2022年06月03日

●「岸田政権の財政運営はどうなるか」(第5743号)

 昨日の続きですが、5月31日、経済財政諮問会議が開かれ、
そこで「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案
が示されています。注目すべきは、PBによる財政再建の目標で
ある「25年度」が明記されないことになったのです。6月1日
付の日本経済新聞は次のように報道しています。
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 財政再建の目標は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリー
バランス、PB)を25年度に黒字とし、国内総生産(GDP)
に対する債務残高の比率を安定的に下げていくことだ。31日の
案は、「これまでの財政健全化目標に取り組む」とした。
 一方で、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政
策の選択肢がゆがめられてはならない」とし、「必要な検証を行
う」と強調した。
 経済情勢によっては目標を先送りして財政出動を優先すると読
める。山際大志郎経済財政・再生相は31日の経済財政諮問会議
後に記者会見し、「財政健全化に対して方針を変えたわけではな
いし、後退させたわけでもない」と語ったものの、目標の位置づ
けは下がった。   ──2022年6月1日付、日本経済新聞
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 なぜこうなったのでしょうか。自民党内では安倍元首相をバッ
クに持つ高市早苗政調会長を中心とする積極財政派の勢いが強く
なっているからです。このように、財政出動が積極化されるのは
悪いことではありませんが、問題はその投資先です。米国では財
政支出先は政府が指定するとし、中野剛志氏は、イエレン財務長
官の考え方を次のように伝えています。
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 アメリカ経済を再建し、より多くの人々により繁栄をもたらし
アメリカの労働者が、競争が激化するグローバル経済を勝ち抜け
るようにするための「長期のプロジェクト」へと、財政の支出先
を振り向けると述べている。財政政策は、単に不足する需要を埋
めて雇用を創出するという、伝統的なケインズ主義的景気対策と
して使うのではなく、財政支出先のターゲットを政府が指定する
というのである。言うならば、財政政策を産業政策として活用す
るつもりなのだ。              ──中野剛志著
           『変異する資本主義』/ダイヤモンド社
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 これに対して、岸田政権の重点投資先は、「人」「科学技術・
イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」に
なっていますが、これは菅前政権下でまとめた成長戦略とほとん
ど同じであり、新鮮味はあまりないです。
 そして何よりも、経済財政運営の枠組みは「大胆な金融政策」
「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」のいわゆ
る3本の矢は、安倍政権のそれをそのまま踏襲するとしているの
で、アベノミクスと何も変わらないのです。これが”岸田風”な
のかもしれませんが、新鮮味はほぼゼロです。
 5月5日のことですが、岸田首相は英国で、ロンドンの金融街
シティーのギルドホールで演説しています。この会場には200
人以上が入るのですが、前日まで100人くらいしか集まらず、
必死で人集めをしたと官邸幹部が漏らしています。そこで、岸田
首相は、「安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン
・キシダ(岸田に投資せよ)」と述べ、自身が掲げる「新しい資
本主義」を説明し、対日投資を呼びかけています。これも、20
13年に安倍元首相が米ニューヨーク証券取引所で「バイ・マイ
・アベノミクス(アベノミクスは「買い」だ)」と演説したこと
を意識しているように思えます。
 ところであまり話題になりませんが、岸田首相の英語力はどの
レベルなのでしょうか。なぜなら、日本で岸田首相が英語で話す
シーンをあまりみないからです。岸田首相は、外相経験が長いと
いうこともあり、かなりのレベルの英語力です。ここに2019
年のシンガポールサミットで、外相として岸田氏が演説をしてい
る動画があります。非常にスムースに話していますし、慣れてい
るという感じがします。
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  ◎シンガポールサミット(2019年)の岸田外相の演説
                  https://bit.ly/3a7L0xP
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 岸田首相の英国のシテイでの演説では、もっと言うべきことが
あったはずです。それは、東証の市場再編についてです。これに
ついて、経済評論家山崎元氏は次のように述べています。
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 岸田首相のシティー講演の主旨は日本の資本市場への投資の勧
誘だった。今回の話で印象的だったのは、「貯蓄から投資へ」の
文脈で、NISA(少額投資非課税制度)制度に言及があった一
方で、今年になって市場再編が行われた東京証券取引所について
全く言及がなかったことだ。
 NISAについては、首相の周囲にいる官僚から情報が入って
いたのだろう。「この10年間で米国は家計金融資産が3倍、英
国では2・3倍になったが、日本では1・4倍にしかなっていな
い」という岸田首相が講演で披露した数字は、つみたてNISA
の説明会で何度も聞いた話だ。
 国民の投資を増やして「資産所得を倍増する」という目標設定
は、海外投資家から見ても悪くない。分母が小さいから「倍増」
は案外簡単に達成できるかもしれない。
 一方、東証の市場再編は、特にプライム市場について海外投資
家から見た投資魅力の向上を意図したものだったと推察されるに
もかかわらず、岸田首相がアピールできるような魅力が全く生じ
なかったということなのだろう。ここで言及なしは痛い。証券関
係者にとっては残念なことだった。  https://bit.ly/3N6fuPu
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              ──[新しい資本主義/099]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田首相 英国で講演 日本への積極的投資を呼びかけ
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   イギリスを訪れている岸田総理大臣は、ロンドンの金融街
  シティーで講演し「日本経済はこれからも力強く成長を続け
  る」と強調し、日本への積極的な投資を呼びかけました。ま
  た来月、新型コロナの水際対策をG7=主要7か国並みに緩
  和する方針を明らかにしました。
   講演の冒頭、岸田総理大臣は、ウクライナへの侵攻を続け
  るロシアを非難したうえで「特に核兵器使用の脅威を現実の
  ものとして考えなければならない状況となったことに特別な
  強い感情を抱く。私が被爆地、広島出身の政治家だからであ
  り、『広島の記憶』が平和を取り戻すための行動に駆り立て
  る」と述べ、国際社会と連携してきぜんと対応する考えを強
  調しました。
   そして、今後の経済政策について「私からのメッセージは
  一つだ。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心し
  て日本に投資してほしい。『Invest in Kishida』だ」 と述
  べ、日本への積極的な投資を呼びかけました。
   そのうえで「日本はこれまでも、これからも世界に開かれ
  た貿易・投資立国であり続ける」と強調し、▽新型コロナの
  水際対策を来月には、ほかのG7=主要7か国並みに円滑な
  入国が可能となるよう緩和する方針を表明したほか、▽イギ
  リスのTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を強
  く支持する考えを示しました。 https://bit.ly/3PRVD8q
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シテイで演説する岸田首相.jpg
シテイで演説する岸田首相/2020
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする