2022年07月07日

●「ロシア人はなぜ平然と嘘をつくか」(第5767号)

 2022年7月5日付、日本経済新聞に作家のミハイル・シー
シキン氏の寄稿『プーチンは皇帝か』が掲載されています。その
冒頭の一部を以下に転載します。
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 このごろは、ロシア人であるということに苦痛を覚える。今や
全世界にとってロシア語と言えば、ウクライナの街を爆撃し、子
どもを殺害する者の言語、戦争犯罪人の言語、殺人者の言語と同
等と見なされてしまう。この「特別軍事作戦」の目的はロシア人
やロシアの文化、ロシア語を、ウクライナのファシストたちから
救うためだという。だが実際には、この戦争はウクライナのみな
らず、ロシア人やロシアの文化、私の母語に対する犯罪なのだ。
 (中略)プーチンは最後まで戦うだろう。新たに何千人もの命
を火の中に投げ入れながら。しかし、彼に勝ち目はない。彼は国
民に勝利を与えたかった。勝利は、自分が「真の」ツァーリ(訳
注=皇帝)であることの唯一の証しだからだ。
        ──2022年7月5日付、日本経済新聞より
                 https://bit.ly/3AuwQBY
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 シーシキン氏は、モスクワ生まれですが、30代からスイスに
住み、ロシア語とドイツ語で作家活動をしています。ロシアの主
要な文学賞をすべて受賞し、プーチン政権には一貫して批判的で
2014年のソチ五輪などで、ボイコットを呼びかけています。
 ロシアは、ウクライナ侵攻以来、シーシキン氏のような知識人
の多くを既に失っています。多くの知識人が既にロシアを離れて
いるといわれます。
 目の前で、ウクライナ中部のポルタワ州のショッピンセンター
にロシアからのミサイルが着弾し、燃え上がっている映像を前に
しても、「ロシアは民間施設を攻撃しない」とか、「この攻撃は
ウクライナがやったものである」とか、平然とウソをつくロシア
の政治家や外交官や軍人には、通常の感覚からいえば、唖然とせ
ざるを得ないのです。
 ロシアによるウクライナ侵攻がはじまった直後の3月頃だった
と思いますが、ミハイル・ユーリエヴィチ・ガルージン駐日ロシ
ア連邦大使がTBSの『報道特集』という番組に出演し、同番組
の金平茂紀記者とウクライナ問題について激しい討論したことが
あったのです。
 そのとき、ガルージン大使が「ロシア軍はけっして民間人を攻
撃しない」というのに対して、番組で民間住宅がロシア軍のミサ
イルで炎上している動画を見せると、「これはあなたたちが、わ
れわれを貶めるために作ったフェイク動画だ」と顔色も変えずに
平然といったのです。テレビの生放送でも、そういうウソをつく
のは驚きです。駐日ロシア大使といえば、ロシアを代表して日本
に駐在している外交官です。そういう国を代表する人物が、ウソ
ではあり得ないTBSのニュース動画に対して「これはフェイク
ニュースだ」という。私はこの番組を見ていたのですが、大使の
言葉を聞いて、唖然としてしまったことを覚えています。
 こういうロシア人のウソについて、ロシアに在住するある日本
人は『ロシア人の根深い嘘の文化』と題して、ネット上で次のよ
うに述べています。
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 ロシアに住んでいて、本当にうんざりすることが、フェイクニ
ュース(虚偽情報)の存在だ。私がロシア人の気質で最初につま
ずいたのが、自己保身のために平気で嘘をつく、決して謝らない
通弊だった。それは密告や投獄が日常茶飯事だった共産主義社会
で生き残るために必要な知恵だったのだろう。
 今でも社会悪や政権の不正を告発する者が逮捕され、時には闇
に葬られるという「正直者が馬鹿を見る社会」が現存する。世界
に衝撃を与えている、欧米に向け拡散されるフェイクニュースの
背後に、ロシアが関わりを持つと言われている。もっともロシア
人の友人たちは、その存在すら認めようとしない。かつてKGB
(ソ連国家保安委員会)のお家芸だった偽情報工作は、ロシアの
根深い嘘の文化を背景にしていると考えてよい。
                  https://bit.ly/3nFCOs2
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 そもそもかつてのソ連は、国家による計画経済が欧米の資本主
義経済に敗北し、崩壊しています。現在のロシア経済は、今回の
ウクライナ危機による西側諸国の制裁によって、徐々に孤立化を
深め、ソ連化しつつあります。これが長期化すると、ロシアは再
び敗北する可能性があります。
 今回のウクライナ危機に関して、西側諸国は、エネルギーを過
度にロシアに依存することのリスクを嫌というほど、感じている
はずです。そのため、今後一部のロシアの友好国は別として、エ
ネルギーのロシアヘの依存度を計画的に下げていくはずです。そ
うなるとロシア経済のソ連化は一挙に進行することになります。
 そのひとつにロシアの自動車産業があります。ロシアの自動車
最大手に「アフトバス」という企業があります。アフトバスは、
仏ルノー傘下の企業でしたが、制裁の影響で部品調達が困難にな
り、4月上旬以降は生産がストップしています。ルノーは、5月
16日にロシアからの完全撤退を表明し、アフトバスは独立して
事業を存続することになったのです。
 これに対してプーチン政権は、5月に新車の認可条件を大幅に
緩和する大統領令に署名しています。これによって、6月には主
力車「ラーダ」の最新モデルを発表しています。ところがこの新
車には、エアバッグやABS(アンチロックブレーキシステム)
を搭載していないのです。つまり、5月の大統領令は、昨今の排
ガス対策が施されていない車の販売に道を開くためのものだった
のです。これらの装置には、欧米や日本の技術が不可欠で、国内
での代替生産が不可能になったからです。こんな車を快適性や安
全性に慣れているロシアの消費者が買うはずがないのです。
              ──[新しい資本主義/123]

≪画像および関連情報≫
 ●「帝国」が崩壊して、「冷戦」が終わる ロシアを突き
  動かした屈辱感
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  ――ロシア軍のウクライナ侵攻については、「これまでとは
   違う時代の始まり」だと分析する論者が多いように思いま
  す。なぜ、これをむしろ「古い時代の終わり」と位置づける
  のでしょうか。
   今回の出来事は、ソ連という「帝国」が崩壊する最終段階
  にあたると考えるからです。「帝国」は衰退する過程で様々
  な問題を引き起こします。第1次世界大戦前後までに、「帝
  国」は世界の他の多くの地域で消え去りましたが、ソ連と中
  国は、その後も「帝国」の特徴を維持し続けてきました。歴
  史の大きな流れからみると、今回の侵略は、その帝国が崩壊
  する際にしばしば生じる、血なまぐさい事件の一つだと思い
  ます。それは同時に、「冷戦」が、名実ともに終わりを告げ
  ようとしていることも意味しています。
  ――冷戦が終わったのは1989年にベルリンの壁が崩壊し
  米ソ首脳が冷戦終結を、宣言した時ではないのでしょうか。
   冷戦は、米ソが世界を巻き込んで長期にわたってぶつかり
  合った激しい争いでした。今から振り返ると、89年の冷戦
  の終結はあまりにも平和的でした。やはり冷戦のような争い
  の最後は流血を避けられないのではないか。その具体的な例
  が、ウクライナ侵攻という形で今になって現れてきたのだと
  思っています。「帝国」が衰退する過程では、強かった時代
  へのノスタルジーと自分たちの現実の力との間、自分たちが
  考える国際的な地位と実際の国際社会での扱いの間に、大き
  なギャップが生じます。衰退する帝国は、このギャップに耐
  えられない。失われた栄光を取り戻すために、非合理的な行
  動や、現実を無視した暴力に訴えてしまうのです。ウクライ
  ナに侵攻したロシアにうかがえるのも、そのような姿です。
                 https://bit.ly/3bR1bk0
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ロシアの主力車「ラーダ」.jpg
ロシアの主力車「ラーダ」


posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする