長率は1・6%。しかし、米国は5・7%と37年ぶりの高成長
を記録しています。IMF(国際通貨基金)によると、昨年の先
進国の平均成長率は5・0%。日本は1%台。日本は突出して低
すぎます。
それでいて、家計の金融資産と企業の現預金は史上最高水準を
記録し続けています。なぜか貯蓄にはとても熱心なのです。成長
していないのに、政府は何かを大きく間違えています。
そもそも企業は、不確実な未来に対してリスクをとって積極的
に投資し、個人は生活を豊かにするために消費をする──これが
経済を成長させるのですが、日本の現状は、ぜんぜんそうなって
いないのです。最大のマイナス要因は、給与がぜんぜん上がって
いないことです。
しかし、日本のGDPは、現在のところ、米国、中国に続き世
界第3位です。世界第4位のドイツは、日本に迫ってきています
が、まだ差があります。しかし、日本のGDPは20年以上成長
していない。「失われた30年」といわれはじめています。
ちなみに、2012年からの10年間の日本の名目GDPの数
字を並べてみると、次のようになります。
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◎日本の名目GDP推移
2012年 ・・・・・ 500.4兆円
2013年 ・・・・・ 508.7兆円
2014年 ・・・・・ 518.8兆円
2015年 ・・・・・ 538.0兆円
2016年 ・・・・・ 544.3兆円
2017年 ・・・・・ 553.0兆円
2018年 ・・・・・ 556.1兆円
2019年 ・・・・・ 559.8兆円
2020年 ・・・・・ 538.6兆円
2021年 ・・・・・ 553.4兆円
https://bit.ly/3KNX98r
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日本の名目GDPの推移を見ると、少しずつ伸びているように
見えます。ところが、20年前の2001年の名目GDPは53
1・6兆円であるし、さらに5年前の1996年のそれは535
・6兆円であって、現在の名目GDPが、25年前の名目GDP
とあまり変わっていないのです。明らかに、日本経済は伸びてい
るといえない状況にあります。
安倍政権では、名目GDP600兆円の達成を目指したのです
が、デフレ期に2回にわたる消費税増税によって、それを潰して
います。経済政策が何たるかがわかっていないのです。
経済の問題を考えるとき、常識的に正しいと思っていることが
間違っていることがよくあります。前財務大臣の麻生太郎氏は、
よく記者団に次のようにいっていたものです。
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政府の財政を黒字化する目標(プライマリーバランス『PB』
黒字化目標)を堅持する。そうしないと日本国債が投げ売られる
からね。 ──麻生太郎前財務相
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これは間違っています。なぜなら、国の経済というものを家計
に例えているからです。経済をコントロールする本家本元の財務
省自体がわかっていないのです。彼らに任せていると、日本は先
進国の座から滑り落ち──もう滑り落ちていますが、世界第3位
の経済大国からもいずれ脱落するでしょう。このところ、鈴木現
財務相も認める「悪い円安」がどんどん進行し、日本はますます
貧しくなっています。
まず、「信用貨幣論」について知る必要があります。ある個人
が、自分の家のリフォームをしようとして、銀行に500万円の
融資を申し込んだとします。銀行は、その人が融資金を返済でき
るかどうかを審査して融資するかどうか、利子をどのくらいにす
るかを決定します。
融資が決まったとします。銀行はその人の銀行口座にキーボー
ドを操作して「500万円」と印字します。これをキーストロー
クマネーといいます。それと引き換えにその人は500万円の借
用書を銀行に渡します。これで融資成立です。銀行は、いざとい
うときの現金通貨の引き出しと融資後の銀行間決済に備えて、法
律で決まっている一定額を日本銀行の当座預金に預け入れます。
これで銀行の融資業務は終わりです。
このさい、大事なことは、その人の銀行口座に500万円と書
き込んだ瞬間に、日本の貨幣が500万円増えるのです。キース
トロークマネーによる信用創造です。銀行が保有している500
万円をその人に融資したのではなく、新しく500万円が生み出
されるのです。これを信用創造(money creation)といいます。
断っておきますが、これはMMTではなく、銀行では常識的に
行われていることです。銀行は、預金者から預かったお金、すな
わち、預金を又貸ししたのではなく、融資金を500万円と印字
した瞬間に、何もないところから、借り手の信用をベースにして
500万円を創造させたのです。
リフォームの資金を手に入れたその人は、資金を全額使い、そ
れらは工務店や大工さん、家財メーカーなどの所得になり、その
500万円は日本のGDPに計上されます。つまり、日本のGD
Pが500万円増えたことになります。このように、銀行から資
金の融資を受ける人が多ければ多いほど、GDPは増加すること
になるのです。
しかし、これは借金ですから、その人は、銀行に返済する義務
があります。そして、返済がすべて行われると、キーストローク
マネーの500万円は消滅します。これによって、日本のマネー
ストック(市中に流通するお金)から500万円が消失します。
──[新しい資本主義/072]
≪画像および関連情報≫
●教科書の中と現実の経済学――7分で読める「信用創造論」
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「銀行預金は、企業や家計の資金需要を受けて銀行などが
貸出しなどの与信行動、信用を与える行動、すなわち信用創
造を行うことにより増加することになるということで、この
点も委員ご指摘の通りであります」(平成31年4月4日参
議院決算委員会における黒田東彦日本銀行総裁の答弁より)
「預金という元手がなくても、貸出をすれば、それと同額の
預金が生まれる」。これは金融の実務に携わる人にとっては
自然な話ですが、この説明に対してはしばしば拒否反応がみ
られます(なお、信用創造についてのこのような説明はしば
しば「万年筆マネー」と呼ばれます)。その理由のひとつは
この説明が「無から有が生まれる」という印象を与えるもの
になっていて、このような説明をする人が錬金術師のように
見えてしまうというところにあるようです。もうひとつの理
由は、「お金」という公的な性格を有するものを、民間の銀
行が勝手に創り出せてしまうということに対する違和感にあ
るようです。
中学や高校の教科書に出てくる信用創造のモデルには本源
的預金(現金)という「元手」がきちんとあります。これに
対し、「貸出をすると預金が生まれる」という説明では、現
金という確固たる元手がないまま、実体のないお金が勝手に
増殖していくように見えるので、この説明を怪しいと感じる
のは致し方ないことなのかもしれません。
https://bit.ly/3jNT1JG
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麻生前財務相