ステム論/金融不安定性論」は、MMT(現代貨幣論)に大きな
影響を与えたMMTの先行理論の1つなのです。
MMTに影響を与えた先行理論としては、ゲオルグ・フリード
リヒ・クナップの表券主義、アルフレッド・ミッチェル=イネス
の信用貨幣論、アバ・ラーナーの機能的財政論、ウェイン・ゴド
リーの部門バランス論などに続き、ハイマン・ミンスキーの「銀
行システム論/金融不安定性論」があります。MMTは、こうし
た先行理論を統合した理論といえます。
なお、これまでMMTといえば、ステファニー・ケルトン教授
をEJでは紹介していますが、MMTの源流といえる重要人物が
います。L・ランダル・レイ氏です。現在、ニューヨークのバー
ド大学教授兼レヴィ経済研究所上級研究員をしていますが、MM
Tのテキストというべき次の書籍を上梓しています。中島剛志氏
はこの本の解説を担当しています。
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L・ランダル・レイ著/島倉原訳
中島剛志/松尾匡(解説)
『MMT現代貨幣理論入門』/東洋経済新報社
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実は、L・ランダル・レイ氏は、ミンスキー教授のティーチン
グ・アシスタント(授業助手)を務めていたことがあるのです。
そのとき、ミンスキー教授は、レイ氏に対して、次のように小言
を言ったそうですが、レイ氏はそのときのことを次のように記述
しています。
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私がミンスキーのティーチング・アシスタント(授業助手)を
務めていたとき、彼は私を自分のオフィスに呼び、「考え方は急
進的でも構わない。だが、服装はそうはいかない」と小言を言っ
た。タンクトップに短パン、ビーチサンダルという私のお気に入
りスタイルに彼は眉をひそめ、オフィスでは必ずワイシャツ、ス
ラックス、ネクタイを着用するように言ったのだ。何年か後に、
知ったのだが、実は彼も大学院生のときランゲ教授から全く同じ
小言をもらっていた。 https://bit.ly/3M5425z
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ミンスキー教授の講義は実にユニークであったものの、学生に
対しては、とてもていねいに話したといいます。ミンスキー教授
の講義の様子がユーチューブで公開されています。日本語訳は付
いていませんが、雰囲気はわかります。興味があったら、覗いて
見てください。約15分の動画です。
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ハイマン・ミンスキー教授の講義風景
Hyman Minsky in Colombia, November 1987
https://bit.ly/3jFkGN3
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ミンスキーは、資本主義というシステムは、繁栄によって安定
化せず、むしろ脆弱化するといっているんです。とくに好景気の
時に金融危機の種が蒔かれるといいます。好景気になると、人々
の心は「楽観」が支配的になり、経済全体に負債の割合が高くな
ると、ほんのちょっとした資産価値の下落でも、それが引き金に
なって金融危機が勃発し、デフレ不況に転落する──これが、ミ
ンスキーのいう「金融不安定性論」です。日本のバブル発生から
崩壊、そしてデフレ不況の状況とそっくりです。
以上のことに関連する中野剛志氏と記者の問答をご紹介するこ
とにします。この問答もそろそろ終わりです。
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――バブルとデフレとは真逆の現象ですが、本質は同じですね?
「楽観」が支配的な時期には、どんどん融資を受けて投資する
ことが経済合理的であり、その結果、バブルが生まれる。
「悲観」が支配的な時期には、節約することが経済合理的で
あり、その結果、デフレが進行する。だとすると、やはり、市
場に任せれば需要と供給が自然と均衡することはないというこ
とになりますね?
中野:そうそう。だからこそ、ミンスキーは、「一般均衡理論」
を信奉する主流派経済学から「異端視」されたわけです。
――あと、ミンスキーは、「信用創造」こそがバブルとデフレの
原因となっていると言ってるようにも聞こえます。
中野:そのとおりです。銀行が、「無」から預金通貨を生み出す
「信用創造」のメカニズムが資本主義の発展の原動力になった
わけですが、それは同時に、資本主義の構造的な不安定性の主
因でもあったわけです。
もちろん、ミンスキーは信用創造という銀行制度を否定して
いるわけではありません。彼はこう言います。「銀行制度と金
融は、我々の経済においてきわめて撹乱的な力となりうる。し
かし、動態的な資本主義にとって必要となる金融とそのビジネ
スへの対応の柔軟性は、銀行制度の過程なしには、あり得ない
のである」と。
つまり、彼は、資本主義の中核となる銀行制度を積極的に評
価していたということです。だから、社会主義者のように、資
本主義に代わる全く新しい経済システムを構築しようとは考え
ませんでした。そうではなく、本質的に不安定な資本主義を救
出するためには、どうすればよいかを考えたのです。
――常識的な考え方ですね? https://bit.ly/3Ma4kID
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やはり、日本経済再生のカギは、主流派経済学が絶対に認めな
い「信用創造」にありそうです。「信用創造」については、既に
何回も取り上げて説明していますが、MMT(現代貨幣論)の基
本の基本でもあり、明日のEJでもう一度、この問題について検
証してみたいと考えております。
──[新しい資本主義/071]
≪画像および関連情報≫
●「MMT」は誤解されている/赤字容認より重要な「完全雇
用」とは何か=佐藤一光(岩手大准教授)
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現代貨幣理論(MMT)への注目が高まっている。米国で
民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員が支
持したのを皮切りに、日本でも注目を集め、賛成・反対双方
の論者がメディアなどで持論を展開している。もっとも、M
MTには数十年にわたる議論の膨大な研究蓄積がある。
政治的オピニオンに流されるのではなく、学術的蓄積に敬
意を払って注意深く読み解く必要がある。賛否のいずれにし
ても、MMTの論理構成を正確に理解することが建設的な議
論の第一歩となろう。本稿はMMTへの批判を念頭に置いて
その提唱者のひとりであるランダル・レイの考え方について
解説する。
レイの政策的主張は、失業率をゼロにすることが中心であ
る。レイによれば、政府の財政赤字の水準を高めることで完
全雇用を実現できるという。この考え方は経済学者のアバ・
ラーナーの機能的財政(functional finance)という考え方
に基づいている。機能的財政の考え方によれば、失業が存在
しているということは財政赤字が少ない、すなわち租税負担
が重過ぎるか、政府の支出水準が低過ぎることを意味してい
る。この考え方はケインジアンの考え方に似ている。ケイン
ジアンは不況の時に失業が増加するのは有効需要が不足する
からであると考える。したがって、不況期には公共事業など
の政府支出を増加させるか、減税を行うことによって失業を
減らすことができるという。 https://bit.ly/38SqdOd
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L・ランダル・レイ氏とその著作 - コピー