本方針/骨太の方針」を閣議決定しています。とくに今年の骨太
の方針の決定は重要であったといえます。考えてみると、日本が
長期デフレでも、十分な財政出動ができなかった理由の一端は骨
太の方針の内容にもあるからです。
これは、政府プラス自民党と財務省のいわば戦いです。今回は
財務省を代表する財政健全化推進本部と、政調会長を中心とする
財政政策検討本部の2つのグループに分かれて、骨太の方針をめ
ぐって、激しい議論が行われたのです。麻生元財務相と安倍元首
相の戦いといってよいと思います。その激しさは、党を割るので
はないかといわれるほど、激しかったといいます。
しかし、岸田首相は明らかに財務省寄りであるので、政府とし
ては、財政健全化グループと財政積極派グループの中間に位置し
ている感じです。当初財務省は、当然のように今年度の骨太の方
針に次の文言を明記することを政府に働きかけています。
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2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字
化目標を堅持する。
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しかし、これについては、財政積極派グループが猛烈に反対し
削除を要求しています。最終的に財務省はこれを受け入れざるを
得なくなり、最終段階になって、次の一文を加えてきたのです。
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骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進
する。 財政健全化推進本部の追加文
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骨太方針2021には2025年のプライマリーバランス黒字
化達成が明確に記述されており、この一文は財務省の猿芝居であ
ると高橋洋一氏はいっています。これは事実上黒字化目標堅持を
継続し、当初予算が抑制されるので、自民党政調全体会議は大紛
糾することになります。これについて財政政策検討本部長の西田
昌司氏は次のように述べています。
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「姑息」というのは、新たな一文が文案の最後に何事もなかっ
たように加えられていたことだ。これが財務省のやり方で、油断
も隙もない。PB黒字化に固執すれば岸田首相が掲げる「新しい
資本主義」はもちろん、喫緊の課題である防衛力強化など、長期
的視野に立った重要政策の当初予算を柔軟に実行できない。
財務省は、民間経済への視点を著しく欠き、深い考えもなく、
PB黒字化に固執している。政治や国民を下に見て、日本経済を
停滞させ、デフレを招く根源は、息の根を止めないといけない。
──西田昌司財政政策検討本部長
2022年6月8日付、夕刊フジ
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しかし、財政健全化推進本部はこの追加分のカットには頑強に
反対し、次の一文を加えることで、骨太の方針は閣議決定される
ことになったのです。
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ただし、(それが)重要な政策の選択肢をせばめることがあっ
てはならない。 ──最終追加文
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これだけの騒ぎになっているのに、肝心の岸田首相の態度は、
まったく煮え切らないの一語に尽きます。これでわかることがあ
ります。矢野康治現財務次官の『文藝春秋』への論文投稿は、独
断でやったものではなく、麻生前財務相、現鈴木財務相が了承の
うえでやったのではないかということです。もしかすると、岸田
首相も事前に伝えられていたと考えられます。もし本当だとすれ
ば、「財務省のイヌ」といわれても仕方がないと思われます。
財務省が拠りどころとしているには、財政法第4条です。第4
条とは、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その
財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付
金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を
発行し又は借入金をなすことができる」とあります。一体なぜこ
のような法律が存在するのでしょうか。
この財政法第4条と憲法第9条は、占領下の1947年に制定
されたもので、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)から日本
に押し付けられたものです。GHQが財政政策を縛ったのは、日
本を経済的に発展させないためであり、憲法第9条とともに、日
本を「戦争ができない国」にするためのものです。当時の世界は
日本が再軍備することを極端に恐れたのです。
この財政法第4条に関して、産経新聞特別記者の田村秀男氏は
次のように述べています。
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日本共産党は『しんぶん赤旗』で「この規定、戦前、天皇制政
府がおこなった無謀な侵略戦争が、膨大な戦時国債の発行があっ
て、はじめて可能であったという反省にもとづいて、財政法制定
にさいして設けられたもので、憲法の前文および第9条の平和主
義に照応するもの」と説明しています。国家主権を自ら制限する
もので、いかにも日本共産党の言い分ですね。しかし、共産党が
墨守する憲法解釈に、保守を自称する与党の政治家の大半が縛ら
れるのは奇々怪々と言うしかありません。
そもそも憲法は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権
利」の尊重を謳っています。政府が財政均衡主義を貫くことで、
デフレ不況を引き起こし、経済をゼロかマイナス成長にしてしま
うことは、国民が幸福になる権利をブチ壊すようなものです。
──田村秀男著
『「経済成長」とは何か/
日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
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──[新しい資本主義/105]
≪画像および関連情報≫
●風化する財政法4条、戦前の教訓どこへ
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建設国債の発行を認めている財政法4条を巡る議論がにわ
かに熱を帯びている。教育無償化などの財源を、建設国債の
発行で賄おうとの動きだ。麻生太郎財務相は「名を変えた赤
字国債と変わらない」と否定的な姿勢を堅持するが、自民党
では安倍晋三首相の指示のもとでの検討が進む。戦前の教訓
はどこへいったのか。
財政法は4条で「国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を
以て、その財源としなければならない」として国債発行を原
則禁止しているが、「公共事業費、出資金及び貸付金」向け
の建設国債の発行を例外的に認めている。1966年に戦後
はじめて発行した建設国債は2016年度末に277兆円と
政府債務全体の約3割に及ぶ。1990年代までは赤字国債
よりも発行額が大きく、借金の膨張の要因となってきた。
使途拡大の議論の焦点となりそうなのが、無形資産への計
上を認めるか、という点だ。財政法の解説で権威のある「予
算と財政法」には研究開発費のような使途であっても「(出
資金であれば)後世代がその利益を享受でき、その意味で無
形の資産と観念しうるものについては妥当性がある」と記し
ており、使途拡大の論拠のひとつとなっている。政府内には
出資金の要件を満たさなくても、計上可能にしようともくろ
む向きさえある。 https://s.nikkei.com/3zu5ewg
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田村秀男氏と近刊書