にいたっています。このテーマは今回で最終回です。なぜ、日本
経済は30年近く成長しないのか──この問題について、さまざ
まな角度から検討してきたつもりです。
数学のように答えの出せる問題ではありませんが、政府の経済
財政政策の失敗というしかないと思います。疑問なのは、日本で
デフレが長期間にわたって続いていることを知らない人は少ない
ですが、「30年近く日本経済が成長していない」ということを
知る日本人が少ないことです。若者が経済に関心が薄いというこ
ともあると思います。
最近になって日米の金利差の拡大による円安が進み、物価が高
騰して、賃金が長期にわたって増加していないという事実にはじ
めて気がついた人は多いと思います。
今回のような円安は20年ぶりということです。当時に比べて
深刻なのは、日本の平均年収が20年前より下がっていることで
す。2000年と2020年の年収を比較してみます。OECD
のデータです。
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2000年 ・・・ 464万円
2020年 ・・・ 440万円
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ドル建てでみた場合、世界における日本の給与水準は2000
年には、OECD加盟国のなかでは3位だったのですが、現在そ
の地位は大幅に下落しています。経済で見ると、日本は明らかに
劣化しています。かつての「経済の日本」は、もはやどこにも存
在しないのです。しかし、国民が選挙で必ず選ぶ政党は、相も変
わらず自民党です。
もっとも野党が良いというわけではないと思います。今や野党
から有力議員が続々と自民党に乗り換えつつあります。それも選
挙に強い議員ばかりです。野党では、いつまで経っても政権交代
ができないと思っているです。したがって、今回の参院選の結果
は、「自民党の大勝」ではなく、「野党の大敗」ととらえるべき
であります。
自民党は、選挙区における1人区では28勝4敗、6年前の参
院選では21勝11敗でしたから、今回は圧勝です。しかし、そ
れにしても比例が少ないです。選挙区でこれだけ勝てば、比例で
はもっととれるはずですが、20議席の予測に対して18議席に
とどまっています。その影響で、全体の獲得議席65に対して、
63に終わっています。
問題は自民党の減った分、つまり自民党批判票の受け皿が、既
成野党ではないということです。3議席を得たれいわ新選組、1
議席のNHK党、参政党などのミニ政党に分散してしまっていま
す。これらのミニ政党が目立ったことについて、『夕刊フジ』の
「鈴木棟一の風雲永田町」は次のように書いています。
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政権への不満の受け皿。新しい参政党は176万票も集めた。
社民党より多かった。これまでもミニ政党は数多く出現し、ほと
んどが一過性で消えた。どれだけ長持ちするか、だ。
──2022年7月12日発行『夕刊フジ』より
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岸田政権の懸案事項は、防衛費の増強です。岸田首相はロシア
や中国の軍事的脅威に対応するため、「防衛費の相当な増額」を
既に表明しています。自民党が掲げるGDPの2%を防衛費にす
れば、約11兆円に相当します。今年度の防衛費は約6兆円です
から、実に5兆円の増額になります。
問題は財源です。亡くなった安倍元首相は、「防衛国債」と銘
打って、当然全額国債で賄うべきであると主張していましたが、
これまで岸田首相は財源については明言していません。おそらく
岸田首相は、東日本大震災のときのように、増税で賄うべきと考
えていると思います。何回もいうように、岸田首相は完全な財務
省寄りの政治家です。
もし、ここで増税で防衛費の増額分を賄うとなると、日本経済
のさらなるデフレの深化は必至であり、国際的に日本の地位は、
低下していきます。経済が弱いのでは、防衛費を増額しても国は
守れないと思います。経済力こそ国のパワーです。
防衛費を「5兆円増やす」というと、大変なことのように考え
ますが、新型コロナ対策予備費として、5兆円の予算がついてお
り、しかもかなり余っているといわれます。しかし、財務省は防
衛費に関しては、「削れ!削れ!」の1点張り。財務省の考えて
いる防衛予算に関するレポートについて、元陸上幕僚長の岡部俊
哉氏は次のように反論しています。
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財務省に言いたい。国債の問題だ。資料には「我が国の経済・
財政力を踏まえた『持続可能』な戦略」というタイトルで、「継
続的な支出を暫定的な手段によって裏付けなく賄い続ければ、結
果的にそれ自体が我が国の脆弱性になりかねない」とある。
明らかに国債発行は、絶対にやらないぞということを言ってい
る。建設国債は認められているが、防衛はどうか。今の国の平和
と安全は将来に向けて続けていかないといけない。これは建設国
債発行の考え方と同じで、今の人も負担するし、将来の人もやっ
ばり負担してもらわないといけない。その観点でいけば防衛国債
というか、名前は違うにしても、少なくとも国債発行というのは
前向きに考えるべきじやないか。──元陸上幕僚長の岡部俊哉氏
『正論』/2022年7月号より
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「自分の国は自分で守る」──この当たり前のことが今の日本
はできていないと思います。それは、防衛・自衛隊のOBたちの
財務省作成のレポート「我が国の経済・財政力を踏まえた『持続
可能』な戦略」に対する強い憤りによくあらわれています。
──[新しい資本主義/129/最終回]
≪画像および関連情報≫
●防衛予算10兆円規模へ引き上げで世界3位へ?
国防に商機! 日本の軍需関連企業まとめ
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ロシアによるウクライナ侵攻を受け、岸田文雄首相は防衛
費を増額していく方針を示した。自民党内からは、防衛予算
を現状の2倍に近い10兆円規模にまで引き上げるという構
想も出てきており、国内で軍需産業に関連する企業にとって
は一大ビジネスチャンスが訪れている。
2021年度の日本の防衛関係費は、2020年度と比べ
て547億円増えた5兆1235億円で、9年連続の増額と
なった。このうち、装備品の修理や整備、調達などのための
「物件費」は、全体の約6割に当たる2兆9316億円だっ
た。この3兆円という国内市場の規模は、例えば、たばこ市
場や化粧品市場よりも大きい。
東京新聞の記事によると、世界各国の軍事支出を多い順に
並べたランキング(2020年)では、1位が「米国」(7
780億ドル)、2位が「中国」(2520億ドル)。3位
の「インド」以下は、1000億ドルを切り、「ロシア」、
「イギリス」、「サウジアラビア」、「ドイツ」、「フラン
ス」と続き、9位に日本が入っている。もしも自民党内から
出ているように日本の防衛費が倍増すると、日本の軍事支出
は、インドを抜いて世界第3位になるという。上記の「物件
費」が、防衛予算全体に占める割合が一定とすると、防衛費
が10兆円に膨らんだ時、物件費は6兆円に拡大する。そう
なると、市場規模は百貨店業や自動車整備業などを上回るこ
とになる。 https://bit.ly/3IC2X4A
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岡部俊哉元陸上幕僚長