2022年07月28日

●「中国不動産市場が急成長した理由」(第5781号)

 中国の不動産最大手の恒大集団が経営破綻したのではないかと
いう情報が出たのは2021年の秋頃のことです。それから約6
カ月後の2021年12月9日付の日本経済新聞は、恒大集団に
ついて、次のように伝えています。
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◎中国恒大「一部デフォルト」/フィッチが格下げ
【上海=土居倫之】格付け会社フィッチ・レーティングスは9日
巨額の債務を抱えて経営難に陥った中国恒大集団の格付けを部分
的な債務不履行(デフォルト)に認定したと発表した。米ドル債
の利払いを確認できなかったためだ。米ドル債の発行残高は2兆
円規模で、中国企業として今後過去最大のデフォルトになる可能
性がある。海外投資家の中国企業に対する警戒も一段と強まりそ
うだ。      ──2021年12月9日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3S1y7Xp
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 中国の恒大集団が問題なのはドル建て債があるからです。人民
元建ての債務であれば、中国の中央銀行である中国人民銀行が人
民元を刷れば表向きは解決するので、民間企業を国有化して片付
けてしまうのですが、ドル建て債はどうしようもありません。中
国人民銀行は、ドルは刷れないからです。
 航空、不動産、金融サービス、観光、物流など、幅広く手掛け
ている「海航集団」という中国の企業があります。この企業は、
2021年1月に倒産していますが、なぜか生き残って、まだ、
定期便を飛ばしています。
 まだあります。北京大学系のIT企業である「北大方正集団」
精華大学系のハイテク企業の「紫光集団」は、どちらも倒産して
いますが、依然として営業を続けています。
 中国の企業は、一つの企業の名の下で、いろいろな事業を手掛
けるところが多いので、「○○集団」という名前になることが多
いといえます。そういう企業が倒産すると、正規の破産などの手
続きをとらず、手形などをジャンプさせて一時的に延命させ、そ
の間にプラスの事業は国有企業に売却します。その結果、一番損
をするのは、一般の債権者ということになります。具体的にいう
と、民間の投資家や外国銀行です。ルールを守らないで、無茶苦
茶なことをやっているわけです。
 恒大集団でもきっとそれをやっています。その証拠に恒大集団
の2020年末の手形融資残高は約3兆円でしたが、2021年
6月にはそれが11・6兆円に膨れ上がっています。おそらく、
手形をジャンプさせて、金利を上げたので、こういう結果になっ
たものと思われます。
 2022年7月19日付、日本経済新聞に恒大集団がらみの次
のニュースが報道されています。
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◎中国住宅ローン、相次ぐ返済拒否
【北京=川手伊織】中国で建設工事が止まった未完成住宅の購入
者が、住宅ローンの返済を拒否する動きが相次いでいる。物件引
き渡しの遅れに抗議するためだが、不動産開発会社も政府の規制
強化で資金不足に苦しむ。返済拒否が広がると、銀行の貸出残高
の2割を占める住宅ローンの不良債権リスクが高まりかねない。
 中国では、新築マンションの竣工前に購入契約を済ませる人が
多い。2021年後半から住宅市場が低迷し、在庫が積み上がっ
ている。それでも販売額の9割が建設中の物件だ。入居前から住
宅ローンの返済が始まる例が多い。
 6月末、陶磁器で有名な江西省景徳鎮市。不動産開発大手、中
国恒大集団が手掛ける未完成物件の持ち主が集団で「工事を再開
しなければ住宅ローン(の支払い)を止める」と公表した。これ
が世間の関心を集め、各地の未完成物件にも広がった。中国メデ
ィアによると、18日時点で返済拒否の公表を確認できた開発案
件は300カ所を超えた。
         ──2022年7月19日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3OtOMQA
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 この記事を読むと、日本人にはピンとこないことがあります。
日本の場合、マンションなどの住宅を取得する場合、購入契約時
に、購入価格の5%〜10%の手付金を支払います。そして、物
件が完成して引き渡しが終われば、銀行は購入者との住宅ローン
の契約に基づいて、購入価格全額をデベロッパーに支払い、購入
者は、それ以後、契約にしたがって銀行に住宅ローンを支払って
いくことになります。これが常識です。
 しかし、中国の場合は違うのです。中国では購入者に住宅ロー
ンを提供する銀行は、購入契約時に、つまり建物ができていない
時点で購入価格の全額をデベロッパーに支払うのです。したがっ
て、中国のデベロッパーは、その代金を使って次の住宅を建設す
ることができるのです。実際に恒大集団は、そのようにして次々
と住宅を建設することができたというわけです。
 これは全額前金で住宅建設ができるので、住宅デベロッパーに
とって、こんなおいしい話はないのです。恒大集団がこの手法で
次々とマンションなどの住宅建築計画を打ち上げ、工事に着手す
る前に得られる巨額な資金を使って、さらなる住宅建設計画や投
資を行い、急成長したのです。
 このような手法では、住宅が完成する前に住宅デベロッパーが
倒産するケースも出てくることになり、このケースでは、住宅が
完成する前に、銀行への住宅ローンの支払いがはじまることが多
発することになります。
 上記の日経の記事は、未完成住宅の購入者が住宅ローンの返済
を拒否する動きを伝えているのです。多くの住宅購入者が「恒大
集団に限って住宅建設を放り出すことはない」と信用したからこ
そ、購入契約を結んでいるので、恒大集団の破綻情報を知り、そ
の怒りが爆発したということになります。
                 ──[新中国論/008]

≪画像および関連情報≫
 ●天下の国営企業ですら経営難に/「恒大集団の破綻」でつい
  に始まった中国の倒産ドミノ
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   中国の不動産会社が震源となった信用不安が、いよいよ収
  拾がつかなくなってきた。昨秋から社債の元利払いが懸念さ
  れてきた恒大集団の他にも、社債の元利払いが滞らせる債務
  不履行(デフォルト)が続出。その頻度は日本の「失われた
  10年」にもなかったほどで、中国の資本市場が機能不全を
  起こすなど、97〜98年ごろの日本に、そっくりの状況に
  なってきた。そこで日本の「失われた10年」に照らして、
  いま中国で起きている現象をどう位置づければいいのか、改
  めて考えてみたい。
   日本で上場企業の経営破綻が相次ぐようになったのは97
  年からだった。この年の夏に「影響が大き過ぎて潰せない」
  と言われ続けてきた上場ゼネコン(総合建設会社)が立て続
  けに3社も破綻し、9月にはスーパーマーケットを国内外で
  展開していたヤオハンジャパンの転換社債が債務不履行を起
  こした。さらに11月には、三洋証券、山一証券、北海道拓
  殖銀行が破綻し、三洋証券は短期金融市場でデフォルトを起
  こした。この97年後半を境に信用不安が一気に広がった。
  信用不安を媒介したのは株式市場や資本市場、短期金融市場
  などのマーケットである。ここでは98年の資本市場を例に
  とってみよう。        https://bit.ly/3b97bVh
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新築物件の販売は大半が建築中.jpg
新築物件の販売は大半が建築中
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする