指針について説明してきましたが、ロシアによる2月24日から
のウクライナ侵攻について、プーチン大統領の決断に影響を与え
たとみられる、ある論文が注目を集めています。それは、ロシア
の極右地政学者、戦略家として知られるアレクサンドル・ドゥー
ギン氏による次の論文です。
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アレクサンドル・ゲレヴィチ・ドゥーギン著
『地政学の諸基盤─ロシアの地政学的将来』
“The Foundations of Geopolitics:
The Geopolitical Future of Russia”
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この論文が話題になったきっかけは、米ワシントン・ポスト紙
が、3月22日に今回のロシアによるウクライナ侵略にからみ、
著名コラムニスト、デービッド・フォン・ドレール氏による「プ
ーチンの思想基盤」と題する論考を掲載したことにあります。
ドゥーギン氏の論文は、2014年にプーチン大統領が軍事力
投入によって奪ったウクライナ南部のクリミア併合の直後、国際
オピニオン雑誌『フォーリン・アフェアーズ』で詳しく取り上げ
られ、欧米諸国で話題になっていたのです。
ドレール氏は、ワシントン・ポスト紙において、プーチン大統
領がどのような考え方のもとにウクライナ侵攻に踏み切ったのか
について、次のように述べています。少し長いですが、プーチン
大統領が、なぜウクライナ侵攻を決断したのかがよくわかるので
そのまま以下にご紹介します。
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◎プーチン大統領は、ウクライナ侵攻開始3日前の去る2月21
日、国民向け演説で、ウクライナ国家および国民の存在を否定
する演説を行い、その真意を測りかねた西側専門家たちを困惑
させた。しかし、発言は決してタガの外れたものではなく、実
はファシスト的予言者であるアレクサンドル・ドゥーギンなる
人物の所業を踏まえたものだった。プーチンの頭脳≠ニもい
われるドゥーギンは、欧州では、30年近く前から新右翼とし
てその名が知られ、米国においても、極右思想家の評判が高か
った。
◎ドゥーギンは、欧州とアジアをリンクさせたユーラシア統合が
ロシアの戦略目標であるとの観点から、ライバルである米国に
おいては、人種的、宗教的、信条的分裂を醸成させると同時に
英国についても、スコットランド、ウェールズ、アイルランド
間の歴史的亀裂拡大の重要性を唱えてきた。
英国以外の西欧諸国については、ロシアが保有する豊富な石
油、天然ガス、農産物などの天然資源を餌食にして自陣に引き
寄せ、いずれ北大西洋条約機構(NATO)自体の内部崩壊に
いく、とも論じてきた。
◎プーチンはまさに、この指示を忠実に見守ってきた。米国では
極右活動家グループが連邦議事堂乱入・占拠事件を引き起こし
英国はEU離脱を実現させ、ドイツはロシア産天然ガスへの依
存を強めてきた。これらの動きに気を良くしたプーチンはドゥ
ーギンの作成したプレイブックの次のページに目を転じ、「領
土的野心を持った独立国家としてのウクライナこそが、全ユー
ラシアにとっての大いなる脅威となる」と宣言、今回侵略に踏
み切った。
◎プーチンがいずれ、仮にウクライナにおけるロシア問題≠
処理できたとして、次に目指すものは何か?ドゥーギンが描く
構図によれば、今後、ドイツがロシアへの依存度を一段と高め
ることによって、欧州は次第にロシア圏とドイツ圏へと分断さ
れていく。英国は(EU離脱後)ボロボロの状態となり、ロシ
アは漁夫の利を得ることで「ユーラシア帝国」へと拡大・発展
していく・・・というものだ。
◎ドゥーギンはさらに、アジア方面についても、ロシアの野望を
実現するために、中国が内部的混乱、分裂、行政的分離などを
通じ、没落しなければならないと主張する一方、日本とは極東
におけるパートナーとなることを提唱する。
つまるところ、ドゥーギンは第二次大戦後の歴史の総括とし
て、もし、ヒトラーがロシアに侵攻しなかったとしたら、英国
はドイツによって破壊される一方、米国は参戦せず、孤立主義
国として分断され、日本はロシアのジュニア・パートナー
として中国を統治していたはずだ、と論じている。
https://bit.ly/3LLpCvW
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以上のデービッド・フォン・ドレール氏の論考によると、プー
チン大統領が、ドゥーギン氏の「新ユーラシアリズム」を参考に
して、ウクライナ侵攻を決断したことはほぼ間違いないと考えら
れます。それならば、ウクライナ侵攻開始後、40日を過ぎてい
るのに、まだ目標を達成していないのはなぜでしょうか。
ロシアは、サイバー攻撃が得意な国というイメージがあります
が、プーチン大統領自身は、スマホもPCも使えない、ITオタ
クといわれています。部下への命令も固定電話で行い、執務室に
は固定電話がズラリと複数並んでいるだけだそうです。
一方、ウクライナは、「東欧のシリコンバレー」といわれるほ
ど、ITが発達している国です。今回のロシアによるウクライナ
侵攻で、ウクライナが大国ロシアの進撃に対し、意外に強い抵抗
を示しているのは、もちろん、欧米による最新兵器の提供の効果
もあるものの、ウクライナの30万人ともいわれる「IT軍」が
バックグラウンドで戦況を支えているからです。ロシアは情報戦
ではウクライナに完敗しています。
ロシアは、そういうウクライナに対して、ソ連時代の旧態依然
たる戦法で攻め込んだのです。それが戦況が思わしくない原因と
されているのです。確かにロシア軍は弱いです。
──[新しい資本主義/063]
≪画像および関連情報≫
●なぜロシア軍は弱いのか…ウクライナの頑強な抵抗を支える
対戦車砲「ジャベリン」は勝利の象徴
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ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が「弱すぎる」との見方
が強まっている。報道によればNATO(アメリカ軍中心の
軍事同盟)関係者は、この1カ月で7000〜1万5000
人のロシア兵が死亡したと推定しているという。ロシアのタ
ブロイド紙『コムソモリスカヤ・プラウダ』も、ロシア兵、
9861人が死亡、1万6153人が負傷したと報じている
(現在は削除済み)。
ロシアは、侵攻を始める直前、ウクライナとの国境付近に
15万人以上の兵を集結させ、軍事訓練をおこなった。しか
し、アメリカ国防総省によると、現在のロシア軍は、侵攻前
と比較して10%以上の戦力を喪失している可能性があると
いう。長期化する戦いのなかで、ロシア軍の将校6人が死亡
したとされている。ウクライナで指揮を執る将校は20人程
度とされており、この情報が確かなら3割が死亡した計算に
なる。ロシアの軍事力は世界2位と言われ、約7兆2600
億円の年間軍事予算を誇る。約4800億円のウクライナを
圧倒してもいいはずなのに、なぜここまで苦戦しているのだ
ろうか。
ロシア軍が停滞する理由について、軍事ジャーナリストの
黒井文太郎氏は、「管理がうまくできていないことによる混
乱」と語る。「まず、電子戦がうまくいっていません。通常
だったら、自分たちが安全に電波を使えるようにして、相手
は使えないようにする。それがロシア軍は全然できていない
んです。たとえば、ウクライナ側が普通にドローンを飛ばし
てロシア側の偵察ができている。電子戦を徹底すれば、ドロ
ーンなんて飛ばせないはずです」 https://bit.ly/3xchLDs
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アレクサンドル・ドゥーギン氏