2022年09月13日

●「習主席は共同富裕で何を狙うのか」(第5813号)

 習近平主席の掲げる「共同富裕」路線を整理して、まとめてお
くことにします。
 「共同富裕」とは、ケ小平による「先冨論」によって、先に豊
かになった民営企業の富を中国共産党と国家に還元させ、それを
未だ貧しい農民や労働者へ再分配するというものです。分配には
次の3段階があります。
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  @1次分配 ・・ 労働の対価としての給与による分配
  A2次分配 ・・ 1次分配の偏りを税などにより是正
  B3次分配 ・・ 寄付や慈善による富裕層の富の移転
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 @の「1次分配」とAの「2次分配」については驚きはありま
せんが、問題はBの「3次分配」には、問題があります。本来寄
付や慈善は個人の自由意志によって行われるものですが、中国の
ような一党独裁の専制国家においては、強制的な富の供出になっ
てしまうことです。
 アリババは、「共同富裕」の政策に基づいて、2021年9月
に2025年までの間に1000億元(1・7兆円)の寄付を行
うと発表しています。これは、当局によるアリババ傘下のアント
グループの上場阻止事件や、創業者の馬雲氏の3カ月に及ぶ「失
踪」(おそらく逮捕?)事件があり、寄付しないと犯罪者のレッ
テルを張られ、罰金として富を収奪されることを恐れて、自ら寄
付を名乗り出ているものと思われます。これは寄付ではなく、党
や国家による富の収奪そのものです。
 アリババの馬雲氏は、世界的な著名人であるので、他への見せ
しめの「出る杭は打たれる」のケースといえますが、中国以外で
はあまり知られていない孫大午氏のケースをご紹介します。孫大
午氏は河北大午農収集団の創業者です。孫大午氏については、福
島香織氏の本から引用します。
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 孫大午は軍退役後の1984年に、兵役時代の農牧経験をもと
に鶏1000羽、豚50頭の農場からスタートして1995年に
は中国500強民営企業になるまで事業を拡大したカリスマ経営
者だ。最終的には大午集団は従業員は9000人以上、固定資産
は20億元、年平均生産額は20億元超えという超優良企業に発
展した。そうした実績をもとに、孫大午は、国家の庇護のもとに
胡坐をかいた国営農場や国有企業の在り方や共産党の経済政策に
ついて、しばしば厳しい意見を発表していた。 ──福島香織著
   『習近平/ゼロコロナ、錯綜する経済、失策続きの権力者
                 /最後の戦い』/徳間書店
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 孫大午氏は、裸一貫からのし上がった民営企業家で、地道な努
力を重ねて、他業種にまたがる大集団企業にまで自社を発展させ
た農民企業家として、多くの農民や労働者らの低層社会の人々か
ら尊敬を集めていた人物です。
 そこで、孫大午氏は、自らの経験に基づいて、国営の農場や国
有企業の在り方について、一種の提言を行ったのです。しかし、
中国では、国家に対するこういう提言を許さないのです。孫大午
氏に対しては、地元の公安当局から「国家機関を侮辱した」とし
てサイトの閉鎖や6カ月間の営業停止と罰金15000元を課さ
れ、さらに別件容疑で逮捕されてしまいます。しかし、このとき
は執行猶予も付き、罰金で済んでいます。
 しかし、孫大午氏は、2020年に米メディアのRFA(ラジ
オ・フリー・アジア)に次の発言を行っています。
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 公有制度は共産党が発明したものであり、社会主義経済の基礎
は、本来私有経済であるべきである。      ──孫大午氏
           ──福島香織著/徳間書店の前掲書より
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 この発言が原因かどうか不明ですが、2020年8月に、確た
る法的根拠もなく、大午集団の建物をいきなり国有農場が強制収
用しようとして、従業員と警察がもみ合い、20人以上が負傷す
るという事件が起きます。当然のことながら、大午集団側は当局
へ強い抗議をしています。
 しかし、孫大午氏は、この件で裁判にかけられ、2021年7
月28日、人民法院は、挑発扇動罪で、懲役18年、罰金311
万元という重罪に処せられます。これによって、大午集団の広大
な農場は国家に接収され、9000人の従業員が解雇されたので
す。「共同富裕」の名の下、少しでも国家の方針に逆らう姿勢を
見せると、こういう目に遭うことになります。こういう事例は、
現在の中国では、枚挙にいとまがないほどたくさんあります。
 習近平主席が民営企業経営者を嫌うのは、民営企業の成功者が
自分にはない強いカリスマ性を持ち、国内的にはもちろんのこと
馬雲氏のように国際社会からも高い評価を得ている者がいること
です。これは、習近平政権にとって「脅威」と考えるのです。
 中国には、「双循環」という考え方があります。双循環には、
国内循環と国際循環という2つの循環があります。
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       ◎「双循環戦略」
        Dual Circulation Strategy
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 習近平政権としては、国際循環の重要さはよくわかっているも
のの、その前に国内循環をもっと強くしたいと考えています。そ
こで、一帯一路沿線国を増やし、それを「準国内」として機能さ
せようとしています。
 この一帯一路沿線国を増加させて準国内を増やし、それを含め
た国内循環を強固なものにし、閉じられた経済圏を確立したいと
考えています。つまり、閉じられていれば、中国共産党が経済を
コントロールできると考えるからです。
             ──[新中国・ロシア論/040]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の新たな発展戦略となる「双循環」──
  「国内循環」と「国際循環」の相互促進を目指して
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   双循環という概念は、2020年5月14日に中国共産党
  中央政治局常務委員会において初めて提起された。その内容
  は、後に行われた一連の重要な会議において次第に明らかに
  なり、7月21日の企業家座談会と8月24日の経済社会分
  野専門家座談会における習近平総書記の演説をベースに次の
  ようにまとめられる。
   双循環とは、国内循環を主体とし、国内と国際の2つの循
  環が相互に促進する新たな発展戦略のことである。これは、
  中国の発展段階・環境の変化に基づいて提起されたものであ
  り、中国の国際協力と競争の新たな優位性を再構築するため
  の戦略的選択である。これまで、経済のグローバル化が進ん
  だ外部環境の下では、市場と資源を外に求めることは、中国
  の急速な発展に重要な役割を果たした。しかし、現在のよう
  な、保護主義が台頭し、世界経済が低迷し、グローバル市場
  が萎縮した外部環境の下では、中国は国内の巨大な市場とい
  う優位性を十分に生かさなければならない。
   双循環戦略を実施するに当たり、生産・分配・流通・消費
  に重点を置きながら、供給側の構造改革と内需拡大という方
  針を堅持し、需要と供給の拡大均衡を目指さなければならな
  い。その上、サプライチェーンのレベルアップを図り、技術
  革新(イノベーション)を大いに推進し、コアとなる技術の
  開発に力を入れ、未来の発展のための新たな優位性を作り上
  げなければならない。      https://bit.ly/3L4hK9E
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孫大午氏.jpg
孫大午氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする