2022年06月07日

●「『骨太の方針』をめぐる党内論争」(第5745号)

 5月24日のEJで、現在、自民党には、元財務相の額賀福志
郎氏を本部長とする「財政健全化推進本部」と、安倍派の参院議
員の西田昌司氏を本部長とする「財政政策検討本部」という2つ
の組織があり、国の財政運営の基本を決める「骨太の方針」につ
いて、激しい路線対立が起きていることを伝えています。
 「財政健全化推進本部」のバックには麻生副総裁、「財政政策
検討本部」には安倍元首相が、それぞれ最高顧問として控えてお
り、今年度の経済財政運営方針をめぐって対立しているのです。
 5月19日のことです。財政健全化推進本部の事務局長を務め
る越智隆雄元内閣府副大臣の携帯電話に安倍元首相から怒りの電
話がかかってきます。越智氏は安倍派に属する衆議院議員です。
以下は、そのやりとりです。
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安倍:君はアベノミクスを批判するのか。
越智:批判はしていません。
安倍:周りはアベノミクス批判だといっているぞ。
越智:僕はアベノミクス信奉者です。だって、経済政策を担う副
 大臣を2回もやったじゃないですか。
安倍:そうだな。    ──2022年6月3日付、朝日新聞
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 このとき安倍元首相の手元には、骨太の方針の提言案の情報が
入っていたのです。そこには、次のようなことが書かれていたと
いいます。安倍元首相は、それがアベノミクスの批判であると受
け取って、事務局長の越智氏に抗議の電話をしたのです。
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 近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として、過去
30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル。ま
た、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で
見ても「安い日本」となりつつある。
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
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 財政政策検討本部は「アベノミクスの批判は許さない」として
財政健全化推進本部との間で、何度か文書のやりとりが行われま
したが、それでも決着がつかなかったといいます。そのため、5
月23日午後、議員会館の安倍氏の事務所に、安倍、麻生、西田
額賀のトップ4氏が顔を揃え、その場で安倍氏側の修正案が示さ
れ、それを受けて提言を修正をすることを条件として、額賀本部
長に一任されたのです。そして、やっと5月26日に、推進本部
は、提言を発表するに至っています。
 安倍政権が発足した2012年12月と、6月1日時点の主要
指標を比較すると、次のようになります。
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◎第2次安倍政権以降の主な経済指標
             2012年         現在
  日経平均株価  1万 0230円    2万7457円
  為替相場/対ドル  85円15銭    128円92銭
  実質賃金指数     105・9      100・6
  有効求人倍率     0・83倍      1・23倍
    国債残高  705兆72億円 991兆4111億円
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
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 これを見ると、日経平均株価は倍増し、有効求人倍率も大きく
伸びているものの、その一方で大幅な円安が進行し、賃金は減少
しています。その結果、国債残高は286兆円増加しています。
 アベノミクスは失敗だったのでしょうか。
 アベノミクスについては、EJのテーマとして取り上げたこと
があります。2014年11月19日から109回にわたって書
いています。興味があったら、参照してください。
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 「検証!アベノミクス」
 2014年11月19日/EJ第3919〜
           2014年5月01日/EJ第4027
                  https://bit.ly/3Q11N5Y
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 アベノミクス自体はけっして失敗ではなかったと思います。し
かし、その間に増税を2回やったのでは、うまくいくはずがあり
ません。この点について、産経新聞特別記者・田村秀男氏は、新
刊書で同様のことを次のように述べています。
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 アベノミクスにしても金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の
矢を推進するとぶち上げました。初年度はとくに金融緩和と財政
出動を積極的にやり、成功したと言つてもいいでしょう。ところ
が翌年は、財政を引き締めてしまい、消費税の増税までやってし
まいました。これは大失敗です。財務省の仕業ですが、この財務
省のロジックを、政治家が跳ね返せなかったことが、最大の問題
です。跳ね返せない理由のひとつは世論でしょう。とくに学者で
す。財務省の考えに近い学者が主流になつていることです。これ
らの学者たちがメディアを使って──と言っても大体「日本経済
新聞」や「朝日新聞」なのですが──いつも均衡財政論をぶちま
す。財政均衡、つまり政府の予算で経常収入(租税や印紙収入な
ど)が経常支出(最終消費支出や移転支出など)と相等しくなく
てはいけないと主張するのです。そのため、消費税の増税はしな
ければならない、財政支出は削減しなきやいけない。そうすれば
財政は均衡するとばかり言っています。それで日本国民に「しゃ
あないな」という雰囲気にさせているわけです。財務官僚は百も
承知でもそれに乗っかっています。      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
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              ──[新しい資本主義/101]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相の評価は真っ二つ/「アベノミクス」の成功と失敗
  をどう見るか/近藤駿介氏
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   その日は突然やってきた。2020年8月28日、7年8
  カ月続いた「安倍一強体制」は総理の持病悪化による辞任に
  よって予想外のタイミングで幕引きとなった。第二次安倍政
  権ほど賛否がはっきり分かれた政権も珍しい。政権支持率は
  発足当時は期待から高く、その後徐々に落としていくのが一
  般的なパターンである。第二次安倍政権の支持率も紆余曲折
  があったものの、全体的にはこの一般的なパターンの範囲内
  だった。第二次安倍政権と他の政権との違いが鮮明になった
  のは辞任後だった。
   世間が驚かされたのは、安倍総理辞任会見直後に実施され
  た世論調査で支持率が急上昇したことだった。日本経済新聞
  の8月世論調査での支持率は55%と前月比12%上昇し、
  共同通信の調査でも56・9%と前週比20・9%も上昇し
  た。辞任発表後の支持率急上昇に対しては、「辞任を歓迎し
  た」といった冷ややかなものから、「アベノミクスの成果に
  対する敬意」といった前向きのものまで様々な見方が出てい
  る。このように評価が大きく分かれる原因は、基準を「政治
  姿勢」に置くか、「経済政策」に置くかの違いによるものだ
  と思われる。総裁選に立候補した岸田政調会長が「国民の声
  を丁寧に聞く、人の声を“聞く力”。こうしたものも政治に
  求められるのではないかと思う」と「聞く力」を強調し、石
  破元幹事長が「国民を信じて、“共感と納得”の政治を目指
  す」として「納得と共感」をスローガンに掲げているのは、
  安倍政権の問題が「政治姿勢」にあったとみているからであ
  る。逆説的にいえば「経済政策」には批判する隙がないとい
  うことでもある。       https://bit.ly/3Mf5D8w
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安倍首相退陣/アベノミクスの成否.jpg
安倍首相退陣/アベノミクスの成否
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする