2022年06月01日

●「戦争は格差を著しく縮小化させる」(第5741号)

 今回のテーマの連載は、6月6日(月)に100回を数えるこ
とになります。今回が97回ですので、100回を超えることは
不可避ですが、近くテーマを切り替えるつもりです。
 今回のテーマは、次のように設定し、1月5日から5カ月間、
書いてきています。
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  「新しい資本主義」とは何か。日本経済は成長できるか
     ── データを制する者が世界を制する ──
─────────────────────────────
 このテーマで迫りたかったのは、「日本経済は成長できるか」
「そのためには何をすべきか」の2点です。この種のテーマは、
EJでは何度も取り上げていますが、いつも最後まで詰め切れな
いで終わっています。今回もそうなりそうですが、しかし、今回
は新しい発見があったと思います。
 それは、現バイデン米政権において、米国の経済哲学がパラダ
イム・チェンジしたことです。これは、重要なニュースであると
思います。具体的にいうと、新自由主義からの完全脱却です。そ
して、これをケインズ主義に戻すということです。
 簡単にいうと、ケインズ主義は、市場へ国家の介入を是とする
経済哲学ですが、新自由主義は市場への国家の介入を極力少なく
しようとする経済哲学です。こうした経済哲学がバイデン政権の
2つの経済政策に密接にリンクしているのです。
─────────────────────────────
   「米国救済計画」 ・・・ 新型コロナウイルス対策
   「米国雇用計画」 ・・・ 中国という地政学的脅威
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 戦争や地政学的脅威は、経済哲学に大きな影響を与えます。戦
争になると、戦費を賄うため、国債発行のハードルが下がり、多
額の戦時国債が発行されます。それに加えて、戦争、とくに総力
戦になると、国民を階級の壁を越えて団結させ、戦場へと動員さ
れます。そして国のために戦った労働者階級は、戦後、市民とし
ての権利を強く国に要求するようになります。その結果、戦争は
国民を平等化させる効果があります。
 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、その著作『21世紀
の資本』のなかで、20世紀半ばから、先進諸国の所得格差が、
劇的に縮小した事実を次のように説明しています。
─────────────────────────────
 20世紀に格差を大幅に縮小させたのは戦争の混沌とそれに伴
う経済的、政治的ショックだった。平等拡大にむけた段階的同意
に基づく紛争なき進展が見られたわけではない。20世紀に過去
を帳消しにし、白紙状態からの社会再始動を可能にしたのは調和
のとれた民主的合理性や、経済的合理性ではなく、戦争だった。
    ──トマ・ピケティ著『21世紀の資本』/みすず書房
                      ──中野剛志著
           『変異する資本主義』/ダイヤモンド社
─────────────────────────────
 ピケティ氏は、所得格差を解消させたのは世界大戦であったと
いっています。バイデン政権の「米国救済計画」は、新型コロナ
ウイルス対策として位置付けられていますが、バイデン大統領は
新型コロナウイルス対策を「戦争」に例えているのです。いわゆ
る「戦争のメタファ」です。バイデン大統領は、2020年11
月25日の演説で次のようにいっています。
─────────────────────────────
 我々は、この国で、1年近く、ウイルスと戦ってきた。それは
苦痛、喪失感、不満をもたらし、多くの命が犠牲になった。26
万人の米国民の犠牲であり、しかもそれは増え続けている。我々
は分断された。そして、互いにいがみ合っている。この国が戦い
に倦んでいることは知っている。しかし、我々は、互いにではな
く、ウイルスと戦っていることを思い出す必要がある。
                    ──バイデン大統領
        ──中野剛志著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 バイデン米大統領は、2021年2月の演説では、新型コロナ
ウィルスの死者数が50万人を超えたことについて、2つの世界
大戦とベトナム戦争の犠牲者を足したよりも多いとして、新型コ
ロナウィルス対策を戦争と同じと例えています。
 このように、新型コロナウイルス対策を「戦争」に例えること
によって、巨額財政支出を正当化しているといえます。戦時中は
敵国に勝利するまで、巨額の戦時国債を発行して、戦費を調達せ
ざるを得ないからです。
 新型コロナウイルス対策を戦争に例えるのはわかるとしても、
「米国雇用計画」は成長戦略であり、戦争に例えるのには無理が
あります。この計画の正当性には、戦争のメタファではなく、地
政学的脅威としての中国をターゲットとしています。
 これについて、ジャネット・イエレン財務長官は、2021年
1月19日の上院財政委員会指名公聴会で、次のように発言して
いるのです。
─────────────────────────────
 中国との経済競争に勝利するには、国内で、労働者、インフラ
教育、そして、イノベーションに転換的な投資を行うことが必要
だ。我々は国内でより進歩しなければ、長期的に競争力を維持で
きない。         ──ジャネット・イエレン財務長官
        ──中野剛志著/ダイヤモンド社の前掲書より
─────────────────────────────
 ターゲットは中国である──バイデン米大統領は、「経済を成
長させ、米国の競争力を高め、国家安全保障上の利益を促進し、
今後の中国とのグローバルな競争に勝利する地位を確保する」と
発言しています。そういう経済安全保障上も財政政策は安全保障
政策として不可欠であるとしているのです。
              ──[新しい資本主義/097]

≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナ侵攻と新型コロナ〜歴史上まれな流行拡大時
  の戦争〜
  ───────────────────────────
   2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻しま
  した。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻
  止するための行動と見られており、国際的な非難がロシアや
  プーチン大統領に向けられています。そして、時はまさに新
  型コロナウイルスの流行が拡大中のこと。ロシア、ウクライ
  ナともにオミクロン株による感染者数がピークに達しつつあ
  る中で、こうした軍事行動が取られたのです。今回は軍事行
  動が新型コロナの流行に及ぼす影響などについて、歴史をふ
  り返りながら検討してみたいと思います。
   人類の歴史の中には、戦争中に感染症が大流行した事例が
  数多くあります。例えば、紀元前5世紀に古代ギリシャの覇
  権を争ったペロポネソス戦争の渦中、アテネで疫病が大流行
  しました。この感染症が何だったかは今もって謎ですが、市
  民10万人のうち、約25%が死亡する大きな被害になりま
  した。これが原因で、アテネは敗北し、衰退の道へと進みま
  す。時を経て、ローマ帝国が最盛期を迎えたマルクス・アウ
  レリウス帝の時代(2世紀)のこと。中東遠征軍の中で発生
  した天然痘の流行がローマ帝国全体に波及し、皇帝自身もこ
  の病で亡くなっています。14世紀に大流行したペスト(黒
  死病)も戦争に関係しています。ヨーロッパだけで3000
  万人以上が死亡した流行は、英国とフランスの間で争われた
  百年戦争の途中で発生しました。16世紀以降もヨーロッパ
  では局地的な戦争が繰り返されますが、常に戦場で流行した
  のが発疹チフスでした。これはシラミに媒介される感染症で
  不潔な状態にいる兵士の間でまん延しました。
                  https://bit.ly/3PPtcYQ
  ───────────────────────────
トマ・ピケティ氏.jpg
トマ・ピケティ氏
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2022年06月02日

●「日本は真に財政出動ができるのか」(第5742号)

 5月31日付、日本経済新聞は、政府による経済財政運営と改
革の基本方針(骨太の方針)の原案をニュースとして伝えていま
す。多くの人は、普段この手のニュースに関心を持ちませんが、
これは、日本が岸田政権によって、デフレから脱却できるかどう
かを検証する重要ニュースです。
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◎収支黒字化「堅持」から後退
 25年度財政目標/骨太に「検証」明記
 政府は6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の
方針)の原案に、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバラ
ンス、PB)を2025年度に黒字化する目標を検証すると記す
方針だ。健全化目標は維持しつつ、財政出動を制約しないとも明
記する。「堅持」を表明した前回の骨太の方針から事実上、後退
させる。
 政府は、25年度のPB黒字化を財政再建の目標にかかげてき
た。原案には「財政健全化の旗を下ろさず、これまでの財政健全
化目標に取り組む」として、25年度の達成を維持する姿勢は示
す。原案は31日の政府の経済財政諮問会議で提示する。
      ──2022年5月31日付、日本経済新聞/朝刊
─────────────────────────────
 そうでなくても岸田政権は、緊縮財政派(増税派)のスタッフ
の多い財務省寄りの政権であり、コロナ禍から脱却しなければな
らない新年度の財政運営が注目されるからです。
 問題はPB、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の扱い
をどうするかです。なぜなら、PBは緊縮財政そのものであり、
これまでの政府は2025年度に黒字化するという目標を掲げて
おり、これを死守するともいっているからです。記事を見ると、
玉虫色的表現そのものであり、何をいっているのかわからない表
現です。財務省に対する配慮がありありです。
 「PBを2025年度に黒字化する目標を検証すると記す方針
で、健全化目標を維持するものの、財政出動を制約しないとも明
記する」としています。何をいっているのかわかりませんが、何
はともあれ、「財政出動を制約しない」と明記するだけマシとい
えます。このさい、PBの目標を果たすことがどれほど意味のな
いことであるかは、今回の連載を読んでいただければわかってい
ただけると思います。
 デフレから脱却できないことによって、日本という国がどれほ
ど凋落してしまっているか、緊縮財政派の財務省は本当にわかっ
ているのでしょうか。
 添付ファイルを見てください。これは、OECD35カ国の平
均賃金の国際順位をあらわしているグラフです。日本は、35カ
国中実に22位です。韓国は19位であり、日本を上回っていま
す。日本は米国の半分強であり、韓国の90%強であって、OE
CD平均よりも、はるかに下です。経済が成長しないことによっ
て、日本の立ち位置は年々下がっているのです。
 こういう状況のときに、もし、増税によって税収を増やし、歳
出を切り詰めるなどの緊縮財政を続けることによって、PB目標
を達成したとしても、日本はますますデフレの底に落ち、そこか
ら這い上がれなくなります。そうなると、日本の平均賃金はさら
に下がることになるのです。
 実は、この事実を知っている日本人は少ないのです。日本は確
かに経済成長はしていないものの、先進国クラブといわれるG7
の一国であり、GDPは中国に抜かれたものの、世界第3位の経
済大国である──今でも、そのように考えている日本人は多いの
です。これについて、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、近刊
書で次のように述べています。
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 これは、下りのエレベーターに乗っている人のようなものだ。
閉ざされたエレベーター内からは外の様子は見えない。そして、
エレベーターの中にいる人たちとの間の相対関係は変わっていな
い。だから、自分の位置は変わっていないと感じる。しかし、エ
レベーターの外との関係ではその人の位置は下がっでいるのだ。
 日本は島国であるため、海外旅行に出かけないと世界における
自国の相対的地位を実感できない。だから、外国との比較で日本
の地位が下がっていることを自覚しにくいのだ。そうしている問
に、これまで述べたような大きな変化が生じてしまった。
                     ──野口悠紀雄著
              『日本が先進国から脱落する日/
  ”円安という麻薬”が日本を貧しくした』/プレジデント社
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 ところで、添付ファイルのグラフは「購買力平価」で比較した
平均賃金であり、これについても知っておく必要があります。
 購買力平価とは、ある国の通貨建ての資金の購買力が、他の国
でも等しい水準となるように、為替レートが決定されるという、
どちらかというと、とてもわかりにくい概念です。
 似た概念に「ビックマック指数」というのがあります。これに
ついては、4月4日のEJ第5703号で述べているので、参照
してください。
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     2022年4月4日/EJ第5703号
      「日本は『安い国』に堕落している」
                  https://bit.ly/3a5iuwO
─────────────────────────────
 ビックマックは、日本では390円です。現在日本は超円安で
あり、「1ドル=127円」です。ところが、米国では、ビック
マックは5・65ドル。それが日本では3・07ドルで同じビッ
クマックが食べられるのです。つまり、それだけ日本は、「安い
国」になってしまっているのです。デフレというものが、いかに
恐ろしいかこれでわかると思います。
              ──[新しい資本主義/098]

≪画像および関連情報≫
 ●外食も賃金も・・日本がはまった「何でも安い国」の深刻
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   新型コロナウイルス感染拡大による逆風が続く外食産業で
  回転ずしチェーン大手のくら寿司が健闘している。2021
  年10月期の連結業績予想は、売上高が前年度比8・3%の
  増収となり、純利益が14億6900万円の黒字(前年度は
  2億6200万円の赤字)に転じる見通しだ。ワクチン接種
  の進展に加え、セルフレジ導入などの効果が出て業績改善を
  見込むという。
   同社の岡本浩之取締役は、海外店舗(台湾39店舗、米国
  32店舗)が好調なことも業績改善に寄与していると説明す
  る。岡本氏は、「米国ではカリフォルニア州など出店地域で
  店内飲食の制限が解除されたことで今年7月以降は、コロナ
  禍以前に比べ売り上げの伸び率は2桁だ。おいしいすしが食
  べたいという欲求が高まっていたのではないか」と語る。
                 https://bit.ly/38WpdJe
  ───────────────────────────
OECD加盟国の平均賃金世界比較/2020.jpg
OECD加盟国の平均賃金世界比較/2020
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2022年06月03日

●「岸田政権の財政運営はどうなるか」(第5743号)

 昨日の続きですが、5月31日、経済財政諮問会議が開かれ、
そこで「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案
が示されています。注目すべきは、PBによる財政再建の目標で
ある「25年度」が明記されないことになったのです。6月1日
付の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 財政再建の目標は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリー
バランス、PB)を25年度に黒字とし、国内総生産(GDP)
に対する債務残高の比率を安定的に下げていくことだ。31日の
案は、「これまでの財政健全化目標に取り組む」とした。
 一方で、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政
策の選択肢がゆがめられてはならない」とし、「必要な検証を行
う」と強調した。
 経済情勢によっては目標を先送りして財政出動を優先すると読
める。山際大志郎経済財政・再生相は31日の経済財政諮問会議
後に記者会見し、「財政健全化に対して方針を変えたわけではな
いし、後退させたわけでもない」と語ったものの、目標の位置づ
けは下がった。   ──2022年6月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 なぜこうなったのでしょうか。自民党内では安倍元首相をバッ
クに持つ高市早苗政調会長を中心とする積極財政派の勢いが強く
なっているからです。このように、財政出動が積極化されるのは
悪いことではありませんが、問題はその投資先です。米国では財
政支出先は政府が指定するとし、中野剛志氏は、イエレン財務長
官の考え方を次のように伝えています。
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 アメリカ経済を再建し、より多くの人々により繁栄をもたらし
アメリカの労働者が、競争が激化するグローバル経済を勝ち抜け
るようにするための「長期のプロジェクト」へと、財政の支出先
を振り向けると述べている。財政政策は、単に不足する需要を埋
めて雇用を創出するという、伝統的なケインズ主義的景気対策と
して使うのではなく、財政支出先のターゲットを政府が指定する
というのである。言うならば、財政政策を産業政策として活用す
るつもりなのだ。              ──中野剛志著
           『変異する資本主義』/ダイヤモンド社
─────────────────────────────
 これに対して、岸田政権の重点投資先は、「人」「科学技術・
イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」に
なっていますが、これは菅前政権下でまとめた成長戦略とほとん
ど同じであり、新鮮味はあまりないです。
 そして何よりも、経済財政運営の枠組みは「大胆な金融政策」
「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」のいわゆ
る3本の矢は、安倍政権のそれをそのまま踏襲するとしているの
で、アベノミクスと何も変わらないのです。これが”岸田風”な
のかもしれませんが、新鮮味はほぼゼロです。
 5月5日のことですが、岸田首相は英国で、ロンドンの金融街
シティーのギルドホールで演説しています。この会場には200
人以上が入るのですが、前日まで100人くらいしか集まらず、
必死で人集めをしたと官邸幹部が漏らしています。そこで、岸田
首相は、「安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン
・キシダ(岸田に投資せよ)」と述べ、自身が掲げる「新しい資
本主義」を説明し、対日投資を呼びかけています。これも、20
13年に安倍元首相が米ニューヨーク証券取引所で「バイ・マイ
・アベノミクス(アベノミクスは「買い」だ)」と演説したこと
を意識しているように思えます。
 ところであまり話題になりませんが、岸田首相の英語力はどの
レベルなのでしょうか。なぜなら、日本で岸田首相が英語で話す
シーンをあまりみないからです。岸田首相は、外相経験が長いと
いうこともあり、かなりのレベルの英語力です。ここに2019
年のシンガポールサミットで、外相として岸田氏が演説をしてい
る動画があります。非常にスムースに話していますし、慣れてい
るという感じがします。
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  ◎シンガポールサミット(2019年)の岸田外相の演説
                  https://bit.ly/3a7L0xP
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 岸田首相の英国のシテイでの演説では、もっと言うべきことが
あったはずです。それは、東証の市場再編についてです。これに
ついて、経済評論家山崎元氏は次のように述べています。
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 岸田首相のシティー講演の主旨は日本の資本市場への投資の勧
誘だった。今回の話で印象的だったのは、「貯蓄から投資へ」の
文脈で、NISA(少額投資非課税制度)制度に言及があった一
方で、今年になって市場再編が行われた東京証券取引所について
全く言及がなかったことだ。
 NISAについては、首相の周囲にいる官僚から情報が入って
いたのだろう。「この10年間で米国は家計金融資産が3倍、英
国では2・3倍になったが、日本では1・4倍にしかなっていな
い」という岸田首相が講演で披露した数字は、つみたてNISA
の説明会で何度も聞いた話だ。
 国民の投資を増やして「資産所得を倍増する」という目標設定
は、海外投資家から見ても悪くない。分母が小さいから「倍増」
は案外簡単に達成できるかもしれない。
 一方、東証の市場再編は、特にプライム市場について海外投資
家から見た投資魅力の向上を意図したものだったと推察されるに
もかかわらず、岸田首相がアピールできるような魅力が全く生じ
なかったということなのだろう。ここで言及なしは痛い。証券関
係者にとっては残念なことだった。  https://bit.ly/3N6fuPu
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              ──[新しい資本主義/099]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田首相 英国で講演 日本への積極的投資を呼びかけ
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   イギリスを訪れている岸田総理大臣は、ロンドンの金融街
  シティーで講演し「日本経済はこれからも力強く成長を続け
  る」と強調し、日本への積極的な投資を呼びかけました。ま
  た来月、新型コロナの水際対策をG7=主要7か国並みに緩
  和する方針を明らかにしました。
   講演の冒頭、岸田総理大臣は、ウクライナへの侵攻を続け
  るロシアを非難したうえで「特に核兵器使用の脅威を現実の
  ものとして考えなければならない状況となったことに特別な
  強い感情を抱く。私が被爆地、広島出身の政治家だからであ
  り、『広島の記憶』が平和を取り戻すための行動に駆り立て
  る」と述べ、国際社会と連携してきぜんと対応する考えを強
  調しました。
   そして、今後の経済政策について「私からのメッセージは
  一つだ。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心し
  て日本に投資してほしい。『Invest in Kishida』だ」 と述
  べ、日本への積極的な投資を呼びかけました。
   そのうえで「日本はこれまでも、これからも世界に開かれ
  た貿易・投資立国であり続ける」と強調し、▽新型コロナの
  水際対策を来月には、ほかのG7=主要7か国並みに円滑な
  入国が可能となるよう緩和する方針を表明したほか、▽イギ
  リスのTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を強
  く支持する考えを示しました。 https://bit.ly/3PRVD8q
  ───────────────────────────
シテイで演説する岸田首相.jpg
シテイで演説する岸田首相/2020
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2022年06月06日

●「岸田/新しい資本主義の正体とは」(第5744号)

 6月1日のことです。衆院予算委員会では、岸田首相と関係閣
僚が出席し、集中審議が行われました。そのなかで、立憲民主党
の原健太代表と岸田首相の間で次のやりとりがあったのです。
─────────────────────────────
立民/泉:「@大胆な金融政策、A機動的な財政政策、B民間投
 資を喚起する成長戦略」──アベノミクスと一字一句同じであ
 ります。総理が今回出されたものは、アベノミクスと呼びます
 か、呼びませんか。
岸田首相:私の経済政策は「新しい資本主義」と申し上げており
 ます。アベノミクスとは呼んでおりません。
立民/泉:問題が出されたら、みんな、アベノミクスと答えるん
 じゃないですか。総理!これアベノミクスじゃないですか。ア
 ベノミクスの堅持だというべきじゃないですか。
岸田首相:まったく異なると思っています。マクロ経済政策は維
 持しながらも、経済の全体像について、示させていただいてお
 ります。
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 こんにゃく問答のようです。首相は、「『新しい資本主義』は
アベノミクスも基礎とした新しい概念だ」と述べ、アベノミクス
を修正するものではないと強調しています。経済政策と資本主義
の関係の整理がよくできていないのではないでしょうか。とくに
何が「新しい」のかさっぱりわかりません。
 ところで、資本主義とは何でしょうか。
 このようにいうと、またしても難しい学問論争になってしまう
ので深入りはしませんが、チェコの高名な経済学者、ヨーゼフ・
アロイス・シュンペーターによると、次の3つの特徴を有する産
業社会のことであると定義しています。
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       @    物理的生産手段の私有
       A   私的利益と私的損失責任
       B民間銀行による決済手段の創造
─────────────────────────────
 シュンペーターという経済学者は、企業者の行う不断のイノベ
ーション(革新)が経済を変動させるという理論を構築した人で
あり、経済成長の創案者でもあるといわれています。
 学問的な資本主義の定義はおくとして、「経済成長」には国民
はもっと関心を持つべきです。ドルに換算した日本の名目GDP
は、1995年が「5・5兆ドル」ですが、2020年にはそれ
が5兆ドルに満たなくなっています。25年かけて、国力がこん
なに下がっているのです。つまり、「国が安くなっている」とい
うことができます。
 一方、中国の場合、1995年にはGDPが1兆ドルにも満た
なかったのですが、今や「17兆ドル」に達しています。つまり
国力が17倍になったことを意味します。日本国の経済の政策担
当者──そのほとんどは自民党政権ですが、もっと責任を感じる
べきです。しかし、彼らは本当の意味において、経済というもの
がわかっていません。政治家はもっと経済を勉強すべきです。
 ところで、岸田首相のいう「新しい資本主義」は、元内閣府参
与で、「公益資本主義」を掲げる事業家にして、ベンチャーキャ
ピタリストの原丈人氏の影響を受けているという説があります。
 確かに原丈人氏の著作には、「新しい資本主義」というタイト
ルの次の本もあります。
─────────────────────────────
                      原丈人著
    『新しい資本主義・希望の大国・日本の可能性』
             PHP新書/2009年4月
─────────────────────────────
 公益資本主義というのは、欧米型の株主資本主義でも、中国型
の国家資本主義でもない資本主義のことで、社会全体の利益、つ
まり公益を追求する資本主義を称する概念であり、原丈人氏が自
著『21世紀の国富論』において提唱したものです。
 しかし、原氏と岸田首相とは、昵懇というわけではないようで
このニュースを報道した『選択』/2022年6月号は、次のよ
うにコメントしています。
─────────────────────────────
 原氏は岸田首相のアドバイザーを自任しているようだが、「首
相と昵懇」というのには語弊がある。「岸田さんは『聞く力』が
あるから、原さんの意見にも耳を傾けているが、『新しい資本主
義』の台本は現職の経産官僚が書いたものであって、原さんの公
益資本主義がベースではない。内閣審議官の新原浩朗や、首相秘
書官の荒井勝喜らは、原さんの存在を煙たがっている」と政界関
係者。(中略)
 首相動静に原氏との面会の記録がないのは、実際に会っていな
い証左で、主に首相の懐刀である木原誠二官房副長官が原氏の話
を聞いているという。「原氏の主眼は「自らが経営する投資ファ
ンドの資金調達にあるのではないか」と指摘する声もある。
 原氏は、シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル(VC)
「デフタパートナーズ」を1984年から運用。ヘルスケア分野
に投資していると標榜し、東レや江崎グリコ、住友ファーマなど
名だたる経団連企業が出資元に名を連ねるが、目立った実績は乏
しい。「運営の実態がよくわからないファンド」(VC業界関係
者)との声も。       ──『選択』/2022年6月号
              「”指南役”原丈人とは何者か/
            岸田無能の象徴『新しい資本主義』」
─────────────────────────────
 岸田政権の「新しい資本主義」に基づく経済政策をめぐって、
財政健全化推進本部と財政政策検討本部は、骨太の方針をめぐっ
て激しいやり取りが行われており、自民党は、騒然となっていま
す。これについては、明日のEJで述べることにします。
              ──[新しい資本主義/100]

≪画像および関連情報≫
 ●「ネオリベ」からの転換?それとも新社会主義?
  /井上智洋氏(駒澤大学准教授)
  ───────────────────────────
   岸田政権が掲げる「新しい資本主義」とは、何だろうか?
  それは当初、「新自由主義からの転換」を意味していたよう
  だ。ただ、新自由主義――いわゆる「ネオリベ」という言葉
  は、レッテル貼りに使われることが多いので、注意しなけれ
  ばならない。
   もちろん、ここ数十年間の日本では、国営事業の民営化や
  最高税率の引き下げ、株主重視の経営が進んできたので、そ
  れらを新自由主義的と呼べないことはない。だとしても、新
  自由主義からの転換そのものに、「新しい」要素はないだろ
  う。それは新自由主義的ではなかった時代に戻るだけの話で
  あって、むしろ「古き良き資本主義への回帰」と言った方が
  腑に落ちる。事実、岸田首相は「令和版の所得倍増」「デジ
  タル田園都市国家構想」など、昭和を想起させる言葉を多く
  にしている。
   ただ、ことさら目くじらを立てる必要はない。「新しい資
  本主義」は、ひとまず「キシダノミクス」(岸田政権の経済
  政策)を意味するものと心得ておけば良いだろう。これまで
  「新しい資本主義」というキャッチフレーズは、「スカスカ
  で不気味」(経済評論家の山崎元(はじめ)氏)、「新しい
  バブル」(慶應義塾大学大学院准教授の小幡績(せき)氏)
  などと散々な評価を受けている。
                 https://bit.ly/3NSL6YU
  ───────────────────────────
衆院予算委員会集中審議.jpg
衆院予算委員会集中審議
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2022年06月07日

●「『骨太の方針』をめぐる党内論争」(第5745号)

 5月24日のEJで、現在、自民党には、元財務相の額賀福志
郎氏を本部長とする「財政健全化推進本部」と、安倍派の参院議
員の西田昌司氏を本部長とする「財政政策検討本部」という2つ
の組織があり、国の財政運営の基本を決める「骨太の方針」につ
いて、激しい路線対立が起きていることを伝えています。
 「財政健全化推進本部」のバックには麻生副総裁、「財政政策
検討本部」には安倍元首相が、それぞれ最高顧問として控えてお
り、今年度の経済財政運営方針をめぐって対立しているのです。
 5月19日のことです。財政健全化推進本部の事務局長を務め
る越智隆雄元内閣府副大臣の携帯電話に安倍元首相から怒りの電
話がかかってきます。越智氏は安倍派に属する衆議院議員です。
以下は、そのやりとりです。
─────────────────────────────
安倍:君はアベノミクスを批判するのか。
越智:批判はしていません。
安倍:周りはアベノミクス批判だといっているぞ。
越智:僕はアベノミクス信奉者です。だって、経済政策を担う副
 大臣を2回もやったじゃないですか。
安倍:そうだな。    ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 このとき安倍元首相の手元には、骨太の方針の提言案の情報が
入っていたのです。そこには、次のようなことが書かれていたと
いいます。安倍元首相は、それがアベノミクスの批判であると受
け取って、事務局長の越智氏に抗議の電話をしたのです。
─────────────────────────────
 近年、多くの経済政策が実施されてきたが、結果として、過去
30年間のわが国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル。ま
た、「初任給は30年前とあまり変わらず、国際的には人件費で
見ても「安い日本」となりつつある。
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 財政政策検討本部は「アベノミクスの批判は許さない」として
財政健全化推進本部との間で、何度か文書のやりとりが行われま
したが、それでも決着がつかなかったといいます。そのため、5
月23日午後、議員会館の安倍氏の事務所に、安倍、麻生、西田
額賀のトップ4氏が顔を揃え、その場で安倍氏側の修正案が示さ
れ、それを受けて提言を修正をすることを条件として、額賀本部
長に一任されたのです。そして、やっと5月26日に、推進本部
は、提言を発表するに至っています。
 安倍政権が発足した2012年12月と、6月1日時点の主要
指標を比較すると、次のようになります。
─────────────────────────────
◎第2次安倍政権以降の主な経済指標
             2012年         現在
  日経平均株価  1万 0230円    2万7457円
  為替相場/対ドル  85円15銭    128円92銭
  実質賃金指数     105・9      100・6
  有効求人倍率     0・83倍      1・23倍
    国債残高  705兆72億円 991兆4111億円
            ──2022年6月3日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 これを見ると、日経平均株価は倍増し、有効求人倍率も大きく
伸びているものの、その一方で大幅な円安が進行し、賃金は減少
しています。その結果、国債残高は286兆円増加しています。
 アベノミクスは失敗だったのでしょうか。
 アベノミクスについては、EJのテーマとして取り上げたこと
があります。2014年11月19日から109回にわたって書
いています。興味があったら、参照してください。
─────────────────────────────
 「検証!アベノミクス」
 2014年11月19日/EJ第3919〜
           2014年5月01日/EJ第4027
                  https://bit.ly/3Q11N5Y
─────────────────────────────
 アベノミクス自体はけっして失敗ではなかったと思います。し
かし、その間に増税を2回やったのでは、うまくいくはずがあり
ません。この点について、産経新聞特別記者・田村秀男氏は、新
刊書で同様のことを次のように述べています。
─────────────────────────────
 アベノミクスにしても金融緩和、財政政策、成長戦略の3本の
矢を推進するとぶち上げました。初年度はとくに金融緩和と財政
出動を積極的にやり、成功したと言つてもいいでしょう。ところ
が翌年は、財政を引き締めてしまい、消費税の増税までやってし
まいました。これは大失敗です。財務省の仕業ですが、この財務
省のロジックを、政治家が跳ね返せなかったことが、最大の問題
です。跳ね返せない理由のひとつは世論でしょう。とくに学者で
す。財務省の考えに近い学者が主流になつていることです。これ
らの学者たちがメディアを使って──と言っても大体「日本経済
新聞」や「朝日新聞」なのですが──いつも均衡財政論をぶちま
す。財政均衡、つまり政府の予算で経常収入(租税や印紙収入な
ど)が経常支出(最終消費支出や移転支出など)と相等しくなく
てはいけないと主張するのです。そのため、消費税の増税はしな
ければならない、財政支出は削減しなきやいけない。そうすれば
財政は均衡するとばかり言っています。それで日本国民に「しゃ
あないな」という雰囲気にさせているわけです。財務官僚は百も
承知でもそれに乗っかっています。      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/101]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相の評価は真っ二つ/「アベノミクス」の成功と失敗
  をどう見るか/近藤駿介氏
  ───────────────────────────
   その日は突然やってきた。2020年8月28日、7年8
  カ月続いた「安倍一強体制」は総理の持病悪化による辞任に
  よって予想外のタイミングで幕引きとなった。第二次安倍政
  権ほど賛否がはっきり分かれた政権も珍しい。政権支持率は
  発足当時は期待から高く、その後徐々に落としていくのが一
  般的なパターンである。第二次安倍政権の支持率も紆余曲折
  があったものの、全体的にはこの一般的なパターンの範囲内
  だった。第二次安倍政権と他の政権との違いが鮮明になった
  のは辞任後だった。
   世間が驚かされたのは、安倍総理辞任会見直後に実施され
  た世論調査で支持率が急上昇したことだった。日本経済新聞
  の8月世論調査での支持率は55%と前月比12%上昇し、
  共同通信の調査でも56・9%と前週比20・9%も上昇し
  た。辞任発表後の支持率急上昇に対しては、「辞任を歓迎し
  た」といった冷ややかなものから、「アベノミクスの成果に
  対する敬意」といった前向きのものまで様々な見方が出てい
  る。このように評価が大きく分かれる原因は、基準を「政治
  姿勢」に置くか、「経済政策」に置くかの違いによるものだ
  と思われる。総裁選に立候補した岸田政調会長が「国民の声
  を丁寧に聞く、人の声を“聞く力”。こうしたものも政治に
  求められるのではないかと思う」と「聞く力」を強調し、石
  破元幹事長が「国民を信じて、“共感と納得”の政治を目指
  す」として「納得と共感」をスローガンに掲げているのは、
  安倍政権の問題が「政治姿勢」にあったとみているからであ
  る。逆説的にいえば「経済政策」には批判する隙がないとい
  うことでもある。       https://bit.ly/3Mf5D8w
  ───────────────────────────
安倍首相退陣/アベノミクスの成否.jpg
安倍首相退陣/アベノミクスの成否
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2022年06月08日

●「政治に問題があって成長できない」(第5746号)

 「コンクリートから人へ」──これは、2009年に就任した
民主党の鳩山由紀夫首相が、公共事業から家計支援に軸足を移す
ことを宣言した経済政策のスローガンです。
 このとき、政権を失った自民党は「財源がどこにある」といっ
て徹底的に反対の姿勢をとり、財務省は政権与党に慣れていない
民主党の大臣への洗脳作戦で「コンクリートから人へ」の政策を
潰し、最も首相にしたくない小沢一郎氏を検察を使い、証拠を改
ざんするなどの汚い手を使って、政治的に排除し、民主党をして
公約にない消費税の増税をさせたのです。それが現在の10%の
消費税です。
 しかし、「コンクリートから人へ」──これは正論です。この
言葉は、あの田中角栄元首相の次の語録からきています。
─────────────────────────────
       政治とは何か。それは生活である
                ──田中角栄
─────────────────────────────
 その意味するところは、国民が働く場所を用意し、衣食住を向
上させ、戦争を起こさず、穏やかに暮らせるようにするのが政治
の目的であるということです。小沢一郎氏はこの言葉の精神を自
身の政党名に込めて「国民の生活が第一」と命名しています。
 添付ファイルを見てください。これは、みずほリサーチ・テク
ノロジーズのレポートに出ていたものです。人への投資の割合を
官民で、GDP比で主要国と比較したものですが、日本の投資は
圧倒的に少ないことが分かります。「コンクリートから人へ」の
経済政策は間違っていないのです。この責任は政権与党、とりわ
け自民党にあります。しかし、それでも、多くの日本人は、何が
あっても、自民党に投票します。
 岸田政権においては「コンクリートも人も」になっており、重
点投資ではなく、バラ撒きに近く、日本の経済を成長させる政策
であるとは思えません。これでは、これまでと同じであり、経済
は成長せず、賃金も上がりません。政治は、国民を豊かにして、
はじめて成功したといえるのです。そのためによい方法があるは
ずです。それは、現在10%の消費税の税率を一時的に下げるこ
とです。まして、現在は円安の影響や、コロナ禍、ウクライナ危
機もあって、電気代や食料をはじめとして、生活に欠かせないあ
らゆるものの物価が大幅に上昇しつつあります。しかし、賃金は
依然としてまったく上昇していないので、国民の生活は一段と苦
しくなっています。
 こういう経済状況ですから、もし、野党のいうように、消費税
を10%から5%に下げれば、その分国民の生活はラクになりま
す。コロナ禍では、米国をはじめとして、あの財政規律の厳しい
ドイツでも、減税をしていますが、日本は絶対にやりません。日
本の政権与党の議員の頭には、法人税の減税は許容しても、消費
税の減税などする意思はまったくないのです。その動かぬ証拠が
ここにあります。
 先の衆院選の候補者全員に対して、毎日新聞が行った調査で、
消費税の一時的減税について聞いています。その全体と自民党の
投票結果は次のようになっています。
─────────────────────────────
 ◎消費税をどうするべきか
                   全体   自民党
  引き上げるべき          1%    2%
  当面は10%を維持すべきである 38%   89%
  引き下げるべきである      58%    5%
  その他              3%    4%
                  https://bit.ly/3NlU54N
─────────────────────────────
 ここで重要なのは、野党を含めた全体では「引き下げるべきで
ある」がトップの58%を占めていることです。これが国民の意
思です。驚くべきなのは「10%を維持すべき」が、自民党では
89%を占めていることです。この考え方こそが、日本がデフレ
から脱却できない理由です。
 「消費税を時限的に下げるべき」というと、首相をはじめとす
る閣僚は、必ず次のように答弁し、反対します。これは、財務省
の役人からのQ&Aです。
─────────────────────────────
 消費税は社会保障の一部財源になっており、一時的であって
 も、引き下げることは困難である。
─────────────────────────────
 この点について、現職の矢野康治財務事務次官は『文藝春秋』
で、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 コロナ対策の窮余の一策として、一時的に消費税率を引き下げ
てはどうか、という政策の提案もあります。しかし消費税は、す
でに社会保障制度を持続させていくための、極めて重要な「切り
札」として位置づけられています。
 増え続ける高齢世代の社会保障費をいかに支えるか。この方策
については長年議論されてきました。その結果、少子高齢化の進
展を見据え、減りゆく勤労世代からの保険料や所得税などだけで
は高齢世代を支えていけないという結論に達したのです。
 ──矢野康治著『財務次官、モノ申す「このままでは国家が財
    政は破綻する」』/『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 消費税を社会保障の財源にする──これは、財務省の策略に与
党議員が騙されてしまった結果です。そんなことをしている国は
ありません。もし、そんなことをすれば、今後社会保障は増える
一方ですから、消費税の税率は上がる一方になります。財務省は
いいでしょうが、国民は悲惨なことになります。それに、消費税
の財源は、消費増税にさいに同時に行われている法人税の減税の
原資になっているのです。  ──[新しい資本主義/102]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会保障のための増税」はまやかし/控える給付減
  ・負担増
  ───────────────────────────
   安倍内閣は10月から消費税率を10%に引き上げる姿勢
  を崩していない。しかし、7月1日の日銀短観(企業短期経
  済観測調査)では企業の景況感が2期連続で悪化。2015
  年6月と16年12月のこれまで2回の10%への増税延期
  時よりも現在の経済状況は悪く、到底増税に耐えられる状況
  にない。
   参院選に関する各種世論調査では、社会保障と並んで消費
  税増税の是非に有権者の関心が高く、軒並み「反対」が「賛
  成」を上回る。「10%ストップ!」の声を投票行動に結び
  つけ、審判を下す必要がある。
   6月に閣議決定された「骨太の方針2019」は、10月
  の10%への消費税増税を明記。「社会保障に対する安定的
  な財源を確保する」などとしている。
   しかし「社会保障のための消費税増税」という議論は、法
  人税や所得税を減らす分を消費税分で置き換えるに過ぎず、
  まやかしの議論であることは、この間の経緯を見ても明らか
  だ。1989年度から2018年度までの消費税収は、累計
  372兆円。一方で、同時期の法人税の減収分は累計291
  兆円となる。消費税収の約8割が法人税収の穴埋めに使われ
  たことになる。消費税導入時との比較では、現在の税収構造
  は、減税等により所得税収、法人税収が低下。消費税収が、
  所得税収に匹敵するまでに増えているにもかかわらず、国の
  税収全体はほとんど増えていない。
                 https://bit.ly/3MkdTUK
  ───────────────────────────
日本の人への投資は官民ともに見劣りする.jpg
日本の人への投資は官民ともに見劣りする
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2022年06月09日

●「一番滞納が多いのは消費税である」(第5747号)

 「われわれはウクライナに侵攻していない」──ロシアが大量
の戦車でウクライナの首都キーウに向けて攻め込んでいる映像が
テレビで大量に流されているなかでロシアのラブロフ外相がいっ
た言葉です。明らかにウソです。ラブロフ外相の立場に立てば、
そういわざるを得なかったのです。
 こういうウソを「プロパガンダ」といいますが、プロパガンダ
には、2つがあります。情報源を明らかにして行うプロパガンダ
が「ホワイト・プロパガンダ」、情報源を隠して行うプロパガン
ダが「ブラック・プロパガンダ」です。
 ロシアの場合、ホワイト・プロパガンダでもウソをついていま
す。つまり、国民に嘘をついているということです。政府声明な
ので、国民の知るところとなりますが、対外的に本当のことをい
えば、国内向けにいっていることがウソだとわかってしまう。し
たがって、ここは国際社会からいかに非難を浴びようとも、国民
にいっていることと同じこと、すなわち、ウソをいわざるをえな
いのです。ラブロフ外相やネベンジャ国連大使が、明らかにウソ
だとわかることを対外的声明や国連でのスピーチで堂々といって
のけるのはこのためです。
 何でプロパガンダの話をしたかというと、財務省も国民に対し
てさまざまなプロパガンダを行っているからです。たくさんあり
ますが、「このままでは日本の財政は破綻する」とか「消費税の
多くは社会保障の財源に使われる」などは、その代表的なものと
いえるでしょう。
 矢野康治財務事務次官は、『文藝春秋』において、消費税を一
時的にも下げることが、どれほど大変なことかについて、次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 日本では、消費税はきちんと価格に転嫁しなければならないと
法律で定めていますので、あらゆる財・サービスの値段を具体的
にどこまで下げるか、電車やバスの運賃料金からから診療報酬に
至るまで、値決めと値札の付け替えをせねばならず、実行するま
でに最低半年以上かかることになります。法改正等も含めた政策
実現ラグを考えると、引き下げの実施はずっと先の話になり、そ
もそもコロナ対策としての有効性が甚だ疑問なのです。(中略)
 いったん引き下げた消費税率をいつ上げ戻すのか、上げ戻す場
合の駆け込み需要と反動減対策はどうするのか・・・などと難題
は他にもあまたあります。さらに、もう一つだけ問題点を指摘し
ますと、仮に消費税率を5%に引き下げた場合、軽減税率対象品
目については108分の3引き下げられ、その他は110分の5
引き下げられることとなり、低所得者ほど恩恵が(額でみても率
でみても)小さくなってしまうという逆進性が高まってしまう問
題もあります。
 ──矢野康治著『財務次官、モノ申す「このままでは国家が財
    政は破綻する」』/『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 経済を成長させるということはGDPを伸長させることです。
そのために一番効果的なのは、個人消費を伸ばすことです。なぜ
なら、日本の場合、GDPの60%が個人消費だからです。まし
て、昨今は生活に欠かせない諸物価が高騰しており、その一方に
おいて、コロナ禍も続いていて、労働者の賃金が上がっておらず
実質収入は減少しているのです。これでは、個人消費は上がるど
ころか、下がってしまいます。
 賃金を上げるには、経済を成長させる必要があります。これが
できないのであれば、時限的に消費税を引き下げ、実質所得を増
やさなければなりません。しかし、財務省のトップは、消費税を
下げることや、さらにそれを元に戻すことの事務負担がどんなに
大変かをめんめんと訴えています。
 しかし、それをするのが財務省をはじめとするすべての役所の
仕事なのです。そのために、世の中に何が起きようと公務員は給
与が保証され、昇給もきちんと行われているのです。そういう優
越的立場にいて、いうべきことではないと考えます。
 ちなみに、コロナ禍の緊急経済対策として、56の国と地域が
日本の消費税に当たる付加価値税を下げています。英国では、半
世紀ぶりに大企業向けの法人税率を現行の19%から25%に引
き上げる(23年4月から)ことを発表。米国のバイデン大統領
も、連邦法人税率を現行の21%から28%への引き上げを提案
し、イエレン米財務長官は、各国の法人税引き下げ競争を終わら
せ、G20が協力して共通の最低税率を設ける国際的な取り組み
を呼び掛けていますが、日本は知らん顔です。
 消費税は、コロナ禍であろうと、天変地異が起ころうと、赤字
であろうと、徴収される税金です。とくに日本の場合、いったん
上げた税率は、何が起ころうと、上げることはあっても、絶対に
下げないのです。したがって、その消費税の滞納額たるや、国税
全体の半分以上を占める3200億円に達しています。まさに日
本経済の成長を止めているのは、この消費税です。
─────────────────────────────
      ◎2019年/国税新規発生滞納額
       所得税  22%/1249億円
       法人税  14%/ 765億円
       相続税   5%/ 275億円
       消費税  58%/3202億円
       その他   1%/  36億円
                  https://bit.ly/3arqAQH
─────────────────────────────
 消費税は、社会保障財源の目的税ではありません。したがって
「社会保障に使われる」といっても、お金に色はついていないの
です。このテーマは、EJでは何回も取り上げていますが、最近
のデータを使って、本当のところ何に使われているのかについて
検討してみることにしたいと思います。
              ──[新しい資本主義/103]

≪画像および関連情報≫
 ●消費税は社会保障のため?本当に消費税は必要なのか?
  ───────────────────────────
   TOKYO MX(地上波9ch)/朝のニュース生番組
  「モーニングCROSS」(毎週月〜金曜7:00〜)。9
  月24日(木)放送の「オピニオンオピニオンCROSS
  neo」のコーナーでは、公認会計士で税理士の森井じゅん
  さんが“消費税と社会保障”について述べました。
   菅首相(当時)は総裁選中の質疑応答で、「社会保障の財
  源確保のため、将来的には消費税を引き上げる必要がある」
  と述べました。しかし、翌日の記者会見では「安倍首相(※
  会見当時)は『今後10年ぐらい上げる必要がない』と発言
  している。私も同じ考えだ」と軌道修正しており、今後の菅
  政権の方針が注目されています。
   菅首相(当時)は「消費税は社会保障のための財源」とし
  ていますが、森井さんは「そもそも消費税導入の理由は、社
  会保障ではない」と指摘。導入理由は「直間比率の是正」で
  直接税が高いのでもっと間接税を増やすという話だったと言
  います。直接税とは「納税しなければいけない人と負担する
  人が同じ」で、いわゆる法人税や所得税のこと。一方、間接
  税は「実際に納税する人と負担する人が異なるもの」で、た
  ばこ税などがそれにあたり、「消費税も間接税としてカウン
  トされているが、そこは議論の余地があるところ」と森井さ
  ん。そして、消費税導入の要因でもある「直間比率の是正」
  については、「これは法人税と所得税を下げ、消費税を引き
  上げるという財界の要望」と指摘。結果的に、日本の税収は
  今やその要望通りに法人税が減り、消費税の割合が増加して
  います。           https://bit.ly/3aHLxH9
  ───────────────────────────
消費税の引き下げは好ましくはない/矢野次官.jpg
消費税の引き下げは好ましくはない/矢野次官
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2022年06月10日

● 「社会保障に使われていない消費税」(第5748号)

 6月1日のことです。衆議院予算委員会において、れいわ新選
組の大石晃子議員が、先週の予算委員会で岸田首相が「消費税の
減税は考えていない」と答弁したことに対し、首相を「資本家の
犬、財務省の犬」といった言葉を使い、複数枚のパネルを使って
批判したことが話題を呼んでいます。
 仮にも一国の首相をこのような言葉を使って批判するのは、国
会議員として失礼であると思います。ネット上で話題になってい
るので、そのときの動画をご紹介します。
─────────────────────────────
     期日:2022年6月1日(水)
     場所:衆議院予算委員会
     質問:れいわ新選組の大石晃子衆議院議員
     時間:4分22秒
             https://bit.ly/3NOV25m
─────────────────────────────
 しかし、言葉遣いには問題がありますが、大石議員が指摘して
いることはほぼ事実です。ところで、日本各地で組織された「民
主商工会」(民商)の全国組織である全国商工団体連合会(全商
連)という組織があります。その全商連が「消費税は社会保障の
ために本当に使われているのか」のタイトルで書いたレポートが
あります。これによると、消費税は社会保障の安定財源という割
には、消費税が導入されてから、社会保障が充実するどころか、
むしろ改悪されていることを次のデータで示しています。
─────────────────────────────
       消費税導入以前/1988年度  2020年度
サラリーマン本人の窓口負担      0%→    10%
高齢者の窓口負担(外来)       1割→     3割
国民健康保険料・税/1人平均 56372円→ 90233円
厚生年金支給開始年齢        60歳→    65歳
国民年金保険料(月額)     7700円→ 16610円
介護保険料              なし→  5869円
障碍者福祉の自己負担  応能負担/9割無料→ 定率1割負担
                  https://bit.ly/3xj5woj
─────────────────────────────
 確かにこれによると、社会保障はどんどん厳しさを増していま
す。しかし、それは、少子高齢化が急速に進むなどの要因もあり
仕方がないことであるともいえます。
 それに消費税は最初から社会保障の安定財源として導入された
ものではなく、そう呼ぶようになったのは、2012年に、当時
与党の民主党と、自民党と公明党の3党が組んで成立させた「税
と社会保障の一体改革」からです。バックに財務省がいます。
 しかし、そうであっても消費税は社会保障の目的税ではなく、
それを目指すというに過ぎません。消費税の税収は、一般財源と
して何にでも使えるのです。お金に色はついていないので、税収
として入ってくると、何にでも使えるし、仮にそれを指摘された
としても、どのようにでも言い訳はできるようになっています。
ここにまやかしがあります。実際には、消費税収分のほとんどは
社会保障にまわっていないのです。
 財務省という役所が、一般会計と特別会計で動かすお金の額は
GDPの50%相当といわれます。それだけ財務官僚は、日本の
命運を握っています。しかし、財務官僚は、何よりも、プライマ
リーバランス(基礎的財政収支)──一般会計で歳入総額から国
債発行などによる収入を引いた金額と、歳出総額から国債費など
を引いた金額のバランス──これをプラスに持っていくことに、
偏執狂的な情熱を燃やしています。
 これは、国債を償還することになるので、緊縮財政です。これ
をすると、市場からお金を吸い上げる一方で、税金が実体経済に
戻らなくなるので、不況になって経済が委縮し、経済が成長しな
くなります。「国が借金をすることで、国民の資産が増える」こ
とをどうしても彼らは理解できないようです。
 産経新聞特別記者の田村秀男氏は、近著で矢野康治財務事務次
官について次のように触れています。
─────────────────────────────
 一時期、民主党政権のトップたちが「このままでは日本はギリ
シャのように財政が破綻する」と言っていましたが、あれは完全
に民主党政権が財務官僚に洗脳されてしまっていたのです。財務
官僚に「ギリシャみたいになったらどうしますか。あなたのせい
にされますよ」と言われて震え上がって、一生懸命消費税の増税
を画策して、三党合意にもっていった。
 「財務省はまず国のことを思って、経済を良くしようと考える
はずなのに・・・」と思われるかもしれませんが、財務官僚とい
う人たちはほんとうに不思議です。
 いまの事務次官の矢野康治さんと話をしたとき、「いや、私は
財務省のなかでも、経済のことはいちばんわかってますから」と
の自負を述べておられましたが、その矢野さんが、一生懸命増税
と緊縮財政のことばかり考えている。
 財務省自身が魔物みたいなもので「財政は均衡させなきやいけ
ない。均衡させるためには緊縮財政をやらなきやいけない。増税
をしないといけない」という”緊縮狂”というべきか、これが性
根になっているとしか思えません。      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
 財務省は、偏執狂ならぬ緊縮狂に陥っている──このあたりに
日本が経済成長できない原因があります。政治家は、財務省と張
り合うことはマイナスと考えていて、積極的には戦おうとしない
のです。財務省の力は、政権運営に慣れていない民主党を手玉に
とったことで十分発揮されています。一番わからないのは、財務
官僚は本当に国家運営を家計と同じように考えているのかという
ことです。         ──[新しい資本主義/104]

≪画像および関連情報≫
 ●プライマリーバランス黒字化目標導入という罪とは別のもう
  一つの罪/杉っ子の独り言
  ───────────────────────────
   私はプライマリーバランス黒字化目標に対して批判的な立
  場です。デフレ脱却のためには「国債増刷」と「財政出動」
  のセットの政策以外に、有効な方法がありません。
   もし、国家の財政運営を家計簿や企業経営と同じように考
  えて、「政府の政策は税収の範囲内で行うべき!」という人
  が居られれば、それはGDP3面等価の原則を知らない人で
  しょう。知っていても理解していない人でしょう。
   なぜならば、支出=生産=所得であって、支出するのは、
  家計(個人)でなくても企業(法人)でなくてもよく、政府
  が支出するでも全く問題がないからです。実際、内閣府のホ
  ームページで公表されるGDPの1次速報、2次速報、確報
  値では、政府最終消費支出という項目があります。個人消費
  や企業設備投資の他に、公務員(警察官・消防官・救急隊・
  自衛隊・学校の先生・役所省庁職員など)の給料や公共事業
  投資もまた支出であることに変わりありません。
   国債を増刷して、その財源を元に公務員を増やした結果、
  公務員に払う給料が増えた場合、政府支出増=政府サービス
  (医療・介護・防衛・防犯・災害救助・教育などなど)の生
  産増加=公務員の所得増加となりまして、経済成長(GDP
  拡大)に貢献するのです。さて、そもそもこのプライマリー
  バランス黒字化を導入されたのはいつか?そしてそれは誰が
  主導したのか?2001年に竹中平蔵氏がプライマリーバラ
  ンス黒字化を言い出しました。その結果、日本は景気が悪く
  なって財政出動をしなければならない状況に陥ったとしても
  財政出動ができなくなってしまったのです。
                 https://bit.ly/3GQdubw
  ───────────────────────────
れいわ新選組/大石あきこ議員.jpg
れいわ新選組/大石あきこ議員
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2022年06月13日

●「骨太の方針をめぐる党を割る論争」(第5749号)

 6月7日のことです。政府は今年の「経済財政運営と改革の基
本方針/骨太の方針」を閣議決定しています。とくに今年の骨太
の方針の決定は重要であったといえます。考えてみると、日本が
長期デフレでも、十分な財政出動ができなかった理由の一端は骨
太の方針の内容にもあるからです。
 これは、政府プラス自民党と財務省のいわば戦いです。今回は
財務省を代表する財政健全化推進本部と、政調会長を中心とする
財政政策検討本部の2つのグループに分かれて、骨太の方針をめ
ぐって、激しい議論が行われたのです。麻生元財務相と安倍元首
相の戦いといってよいと思います。その激しさは、党を割るので
はないかといわれるほど、激しかったといいます。
 しかし、岸田首相は明らかに財務省寄りであるので、政府とし
ては、財政健全化グループと財政積極派グループの中間に位置し
ている感じです。当初財務省は、当然のように今年度の骨太の方
針に次の文言を明記することを政府に働きかけています。
─────────────────────────────
 2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字
化目標を堅持する。
─────────────────────────────
 しかし、これについては、財政積極派グループが猛烈に反対し
削除を要求しています。最終的に財務省はこれを受け入れざるを
得なくなり、最終段階になって、次の一文を加えてきたのです。
─────────────────────────────
 骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進
する。             財政健全化推進本部の追加文
─────────────────────────────
 骨太方針2021には2025年のプライマリーバランス黒字
化達成が明確に記述されており、この一文は財務省の猿芝居であ
ると高橋洋一氏はいっています。これは事実上黒字化目標堅持を
継続し、当初予算が抑制されるので、自民党政調全体会議は大紛
糾することになります。これについて財政政策検討本部長の西田
昌司氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 「姑息」というのは、新たな一文が文案の最後に何事もなかっ
たように加えられていたことだ。これが財務省のやり方で、油断
も隙もない。PB黒字化に固執すれば岸田首相が掲げる「新しい
資本主義」はもちろん、喫緊の課題である防衛力強化など、長期
的視野に立った重要政策の当初予算を柔軟に実行できない。
 財務省は、民間経済への視点を著しく欠き、深い考えもなく、
PB黒字化に固執している。政治や国民を下に見て、日本経済を
停滞させ、デフレを招く根源は、息の根を止めないといけない。
              ──西田昌司財政政策検討本部長
              2022年6月8日付、夕刊フジ
─────────────────────────────
 しかし、財政健全化推進本部はこの追加分のカットには頑強に
反対し、次の一文を加えることで、骨太の方針は閣議決定される
ことになったのです。
─────────────────────────────
 ただし、(それが)重要な政策の選択肢をせばめることがあっ
てはならない。               ──最終追加文
─────────────────────────────
 これだけの騒ぎになっているのに、肝心の岸田首相の態度は、
まったく煮え切らないの一語に尽きます。これでわかることがあ
ります。矢野康治現財務次官の『文藝春秋』への論文投稿は、独
断でやったものではなく、麻生前財務相、現鈴木財務相が了承の
うえでやったのではないかということです。もしかすると、岸田
首相も事前に伝えられていたと考えられます。もし本当だとすれ
ば、「財務省のイヌ」といわれても仕方がないと思われます。
 財務省が拠りどころとしているには、財政法第4条です。第4
条とは、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その
財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付
金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を
発行し又は借入金をなすことができる」とあります。一体なぜこ
のような法律が存在するのでしょうか。
 この財政法第4条と憲法第9条は、占領下の1947年に制定
されたもので、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)から日本
に押し付けられたものです。GHQが財政政策を縛ったのは、日
本を経済的に発展させないためであり、憲法第9条とともに、日
本を「戦争ができない国」にするためのものです。当時の世界は
日本が再軍備することを極端に恐れたのです。
 この財政法第4条に関して、産経新聞特別記者の田村秀男氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本共産党は『しんぶん赤旗』で「この規定、戦前、天皇制政
府がおこなった無謀な侵略戦争が、膨大な戦時国債の発行があっ
て、はじめて可能であったという反省にもとづいて、財政法制定
にさいして設けられたもので、憲法の前文および第9条の平和主
義に照応するもの」と説明しています。国家主権を自ら制限する
もので、いかにも日本共産党の言い分ですね。しかし、共産党が
墨守する憲法解釈に、保守を自称する与党の政治家の大半が縛ら
れるのは奇々怪々と言うしかありません。
 そもそも憲法は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権
利」の尊重を謳っています。政府が財政均衡主義を貫くことで、
デフレ不況を引き起こし、経済をゼロかマイナス成長にしてしま
うことは、国民が幸福になる権利をブチ壊すようなものです。
                      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/105]

≪画像および関連情報≫
 ●風化する財政法4条、戦前の教訓どこへ
  ───────────────────────────
   建設国債の発行を認めている財政法4条を巡る議論がにわ
  かに熱を帯びている。教育無償化などの財源を、建設国債の
  発行で賄おうとの動きだ。麻生太郎財務相は「名を変えた赤
  字国債と変わらない」と否定的な姿勢を堅持するが、自民党
  では安倍晋三首相の指示のもとでの検討が進む。戦前の教訓
  はどこへいったのか。
   財政法は4条で「国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を
  以て、その財源としなければならない」として国債発行を原
  則禁止しているが、「公共事業費、出資金及び貸付金」向け
  の建設国債の発行を例外的に認めている。1966年に戦後
  はじめて発行した建設国債は2016年度末に277兆円と
  政府債務全体の約3割に及ぶ。1990年代までは赤字国債
  よりも発行額が大きく、借金の膨張の要因となってきた。
   使途拡大の議論の焦点となりそうなのが、無形資産への計
  上を認めるか、という点だ。財政法の解説で権威のある「予
  算と財政法」には研究開発費のような使途であっても「(出
  資金であれば)後世代がその利益を享受でき、その意味で無
  形の資産と観念しうるものについては妥当性がある」と記し
  ており、使途拡大の論拠のひとつとなっている。政府内には
  出資金の要件を満たさなくても、計上可能にしようともくろ
  む向きさえある。    https://s.nikkei.com/3zu5ewg
  ───────────────────────────
田村秀男氏と近刊書.jpg
田村秀男氏と近刊書
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2022年06月14日

●「日本はけっして借金大国ではない」(第5750号)

 もう一度矢野康治財務事務次官の論文の冒頭部分を読んでみて
ください。
─────────────────────────────
 私は一介の役人に過ぎません。しかし、財政をあずかり、国庫
の管理を任された立場にいます。このバラマキ・リスクがどんど
ん高まっている状況を前にして、「これは本当に危険だ」と憂い
を禁じ得ません。すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務
を併せると1166兆円に上ります。GDPのの2・2倍であり
先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さら
に財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです。
               ──財務事務次官/矢野康治著
    「財務次官、モノ申す/このままでは財政は破綻する」
             『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 散々聞かされてきている「国の長期債務は973兆円、地方の
債務を併せると1166兆円、GDPの2・2倍」──借金だけ
が誇張されていますが、正確にいうと、ウソがあります。メディ
アなどは、「国の借金1000兆円/国民一人当たり800万円
の借金」と大々的に報道しています。国民はこれをそのまま信じ
ています。メディアはわかっていないかもしれませんが、財務省
は、よくわかっていてウソをついています。
 それは「国の長期債務973兆円」という部分です。これは、
正確にいうと「政府の長期債務」というべきです。国と政府は違
います。「国=政府」ではなく、国とは、政府と民間を合わせた
ものをいいます。確かに、政府は約1000兆円の借金を負って
いますが、そのほとんどは民間が貸しています。
 つまり、貸し手も日本、借り手も日本、これは国のなかでの貸
し借りの問題であって、国の借金ではないのです。この場合、民
間といってもピンとこないと思うので、正確にいいます。日本政
府の国債の90%以上は日本の機関投資家が保有しています。機
関投資家とは何でしょうか。銀行、生命保険会社、損害保険会社
年金運用基金など、国民の資産を集めて運用する機関が機関投資
家で、彼らが日本政府の借金(国債)のほとんどを貸しているの
です。民間が貸しているのですから、民間の「資産」ということ
になります。
 ところで、2022年5月28日付の日本経済新聞に次の記事
が掲載されています。
─────────────────────────────
◎日本の対外純資産最高/昨年末15%増411兆円、円安影響
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本に住む人が海外で保有する資産の評価額が、円安の影響で
膨らんでいる。財務省が27日発表した対外資産負債残高による
と、2021年末時点の日本の対外純資産は20年末に比べて、
15・8%増の411兆1841億円と、過去最高を更新した。
31年連続で世界最大の純債権国となり、2位のドイツを100
兆円近く引き離した。
 日本の対外純資産が400兆円を超えたのは初。13年末以降
は300兆円台で推移していたが、21年末は増加幅が56兆円
とこれまでで最も大きかった。20年末に33兆円程度に縮まっ
たドイツとの差が再び開いた。
         ──2022年5月28日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 対外純資産については、毎年財務省が発表しています。しかし
これについては、毎回非常に控え目に報道されるので、多くの人
は気がつかないで、見逃してしまいます。
 日本を主語にしていうと、対外純資産とは、日本が海外に投資
している金額から、海外から投資されている金額を差し引いた金
額のことです。ここで投資とは、政府債券や社債、株式、土地な
どの資産を現地通貨で保有することです。
 確かに日本も海外から投資を受けていますが、それよりもはる
かに多くの金額を海外に投資しています。日本の対外純資産が世
界一多く、しかも31年連続で日本は世界一なのです。それなの
に、多くの日本人は、日本は世界一の借金大国であることを信じ
ています。財務省のプロパガンダがそうさせているのです。
 ただ、対外純資産が長年にわたって日本が世界一であることに
はマイナスもあります。それは、日本国内に魅力的な投資先がな
いことを意味するからです。これについて、みずほ銀行チーフエ
コノミストの唐鎌大輔氏は、次のようにコメントしています。現
在の日本には、巨大な借金よりも改善すべきことがあるのです。
─────────────────────────────
 対外純資産が増えること、つまり国内から国外への証券投資や
直接投資(端的にいえば外国企業の買収・合併)が旺盛だという
ことは、裏を返せば、国内への投資機会が乏しいということにも
なる。日本経済の1990〜2010年は「失われた20年」と
呼ばれるが、その間一度も転落することなく「世界最大の対外純
資産国」であり続けてきたということは、それは「失われた20
年」の産物だったともいえるのではないか。
 ちなみに、直接投資の急増は、この10年弱で進んでいるトレ
ンドだ。「失われた20年」を経て、多くの日本企業が「国内市
場には期待収益の高い投資機会はない」と判断した結果なのだろ
う。より厳しい言い方をすれば、縮小し続ける国内市場に投資す
るより、海外企業への買収や出資を通じて時間や市場を買うほう
が中長期的な成長につながると判断した結果だったともいえる。
 2010〜2020年の10年間は「日本の企業部門が日本と
いう国を見限り始めた期間」という解釈は、対外純資産の内訳を
見る限り、もはや的外れとは言えない現状がある。今後、198
080〜2020年が「失われた30年」と呼ばれる日もやって
くるのかもしれない。       https://bit.ly/3MLuOQq
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/106]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が一番の対外純資産保有国…世界全体で対外純資産額の
  実情(2022年時点最新版)
  ───────────────────────────
   国単位での資産額は債務と債権を相殺した、特定の国から
  他の国々に対する「対外純資産額」で示される。その額につ
  いてIMFの公開値を基に、世界全体での実情を確認する。
  対外純資産とは、対外資産と対外負債を合算したもので「対
  外」とは該当国が他国に保有している資産や負債のこと。大
  まかな説明としては「資産…海外に対して色々な形で貸し付
  けているもの」「負債・・・海外から色々な形で借り受けて
  いるもの」となる。
   次に示すのはIMFのデータベースで対外純資産額を確認
  できる国のうち、年ベースで取得可能な最新値となる、20
  20年分がある国はその値、またない国は得可能な2005
  年以降の値で最新のものを適用した計174か国について、
  上位国と下位国を抽出したもの。基データにある通り米ドル
  換算された値を用いている。
   全世界を対象としても、最大の対外純負債を持つのはアメ
  リカ合衆国。次いでスペインだが、アメリカ合衆国の額が大
  きすぎてグラフがアンバランスとなっている。アメリカ合衆
  国とスペインとの差は10倍以上。スペインの次はイギリス
  フランス、アイルランド、オーストラリア、メキシコ、ブラ
  ジル、トルコ。経済的に難儀していることもあり、やはりそ
  うなのかという感想を抱く国もあれば、意外なところで顔を
  見せていると思わせる国もある。 https://bit.ly/3xE1jM2
  ───────────────────────────
対外純資産/2020年.jpg
対外純資産/2020年
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2022年06月15日

●「実体経済をいかに活性化させるか」(第5751号)

 このところ、よく産経新聞特別記者、田村秀男氏の所説を取り
上げています。産経新聞は保守系の新聞で、田村秀男氏は、その
新聞の特別記者にして、編集委員兼論説委員を務める大物記者で
す。田村氏が書く実名記事は、注目されていて、とくに大物政治
家に大きな影響を与えるとされています。その田村氏は、現在の
日本経済について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 現代の経済というものを考える際に前提にしなければならない
のは、実体経済と金融経済(または資産経済)があるということ
です。まずは、実体経済なのですが、これはGDP──国内総生
産。一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付
加価値の合計額のこと──に直結していて、モノとサービス、そ
して人が動く世界です。
 もうひとつの金融経済、こちらのほうはまだ経済学が全容を解
明していない部分で、資産市場において動きます。例えば株式が
該当します。株式は、いわば企業にとってみれば借金です。元本
(株価)は、払う必要はないけれど、配当はしなければなりませ
ん。株式市場では元本が変動して、どんどん上下して、それが投
資家同士で売った、買った、得した、儲けた、損したという話に
なるわけです。               ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
 実体経済というのは、いわば人々の暮らしの経済です。そこで
は、モノやサービスが動きます。企業は、設備投資をしたりして
新しいビジネスに備えようとし、一般家庭では、子供の教育を充
実させようと子供を塾に通わせたり、若者は、将来の見通しを立
てたうえで、結婚したり、子供を作ったり、住宅を建てたりしま
す。こういうことは、すべて「実体経済」のなかで行われます。
ごく普通の人にとって、経済といえば実体経済のことなのです。
 しかし、現在の日本では、実体経済にお金が回らずに、金融経
済にばかり、お金が動いています。金融経済の中心であるはずの
銀行は、本来であれば、企業にお金を貸して、設備投資や雇用増
加を促すなどして、実体経済にお金を回す努力をすべきです。家
計であれば、住宅ローンを貸し付けて住宅建築を勧めたり、家の
リフォームのための資金を貸し付けたりします。そうすれば、住
宅産業や電機メーカーなどにもお金が回り、実体経済がうるおう
はずだからです。
 ただ、銀行は、いずれにしても、きちんと返済のできる企業や
人を探し、融資を積極的に促進すべきなのですが、そういう営業
努力を怠っていると思います。経済がデフレ化しているので、仕
方がない面もありますが、銀行は、営業を強化して、融資先を開
拓する努力を怠っているように感じます。ここに日本のGDPが
成長しない重要な原因があります。
 銀行は、それよりむしろ、資金を資産運用に回した方が儲かる
として、証券部門まで作って、資金をそちらで運用したり、国内
に投資すべきところがない場合は、国外に投資する先を探し、海
外投資を増やしています。昨日のEJで、「対外純資産」が日本
が31年連続でトップである話をしましたが、銀行などの金融機
関が海外投資を増やしている結果として、対外純資産が膨らんで
いるということも考えられます。
 このような現象が生じたうえで、何が起きるかについて、田村
秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 実体経済が委縮していくと、企業は企業で、国内で商売しても
設備投資しても、人を雇っても全然ダメだという判断をします。
見通しがありませんから。ということで企業もますます国外に出
て行くことになります。要するに、日本経済は自滅している。残
念ながら、いまはそういう過程をたどっているのだと思います。
         ──田村秀男著/ワニブックスの前掲書より
─────────────────────────────
 長年続く異次元の金融緩和によって、お金は、ジャブジャブに
余っています。家計の金融資産だけで2000兆円!──このお
金を実体経済に取り入れる必要がありますが、どうすればいいの
でしょうか。
 一方で、お金を借りたいと思っている人がいます。お金という
ものはどこかで余っていて、貸し手はたくさんいるものです。な
ぜなら、お金は持っているだけでは増えないので、どこかに貸し
て、利益を還元したい──そう思っている人はたくさんいるから
です。このお金の借り手と貸し手の利害が一致するから、資本主
義ではお金が動いて、パイが大きくなるのです。これが経済の成
長であり、資本主義は借金で回るといえます。
 さて、実体経済にお金を回すにはどうすればよいでしょうか。
答えはあります。誰かが借りて実体経済に回せばよいのです。そ
の「誰か」とは誰か。実体経済の主体は次の3つです。
─────────────────────────────
             @企業
             A家計
             B政府
─────────────────────────────
 第1に企業ですが、利益の出ている企業ではお金が余っていて
お金を金融市場で運用しており、借金する必要はありません。つ
まり、資金需要がないのです。一方、赤字の企業には、資金需要
はありますが、銀行がなかなか貸してくれません。
 第2に家計ですが、貸せるほどお金を持っている人は、リスク
を恐れてゼロ金利でも銀行に預けて、現預金で持っています。し
かし、銀行は、貸したい企業や人は借りてくれないし、借りたい
企業や人には、焦げつきを恐れて貸そうとしません。
 結局、Bの政府しかないということになります。ここは政府の
出番なのです。       ──[新しい資本主義/107]

≪画像および関連情報≫
 ●激震コロナショック〜経済危機は回避できるか〜
  ───────────────────────────
   この記事は、2020年3月28日に放送した「NHKス
  ペシャル/激震コロナショック経済危機は回避できるか〜」
  をもとに制作し、2020年4月3日に公開したものを再公
  開しました。
   日本は今、新型コロナウイルスの感染爆発を防げるかどう
  かの瀬戸際にある。感染拡大は私たちの仕事や暮らしに大き
  な影を落とし、ロックダウンと呼ばれる、いわゆる“都市封
  鎖”も対岸の火事ではない。世界経済は大きく揺さぶられ、
  日経平均株価はわずか1か月で30%以上も下落した。コロ
  ナショックによる世界的経済危機をどうしたら回避すること
  ができるのか。3人の専門家を交えて、徹底検証する。
   世界の180を超える国と地域で猛威を振るう新型コロナ
  ウイルス。未知のウイルスは、世界経済を直撃し、いわゆる
  「コロナショック」を引き起こしている。世界の金融市場に
  は動揺が走り、ニューヨーク株式市場では歴史的な下げ幅を
  記録。アメリカの4月から6月までの国内総生産(GDP)
  は前期比でマイナス24%という衝撃的な予測も出ている。
   世界はリーマンショックを超える危機的な状態に陥るので
  はないかという不安が連鎖している。未曾有の危機に直面し
  ている当事者たちは、今回のコロナショックをどのように受
  け止めているのか。グループの傘下にアメリカのウイスキー
  メーカーなどを持つグローバル企業の経営者、新浪剛史さん
  は事態を深刻に受け止めている。 https://bit.ly/3aK7i94
  ───────────────────────────
田村秀男氏/産経新聞特別記者.jpg
田村秀男氏/産経新聞特別記者
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2022年06月16日

●「資本主義は借金をすることで回る」(第5752号)

 なかなか受け入れられない考え方かもしれませんが、「資本主
義は借金をすることで回る」のです。なぜなら、誰かの借金は、
誰かの資産になるからです。日銀が金融緩和を続けていますから
資金は潤沢にあるのです。しかし、そのお金が市中に流れず、滞
留してしまっています。それがデフレの原因です。
 借金とは正反対ですが、無駄遣いをせず、せっせと貯蓄に励む
──これは一人ひとりにとっては正しいことですが、国民の多く
がこれをやると、経済は停滞してしまいます。企業も同様です。
銀行から借金をして積極的に事業を拡大せず、過去の負債をひた
すら返済する──バランスシートを修復すると、確実に経済の成
長は止まってしまうのです。
 これを「合成の誤謬」といいます。個々のレベルでは正しい対
応をしても、経済全体で見ると、悪い結果をもたらしてしまうこ
とをいいます。かつて野村総合研究所創発センター主席研究員の
リチャード・クー氏が、日本のデフレを「バランスシート不況」
と名付けて次のように解説しています。
─────────────────────────────
 一国の経済というのは家計部門が貯蓄した資金を企業部門が借
りて使うことで回っている。ところが、企業部門がバランスシー
トの修復のため借り入れをやめ、借金返済に回ると、家計部門が
貯蓄した資金は借りて使う人がいなくなり、そのまま銀行に滞留
してしまう。しかも企業部門も全体で見て借金返済の方が借り入
れより大きいとなると、この純借金返済額も誰も借りる人がいな
いことになり、銀行に滞留してしまう。ということは、現状では
家計の貯蓄総額と企業の借金返済の合計が「使われぬカネ」とな
り、経済全体のデフレギャップとなってしまうのである。この状
況を放置しておくと、毎年毎年、家計の貯蓄と企業の借金返済分
だけ総需要が失われ、経済は縮んでいくことになる。
            ──リチャード・クー著/楡井浩一訳
     『デフレとバランスシート不況の経済学』/徳間書店
─────────────────────────────
 添付ファイルを見てください。これは1980年から2017
年までの38年間のM2、GDP、国内銀行貸出残高、国債残高
を示しています。
 「M2」とは何でしょうか。正確には「マネーストックM2」
──これは、日本中の現金・預貯金のうち、ゆうちょ銀行や農協
に預けたお金を除いた金額のことです。全てを含めたものを「マ
ネーストックM3」というのですが、M2が日銀のデータで一番
継続性があるので、よくM2が使われます。
 これを見ると、@のマネーストックM2は、一貫して右肩上が
りで増え続けています。しかし、バブル崩壊後の1991年から
1992年にかけて一瞬停滞しているのがわかります。信用収縮
が起きたからです。
 信用収縮とは、信用が破綻して借金が減り、同時にお金が減る
ことを意味しています。バブルが崩壊し、経済成長がストップし
た状態です。信用収縮は信用創造の逆です。
 信用収縮の前と後が対照的なのはBの民間銀行の貸出です。信
用収縮の前は、1980年から右肩上がりで上がっていて、一時
は500兆円でピークをつけています。しかし、信用収縮後は急
激に減り、100兆円減って400兆円まで下っています。しか
し、アベノミクスが始まる2013年頃からは、グラフは、少し
上向きになっています。しかし、日本の銀行は、1993年以降
はお金を貸さなくなっています。
 その原因を作っているのは、CのGDPがまったく横ばいであ
ることです。つまり、経済が成長しなくなったからです。経済が
成長しなくなると、銀行は貸し出しを増やせないのです。
 しかし、@のマネーストックM2は、右肩上がりで増えていま
す。これを支えているのは、Aの国債残高です。バブル崩壊後は
国債残高は急激に増加し、@に迫る勢いです。これは、銀行が民
間貸出を増やさなくなったので、政府が代わりに借金を増やして
M2を支えているのです。そのおかげてマネーストックM2は一
応右肩上がりで増えているのです。
 私は、安倍政権は、森友問題、桜を見る会など、いろいろ不祥
事がありましたが、それまでの政権に比べると、経済運営はよく
やった方だと思います。アベノミクスもその考え方は間違ってい
なかったし、最初の1年はそれまでの民主党政権のときとは見違
えるほど、経済に勢いが出てきたのです。それは、異次元の金融
緩和と機動的財政出動が効いたといえます。
 問題は、既に法律化されている8%への消費増税です。しかし
安倍首相は異例の2度目の首相登板であり、その経験から財務省
の役人のいうことをそのまま受け入れず、多くの識者から意見を
聞いても引き上げに慎重だったのです。しかし、信頼する黒田総
裁からも要請があったので、最終的に増税を決断します。これに
ついて、田村秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 奇妙なことに、日銀の黒田東彦総裁は、2013年に「消費税
を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテールリスク
がある」と増税に慎重な安倍晋三総理(当時)を脅して、増税に
踏み切らせました。テールリスクとは巨大隕石の衝突のような天
文学的確率のリスクのことですが、それを強調するようでは中央
銀行総裁の資格はありませんね。そんな詭弁を弄してまで、出身
母体である財務省の増税画策に与したのです。増税の結果、デフ
レ不況が長引き、日銀自身が政府との共同声明で公約している物
価安定目標のインフレ率2%を達成できなくなっています。そう
いう意味でも黒田さんの罪は重いと私はいまでも憤っています。
                      ──田村秀男著
                 『「経済成長」とは何か/
    日本人の給料が25年上がらない理由』/ワニブックス
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/108]

≪画像および関連情報≫
 ●検証アベノミクス:2度の消費増税で財政政策が機能せず
  =藤井・元内閣参与
  ───────────────────────────
  [東京26日/ロイター]第2次安倍内閣で内閣官房参与を
  務めた藤井聡氏(京都大学大学院教授)は、歴代最長政権と
  なった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、
  消費増税によって第2の矢である財政政策が十分に機能しな
  かったとの見方を示した。
   その上で足元のコロナ禍で内需が低迷する状況に対応する
  ため、さらなる財政出動と消費税減税が必要と語った。24
  日に書面で回答した。
  <財政政策がマイナスに>
   藤井氏はアベノミクスの成果について、「2014年3月
  までの期間、消費税5%の状況下で10兆円の補正予算を組
  んだこと。この時、非常に大きな効果があったことは間違い
  ない」と指摘。3本の矢のうち、2本目に当たる「機動的な
  財政出動」の初期の対応を評価した。一方で藤井氏は「14
  年の消費増税で、この成功は消し飛んでしまった。そもそも
  第2の矢は『財政支出額マイナス増税額』で測るべきもので
  増税前まではプラスだったものが14年4月の増税以降、そ
  れがマイナスになった」と説明。「アベノミクスをやろうと
  してやれなかったことを意味する」との見方を示した。「第
  1の矢(大胆な金融政策)や第3の矢(民間需要を喚起する
  成長戦略)をいくらやっても、第2の矢を打たなければ資金
  は市場には回らないし、デフレも終わらない」と述べた。
                 https://bit.ly/3tsWAdG
  ───────────────────────────
マネーストックとGDP/借金の推移.jpg
マネーストックとGDP/借金の推移
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2022年06月17日

●「黒田日銀総裁発言をめぐる珍対応」(第5753号)

 黒田日銀総裁がつるし上げを食っています。なぜ、つるし上げ
られているのでしょうか。6月6日に行われた講演で、次のよう
にいったことが原因です。
─────────────────────────────
    日本の家計の値上げ許容度も高まってきている
                 ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 黒田総裁は「表現が適切でなかった」と謝罪しましたが、これ
は、マクロ経済のなかの話であって、別に失言ではないと考えま
す。黒田総裁は、添付ファイルのグラフを示して、次のように話
しています。
 なじみの店で、いつも買うなじみの商品が10%値上がりした
とします。その場合、そのままその商品を購入するか、他店に移
るかを調べると、日本では、2021年8月と2022年4月で
は次のように異なるのです。
─────────────────────────────
         2021年8月   2022年4月
  そのまま購入する   43%       56%
  他店に移る      57%       44%
─────────────────────────────
 これによると、2021年8月の時点では、値上げがわかると
安い価格で売る他店に移った人が多かったものの、2022年4
月の時点になると、そのままその店で買う人が多くなっているこ
とを示しています。これを黒田総裁は「家計の値上げの許容度が
高まった」と表現したのです。
 これについて、慶応義塾大学経済学部准教授・小幡績氏は、次
のように黒田総裁を擁護しています。
─────────────────────────────
 今回の発言は配慮に欠けていたと思いますが、もともと日銀に
は“家計の値上げ許容度”という統計の指標があって、いわば学
術用語みたいなものなんです。 だから、黒田さんも、悪気なく
使ってしまったのではないかと・・・。
           ──小幡績慶応義塾大学経済学部准教授
─────────────────────────────
 この件に関して、経済学者の高橋洋一氏も、「黒田総裁の発言
は別に失言ではない」として、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との発言はイ
ンフレ期待の底上げが実現しつつあるという趣旨を含んでいたと
思われるが、「値上げを受け入れている」とのヘッドラインに変
換されたことも相まって世論の大きな反発を招き、新聞・テレビ
・雑誌を筆頭に多くのメディアがこの発言を批判的に報じた。
 正直、言葉尻を捉えるという類いの報道であるとも感じるが、
この騒動は「いかに日本という国において物価上昇が受け入れら
れないか」を示したものともいえる。     ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/3zCqXCf
─────────────────────────────
 そもそもメディアは、黒田発言を取り上げるのであれば、添付
ファイルのグラフも示すべきであるのに、そうしていません。日
銀総裁の講演は、すべて日銀のウェブサイトに公開されており、
発言はグラフに関係するので、グラフも一緒に示すべきです。た
だ、一部の言葉だけを切り取って、報道するのでは、黒田総裁の
真意を伝えることに不十分です。
 これは、高橋洋一氏が指摘していることですが、黒田日銀総裁
に対して国会で質問した国会議員の経済──とくにマクロ経済に
関する知識のあまりにもなさです。まず、立憲民主党・白真勲参
院議員の次の質問と黒田総裁の答弁です。
─────────────────────────────
白 :日本銀行は通貨および金融の調節を行うに当たっては、物
 価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するこ
 とをもってその理念とすると日本銀行法の第2条にありますが
 最近食料品を買った際、以前と比べて価格が上がったと感じる
 ものがあったのかどうか、ご自身がショッピングしたときの感
 覚、実感をお聞かせください。
黒田:私自身、スーパーに行ってですね、物を買ったこともあり
 ますけれども、基本的には家内がやっておりますので、包括的
 にですね、物価の動向を直接買うことによって、感じていると
 いうほどではありません
─────────────────────────────
 「物価」といっても、白議員のいう物価と、黒田総裁のいう物
価の概念は異なるのです。黒田総裁のいう物価は、消費者物価指
数のことをいっているのです。これについては、来週のEJで取
り上げる予定です。
 続いて、立憲民主党代表、泉健太氏の黒田日銀総裁への質問で
す。ちなみに、泉健太代表も黒田発言について、党会合において
「全く生活実感のない、生活実態を見ていない、無神経な発言を
している」と酷評していたのです。
─────────────────────────────
 物価高を止めるという意味では金利を少し引き上げることも
 選択肢に入れるべきではないか。     ──泉健太代表
─────────────────────────────
 民主党政権時代は、円高ドル安であり、政府として介入して円
高を是正したことが記憶にあるのだろうと思われます。しかし、
円安の場合は、円高のときに同じことはできないのです。高橋洋
一氏の話によると、枝野幸男前代表も「金利を上げた方が経済成
長する」といっていたといいますが、あまりにも経済に疎いので
はないかと思われます。もし、いま利上げを行うと、設備投資需
要がさらに落ち込み、GDPギャップは拡大し、日本経済は、デ
フレの底に落ち込んでしまうことになります。
              ──[新しい資本主義/109]

≪画像および関連情報≫
 ●三浦瑠麗氏/立憲議員の国会質問にあきれ「日本全体の議論
  の質を落としている」
  ───────────────────────────
   国際政治学者の三浦瑠麗氏(41)が、6月7日放送のフ
  ジテレビ情報番組「めざまし8(エイト)」(月〜金曜前8
  ・00)に生出演。日銀の黒田東彦総裁をめぐる参院予算委
  員会の答弁について「議論の質を落としている」と語った。
   黒田総裁は3日に行われた参院予算委員会に出席し、物価
  高をめぐる政府の対応について立憲民主党・白真勲参院議員
  から「食料品を購入する際、以前と比べ価格が上がったと感
  じるものがあるか」などと質問を受けた。
   この質疑に対し三浦氏は「こういう取り上げ方は一番やっ
  てはいけないと思う」と発言。「みなさんの一人ひとりのこ
  とではないんですよ、家計というのは。日本全体の家計とい
  うこと。事実しか語っていない」といい「黒田総裁は専門家
  なわけです。専門家がマクロの全体の話を見て言っているの
  に“私が行った今日のスーパーでは、白菜はこのくらいの値
  段でしたけど”っていうね、エピソードベースで反論しよう
  というのは一番やってはいけない。これが日本全体の政治や
  経済に関する議論の質を落としている。感情論で専門家の意
  見に反対するのはやめた方がいい」と持論を展開した。黒田
  総裁の発言については、「給料を上げるまでの時間稼ぎがで
  きるだけ、全体としてみれば家計に貯蓄があるということ。
  低所得者に保障とか保険をすべきでない、と話しているわけ
  ではない。給料を上げるのに相当の期間がいる中、ベアが決
  まるまでの時間稼ぎができると言っているわけです」と分析
  した。            https://bit.ly/3tyYnOv
  ───────────────────────────
値上げに対するアンケート調査.jpg
値上げに対するアンケート調査
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2022年06月20日

●「黒田日銀総裁異次元金融緩和継続」(第5754号)

 黒田総裁の率いる日銀の物価目標は「2%」です。なぜ、2%
なのでしょうか。黒田総裁は、2014年3月の日本商工会議所
での講演で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本銀行としては、「物価の安定」を消費者物価指数の前年比
で数値的に定義すると「2%」であると考えています。その理由
をあらかじめ申し上げると、次の3つです。
 第1の理由は、消費者物価指数の特性、すなわち、消費者物価
指数には、上方バイアス、つまり、指数の上昇率が高めになる傾
向があるということです。
 第2に、景気が大きく悪化した場合にも金融政策の対応力を維
持するために、ある程度の物価上昇率を確保しておく方が良いと
いう、「のりしろ」と呼ばれる考え方です。
 第3に、こうした考え方は、主要国の中央銀行の間では広く共
有されており、多くの中央銀行が「2%」の物価上昇率を目標と
する政策運営を行っていることです。つまり、「2%」は、「グ
ローバル・スタンダード」になっているということです。
    ──黒田日銀総裁の講演より/https://bit.ly/3y1osZe
─────────────────────────────
 消費者物価指数というのは、消費者が購入するモノやサービス
などの物価の動きを把握するための統計指標であり、総務省から
毎月発表されています。
 消費者物価指数は、全国と東京都区部の2種類あり、東京都区
部は速報で集計され、当月分が発表されます。全ての商品を総合
した「総合指数」の他、価格変動の大きい生鮮食品を除き500
品目以上の値段を集計して算出されている「生鮮食品を除く総合
指数」も発表されます。この数値が2%台を持続的に維持するよ
うにしようというわけです。
 物価論をはじめると長くなるので、これ以上踏み込みませんが
黒田総裁は豊富な資料に基づいて、緻密な話をされる人です。こ
の人にとって失言はあり得ないと思います。まして講演で話をさ
れるときは、多くの資料分析に基づいて話をされています。「家
計が値上げを受け入れている」という発言は、講演で黒田総裁が
提示したグラフをメディアが掲載しなかったことに原因があると
思います。「表現が不適切だった」と陳謝したのは、黒田総裁は
この件で騒ぎを大きくしたくなかったのだと思います。
 4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年比で「2・
1%」に達しています。といってもこれは、物価上昇率の上振れ
であり、一時的なものとされています。2%が安定的に持続され
ることが大切なのです。実際に、食料、エネルギー、情報通信費
を除く消費者物価は「プラス0・5%程度」とされています。
 現在米国では、中央銀行に当たるFRBが、金融政策として、
利上げを繰り返していますが、これは急速なインフレを抑えよう
として必死になっているからです。その物価上昇率は8%を超え
ており、深刻です。これに対して日銀は一貫して異次元の金融緩
和政策を続けており、これが異常な円安の原因になっているので
す。西側諸国の物価上昇率と今年の経済成長の見通しは次のよう
になっています。
─────────────────────────────
           物価上昇率 今年の経済成長見通し
      米国 ・・ 8・6%       3・7%
    ユーロ圏 ・・ 8・1%       2・8%
      日本 ・・ 2・1%       2・4%
           ──2022年6月18日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 日銀は、6月16日〜17日に開催した金融政策決定会合にお
いて、黒田総裁は利上げに動くという観測もありましたが、大規
模金融緩和を継続する方針を決めています。これは、当然のこと
であるといえます。なぜなら、日本のGDPが新型コロナウイル
スの流行前の水準にまだ戻っていないからであり、景気回復の勢
いが依然として弱いからです。
 しかし、これによって、さらに円安が進み、「1ドル=140
円」もあり得る状況になっています。これがさらなる物価上昇を
招き、賃金も上がらず、年金も減額されているなかで、国民の生
活が一段と苦しくなることは確かです。
 円安によるインフレ──これを「岸田インフレ」と野党は呼び
日銀に対しても利上げを迫っていますが、もし、利上げをした場
合、ただでさえ勢いのない日本の景気をどん底に落としかねない
のです。利上げは緊縮政策であり、デフレ基調の日本でこれをや
るとデフレが一層深化してしまうからです。
 ガソリン代も「1リットル=170円」を超えようとしていま
すが、政府はガソリンの元売り会社に補助金を支払い、対応して
いるだけです。これはきわめて姑息なやり方です。補助金でお茶
を濁しているからです。
 こんなときこそ「減税」──それも野党各党の掲げる消費税の
時限的引き下げです。財務省は、時間がかかることや、戻すとき
大変であることなど、できない理由を並べてやろうとしませんが
減税も立派な経済政策であり、今こそやるべきです。
 岸田首相は、「消費税は社会保障の安定的財源であり、時限的
にせよ、引き下げは考えていない」と述べていますが、消費税の
増税分はほとんど社会保障に回っていません。消費税は、社会保
障の目的税ではないからです。
 コロナ禍での経済疲弊、諸物価高騰、上昇しない賃金など、こ
れだけ揃っても、政府が何もしないとすればそれは無能です。コ
ロナ禍では西側のほとんどの国が減税をやっています。やらない
のは日本だけです。トリガー条項を解かないのも、消費税の減税
がからんでいるからです。とにかくこの内閣は、減税に関わるこ
とは絶対にやらない方針です。それどころか、参院選が終わった
ら、防衛費増強のために増税をしかねない内閣です。
              ──[新しい資本主義/110]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀黒田総裁の常識は「世界の非常識」 緩和継続・円安
  放置で海外投資家の笑いモノに
  ───────────────────────────
   もはやテコでも動かず、円安を放置だ。日銀は17日まで
  開いた金融政策決定会合で、異次元緩和の継続を決定した。
  会合後の会見で、黒田東彦総裁は「最近の急激な円安は経済
  にとってマイナス」との認識を示したが、「為替をターゲッ
  トに政策を運営することはない」とも語り、庶民を苦しめる
  物価高騰の元凶である円安進行にはノータッチ。会見終了後
  は、ジワジワと円安が進み、再び1ドル=135円台に近づ
  いている。
   「会合前の市場は、外国人投資家が日銀の緩和策も限界と
  とらえ、政策修正に動くとの観測から円を買い戻す動きが活
  発化。16日には一時132円台まで上昇していたのです。
  なぜなら、世界規模の物価上昇を受け、『緩和どころじゃな
  い』が海外の常識。各国とも積極的な利上げで通貨価値を下
  支えし、輸入インフレ防止に必死です。かたくなに緩和を維
  持する黒田総裁の常識は世界の常識と乖離しています」(経
  済評論家・斎藤満氏)
   15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締
  めの方針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は
  通常の3倍にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英
  ・イングランド銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの
  中央銀行は市場の予想に反して、「まさか」の利上げに踏み
  切った。           https://bit.ly/3OsWsDf
  ───────────────────────────
会見する黒田日銀総裁.jpg
会見する黒田日銀総裁
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2022年06月21日

●「日本が選ぶのは地獄@か地獄Aか」(第5755号)

 「日本橋のプーチン」──最近投資家の間で流行りつつある言
葉です。誰のことかというと、日銀の黒田東彦総裁のことです。
投資家たちの多くは、「黒田は円安を放置し、円売りを招いてお
り、世界の非常識といわれている」と考えているので、この名前
が付けられたそうです。これに関して、6月18日発売の「日刊
ゲンダイ」は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 15〜16日には先進国の中央銀行が相次いで金融引き締め方
針を打ち出した。米連邦準備制度理事会(FRB)は通常の3倍
にあたる「0・75%」の大幅利上げを決定。英・イングランド
銀行も5会合連続の利上げを決め、スイスの中央銀行は市場の予
想に反して「きさか」の利上げに踏み切った。
 主要中銀以外でも5月以降は、豪州、インド、ブラジル、サウ
ジアラビア、チェコ、ポーランド、アルゼンチン、メキシコ、南
アフリカ、韓国、ハンガリーなどの中銀が利上げを決定した。欧
州中央銀も7月1日に量的緩和を終了し、21日の次回会合で、
0・25%の利上げに踏み切る方針を表明済み。気がつけば日銀
だけが国際レベルの利上げの潮流から完全に取り残されている。
         ──6月18日発売の「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 実は、6月15日のことですが、円を買い戻す動きが起きてお
り、16日には一時「1ドル=132円台」まで、円は上昇して
いたのです。これを「有事の円買いの復活」と報道したメディア
もあったのです。世界中の中央銀行が利上げをしているので、さ
すがの黒田総裁も利上げに動くのではないかと投資家は考えたか
らだと思います。
 しかし、日銀はピクリとも動かなかったのです。これで少なく
とも黒田総裁の任期(2023年3月)までは、金融緩和策は続
くものと考えられます。
 19日の日本経済新聞の社説では、日銀の金融政策が変更され
ないことを前提にして、次のように社説を書いています。
─────────────────────────────
 これ(円安)にどう対応すべきか。円安による輸入物価の高騰
で幅広い品目が値上がりし、購買力が毀損する痛手は大きいが、
円安には円安の利点もある。円安の風をうまく生かす政策や経営
が重要になる。
 即効性がありそうなのは、海外からの観光客や投資の誘致だ。
政府はインバウンドについて外国人観光客は団体旅行しか認めな
いなどの制約を課しているが、こんな不自然な縛りのある国はほ
ぼない。政府は一日も早く外国人の受け入れを本格化すべきだ。
 外からの直接投資が増える効果にも期待したい。台湾の半導体
大手、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で新工場建設を決
めたのに続き、米マイクロン・テクノロジーも広島工場で最先端
メモリーの量産を近く始める。日本政府の補助金が両社の投資の
呼び水になったが、日本事業が軌道に乗れば、追加投資につなが
る循環が期待できる。      ──2022年6月19日付
  日本経済新聞「社説」より https://s.nikkei.com/3OlLTlh
─────────────────────────────
 しかし、こうした日銀の政策と岸田政権の経済政策は、必ずし
も息が合っているとはいえないのです。日経の社説が指摘してい
るように、円安の日本にとって、インバウンドは絶好のチャンス
です。しかも、日本は、コロナ禍後において、世界中の人が行き
たい国のトップを占めているからです。
 日本政策投資銀行と日本交通公社が共同で行った特別調査によ
ると、アジア居住者では旅行先として、日本は67%で圧倒的に
トップであり、欧米豪居住者でも日本が36%とトップを占めて
いるからです。
 それなのに、岸田政権は、海外旅行者をツアーガイド付き団体
旅行に限定し、しかも、マスク着用の条件を付けて制限している
のです。フランス人などは、早々にマスク着用なら、日本ではな
く、別のところに行くといっています。これは、海外旅行者を大
幅に受け入れて、感染者が増大し、直後の参院選に影響を与える
ことを恐れた判断であると思います。
 なぜ、黒田総裁は金融緩和政策を続けているのでしょうか。
 これについて、経済学者で、イエール大学アシスタント・プロ
フェッサーの成田悠輔氏は、19日のテレビで面白いことをいっ
ていました。日本の場合、政策的に無策ではなく、どっちに転ん
でもいいことはあまりなく、「地獄@」と「地獄A」しかないと
いうのです。
 「地獄@」は、このまま金融緩和政策を続けると、円安はさら
に加速し、物価は高騰し、生活が苦しくなる地獄です。
 「地獄A」は、日銀が利上げに踏み切ると、企業に資金がさら
に回らなくなり、景気が深刻化します。まして日本は、デフレ下
にあるので、利上げのような緊縮政策をとると、さらに景気は悪
化し、デフレがさらに深化する恐れがあります。そうであるなら
は、他国に比べれば日本の物価はまだ安いので、「地獄@」を選
択したと思われるというのです。
 「地獄@」をとった以上、政府はそれに対応する経済政策を実
施する必要があります。すなわち、円安による物価上昇に対する
対策です。岸田内閣は、これに対する対策をまだ実施していない
からです。
 最も政府として行うべきは、全野党が求めている消費税の減税
です。政府は無視していますが、無策では済まないと思います。
フランスでは、マクロン大統領は楽勝と思われていた大統領選で
極右国民連合のルペン氏に大苦戦しています。その背景にあった
のはインフレです。物価上昇率は、1月2・9%、2月3・6%
3月4・5%、4月4・8%に上昇していたのです。これに対し
ルペン候補は、ガソリン税の大幅引き下げと、日本の消費税に当
たる付加価値税を生活必需品で0%にするなどを訴えて、マクロ
ン陣営を揺さぶったのです。 ──[新しい資本主義/111]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ円安?なぜ日銀は金融緩和を続ける?日本と世界の
  「経済力格差」の真相
  ───────────────────────────
   2021年10〜12月期のGDPギャップ(潜在的な需
  要と供給の差)はマイナス3・1%、金額にして年換算で、
  17兆円の需要が不足している。人々が欲しいと思うモノや
  サービスが見当たらず、新しい需要を生み出すための構造改
  革が足りないからだ。需要の旺盛さをはじめ「経済の実力の
  差」が、米国やユーロ圏とわが国の金融政策の方向性の違い
  に明確に表れている。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
   米国およびユーロ圏とわが国の金融政策の違いが鮮明であ
  る。4月中旬以降の米国では、「より大きな幅で追加利上げ
  が実施される」と予想する投資家が急増した。想定を上回る
  ペースで物価が上昇しているため、連邦準備制度理事会(F
  RB)が追加利上げやバランスシート縮小を急ぐとの警戒感
  は高まるだろう。
   ユーロ圏でも物価は高騰している。早ければ7月に欧州中
  央銀行(ECB)が利上げに踏み切る可能性がある。その一
  方で、わが国の需給ギャップはマイナスだ。日本銀行は、物
  価の上昇を定着させるべく、緩和的な金融政策を続けるだろ
  う。金融政策の方向性の違いは、実体経済と株価や為替レー
  トなどの金融市場に顕著な影響を与える。今後、米国の追加
  利上げなどによって、世界経済の減速は鮮明化する可能性が
  高い。             https://bit.ly/3tKt2IH
  ───────────────────────────
成田悠輔氏.jpg
成田悠輔氏
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2022年06月22日

●「7月に黒田支持派を切り崩す策略」(第5756号)

 今週のメディアは「黒田日銀総裁論」一色です。6月16日〜
17日開催の金融政策決定会合で、金融緩和継続を決めた黒田総
裁の判断を巡って賛否両論があります。これは、経済というもの
を知る良い機会でもあるので、黒田総裁の判断の是非について引
き続き考えたいと思います。
 そもそも黒田東彦日銀総裁とはどういう人物なのでしょうか。
 黒田氏は、東京教育大付属駒場中学・高校から、東大法学部を
経て、大蔵省(現財務省)に入省しています。いわゆる秀才コー
スですが、黒田氏は若くして度胸が据わっていて、エリート官僚
らしからぬ人物だったようです。
 1989年のことです。この年に消費税が創設されていますが
その年の参院選で自民党は大敗を喫し、過半数割れに追い込まれ
ています。この参院選で、土井たか子委員長が率いる社会党が躍
進し、マドンナ旋風といわれたのです。「山が動いた」のです。
 自民党敗北の原因は、消費税だけではなく、リクルート事件や
宇野宗佑首相の女性問題など、いろいろあって、自民党に逆風が
吹いたのです。
 このとき、大蔵省主税局の官僚たちは消費税が廃止されると右
往左往していましたが、当時大蔵大臣秘書官だった黒田氏は、そ
ういう官僚たちに対し、「動ずることはない。廃止されることは
ない」といっていたそうです。その頃から、黒田氏は将来の次官
候補の一人として、注目される存在になっていったのです。
 日本の金融機関破綻が相次いだ金融危機のさなかの1999年
に黒田氏は、大蔵省内ナンバー2といわれる財務官に就任し、通
貨政策を担うことになります。この頃の黒田氏は、あまり目立つ
存在ではなかったようです。前任者の「ミスター円」といわれる
榊原英資氏の存在が大きかったからです。
 なぜ、榊原氏が「ミスター円」といわれるようになったかです
が、1995年当時、「1ドル=79円」まで進んだ超円高を前
例のない巨額介入によって解決した手腕が買われたのです。黒田
氏は、この榊原流の大胆さから学んで、「異次元金融緩和」に踏
み切ったのではないかといわれています。その榊原英資氏も今回
の黒田氏の判断は正しいと支持しています。
 黒田氏は省内少数派の金融緩和論者であり、次期日銀総裁の候
補に名前が挙がっている伊藤隆敏・コロンビア大学教授と金融緩
和について共同論文を提出しています。さらに2002年、黒田
氏は、インフレ目標など非伝統的な金融政策採用を訴える論文を
元アジア開発銀行研究所長で東大名誉教授の河合正弘氏と共に発
表しています。
 それから、10年後のことですが、これらの論文がきっかけと
なって、当時野党だった自民党の安倍晋三総裁の目に止まり、首
相となった安倍氏が当時財務官僚の「天下り指定席」といわれる
国際機関「アジア開発銀行総裁」をしていた黒田氏を日銀総裁に
任命し、黒田理論を全面的に取り入れたアベノミクスがはじまっ
たのです。これについて財務省は「次官でない人物が日銀総裁に
なる人事は前例がない」という、どうでもいい理由で最後まで反
対の姿勢を貫いていたといわれます。
 岸田首相は、安倍/菅時代の経済路線を転換して、自前の経済
政策を進めたいと考えています。その肝心の自前の「新しい資本
主義」は何のことか、一向に見えてきていませんが、要するに、
財務省主導の路線に戻そうとしているのです。だから「財務省の
犬」といわれるゆえんです。
 岸田首相は、今回の黒田発言を「失言」とみなし、参院選の終
了後の7月20日を反転攻勢の日と定めているようです。これに
ついて、『週刊ポスト』7月1日号は次のように書いています。
─────────────────────────────
 天王山とみられているのは7月20日の金融政策決定会合だ。
 岸田内閣は国会同意人事で、7月に任期が切れる2人の日銀審
議委員の1人に財務省に近い金融緩和慎重派″のエコノミスト
を指名した。これによって日銀政策決定会合の勢力は、黒田路線
支持派(4人)と慎重派(5人)が逆転することになる。
     ──2022年6月20日発売/「週刊ポスト」より
─────────────────────────────
 しかし、黒田総裁の意見に反対する新任の日銀審議委員の就任
は、7月22日付であり、7月の金融政策決定会合が開かれるの
は、その2日前であるので、黒田支持派が優位の状態で会合が開
催されることになります。
 しかし、岸田首相は、黒田総裁の来年の退任後も残る日銀審議
委員に働きかけて、7月の会合において、黒田総裁に「NO」を
突き付けるよう説得しようとしているようです。官邸と財務省は
8月末が来年度予算の概算要求の締め切りであるので、何とか7
月の決定会合で金融政策を変更させたいと考えている──このよ
うに『週刊ポスト』は書いています。つまり、岸田政権は、黒田
総裁の首を取ろうとしているようです。
 どのように考えても、現在の日本の経済の状況では、ここは黒
田総裁のいうように、金融緩和を続けるしかないと思います。そ
してそれによる物価上昇に対しては、思い切った財政出動をし、
消費税の減税などを行うべきです。しかし、何が起ころうと、財
務省に支配されている岸田内閣は、減税、まして消費税の減税は
絶対にやらない方針です。
 ここで日銀が利上げに動くと、それは金融引き締めを意味する
ことになり、経済状況はさらに悪化し、デフレはさらに深化しま
す。しかし、それが財務省の思うツボなのです。財務省は経済と
いうものがわかっていない。デフレの最中に緊縮財政をする──
無茶苦茶です。もちろん、参院選が終わると、黒田総裁の首切り
だけではなく、高市早苗政調会長をはじめとするアベノミクス支
持派を人事で外し、「反アベノミクス政権」を築くつもりのよう
です。岸田首相は、周辺に次のように漏らしています。「参院選
に勝てば人事は好きなようにやらせてもらう」と。
              ──[新しい資本主義/112]

≪画像および関連情報≫
 ●黒田総裁発言の騒動が示した「リフレ派の終わり」
  ───────────────────────────
   黒田東彦・日本銀行総裁は6月6日、東京都内で講演し、
  商品やサービスの値上げが相次いでいることに言及したうえ
  で「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と述べ
  これを持続的な物価上昇を実現するための「重要な変化」と
  形容した。これがたいへんな批判を浴びて、8日に黒田総裁
  が撤回したことは大々的に報じられているとおりである。
   しかし、この発言は予定稿どおりの発言であり、黒田総裁
  による「失言」というのは正確ではなく、純粋に描写が政治
  的配慮を欠いた、ラフに言えば民意との齟齬があったという
  事案と言える。
   擁護するわけではないが、発言はこれまでの政策姿勢と何
  ら矛盾しない。2013年以降、アベノミクスの名の下でリ
  フレ政策が目指したのは拡張的な財政・金融政策により日本
  の民間部門(とりわけ家計部門)の粘着的なデフレマインド
  を払拭し、インフレ期待を底上げしようというものだった。
  それは物価上昇(ラフに言えば値上げ)が普通に行われる社
  会を目指すということでもあった。
   物価上昇を起点に賃金上昇も起こり、景気も回復する――
  物価上昇が「原因」で景気回復が「結果」というリフレ派と
  呼ばれる人たちの思想は、筆者などエコノミストの一部から
  は明らかに倒錯していると指摘されたが、その政策思想を民
  意を受けているはずの国会議員の多くが熱狂的に支持したの
  が9年前だ。そして、現在、世界的にインフレ懸念が高まろ
  うとも緩和路線を続けて、円安に躊躇することなく指値オペ
  で金利を抑え続けるという黒田体制の路線は、是非は別にし
  て、一貫性がある。       https://bit.ly/3tLXzFY
  ───────────────────────────
黒田東彦氏/榊原英資氏.jpg
黒田東彦氏/榊原英資氏
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2022年06月23日

●「物価高騰に対しどう対処すべきか」(第5757号)

 現在米国ではインフレが進行し、大変なことになっているよう
です。ニューヨークでは、家賃が今年1月までの1年間で33%
アップし、今年3月までの消費者物価は8・5%に上昇している
からです。何しろ醤油ラーメンが約20ドルといいますから、現
在のレートであれば、2500円を超えることになります。それ
にチップも支払う必要があります。しかし、平均時給は5・6%
上昇するなど、賃上げも行われているので、苦しいけれども米国
人は何とかやっていけるのです。ただ、ガソリン高などの影響で
バイデン大統領の支持率は低下しています。
 19日に投開票されたフランス国民議会(下院)の決選投票で
マクロン大統領率いる与党連合が議席を346から245に減ら
し、過半数ラインの289を大きく下回り、敗北しました。物価
高騰への有権者の不満が逆風になったのです。
 日本の場合、さまざまな要因で物価が高騰しているのに、賃上
げは行われておらず、年金が6月から減額されており、実質的な
収入減で生活が苦しくなっています。しかし、岸田内閣はそのた
めの対策としては何も行っておらず、参院選に突入しようとして
います。この内閣は、何かをやったわけでもないのに支持率は高
く、参院選は乗り切れると考えているのでしょう。
 しかし、物価に関わるときの選挙は厳しいのです。1998年
7月の参院選がそうです。当時の橋本龍太郎政権は、支持率は高
かったのですが、選挙中所得税の恒久減税をめぐる総理の発言が
二転三転したことによって、国民の「橋龍人気」は急落し、自民
党は予想を大きく下回る44議席で大敗し、橋本政権は退陣に追
い込まれています。
 気になるのは、立憲民主党です。立憲民主党の泉健太代表は、
5月20日の衆院予算委員会において、次のように政府に対して
質問しています。
─────────────────────────────
 物価高を止めるという意味では、金融政策において、金利を少
し引き上げることも選択肢に入れるべきではないか。
                   ──立憲民主党泉代表
─────────────────────────────
 また、民主党出身の元首相で、公約に反し、自民党と組んで、
社会保障と税の一体改革を成立させ、5%の消費税を10%にさ
せた野田佳彦氏は、6月20日に街頭演説で、次のように訴えて
います。
─────────────────────────────
 世界中どの国も物価を下げようと努力しているが、日本だけ金
融緩和を続けている。金融緩和ということは物価を上げようとい
うことだ。内外金利差が広がれば、金利が高いところにお金が流
れるのは当たり前だ。ドルがどんどん買われ、円安になる。こん
な国に誰がしたのか。            ──野田元首相
─────────────────────────────
 このように立憲民主党は、日銀の金融政策は間違っており、こ
のさい、他国のように、金利を引き上げて、物価上昇に歯止めを
かけるべきであると訴えていますが、これは間違っています。
 ジャーナリストの歳川隆雄氏は、6月20日発行「夕刊フジ」
の自身のコラム「歳川隆雄の永田町・霞が関インサイド」におい
て、次のように泉健太代表を批判しています。
─────────────────────────────
 (日米の金融政策の違いにおける)こうした円安に加えて、ロ
シアのウクライナ侵攻による原油高騰のダブルパンチを受けた日
本は、急速な物価高に直面している。
 では、金融緩和路線にこだわる黒田氏にその責を求めるべきな
のか。答えは「否」である。
 野党第一党の立憲民主党は、物価上昇を奇貨として、岸田文雄
政権批判を強め、日銀にインフレ対策(金融引き締め)を要求し
ている。他方、物価高対応という面では岸田政権の財政出動(財
政拡大)は不十分だとする。まさに「金融引き締め」と「財政拡
大」を同時に求めるという、相矛盾した支離滅裂な批判である。
        ──2022年6月20発行「夕刊フジ」より
─────────────────────────────
 ここまで述べてきているように、経済学はけっしてやさしくは
ありませんが、国の経済を動かす立場の国会議員としては、もっ
ときちんと勉強すべきです。
 現在、米FRBのとっている金利の性急な引き上げは、「ビハ
インド・ザ・カーブ」ではないかという声が出ています。ビハイ
ンド・ザ・カーブ(behind the curve)とは何でしょうか。
 ビハインド・ザ・カーブとは、一般的に「遅れる」とか「後手
に回る」という意味になります。投資に関しては金融政策におい
て、景気の過熱や物価の上昇に遅れるかたちで政策金利の引き上
げ(利上げ)を行うことを意味します。
 戦略的・意図的に利上げを遅らせる場合と、意図しないうちに
利上げが遅れてしまっている場合の両方に、ビハインド・ザ・カ
ーブという言葉を用いることができますが、今回の場合は、後者
ではないかといわれています。
 これについて、マネックス証券のチーフFXコンサルタントの
吉田恒氏は、FRBの金融政策の急速な見直しは、ビハインド・
ザ・カーブであるとして次のように述べています。
─────────────────────────────
 FOMC(米連邦公開市場委員会)の金融政策見通しの急変が
続いている。これほどの急変ぶりでは、「ビハインド・ザ・カー
ブ(後手に回る)」批判を受けるのも当然ではないか。そして、
「ビハインド・ザ・カーブ」を巻き返す急激な金融政策の変更は
金融市場の混乱をもたらす可能性があることを過去の歴史が示し
ているだけに、今後の影響は要注意だろう。
                  https://bit.ly/3QLceLE
─────────────────────────────
              ──[新しい資本主義/113]

≪画像および関連情報≫
 ●米FRBはまだわかっていない。インフレ率は2023年
  も高いままだ
  ───────────────────────────
   0・75%の大幅金利引き上げを実行しながらも、FRB
  (連邦準備制度)はいまだにインフレを理解していない。そ
  の結果、米国民は今後数年間、強いインフレを経験し、最終
  的にFRBは、現在予想されている以上に高い金利を推し進
  めることになるだろう。6月15日に発表された0・75%
  の金利引き上げは、それまでのより緩やかな政策からの好ま
  しい転換だった。FRBによるバランスシート縮小の決定は
  正しい方向への新たな一歩だ。そして政策決定委員会は「本
  委員会はインフレ目標を2%に戻すことを確約します」と正
  しい発言をした(金融政策は、FRBの理事7名と地域連邦
  準備銀行総裁12名中5名からなる連邦公開市場委員会によ
  って実施される)。しかし、そのインフレ予測と金融政策は
  FRBが理解していないことを示している。彼らはインフレ
  のダイナミクス、とりわけ金融政策がインフレに影響を与え
  るのに要する時間を誤解している。供給問題は不定期に去来
  することから、FRBは「コアPCEインフレ」を監視して
  いる。これは食料とエネルギーを除いた個人消費支出の価格
  指標の変化のことだ。この指標が過去12カ月間に5%上昇
  した。今回の決定に合わせて公表された見通しによると、委
  員会は2022年のインフレ率(12月における前年同月と
  の比較)を4・3%と予測している。
                  https://bit.ly/3ObvOir
  ───────────────────────────
立憲民主党泉健太代表の質問.jpg
立憲民主党泉健太代表の質問
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2022年06月24日

●「GDPギャップというものがある」(第5758号)

 高橋洋一氏の分析による米FRBの対応をさらに見ていくこと
にします。
─────────────────────────────
         A=全体の消費者物価指数対前年同月比
         B=Aからエネルギーと食品を除く指数
       1月    2月    3月    4月
  A  7・5%  7・9%  8・5%  8・3%
  B  6・0%  6・4%  6・5%  6・2%
─────────────────────────────
 FRBが政策金利を3月中旬になって「0・0〜0・25」か
ら「0・25〜0・5%」へ引き上げ、さらに5月上旬になって
「0・75〜1・0%」へと再引き上げ。したがって、ビハイン
ド・ザ・カーブ」、すなわち、後追いといわれるのです。
 ここで政策金利というのは、日銀など各国の中央銀行が金融政
策において使用する短期金利のことで、金融機関の預金金利や貸
出金利などに影響を及ぼします。
 米国のケースに比べると、日本の4月の消費者物価指数対前年
同月比(A)と、Aからエネルギーと食品を除く指数(B)は、
次の通りで、利上げをする状況ではないのです。
─────────────────────────────
                4月
           A  2・5%
           B  0・8%
─────────────────────────────
 つまり、米国は現在インフレですが、日本はインフレではない
のです。日本には巨額なGDPギャップがあり、インフレではな
いからです。GDPギャップというのは、経済の供給力と現実の
需要との間の乖離のことをいいます。
 それでは、日本のGDPギャップはどのくらいあるのでしょう
か。これについては、2022年6月7日付の日本経済新聞が、
内閣府の発表として、次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎国内需要不足21兆円/22年1〜3月前四半期から悪化
 内閣府は6月6日、日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示
す「需給ギャップ」について、2022年1〜3月期はマイナス
3・7%だったとの試算を発表した。
 金額は年換算で21兆円の需要不足だった。21年10〜12
月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、10四半期連
続のマイナスとなった。需給ギャップは消費や設備投資といった
経済全体の需要と、労働時間などから計算する潜在的な供給力と
の差をいう。需要が供給を上回ると物価は上がりやすくなる。
        ──2022年6月7日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 およそ21兆円のGDPギャップ──米国はドル高なのに高い
インフレですが、日本は円安なのにインフレではない。どこが違
うのかというと、バイデン政権は、発足直後に、大型財政出動を
行っており、GDPギャップが解消されているので、インフレ率
が高くなっているのです。
 5月25日に、ニッポン放送 「飯田浩司のOK! Cozy up!」
に高橋洋一氏が出演し、これについて、問答を行っているので、
以下にご紹介依します。
─────────────────────────────
飯田:補正予算案は、「物価高騰緊急対策」などと言われていま
 すが。
高橋:まず、セオリーがわかっていて、やっているのだと思いま
 す。現状を考えると、4月の物価がどうなっているのかという
 ことですが、総合で2・5%上がって、「生鮮食品を除く総合
 指数」で2・1%上がっています。「インフレ」とみんな言い
 たくなるのだけれども、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合
 指数」を「コアコア指数」と言うのですが、これが物価の基調
 なのです。
飯田:コアコア指数が?
高橋:それを見ると、コアコア指数は0・8%で全然上がってい
 ない。ですので、インフレにはなりません。アメリカやヨーロ
 ッパの「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は6%以上
 6〜8%という数字になっているのです。そのくらいにならな
 いとインフレではないのです。どうして日本だけ違うのかと言
 うと、総供給と総需要の差である「GDPギャップ(需給ギャ
 ップ)」という言葉があります。
飯田:GDPギャップ?
高橋:日本はまだ30兆円程度のGDPギャップがあります。ヨ
 ーロッパやアメリカはほとんどありません。だから物価が上が
 るのです。逆に言うと、GDPギャップがあるから日本は物価
 の基調である「コアコア指数」が上がらない。このときの対策
 はセオリーが簡単で、GDPギャップをまず埋めるのです。
  ギャップを埋めると、実は物価が上がる。物価が上がるけれ
 ども、対策を行うので「上がった物価の多くの部分は、経済対
 策によって吸収できる」というのがセオリーなのです。でも、
 それをやっていないのです。    https://bit.ly/3y9ETCS
─────────────────────────────
 つまり、GDPギャップがプラスの場合(総供給より総需要が
多い)はインフレギャップといい、好況や景気が過熱しており、
物価が上昇する要因になります。逆にGDPギャップがマイナス
の場合(総需要より総供給が多い)はデフレギャップといい、景
気の停滞が不況になって、物価が下落する原因になります。
 日本のGDPギャップは、上記日経の記事に見るように、21
年10〜12月期のマイナス3・3%(19兆円)から悪化し、
10四半期連続のマイナスになっているのです。したがって、日
本は、金利を上げる状況にはぜんぜんないのです。
              ──[新しい資本主義/114]

≪画像および関連情報≫
 ●米FRB利上げ:識者はこうみる
  ───────────────────────────
  [15日/ロイター]米連邦準備理事会(FRB)は14─
  15日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデ
  ラルファンド(FF)金利の誘導目標を75ベーシスポイン
  ト(bp)引き上げ、1.50─1.75%とした。27年
  ぶりの上げ幅で、会見したパウエル議長は、7月の次回会合
  でも50bpもしくは75bpの利上げを示唆した。FOM
  C後、米株は上昇、ドルは売られた。市場関係者の見方は以
  下のとおり。
  <アクサ・インベストメント・マネージャーズ/債券ストラ
  テジスト 木村龍太郎氏>
   FRB(連邦準備理事会)の先行きの景気に対する自信が
  やや揺らいでいるようだ。期待インフレに働きかけるヘッド
  ラインのインフレ率が、国際商品価格やサプライチェーンと
  いったFRBがコントロールできない要因に左右され、利上
  げしたとしても将来のインフレが予想通り下がるか自信がな
  いということで、安定的・持続的な成長パスもやや揺らぎつ
  つあると感じた。また今回が75ベーシスポイント(bp)
  の利上げ、7月も50bpまたは75bpの利上げというの
  は結構タカ派な決定だったが、にもかかわらず米金利は短期
  まで含めて大きく低下で反応した。
   特に2023年末には政策金利が3.8%まで上がるとい
  うのがFOMC(連邦公開市場委員会)参加者の中央的な見
  通しだが、足元の市場の織り込みは3.3%まで低下。投資
  家の間ではFRBは見通し通りに利上げができないのではな
  いか、あるいは利上げしても来年末には既に利下げに追い込
  まれるのではないか、と景気の持続性にやや悲観的な見方を
  している。つまり「FRBの見通しほどうまくいかないだろ
  う」ということで、FOMC後の金利低下につながった。
                 https://bit.ly/3ObqOKJ
  ───────────────────────────
インフレギャップとデフレギャップ.jpg
インフレギャップとデフレギャップ
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2022年06月27日

●「消費税減税をめぐる与野党の攻防」(第5759号)

 6月22日に参院選が公示され、選挙戦が始まっています。7
月10日投開票ですので、19日間と選挙戦が非常に長期間に及
びます。20日現在の岸田内閣の支持率を見ると、次の2つの新
聞社については、支持率が5〜6%下がっています。
─────────────────────────────
  ◎6月20日現在/岸田政権支持率
                支持      不支持
  日本経済新聞  60%(▲6%)  32%(9%)
    朝日新聞  48%(▲5%)  44%(7%)
─────────────────────────────
 支持率自体は高いのですが、支持率のグラフのトレンドは下方
に向かっています。原因は物価上昇です。日本経済新聞の調査に
よると、資源高騰や円安などによる足元の物価上昇については、
「許容できない」が64%で、「許容できる」の29%を大きく
上回っています。物価高対策を「評価しない」は69%で5月か
ら8ポイント上昇しています。
 物価の問題は、国民全般に関係するので、与党としては、よほ
ど具体的な対策を打ち出さないと、野党攻勢もあるので、支持率
は投開票日までどんどん下落し、思わぬ敗戦を喫することがあり
ます。21日午前に物価対策本部で岸田首相は、次のように述べ
ていますが、肝心の物価高への対策としては、具体的には何もな
い状態です。
─────────────────────────────
 正確に直結する物価動向を注視し、きめ細かく切れ目なく対応
していく。                  ──岸田首相
─────────────────────────────
 これに対する野党7党は、「消費税減税」にマトを絞っており
こちらはきわめて具体的な政策をぶつけてきています。しかし、
21日午後の党首討論では、岸田氏は、消費税減税に対しては、
次のように発言しています。
─────────────────────────────
 消費税減税は考えておりません。消費税は法律上、社会保障目
的税として位置づけられております。      ──岸田首相
─────────────────────────────
 岸田首相のこの発言が出るや、SNS上では、「目的税ではな
くて、何でも使える普通財源」「一般財源でごちゃ混ぜになって
いる」「ウソを垂れ流すのダメ」という、もの凄い批判のツイー
トが飛び交ったのです。
 この岸田首相の「消費税は法律上社会保障目的税として位置づ
けられている」という発言は、間違っています。それでは岸田首
相は何を根拠にそういっているのかというと、次の消費税法第1
条第2項の条文です。
─────────────────────────────
◎消費税法第1章第2項
 消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによる
ほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会
保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用に充て
るものとする。
─────────────────────────────
 しかし、条文に書かれているといっても、「消費税は社会保障
目的税」とはいえないのです。これに対して、税理士で、立正大
法制研究所特別緊急員の浦野広明氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 岸田首相が消費税を社会保障目的税と断言したのは、国民をミ
スリードする問題発言です。確かに消費税法上、使途は社会保障
や少子化対策と規定されており、目的税のように錯覚しがちです
が、法人税や所得税と同じく一般財源です。実際には、消費税は
国の借金返済や社会保障以外の歳出に充てられています。この規
定自体、国民を欺くために設けられたと考えられます。
                      ──浦野広明氏
 ──22日発行「日刊ゲンダイ」/ https://bit.ly/3ynj0QF
─────────────────────────────
 「お金に色はない」といいますが、たとえ法律上使途を明らか
にしていても、一般財源として入ってくると、基本的には何にで
も使えるのです。実際に2019年1月の衆参本会議で安倍首相
(当時)は、「消費税の増税分の5分の4を国の借金返しに充て
ていた」と認めています。要するに、消費税は何にでも使える一
般財源(普通財源)であり、社会保障の目的税ではないのです。
まして、物価が1%上がると、年間の消費税負担は、約2000
億円も増えるので、財務省はホクホクです。
 19日(日)にも、SNSを騒がせる事件があったのです。そ
れは、NHKの日曜討論においてです。れいわ新選組の政審会長
大石晃子議員と高市政調会長の次のやり取りです。
─────────────────────────────
大石:数十年にわたり法人税は減税、お金持ちは散々優遇してき
 たのに消費税減税だけをしないのはおかしい。
高市:れいわ新選組から消費税が法人税の引き下げに流用されて
 いるかのような発言が何度かありました。これは事実無根であ
 ります。消費税は法律で社会保障に使途が限定されており、デ
 タラメを公共の電波で言うのはやめていただきたい
  ──20日発行「日刊ゲンダイ」/https://bit.ly/3xLOU7G
─────────────────────────────
 れいわ新選組の大石晃子議員といえば、6月10日のEJでご
紹介したように岸田首相を「財務省の犬」と命名した議員です。
大石議員は大阪大学工学部出身のリケジョで、消費税のことは十
分すぎるほど調べ上げている人物です。
 このときの高市発言に対して、SNS上では「デタラメ、ウソ
つきはどっちだ」「高市に税収の表見せてやって」など批判が溢
れたのです。これの真偽は明日のEJで明らかにします。
              ──[新しい資本主義/115]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田政権の空っぽインフレ対策で参院選は波乱あり
  選挙中発表の「経済指標」に自民ビクビク
  ───────────────────────────
   参院選の最大の争点は物価高──時事通信が10〜13日
  に実施した世論調査によれば、岸田政権の物価高への対応に
  ついて「評価しない」が54・1%と「評価する」の13・
  8%を大幅に上回った。内閣支持率も、4カ月ぶりに5割を
  切った。国民は岸田政権の空っぽの物価対策に気づきつつあ
  る。参院選は「自民優勢」との前評判だが、「波乱含み」に
  なってきた。
   7月10日の投開票が確定した参院選。勝敗のカギを握る
  のが接戦の17選挙区だ。この17選挙区を、与党、野党の
  どちらが制するのかで選挙結果は大きく変わってくる。北海
  道(改選数3)は自民、立憲がそれぞれ2人の候補を立て、
  大激戦となっている。東京(同6)は、自民が2人擁立して
  いるが、2議席確保は困難とみられている。維新が関西掌握
  を目指す京都(同2)も自民候補は決して安泰ではない。新
  潟、長野、山梨、沖縄は、6年前、野党が勝った1人区。自
  民は野党と激しく競り合っている。
   この17選挙区は投開票日までに自民に“逆風”が吹けば
  自民が落としてもおかしくない。自民党に打撃を与えそうな
  のが、選挙中に発表される2つの経済指標だ。岸田首相周辺
  もどんな数字が出るのか戦々恐々としているという。公示日
  (22日)直後の24日、総務省が発表するのが5月の「消
  費者物価指数」だ。4月は2%台の物価上昇率だったが、5
  月は、さらに物価高騰と円安が進行しているだけに、2%台
  を上回る可能性がある。    https://bit.ly/3OeSU7D
  ───────────────────────────
浦野広明氏.jpg
浦野広明氏
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2022年06月28日

●「消費増税分は法人税減税の穴売め」(第5760号)

 昨日の続きです。「消費税は法律上社会保障目的税として位置
付けられている」──この岸田首相発言は完全な間違いです。と
いうよりも、これを首相が発言すると、国民に大きな誤解を与え
ます。岸田首相は、「聞く耳を持っている」ということを売り物
にしていますが、「減税」だけは聞く耳を持っていません。真っ
向から反対します。
 目的税というのは、ある特定の経費を支弁する目的で賦課する
租税のことであり、地方道路税、都市計画税、水利地役税、入湯
税、国民健康保険税などがそれに該当します。
 例えば、都市計画税というのは、市街化区域に土地または家屋
を所有している人に課税される目的税です。納める税金は、道路
や公園、または下水道などの都市計画事業に充てる費用として使
われます。
 消費税は、確かに第1条第1項に主たる使途についての規定は
ありますが、目的税ではありません。この規定は、消費税が導入
されたときには存在せず、消費税導入から20年以上たった20
12年、消費税率を5%から10%に段階的に引き上げる法律を
決めたときに、国民の批判をかわすためにというより、少し厳し
くいえば、国民を騙すために付け加えられたものです。しかし、
いったん税金として入ってきてしまえば、お金に色は付いてない
ので、消費税は何にでも使えるのです。
 実際に消費税増税分は、社会保障費ではなく、その「8割」が
政府の(国ではない!)借金返済に使われているのです。このこ
とを2019年1月28日、第98回国会で安倍首相(当時)自
身が施政方針演説で明言しています。「増税分の5分の4を借金
返しに充てていた」と。国の借金ではありません。政府の借金を
増税して返す──政府として一番やってはいけないことではあり
ませんか。自民党はそれをやっています。
 もうひとつ、高市政調会長が怒り狂っているという消費税が法
人税減税の穴埋めに使われているのではないかという件ですが、
これも事実です。しかし、これもお金に色は付いていないので、
消費税の税収分が法人税減税で減った部分の穴埋めに使われたと
いう証拠は残念ながら示せませんが、消費税を増税するときはい
つも法人税を減税していることは事実です。そのためか、財界の
首脳のコメントは、消費税増税は賛成で「よくやった」と政府に
ヨイショしています。
 財務省の「一般会計税収の推移」によると、消費税が導入され
た1989年度の消費税の税収は3・3兆円でしたが、昨年度は
21・1兆円と6倍になっています。これに対して、法人税は、
1989年は19兆円でしたが、昨年度は12・9兆円に減って
います。消費税収は6倍も伸びているのに、法人税収は減少して
いる──これでは、消費税収が法人税減税の穴埋めに使われたと
いわれても、反論できないのではないでしょうか。
 高市政調会長は、消費税減税について「増税前の駆け込み需要
や減税前の買い控えも起こる」「事業者も大変ですよ」などと必
死にできない理由を並べ立てていましたが、これは『文藝春秋』
上に載った矢野康治財務事務次官の主張をそのままトレースした
ものです。
 これについて、昨日のEJでご紹介した税理士で立正大法制研
究所特別研究員の浦野広明氏は次のように反論しています。
─────────────────────────────
 事業者から「変更が大変だから、消費税減税はやらないで欲し
い」との声は聞いたことがありません。多少手間がかかっても、
減税により消費が上向くことを望んでいます。そもそも、引き上
げはできるのに、引き下げはできないのはおかしい。また、値上
げラッシュで価格変更は日常茶飯に行われており、値札替えが負
担とも思えません。高市氏の発言は消費税減税の否定が先にあり
きで、かえって国民の不信を招いたような気がします。
    ──浦野広明氏/6月20日発行「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
 日銀の黒田総裁の話ですが、安倍首相(当時)が消費税率を5
%から8%に引き上げるとき、多くの学者などの意見を聞いて、
さんざん迷っていたのですが、そのとき、黒田総裁は次のように
いって、安倍首相の決断を促したのです。
─────────────────────────────
 消費税を予定通り8%に引き上げないと、国債が暴落するテー
ルリスクがある。             ──黒田日銀総裁
─────────────────────────────
 アベノミクスが金融緩和と財政出動で軌道に乗りつつあったと
きです。信頼している黒田総裁から、このようにいわれた安倍首
相は、消費税を8%に引き上げる決断をします。
 実はこのとき、財務省は財務省出身の日銀総裁である黒田氏に
「首相に増税をきちんとやるよう勧めてくれ!」と、強いプレッ
シャーをかけていたのです。黒田総裁としては、本当はやらない
方がいいのだが、立場上「やるな」とはいえないので、「テール
リスク」という言葉を使って首相に謎をかけたのです。安倍首相
は、おそらく「テールリスク」を単なる「リスク」だと勘違いし
て、税率を8%に引き上げたのです。しかし、テールリスクとは
次の意味なのです。
─────────────────────────────
 マーケットには大小さまざまなリスクがありますが、発生する
確率が非常に低いリスクによって暴落や暴騰が実際に発生するこ
とをテールリスクと呼びます。ちなみに、テールとは、騰落率分
布の端や裾野を意味する言葉。突然の政権交代やテロなどが代表
的なものです。           https://bit.ly/3ybYbGz
─────────────────────────────
 黒田総裁としては、「法律として決まっている消費税率引き上
げをやらなくても、国債が暴落する恐れはない」ということを首
相に伝えたかったのだと思います。
              ──[新しい資本主義/116]

≪画像および関連情報≫
 ●消費増税で穴埋めされる法人減税 逆累進性の解消が急務
  ───────────────────────────
   法人税の法定税率である法人実効税率が、2011年38
  ・54%、13年37%であったが、18年には29・74
  %に引き下げられた。しかし法人税を納税できる利益を上げ
  る企業は、全企業の3割ほどで、ほとんどが大手や中堅企業
  だ。それゆえこの法人税率引き下げは、これらの企業を利す
  るが、大多数の企業には及ばない。他方で消費税収の約8割
  が、この法人減税の穴埋めとなった。
   消費税を導入した1989年から2018年度までの30
  年間の消費税収額合計は372兆円、その間の法人税減額合
  計は291兆円(出展・消費税をなくす全国の会「ノー消費
  税」300号)。要するに法人税の減税分を、消費税で穴埋
  めしてきた。
   ところで30%弱の法人実効税率は「資本金1億円以上の
  外形標準課税適用法人」の実効税率であり、これらの企業は
  法人税と「事業税プラス地方法人特別税」を外形標準課税率
  で支払う。これに対して外形標準課税の対象でない資本金1
  億円以下の中小企業では、たとえば18年4月〜19年3月
  事業年度の同様な法人税率が36.81%、19年10月か
  らは33.58%と高く、逆進的となっている。これまで法
  定税率について述べたが、企業が実際に納税しているところ
  の実効負担率で見ると、法人税はさらに「逆累進」となって
  いる。       ──早稲田大学名誉教授・田村正勝氏
  ───────────────────────────
大石晃子氏VS高市早苗氏.jpg
大石晃子氏VS高市早苗氏
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2022年06月29日

●「防衛費増強をめぐるさまざな暗闘」(第5761号)

 日本には、中国やロシアなどよりも、もっと恐ろしい「抵抗勢
力」が国内に存在します。それが、財務省であり、その財務省の
論理を各界へ浸透させる便宜手段としての組織「財政制度等審議
会(財政審)」です。財政審には、財務省の息のかかった経済学
者、財界人、金融専門家など30人で構成されています。
 財政審では、財務省の主計局の官僚が議題と報告書を提出し、
何度かの会合を経て、官僚が諮問案をまとめて財務相に提出する
かたちをとるのですが、この会合で反対が出ることはほとんどな
く、財務省はこれで各界の総意を得ているというお墨付きにして
いるのです。財務省の意見に反対するような人は絶対にメンバー
にしないからです。したがって、財務省の自作自演同然なカラク
リといえます。現在のメンバーについて知りたければ次をクリッ
クしてください。          https://bit.ly/2EX6c8V
 この財政審が、5月25日に建議を取りまとめています。自民
党内に広がる防衛費増強に対する議論に、あらかじめ、防衛線を
張ったかたちになります。JIJI.COMは、これについて、
次のように報道しています。
─────────────────────────────
 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は、5月25日、建議
(意見書)を取りまとめた。国と地方を合わせた基礎的財政収支
(PB)を2025年度に黒字化するという財政健全化目標を堅
持するべきだと強調。政府・与党内で大幅な増額を求める声が強
まっている防衛費については、「規模ありきではない」とけん制
した。政府が6月に閣議決定する経済財政運営の基本指針「骨太
の方針」に反映させたい考えだ。
 建議は「危機に対応できる余力を持った持続可能な財政構造の
確立」の必要性を指摘。最近の円安進行を踏まえ、「円に対する
市場の信認がこれまで以上に問われる中、仮にPB目標を後退さ
せれば信認を失うリスクが大きい」と警鐘を鳴らした。
 防衛力の強化をめぐっては、「経済・金融・財政の強いマクロ
構造がなければ、防衛力を継続的かつ十分に発揮することはでき
ず、結果的に『戦わずして負ける』ことにもなりかねない」と強
調した。              https://bit.ly/3yipdNp
─────────────────────────────
 問題は、この財政審の建議に何が書かれているかです。建議で
は、日本には、経済、金融、財政面において脆弱性があり、それ
らの低減と防衛力強化をいかにして両立させるかが問題であると
指摘しています。そして防衛力は、国民生活、経済、金融などの
安定性があってはじめて発揮できるものであると説いています。
要するにプライマリーバランスがマイナスの状態ではダメである
ことを強調しているのです。
 そして、各国の防衛費対GDP比を一層増加させるためには、
他経費を削減して、国防費に一層重点配分するか、国民負担を増
加させるしかないと指摘しています。さらに、欧米、中国、韓国
と日本とを比較しながら、公共投資、文教、社会保障など、他の
政策経費を削減するか、増税で国防費増を賄うか、それとも双方
を選択するしかないと強調しています。
 この財政審の建議が提出されているからこそ、岸田内閣は防衛
費増強の財源を明確化できなかったのであり、それを骨太の方針
に反映させられなかったのです。選挙前に増税などといったら、
選挙に勝てないからです。この建議について産経新聞特別記者で
ある田村秀男氏は、次のように批判しています。
─────────────────────────────
 「経済・金融・財政面における『脆弱性』」をここまで深刻化
させてきたのはだれか。「経済・金融・財政面の脆弱性を低減」
する役割を担うのは何か。GDPの5割以上相当の資金を占める
財政を取り仕切る財務省と財務官僚のはずである。国家エリート
としての矜持、内心忸怩たる思いがまるでない。(中略)
 経済が持続的にプラス成長している他の主要国と、四半世紀以
上もの間、経済規模が委縮し続けているデフレ日本と同一視する
無定見ぶりにはあきれるが、固より、財務官僚にはその自覚はな
い。財政を含む国家の根幹となる政策を決定する国会と内閣がそ
んな財務官僚に誘導されてきた。(中略)
 「中長期の経済財政への試算」は、GDP成長率について、安
倍晋三政権時代以降の政府目標である実質2%、名目3%の「成
長実現ケース」と、従来の低成長ケースに分け、財政手出、税収
基礎的財政収支などを2031年度まで試算している。21年度
は補正予算、22年度は政府予算通りで、23年度以降は見通し
とは言え、財務省の腹積もりである。添付ファイルは、この成長
実現ケースの数値をもとに作成した財政の緊縮・拡張度である。
                        田村秀男著
   ──『正論』2022年7月号「国防こそ最大の福祉/」
       財政均衡主義が日本の安全を壊す」/産経新聞社
─────────────────────────────
 防衛費増大をめぐる論争には防衛省事務次官人事もからんでい
ます。政府は、6月17日の閣議で、防衛庁の島田和久事務次官
を退任させ、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てる人事を決め
ています。この人事をめぐり、ギクシャクがあったのです。
 島田次官は、安倍元首相の秘書官を6年半務め、官房長を経て
そのまま次官になり、丸2年やってやっていて、安倍元首相の主
導する防衛費増強を支えていました。岸田首相は、事務次官の任
期は2年であるとして、事務次官交代を図ったのです。
 まず、岸防衛相が官邸に島田次官の続投を打診して断られ、安
倍首相が松野官房長官に電話して、「功労者に対してこういうや
り方はあり得ない」とクレームをつけたところ、岸田首相が安倍
氏の議員会館事務所を訪問して、「人事は既に決まっている」と
告げています。選挙の勝敗にもよりますが、防衛費をめぐり、こ
んなやり取りがあったのです。健康の懸念もあることから、選挙
後の改造で岸防衛相の交代も考えられます。安倍元首相に取って
ピンチです。        ──[新しい資本主義/117]

≪画像および関連情報≫
 ●防衛費の増額は本当に必要か? 「巨費を投じても効果は
  乏しい」専門家は否定的〈AERA〉
  ───────────────────────────
   ロシアや中国の軍事的脅威に対応するため、岸田文雄首相
  は日米首脳会談で「防衛費の相当な増額」を表明した。自民
  党が掲げる国内総生産(GDP)の2%を防衛費にすれば、
  約11兆円に相当する。今年度の防衛費の約6兆円から約5
  兆円の増額だ。巨費を投じてどんな効果があるのか。そもそ
  も、本当に必要なのか。──AERA2022年6月13日
  号から。
   防衛省は、ステルス戦闘機F35を147機購入する計画
  だ。陸上基地用のF35A(1機約100億円)が105機
  空母用のF35B(同約140億円)を42機購入するが、
  米国側が契約後に値上げすることもあり、円安も手伝って、
  より高価になりそうだ。旧式化しつつある戦闘機を新鋭機に
  入れかえるのは当然であっても、ミサイル攻撃に対し「敵基
  地攻撃」や「反撃能力」で対処しようとし攻撃用の各種のミ
  サイルの購入や開発に巨費を投じても効果は乏しい。山岳地
  帯のトンネルに潜み、自走発射機で移動するミサイルを秒速
  7・9キロで1日1回世界各地の上空を通過する偵察衛星で
  撮影するのは極めて困難。高度3万6千キロで周回する静止
  衛星からはミサイルのような小さな物は映らない。無人偵察
  機を上空で旋回させれば対空ミサイルで撃墜される。相手が
  先にミサイルを発射すればその首都など固定目標に反撃する
  ことは可能だが、首脳部の現在位置はわからない。核ミサイ
  ルに対し火薬弾道ミサイルで報復するのは、大砲に対し拳銃
  で応戦するような形となる。  https://bit.ly/3HVBfzO
  ───────────────────────────
激烈な緊縮財政を企図する財務省.jpg
激烈な緊縮財政を企図する財務省
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2022年06月30日

●「バイデン対習近平長時間電話会談」(第5762号)

 バイデン米大統領の支持率は、最新の調査によると、先週から
6ポイント低下して、36%と就任以来最低の数字を記録してい
ます。このままだと、今年11月の中間選挙で民主党が上下両院
もしくはどちらかで、過半数議席を確保できない可能性が高まっ
ているといえます。
 問題は不人気の原因は何かです。新型コロナウイルスへの対応
に関する支持率(47%)は不支持率(46%)と拮抗しており
経済への取り組みを支持する登録有権者は28%、銃による暴力
(32%)や、ロシアによるウクライナ侵攻への対応(42%)
も、それほど支持されていないようです。
 このバイデン大統領について次のような話があります。5月の
始めのことです。バイデン大統領は、バーンズCIA(米中央情
報局)長官、オースティン国防長官、ヘインズ国家情報長官の3
人を呼びつけ、こっぴどく叱りつけたというのです。それは、米
側が流した情報をもとにウクライナ軍が輝かしい成果を挙げたと
いう報道について、「このようなリークは絶対に許さん。即刻辞
めるようにいえ!」という強い口調で叱りつけたといいます。
 確かにその後この手の情報は、ピタリと報道されなくなったこ
とは事実です。こんなことで、ロシアのプーチン大統領を刺激し
てはいかんというわけです。
 もうひとつ、ピューリッツァー賞を何度も受賞したベテラン評
論家、トマス・L・フリードマン氏は、5月6日付のニューヨー
クタイムズ紙に寄せた論評において、バイデン大統領が、中国の
対ロ軍事支援を阻止したことを高く評価しています。この論評に
よると、バイデン大統領は、3月18日に習近平国家主席との2
時間にわたる長い電話会談で、習近平国家主席にそれを決断させ
たといわれます。そのとき、バイデン大統領は、習主席に次のよ
うに迫ったといわれます。
─────────────────────────────
 もし、中国がロシアへの軍事援助に手を貸すようであれば、中
国は、米国、欧州の2大市場を失うという「きわめて否定的な結
果」を招くことになるだろう。     ──バイデン米大統領
           ──『正論/7月号』/巻頭コラムより
─────────────────────────────
 中国としても台湾進攻を行えば、米国をはじめとする西側の厳
しい経済制裁を受けることはわかっていますが、それをどのくら
い深刻に受け止めるかの問題です。中国という国の隆盛は、経済
力があってのことであり、もし、米欧という二大巨大市場を失う
ことの打撃は大きいと思います。
 その会談のとき、習近平主席は「台湾に関して米国の政策は変
わったのか」とバイデン大統領に尋ねています。そのときのバイ
デン大統領の返事は「不変である」というものだったといわれま
す。この点に関してバイデン大統領の考え方は一貫しています。
 バイデン大統領は、来日のさいの記者会見で「中国が台湾に対
して侵攻したら、米国は軍事的に関与するのか」と問われ、「イ
エス。われわれにはそうする責任がある」と答えています。これ
に対して、ホワイトハウスとオースティン米国防長官は、すかさ
ず、米国の立場に変更はないと火消しに走っています。そのため
この発言は、バイデン大統領の失言といわれているのですが、こ
れは失言ではありません。
 なぜなら、バイデン大統領は、「イエス」に続いて次のように
述べているからです。
─────────────────────────────
 われわれは「一つの中国」の方針に関しては遵守しているが、
武力で現状を変更しようとする試みには賛成できない。
                   ──バイデン米大統領
─────────────────────────────
 バイデン大統領の発言は次のように読み取れます。中国と台湾
が平和的に「一つの中国」になることについて、われわれは異を
唱えるつもりはない。しかし、武力でそれを行うのは反対であり
何らかの対応をせざるを得ない──これは、もし、中国が武力で
台湾を奪い取ろうとすれば、米国として何らかの対応処置を取る
ということを意味しているといえます。
 中国の習近平主席が米欧による経済制裁を受けることについて
ロシアの例を参考にすることは間違いないことです。プーチン大
統領は、サンクトペテルブルグで開催している「国際経済フォー
ラム」でオンラインで演説し、西側のロシアに対する経済制裁に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 欧米側は、ロシア経済を破壊しようとしたが、明らかに失敗し
た。今年の春先には、ロシア経済の先行きに対して悲観的な見通
しが予想されたが、現実のものとなっていない。制裁にもかかわ
らず、ロシアの経済対策が機能している。ロシアへの制裁によっ
て、欧米側でむしろ物価が上昇しているとしたうえで、欧米側は
世界的な食料などの価格高騰の責任をロシアに転嫁している。
                    ──プーチン大統領
─────────────────────────────
 しかし、これはプーチン大統領の強がりです。プーチン政権の
1期目と2期目──2000年から2008年までは、ロシアの
経済成長率は平均して7%伸びています。プーチン大統領は上機
嫌で、「ルーブルを国際通貨にする」と豪語していたものです。
しかし、ロシアがクリミアを併合した2014年以降は、ロシア
は経済成長していないのです。2014年から2020年までの
GDP成長率は、年平均0・38%です。欧米と日本が今回より
もはるかに軽い経済制裁をかけた結果です。
 これに今回の非常に重い経済制裁が加わったのですから、その
ダメージは尋常なものではないはずです。経済制裁は年が経つに
つれて効いてきます。それは、今年の夏から秋にかけて、はっき
りと目に見えるかたちになっていくはずです。
              ──[新しい資本主義/118]

≪画像および関連情報≫
 ●中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか
  /岡崎研究所
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   バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行わ
  れたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウク
  ライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与
  えているだろう、と述べた。
   習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連に
  より中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺
  し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になってい
  るとの印象を強く受ける。
   中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた
  事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出
  すべきか慎重に検討している。
   プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来な
  いが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する
  最大の地政学的課題」だ。
   上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米
  CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろ
  う。プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて
  北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言
  した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で
  反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平
  は不安の色を隠せないようだ。 https://bit.ly/3QRRmCg
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習近平主席を説得できたか/バイデン米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする