とになります。今回が97回ですので、100回を超えることは
不可避ですが、近くテーマを切り替えるつもりです。
今回のテーマは、次のように設定し、1月5日から5カ月間、
書いてきています。
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「新しい資本主義」とは何か。日本経済は成長できるか
── データを制する者が世界を制する ──
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このテーマで迫りたかったのは、「日本経済は成長できるか」
「そのためには何をすべきか」の2点です。この種のテーマは、
EJでは何度も取り上げていますが、いつも最後まで詰め切れな
いで終わっています。今回もそうなりそうですが、しかし、今回
は新しい発見があったと思います。
それは、現バイデン米政権において、米国の経済哲学がパラダ
イム・チェンジしたことです。これは、重要なニュースであると
思います。具体的にいうと、新自由主義からの完全脱却です。そ
して、これをケインズ主義に戻すということです。
簡単にいうと、ケインズ主義は、市場へ国家の介入を是とする
経済哲学ですが、新自由主義は市場への国家の介入を極力少なく
しようとする経済哲学です。こうした経済哲学がバイデン政権の
2つの経済政策に密接にリンクしているのです。
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「米国救済計画」 ・・・ 新型コロナウイルス対策
「米国雇用計画」 ・・・ 中国という地政学的脅威
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戦争や地政学的脅威は、経済哲学に大きな影響を与えます。戦
争になると、戦費を賄うため、国債発行のハードルが下がり、多
額の戦時国債が発行されます。それに加えて、戦争、とくに総力
戦になると、国民を階級の壁を越えて団結させ、戦場へと動員さ
れます。そして国のために戦った労働者階級は、戦後、市民とし
ての権利を強く国に要求するようになります。その結果、戦争は
国民を平等化させる効果があります。
フランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、その著作『21世紀
の資本』のなかで、20世紀半ばから、先進諸国の所得格差が、
劇的に縮小した事実を次のように説明しています。
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20世紀に格差を大幅に縮小させたのは戦争の混沌とそれに伴
う経済的、政治的ショックだった。平等拡大にむけた段階的同意
に基づく紛争なき進展が見られたわけではない。20世紀に過去
を帳消しにし、白紙状態からの社会再始動を可能にしたのは調和
のとれた民主的合理性や、経済的合理性ではなく、戦争だった。
──トマ・ピケティ著『21世紀の資本』/みすず書房
──中野剛志著
『変異する資本主義』/ダイヤモンド社
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ピケティ氏は、所得格差を解消させたのは世界大戦であったと
いっています。バイデン政権の「米国救済計画」は、新型コロナ
ウイルス対策として位置付けられていますが、バイデン大統領は
新型コロナウイルス対策を「戦争」に例えているのです。いわゆ
る「戦争のメタファ」です。バイデン大統領は、2020年11
月25日の演説で次のようにいっています。
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我々は、この国で、1年近く、ウイルスと戦ってきた。それは
苦痛、喪失感、不満をもたらし、多くの命が犠牲になった。26
万人の米国民の犠牲であり、しかもそれは増え続けている。我々
は分断された。そして、互いにいがみ合っている。この国が戦い
に倦んでいることは知っている。しかし、我々は、互いにではな
く、ウイルスと戦っていることを思い出す必要がある。
──バイデン大統領
──中野剛志著/ダイヤモンド社の前掲書より
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バイデン米大統領は、2021年2月の演説では、新型コロナ
ウィルスの死者数が50万人を超えたことについて、2つの世界
大戦とベトナム戦争の犠牲者を足したよりも多いとして、新型コ
ロナウィルス対策を戦争と同じと例えています。
このように、新型コロナウイルス対策を「戦争」に例えること
によって、巨額財政支出を正当化しているといえます。戦時中は
敵国に勝利するまで、巨額の戦時国債を発行して、戦費を調達せ
ざるを得ないからです。
新型コロナウイルス対策を戦争に例えるのはわかるとしても、
「米国雇用計画」は成長戦略であり、戦争に例えるのには無理が
あります。この計画の正当性には、戦争のメタファではなく、地
政学的脅威としての中国をターゲットとしています。
これについて、ジャネット・イエレン財務長官は、2021年
1月19日の上院財政委員会指名公聴会で、次のように発言して
いるのです。
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中国との経済競争に勝利するには、国内で、労働者、インフラ
教育、そして、イノベーションに転換的な投資を行うことが必要
だ。我々は国内でより進歩しなければ、長期的に競争力を維持で
きない。 ──ジャネット・イエレン財務長官
──中野剛志著/ダイヤモンド社の前掲書より
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ターゲットは中国である──バイデン米大統領は、「経済を成
長させ、米国の競争力を高め、国家安全保障上の利益を促進し、
今後の中国とのグローバルな競争に勝利する地位を確保する」と
発言しています。そういう経済安全保障上も財政政策は安全保障
政策として不可欠であるとしているのです。
──[新しい資本主義/097]
≪画像および関連情報≫
●ウクライナ侵攻と新型コロナ〜歴史上まれな流行拡大時
の戦争〜
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2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻しま
した。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻
止するための行動と見られており、国際的な非難がロシアや
プーチン大統領に向けられています。そして、時はまさに新
型コロナウイルスの流行が拡大中のこと。ロシア、ウクライ
ナともにオミクロン株による感染者数がピークに達しつつあ
る中で、こうした軍事行動が取られたのです。今回は軍事行
動が新型コロナの流行に及ぼす影響などについて、歴史をふ
り返りながら検討してみたいと思います。
人類の歴史の中には、戦争中に感染症が大流行した事例が
数多くあります。例えば、紀元前5世紀に古代ギリシャの覇
権を争ったペロポネソス戦争の渦中、アテネで疫病が大流行
しました。この感染症が何だったかは今もって謎ですが、市
民10万人のうち、約25%が死亡する大きな被害になりま
した。これが原因で、アテネは敗北し、衰退の道へと進みま
す。時を経て、ローマ帝国が最盛期を迎えたマルクス・アウ
レリウス帝の時代(2世紀)のこと。中東遠征軍の中で発生
した天然痘の流行がローマ帝国全体に波及し、皇帝自身もこ
の病で亡くなっています。14世紀に大流行したペスト(黒
死病)も戦争に関係しています。ヨーロッパだけで3000
万人以上が死亡した流行は、英国とフランスの間で争われた
百年戦争の途中で発生しました。16世紀以降もヨーロッパ
では局地的な戦争が繰り返されますが、常に戦場で流行した
のが発疹チフスでした。これはシラミに媒介される感染症で
不潔な状態にいる兵士の間でまん延しました。
https://bit.ly/3PPtcYQ
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トマ・ピケティ氏