チン大統領は、部分動員令を発令し、軍の立て直しを図っていま
すが、ロシアの状況は、報道されている以上に深刻な状態で、プ
ーチン政権の足元は大きく揺らいでいます。ロシアで部分動員令
が発令されたいきさつについて、詳しい情報が入ってきたので、
お伝えします。
重要なことは、ウクライナ軍は、ロシア軍が支配する東部と南
部の制圧地域に対して、現在も、激しく攻撃を加えていることで
す。その攻撃のスピードは早く、ロシア軍の現場では危機感を感
じている状況のようです。
ロシア軍の参謀本部のブルガコフ次官は、ハリコフ州をウクラ
イナ軍に奪還された原因は、ハリコフ州からプーチン大統領の命
令で、主要部隊を南部ヘルソンとドネツク市周辺に移したことに
あるといっています。信じられないことですが、プーチン大統領
は、自ら軍の頭越しに直接命令を下しているようです。ロシアほ
どの大国のやることではありません。
そこでブルガコフ次官などロシア軍幹部は、プーチン大統領の
指示の失敗を理由にして、プーチン大統領の意見を聞かずに総動
員令をショイグ国防相に進言したものと考えられます。ショイグ
国防相は、総動員令についてプーチン大統領に進言したところ、
大統領は「1日待ってくれ」といって決断を延ばし、そのうえで
総動員令ではなく、「予備役の部分動員令」を命令したのです。
総動員令をかけた場合の国民の反発を恐れたからです。
しかし、軍としては、部分動員を複数回行えば総動員になると
いうことで、部分動員に譲歩したようです。現在、ロシア政府が
見境なく、召集をかけているのは、そういう裏事情があったから
と思われます。ブルガコフ次官は補給失敗の責任をとって、解任
され、後任としてミジンツェフ大佐が就任する人事が発表されて
います。これは本来プーチン大統領こそ責任を取るべきです。
ロシア政府は、部分動員令とあわせて、ウクライナ東・南部4
州──ルハンスク州、ドネツク州、サボリージャ州、ヘルソン州
で「住民投票」を強行し、ロシア領への編入手続きを行っていま
す。しかも、投票のほとんどは戸別訪問で、銃を構えた兵士が付
き添うなかで、目の前で投票させるのです。とても「ノー」と書
けない威圧下での投票です。しかも、ロシアが占領したという4
州は、いずれも、すべてが制圧されたわけではなく、戦闘中の地
域が残っています。
これについて、9月28日付の日本経済新聞は、次のように報
道しています。
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27日、ほぼ終了した、ウクライナ東・南部4州での「住民投
票」はロシア軍の威圧と強要の下で実施された。9割を超える賛
成はプーチン政権の事前の指示に沿った結果とみられる。米欧日
は「国連憲章や国際法に明白に違反する」などと非難を強めてい
る。ウクライナメディアや通信アプリへの投稿によると、武装し
たロシア兵が有権者宅を訪れて賛否を確認したり、その場で投票
させたりした。賛成票を投じるよう威嚇や圧力が横行していた可
能性が高い。
英国防省は27日、ロシアのプーチン大統領が30日に議会演
説を予定しており、併合を公式に宣言する可能性があると指摘し
た。主要7カ国(G7)は23日、「住民投票を承認せず、偽の
併合が起きても決して認めない」などと明記した首脳声明を発表
した。ロシアに追加の経済的代償を払わせる用意があるとも表明
していた。 ──2022年9月28日付、日本経済新聞
https://s.nikkei.com/3foEm9c
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プーチン大統領としては、ウクライナ軍から攻め込まれている
状況で、住民投票はやりたくなかったはずです。しかし、ウクラ
イナ軍の攻撃力が強くて、押され気味の状況で、とくに南部のヘ
ルソン市では激戦が続いています。
何とかこれを食い止めなければならないが、とにかく兵力が足
りない。そのため、大急ぎで住民投票を行い、強引といわれよう
が、不正選挙といわれようが、国際法違反といわれようが、かま
わない。占領地をロシア領にしてしまえば、ロシアが核兵器を使
うのでないかと恐れて、プーチン大統領は、ウクライナ軍の攻撃
が緩むだろうと考えているのです。プーチン大統領は、30日に
併合を一方的に宣言するはずです。
深刻なのは、ロシアが4州をロシア領として宣言すると、ロシ
ア人にされたウクライナ人を動員令で召集し、戦場に投入する恐
れがあることです。実際にヘルソン市では、18〜35歳の男性
は、ヘルソン市から出ることが禁止されています。そうすると、
ウクライナ人がウクライナ人と戦うという残酷極まることになっ
てしまいます。
今回のウクライナ危機で分かった一番重要なことは、「ロシア
が意外に戦争に弱い」ということです。この衝撃的な事実は、ロ
シアの衛星国といわれる中央アジア諸国の「ロシア離れ」を引き
起こしています。この中央アジア諸国のなかで今やプーチン支持
を明確に打ち出しているのは、タジキスタンしかなく、ウズベキ
スタン、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタンは、いずれ
も欧米との経済的結びつきが強く、プーチン支持を打ち出すこと
で米国からの経済制裁を課される事態を恐れています。
また、カザフスタンでは、この1月に国内暴動が起こり、ロシ
アが治安維持のために軍を派遣しています。しかし、そんなカザ
フスタンも今回ウクライナへの軍の派遣を断っています。このよ
うに、中央アジアでもロシアの孤立は深まっています。
今回のテーマは、まだまだ書くことはたくさんありますが、こ
のテーマは、本日をもってひとまず置いて、もう少し事態が動い
たら、また改めて取り上げることにします。10月3日からは、
新しいテーマを取り上げます。
──[新中国・ロシア論/051/最終回]
≪画像および関連情報≫
●ロシア動員令は「正規軍崩壊の証し」ウクライナ、東部
で要衝迫る
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【ベルリン時事】ウクライナのゼレンスキー大統領は22
日夜(日本時間23日朝)のビデオ演説で、ロシアの部分動
員令は「正規軍が耐えきれずに崩壊した」ことを認めたもの
だとして、攻勢の継続を明言した。
ウクライナ軍は東部でロシア軍の一部防衛線を突破し、要
衝に迫っているもようだ。ゼレンスキー氏は「ロシア指導部
のいかなる決定も、ウクライナに何の変化ももたらさない」
と強調した。米シンクタンクの戦争研究所は22日、ロシア
は部分動員令で一部の予備役を招集するとの約束を破り、一
般市民の強制的な動員にも動いていると指摘。戦力は大きく
向上しない一方、国内で反発が強まっていると分析した。
戦争研究所はロシアからの情報に基づき、ウクライナ軍が
東部ドネツク州リマンの北方約20キロや北西約22キロの
地点でロシア軍の防衛線を突破したもようだと分析した。5
月にロシア軍に制圧されたリマンは、6月に陥落した東部ル
ガンスク州の拠点都市セベロドネツクの西方に位置し、セベ
ロドネツク奪還への重要な拠点となり得る。また、英国防省
によると、ウクライナ軍は北東部ハリコフ州では、撤退を続
けるロシア軍が防衛線を敷こうと試みたオスキル川東岸で、
複数の拠点を確保した。同省は「戦況は依然複雑だが、ウク
ライナ軍はロシア軍が重要と位置付ける領域に圧力をかけて
いる」と説明した。 https://bit.ly/3DX42Uw
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南部ヘルソン州を攻撃するウクライナ軍戦車