僚が出席し、集中審議が行われました。そのなかで、立憲民主党
の原健太代表と岸田首相の間で次のやりとりがあったのです。
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立民/泉:「@大胆な金融政策、A機動的な財政政策、B民間投
資を喚起する成長戦略」──アベノミクスと一字一句同じであ
ります。総理が今回出されたものは、アベノミクスと呼びます
か、呼びませんか。
岸田首相:私の経済政策は「新しい資本主義」と申し上げており
ます。アベノミクスとは呼んでおりません。
立民/泉:問題が出されたら、みんな、アベノミクスと答えるん
じゃないですか。総理!これアベノミクスじゃないですか。ア
ベノミクスの堅持だというべきじゃないですか。
岸田首相:まったく異なると思っています。マクロ経済政策は維
持しながらも、経済の全体像について、示させていただいてお
ります。
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こんにゃく問答のようです。首相は、「『新しい資本主義』は
アベノミクスも基礎とした新しい概念だ」と述べ、アベノミクス
を修正するものではないと強調しています。経済政策と資本主義
の関係の整理がよくできていないのではないでしょうか。とくに
何が「新しい」のかさっぱりわかりません。
ところで、資本主義とは何でしょうか。
このようにいうと、またしても難しい学問論争になってしまう
ので深入りはしませんが、チェコの高名な経済学者、ヨーゼフ・
アロイス・シュンペーターによると、次の3つの特徴を有する産
業社会のことであると定義しています。
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@ 物理的生産手段の私有
A 私的利益と私的損失責任
B民間銀行による決済手段の創造
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シュンペーターという経済学者は、企業者の行う不断のイノベ
ーション(革新)が経済を変動させるという理論を構築した人で
あり、経済成長の創案者でもあるといわれています。
学問的な資本主義の定義はおくとして、「経済成長」には国民
はもっと関心を持つべきです。ドルに換算した日本の名目GDP
は、1995年が「5・5兆ドル」ですが、2020年にはそれ
が5兆ドルに満たなくなっています。25年かけて、国力がこん
なに下がっているのです。つまり、「国が安くなっている」とい
うことができます。
一方、中国の場合、1995年にはGDPが1兆ドルにも満た
なかったのですが、今や「17兆ドル」に達しています。つまり
国力が17倍になったことを意味します。日本国の経済の政策担
当者──そのほとんどは自民党政権ですが、もっと責任を感じる
べきです。しかし、彼らは本当の意味において、経済というもの
がわかっていません。政治家はもっと経済を勉強すべきです。
ところで、岸田首相のいう「新しい資本主義」は、元内閣府参
与で、「公益資本主義」を掲げる事業家にして、ベンチャーキャ
ピタリストの原丈人氏の影響を受けているという説があります。
確かに原丈人氏の著作には、「新しい資本主義」というタイト
ルの次の本もあります。
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原丈人著
『新しい資本主義・希望の大国・日本の可能性』
PHP新書/2009年4月
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公益資本主義というのは、欧米型の株主資本主義でも、中国型
の国家資本主義でもない資本主義のことで、社会全体の利益、つ
まり公益を追求する資本主義を称する概念であり、原丈人氏が自
著『21世紀の国富論』において提唱したものです。
しかし、原氏と岸田首相とは、昵懇というわけではないようで
このニュースを報道した『選択』/2022年6月号は、次のよ
うにコメントしています。
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原氏は岸田首相のアドバイザーを自任しているようだが、「首
相と昵懇」というのには語弊がある。「岸田さんは『聞く力』が
あるから、原さんの意見にも耳を傾けているが、『新しい資本主
義』の台本は現職の経産官僚が書いたものであって、原さんの公
益資本主義がベースではない。内閣審議官の新原浩朗や、首相秘
書官の荒井勝喜らは、原さんの存在を煙たがっている」と政界関
係者。(中略)
首相動静に原氏との面会の記録がないのは、実際に会っていな
い証左で、主に首相の懐刀である木原誠二官房副長官が原氏の話
を聞いているという。「原氏の主眼は「自らが経営する投資ファ
ンドの資金調達にあるのではないか」と指摘する声もある。
原氏は、シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル(VC)
「デフタパートナーズ」を1984年から運用。ヘルスケア分野
に投資していると標榜し、東レや江崎グリコ、住友ファーマなど
名だたる経団連企業が出資元に名を連ねるが、目立った実績は乏
しい。「運営の実態がよくわからないファンド」(VC業界関係
者)との声も。 ──『選択』/2022年6月号
「”指南役”原丈人とは何者か/
岸田無能の象徴『新しい資本主義』」
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岸田政権の「新しい資本主義」に基づく経済政策をめぐって、
財政健全化推進本部と財政政策検討本部は、骨太の方針をめぐっ
て激しいやり取りが行われており、自民党は、騒然となっていま
す。これについては、明日のEJで述べることにします。
──[新しい資本主義/100]
≪画像および関連情報≫
●「ネオリベ」からの転換?それとも新社会主義?
/井上智洋氏(駒澤大学准教授)
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岸田政権が掲げる「新しい資本主義」とは、何だろうか?
それは当初、「新自由主義からの転換」を意味していたよう
だ。ただ、新自由主義――いわゆる「ネオリベ」という言葉
は、レッテル貼りに使われることが多いので、注意しなけれ
ばならない。
もちろん、ここ数十年間の日本では、国営事業の民営化や
最高税率の引き下げ、株主重視の経営が進んできたので、そ
れらを新自由主義的と呼べないことはない。だとしても、新
自由主義からの転換そのものに、「新しい」要素はないだろ
う。それは新自由主義的ではなかった時代に戻るだけの話で
あって、むしろ「古き良き資本主義への回帰」と言った方が
腑に落ちる。事実、岸田首相は「令和版の所得倍増」「デジ
タル田園都市国家構想」など、昭和を想起させる言葉を多く
にしている。
ただ、ことさら目くじらを立てる必要はない。「新しい資
本主義」は、ひとまず「キシダノミクス」(岸田政権の経済
政策)を意味するものと心得ておけば良いだろう。これまで
「新しい資本主義」というキャッチフレーズは、「スカスカ
で不気味」(経済評論家の山崎元(はじめ)氏)、「新しい
バブル」(慶應義塾大学大学院准教授の小幡績(せき)氏)
などと散々な評価を受けている。
https://bit.ly/3NSL6YU
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衆院予算委員会集中審議