融政策決定会合において、安倍政権以来続けている大規模な金融
緩和策の継続を決め、指定した利回りで国債を無制限に買い入れ
る「指し値オペ」を毎日実施することを決めています。このよう
に、日銀が金利を低く抑え込む姿勢を明確にしたことによって、
円安は急加速し、131円台をつけています。
10年物国債金利のことを「長期金利」といいますが、日銀は
その長期金利の変動幅を「プラスマイナス0・25%程度」と決
め、「連続指し値オペ」を毎日実施すると公表しています。ちな
みに長期金利が上がるということは、国債の価格が下落すること
を意味します。
「連続指し値オペ」とは、0・25%の利回りで長期国債をす
べて無制限にオペ(公開市場操作)で買い入れるという宣言であ
るので、この水準を上回る利回りでの取引はなくなり、結果とし
て金利の変動幅は0・25%程度を維持できることになります。
しかし、米欧が金利を上げているときに、日銀がこの措置を取れ
ば当然円を売って、ドルを買い入れる動きが高まり、円安になり
ます。それが現在の「1ドル=131円」というわけです。
なぜ、日銀は円高に動かないのかというと、今回の物価上昇は
一時的なものであるとみていることや、日本がまだデフレから脱
却できていないこと、そして、そもそも「円安」には介入しない
という方針があるからです。
本題に戻ります。4月28日のEJで、金融政策について、次
のように述べたことについて解説します。
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(金融政策は)ひもで引っ張れてもひもで押せない
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文庫本についている「しおりひも」というものがあります。こ
のひもで本を引っ張ることはできますが、逆に押すことはできま
せん。黒田日銀総裁は、銀行の保有する国債を購入して、銀行の
日銀当座預金に代金を積み上げましたが、銀行はそれを引き出し
て、積極的に貸し出しを行っていないという現象を指して、「ひ
もで押している」と例えているのです。すなわち、日銀が銀行の
日銀当座預金にいくら資金を積み上げても(マネタリーベースを
増やしても)銀行を通して、市中に資金は流れない(マネースト
ックを増加する)ことを意味しているのです。
一方、財政政策は、鉛筆に例えることがあります。鉛筆で本を
後ろから前に動かすことはできますが、これは景気を押し上げる
ことにつながるという意味です。
念のため、マネタリーベースとマネーストックの関係を再現す
ることにします。
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◎マネタリーベース ・・・ 日銀当座預金の金額
◎マネー・ストック ・・・ 市中に循環する通貨
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添付ファイルをご覧ください。これは、日銀の資料にもとづく
データで、井上智洋駒澤大学准教授の本に出ていたものですが、
マネタリーベースとマネーストックの関係を示しています。これ
を見ると、1980年から2000年までは、マネタリーベース
とマネーストックは同じ軌跡をたどっているものの、2000年
以降はマネタリーベースは大きく動いています。1999年から
ゼロ金利政策が導入されているからです。
しかし、マネタリーベースをいくら増やしても、マネーストッ
クはほとんどその影響を受けておらず、およそ2%の低位安定状
態にあります。2013年の黒田日銀総裁による異次元緩和が始
まり、マネタリーベースが跳ね上がっていますが、マネーストッ
クに変化がないことが読み取ります。これをマネタリーベースと
マネーストックの「デカップリング」と呼んでいます。
このように見てくると、デフレは、単なる貨幣現象ではなく、
需要不足が原因であることがわかります。個人や企業の資金需要
が決定的に不足しているからです。このようなときは、いくら中
央銀行がマネタリーベースを増やしても、マネーストックは伸び
ないのです。そういうときは、政府が代わって需要を増やす政策
を導入して、需要を増やす必要があります。それは、積極的な財
政政策を実施することです。しかし、財政政策になると、財務省
はGDP対比240%の国債残高の話を持ち出して、猛烈に反対
します。財務省は一致結束ワンパターンです。
これに関して、MMT(現代貨幣論)に詳しい自民党衆議院議
員、西田昌司氏は次のように述べています。
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単に銀行に通貨供給をするだけでは、デフレからの脱却はでき
ず、借り入れというリスクを冒してでも、投資をしようとするだ
けの需要が必要なのです。そこで国債発行による政府の財政出動
が必要になるのです。
政府が国債発行するということは、政府が負債を背負うという
ことです。それを原資として財政出動するということは、予算執
行を通じて国民側に預金資産を与えることになります。
民間の借入金が増えないのは、デフレ下においては返済のリス
クを背負うことを避けるからです。一方で、国債は自国建通貨で
発行する限り、返済不能に陥ることは有り得ません。国債の償還
時期がくれば、税金に頼らなくても同額の国債を発行すれば資金
調達ができるのですから、返済不能になることは絶対に有り得な
いのです。(一部略)
このように、国債発行による財政出動によって、政府は民間に
資金を供給することができるのです。また、社会保障の充実が図
られると、将来に対する国民の不安は減少します。将来に対する
不安が少なくなれば、安心して将来に対する投資を行うこともで
きます。 https://bit.ly/3vRcIGr
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──[新しい資本主義/078]
≪画像および関連情報≫
●不況を終わらせるには,国内最大の経済主体である政府が
カネを使うべき/京都大学/藤井研究室
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今の日本は、大変な不況に苛まれている。どの業界の人も
業績がなかなか上がらない。なぜかと言えば要するに,どん
な業界の人も「客が少ない」からであって、だからみんな儲
からなくなってしまっている。で,みんな儲からないから、
みんなオカネを派手に使えない。みんながオカネを派手に使
わないから、結局は、また全ての業界でますます客が少なく
なっていく。これがいわゆる「デフレ・スパイラル」だ。
このスパイラルを止めるために何が必要かと言えば、要す
るに「客が増やす」ということだ.客がたくさんいて、たく
さんオカネを使ってくれさえすれば、どの企業も業界も儲か
るようになっていく。そうすると,みんなオカネを使うよう
になって、結果,景気が良くなっていく。
では、どうやればお客が増えるのか。
繰り返すが、デフレの状況では,みんな業績が不振だから
みんな派手にはオカネを使わない。だから,あの手この手で
民間の消費や投資を刺激しても、さして客は増えない。実際
デフレ不況になってはや15年が過ぎたが、その間政府は、
改革だ、特区だ、金融緩和だと、あの手この手の取り組みを
やってきたものの、それらは悉く失敗し、未だにデフレは終
わっていない。
でもたった一つだけ,もの凄く効率的かつ簡単に「お客を
増やす」方法がある。それは国内最大の経済主体である「政
府」自身がお客になるという方法だ。
https://bit.ly/3y5TvTY
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マネーストックおよびマネタリーベースの増大率