのはWWW──ワールド・ワイド・ウェ
ブの登場からです。そのとき、何が起こったのかについて知って
おくべきことがあります。
 ウェブの生みの親は、既に述べているように、ティム・バーナ
ーズ=リー博士(1955年6月8日〜)です。ティム氏は英国
のコンピュータ科学者であり、2012年のロンドン五輪の開会
式の第2部にも登場しています。英国はもちろん世界的にも有名
人ですが、日本人でティム氏のことを知る人は、ほとんどいない
と思います。開会式のそのときの状況についてご紹介します。ご
覧になった人も多いと思います。
─────────────────────────────
 最終部では、イギリスの計算機技師でWWWの生みの親である
ティム・バーナーズ=リーが登場。世界初のウェブ・サーバと、
ウェブブラウザを開発したネキストキューブも登場させ、リーが
「これはみんなのために」というメッセージをタイプすると、観
客席のLED照明にも同様の文字が表示された。このメッセージ
は、世界を皆で共有するためのWWWと、競争相手とオリンピッ
クを観戦する人々の多様性に対する援用の両方の表明であった。
       ──ウィキペディア https://bit.ly/3VvFM21
─────────────────────────────
 それではWWWは何なのでしょうか。
 そもそもインターネットの前身であるARPAネットの目的は
巷間いわれている軍事目的ではなく、学術研究者の情報や研究の
データをスムーズに閲覧できるようにすることにあったのです。
しかし、ARPAネットでは、その目的が実現できておらず、そ
れを名実ともに実現したのは、スイスにある研究機関であるCE
RN(セルン)に研究者として籍を置いていたティム・バーナー
ズ=リー氏の発案によるWWWだったのです。
 1991年8月6日のことです。ティム氏は、世界初のウェブ
サイトを公開しています。英国ではこの日を「ウェブの誕生日」
と呼んでいます。そのときの目玉になったのが、「ハイパーテキ
スト(Hyper Text)」という仕組みです。このハイパーという言
葉は「驚くべき」というような意味があり、ハイパーテキストは
「驚くべき文字」「驚くべき文書」ということになります。「驚
くべき文字」とは一体何でしょうか。
 それは、今では当たり前になっていますが、文字をクリックす
ると、他のウェブページに移動する「リンク」の機能を意味して
おり、そういう機能を持っている文書のことを「ハイパーテキス
ト」といっています。
 ティム氏は、研究に関係のある文献やデータをできる限り、一
つのコンピュータに集め、さらにそれらの文書同士をリンクさせ
る仕組みを考案し、実現させたのです。そういうウェブサイトを
構築するための約束事を「HTML」という言語にまとめ、誰で
もこの言語を使えば、容易にウェブサイトを作れるようにしてい
ます。HTMLは次の言葉の略です。
─────────────────────────────
      ◎HTML
       HyperText Markup Language
─────────────────────────────
 ティム氏はこのとき、「WWWクライアント」というブラウザ
を開発し、無料で公開しています。ブラウザがないと、ウェブサ
イトを見ることはできないからです。ティム氏はこのブラウザに
ついて、その作り方すべて公開しています。ティム氏のこの情報
の公開によって、激しい「ブラウザ戦争」が起きるのですが、こ
れについては改めて述べます。
 なぜ、WWWという名称にしたかについては、紆余曲折があっ
たようです。当初は、「The Information Mine/情報鉱山」とい
う名前にしようと思ったそうです。これなら「TIM/ティム」
となるからです。しかし、ティム氏は、それでは自分本位過ぎる
として撤回し、WWWにしたそうです。
 整理すると、ティム氏の開発したのは、次の3つの技術という
ことになります。
─────────────────────────────
   @ URL ・・ ウェブページの所在地指定記号
   AHTTP ・・ 通信のさいの転送のプロトコル
   BHTML ・・ ウェブページ作成のための言語
─────────────────────────────
 この仕組みは、現在われわれがウェブサイトを作成したり、多
くの人がアクセスしてウェブサイトを見ることができる仕組みの
すべてです。しかし、これほどの発明をした偉人を多くの日本人
は、なぜ名前すら知らないのでしょうか。
           ──[ウェブ3/メタバース/013]

≪画像および関連情報≫
 ●WWWの誕生から30年、インターネットはどこに
  向かうのか/ティム・バーナーズ・リー氏
  ───────────────────────────
   わたしがワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の基になる
  情報管理システムの提案書を書き上げた1989年3月から
  ちょうど30年が経った。現在、世界の半分はインターネッ
  トに接続されている。この機会にここまでたどり着いたこと
  を祝うと同時に、達成できていないことは何かを考えてみる
  べきだろう。
   ウェブは公共の広場、図書館、医者のいる場所、小売店、
  学校、デザイン事務所、企業のオフィス、映画館、銀行など
  実にさまざまな役割を果たすようになっている。新しいウェ
  ブサイトが開設され、これまでになかったサーヴィスが始ま
  るたびに、ネットにつながっている人々とそうでない人々の
  格差は拡大していく。このため、万人がウェブにアクセスで
  きるような環境を整えることが緊急の課題となる。
   インターネットは、これまで周縁部に追いやられていたグ
  ループに発言の場を提供することで新たな機会を創出し、生
  活の利便性の向上に寄与した。その一方で、犯罪者にもチャ
  ンスを与えた。ウェブは憎しみを拡散する手段となり、あら
  ゆる種類の違法行為を容易にしている。ネットが悪用される
  事例が頻繁に報じられるなか、これに恐怖を抱き、ウェブは
  本当に世の中をよい方向に向かわせることができるのか疑問
  に感じる人がいることは理解できる。ただ、過去30年で、
  ウェブがどれだけ変わったかを思えば、この先の30年でこ
  れと同じだけプラスの変革を遂げることができると期待しな
  いのは、いささか想像力に欠けるし、なによりも戦う前から
  敗  北を認めるようなものだ。https://bit.ly/3yM7pdy
  ───────────────────────────
WWWの開発者/ティム・バーナーズ=リー氏.jpg
WWWの開発者/ティム・バーナーズ=リー氏
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2022年10月21日

●「ウェブ基盤技術関連の3つの技術」(第5838号)

 今やインターネットといえばWeb(ウェブ)の時代です。こ
のウェブに関連する基盤技術を開発した人がティム・バーナーズ
=リー氏です。ウインドウズ95に付属していたブラウザには、
デスクトップ上で「インターネット」というラベルが付けられて
いたので、ユーザーは「インターネット=ウェブ」だと思うよう
なったといいます。
 しかし、ウェブの登場は、それ以前からインターネットにかか
わってきた人々にとっては、あまり愉快なことではなかったよう
です。これについて、日本のインターネットの草分けといわれる
村井純慶応義塾大学名誉教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウインドウズ95とともに、インターネットの利用者は急激に
増加したが、早くからインターネットにかかわっていた技術者は
少々苦い思いでいた。(中略)長い年月をかけて基礎技術を積み
上げてきたインターネット屋にしてみれば、ブラウザーの背後で
動いているインフラのほうこそがインターネットなのだ。まだ簡
素なマークに従って文書を表示するばかりであったウェブが、イ
ンターネットと思われるのは面白くなかった。それは日本でも同
じである。インターネットコミュニティは、ウェブが「お嫌い」
だった。このため、ウェブ記述に使うHTMLの標準化も、ウェ
ブ技術の標準化団体であるW3Cに押し出した形になった。イン
ターネット屋とインターネット利用者の乖離の始まりである。
           ──村井純著『インターネットの基礎/
  情報革命を支えるインフラストラクチャー』/角川学芸出版
─────────────────────────────
 要するに、インターネットはインフラであり、ウェブ、すなわ
ち、WWWはそのインフラの上に築かれたものであるという考え
方です。そのインフラとしての基礎技術を積み上げてきた人々に
とってWWWは、あまり面白くはなかったようです。
 ティム・バーナーズ=リー氏の開発したウェブ基盤技術の3つ
を再現します。
─────────────────────────────
   @ URL ・・ ウェブページの所在地指定記号
   AHTTP ・・ 通信のさいの転送のプロトコル
   BHTML ・・ ウェブページ作成のための言語
─────────────────────────────
 これら3つの技術は、ウェブサイトにアクセスし、それを表示
させる技術です。添付ファイルにしたがって説明します。
 クライアントは、ブラウザを起動し、インターネット上のもの
や情報の位置を示す「URL」を指定し、インターネット上にあ
るウェブサーバーに対して、コンテンツを取り寄せる方法である
「HTTP」で送信リクエストを行います。なお、URLは「U
RI」ともいいます。
 ウェブサーバーは、その送信リクエストを受け付けて、指定の
「HTML文書」(HTMLで記述された文書)をHTTPでク
ライアントに送信してきます。そして、クライアントは、その送
信されてきたHTML文書をディスプレイに送信させるのです。
 これら3つの技術のうち、HTML文書の概念は、米国の社会
科学者にして思想家のテッド・ネルソンが実現しようとしていた
ハイパーテキストのアイデアからティム氏がヒントを得て、ウェ
ブサイトを発明しています。これについて、村井純教授は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 HTML文書の最も大きな特徴は、情報の断片から別の情報の
断片へとリンクをたどっていけることだ。この概念はすでにテッ
ド・ネルソンが1960年から実現しようとしてきたハイパーテ
キストというシステムに見ることができる。ネルソンは、決まっ
た順番で情報を読むのではなく、人の思考に沿って、どこからで
も読み始められ、好きな情報にわたり歩け、しかも改訂ができる
壮大な文献システムをコンピューターネットワークの上につくり
たかったのだ。
 CERNに滞在していたティム・バーナーズ=リーは、そのハ
イパーテキストのアイデアに触発され、それを実現するHTML
という簡便な方法を考えた。そしてマーク・アンドリーセンらが
そのHTML文書を解釈して表示するモザイクというブラウザー
をつくつたのである。それが、現在のブラウザーの始祖である。
HTTPという通信手順はそのときにできた。
          ──村井純著/角川学芸出版の前掲書より
─────────────────────────────
 クロード・シャノン、ポール・バラン、ティム・バーナーズ=
リー、ボブ・メトカーフ、そして村井純──これらの名前を現代
の大学生に問うと、ほとんど誰も知らないのが実情です。ちなみ
に、クロード・シャノンは情報工学理論の創始者で、情報の最小
単位「ビット」の概念の考案者、ポール・バランはパケット交換
方式の開発者、ティム・バーナーズ=リーはウェブサイトの開発
者、ボブ・メトカーフはイーサネット(LAN)の開発者、そし
て村井純氏は、日本のインターネットの普及・発展に尽くしてい
る「日本のインターネットの父」といわれる人物です。いずれも
現代のITの発展に不可欠な「ITの偉人」ばかりですが、なぜ
現代人が知らないのかというと、学校でインターネットそのもの
について、教えていないのだと思います。
 現代は、インターネットなしには1日も暮らせないほど、イン
ターネットが深く浸透しています。そのインターネットは、どの
ような経緯で誰が考案し、どのようにして実用化されたかという
インターネットの歴史について知ることは、非常に重要であると
考えます。そうでないと、既にウェブ3という新しいインターネ
ットの時代に入っている現代を生き抜くことが難しくなります。
PC、タブレット操作やプログラミングも大切ですが、インター
ネットの歴史についても小学生から教えるべきです。
           ──[ウェブ3/メタバース/014]

≪画像および関連情報≫
 ●ホームページ制作の歴史
  ───────────────────────────
   アメリカ国防省のサポートを得てW3Cを設立し、今では
  世界で約400社以上のW3Cメンバー企業との共同運営で
  進められています。設立場所がアメリカでしたので、Web
  はイギリス生まれ、アメリカ育ちという事になります。
   Webに関わる数え切れない位の会社やサービスが誕生し
  て来ましたが、2014年は、W3CがHTMLのルールを
  作り始めて20年の節目になります。
   2014年10月28日にW3Cが「HTML5」という
  次世代HTMLの仕様を完全に決め、規格文書が公式に発表
  されました。「HTML4.01」 1999年にリリースさ
  れていますので、ここまで大きいリリースは、約15年ぶり
  になります。
   HTML5は、Webサイトを作るための役割だけでなく
  ウインドウズやマック、アンドロイドやアイフォーンなど環
  境に依存せず、ブラウザさえあればアプリも動く事のできる
  言語でもあります。テレビ、カーナビ、エアコン、洗濯機な
  ど、PCハードの環境を備えていれば、どこにでもブラウザ
  を載せて、Webと繋げられるのです。プラグイン等を利用
  しなくてもブラウザで動きます。それらに技術は業界の垣根
  も飛び越えます。        https://bit.ly/3TyfieD
  ───────────────────────────
ウェブサイトはどのように表示されるか.jpg
ウェブサイトはどのように表示されるか
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2022年10月24日

●「ニコラ・テスラを知っているのか」(第5839号)

 私はここ20年ほど、エンジニアのたまごの若者たちに、IT
技術を教えています。そのとき、必ずいう言葉があります。「良
いエンジニアになるにはその技術の歴史をたどれ!」です。どん
な技術にもその発明者や考案者がおり、彼らの足跡をたどれば、
何を目的としてどのようにその技術を開発したかがわかります。
これはエンジニアにとって新しい技術の開発のヒントになること
が多いからです。
 ウェブ3も同じであると思います。現在のウェブ2をよく知ら
ずして、いきなりウェブ3に挑んでも、理解することは困難であ
ると思います。だから、ウェブ2の歴史をたどっているのです。
 ITそのものの話ではありませんが、ITに不可欠な電気の話
をします。電気の発明がトーマス・エジソンの手になることは誰
でも知っています。エジソンは、生涯におよそ1300もの発明
と技術革新を行った人物です。蓄音機、白熱電球、活動写真など
──すべてエジソンの発明です。
 エジソンは、J・Pモルガンから多額の出資を受け、エジソン
・ゼネラル・エレクトリック社(現在のGEの前身)を設立し、
発電から送電までを含む電力系統の事業化に成功しています。し
かし、そのとき、エジソンの電力会社には、クロアチア出身のセ
ルビア系米国人のきわめて優秀な電気エンジニアがいて、エジソ
ンに常日頃からアドバイスしていたことを知る人はきわめて少な
いと思います。そのエンジニアの名前はニコラ・テスラです。
 しかし、多くの場合、エジソンとテスラは技術の論争で意見が
合わず、不仲であったといわれます。そのため、テスラは、1年
ほどでエジソンの会社を退社し、新会社を立ち上げ、多くの発明
をしていますが、そのほとんどはエジソンの高名の陰に埋もれて
今や知る人ぞ知る存在になっています。エンジニアとしては、非
常に不幸な人生を送った人です。
 しかし、ニコラ・テスラの名前は、確実に現代に蘇ってきてい
ます。交流電気方式をはじめ、無線操縦、蛍光灯などといった現
在において使われている技術も多いからですが、何といってもあ
の電気自動車メーカーのオーナーで、宇宙ビジネスも手掛け、最
近では衛星を使った通信システム「スターリンク」の開発者とし
て名高いイーロン・マスク氏が、ニコラ・テスラという天才エン
ジニアの偉業を忘れないように、自社の自動車会社の社名を「テ
スラ・モーターズ」と名付けたからです。
 テスラは電気や電磁波を用いるテクノロジーの歴史を語るうえ
で重要な人物であり、磁束密度の単位「テスラ」にその名を残し
ており、LIFE誌が1999年に選んだ「この1000年で最
も重要な功績を残した世界の人物100人」に選ばれています。
 さて、エジソンとテスラが激しく意見を戦わせたという送電方
式について述べることにします。テスラは、学校の授業で、「グ
ラム発電機(発電機とモーターの機能を併せ持つ直流電流の発電
装置)」がモーター回転時に激しく火花を発しているのを見て、
そこにエネルギーの損失が起こっていることを見抜き、発電方法
の改善を考えはじめるのです。
 その研究の結果、世界ではじめての交流電流の発電装置を発明
します。テスラは、これをもとにして、交流電流による発電・送
電のアイデアを発展させていきました。その結果、テスラは電気
の送電方式は交流で行うべしという意見を述べ、直流を主張する
エジソンと激しくぶつかったのです。おそらくエジソンには、交
流というものが理解できなかったものと思われます。この論争の
結果、テスラはエジソンとたもとを分かつことになります。
 その結果は、どうなったでしょうか。エジソンは電気の発明家
として世界的に有名になり、世界中の小学校の教科書にそのこと
が載っている偉人です。これに比べると、テスラのことを知る人
はわめて少ないです。
 エジソンとテスラの電気の送電方式の論争の勝敗はどのように
着いたのでしょうか。電気には次の2つがあります。
─────────────────────────────
       交流 ・・・ Altermate Current
       直流 ・・・   Direct Current
─────────────────────────────
 家庭のAC電源から得られる電流は交流です。これは英語の読
みを見れば明らかです。いわゆるAC電源から得られる電気は交
流なのです。電気を送るとき、直流で送るべきと主張するエジソ
ンと交流を主張するテスラ、この勝負はテスラの勝利であり、エ
ジソンの完敗です。
 ちなみに、電池に豆電球をつないで光らせるときに流れる電気
は直流です。電気はつねに一方通行で変化しません。一方、交流
は、電気の流れや電圧が変化する特性があり、送電に適していま
す。したがって、送電には直流電流よりもコストがかからず、利
用者の扱いやすい電圧に変圧できるメリットがあります。
 上述の通り、電池から流れる電気は直流です。そのため、バッ
テリーを内蔵した製品の電気系統は直流で構成されています。自
動車やノートPC、スマホは直流です。そのため、AC電源を使
うときは、交流を直流に変換する装置が必要です。テレビやデス
クトップPCやステレオなどは、動作に安定した電圧が必須のた
め、交流を直流に変換して使っています。
 こういう事情からすると、エジソンを発明王、電気の発明者と
称えるのはよいとして、エジソンに反対し、あくまで交流での送
電方式を主張し、結局それが正しかったたニコラ・テスラのこと
も合わせて伝えるべきであります。
 今から考えると、エジソンは典型的な実験科学者、テスラは理
論科学者として研究手法が「水と油」であったことが示唆されま
す。テスラは、IEEEの最高勲章である「エジソン勲章」の受
章を1916年に打診され、一度は固辞するものの、1917年
に受賞しています。現代人は、この天才科学者、ニコラ・テスラ
のことをもっと詳しく知るべきであると思います。
           ──[ウェブ3/メタバース/015]

≪画像および関連情報≫
 ●テスラCEOも惚れた天才科学者の孤独死
  ───────────────────────────
   富も名声も得たはずのカリスマが、貧しく寂しい最期を迎
  える。それはなぜ?ビジネスと人生の失敗学を探求する本連
  載。第1回に取り上げるのは、天才科学者ニコラ・テスラ。
  電気自動車のテスラを率いるイーロン・マスクCEOをはじ
  め、スタートアップ界隈を中心に今も多くのファンを持つ。
  発明王エジソンを負かしたはずが、ホテルの一室で孤独死。
  どうして一体、こんなことに・・・。
   男が暮らしていたホテルのドアには、「ドント・ディスタ
  ーブ(起こさないでください)という札が三日間もかけられ
  たままだった。不審に思ったメイドが中に入ってみると、男
  はベッドで息絶えていた。検死の結果、死亡推定日時は19
  43年1月7日の午後10時半、死因は冠動脈血栓症とされ
  た。男は自宅を持たず、長年ホテル暮らしを続けてきた。か
  つてはウォルドーフ・アストリア・ホテルなどの名門ホテル
  を定宿とし、食事もホテルの高級レストランで取るという贅
  沢な暮らしをしていた。しかし、晩年は借金を抱えて支払い
  が滞り、宿泊費の安いホテルに、移らざるを得なくなってい
  た。男の日課は近くの公園にいるハトのエサやりだった。体
  調がすぐれないときには、ホテル従業員に「代行」を依頼す
  るほど溺愛していたという。生涯独身で極度の潔癖症、身の
  回りの世話を他人に委ねることを拒んでいた男にとって公園
  にいるハトが唯一心を開くことができる存在だったようだ。
  男の名前はニコラ・テスラ(Nikola Tesla)。
                 https://bit.ly/3shDNB3
  ───────────────────────────
天才科学者ニコラ・テスラ.jpg
天才科学者ニコラ・テスラ
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2022年10月25日

●「ニコラ・テスラとラリー・ペイジ」(第5840号)

 昨日、ニコラ・テスラの話をしましたが、このニコラ・テスラ
は、約100年以上前に「ニューヨーク・タイムズ」上で、「無
線の未来」というタイトルで、次のコラムを書いています。読ん
でみてください。
─────────────────────────────
 無線技術が発達すれば、ニューヨークのビジネスマンがロンド
ンのオフィスへ瞬時に指示を出すことが出来る。時計より小さい
その機械で音楽や歌、政治指導者のスピーチ、牧師の説教を遠く
どこからでも聞くことが出来る。また、同じようにして任意の画
像・図面・プリントを1つの場所から送信することも可能であり
それを一つの機械から万人へ送信することも可能になるだろう。
今後数年間の技術が良い発展を遂げるなら、私たちはそのような
未来を確信することが出来ると思う。 https://bit.ly/3F8Fgl2
─────────────────────────────
 このなかで「時計より小さいその機械」というものは、どうみ
ても現代のスマホです。その機械で音楽も聴けるし、写真や画像
などもどこへでも送れる──100年前といえば、1922年、
当時は電話が発明された程度で、まだラジオすらなかった時代で
す。これによっても、ニコラ・テスラが、いかに稀有な天才だっ
たかがわかります。ちなみに、日本における初めてのラジオは、
1925年(大正14年)3月のことです。ニコラ・テスラがそ
の時代に既にスマホの出現を予言していたとは驚きです。
 ニコラ・テスラは、生涯独身を通し、家を持たず、ホテル住ま
いだったといいます。当初は、支援者も多かったものの、あまり
にも突飛な発明も多く、次第に支援者が離れ、最後は料金の安い
ホテルで孤独死しています。
 このようなニコラ・テスラの生涯を本を読んで知って、涙した
12歳の少年がいたのです。エジソンを超える能力を持ち、卓越
した技術のアイデアを持っていても、ビジネスのノウハウがない
と成功できないとその少年は悟ったのです。その少年こそ、後の
グーグルの創業者、ローレンス・エドワード・ペイジ氏です。通
常、彼はラリー・ページといわれています。
 ラリー・ページ氏は、ミシガン大学卒業後、スタンフォード大
学計算機科学の博士課程に進学し、ウェブのリンク構造、人間と
コンピュータの相互作用、検索エンジン、情報アクセス・インタ
フェースの拡張性、個人的なデータのデータマイニング手法など
を研究しています。
 そのとき、同じくスタンフォード大学計算機科学の博士課程に
在籍していたセルゲイ・ブリン氏と出会い、次のタイトルの論文
を共著で書いています。
─────────────────────────────
          ラリー・ページ/セルゲイ・プリン共著
    『大規模なハイパーテキスト的なウェブ検索エンジン
                     に関する分析』
─────────────────────────────
 そして、1998年にラリー・ページ氏とセルゲイ・プリン氏
は、共同でグーグル社を設立。従業員が200人程度になったと
き、そのとき既に経営者として経験豊富なエリック・シュミット
氏を誘い、グーグル社の最高経営責任者に擁立したのです。20
01年8月のことです。
 エリック・シュミット氏は、サン・マイクロシステムズ社の最
高技術責任者と執行役員、1997年からソフト開発会社のノベ
ル社の最高経営責任者を務め、重要な経営戦略や技術開発の中心
的な役割を果たしていた人物です。ラリー・ページ氏は、ニコラ
・テスラの例にならい、経営にその道のプロを招聘したのです。
 エリック・シュミット氏のグーグル参加は、今から考えると、
絶妙のタイミングだったといえます。そのときの様子について、
小林雅一氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 当初、グーグルは利益を度外視して検索エンジンの精度やスピ
ードの向上、ユーザーインタフェースの改良などに専念した。こ
れによって、グーグル検索の利用者数はうなぎ上りに増加した。
人々はパソコンを起動すると同時に、ブラウザーを開いてグーグ
ルから暮らしや仕事の情報を漁るようになった。それまでの「ウ
ィンドウズ」のようなOS(基本ソフト)に代わって、グーグル
検索が無数のユーザーとコンピューターを結び付ける事実上のプ
ラットフォームと化した。
 しかし爆発的に増加する利用者とトラフィックに対応して高速
サーバーや大容量のディスクスペースを続々と買い足すなど、グ
ーグルは巨額の設備投資に迫られ、当初の資金は瞬く間に失われ
ていった。利用者ばかりが増え、一向に利益を生み出す気配のな
いグーグルに、クライナー・パーキンスをはじめ大口の投資家た
ちはしびれを切らしはじめた。        ──小林雅一著
                『グーグルのビジネス戦略』
      ──出井伸之監修/『進化するプラットフォーム』
                  角川インターネット講座
─────────────────────────────
 エリック・シュミットCEOが、ラリーページとセルゲイ・プ
リンの2人と相談して始めたのが検索連動広告「アドワーズ」で
す。これは、簡単にいうと、ユーザーが入力する検索キーワード
に関連するシンプルなテキスト広告をPC画面に表示するという
ものです。その表示スペースは、オークション形式によって提供
され、高い料金を受け入れた広告主に対しては画面の上位から目
立つ表示スペースを割り当て、ユーザーからクリックされた回数
に応じても広告にはよい場所が提供されるというものです。
 このアドワーズは、これまでテレビや新聞などのお金のかかる
広告スペースを買うことができなかった中小企業や個人事業主に
人気が出て、グーグルのドル箱となり、2002年には創業以来
初めての黒字化に成功しています。
           ──[ウェブ3/メタバース/016]

≪画像および関連情報≫
 ●「10倍のスケールで考える」/Googleが革新的なプロダ
  クトを生み出すために心がけていること
  ───────────────────────────
  サルマン・カーン氏(以下、サルマン):10〜15歳ぐら
   い世代が違う人として知恵を分けていただきたいのですが
   グーグルのすごいところはエリック、ラリー、セルゲイの
   三頭政治だと思うのです。従来のビジネス論から見ると難
   しいですし、何か判断をする時も大変だと思います。どう
   やって行われたのですか?
  エリック・シュミット氏(以下、エリック):私が語らなく
   とも、ちゃんと機能しているという結果が、何より物語っ
   ていると思います。チームとしてのリーダーシップは、説
   得力ではなく成果で評価するべきです。何も言わずに責務
   を果たすチームは評価されるべきです。
    もうひとつ思うのは、世界的にもこの業界においても成
   功する会社は、複数のリーダーがいる会社だと思います。
   メディアはひとりの人物を持て囃しがちです。もちろんそ
   の人も賞賛されるべきですが、実際は数人で動いているの
   が実情なのです。
    ラリーとセルゲイと共に築き上げた関係性の中では、お
   互いの意見をたくさん言い合います。会社としても、オー
   ナーとしても、勝つために言い合っていることを認識して
   いたから、お互いの動機に対する疑問は一度も抱いたこと
   はありません。具体的な戦略で揉めることはありましたが
   それはむしろとても良いことです。
                  https://bit.ly/3TPuRif
  ───────────────────────────
エリック・シュミット氏.jpg
エリック・シュミット氏
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2022年10月26日

●「GAFAによる事実上の言論統制」(第5841号)

 10月22日のことです。中国共産党大会の閉幕式で、胡錦濤
前総書記の不自然な議場からの退席がありました。共産党大会は
非公開ですが、閉幕式の一部はメディアに公開されます。胡前総
書記の退席は、メディアが会場に入った直後の出来事です。
 映像を丁寧に見ると、本人は、退出を嫌がっているのに、屈強
なスタッフに無理やり右腕を掴まれて意思に反して退席させられ
たようにしか見えません。本来であればこういうモメ事はメディ
アに見せないようにするものですが、それを党大会に出席する幹
部に対して見せたということは、習近平新体制から幹部へのメッ
セージ──中国共産党青年団派はもういらないというメッセージ
のように思えるのです。実際に、同派の李克強氏、汪洋氏、そし
て首相確実とされた胡春華氏は、いずれもチャイナセブンから外
されています。
 24日になって、新華社はこの退出事件を「胡氏の体調不良」
と伝えていますが、それはツイッターで英語で伝えられ、国内メ
ディアは、この退席事件を封印し、ネットも含めて一切伝えてい
ません。中国国内では、ツイッターは使えないようになっており
新華社があえてツイッターを使ったということは外国向けである
ことは明らかです。ツイッターに代表されるSNSは、中国のよ
うに、国家が介入して、都合の悪い情報は流さないようにもでき
るメディアなのです。
 現代人の9割近い人がインターネットを利用し、自由な経路で
自由に情報を得ていると思っていますが、実際にどのようにして
情報を入手しているかについて考えると、ほとんどGAFAに閉
じ込められてしまっているといえます。
 インターネット上で情報を調べようとする人のほとんどは、グ
ーグルのサーバーに接続し、検索のエンジンを使い、サイトにた
どり着いています。ちなみに、グーグルの世界シェアは92%で
す。フェイスブック(現メタ)で友達とメッセージを交わそうと
すると、フェイスブックのサーバーに接続し、そこに多くのプラ
イベートの情報を残すことになります。さらに、ネットで何か買
い物をしようとすると、日本人の40%以上は、アマゾンのサー
バーと対話することになります。
 スマホから情報を得るには、そのためのアプリをダウンロード
する必要があります。そのアプリは、次のマーケットから入手す
ることになります。しかし、そのほとんどは、アップストアか、
グーグルプレイから入手しています。
─────────────────────────────
            アップストア
           グーグルプレイ
        アマゾンアプリストア
        マイクロソフトストア
               その他
─────────────────────────────
 これらの情報の提供者であるGAFAは、一定の規約に従って
流す情報を制限しています。社会に悪影響を与えると考えられる
情報などは制限し、流さないようにすることができます。この基
準が甘いと、GAFAにとって都合の悪い情報を流さないように
することも可能です。ユーザーにとっては、無料なので、自分が
検索した情報が出てこないからといって、文句をいう人はいない
はずです。そうなると、GAFAが見てよいと判断する情報しか
ユーザーは読めないことになります。現在のインターネットであ
るWeb2.0 はそういう世界です。これは、それだけGAFA
の力が強いことを意味しています。
 もし、GAFAの規約に従わないで、問題のある情報を発信し
続けたとすると、最悪の場合、トランプ前米大統領がツイッター
フェイスブック、ユーチューブから公式アカウントを停止された
ように、事実上インターネットが使えなくなります。このように
インターネットが使えなくなることを「グーグル八分」といって
います。実際問題として、もし、グーグルが一切使えなくなると
インターネットの利用は困難になります。
 実は、グーグル傘下のユーチューブは、各国の国家機関と連携
して、不適切な投稿動画を削除するため、日本の法務省を「公認
報告者」として2021年に認定しています。日本の国家機関が
公認報告者になることははじめてのことです。これが過度に過ぎ
ると、言論の自由の阻害になります。朝日新聞デジタルの記事を
以下に示します。
─────────────────────────────
 動画投稿サイト「ユーチューブ」に不適切な投稿の情報を提供
する「公認報告者」として、法務省が運営会社のグーグルから認
定を受けた。日本の政府機関では初めて。後を絶たないネット上
の誹謗(ひぼう)中傷に対し、同省は巨大IT企業と連携を進め
ることで対策の強化を図りたい考えだ。
 ユーチューブは、自動検出システムやユーザーからの情報提供
により、差別表現や嫌がらせなどの不適切な投稿を見つけ、ガイ
ドラインに違反していないか審査のうえ削除している。情報提供
の実績から信頼できると判断した個人や団体を公認報告者に認定
しており、その情報は優先的に審査される。
 法務省は、ネット上の投稿について全国の法務局で相談を受け
て対応を助言しているが、中でも個人で解決が難しいものについ
ては違法性を調査のうえ、サイトやSNSの事業者、プロバイダ
に削除を要請している。グーグルから認定を受けたことで、より
効果が上がることが期待される。
 同省が人権侵害の疑いがあると判断した相談は、昨年1年間に
1693件。2011年の636件から増え続けて17年には、
2217件と過去最多を記録し、その後も高止まりの状況が続い
ている。(伊藤和也) ──2121年4月30日付、朝日新聞
                  https://bit.ly/3z3UyDt
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/017]

≪画像および関連情報≫
 ●GAFA規制「12の論点」
  ついに姿を表した新しい枠組みとは
  ───────────────────────────
   グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのGAF
  A各社は、近年のテック大手規制分割論の高まりに対して、
  「政府規制に賛成しながら、そのルールを自ら作る」、「従
  来の自主規制の枠組みを根本から変えるのではなく、運用を
  アップデートする」ことを主張してきた。
   7月23日には米司法省が反トラスト法(独占禁止法)に
  違反していないか、「検索やソーシャルメディア、ネット小
  売」に対する調査を開始したと発表した。それぞれグーグル
  フェイスブック、アマゾンを指すものと解釈されている。ユ
  ーザーの不利益を、従来より幅広く解釈する姿勢を打ち出し
  た。その一方で、翌7月24日には米連邦取引委員会(FT
  C)のフェイスブックに対するプライバシー侵害を巡る調査
  が終了し、制裁金50億ドル(約5400億円)の和解案で
  合意がなされ、事実上の自主規制を同社に認める形で調査が
  決着した。
   これは、フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執
  行責任者(COO)が、「弊社は世界各国の政府と協力して
  正しいルールの制定に努力している」と述べるなど、規制さ
  れる側がそのルールの決定や運用に関与すべきとの立場を追
  認したものだ。さらに各社は市場独占を防ぐ規制分割論に対
  する強固な反論を用意している。複数の米メディアに挙げら
  れた主張をまとめてみた。   https://bit.ly/3F7NN7C
  ───────────────────────────
胡錦濤前総書記/不可解な退出.jpg
胡錦濤前総書記/不可解な退出
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2022年10月27日

●「PRISMとGAFAその関係は」(第5842号)

 中国は超監視社会といわれています。それは、高度に発達しつ
つあるAI(人工機能)を使って、超高度の監視体制を築き上げ
ています。これに関して次のような話があります。
─────────────────────────────
 上海を訪れた日本人ビジネスマンが、財布を無くし、交番に駆
け込んだ。そのわずか1時間後、警察からビジネスマンに「財布
が見つかった」と連絡があった。警官の説明はこうだ。
 「あなたはけさ、8時45分23秒に滞在先のホテルを出まし
たね。8時47分32秒にタクシーを拾い、9時12分29秒に
降りましたね。通りを歩いた人混みの中で財布をすられました。
それは9時15分45秒の出来事です。犯人はすぐにわかりまし
た。こうして財布は戻りました」。警察官はこう言って胸を張っ
た。「わが国は世界で最も安全な国なのです」。
                  https://bit.ly/3srBN9w
─────────────────────────────
 このようなハイテクによる監視社会の構築には、何かと批判が
多いものですが、程度の差こそあれ、どこの国でもやっているこ
とです。とくに米国は、こういうことでもダントツの先進国であ
るといえるのです。
 2013年のことです。米国政府によるネット監視が批判のマ
トになったのです。米国家安全保障局(NSA)が、世界中で、
メールなどから個人情報を閲覧していたことが暴露されたからで
す。米政府も「テロ行為を未然に防ぐ目的で行っていた」とこれ
について認めています。具体的な証拠を突きつけられたので、認
めざるを得ない状況に追い込まれたのです。
 英ガーディアン紙が、「NSAがベライゾンやAT&Tなどの
米通信大手企業から通話記録を令状で入手していた」と報じたこ
とが始まりで、NSAは「PRISM(プリズム)」と呼ばれる
監視・閲覧機能を使って、世界中のメールを閲覧していることが
明らかになったのです。
 この情報をリークしたのは、元CIA(米中央情報局)職員の
エドワード・スノーデン氏であり、何しろ顔出しで登場し、暴露
したので、大騒ぎになったのです。スノーデン氏は、米国を脱出
し、一時香港に在住していましたが、現在は亡命を求めて、ロシ
アにいるといわれています。この「PRISM」にGAFAが協
力していることはいうまでもないことです。
 GAFAについて詳しく知る必要があります。GAFAは何に
よって企業を支えているか、基本的なことを整理してみます。い
ずれも2021年のデータです。
 第1は「G」──グーグルです。なお、グーグルのグループ企
業は「アルファベット」(2015年設立)といいます。グーグ
ルのプラットフォームは、検索エンジンの「グーグル」、スマホ
用OS「アンドロイド」、アプリストア「グーグル・プレイ」、
グーグルサービスとしては、Gメール、グーグル・マップなど多
数があります。その割合は次の通りです。
─────────────────────────────
          検索広告 ・・ 57.8%
      ユーチューブ広告 ・・ 11.2%
         ネット広告 ・・ 12.3%
      グーグルサービス ・・ 10.9%
      グーグルクラウド ・・  7.5%
           その他 ・・  0.3%
─────────────────────────────
 第2は「A」──アップルです。
 アップルのプラットフォームは、アイフォーン、マック、アイ
パッドなどのハードウェアです。アップルは2015年から音楽
ストリーミングサービス「アップル・ミュージック」をはじめて
おり、世界で6000万人以上が利用しています。
─────────────────────────────
        アイフォーン ・・ 52.5%
           マック ・・  9.6%
         アイパッド ・・  8.7%
   その他周辺アクセサリー ・・ 10.5%
          サービス ・・ 18.7%
─────────────────────────────
 第3は「F」──フェイスブック(現メタ)です。
 メタのプラットフォームはSNSの「フェースブック」と「イ
ンスタグラム」であり、それに関連する広告収入が同社を支えて
います。広告オンリーが企業の支えです。
─────────────────────────────
            広告 ・・ 97.5%
           その他 ・・  0.6%
─────────────────────────────
 第4は「A」──アマゾンです。
 アマゾンのプラットフォームは、何といっても、ECサービス
の「アマゾン」です。アマゾンは、世界に向けて強力な営業力を
持っており、世界中のメーカー、販売業者がアマゾンで自社商品
を扱ってもらいたいと考えています。アマゾンは、どのような人
がどのような商品を購入しているかのデータを保有しているので
小売業にとってアマゾンは不可欠なプラットフォームです。
─────────────────────────────
          EC小売 ・・ 47.3%
    販売業者向けサービス ・・ 22.0%
 サブスクリプションサービス ・・  6.8%
            広告 ・・  6.8%
           AWS ・・  6.6%
          店舗販売 ・・ 13.2%
           その他 ・・  0.5%
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/018]

≪画像および関連情報≫
 ●GAFA徹底解説「4社の実態と今後の動向」
  ───────────────────────────
   米国のGoogle、Apple、Facebook、Amazon の4大ネット企
  業をGAFA(ガーファ)と呼ぶことに対し、中国の代表的
  な民間巨大企業で3大ネット企業のバイドゥ、アリババ、テ
  ンセントの3社を「BAT(バット)」と呼ぶ。中部大学特
  任教授の細川昌彦さんは、「中国は米国のGAFAをコピー
  した『BAT』で成功したが、国家主導が行き過ぎて、欧米
  の対中警戒感を強めてしまった。このままでは中国の『デジ
  タル覇権』は失敗する」という。
   GAFAは、「神にも擬せられる力をもつ」といわれる。
  共通するのは、市場の変化をとらえた戦略を大胆に編み出し
  ていくマネジメント能力の高さである。GAFAはインター
  ネットという市場を貪欲に開拓した。検索エンジン、音楽配
  信、SNS、eコマースなどの領域で、新しい稼ぎ方をいち
  早く見いだしていった。
   一方、日本の主要企業は、品質の高い製品を提供する管理
  能力には優れていたが、従前のビジネスモデルにとらわれて
  しまった。この差は、時価総額のちがいに現れている。米国
  の経済成長を支えてきたIT先端企業の成長期待が低下しつ
  つある。その1つが、2018年3月に起こったフェイスブ
  ックのデータ不正流出問題だ。グーグルに関しても、データ
  セキュリティ面への不安が高まっている。ユーザーの個人情
  報をどう管理・保護していくかは、多くのIT企業に共通す
  る課題だ。アマゾンに関しても、データ管理・保護に関する
  規制強化の影響は免れない。   https://bit.ly/3TyMgfi
  ───────────────────────────
エドワード・スノーデン氏.jpg
エドワード・スノーデン氏
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2022年10月28日

●「GAFAと政治との関係性を探る」(第5843号)

 Web2.0 によってGAFAが誕生し、GAFAの数多くの
無料サービスを享受している一般人からすれば、便利になったと
感じている人は多いと思います。しかし、GAFAを政治という
観点でとらえると、いろいろ問題が出てきます。
 米国には、「通信品位法」という法律があります。この法律の
230条にプロバイダ(SNSなどのプラットフォームサービス
およびISP)の免責(媒介者免責)を定めた条文があります。
そこには、次のように定められています。
─────────────────────────────
◎通信品位法第230条
 @第三者が発信する情報について原則として責任を負わない。
 A有害なコンテンツに対する削除などの対応(アクセスを制限
  するため、誠実かつ任意にとった措置)に関し、責任を問わ
  れない。
─────────────────────────────
 この通信品位法230条は、トランプ前大統領がGAFAに対
し、「撤廃するぞ!」と、さんざん脅しをかけていたことで知ら
れています。米議会上院は2020年11月29日に「230条
の広範な免責は巨大IT企業に悪行を許しているのか?」と題し
た公聴会を開き、フェイスブック、グーグル、ツイッターのトッ
プをオンラインで呼び出し、巨大ITプラットフォームが、そこ
で発信されている情報の内容について、あまりに無責任ではない
かとクレームをつけたのです。
 何が無責任なのかというと、要するに「勝手に検閲のような関
与をするな」という共和党側からの文句です。たとえば、トラン
プ大統領の脱税疑惑報道は制限しないのに、バイデン元副大統領
の不正疑惑報道はプライバシーなどを理由に制限しているのはア
ンフェアで恣意的な検閲ではないかと批判しているのです。
 これに対して、民主党からは「悪い投稿にもっと責任を持って
関与すべきである」という意見が出されており、フェイクニュー
スの拡散などの悪質かつ選挙などにも影響を与えうる投稿はもっ
と制限すべきだとしています。
 シリコンバレーの企業の多くは民主党支持で固まっています。
2020年の米大統領選挙では、バイデン陣営が選挙中に公表し
たリストによると、バイデン陣営の資金集めにはシリコンバレー
の企業が多数協力しています。とくに副大統領候補のカマラ・ハ
リス氏は、北カリフォルニアの出身で、シリコンバレーとは深い
つながりがあるからです。
 これに対して、トランプ前大統領は、鉄鋼や自動車などの製造
業をラストベルト地帯に戻し、伝統的産業の雇用を増やす一方で
「アップル製品は敵だ」などと、ハイテク企業やシリコンバレー
企業などに対して敵対的な発言をしています。
 トランプ政権は「H−1Bビザ」の発給制限を行っています。
「H−1Bビザ」とは、専門技術者として米国で一時的に就労す
る場合を対象としたビザで、米国の学士またはそれと同等の経歴
を持っていることが条件になります。最初の認可で3年間有効な
ビザが発行され、2年の延長が1回のみ可能で、継続しての滞在
は5年が限度となります。このビザの発給制限が行われると、技
術者の確保が苦しくなります。
 しかし、GAFAの時価総額が一国のGDPを超えるほどのレ
ベルに達しているだけに、現在、「GAFA分割論」が提案され
ています。このGAFA問題について、野口悠紀雄一橋大学名誉
教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 アメリカはこれまで、IBMやAT&Tという巨大情報企業を
独禁法によって企業分割することで、その力を弱めてきた。GA
FA分割論は、これと同じ手法を適用しようとするものだ。しか
し、プラットフォーム企業に対してその手法が有効でないことを
バイデン政権は重々承知しているのではないだろうか?
 そして、ハイテク企業がアメリカの強さの源泉であり、中国に
対する最強の武器であると認識しているから、友好的な立場をと
るだろう。こうしたことを考えると、アメリカでは、ハイテク産
業に関する条件が好転する可能性がある。もしそのようなことに
なれば、中国における変化と合わせて、技術開発力のバランスは
これまでとは大きく変わる可能性がある。
 ただし、アメリカでもIT企業の巨大化に対する国民の反発が
強まっているので、放置するわけにもいかない。どのような手段
で対処するかの手探りが続くだろう。トランプ政権下のアメリカ
司法省は、2020年10月20日に反トラスト法違反でグーグ
ルを提訴している。この問題は複雑だ。シリコンバレーと、民主
党共和党の関係が、いくつかの面で「ねじれて」いるからだ。
                  https://bit.ly/3SBesN7
─────────────────────────────
 VR(ヴァーチャル・リアリティ)産業のパイオニアであるオ
キュラスという企業があります。その創業者であるパーマー・ラ
ッキー氏は、2015年8月の「TIME誌」の表紙を飾るほど
の有名人です。2014年にラッキーCEOは、フェイスブック
にオキュラスを売却し、フェイスブックに入社したものの、20
17年に突然解雇されています。
 なぜ、解雇されたのかについては、ザッカーバークCEOが口
を閉ざしているので不明ですが、ラッキー氏がテッド・クルーズ
上院議員をはじめとする共和党議員や、トランプ前大統領の支持
団体に寄付していたことが、ザッカーバークCEOの怒りに触れ
て、解雇されたといわれています。問題は、世界で30億人近い
ユーザーを持つフェイスブックが、このように政治的敏感である
とそれに合わないコンテンツが制限されたり、削除されたりしな
いか懸念されます。なぜなら、GAFAは、通信品位法第230
条によって、意に沿わないコンテンツを削除しようと思えばでき
るからです。フェイスブックはとくにその傾向が強いのです。
           ──[ウェブ3/メタバース/019]

≪画像および関連情報≫
 ●パルマー・ラッキー氏、退社は一方的解雇だったのか?
  ───────────────────────────
   Oculus Riftの発案者であり、Oculus社 の共同創業者パル
  マー・ラッキー氏が親会社のフェイスブックを退職すると明
  らかになったのは2017年3月でした。当時の経緯につい
  て、複数の英語メディアがフェイスブックからの圧力があっ
  たと報道。フェイスブックが反論する騒動となっています。
   ラッキー氏は2016年9月、米大統領選で反ヒラリー・
  クリントン氏のキャンペーンに1万ドルを寄付し、ドナルド
  ・トランプ現大統領を支持したとされています。その後ラッ
  キー氏は自身の行動のインパクトについて謝罪。トランプ氏
  ではなく、共和党候補のゲーリー・ジョンソン氏に投票した
  と弁明していました。しかし、2017年3月にはフェイス
  ブックからの退社が決まっています。
   それから約1年半。2018年10月、ラッキー氏は、C
  NBCのインタビューに対し、退社は彼の意思ではなかった
  と答えました。さらに、翌11月、ウォール・ストリート・
  ジャーナルは、ラッキー氏が「ジョンソン氏に投票した」と
  いう回答もフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO
  の指示によるものだ、と報じています。これを期にラッキー
  氏は表舞台から追いやられ、最終的には解雇されたというこ
  とです。ただしこの報道に対してフェイスブックは、公式に
  反論。同社のAR/VR部門のアンドリュー・ボスワース氏
  は、11月11日、ツイッターで、「常に明言している通り
  政治的な発言の権利はパルマーに委ねられています。我々が
  彼に事実と異なることを述べるよう、圧力をかけたことはあ
  りません」と述べています。   https://bit.ly/3Dfs5vZ
  ───────────────────────────
TIME誌の表紙を飾るパーマー・ラッキー氏.jpg
TIME誌の表紙を飾るパーマー・ラッキー氏
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2022年10月31日

●「GAFAにより抹殺されたSNS」(第5844号)

 何らかのかたちで、インターネットを事業として使う人たちに
とって、GAFAは絶対的な存在であるといえます。今回は、そ
れに関する知られざる事件を取り上げます。
 「パーラー」というSNSをご存知ですか。パーラーは、20
18年8月に開設された非主流を自称するミニブログ兼SNSで
米ネバダ州ヘンダーソンに拠点を置いています。
 パーラーは、2020年の段階で、ユーザーが約100万人し
かいないというとてもマイナーなSNSだったのです。ところが
2020年の大統領選後の10月〜11月、フェイスブックやツ
イッターで言論統制を受け、アカウントが取り消されたユーザー
が、大挙してパーラーに移行し、わずか数カ月で1500万人近
いユーザーを獲得したのです。
 ところが、パーラーは、2021年1月6日に起きた米国会議
事堂デモ乱入事件で、トランプ支持者による暴動を煽ったという
ことで、グーグルとアップルからクレームをつけられたのです。
SNSのモバイルアプリ事業者であるパーラーは、暴力を扇動し
ないように規約を守るべきという主張です。しかし、パーラーは
これに反論します。もともと、ユーザーの言論の自由を守るとい
うのが、パーラーのポリシーなのでこれを無視します。
 これに対して、グーグルとアップルは、「もし規約を守らない
のであれば、アプリストアから追い出すぞ」と、さらに圧力をか
けてきたのです。
 パーラーはこの警告も無視したので、グーグルは、パーラーの
対応を不満として、公共の安全上の脅威であるとして、グーグル
プレイストアからパーラーのアプリを削除し、アップルもそれに
したがったのです。アプリを削除されるとユーザーが増えなくな
るので、アプリ業者であるパーラーにとって命取りになります。
 これについて、ITコンサルタントの深田萌絵氏は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 勝者となったGAFAにとって言論統制はたやすい。インター
ネット空間というのは、入り口が独占されており、私たちはネッ
トに接続するのにグーグルかアップル、マイクロソフトのブラウ
ザを立ち上げる。既にGAFAに牛耳られてしまっているので、
グーグルやアップルを経由せずにインターネットに入るとなると
かなり選択肢が少なくなるのだ。
 また、ユーザーにアプリを提供するためのアプリケーションス
トアは、グーグルプレイ、アップルストアがほとんどをので、こ
の二つから締め出されるとアプリ業者は窮地に陥る。だからグー
グルやアップルがどんなに高いパーセンテージの手数料を求めて
きても、ノーとは言えない状況にある。それがこのアプリ業界支
配の捉なのだ。           ──深田萌絵著/宝島社
     『メタバースがGAFA帝国の世界支配を破壊する』
─────────────────────────────
 しかし、パーラーはアプリは締め出されましたが、データはア
マゾンのクラウドサービスAWSに収録されています。そこに追
い討ちがきます。2021年1月9日にアマゾンは「24時間後
にサービスを停止するので、移行準備をしてください」と通告し
1月10日以降パーラーは完全にオフラインになってしまったの
です。これに対し、パーラーのジョン・マッツェCEOは、アマ
ゾンを次のように批判し、提訴します。
─────────────────────────────
 これはインターネットにおける言論の自由の完全な排除の試み
である。とくにサーバーの利用停止は、生命維持装置を付けた入
院患者の電源コードを抜くことと同じである。
                   ──ジョン・マッツェ
─────────────────────────────
 もっともわかりやすい例を上げると、トランプ前大統領がほと
んどのSNSから排除されています。トランプ前大統領の発言に
問題があるとしても、膨大な権力を有する米国の大統領でさえ、
インターネットの世界では、場合によっては言論を抹殺されてし
まうのです。
 アレックス・ジョーンズという極右のラジオ番組司会者、ユー
チューバー、保守派の評論家がいます。彼は、ツイッター、ユー
チューブ、スポティファイ、ボードキャストなどのさまざまなプ
ラットフォームから、同じ日に一斉にデータが削除されてしまっ
ています。
 インターネット空間は、広大なる空間のように見えますが、そ
の実態は意外に狭い世界なのです。それは、いわゆるGAFA+
Mが、世界シェアの多くを握っているからです。インターネット
の世界は、次のように一部の企業によって独占されています。彼
らが連携を組むと、このインターネットの世界は非常に狭苦しい
世界になってしまうのです。
─────────────────────────────
   ◎PC用OSの世界シェア
    ウインドウズ   ・・・・・ 75.86%
    OSX(テン)  ・・・・・ 15.76%
   ◎ブラウザの世界シェア
    クローム     ・・・・・ 62.78%
    サファリ     ・・・・・ 19.30%
    フィアフォックス ・・・・・  4.20%
    エッジ      ・・・・・  4.06%
   ◎モバイルOSの世界シェア
    アンドロイド   ・・・・・ 70.97%
    iOS      ・・・・・ 28.27%
   ◎検索エンジンの世界シェア
    グーグル     ・・・・・ 92.01%
    ビング      ・・・・・  2.96%
─────────────────────────────
           ──[ウェブ3/メタバース/020]

≪画像および関連情報≫
 ●民間企業が主導した、トランプ大統領「ネット追放劇」に
  見る“権限”とリスク
  ───────────────────────────
   この4年間、いい意味でも悪い意味でも、米国をぶっつぶ
  してきたトランプ大統領。最後の最後で、連邦議会の議事堂
  を襲撃する事件を煽ったことで、ここ4年の負の側面の全て
  の責任を一身に背負って退場することとなった。今後しばら
  くは、米国の「ミス」「問題」は全てトランプのせいにされ
  ることだろう。
   米国では今、議会襲撃事件によって新たな展開が起きて騒
  動になっている。トランプ大統領のツイッターやフェイスブ
  ックなどのSNSやオンラインサービスのアカウントが次々
  と使用禁止になったことだ。さらにアップルやグーグルもト
  ランプ支持の保守派たちが集まっていたSNS「パーラー」
  というアプリをダウンロードできないようにする措置に出て
  いる。さらにパーラーのサーバをアマゾンが停止してしまう
  事態にもなった。
   要するにトランプ大統領がオンラインから存在を消されつ
  つある状況になっているのだ。この動きによって、米国では
  SNSなどの運営企業が暴走していると大きな騒動になって
  いる。そもそも一民間企業であるSNSなどのサービス事業
  者が、世界一の大国の大統領に対して口封じをする権利があ
  るのか、と。ご存じの通り、SNSとトランプの戦いは今に
  始まったことではない。もともとは、2016年の米大統領
  選で、ロシアなど国外からSNSを使ったフェイクニュース
  が拡散され、トランプ陣営に有利に働いたと取り沙汰された
  ことが発端だった。SNSが国際的にも情報工作に悪用され
  ている実態が顕在化したのだ。  https://bit.ly/3FnVcjn
  ───────────────────────────
ジョン・マッツェ/パーラーCEO.jpg
ジョン・マッツェ/パーラーCEO
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