2022年06月15日

●「実体経済をいかに活性化させるか」(第5751号)

 このところ、よく産経新聞特別記者、田村秀男氏の所説を取り
上げています。産経新聞は保守系の新聞で、田村秀男氏は、その
新聞の特別記者にして、編集委員兼論説委員を務める大物記者で
す。田村氏が書く実名記事は、注目されていて、とくに大物政治
家に大きな影響を与えるとされています。その田村氏は、現在の
日本経済について、次のように述べています。
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 現代の経済というものを考える際に前提にしなければならない
のは、実体経済と金融経済(または資産経済)があるということ
です。まずは、実体経済なのですが、これはGDP──国内総生
産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付
加価値の合計額のこと──に直結していて、モノとサービス、そ
して人が動く世界です。
 もうひとつの金融経済、こちらのほうはまだ経済学が全容を解
明していない部分で、資産市場において動きます。例えば株式が
該当します。株式は、いわば企業にとってみれば借金です。元本
(株価)は、払う必要はないけれど、配当はしなければなりませ
ん。株式市場では元本が変動して、どんどん上下して、それが投
資家同士で売った、買った、得した、儲けた、損したという話に
なるわけです。               ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
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 実体経済というのは、いわば人々の暮らしの経済です。そこで
は、モノやサービスが動きます。企業は、設備投資をしたりして
新しいビジネスに備えようとし、一般家庭では、子供の教育を充
実させようと子供を塾に通わせたり、若者は、将来の見通しを立
てたうえで、結婚したり、子供を作ったり、住宅を建てたりしま
す。こういうことは、すべて「実体経済」のなかで行われます。
ごく普通の人にとって、経済といえば実体経済のことなのです。
 しかし、現在の日本では、実体経済にお金が回らずに、金融経
済にばかり、お金が動いています。金融経済の中心であるはずの
銀行は、本来であれば、企業にお金を貸して、設備投資や雇用増
加を促すなどして、実体経済にお金を回す努力をすべきです。家
計であれば、住宅ローンを貸し付けて住宅建築を勧めたり、家の
リフォームのための資金を貸し付けたりします。そうすれば、住
宅産業や電機メーカーなどにもお金が回り、実体経済がうるおう
はずだからです。
 ただ、銀行は、いずれにしても、きちんと返済のできる企業や
人を探し、融資を積極的に促進すべきなのですが、そういう営業
努力を怠っていると思います。経済がデフレ化しているので、仕
方がない面もありますが、銀行は、営業を強化して、融資先を開
拓する努力を怠っているように感じます。ここに日本のGDPが
成長しない重要な原因があります。
 銀行は、それよりむしろ、資金を資産運用に回した方が儲かる
として、証券部門まで作って、資金をそちらで運用したり、国内
に投資すべきところがない場合は、国外に投資する先を探し、海
外投資を増やしています。昨日のEJで、「対外純資産」が日本
が31年連続でトップである話をしましたが、銀行などの金融機
関が海外投資を増やしている結果として、対外純資産が膨らんで
いるということも考えられます。
 このような現象が生じたうえで、何が起きるかについて、田村
秀男氏は次のように述べています。
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 実体経済が委縮していくと、企業は企業で、国内で商売しても
設備投資しても、人を雇っても全然ダメだという判断をします。
見通しがありませんから。ということで企業もますます国外に出
て行くことになります。要するに、日本経済は自滅している。残
念ながら、いまはそういう過程をたどっているのだと思います。
         ──田村秀男著/ワニブックスの前掲書より
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 長年続く異次元の金融緩和によって、お金は、ジャブジャブに
余っています。家計の金融資産だけで2000兆円!──このお
金を実体経済に取り入れる必要がありますが、どうすればいいの
でしょうか。
 一方で、お金を借りたいと思っている人がいます。お金という
ものはどこかで余っていて、貸し手はたくさんいるものです。な
ぜなら、お金は持っているだけでは増えないので、どこかに貸し
て、利益を還元したい──そう思っている人はたくさんいるから
です。このお金の借り手と貸し手の利害が一致するから、資本主
義ではお金が動いて、パイが大きくなるのです。これが経済の成
長であり、資本主義は借金で回るといえます。
 さて、実体経済にお金を回すにはどうすればよいでしょうか。
答えはあります。誰かが借りて実体経済に回せばよいのです。そ
の「誰か」とは誰か。実体経済の主体は次の3つです。
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             @企業
             A家計
             B政府
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 第1に企業ですが、利益の出ている企業ではお金が余っていて
お金を金融市場で運用しており、借金する必要はありません。つ
まり、資金需要がないのです。一方、赤字の企業には、資金需要
はありますが、銀行がなかなか貸してくれません。
 第2に家計ですが、貸せるほどお金を持っている人は、リスク
を恐れてゼロ金利でも銀行に預けて、現預金で持っています。し
かし、銀行は、貸したい企業や人は借りてくれないし、借りたい
企業や人には、焦げつきを恐れて貸そうとしません。
 結局、Bの政府しかないということになります。ここは政府の
出番なのです。       ──[新しい資本主義/107]

≪画像および関連情報≫
 ●激震コロナショック〜経済危機は回避できるか〜
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   この記事は、2020年3月28日に放送した「NHKス
  ペシャル/激震コロナショック経済危機は回避できるか〜」
  をもとに制作し、2020年4月3日に公開したものを再公
  開しました。
   日本は今、新型コロナウイルスの感染爆発を防げるかどう
  かの瀬戸際にある。感染拡大は私たちの仕事や暮らしに大き
  な影を落とし、ロックダウンと呼ばれる、いわゆる“都市封
  鎖”も対岸の火事ではない。世界経済は大きく揺さぶられ、
  日経平均株価はわずか1か月で30%以上も下落した。コロ
  ナショックによる世界的経済危機をどうしたら回避すること
  ができるのか。3人の専門家を交えて、徹底検証する。
   世界の180を超える国と地域で猛威を振るう新型コロナ
  ウイルス。未知のウイルスは、世界経済を直撃し、いわゆる
  「コロナショック」を引き起こしている。世界の金融市場に
  は動揺が走り、ニューヨーク株式市場では歴史的な下げ幅を
  記録。アメリカの4月から6月までの国内総生産(GDP)
  は前期比でマイナス24%という衝撃的な予測も出ている。
   世界はリーマンショックを超える危機的な状態に陥るので
  はないかという不安が連鎖している。未曾有の危機に直面し
  ている当事者たちは、今回のコロナショックをどのように受
  け止めているのか。グループの傘下にアメリカのウイスキー
  メーカーなどを持つグローバル企業の経営者、新浪剛史さん
  は事態を深刻に受け止めている。 https://bit.ly/3aK7i94
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田村秀男氏/産経新聞特別記者.jpg
田村秀男氏/産経新聞特別記者
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする