産経新聞特別記者、田村秀男氏がグラフで見せてくれます。添
付ファイル「ロシアの通貨、物価と金利」をご覧ください。
ロシア軍がウクライナ国境を越えて侵攻したのは、2月24日
のことです。米欧日の制裁前における2021年12月と、20
20年1月における、ロシア通貨ルーブルの対ドル、対ユーロ、
消費者物価上昇率、短期金利の位置を確認してください。
米国は、かなり早くからロシアのウクライナへの侵攻の情報を
掴んでいて、実施すれば金融制裁をかけるとロシアに通告してい
たのです。何とかして思い止まらせようと考えたからです。した
がって、ロシアがウクライナに侵攻をはじめると、直ちに第1弾
の金融制裁がかけられたのです。
そうすると、ロシア通貨ルーブルは、対ドルでも対ユーロでも
急落し、短期金利は上昇し、消費者物価は高騰しています。しか
し、4月を過ぎる頃になると、通貨ルーブルは、対ドルでも、対
ユーロでも元の位置に戻っています。短期金利は4月頃から急速
に下がりはじめ、5月の中頃には2月の時点よりも低くなってい
ます。ただ、消費者物価だけは、上昇したままになっていますが
5月頃から下がる傾向を示しています。物価について、田村秀男
氏は、次のように述べています。
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物価は高水準だが、峠を越えたようである。2月下旬時点で約
6400億ドル(約86兆7000億円)のロシアの対外準備は
6月下旬までに600億ドルほど減ったあと下げ止まっている。
外準減はルーブルの買い支え市場介入に伴うのだが、もはや介入
も最小限で済む。ロシアの外貨資産の安定した運用に協力してい
るのは中国である。中国はロシア石油と穀物の輸入を急増させて
いるばかりでなく、約1000億ドル分のロシア外準を預かり、
ルーブル相場下支えに協力する。中国の対露協力を野放しにして
いることが、G7制裁不発の一大要因なのだ。
──「田村秀男/『お金』は知っている」より
6月30日発行「夕刊フジ」
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プーチン大統領は、2022年4月18日、閣僚たちを集めて
次のように勝利宣言を行っています。このニュースは、ロシア全
土にテレビ中継されています。
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西側諸国による我が国の市場にパニックを生み出す作戦は、間
違いなく失敗した。彼らは、金融・経済情勢を一気に揺るがした
が、我が国は耐え抜いた。消費者市場を人為的に規制しなかった
のは正しい決定だった。むしろ欧米諸国の経済の方が悪化してい
る。通貨ルーブルの為替レートは、ほぼウクライナへの特別軍事
作戦前の水準に戻っている。 ──プーチンロシア大統領
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西側諸国の多くの人は、これを「プーチンの強がり」ととった
でしょうが、ロシアの経済状況が、ウクライナ侵攻前に戻ってい
ることは事実です。
どうしてこうなったかです。この答えは、2022年6月3日
付の金野雄五北星学園大学経済学部教授のレポートによって明ら
かです。以下、要点をまとめます。
ロシアは、2014年にウクライナのクリミア半島を併合しま
したが、そのとき、ロシアは国際的な経済制裁を受けています。
このとき、米欧はロシア要人の資産凍結や渡航制限、金融規制の
実施や、エネルギーに関しても、北極海や北極圏での石油開発の
に利用する資機材や技術の輸出を禁じています。
ここでプーチン大統領は学習したのです。「これに対抗するに
は、経済を自国のみで完結できるかたちにする必要がある。その
ためには、やるべきことはたくさんある」として、ひとつずつ実
行していったのです。
まず、対外債務をきれいにする必要があります。そのため、対
外債務の返済をはじめています。その結果、クリミア併合直前の
2013年12月に7288億6400万米ドルあった官民合わ
せた対外債務残高を、2021年12月には4799万6200
万米ドルと、約35%減らすことに成功しています。
財政健全化も図っています。2014年に、国内総生産(GD
P)比1%ほどあった財政赤字を、新型コロナウイルス感染拡大
前の2019年には2%ほどの黒字に転換させています。どのよ
うにしてやったかというと、主に歳出を削減し、原油をはじめと
したエネルギー価格の下落で税収が減ったとしても、財政赤字に
陥り難い体制を作り上げていたのです。「プーチン、恐るべし」
彼は、今回のウクライナ侵攻に備えて、西側諸国が課している経
済制裁に耐え抜く経済を着々と作り上げていたのです。
これに対して日本政府は、30年を要しながら、まだデフレか
ら脱却できず、経済を成長させられないでいます。プーチン大統
領は、経済にも通じているのです。なお、ロシアの経済回復に貢
献したのは、ロシア中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁もそ
の一人です。「デイリー新潮」の記事です。
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ルーブルのV字回復に大きく貢献したのはロシア中央銀行だ。
西側諸国に米ドルとユーロの外貨準備が凍結され、為替介入を事
実上行うことができなくなったロシア中銀は、投機的なルーブル
売りが膨らむのを抑止する目的で政策金利を9・5%から20%
へと一気に引き上げた。ロシア中銀はさらにロシア財務省ととも
に資金規制を導入し、海外貿易の売上高の80%に相当する外貨
を強制的にルーブルに両替することを義務付けた。ロシア中銀が
実行したこれらの政策の効果はてきめんだった。ルーブルは安定
を取り戻し、輸入インフレの悪化は回避された。
https://bit.ly/3NAVWlK
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──[新しい資本主義/121]
≪画像および関連情報≫
・ロシアへの経済制裁が期待したほど効かない理由
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ロシアのウクライナ侵攻は、どうやら長期化が避けられそ
うにない。ロシア軍は4月上旬、首都キーウ(キエフ)周辺
からは撤退したが、ブチャなどの近郊都市における残虐行為
が発覚した。その後もロシア軍が戦力を集中している東部戦
線では、大規模な民間人の死傷者が出ている模様である。4
月7日にブリュッセルで行われたG7外相会合は、戦争犯罪
行為を厳しく非難するとともに、ウクライナ向けの人道支援
と対ロシア経済制裁の強化方針を打ち出した。
ところが経済制裁は、かならずしも効果を上げていないよ
うなのである。通貨ルーブルは2月24日の開戦と同時に、
いったんは1ドル=70ルーブル台から120ルーブルくら
いまで下落したのだが、4月に入った頃からほぼ元通りの水
準に戻している。
ロシア中央銀行は、通貨防衛のために9・5%から一気に
20%まで引き上げた政策金利を、4月11日からは17%
に戻している。まるで余裕を見せられているようだが、「国
内の民間業者が輸出によって得た外貨の80%を強制的にル
ーブルに転換させる」などの防衛策が一定の効果を上げてい
るようだ。その代わりと言っては何だが、ロシア国債は案の
定デフォルト(債務不履行)になりそうだ。
https://bit.ly/3yBtzj6
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ロシアの通貨、物価と金利