葉です。誰のことかというと、日銀の黒田東彦総裁のことです。
投資家たちの多くは、「黒田は円安を放置し、円売りを招いてお
り、世界の非常識といわれている」と考えているので、この名前
が付けられたそうです。これに関して、6月18日発売の「日刊
ゲンダイ」は次のように報道しています。
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15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締め方
針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は通常の3倍
にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英・イングランド
銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの中央銀行は市場の予
想に反して「きさか」の利上げに踏み切った。
主要中銀以外でも5月以降は、豪州、インド、ブラジル、サウ
ジアラビア、チェコ、ポーランド、アルゼンチン、メキシコ、南
アフリカ、韓国、ハンガリーなどの中銀が利上げを決定した。欧
州中央銀も7月1日に量的緩和を終了し、21日の次回会合で、
0・25%の利上げに踏み切る方針を表明済み。気がつけば日銀
だけが国際レベルの利上げの潮流から完全に取り残されている。
──6月18日発売の「日刊ゲンダイ」より
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実は、6月15日のことですが、円を買い戻す動きが起きてお
り、16日には一時「1ドル=132円台」まで、円は上昇して
いたのです。これを「有事の円買いの復活」と報道したメディア
もあったのです。世界中の中央銀行が利上げをしているので、さ
すがの黒田総裁も利上げに動くのではないかと投資家は考えたか
らだと思います。
しかし、日銀はピクリとも動かなかったのです。これで少なく
とも黒田総裁の任期(2023年3月)までは、金融緩和策は続
くものと考えられます。
19日の日本経済新聞の社説では、日銀の金融政策が変更され
ないことを前提にして、次のように社説を書いています。
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これ(円安)にどう対応すべきか。円安による輸入物価の高騰
で幅広い品目が値上がりし、購買力が毀損する痛手は大きいが、
円安には円安の利点もある。円安の風をうまく生かす政策や経営
が重要になる。
即効性がありそうなのは、海外からの観光客や投資の誘致だ。
政府はインバウンドについて外国人観光客は団体旅行しか認めな
いなどの制約を課しているが、こんな不自然な縛りのある国はほ
ぼない。政府は一日も早く外国人の受け入れを本格化すべきだ。
外からの直接投資が増える効果にも期待したい。台湾の半導体
大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で新工場建設を決
めたのに続き、米マイクロン・テクノロジーも広島工場で最先端
メモリーの量産を近く始める。日本政府の補助金が両社の投資の
呼び水になったが、日本事業が軌道に乗れば、追加投資につなが
る循環が期待できる。 ──2022年6月19日付
日本経済新聞「社説」より https://s.nikkei.com/3OlLTlh
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しかし、こうした日銀の政策と岸田政権の経済政策は、必ずし
も息が合っているとはいえないのです。日経の社説が指摘してい
るように、円安の日本にとって、インバウンドは絶好のチャンス
です。しかも、日本は、コロナ禍後において、世界中の人が行き
たい国のトップを占めているからです。
日本政策投資銀行と日本交通公社が共同で行った特別調査によ
ると、アジア居住者では旅行先として、日本は67%で圧倒的に
トップであり、欧米豪居住者でも日本が36%とトップを占めて
いるからです。
それなのに、岸田政権は、海外旅行者をツアーガイド付き団体
旅行に限定し、しかも、マスク着用の条件を付けて制限している
のです。フランス人などは、早々にマスク着用なら、日本ではな
く、別のところに行くといっています。これは、海外旅行者を大
幅に受け入れて、感染者が増大し、直後の参院選に影響を与える
ことを恐れた判断であると思います。
なぜ、黒田総裁は金融緩和政策を続けているのでしょうか。
これについて、経済学者で、イエール大学アシスタント・プロ
フェッサーの成田悠輔氏は、19日のテレビで面白いことをいっ
ていました。日本の場合、政策的に無策ではなく、どっちに転ん
でもいいことはあまりなく、「地獄@」と「地獄A」しかないと
いうのです。
「地獄@」は、このまま金融緩和政策を続けると、円安はさら
に加速し、物価は高騰し、生活が苦しくなる地獄です。
「地獄A」は、日銀が利上げに踏み切ると、企業に資金がさら
に回らなくなり、景気が深刻化します。まして日本は、デフレ下
にあるので、利上げのような緊縮政策をとると、さらに景気は悪
化し、デフレがさらに深化する恐れがあります。そうであるなら
は、他国に比べれば日本の物価はまだ安いので、「地獄@」を選
択したと思われるというのです。
「地獄@」をとった以上、政府はそれに対応する経済政策を実
施する必要があります。すなわち、円安による物価上昇に対する
対策です。岸田内閣は、これに対する対策をまだ実施していない
からです。
最も政府として行うべきは、全野党が求めている消費税の減税
です。政府は無視していますが、無策では済まないと思います。
フランスでは、マクロン大統領は楽勝と思われていた大統領選で
極右国民連合のルペン氏に大苦戦しています。その背景にあった
のはインフレです。物価上昇率は、1月2・9%、2月3・6%
3月4・5%、4月4・8%に上昇していたのです。これに対し
ルペン候補は、ガソリン税の大幅引き下げと、日本の消費税に当
たる付加価値税を生活必需品で0%にするなどを訴えて、マクロ
ン陣営を揺さぶったのです。 ──[新しい資本主義/111]
≪画像および関連情報≫
●なぜ円安?なぜ日銀は金融緩和を続ける?日本と世界の
「経済力格差」の真相
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2021年10〜12月期のGDPギャップ(潜在的な需
要と供給の差)はマイナス3・1%、金額にして年換算で、
17兆円の需要が不足している。人々が欲しいと思うモノや
サービスが見当たらず、新しい需要を生み出すための構造改
革が足りないからだ。需要の旺盛さをはじめ「経済の実力の
差」が、米国やユーロ圏とわが国の金融政策の方向性の違い
に明確に表れている。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
米国およびユーロ圏とわが国の金融政策の違いが鮮明であ
る。4月中旬以降の米国では、「より大きな幅で追加利上げ
が実施される」と予想する投資家が急増した。想定を上回る
ペースで物価が上昇しているため、連邦準備制度理事会(F
RB)が追加利上げやバランスシート縮小を急ぐとの警戒感
は高まるだろう。
ユーロ圏でも物価は高騰している。早ければ7月に欧州中
央銀行(ECB)が利上げに踏み切る可能性がある。その一
方で、わが国の需給ギャップはマイナスだ。日本銀行は、物
価の上昇を定着させるべく、緩和的な金融政策を続けるだろ
う。金融政策の方向性の違いは、実体経済と株価や為替レー
トなどの金融市場に顕著な影響を与える。今後、米国の追加
利上げなどによって、世界経済の減速は鮮明化する可能性が
高い。 https://bit.ly/3tKt2IH
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成田悠輔氏