2022年06月30日

●「バイデン対習近平長時間電話会談」(第5762号)

 バイデン米大統領の支持率は、最新の調査によると、先週から
6ポイント低下して、36%と就任以来最低の数字を記録してい
ます。このままだと、今年11月の中間選挙で民主党が上下両院
もしくはどちらかで、過半数議席を確保できない可能性が高まっ
ているといえます。
 問題は不人気の原因は何かです。新型コロナウイルスへの対応
に関する支持率(47%)は不支持率(46%)と拮抗しており
経済への取り組みを支持する登録有権者は28%、銃による暴力
(32%)や、ロシアによるウクライナ侵攻への対応(42%)
も、それほど支持されていないようです。
 このバイデン大統領について次のような話があります。5月の
始めのことです。バイデン大統領は、バーンズCIA(米中央情
報局)長官、オースティン国防長官、ヘインズ国家情報長官の3
人を呼びつけ、こっぴどく叱りつけたというのです。それは、米
側が流した情報をもとにウクライナ軍が輝かしい成果を挙げたと
いう報道について、「このようなリークは絶対に許さん。即刻辞
めるようにいえ!」という強い口調で叱りつけたといいます。
 確かにその後この手の情報は、ピタリと報道されなくなったこ
とは事実です。こんなことで、ロシアのプーチン大統領を刺激し
てはいかんというわけです。
 もうひとつ、ピューリッツァー賞を何度も受賞したベテラン評
論家、トマス・L・フリードマン氏は、5月6日付のニューヨー
クタイムズ紙に寄せた論評において、バイデン大統領が、中国の
対ロ軍事支援を阻止したことを高く評価しています。この論評に
よると、バイデン大統領は、3月18日に習近平国家主席との2
時間にわたる長い電話会談で、習近平国家主席にそれを決断させ
たといわれます。そのとき、バイデン大統領は、習主席に次のよ
うに迫ったといわれます。
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 もし、中国がロシアへの軍事援助に手を貸すようであれば、中
国は、米国、欧州の2大市場を失うという「きわめて否定的な結
果」を招くことになるだろう。     ──バイデン米大統領
           ──『正論/7月号』/巻頭コラムより
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 中国としても台湾進攻を行えば、米国をはじめとする西側の厳
しい経済制裁を受けることはわかっていますが、それをどのくら
い深刻に受け止めるかの問題です。中国という国の隆盛は、経済
力があってのことであり、もし、米欧という二大巨大市場を失う
ことの打撃は大きいと思います。
 その会談のとき、習近平主席は「台湾に関して米国の政策は変
わったのか」とバイデン大統領に尋ねています。そのときのバイ
デン大統領の返事は「不変である」というものだったといわれま
す。この点に関してバイデン大統領の考え方は一貫しています。
 バイデン大統領は、来日のさいの記者会見で「中国が台湾に対
して侵攻したら、米国は軍事的に関与するのか」と問われ、「イ
エス。われわれにはそうする責任がある」と答えています。これ
に対して、ホワイトハウスとオースティン米国防長官は、すかさ
ず、米国の立場に変更はないと火消しに走っています。そのため
この発言は、バイデン大統領の失言といわれているのですが、こ
れは失言ではありません。
 なぜなら、バイデン大統領は、「イエス」に続いて次のように
述べているからです。
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 われわれは「一つの中国」の方針に関しては遵守しているが、
武力で現状を変更しようとする試みには賛成できない。
                   ──バイデン米大統領
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 バイデン大統領の発言は次のように読み取れます。中国と台湾
が平和的に「一つの中国」になることについて、われわれは異を
唱えるつもりはない。しかし、武力でそれを行うのは反対であり
何らかの対応をせざるを得ない──これは、もし、中国が武力で
台湾を奪い取ろうとすれば、米国として何らかの対応処置を取る
ということを意味しているといえます。
 中国の習近平主席が米欧による経済制裁を受けることについて
ロシアの例を参考にすることは間違いないことです。プーチン大
統領は、サンクトペテルブルグで開催している「国際経済フォー
ラム」でオンラインで演説し、西側のロシアに対する経済制裁に
ついて、次のように述べています。
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 欧米側は、ロシア経済を破壊しようとしたが、明らかに失敗し
た。今年の春先には、ロシア経済の先行きに対して悲観的な見通
しが予想されたが、現実のものとなっていない。制裁にもかかわ
らず、ロシアの経済対策が機能している。ロシアへの制裁によっ
て、欧米側でむしろ物価が上昇しているとしたうえで、欧米側は
世界的な食料などの価格高騰の責任をロシアに転嫁している。
                    ──プーチン大統領
─────────────────────────────
 しかし、これはプーチン大統領の強がりです。プーチン政権の
1期目と2期目──2000年から2008年までは、ロシアの
経済成長率は平均して7%伸びています。プーチン大統領は上機
嫌で、「ルーブルを国際通貨にする」と豪語していたものです。
しかし、ロシアがクリミアを併合した2014年以降は、ロシア
は経済成長していないのです。2014年から2020年までの
GDP成長率は、年平均0・38%です。欧米と日本が今回より
もはるかに軽い経済制裁をかけた結果です。
 これに今回の非常に重い経済制裁が加わったのですから、その
ダメージは尋常なものではないはずです。経済制裁は年が経つに
つれて効いてきます。それは、今年の夏から秋にかけて、はっき
りと目に見えるかたちになっていくはずです。
              ──[新しい資本主義/118]

≪画像および関連情報≫
 ●中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか
  /岡崎研究所
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   バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行わ
  れたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウク
  ライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与
  えているだろう、と述べた。
   習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連に
  より中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺
  し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になってい
  るとの印象を強く受ける。
   中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた
  事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出
  すべきか慎重に検討している。
   プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来な
  いが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する
  最大の地政学的課題」だ。
   上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米
  CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろ
  う。プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて
  北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言
  した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で
  反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平
  は不安の色を隠せないようだ。 https://bit.ly/3QRRmCg
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習近平主席を説得できたか/バイデン米大統領.jpg
習近平主席を説得できたか/バイデン米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする