革の基本方針(骨太の方針)の原案をニュースとして伝えていま
す。多くの人は、普段この手のニュースに関心を持ちませんが、
これは、日本が岸田政権によって、デフレから脱却できるかどう
かを検証する重要ニュースです。
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◎収支黒字化「堅持」から後退
25年度財政目標/骨太に「検証」明記
政府は6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の
方針)の原案に、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバラ
ンス、PB)を2025年度に黒字化する目標を検証すると記す
方針だ。健全化目標は維持しつつ、財政出動を制約しないとも明
記する。「堅持」を表明した前回の骨太の方針から事実上、後退
させる。
政府は、25年度のPB黒字化を財政再建の目標にかかげてき
た。原案には「財政健全化の旗を下ろさず、これまでの財政健全
化目標に取り組む」として、25年度の達成を維持する姿勢は示
す。原案は31日の政府の経済財政諮問会議で提示する。
──2022年5月31日付、日本経済新聞/朝刊
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そうでなくても岸田政権は、緊縮財政派(増税派)のスタッフ
の多い財務省寄りの政権であり、コロナ禍から脱却しなければな
らない新年度の財政運営が注目されるからです。
問題はPB、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の扱い
をどうするかです。なぜなら、PBは緊縮財政そのものであり、
これまでの政府は2025年度に黒字化するという目標を掲げて
おり、これを死守するともいっているからです。記事を見ると、
玉虫色的表現そのものであり、何をいっているのかわからない表
現です。財務省に対する配慮がありありです。
「PBを2025年度に黒字化する目標を検証すると記す方針
で、健全化目標を維持するものの、財政出動を制約しないとも明
記する」としています。何をいっているのかわかりませんが、何
はともあれ、「財政出動を制約しない」と明記するだけマシとい
えます。このさい、PBの目標を果たすことがどれほど意味のな
いことであるかは、今回の連載を読んでいただければわかってい
ただけると思います。
デフレから脱却できないことによって、日本という国がどれほ
ど凋落してしまっているか、緊縮財政派の財務省は本当にわかっ
ているのでしょうか。
添付ファイルを見てください。これは、OECD35カ国の平
均賃金の国際順位をあらわしているグラフです。日本は、35カ
国中実に22位です。韓国は19位であり、日本を上回っていま
す。日本は米国の半分強であり、韓国の90%強であって、OE
CD平均よりも、はるかに下です。経済が成長しないことによっ
て、日本の立ち位置は年々下がっているのです。
こういう状況のときに、もし、増税によって税収を増やし、歳
出を切り詰めるなどの緊縮財政を続けることによって、PB目標
を達成したとしても、日本はますますデフレの底に落ち、そこか
ら這い上がれなくなります。そうなると、日本の平均賃金はさら
に下がることになるのです。
実は、この事実を知っている日本人は少ないのです。日本は確
かに経済成長はしていないものの、先進国クラブといわれるG7
の一国であり、GDPは中国に抜かれたものの、世界第3位の経
済大国である──今でも、そのように考えている日本人は多いの
です。これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近刊
書で次のように述べています。
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これは、下りのエレベーターに乗っている人のようなものだ。
閉ざされたエレベーター内からは外の様子は見えない。そして、
エレベーターの中にいる人たちとの間の相対関係は変わっていな
い。だから、自分の位置は変わっていないと感じる。しかし、エ
レベーターの外との関係ではその人の位置は下がっでいるのだ。
日本は島国であるため、海外旅行に出かけないと世界における
自国の相対的地位を実感できない。だから、外国との比較で日本
の地位が下がっていることを自覚しにくいのだ。そうしている問
に、これまで述べたような大きな変化が生じてしまった。
──野口悠紀雄著
『日本が先進国から脱落する日/
”円安という麻薬”が日本を貧しくした』/プレジデント社
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ところで、添付ファイルのグラフは「購買力平価」で比較した
平均賃金であり、これについても知っておく必要があります。
購買力平価とは、ある国の通貨建ての資金の購買力が、他の国
でも等しい水準となるように、為替レートが決定されるという、
どちらかというと、とてもわかりにくい概念です。
似た概念に「ビックマック指数」というのがあります。これに
ついては、4月4日のEJ第5703号で述べているので、参照
してください。
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2022年4月4日/EJ第5703号
「日本は『安い国』に堕落している」
https://bit.ly/3a5iuwO
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ビックマックは、日本では390円です。現在日本は超円安で
あり、「1ドル=127円」です。ところが、米国では、ビック
マックは5・65ドル。それが日本では3・07ドルで同じビッ
クマックが食べられるのです。つまり、それだけ日本は、「安い
国」になってしまっているのです。デフレというものが、いかに
恐ろしいかこれでわかると思います。
──[新しい資本主義/098]
≪画像および関連情報≫
●外食も賃金も・・日本がはまった「何でも安い国」の深刻
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新型コロナウイルス感染拡大による逆風が続く外食産業で
回転ずしチェーン大手のくら寿司が健闘している。2021
年10月期の連結業績予想は、売上高が前年度比8・3%の
増収となり、純利益が14億6900万円の黒字(前年度は
2億6200万円の赤字)に転じる見通しだ。ワクチン接種
の進展に加え、セルフレジ導入などの効果が出て業績改善を
見込むという。
同社の岡本浩之取締役は、海外店舗(台湾39店舗、米国
32店舗)が好調なことも業績改善に寄与していると説明す
る。岡本氏は、「米国ではカリフォルニア州など出店地域で
店内飲食の制限が解除されたことで今年7月以降は、コロナ
禍以前に比べ売り上げの伸び率は2桁だ。おいしいすしが食
べたいという欲求が高まっていたのではないか」と語る。
https://bit.ly/38WpdJe
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OECD加盟国の平均賃金世界比較/2020