金額は2021年度当初予算対比0・9%増で、10年連続で過
去最大を更新しています。なお、この予算のなかには、新型コロ
ナウイルスの感染再拡大に備えて、5兆円の予備費を引き続き積
んでいます。
さて、この予算は、4月1日から執行されていますが、その金
額は、どこにあるのでしょうか。どこから調達しているのでしょ
うか。政府には、どこかに税金を貯めておく大きな金庫のような
ものがあって、そこから支出している──そのようなイメージを
描いていませんか。
確定申告の時期ですから、巨額の税金が納められており──そ
れは前年度の税金ですが、それを使って新年度の予算を執行して
いるのでしょうか。
それも違います。税金として納められたお金は、納められた瞬
間に消滅するのです。したがって、そのお金を使うことはあり得
ないのです。これについて、広島大学大学院教授の角谷快彦氏は
次のように述べています。
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日本で暮らす私達は日本円で税金を払いますが、日本に最初か
ら日本円があったわけではありません。最初に政府が「何もない
ところから」創出したから日本円があるのです。
このことは、政府の予算執行にも表れていて、年度はじめの4
月1日に政府が国会の議決を経た予算を「何もないところから」
執行し、確定申告によってその年度の税収が確定する(税の払込
が終わる)のは翌年の5月頃です。ですので、そもそも政府は、
町内会のように集めた会費で成り立っているのではなく、「何も
ないところから」貨幣を生み出して供給し、その後に税金を徴収
しているのです。そして、これらは仮説や意見や学説ではなく、
単なる事実です。 ──【角谷快彦】寓話で学ぶ信用貨幣論
https://bit.ly/3vHvIqL
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角谷教授の主張する「政府は、『何もないところから』貨幣を
生み出して供給し、その後に税金を徴収している」とは本当のこ
とでしょうか。
この「何もないところから、生み出して供給」というのは事実
です。よく「政府はお札を刷って」という表現が使われますが、
実際にお札を刷るわけではなく、しかるべき手続きを行い、キー
ボードで必要な金額をタイプし、まさに「何もないところから」
お金を生み出しているのです。
これに関連する中野剛志氏と記者の問答を次に掲載します。し
かし、これは、MMTの主張というわけではなく、事実です。
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中野:だけど、実際に予算執行の実務もそうなっているんです。
政府が予算執行するとき、政府は、まず政府短期証券を発行し
て、日銀に買わせて、財源を賄っています。そして、徴税は事
後的な現象です。実際、確定申告を行うのは会計年度が終わっ
たときですよね?つまり、実務上も、集めた税金を元手に政府
が財政支出しているわけではないんです。
これは、論理的に考えても当たり前のことです。なぜなら、
政府が、国民から税を徴収するためには、国民が事前に通貨を
保有していなければならないからです。
――あ、そうか。「ない」ものは払えないですもんね。
中野:そうですよね?では、国民は、その通貨をどこから手に入
れたのでしょうか?
――通貨を発行する政府からですよね。
中野:そうです。ということは、政府は徴税する前に支出して、
国民に通貨を渡していなければならない、ということになりま
す。国民に通貨を渡す前に、徴税することは、できないからで
す。つまり、税を財源に政府支出をするのではなく、政府支出
が先にあって、徴税はその後だということです。これをMMT
は「Spending First」 と表現します。「支出が先だ」という
わけです。
――なるほど。 https://bit.ly/37BXqgG
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中野剛志氏の言葉に「政府は、まず政府短期証券を発行して、
日銀に買わせて、財源を賄っています」というのがあります。し
かし、これは「財政ファイナンス」といい、財政法で禁じられて
います。しかし、それはあくまで表向きのことです。
財政ファイナンスについて、井上智洋という駒澤大学経済学部
准教授が次のように述べています。井上准教授は、MMT系の学
者ではありませんが、MMTの研究者として知られています。
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財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財源に支出を
行うことです。これは実際に行われていることで、MMTの文脈
では、中央銀行がキーストロークによって作り出したお金を、政
府が支出に充てることを意味します。ただし、実際には政府支出
の財源が租税や国債であるかのように偽装されています。支出と
同額の税金を徴収したり国債を発行したりすることによって、あ
たかも財政ファイナンスを行っていないかのような装飾が施され
ているというわけです。 ──井上智洋著
『MMT/現代貨幣論とは何か』/講談社新書メチュ
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井上智洋准教授の言葉に「中央銀行がキーストロークによって
作り出した政府支出の財源が、租税や国債であるかのように偽装
されている」という表現があります。
なぜ、そんなことをしなければならないのでしょうか。禁止さ
れている財政ファイナンスは、堂々と行われており、慣例になっ
ているのに、なぜ国民に隠すのでしょうか。その方が政府にとっ
ては都合がよいからでしょうか。
──[新しい資本主義/075]
≪画像および関連情報≫
●教科書の経済学を絶対視する危うさ:大学共通テストの出題
から考える
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教科書に載っている主流経済学は、必ずしもすべてが正し
いとは限らない。経済学は物理学など自然科学と異なり、学
派ごとの意見の対立が大きく、決着のついていない問題が少
なくないからだ。
ところが主流経済学をかじっただけの人は、それがすべて
だと思い込み、絶対の真理であるかのように主張する。危う
い議論だと言わざるをえない。その一例が今年1月、大学入
学共通テストの出題で「信用創造」が話題になった際の反応
だ。信用創造(預金創造とも呼ばれる)は、これまで伝統的
な解説では、「銀行が貸し出しを繰り返すことによって、銀
行全体として最初に受け入れた預金額の、何倍もの預金通貨
(当座預金など現金に非常に近い機能を備えた預金)を作り
出すこと」と説明されてきた。
たとえば、最初にAさんがa銀行に100万円を預金する
と、a銀行は1万円を支払い準備として手元に残し、99万
円をBさんに貸し出す。Bさんがその99万円をb銀行に預
けると、b銀行は1万円を手元に残して98万円をCさんに
貸し出す。Cさんが98万円をc銀行に預け・・・と預金と
貸し出しが繰り返され、預金通貨の量は「100万円+99
万円+98万円・・・」と膨らんでいく。この伝統的な説明
は、直感的にはわかりやすいものの、「銀行は預金を元手に
貸し出しを行う」という誤った理解を招くとされる。
https://bit.ly/37EAEoh
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角谷快彦広島大学大学院教授