2022年04月15日

●「現実に立脚した経済学は存在する」(第5712号)

 昨日のEJで取り上げたワルラスの一般均衡理論──これが新
古典派経済学を主流派の地位に押し上げた理論ということですが
必要以上に難解です。これを単行本で読むと、数式がズラリと出
てきてさっぱりわかりません。経済学部の大学生は、これには閉
口しているようです。
 要するに、ワルラスの一般均衡理論は「市場取引では需要と供
給の一致点で価格と取引量が決定される」という、当たり前のこ
いっているだけですが、ワルラスはそれを数学的に厳密な分析を
行って、均衡が存在する前提条件や均衡が決定されるまでのプロ
セスを説明しています。
 中野剛志氏にいわせると、この理論は、小難しい数学を駆使し
た理論モデルであり、数学によっていかにも「科学的な装い」を
しているだけのように見えるといっています。その点、MMTで
は数学なんか出てきませんが、非常によく現実を理解できます。
経済学はそうあるべきです。
 しかし、現実をちゃんと説明できる経済学もあります。それが
ケインズ経済学です。このケインズ経済学についての中島剛志氏
と記者の対話をご紹介します。
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──中野さんは、主流派経済学が「非現実的」な前提をもとに構
 築されている問題点を指摘されました。特に、「不確実性」を
 排除した理論体系であることが問題である、と。
中野:しかし、現実に立脚した経済学はちゃんとあるんです。た
 とえば、ケインズ経済学です。ジョン・メイナード・ケインズ
 は、ケンブリッジ大学で数学を修め、分析哲学者でもあり、ま
 た、インド省や大蔵省で役人として勤務したほか、投資家とし
 ての一面ももつ多面的な人物です。そして、彼は自らの経験や
 実社会の観察を通して、1980年代の世界恐慌に有効な手立
 てを打つことのできない主流派経済学の根本的な問題を見抜い
 たうえで、信用貨幣論をベースにした現実的な経済理論を構築
 しました。古典的な経済学を否定する理論的革新であり、「ケ
 インズ革命」と呼ばれるものです。
――20世紀において、ケインズは最も重要な人物のひとりとさ
 れていますね?
中野:ええ。まさに天才だと思います。そのケインズ理論の根底
 にある概念が「不確実性」です。彼は、人々が、将来に向かっ
 て経済活動を行うなかで、本質的に予測不可能な「不確実性」
 に直面しているという現実を出発点に、市場不均衡、有効需要
 の不足、失業、デフレは、構造的に不可避の現象であることを
 論証しました。「自由放任で市場が均衡する」という主流派経
 済学の主張を否定したんです。
  そのうえで、雇用を生み出すためには、自由市場に委ねるの
 ではなく、政府の公共投資(財政政策)によって有効需要の不
 足を解消しなければならないと主張しました。つまり、世の中
 の「不確実性」を低減するためには、国家(政府)が適切に市
 場に関与する必要があると論じたわけです。
                  https://bit.ly/3uBnzEN
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 ジョン・メイナード・ケインズは、貨幣論には力を入れており
1923年には『貨幣改革論』、1930年には『貨幣論』を発
表しています。そしてそれらを踏まえて、1936年には『雇用
・利子および貨幣の一般理論』を発表。これは、ケインズの代表
作であり、以後、ケインズ経済学と称されるようになり、経済学
の主流になったのです。
 ケインズは、古典派経済学の矛盾点を修正して伝えています。
「セイの法則」に関しては、この法則が働かない局面を想定し、
その局面での有効な経済政策を提示しています。これについて、
経済評論家の植草一秀氏は自著で、次のように述べています。
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 仕事をしたいという人がいれば、その人がなんらかの仕事につ
けるように賃金が変動する。時給1000円であれば人を雇おう
と思わない企業が、時給が800円であれば人を雇うかもしれな
い。この場合は、労働力の価格、すなわち賃金が下落することに
より、仕事を欲する労働者に仕事が行き渡るわけである。
 これに対し、たとえば、賃金などがそれほど自由に変動しない
局面では、働きたいと思う人が手を挙げても、誰も雇う企業が現
れない状態が長期北してしまうことがあるのだと、ケインズは考
えるわけだ。
 この場合には、供給量は需要の水準によって制約を受ける。つ
まり、供給能力をフルに生かすためには、政府が人為的に需要を
追加してやることによって、その遊休化してしまった供給力を生
かせると考えるのである。いわゆる裁量的な政府支出の追加=有
効需要の追加によって、失業問題を解消するという処方箋が生ま
れてくる。            ──植草一秀著/青志社刊
  『機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却/日本の再生』
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 市場にまかせておけば、見えざる神の手によって、自然に供給
と需要は一致するというのではなく、供給能力をフルに生かすた
めに、政府が人為的に需要を追加する措置をとることによって、
「セイの法則」は成立するというのです。きわめて現実的な考え
方であるといえます。
 しかし、このようなケインズ経済学に基づく裁量的な政策には
問題点もあったのです。政府が財政支出を拡大すれば、経済が浮
上しますが、その副作用として、財政赤字を拡大させてしまう側
面を持つからです。
 その結果、1970年代を通じて、各国で激しいインフレをも
たらしています。そのため、このケインズ経済学による経済政策
には見直しの機運が強まっていったのです。日本もこの経済政策
で失敗した国のひとつであるといえます。
              ──[新しい資本主義/068]

≪画像および関連情報≫
 ●生き返ったケインズ理論/今さら聞けない経済学
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   経済学の門を叩いた人は、洋の東西を問わず等しくケイン
  ズの理論を学びます。なぜなら、誰しもが学ぶ「マクロ経済
  理論」の生みの親がケインズだからです。ケインズを知らず
  して経済学を語ることなかれ、ともいわれ、世界中がケイン
  ズの理論を用いて経済政策を立案してきました。
   しかし1970年代の中頃、経済理論家の中の「マネタリ
  ズム」と呼ばれる理論を推し進めたグループは、「世界はも
  はやケインズ理論を必要としないし、ケインズの理論はむし
  ろ古くて間違ってさえいる」「ケインズ理論は死んだ」とい
  う意見を唱えるようになりました。ところが20世紀末から
  21世紀に入って世界経済が危機的状態に突入したことで、
  再びケインズ理論は生き返ったとも言われています。今回は
  こうしたケインズ理論の変遷を考えてみましょう。
   ケインズが世界経済の再生を主張し、さっそうと現れたの
  は30年代の初めで、世界経済が「大不況の嵐」に直面して
  いる時でした。この大恐慌から世界経済を立て直すためにケ
  インズは、経済の再生・拡大には、まず、「物がどんどん売
  れる」ということが何よりも重要であると強調したのです。
  つまり、人びとの旺盛な購買力があってこそ、その国の生産
  力は増強され、より生産規模は拡大するものだということ。
  旺盛な購買力とは、その国で作りだされる物とサービスを人
  びとがどんどん買うことを意味し、それを経済学では、「需
  要」と呼びます。        https://bit.ly/3E7GZo9
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ケインズ.jpg
ケインズ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする