したが、新しい情報が入ってきたので、この日中高官協議の裏側
についてお伝えします。ポイントは2つです。
第1のポイントは、8月2日午後2時(米東部時間)から秋葉
剛男国家安全保障局長が、ホワイトハウスで、米側のカウンター
パートである、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保
障)と会談していることです。これは、明らかに、天津での日中
高官協議のすり合わせであると考えられます。
サリバン大統領補佐官は、2021年3月に米アラスカ州・ア
ンカレッジで行われた米中外交・安全保障会議高官会議で楊政治
局委員と会談しています。このときは、米中双方から関係者が参
加しています。会談の冒頭から報道陣の前で、激しい非難の応酬
が繰り広げられ、異例の展開になったあの会談です。
しかし、この会談を契機として、サリバン氏がバイデン大統領
の、楊氏が習近平主席の代理人として、両首脳のホットライン役
を担っています。
日本経済新聞によると、会談を呼びかけたのは中国としていま
すが、ジャーナリストの歳川隆雄氏は、首相官邸幹部からの情報
によると、2カ月前に日本から申し入れ、楊氏から日時・場所を
指定してきたのは、2週間前のことであるということです。日中
どちらが会談を持ちかけたかについては不明ですが、状況を分析
すると、中国からの申し入れの方が、スジが通っていると思いま
す。台湾問題で、日本が突出した行動をとらないようクギを刺し
たいのは中国であり、そのために日中国交正常化50年を利用し
ようとしていると考えられるからです。
思えば、日本が尖閣諸島を国有化してから、この9月11日で
10年になります。このときは胡錦濤政権でしたが、野田内閣に
よる尖閣諸島国有化によって、中国は、北京の人民大会堂で行う
予定で準備をしていた日中国交正常化40年式典を中止していま
す。今回も台湾問題をめぐって、そういうことが起こらぬよう日
本を呼び出したものと思われます。
第2のポイントは、今回の日中高官会議が、「テタテ会議」で
あったことです。テタテ会議の「テタテ」とは、フランス語で、
1対1の会談のことをいいます。
つまり、今回の日中高官会議は、握手や背後の国旗がないだけ
ではなく、通訳も記録係(ノートテイカー)もいない、文字通り
のサシの会談であり、すべて英語で行われたということです。し
かも、夕食は交えたものの、7時間連続で、深夜まで行われたの
です。何が話し合われたかは不明ですが、徹底的に、秘密主義に
立っているのです。
昨日、8月28日、米海軍のイージス巡洋艦2隻が「航行の自
由作戦」と称して、中国軍による軍事挑発が激化している台湾海
峡を通過しています。実施したのは、米海軍第7艦隊所属のイー
ジス巡洋艦「アンティータム」と「チャンセラーズビル」の2隻
です。注目すべきは、このイージス巡洋艦の艦名が、ともに南北
戦争に関係があることです。南北戦争の2つの激戦地の名前と一
緒なのです。アンティータムはメリーランド州、チャンセラーズ
ヴィルはバージニア州にあります。
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@ アンティータムの戦い
Aチャンセラーズヴィルの戦い
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南北戦争は、奴隷制度の撤廃など、人権問題を想起させるもの
で、南北戦争に関わりのある両艦の航行には、中国に向けた強い
メッセージがあります。これによって、米国は口だけではなく、
軍事行動でも武力による台湾侵攻は許さないとするメッセージを
中国に送ったといえます。
通常米海軍の行う航行の自由作戦は、軍艦1隻での航行が多い
のですが、なぜ、2隻の巡洋艦で台湾海峡を航行したかについて
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は、次のように述
べています。
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(なぜ、2隻で航行したかというと)中国側が軍事演習の規模
を拡大させたので、米国もレベルを上げたである。ペロシ氏訪台
をはじめ、米国では超党派で「台湾有事」への抑止を強化するよ
う求める動きが続いている。中には、米台軍事演習や台湾へ攻撃
的な武器を供与する法律を成立させようとする動きもある。バイ
デン政権は、過激な法案の成立には慎重である一方で、航行作戦
など具体的に中国への圧力を強める必要性を感じていた。
──島田洋一福井県立大学教授
2022年8月29日付、「夕刊フジ」
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ところで、ペロシ議長を台湾の人はどのように迎えたのでしょ
うか。8月2日、多くの台湾の人々は、ペロシ議長が前の訪問地
マレーシアから飛び立った米軍要人機「SPAR19」を、リアルタイ
ムで飛行機の航跡を追うことができるウェブサイト「フライトレ
コーダー24」で凝視していたといいます。およそ70万人、そ
のほとんどが台湾の人々であったといいます。なぜなら、ペロシ
議長の訪問予定地に台湾は入っていなかったからです。
飛行機はマレーシアから東に向かったのです。本来ならば北上
が最短ルートですが、係争地の南シナ海の上空を超えなければな
らない。サイトを見ている台湾の人々は、来るか来ないか不安で
いっぱいだったといいます。
ところがフィリピン近辺で飛行機が舵を北にとった瞬間、大歓
声が上がったといいます。「ペロシ議長はやはり台湾に来てくれ
る!」と喜びが広がったのです。台湾の人々は、これほどの思い
でペロシ議長を迎えているのです。
したがって、ペロシ議長が去った後の台湾は、中国の威嚇演習
もひるまず、いたって平静で、株価も正常だったといいます。
──[新中国・ロシア論/032]
≪画像および関連情報≫
●米ペロシ下院議長「訪台に込めたもう一つの目的」とは
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米国のペロシ下院議長の台湾訪問に反発する中国が8月4
日から大規模な軍事演習を実施し、台湾海峡が緊迫の度を増
している。ペロシ氏は中国の強硬な反対を押し切って訪台し
た理由について「台湾の民主主義を支援するため」との声明
を発表したが、発言や行動を精査すると、「米国の半導体産
業強化」というもう一つの目的が浮かび上がる。
米下院はペロシ氏訪台前の7月28日、半導体の製造や研
究に527億ドル(約7兆円)の補助金を投入する法案を可
決した。バイデン大統領の署名で成立する。半導体受託生産
で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は米政府の強
い要請もあって120億ドルをかけてアリゾナ州で工場建設
を進めており、補助の対象になるのは確実だ。
バイデン氏は昨年、半導体サプライチェーン(供給網)を
見直す大統領令に署名し、半導体製造強化に500億ドル規
模を投じる方針を表明した。だが、裏付けとなる法案の審議
は、野党・共和党の反対などで大幅に遅れていた。TSMC
創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏らも早期成立を繰り返
し求める中、与党・民主党のペロシ氏にすれば、ようやく政
権の要望に応えたことになる。8月2日夜に台湾に到着した
ペロシ氏は翌3日朝、立法院(国会)を訪れた。台湾側の参
加者に対し、同行している5人の議員を「半導体の法案成立
に共同で貢献してくれた」と紹介した。
https://bit.ly/3wGJ4EO
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台湾海峡を航行する米駆逐艦「アンティータム」