ともと与党自民党・公明党が負ける選挙ではなかったのですが、
選挙終盤に安倍元首相が銃撃され、死亡するという大アクシデン
トがあったので、「弔い合戦」のような雰囲気が出来上がり、自
民党が圧勝したともいえます。
まして今回の選挙は、ロシアによるウクライナへの侵攻が起こ
り、日本の防衛に関して危機意識が高まっていたので、政権選択
選挙ではないものの、「有事は自民党を勝たせる」べきという国
民の意思が高まった結果の勝利といえます。
安倍元首相は、とにかくひたすら何かを懸命にやろうとした首
相です。政治評論家の田原総一郎氏は、安倍元首相を評して「や
りたいことがはっきりしている政治家」と評していますが、まさ
にその通りであると思います。
国内では、日銀の黒田総裁と組んで、異次元の金融緩和の下で
アベノミクスを展開し、日本経済をデフレから脱却させようとし
ています。デフレからの脱却は、2つの消費増税によって実現し
ませんでしたが、日本経済を揺るがしたことは確かです。それが
ここまでできたのは、彼が2度目の首相経験者であったことと無
関係ではないと思います。
外交面では、「地球儀を俯瞰する外交」という理念を掲げ、世
界の76カ国・地域において、日本が主体的な役割を担う外交を
積極的に展開し、台頭する中国を念頭に、自由と民主主義に基づ
く国際秩序の維持を目的とした「自由で開かれたインド太平洋」
構想を打ち出しています。この構想は、世界のリーダーから支持
を得て、日本の国際社会での評価と存在感を高めることになった
ことは確かです。「TIME」誌が、次回の表紙に安倍元首相の
写真を掲げて特集を組むことが、それをよく物語っています。
その安倍元首相が突然いなくなったことは、日本の内政・外交
に大きな変化を及ぼすことになります。現在、日本は、内政・外
交ともに危機的状況にあるといえます。それは、「安倍プラス岸
田」でなら、何とか乗り切れると私は思っていたのですが、安倍
首相がいなくなると、失礼ながら、現在の岸田首相では、強い不
安感を感じざるを得ません。
なぜかというと、岸田首相は「新しい資本主義」を提唱してい
ますが、その具体策は、「目新しさゼロ」であり、「アベノミク
スとどう違うか」もはっきりしません。失礼ながら、経済が本当
にわかっているのかどうか疑問です。
岸田首相に関しては「岸り人/きしり人」という言葉があるこ
とは、ご存知でしょうか。
政権発足直前の昨年9月、東証一部の時価総額は、778兆円
だったのですが、岸田首相は、「金融所得課税の強化」「自社株
買い制限」の2つを掲げ、大幅な規制緩和もしないことがわかっ
てしまったため、今年の1月末には、時価総額は679兆円にま
で落ち込んでしまったのです。時価総額というのは、ある上場企
業の株価に発行済株式数を掛けたものであり、企業価値や規模を
評価するさいの指標です。
4カ月で100兆円が吹き飛んだことで、SNS上では「岸り
人」という言葉が飛び交うようになったのです。「岸り人」とは
岸田政権発足後、資産を大幅に減らした投資家を指す造語を意味
します。アベノミクスで億単位の金融資産を築いた投資家を「億
り人」と呼びましたが、「岸り人」はそれをもじったものです。
今回の参院選直前、猛烈な物価高が日本を襲いましたが、岸田
内閣は、それに対する具体的な対策を何もアナウンスせずに選挙
に突入しています。これは、「どうしていいかわからない」とい
うように国民に受け止められていますが、それでも参院選に自民
党は圧勝してしまうのです。
これは想像ですが、首相になった人が自分の内閣を安定的に運
営しようと思うなら、財務省との関係を良くすることが必要にな
ると考えます。財務省は予算を担っており、自分が思うように政
策を進める場合、財務省から反対されると、やりにくくなるから
です。だから、財務省を敵に回したくないのです。
それを一番感じたのは、民主党政権のときです。民主党政権で
は、鳩山内閣、菅内閣、野田内閣の3つの内閣が誕生しています
が、菅直人元首相と野田佳彦元首相は、次の時期に財務相を経験
しています。
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◎鳩山内閣
菅 直人財務相/2010年 1月 7日〜
2010年 6月 8日
◎菅 内閣
野田佳彦財務相/2010年 6月 8日〜
2011年 9月 2日
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もともと民主党は、公約として、こども手当「1人当たり月額
2万6000円」を掲げて政権交代しましたが、その実現に当た
って、財務省から「そんな財源はない」と突き放されたのです。
そして、菅、野田元首相ともに財務省流の「財政均衡論」によっ
て、あっけなく洗脳されてしまっています。菅直人元首相は、増
税を掲げて参院選を戦い、敗北します。
その後、菅内閣で財務相を務めた野田佳彦元首相は、財務省に
よって、同じく洗脳され、公約に反して、こともあろうに当時野
党の自民党と組んで、「社会保障と税の一体改革」の法律化を実
現させています。しかし、これによって、民主党党内は、大荒れ
になり、小沢グループの大量離脱を招いています。
しかし、岸田内閣は、既に述べているように、それを支えるス
タッフのほとんどが、財務省出身の政治家であり、財務省寄りで
す。その岸田内閣の財務省寄りの姿勢への圧力になっていたのが
党内最大派閥を率いる安倍元首相だったのです。
──[新しい資本主義/126]
≪画像および関連情報≫
●安倍元首相、急逝のウラで…マスコミがあえて報じない、
岸田政治「外交と国防」のシナリオ
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参議院選挙の選挙期間が終わった。安倍晋三元首相が銃撃
され亡くなるという、長い政治記者生活の中でも未曽有の出
来事に驚愕しながら、筆者自身も投票を終えた。
秋の臨時国会での大胆な財政支出、そして憲法改正や来年
度予算編成での防衛費増額に意欲を見せていた安倍元首相が
7月8日、近鉄大和西大寺駅前で遊説中、銃撃され死亡した
ことは、この先、補正予算案の編成や安全保障政策に多大な
影響を与えることになる。
筆者は、今回の参議院選挙を、「自公VS野党ではない。
岸田VS安倍の戦いだ」と位置づけ、安倍元首相による自民
党候補の応援演説の内容に着目してきた。6月27日、千代
田区で開かれた生稲晃子候補の決起集会で、安倍元首相は、
「1993年に初当選した同期の中で、最もハンサムなのは
岸田さんだが、最も人柄が良いのは私」と笑いをとった。そ
して、話が経済に及ぶと、アベノミクスの実績を強調し、円
安であっても「金利を上げるべきではない」と、自身が敷い
てきた路線を堅持するよう求めた。
7月6日、横浜駅西口で三原じゅん子候補の応援に駆け付
けた際は、憲法への自衛隊明記と防衛費のGDP比2%まで
の増額に触れ、「自分で努力しない国に手を差し伸べてくれ
る国はどこにもない。日本とアメリカの間には強固な同盟関
係があるが、何もしない日本のため戦うことにアメリカ国民
の理解を得ることができるだろうか」と、駅前を埋め尽くし
た聴衆に熱く防衛力の強化を訴え続けた。
https://bit.ly/3bXE5rT
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菅直人元首相/野田佳彦元首相