郎氏を本部長とする「財政健全化推進本部」と、安倍派の参院議
員の西田昌司氏を本部長とする「財政政策検討本部」という2つ
の組織があり、国の財政運営の基本を決める「骨太の方針」につ
いて、激しい路線対立が起きていることを伝えています。
「財政健全化推進本部」のバックには麻生副総裁、「財政政策
検討本部」には安倍元首相が、それぞれ最高顧問として控えてお
り、今年度の経済財政運営方針をめぐって対立しているのです。
5月19日のことです。財政健全化推進本部の事務局長を務め
る越智隆雄元内閣府副大臣の携帯電話に安倍元首相から怒りの電
話がかかってきます。越智氏は安倍派に属する衆議院議員です。
以下は、そのやりとりです。
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安倍:君はアベノミクスを批判するのか。
越智:批判はしていません。
安倍:周りはアベノミクス批判だといっているぞ。
越智:僕はアベノミクス信奉者です。だって、経済政策を担う副
大臣を2回もやったじゃないですか。
安倍:そうだな。 ──2022年6月3日付、朝日新聞
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このとき安倍元首相の手元には、骨太の方針の提言案の情報が
入っていたのです。そこには、次のようなことが書かれていたと
いいます。安倍元首相は、それがアベノミクスの批判であると受
け取って、事務局長の越智氏に抗議の電話をしたのです。
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近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として、過去
30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル。ま
た、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で
見ても「安い日本」となりつつある。
──2022年6月3日付、朝日新聞
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財政政策検討本部は「アベノミクスの批判は許さない」として
財政健全化推進本部との間で、何度か文書のやりとりが行われま
したが、それでも決着がつかなかったといいます。そのため、5
月23日午後、議員会館の安倍氏の事務所に、安倍、麻生、西田
額賀のトップ4氏が顔を揃え、その場で安倍氏側の修正案が示さ
れ、それを受けて提言を修正をすることを条件として、額賀本部
長に一任されたのです。そして、やっと5月26日に、推進本部
は、提言を発表するに至っています。
安倍政権が発足した2012年12月と、6月1日時点の主要
指標を比較すると、次のようになります。
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◎第2次安倍政権以降の主な経済指標
2012年 現在
日経平均株価 1万 0230円 2万7457円
為替相場/対ドル 85円15銭 128円92銭
実質賃金指数 105・9 100・6
有効求人倍率 0・83倍 1・23倍
国債残高 705兆72億円 991兆4111億円
──2022年6月3日付、朝日新聞
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これを見ると、日経平均株価は倍増し、有効求人倍率も大きく
伸びているものの、その一方で大幅な円安が進行し、賃金は減少
しています。その結果、国債残高は286兆円増加しています。
アベノミクスは失敗だったのでしょうか。
アベノミクスについては、EJのテーマとして取り上げたこと
があります。2014年11月19日から109回にわたって書
いています。興味があったら、参照してください。
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「検証!アベノミクス」
2014年11月19日/EJ第3919〜
2014年5月01日/EJ第4027
https://bit.ly/3Q11N5Y
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アベノミクス自体はけっして失敗ではなかったと思います。し
かし、その間に増税を2回やったのでは、うまくいくはずがあり
ません。この点について、産経新聞特別記者・田村秀男氏は、新
刊書で同様のことを次のように述べています。
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アベノミクスにしても金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の
矢を推進するとぶち上げました。初年度はとくに金融緩和と財政
出動を積極的にやり、成功したと言つてもいいでしょう。ところ
が翌年は、財政を引き締めてしまい、消費税の増税までやってし
まいました。これは大失敗です。財務省の仕業ですが、この財務
省のロジックを、政治家が跳ね返せなかったことが、最大の問題
です。跳ね返せない理由のひとつは世論でしょう。とくに学者で
す。財務省の考えに近い学者が主流になつていることです。これ
らの学者たちがメディアを使って──と言っても大体「日本経済
新聞」や「朝日新聞」なのですが──いつも均衡財政論をぶちま
す。財政均衡、つまり政府の予算で経常収入(租税や印紙収入な
ど)が経常支出(最終消費支出や移転支出など)と相等しくなく
てはいけないと主張するのです。そのため、消費税の増税はしな
ければならない、財政支出は削減しなきやいけない。そうすれば
財政は均衡するとばかり言っています。それで日本国民に「しゃ
あないな」という雰囲気にさせているわけです。財務官僚は百も
承知でもそれに乗っかっています。 ──田村秀男著
『「経済成長」とは何か/
日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
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──[新しい資本主義/101]
≪画像および関連情報≫
●安倍首相の評価は真っ二つ/「アベノミクス」の成功と失敗
をどう見るか/近藤駿介氏
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その日は突然やってきた。2020年8月28日、7年8
カ月続いた「安倍一強体制」は総理の持病悪化による辞任に
よって予想外のタイミングで幕引きとなった。第二次安倍政
権ほど賛否がはっきり分かれた政権も珍しい。政権支持率は
発足当時は期待から高く、その後徐々に落としていくのが一
般的なパターンである。第二次安倍政権の支持率も紆余曲折
があったものの、全体的にはこの一般的なパターンの範囲内
だった。第二次安倍政権と他の政権との違いが鮮明になった
のは辞任後だった。
世間が驚かされたのは、安倍総理辞任会見直後に実施され
た世論調査で支持率が急上昇したことだった。日本経済新聞
の8月世論調査での支持率は55%と前月比12%上昇し、
共同通信の調査でも56・9%と前週比20・9%も上昇し
た。辞任発表後の支持率急上昇に対しては、「辞任を歓迎し
た」といった冷ややかなものから、「アベノミクスの成果に
対する敬意」といった前向きのものまで様々な見方が出てい
る。このように評価が大きく分かれる原因は、基準を「政治
姿勢」に置くか、「経済政策」に置くかの違いによるものだ
と思われる。総裁選に立候補した岸田政調会長が「国民の声
を丁寧に聞く、人の声を“聞く力”。こうしたものも政治に
求められるのではないかと思う」と「聞く力」を強調し、石
破元幹事長が「国民を信じて、“共感と納得”の政治を目指
す」として「納得と共感」をスローガンに掲げているのは、
安倍政権の問題が「政治姿勢」にあったとみているからであ
る。逆説的にいえば「経済政策」には批判する隙がないとい
うことでもある。 https://bit.ly/3Mf5D8w
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安倍首相退陣/アベノミクスの成否