2022年04月14日

●「レオン・ワルラスの一般均衡理論」(第5711号)

 「セイの法則」に関連して、もう一人どうしても紹介しなけれ
ばならない人物がいます。現在の主流派経済学に深く関係する人
物です。それは、レオン・ワルラス(1834年〜1910年)
というフランスの経済学者です。ワルラスは、次の2つのことを
提唱した人物です。これらは、「セイの法則」が成り立つことを
前提として構築された理論といえます。
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           @ワルラスの法則
           A 一般均衡理論
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 第1は「ワルラスの法則」です。
 ワルラスの法則とは、「各経済主体の予算制約条件を総計する
と、全ての財の需要量と供給量の価値額は常に等しくなる」とい
う法則のことです。
 簡単にいうと、完全競争の市場においては、一方の市場におい
て「超過需要」(品不足)が生じているときは、もう一方におい
て「超過供給」(売れ残り)が必ず生じていると仮定するのが、
ワルラスの法則です。
 第2は「一般均衡理論」です。
 上記ワルラスの法則に基づいて、完全競争下では、社会全体に
おける財市場は、最終的に需要と供給が均衡状態に至るというの
が「一般均衡理論」です。
 このレオン・ワルラスがどのような人物であり、主流派経済学
にどのような貢献をしたかについては、中島剛志氏と記者のやり
とりを読むとよくわかるので、ご紹介します。
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中島:なかでも重要なのが、ワルラスです。彼は「セイの法則」
 が成り立つことを前提として、経済全体の市場の需給が均衡す
 ることを数理的に体系づけた「一般均衡理論」を確立すること
 で、新古典派経済学を主流派の地位へと押し上げた人物です。
  そして、主流派経済学は、今日もなお、ワルラスが確立した
 「一般均衡理論」から出発して、分析を精緻化させたり、拡張
 させたりしているんです。
  1980年代以降、主流派経済学の世界では、この「一般均
 衡理論」を基礎としたマクロ経済理論を構築しようとする試み
 が流行しました。経済全体を扱うマクロ経済学も、「一般均衡
 理論」で全部説明してしまおうというのです。
  この試みは、「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」と呼ばれ
 ています。これは、簡単に言えば、経済全体(マクロ)に生じ
 るあらゆる現象を個人(ミクロ)の合理的行動から説明すると
 いう考え方です。世の中に起こることはすべて個人の合理的選
 択の結果だという想定になります。
──本当ですか?僕自身、合理的選択ができているとは思えない
 ですが・・・。
中野:でも、そう想定しているのです。それで、この「マクロ経
 済学のミクロ的基礎づけ」の挑戦から、RBCモデル(実物的
 景気循環モデル)、さらにはDSGEモデル(動学的確率的一
 般均衡モデル)という理論モデルが開発され、1990年代以
 降のマクロ経済学界を席巻することになりました。
  DSGEモデルは、小難しい数学を駆使した理論モデルで、
 いかにも科学的な装いをしています。しかし、問題なのは、こ
 の理論モデルの基礎にあるのが「一般均衡理論」だということ
 です。
――「一般均衡理論」が、仮説にすぎない「セイの法則」を前提
 にしたものだから問題だと?
中野:そうです。ワルラスは、一般均衡理論を構築するにあたっ
 て、消費者と生産者の取引の量やタイミングはすべて正確に知
 られているという仮定を導入していました。取引における一切
 の「不確実性」がないものとしたんです。別の言い方をすれば
 市場の一般均衡が実現するのは、デフォルトという事態が起き
 得ない世界においてなのだということです。
――だとすれば、あまりに仮想的な話ですね・・・。
                  https://bit.ly/3xhqVid
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 要するに、ワルラスの一般均衡理論は、少し難しくいうと、変
動する現実をある一時点でせき止め、与件を固定化し、そこにお
いて競争を徹底的に行うと、社会全体がこれ以上変化しない均衡
状態に至るとした理論です。
 しかし、そのような市場は実際に存在するでしょうか。
 実際のビジネス上の取引は、同時的に行われる物々交換とは大
きく異なります。製造業であれば、製品を製造する時点と製品を
売る時点が異なる時点間で行われます。製造するための機械の搬
入や原材料の調達、社員の雇用も必要です。すなわち、ビジネス
は、それぞれ異なった時点間で行われるのが通例です。そこには
時間というものが存在しているのです。
 そういう状況において、モノやサービスを受け取る人や企業に
は、必然的に「負債」が発生しますが、将来は何が起きるかわか
らないので、「負債」には常にデフォルトの可能性があります。
この不確実性を克服しなければ、経済活動が活発化することはな
いのです。そこに貨幣が必要になってくるのです。
 一般均衡理論は前提として、売買において不確実性がなく、デ
フォルトの可能性がないのであれば、「信頼の欠如」という問題
を克服する必要もなくなります。そうであるとすると、貨幣とい
うものは不必要になるわけです。つまり、ワルラスの一般均衡理
論では貨幣というものは存在しないのです。
 これに対して、ジョン・メイナード・ケインズは、ワルラスの
一般均衡理論で想定されている経済が現実の市場と大きく乖離し
ていることを強く批判し、ワルラス流の価格決定モデルは非現実
的であると強く批判したのです。
              ──[新しい資本主義/067]

≪画像および関連情報≫
 ●量的緩和の理論的根拠としての「ワルラス法則」
  武田真彦氏
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   量的・質的金融緩和(QQE)の下で大胆な量的緩和が実
  行されたにもかかわらず、マネーサプライに目立った影響が
  及ばなかったことを第4回に示した。これはリフレ派の想定
  する「マネタリーベース→マネーサプライ→物価・景気」と
  いう重要な政策波及経路が、ワークしなかったことを意味し
  ている。
   この経路はその第1段階(マネタリーベース→マネーサプ
  ライ)で頓挫しているので、第2段階(マネーサプライ→景
  気・物価)を論じる意味は乏しいかもしれない。しかし、リ
  フレ派の主張を評価するためには、彼らが第2段階について
  何を言っていたかも検討する必要がある。そこで今回は、リ
  フレ派が量的緩和の根拠としてきた「ワルラス法則」につい
  て説明する。
   リフレ派は「ワルラス法則」に言及しつつ、「日銀がより
  多くの貨幣を供給して貨幣の超過需要を解消すれば不況や失
  業を解消できる」と主張してきた。事の発端は、2010年
  2月16日、衆院予算委で山本幸三議員(自民)がした質問
  と、白川方明総裁(当時)による答弁である。ここにその要
  点を再現しよう。
  山本:「今、GDP(国内総生産)ギャップが35兆円ぐら
   いあるといわれていますね。物の世界で35兆円の超過供
   給の状況だ。そうするとお金の世界ではどうなるんだと。
   ワルラスの法則というのがありますね、ワルラスの一般均
   衡。これは、あなたはご存じでしょうけれども、どういう
  ことになるか分かりますね」   https://bit.ly/3E3Fg38
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レオン・ワルラス.jpg
レオン・ワルラス
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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