とではありません。経済には常識というものがあり、そんなこと
をすれば、他の経済の統計数値に矛盾が起きてしまうからです。
その誤魔化せない数値に「輸入統計」があります。
ある国にとっての輸入は、それに対する外国にとっては輸出で
あり、輸出国側に記録が残ります。そのデータは、WTO(世界
貿易機関)に登録され、ネットを通して公開され、誰でも見るこ
とができるようになっています。したがって、この数字を誤魔化
すことは困難です。
一般的に輸入が減るときは、国内の需要が縮小し、自国の供給
力が余っています。逆に輸出が増えているときは、国内の需要が
旺盛であり、そのため自国の供給力では足りなくなっています。
これが経済常識といわれるものです。
2015年の中国の実質経済成長率は6・9%という高い成長
率を示しています。中国の公式発表によると、2014年と20
15年の実質経済成長率は次の通りです。2015年の成長率は
前年より0・4%減少しています。
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2014年実質経済成長率 ・・・ 7・3%
2015年実質経済成長率 ・・・ 6・9%
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中国の2015年の輸入額は13・2%も大幅に減少していま
す。それなのに、実質経済成長率は0・4%しか減っていない。
あり得ないことです。実際にOECD加盟国30カ国の過去15
年間のデータを検証してもそのような事例は皆無です。したがっ
て、この場合、輸入の伸び率のマイナス幅は隠しようがありませ
んが、経済成長率の鈍化の数値を大きく変更していると思われま
す。どうしても経済成長率を落としたくない事情があるのです。
これについては、改めて述べることにします。
なぜ、統計データを改ざんするのでしょうか。
それは、その国家にとって戦略的意義があるからです。それは
旧ソ連でも行われていたことです。
中国の経済数値のウソについては、中国の政治家や学者も指摘
しています。最近の例でいうと、楼継偉(ろうけいい)氏の経済
フォーラムでの発言があります。楼継偉氏は、ただの経済人では
ありません。中国の元財務部長(日本の財務大臣)だった人であ
り、そういう人物が、中国政府の統計数字への疑問を次のように
述べています。
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好調な数字ばかりだ。中国は困難に直面していると(口では)
言うが、統計数値には表れていない。報道も、あれが増えたこれ
が増えたと言うだけで、何を失ったかに触れない。
──楼継偉氏/2021年12月11日の発言
https://bit.ly/3PAgwo0
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もうひとつ、中国人民大学のマクロ経済学者、向松祚(こうし
ょうそ)教授は、公の場において、2018年の本当の成長率は
政府のいう6%台などではなく、本当は1・67%であると発言
しています。東洋証券のレポートを紹介します。
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高名な経済学者で、中国人民大学国際通貨研究所・副所長、中
国農業銀行・主席エコノミストなど数々の役職を兼務する向松祚
氏が、2018年12月16日、人民大学で開かれた“改革開放
40周年記念フォーラム”において講演し、中国の今年度実質G
DP成長率は、政府が云う6%台どころではなく、研究所の試算
では1・67%だと発言した。
同氏によると、中国経済は明らかな下振れリスクに見舞われて
おり、そのような事態を招いた要因として、米中貿易戦争と、民
営企業の投資減少などを挙げている。これは海外の辛口評価では
なく、中国の国家公務員の発言である。18日の香港メディアの
“蘋果日報 (Apple Daily)”によれば、向松祚氏の講演は中国
当局による統計データの瞞着を暴いたため、中国共産党中央宣伝
部の逆鱗に触れ、当局は動画の削除を命じたという。
https://bit.ly/3PLBGiC
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中国は、2022年度のGDPの成長目標を5・5%としてい
ますが、中国経済の専門家の多くは、目標達成は難しいという見
方をしています。それは、中国経済が抱える「三重苦」とウクラ
イナ問題による原油価格の上昇があります。
中国経済が抱える「三重苦」とは何でしょうか。それは次の3
つのことを意味しています。
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@不動産市況の悪化
A新型コロナ感染再拡大による人流・物流の寸断
BIT先端企業への締め付け強化
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とくに深刻であるのは@の「不動産市況の悪化」です。
業界最大手の恒大集団が破綻に瀕しています。いや、恒大集団
は完全に破綻していますが、破綻という処理をしていないだけで
す。多くの日本人は、日本のバブル崩壊のときのように、大手の
不動産会社の破綻というぐらいの認識ですが、そんなレベルの破
綻ではないのです。
恒大集団は、日本でいえば三井不動産、三菱地所、住友不動産
を合計したよりも大きい規模です。これらの企業が倒産し、企業
に付随する多くのデベロッパーが連続倒産したら、それは建築業
にも、不動産代理店もバタバタと連鎖倒産が起きてしまいます。
これには、必然的に金融がからむので、中国発の金融恐慌が起き
る可能性が大です。もし、起きれば、それはリーマンショックの
10倍以上の規模になることは確実です。
──[新中国論/007]
≪画像および関連情報≫
●中国、「経済絶好調」は大ウソ?苦悩にあえぐ
中小企業の実態
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経済、学術などさまざまな分野において、中国は米国と並
ぶ経済大国に成長を遂げた。世界が、パンデミックの経済的
ショックに苦戦する中、一早く回復基調に転じ、今や米国を
しのぐ勢いだ。しかし、実際は国内の物価が高騰し追加金融
緩和が講じられるなど、足元が揺らいでいるのではないかと
の疑念もささやかれるなど、その実態には不透明さが漂って
いる。
世界で最初に新型コロナの危機に直面したにも関わらず、
中国は迅速かつ厳格な措置を講じることで感染拡大の抑制に
成功した。これが経済活動の早期回復につながった。さらに
6兆元(約101兆6150億円)規模の大型財政出動や国
内外からの生産需要の急増という強力な追い風に背中を押さ
れ、「中国一人勝ち」の状況を創り上げた。コロナ禍にも関
わらず、2020年の貿易黒字は、前年から27%増の53
50億ドル(約58兆6934億円)と、過去最高に近い水
準を記録した。
国際通貨基金(IMF)が2021年7月に発表したデー
タによると、世界がコロナの大打撃を受けた2020年、主
要国の中で、唯一経済がプラス成長を記録したのは中国のみ
だった。 https://bit.ly/3vfIsW3
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向松祚教授