2022年09月29日

●「ロシアと距離を置く中国とインド」(第5823号)

 今回のテーマは今日で50回です。中国とロシアについて、現
在進行中の問題について書いてきましたが、このテーマはひとま
ず置いて、10月3日から新しいテーマに移行します。
 9月15日〜16日の両日、ウズベキスタンのサマルカンドで
「上海協力機構/SCO」の首脳会議が開催されています。今回
の会議は、新型コロナウイルスの感染拡大後、はじめて対面方式
で行われています。
 SCOは、1996年の設立で、もともと中国と国境を接して
いたロシアと旧ソ連3カ国が結集して、「上海ファイブ」として
はじまっています。2001年に「上海協力機構/SCO」とし
て衣替えし、本部は北京に置かれたのです。
 現在、中国、ロシアのほか、中央アジア4カ国(カザフスタン
ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)と、インド、パキス
タンの8カ国が正式に加盟しています。各国間の国境地域の安定
と信頼の醸成、加盟国間の協力促進が目的になっています。今回
は、イランが参加して加盟覚書に調印しています。その他、ベラ
ルーシが加盟申請中です。
 今回、プーチン大統領は、ウクライナの戦況が厳しさを増すな
か、習近平主席に内心何らかの支援を期待していたはずです。し
かし、習近平主席はことのほか、プーチン大統領に冷たかったよ
うです。それは、会談の順番によくあらわれています。
 会談は、15日に行われましたが、開催国のウズベキスタンに
続いてキルギス、トルクメニスタン、タジキスタンと会談し、モ
ンゴルをはさんで、やっと6番目がロシアだったのです。会談の
内容も、習主席はウクライナのことは一切触れず、具体的な項目
を示さずに次の言葉があっただけです。
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習近平国家主席:中ロの核心的利益に関わる問題について、相互
 に力強く支援する。
プーチン大統領:中国のバランスの取れた立場を高く評価してい
 る。我々は中国側の懸念を理解している。我々は「ひとつの中
 国」の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星
 国の挑発を非難する。
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 中国の「プーチン大統領への冷遇」ぶりは、中国のメディアの
扱いにもあらわれています。中国共産党の機関紙「人民日報」の
報道を見ると、習主席のウズベキスタン訪問やウズベキスタンの
トップとの首脳会談などの様子はトップ記事で扱っているのに対
し、その一方で、プーチン氏との首脳会談の扱いは3番手の扱い
でしかなかったのです。
 しかも、ウズベキスタンのトップとは固く握手する写真を掲載
したのに対し、プーチン氏との会談では、握手すらせず、それぞ
れが正面を直視している写真を載せていることです。どのように
考えても、習近平主席は、プーチン大統領に冷たい対応をしてい
ることは確かです。
 プーチン大統領は、インドのモディ首相との会談でも、モディ
首相から、次のように、厳しい言葉を投げかけられています。
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モディ首相:今は戦争の時代ではない。問題解決に重要なのは対
 話と外交である。
プーチン大統領:われわれは、ウクライナでの紛争を早く終わら
 せるために全てのことをしているが、停戦に応じないのは、ウ
 クライナの方である。
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 9月24日、国連総会で、インドのジャイシャンカル外相、中
国の王毅(ワン・イー)外相、ロシアのラブロフ外相が演説して
いますが、これについても次にまとめておきます。
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インド外相:ウクライナ紛争の激化が続くなか、われわれは誰の
 側に立つのかと頻繁に聞かれる。インドは平和の側にあり、国
 連憲章とその創設の原則を尊重する側に立つ。
中国の外相:ウクライナ危機の平和的解決に資するすべての努力
 を支持する。
ロシア外相:ウクライナは、ロシアとの戦いで(米国や英国の)
 消耗品でしかない。米国は台湾で火遊びをし、台湾への軍事支
 援を約束している。
         ──2022年9月26日付、日本経済新聞
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 現在、ロシアでは部分的動員令をめぐって、全国的に戦争反対
デモが起きています。プーチンの大統領の演説によると、兵役経
験ある専門技能の持ち主30万人ということですが、兵役経験の
ない者、学生、高齢者のところにも召集令状が届いており、プー
チン政権に忠実な人物でさえ公然と懸念を表明しています。追い
込まれてやったので、こういう混乱が起きているものと思われま
す。畔蒜泰助・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェローは、プ
ーチン大統領の描く出口について次のように述べています。
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 今回、部分的な動員をかけたその先に、プーチンが描く出口シ
ナリオが、あるとすれば、それはやはりナポレオン、ヒトラーを
苦しめた冬将軍を、今度はヨーロッパにむけて襲わせることだ。
つまり、天然ガスの供給を意図的に止め、冬の需要期に、エネル
ギー危機を引き起こすことだ。ロシア側がこれを仕掛けるのは間
違いない。その結果、特にヨーロッパ側でウクライナ支援疲れが
起きることを期待しているのだと思う。ヨーロッパがこの冬を超
えて、エネルギー危機をどこまで耐え忍ぶことが出来るかが、実
は最大の焦点であることは、開戦当初から変わってはいない。む
しろ、その深刻度は増している。
         ──畔蒜泰助氏 https://bit.ly/3dGkNZh
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             ──[新中国・ロシア論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア、対象外も招集 動員めぐる混乱に
  親プーチン派も苦言
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   ロシアのプーチン政権が始めた予備役兵の部分的動員で、
  本来は対象外のはずなのに招集令状が届くケースが続出し、
  親プーチン派の上下両院議長が当局に対して苦言を呈する混
  乱ぶりとなっている。
   ショイグ国防相は21日、部分的動員の対象は、「戦闘経
  験を持つ者」で約30万人規模と説明した。だが、ロイター
  通信などによると、兵役経験のない人や徴兵年齢を超えた人
  にも招集令状が届くケースが相次いでいるという。
   マトビエンコ上院議長は25日、ネット交流サービス(S
  NS)への投稿で「そのような行き過ぎた行為は絶対に容認
  できない」と指摘し、「部分的動員が基準に完全かつ絶対的
  に準拠して実施されることを保証してほしい」と招集担当者
  に求めた。
   ウォロジン下院議長も同日、「間違いがあれば、修正する
  ことが必要だ。あらゆるレベルの当局がその責任を理解すべ
  きだ」と投稿したという。ロシアでは21日の動員令の発令
  以降、多くのロシア人男性が徴兵を避けるために国外への脱
  出を試みている。ショイグ氏は21日、潜在的に動員できる
  国民が「2500万人いる」とも発言しており、対象者とな
  る基準の不明確さが、国民の混乱を助長している可能性があ
  る。【ベルリン念佛明奈】   https://bit.ly/3dG5tvM
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習近平/プーチン会談.jpg
習近平/プーチン会談
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする