2022年09月27日

●「30万人動員でなく、100万人」(第5821号)

 9月21日、プーチン大統領の国民向けの演説後に公表された
大統領令は10項目から成るが、人数に関する第7項に関しては
「機密扱い」になっています。なぜ、機密扱いなのでしょうか。
「30万人」という数字がどこから出たのでしょうか。
 ロシアの専門家によると、プーチン大統領は演説で「部分的動
員」とはいいましたが、30万人という数字については一言も話
していません。30万人という数字を口にしたのは、ショイグ国
防相のようです。
 ところがです。ロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ
・ヨーロッパ」は、招集人数が30万人ではなく、大統領令にひ
そかに100万人と記されていると報道したのです。このメディ
アは、ロシア政府の圧力で3月末から活動停止を余儀なくされて
おり、現在ではヨーロッパに亡命して、「ノーバヤ・ガゼータ・
ヨーロッパ」として、ユーチューブやSNSなどを使って、ニュ
ースを配信しています。これに慌てたペスコフ大統領補佐官は、
「偽情報だ」と火消しにやっきになっています。
 しかし、これはけっして偽情報ではないようです。それは、現
在、ロシア中に巻き起こっている反戦デモの逮捕者に対して、当
局は、次々と召集令状を渡しているからです。したがって、30
万人なんてウソで、必要なだけ、戦地に兵士として送り込む計画
のようです。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は
兵士として戦地に送られるロシア人に対して、次のように呼び掛
けています。
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 半年間でロシア軍の5万5000人が死亡、数万人が負傷して
いる。犠牲を避けたければ、抗議したり、逃亡したり、捕虜にな
るため、投降したりしてほしい。   ──ゼレンスキー大統領
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 このロシア側の動きに対して、ウクライナのポドリャク大統領
府顧問は、ロシアの動員令について次のように述べています。
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 ロシアの動員令はわれわれにとって何ら脅威にはならない。戦
争の最初の段階で送り込まれたロシア兵は、訓練も経験もあるプ
ロの軍隊であるが、われわれはそれを撃退している。そこで、多
くのロシアの将校が戦死している。
 今回の動員令によって送り込まれてくるホワイトカラーのロシ
ア兵は、実際の戦場での戦闘経験もなく、訓練が必要である。そ
れには数カ月かかるが、その指導者である将校が決定的に不足し
ている。将校は急増できず、だから数だけに頼らざるを得ない。
当然士気も低いし、われわれの脅威にはならない。
               ──ポドリャク大統領府補佐官
          9月23日放送「TBS/1930」より
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 実戦の経験はないし、怖いし、命は惜しい。したがって、士気
も低い──そういう兵士を急増して、戦地に送ってくるロシアに
対して、ウクライナ軍は、投降勧奨を行う作戦で対抗するといい
ます。実際に現在、投降者は急増しています。「命が惜しければ
投降して捕虜になれ!」と呼びかける作戦です。
 これには、ロシア側も警戒していて、「兵役に関する刑法の修
正案」を可決しています。戦場で逃亡したり、自ら投降したりす
る兵士に対する罰則を強化する法律の制定です。こうなってくる
と、否応なしの徴兵そのものです。
 9月23日、ウクライナ東部、南部の占領地で、「ロシアへの
編入」を問う親ロシア派勢力の住民投票がはじまっています。ロ
シアとしては、本当はもっと戦況がロシアにとって安定した状況
で実施したかったのでしょうが、逆に攻め込まれ、占領地を奪い
返されないために行っています。占領地をロシア領にしてしまえ
ば、ウクライナ軍としては攻めにくくなると読んでの作戦である
と思われます。国際法を無視した無茶苦茶な理屈ですが、ウクラ
イナにとっては、攻めにくくなることは確かです。
 ところで、9月21日の演説で、プーチン大統領は、気になる
ことをいっています。それは次の部分です。
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 アメリカ、イギリス、NATOは、軍事行動をわが国の領土へ
移すようウクライナに直接働きかけている。もはや公然と、ロシ
アは戦場であらゆる手段でもって粉砕され、政治・経済・文化、
あらゆる主権を剥奪され、完全に略奪されなければならないと、
語られている。
 核による脅迫も行われている。西側が扇動するザポリージャ原
発への砲撃によって、原子力の大災害が発生する危険があるとい
うだけでなく、NATOを主導する国々の複数の高官から、ロシ
アに対して大量破壊兵器、核兵器を使用する可能性があり、それ
は許容可能という発言も出た。      ──プーチン大統領
                 https://bit.ly/3BGyuPV
─────────────────────────────
 プーチン大統領は「(西側のわれわれへの)核の脅し」という
言葉を使っています。何のことかと思ったのですが、それは、ザ
ポリージャ原発への砲撃のことだったようです。プーチン氏は、
原発への砲撃は、ウクライナ軍によるものであるとし、それをロ
シアに対する核の脅しと表現しています。どうやら、これをいう
ために、原発を攻撃したものと思われます。
 どう考えても、ウクライナ軍が自国の領地にある原発を攻撃す
るはずがないし、やったのはロシア軍であることは明々白々の事
実であるのに、そういうウソを一国の大統領が、平然と平気でつ
くのです。「西側諸国から核の脅しをされたので、こちらも領土
への攻撃があれば、領土の保全のために核で反撃することもあり
得る」という理屈です。「核の脅し」を一貫してやっているのは
国連の常任理事国の1つであるロシアではありませんか。ロシア
は、そんな恐ろしいウソを平気でつく国なのでしょうか。
             ──[新中国・ロシア論/048]

≪画像および関連情報≫
 ●自らの政権の足元に地雷を仕掛けたプーチン氏
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   モスクワ(CNN)テレビ放送された国民向けの演説で、
  21日夜、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻での
  「部分的動員」を発表した。これはプーチン氏が実質的に、
  ロシア人との暗黙の社会契約を破ったことを意味する。契約
  に基づきロシアの市民は、権力者らが利益をくすねたり争い
  を起こしたりするのを許す代わりに、自分たちの私生活には
  介入させない。
   戦争が新たな段階に入りつつある中、追い詰められたプー
  チン氏は自分の背後にロシア人の相当な部分を引きずり込ん
  でいる。同氏が事実上行ったのは国内に向けての宣戦布告で
  あり、結果的に野党勢力や市民社会のみならず、ロシアの男
  性人口を敵に回したことになる。
   なぜプーチン氏はそんな危険を冒すのか?それは本人自ら
  世間の戦争に対する関心の欠如を数カ月にわたり促してきた
  からだ。国民の動員は深刻な不満を社会にもたらす。だから
  こそ総動員ではなく部分的動員を決断したわけだが、長い目
  で見れば自身の政権の足元に地雷を仕掛けたことに他ならな
  い。短期的には、動員に対する妨害行為に直面するだろう。
  もうずいぶんと長い間、プーチン氏は大衆の間で戦争を遠ざ
  ける姿勢を助長してきた。今やロシア人はそのつけを払い、
  兵士として使い捨てにされようとしている。
                 https://bit.ly/3dCnSJR
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ロシア全土に広がる反戦デモ.jpg
ロシア全土に広がる反戦デモ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする