2022年06月24日

●「GDPギャップというものがある」(第5758号)

 高橋洋一氏の分析による米FRBの対応をさらに見ていくこと
にします。
─────────────────────────────
         A=全体の消費者物価指数対前年同月比
         B=Aからエネルギーと食品を除く指数
       1月    2月    3月    4月
  A  7・5%  7・9%  8・5%  8・3%
  B  6・0%  6・4%  6・5%  6・2%
─────────────────────────────
 FRBが政策金利を3月中旬になって「0・0〜0・25」か
ら「0・25〜0・5%」へ引き上げ、さらに5月上旬になって
「0・75〜1・0%」へと再引き上げ。したがって、ビハイン
ド・ザ・カーブ」、すなわち、後追いといわれるのです。
 ここで政策金利というのは、日銀など各国の中央銀行が金融政
策において使用する短期金利のことで、金融機関の預金金利や貸
出金利などに影響を及ぼします。
 米国のケースに比べると、日本の4月の消費者物価指数対前年
同月比(A)と、Aからエネルギーと食品を除く指数(B)は、
次の通りで、利上げをする状況ではないのです。
─────────────────────────────
                4月
           A  2・5%
           B  0・8%
─────────────────────────────
 つまり、米国は現在インフレですが、日本はインフレではない
のです。日本には巨額なGDPギャップがあり、インフレではな
いからです。GDPギャップというのは、経済の供給力と現実の
需要との間の乖離のことをいいます。
 それでは、日本のGDPギャップはどのくらいあるのでしょう
か。これについては、2022年6月7日付の日本経済新聞が、
内閣府の発表として、次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎国内需要不足21兆円/22年1〜3月前四半期から悪化
 内閣府は6月6日、日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示
す「需給ギャップ」について、2022年1〜3月期はマイナス
3・7%だったとの試算を発表した。
 金額は年換算で21兆円の需要不足だった。21年10〜12
月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、10四半期連
続のマイナスとなった。需給ギャップは消費や設備投資といった
経済全体の需要と、労働時間などから計算する潜在的な供給力と
の差をいう。需要が供給を上回ると物価は上がりやすくなる。
        ──2022年6月7日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 およそ21兆円のGDPギャップ──米国はドル高なのに高い
インフレですが、日本は円安なのにインフレではない。どこが違
うのかというと、バイデン政権は、発足直後に、大型財政出動を
行っており、GDPギャップが解消されているので、インフレ率
が高くなっているのです。
 5月25日に、ニッポン放送 「飯田浩司のOK! Cozy up!」
に高橋洋一氏が出演し、これについて、問答を行っているので、
以下にご紹介依します。
─────────────────────────────
飯田:補正予算案は、「物価高騰緊急対策」などと言われていま
 すが。
高橋:まず、セオリーがわかっていて、やっているのだと思いま
 す。現状を考えると、4月の物価がどうなっているのかという
 ことですが、総合で2・5%上がって、「生鮮食品を除く総合
 指数」で2・1%上がっています。「インフレ」とみんな言い
 たくなるのだけれども、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合
 指数」を「コアコア指数」と言うのですが、これが物価の基調
 なのです。
飯田:コアコア指数が?
高橋:それを見ると、コアコア指数は0・8%で全然上がってい
 ない。ですので、インフレにはなりません。アメリカやヨーロ
 ッパの「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は6%以上
 6〜8%という数字になっているのです。そのくらいにならな
 いとインフレではないのです。どうして日本だけ違うのかと言
 うと、総供給と総需要の差である「GDPギャップ(需給ギャ
 ップ)」という言葉があります。
飯田:GDPギャップ?
高橋:日本はまだ30兆円程度のGDPギャップがあります。ヨ
 ーロッパやアメリカはほとんどありません。だから物価が上が
 るのです。逆に言うと、GDPギャップがあるから日本は物価
 の基調である「コアコア指数」が上がらない。このときの対策
 はセオリーが簡単で、GDPギャップをまず埋めるのです。
  ギャップを埋めると、実は物価が上がる。物価が上がるけれ
 ども、対策を行うので「上がった物価の多くの部分は、経済対
 策によって吸収できる」というのがセオリーなのです。でも、
 それをやっていないのです。    https://bit.ly/3y9ETCS
─────────────────────────────
 つまり、GDPギャップがプラスの場合(総供給より総需要が
多い)はインフレギャップといい、好況や景気が過熱しており、
物価が上昇する要因になります。逆にGDPギャップがマイナス
の場合(総需要より総供給が多い)はデフレギャップといい、景
気の停滞が不況になって、物価が下落する原因になります。
 日本のGDPギャップは、上記日経の記事に見るように、21
年10〜12月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、
10四半期連続のマイナスになっているのです。したがって、日
本は、金利を上げる状況にはぜんぜんないのです。
              ──[新しい資本主義/114]

≪画像および関連情報≫
 ●米FRB利上げ:識者はこうみる
  ───────────────────────────
  [15日/ロイター]米連邦準備理事会(FRB)は14─
  15日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデ
  ラルファンド(FF)金利の誘導目標を75ベーシスポイン
  ト(bp)引き上げ、1.50─1.75%とした。27年
  ぶりの上げ幅で、会見したパウエル議長は、7月の次回会合
  でも50bpもしくは75bpの利上げを示唆した。FOM
  C後、米株は上昇、ドルは売られた。市場関係者の見方は以
  下のとおり。
  <アクサ・インベストメント・マネージャーズ/債券ストラ
  テジスト 木村龍太郎氏>
   FRB(連邦準備理事会)の先行きの景気に対する自信が
  やや揺らいでいるようだ。期待インフレに働きかけるヘッド
  ラインのインフレ率が、国際商品価格やサプライチェーンと
  いったFRBがコントロールできない要因に左右され、利上
  げしたとしても将来のインフレが予想通り下がるか自信がな
  いということで、安定的・持続的な成長パスもやや揺らぎつ
  つあると感じた。また今回が75ベーシスポイント(bp)
  の利上げ、7月も50bpまたは75bpの利上げというの
  は結構タカ派な決定だったが、にもかかわらず米金利は短期
  まで含めて大きく低下で反応した。
   特に2023年末には政策金利が3.8%まで上がるとい
  うのがFOMC(連邦公開市場委員会)参加者の中央的な見
  通しだが、足元の市場の織り込みは3.3%まで低下。投資
  家の間ではFRBは見通し通りに利上げができないのではな
  いか、あるいは利上げしても来年末には既に利下げに追い込
  まれるのではないか、と景気の持続性にやや悲観的な見方を
  している。つまり「FRBの見通しほどうまくいかないだろ
  う」ということで、FOMC後の金利低下につながった。
                 https://bit.ly/3ObqOKJ
  ───────────────────────────
インフレギャップとデフレギャップ.jpg
インフレギャップとデフレギャップ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする