く8月1日早朝にはどうなっているかわかりませんが、あえて論
じてみることにします。
もともとペロシ下院議長の台湾訪問は4月に計画されていたの
です。しかし、ペロシ議長がコロナに感染し、この計画は一時棚
上げになります。ところが7月になってこの話が再び話題になり
ペロシ議長は8月の台湾訪問を検討しているという情報が伝わっ
てきたのです。
7月20日のことです。バイデン米大統領は、記者団にこの話
について意見を問われ、次のように答えています。
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ペロシ議長の訪台について、米軍はそれがいい考えだとは思っ
ていない、と思う。だが、状況がどうなっているのか、私は知ら
ない。( "I don't know what the status of it is")
──バイデン米大統領
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これは、バイデン大統領の「大失言」です。「その話は知らな
い」といえばよかったのです。それを「米軍が反対している」と
いう機密情報を明かしてしまったからです。
ペロシ議長は、中国政府の人権抑圧政策に厳しい態度をとって
おり、天安門事件やチベット動乱における中国政府の行為を強く
批判しているため、民主党内では最も中国に厳しい議員の一人と
も言われている人です。
さらに米下院議長といえば、大統領、副大統領に次ぐ3番目の
役職であり、そういう人物が台湾を訪問するということになれば
米国は公式に「台湾を支持している」というスタンスを示すこと
になります。ましてペロシ議長が訪台するとなると、民間機では
なく、軍用機を使うことになります。そうなると、米軍が堂々と
台湾に派遣されていることになるので、中国としては、絶対に認
めることはできないのです。
これに対して中国は7月19日、外務省報道官のコメントとし
て、次のように絶対反対を表明しています。
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もしペロシ議長が訪台すれば、我々は主権と領土の一体性を守
るために、断固として強力な措置をとる。 ──外務省報道官
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米軍が反対している──それでもペロシ議長が訪台することに
なれば、議長が登場する軍用機を護衛するために、戦闘機編隊を
出動させ、空母も派遣する大事になります。これに対して、7月
26日、中国国防省は次のように表明しています。
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もし、米国がペロシ議長の訪台計画を実行すれば、中国人民解
放軍は、けっして座視しない。外部からの介入と、台湾独立の策
略を阻止するために、強力な手段を講ずるであろう。
──中国国防省
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ペロシ議長の訪台情報がわかった以上、中国だってこういわざ
るを得ないのです。たとえ噂が出ても、大統領が「私はそんなこ
とは知らない」といっていれば、大統領に下院議長の訪台計画を
止める権限はなく、たとえ実際に訪台が行われても、中国は非難
はしますが、軍事衝突に発展する可能性は低いのです。
ところがバイデン米大統領は、ペロシ議長の訪台計画を暗に認
め、米軍が反対していることを口にしてしまったのです。こうな
ると、実施すれば、中国としては嫌でも面子にかけて軍事行動を
せざるを得なくなり、米中の軍事衝突のリスクが高まる恐れが増
大します。
また、ペロシ議長を説得して、訪台を実施しないことになって
も、バイデン政権の弱腰が非難される事態に陥り、さらに支持率
が下がることは確実です。これによって、中国としては「米国は
中国の脅威に屈した」と喧伝するはずです。
そういうさなか、7月28日にバイデン米大統領と中国の習近
平国家主席との電話会談が行われたのです。この模様について、
7月30日付の朝日新聞デジタルは次のように報道しています。
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ホワイトハウスによると、バイデン氏は、台湾を中国の一部だ
とする中国政府の立場を認知した米国の「一つの中国」政策に変
更がないと伝えた一方、「台湾海峡での一方的な現状を変更しよ
うとする、平和と安定を損なう試みに強く反対する」と釘を刺し
た。一方、中国外務省によると、習氏は台湾問題について「我々
は外部勢力の干渉に断固として反対し、いかなる形の台湾独立勢
力にも一切の隙間を与えない」と強調。「火遊びをすれば必ず自
らを焼く」と米側に警告した。ペロシ氏の訪台計画も念頭に、台
湾関与を強める米国の姿勢を強く牽制(けんせい)したものだ。
──7月30日付、朝日新聞デジタル
https://bit.ly/3PJZuDW
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習近平主席のいう「外部勢力の干渉に断固として反対し、火遊
びをすれば必ず自らを焼く」という部分は、ペロシ議長の訪台計
画を念頭においた発言であることは確かです。
3月にもバイデン/習近平会談は行われていますが、このとき
はお互いの顔の見えるテレビ電話方式だったのですが、今回は電
話でのやり取りに終わっています。中国側が電話会談にこだわっ
た結果とされ、米中の間の溝は一層深まったといえます。電話だ
といいたいことがいえるからでしょう。
米中の話し合いの本心は、インフレを抑えたいバイデン政権に
とって、中国製品への制裁関税の一部引き下げ案を検討していた
といわれます。習近平主席にとっても、秋に共産党幹部の党大会
を控えているので、米国による関税引き下げは、渡りに船だった
のですが、成果なしに終わっています。
──[新中国論/010]
≪画像および関連情報≫
●米ペロシ下院議長 近く訪台の見方 慎重論も 動向に
関心集まる
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アメリカのペロシ下院議長が、近く台湾を訪問するとの見
方が出ていることについて、バイデン政権からは、慎重に検
討すべきだという声が出ていて、中国がアメリカの台湾への
接近に警戒を強める中、下院議長の動向に関心が集まってい
ます。アメリカのペロシ下院議長は、ことし4月に日本とと
もに台湾を訪れる予定でしたが、直前に新型コロナウイルス
への感染が確認され、訪問を延期しました。
こうした中、イギリスの新聞、フィナンシャル・タイムズ
は先週、複数の関係者の話として、ペロシ議長が、台湾への
支持を表明するため、代表団を率いて来月、台湾を訪問する
ことを計画していると報じました。
これについて、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は
25日、記者会見で「政権は、議員に対して地政学的かつ安
全保障上の観点などから、外国訪問にまつわる情報を日常的
に提供している」と述べたうえで「ペロシ議長の日程を先ん
じて発表することはしない」と述べました。
アメリカの下院議長は、大統領が死亡したり職務が遂行で
きなくなったりした場合に大統領権限を継承する順位が副大
統領に次ぐ2位で、台湾訪問をめぐる報道に中国はすでに強
く反発しています。 https://bit.ly/3PSkCbq
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ナンシー・ペロシ米下院議長