2022年09月02日

●「台湾の中国軍事演習の受け止め方」(第5806号)

 ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台以降、中国軍用機は直後か
ら現在も台湾海峡の中間線越えを繰り返しています。29日時点
で、その回数は延べ398機です。さらに、ドローンも毎日のよ
うに飛来しています。
 中国の福建省に近い台湾の金門島には、28日、29日、30
日、ドローン4機が飛来しています。蔡英文総統は、国防部に対
し、国の空域を守るため、必要かつ強力な対抗措置を取れと命令
しています。この命令を受けた台湾国防部は、台湾領内のニ胆島
付近を旋回していた中国のドローンに対して、威嚇射撃を行い、
そのうえで撃ち落としています。国の安全のために当然のことを
したまでですが、台湾にとっては実はじめてのことです。
 今回の中国によるペロシ訪台の報復として、中国の大規模軍事
演習の結果は、おそらく中国にとっては誤算だったはずです。台
湾社会がいたって平静で、人々はパニックにならず、もちろん株
価も正常であったからです。
 ある漁港では、メディアに「漁に出るのか」と聞かれた漁師は
「今日は潮がいいので、海に出ないわけにはいかない。なぜなら
大漁間違いなしだから」と笑って漁に出ていったといいます。あ
るいは次のようにもいっています。
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     あれは「紙老虎(ピンイン)」だから・・
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 「紙老虎(ピンイン)」とは「張り子の虎」という意味です。
国防部の関係者もきわめて冷静でした。なぜなら、今回、中国軍
は、海軍と空軍、ミサイルしか動いておらず、地上軍の動きがな
かったからです。地上軍が動かなければ、台湾侵攻は実際には起
きず、単なる脅しにとどまると判断したからでしょう。そして、
台湾に対するこのプレッシャーは、共産党大会が開催される10
月6日まで続くであろうと予測しています。
 1996年にも「台湾海峡危機」は起きています。この危機の
そもそもの原因は、台湾の李登輝総統が、米国の母校のコーネル
大学から「台湾の民主化経験」に関する演説を行なう招待を受け
これに対して、米国がビザ(査証)を発行したことを原因として
起きています。台湾を外交上孤立させようとしている中国は、こ
の種の台湾要人のアメリカ訪問に対して、一貫として反対しきた
からです。中国は、李登輝総統は台湾独立運動の考えを持ってい
るので、地域の安定への脅威であると主張していたのです。
 米国のその措置に対して中国は激怒します。中国人民解放軍の
副参謀長熊光楷中将は、次のように米国を脅したのです。
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 もしアメリカが台湾に介入したら、中国は、核ミサイルでロサ
ンゼルスを破壊する。アメリカは、台北よりロサンゼルスを心配
した方がよい。       ──中国人民解放軍/熊光楷中将
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 中国人民解放軍は、口だけでなく、台湾の周辺地域で、大規模
な軍事訓練を行っています。1995年8月15日から25日に
かけて、海軍による実弾を伴うミサイル発射し、さらに、11月
には陸軍も加わって、広範囲の陸海演習を行っています。
 翌1996年3月23日は、台湾の総統選挙が行われます。中
国政府は台湾市民に対して、「李登輝総統に投票することは戦争
を意味することになる」というメッセージとして、投票日の23
日直前の3月8日から15日にかけて、大規模な軍事演習を行っ
たのです。基隆市と高雄市の港から25マイルから35マイルの
地点に向けて、ミサイルを発射しています。この海域の船舶輸送
は70%がこの2つの港の間を通り、発射実験区域と近かったの
で、大混乱に陥ったのです。
 これに対して、米国のクリントン政権は、ベトナム戦争以来最
大級の軍事力を動員して反応します。1996年3月8日、米国
は西太平洋に駐留していたインデペンデンス空母打撃群を台湾近
くの国際海域に展開すると発表し、3月11日には、さらにミニ
ッツを中心とした空母戦闘群をペルシャ湾から、急行させたので
緊張は一挙に高まったのです。
 3月15日には、中国政府は、3月18日から25日まで模擬
上陸作戦を行う計画を発表したので、緊張がさらに増大します。
さすがにこのときは、「戦争がはじまる」と台湾市民は動揺して
います。株価は下落し、人々は海外に逃れようとし、移民申請が
急増したり、フェイクニュースが乱れ飛んで、台湾国内では大混
乱が起きたといわれています。今回とは大きな違いです。
 そして、米国の2隻の空母打撃群による構えが素早く構築され
空母ニミッツは、台湾海峡に入っています。ここまでやられると
思っていなかった中国は、大きく動揺し、ことを収めざるを得な
かったのです。米国の素早い戦闘への即応力を目の前で見せつけ
られ、これが後の中国の複数空母体制へのこだわりとなっている
ことは確かです。今後の台湾情勢について、ジャーナリストの野
嶋剛氏は、8月29日のアエラ・ドットにおいて、次のように書
いています。
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 「中国には、まだ台湾を攻撃する自信も余裕もない。半導体も
台湾の生産に頼りきっている。台湾企業も中国にたくさん進出し
て中国の経済を支えている。米国もいるし、今回は台湾を攻撃は
できない。だから見せかけの脅しだってわかっていた」
 中国の軍事演習はなお断続的に続くようだ。習近平氏が、最高
指導者を規定の2期10年で終えないで在任を続ける「3選」が
秋の共産党大会で確定するといわれている。そのときまで軍事演
習は緩まないと、台湾の人々は見ている。逆にそれは、中国の演
習は国内向けの習近平氏の威信確立のためにやっていることで、
台湾を攻め落とすためではないという解釈が成り立つのである。
                 https://bit.ly/3KCBP6L
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             ──[新中国・ロシア論/033]

≪画像および関連情報≫
 ●台湾有事、最大の危険は中国の「戦略的判断ミス」/戦前の
  日本と類似点も〈週刊朝日〉/宮家邦彦氏
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   度重なる中国の恫喝(どうかつ)とバイデン米政権の要請
  を無視するがごとく、8月2日にペロシ米下院議長は予想ど
  おり台湾訪問を強行しました。少なくとも短期的には、ペロ
  シ議長は確信犯、習近平国家主席は3期目を固め、バイデン
  大統領はレームダック化を回避するという、三者三様の見事
  な「出来レース」でした。
   中国側の準備も万全でした。台湾を包囲する大規模軍事演
  習など一朝一夕には実施できません。内外の外交評論家は米
  中関係悪化、経済学者は国際経済への悪影響を、軍事専門家
  は米中の偶発的衝突の可能性をそれぞれ語り始めましたが、
  筆者にはいま一つピンときません。なぜかというと、台湾情
  勢は近視眼的な議論ではなく、歴史の大局観に基づいて読み
  解く必要があるからです。
   筆者が初めて台湾を訪れたのは、1973年に遡(さかの
  ぼ)ります。当時は国民党の一党独裁。街で見かけた「中華
  民国」の地図には、「台湾省」と「共産党占領中」の本土の
  各省が描かれていました。知人の台湾人実業家は、日本製電
  子オルガンを解体して「台湾産」の電子楽器を試作していま
  した。そんな台湾も今や民主主義を実践し、世界の半導体市
  場をリードしています。「隔世の感」とはまさにこのことで
  しょう。           https://bit.ly/3pW5FcZ
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米原子力空母「ニミッツ」.jpg
米原子力空母「ニミッツ」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする