2022年06月17日

●「黒田日銀総裁発言をめぐる珍対応」(第5753号)

 黒田日銀総裁がつるし上げを食っています。なぜ、つるし上げ
られているのでしょうか。6月6日に行われた講演で、次のよう
にいったことが原因です。
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    日本の家計の値上げ許容度も高まってきている
                 ──黒田日銀総裁
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 黒田総裁は「表現が適切でなかった」と謝罪しましたが、これ
は、マクロ経済のなかの話であって、別に失言ではないと考えま
す。黒田総裁は、添付ファイルのグラフを示して、次のように話
しています。
 なじみの店で、いつも買うなじみの商品が10%値上がりした
とします。その場合、そのままその商品を購入するか、他店に移
るかを調べると、日本では、2021年8月と2022年4月で
は次のように異なるのです。
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         2021年8月   2022年4月
  そのまま購入する   43%       56%
  他店に移る      57%       44%
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 これによると、2021年8月の時点では、値上げがわかると
安い価格で売る他店に移った人が多かったものの、2022年4
月の時点になると、そのままその店で買う人が多くなっているこ
とを示しています。これを黒田総裁は「家計の値上げの許容度が
高まった」と表現したのです。
 これについて、慶応義塾大学経済学部准教授・小幡績氏は、次
のように黒田総裁を擁護しています。
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 今回の発言は配慮に欠けていたと思いますが、もともと日銀に
は“家計の値上げ許容度”という統計の指標があって、いわば学
術用語みたいなものなんです。 だから、黒田さんも、悪気なく
使ってしまったのではないかと・・・。
           ──小幡績慶応義塾大学経済学部准教授
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 この件に関して、経済学者の高橋洋一氏も、「黒田総裁の発言
は別に失言ではない」として、次のように述べています。
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 日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との発言はイ
ンフレ期待の底上げが実現しつつあるという趣旨を含んでいたと
思われるが、「値上げを受け入れている」とのヘッドラインに変
換されたことも相まって世論の大きな反発を招き、新聞・テレビ
・雑誌を筆頭に多くのメディアがこの発言を批判的に報じた。
 正直、言葉尻を捉えるという類いの報道であるとも感じるが、
この騒動は「いかに日本という国において物価上昇が受け入れら
れないか」を示したものともいえる。     ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/3zCqXCf
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 そもそもメディアは、黒田発言を取り上げるのであれば、添付
ファイルのグラフも示すべきであるのに、そうしていません。日
銀総裁の講演は、すべて日銀のウェブサイトに公開されており、
発言はグラフに関係するので、グラフも一緒に示すべきです。た
だ、一部の言葉だけを切り取って、報道するのでは、黒田総裁の
真意を伝えることに不十分です。
 これは、高橋洋一氏が指摘していることですが、黒田日銀総裁
に対して国会で質問した国会議員の経済──とくにマクロ経済に
関する知識のあまりにもなさです。まず、立憲民主党・白真勲参
院議員の次の質問と黒田総裁の答弁です。
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白 :日本銀行は通貨および金融の調節を行うに当たっては、物
 価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するこ
 とをもってその理念とすると日本銀行法の第2条にありますが
 最近食料品を買った際、以前と比べて価格が上がったと感じる
 ものがあったのかどうか、ご自身がショッピングしたときの感
 覚、実感をお聞かせください。
黒田:私自身、スーパーに行ってですね、物を買ったこともあり
 ますけれども、基本的には家内がやっておりますので、包括的
 にですね、物価の動向を直接買うことによって、感じていると
 いうほどではありません
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 「物価」といっても、白議員のいう物価と、黒田総裁のいう物
価の概念は異なるのです。黒田総裁のいう物価は、消費者物価指
数のことをいっているのです。これについては、来週のEJで取
り上げる予定です。
 続いて、立憲民主党代表、泉健太氏の黒田日銀総裁への質問で
す。ちなみに、泉健太代表も黒田発言について、党会合において
「全く生活実感のない、生活実態を見ていない、無神経な発言を
している」と酷評していたのです。
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 物価高を止めるという意味では金利を少し引き上げることも
 選択肢に入れるべきではないか。     ──泉健太代表
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 民主党政権時代は、円高ドル安であり、政府として介入して円
高を是正したことが記憶にあるのだろうと思われます。しかし、
円安の場合は、円高のときに同じことはできないのです。高橋洋
一氏の話によると、枝野幸男前代表も「金利を上げた方が経済成
長する」といっていたといいますが、あまりにも経済に疎いので
はないかと思われます。もし、いま利上げを行うと、設備投資需
要がさらに落ち込み、GDPギャップは拡大し、日本経済は、デ
フレの底に落ち込んでしまうことになります。
              ──[新しい資本主義/109]

≪画像および関連情報≫
 ●三浦瑠麗氏/立憲議員の国会質問にあきれ「日本全体の議論
  の質を落としている」
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   国際政治学者の三浦瑠麗氏(41)が、6月7日放送のフ
  ジテレビ情報番組「めざまし8(エイト)」(月〜金曜前8
  ・00)に生出演。日銀の黒田東彦総裁をめぐる参院予算委
  員会の答弁について「議論の質を落としている」と語った。
   黒田総裁は3日に行われた参院予算委員会に出席し、物価
  高をめぐる政府の対応について立憲民主党・白真勲参院議員
  から「食料品を購入する際、以前と比べ価格が上がったと感
  じるものがあるか」などと質問を受けた。
   この質疑に対し三浦氏は「こういう取り上げ方は一番やっ
  てはいけないと思う」と発言。「みなさんの一人ひとりのこ
  とではないんですよ、家計というのは。日本全体の家計とい
  うこと。事実しか語っていない」といい「黒田総裁は専門家
  なわけです。専門家がマクロの全体の話を見て言っているの
  に“私が行った今日のスーパーでは、白菜はこのくらいの値
  段でしたけど”っていうね、エピソードベースで反論しよう
  というのは一番やってはいけない。これが日本全体の政治や
  経済に関する議論の質を落としている。感情論で専門家の意
  見に反対するのはやめた方がいい」と持論を展開した。黒田
  総裁の発言については、「給料を上げるまでの時間稼ぎがで
  きるだけ、全体としてみれば家計に貯蓄があるということ。
  低所得者に保障とか保険をすべきでない、と話しているわけ
  ではない。給料を上げるのに相当の期間がいる中、ベアが決
  まるまでの時間稼ぎができると言っているわけです」と分析
  した。            https://bit.ly/3tyYnOv
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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする