2022年04月05日

●「ユーラシア大陸の覇者が世界制覇」(第5704号)

 3月12日のBSフジの番組「プライムニュース」での出来事
です。この番組の反町MCが、ロシアの軍勢は圧倒的多数であり
ウクライナは、とても勝てるとは思えないのに、市民の多くが命
を失う状況において、ゼレンスキー大統領は「なぜ、降伏しない
のか」と不思議そうにコメントしたのです。
 そのときコメンテーターの一人として出演していた軍事評論家
の小泉悠氏は、半ば呆れたように「反町さんは、たとえ勝てそう
もない相手でも、何とか自分の国を守ろうと必死にがんばってい
ることがそんなに不思議なことなのですか。自国が侵略を受けて
いるときに、国民として戦うのは当然のことじゃないですか」と
反論するシーンがあったのです。
 この反町MCと同様の発言をしている元大都市の著名な知事も
いますが、平和ボケの権化といえます。現代の日本人の多くがこ
のように考えているのでしょうか。実に情けない限りです。小泉
悠氏の発言は、至極当然のことであると私は思います。
 もし、中国軍が大挙して尖閣諸島に進出してきたときに、日米
同盟があっても米国は、積極介入を躊躇うのではないかと思われ
ます。なぜなら、尖閣諸島は日本の領土であっても、人の住んで
いない無人島であるし、やはり第3次世界大戦になることを米国
は何よりも恐れているからです。
 やはり、日本は「自分の国は自分で守る」という気概を持つべ
きであり、軍事費の増強などに取り組むべきです。2000年代
に、中国が軍事費を年率2桁台のペースで増大させていたにもか
かわらず、平和ボケしている日本は、財政再建を優先するために
防衛費を削減したのです。2003年以降の10年間で中国が軍
事費を3・89倍にしたのに対して、日本の防衛費は0・95%
と逆に減額していたのです。
 これに関連して、中野剛志氏が指摘している歴史的事実があり
ます。第2次世界大戦が起きる前のイギリス、フランス、ドイツ
の関係です。中野氏は次のように述べています。
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 第1次大戦後のフランスは、金本位制の下でフランの価値を維
持するために均衡財政を志向していたため、1930年から33
年にかけて軍事費を25%も削減し、1930年の軍事費の水準
は1937年まで回復しませんでした。これに対して、1933
年から38年までの間、ナチス・ドイツは軍事費を470%も増
やしたんです。
 イギリスも同様です。当時のイギリスの政府内では大蔵省の影
響力が支配的で、外務省がヨーロッパにおける政治的危機に対す
る積極的な関与を主張しましたが、大蔵省はこれに反対して宥和
政策を唱えて、外務省を抑えました。しかも、大蔵省は、財政上
の理由から、1939年3月まで陸軍の拡張に反対し続けたので
す。このように、健全財政論のイデオロギーがフランスやイギリ
スを縛っていたためにヨーロッパの勢力均衡の崩壊とナチス・ド
イツの台頭を招いて、それが第2次世界対戦の勃発へとつながっ
ていったんです。          https://bit.ly/3LoNpBE
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 ズビグネフ・ブレジンスキーという人がいます。カーター政権
の国家安全保障担当の大統領補佐官や、オバマ政権の外交顧問な
どを務め、米国外交に隠然たる影響力をもった政治学者です。彼
は、地政学的な観点から、ソ連崩壊後の世界の動きを洞察し、米
国外交の基軸にしていた人物です。
 ブレジンスキーは、英国の地理学者で政治家のハルフォード・
マッキンダー卿の「ハートランド論」に着目したのです。ハート
ランドというのは、東ヨーロッパ(ユーラシア大陸)の中核地域
のことで、次の仮説を立てています。
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   ユーラシア大陸の支配者こそが世界の支配者になる
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 ブレジンスキーは、この仮説を前提に1991年12月のソ連
崩壊によって、米国としては、西側からはNATO、南側からは
中東諸国との同盟、東側からは日米同盟の3方向からユーラシア
大陸を取り囲み、ユーラシア大陸にはいない米国が、覇権国家と
して、そこを支配するという壮大な構図を描き、それを外交の指
針にしたのです。
 米国のこの外交方針に基づいて、グローバル化の時代が、はじ
まったといえます。グローバル化とは、資本や労働力の国境を越
えた移動が活発化するとともに、貿易を通じた商品・サービスの
取引や、海外への投資が増大することによって世界における経済
的な結びつきが深まることを意味します。
 問題は、ユーラシア大陸の西側を占めるロシアの覇権を封ずる
ことです。そのため、EUとNATOを東に展開し、ロシアの覇
権を牽制しようとします。このとき、重要な地域になるのがウク
ライナです。米国としては、ウクライナを何とか西側に帰属させ
ロシアを民主国家化させるべく働きかけます。現在、まさにこの
地域において、ロシアとウクライナの紛争が起きているのです。
ロシアとしてはウクライナをむざむざと西側陣営に渡すことは自
国の破滅につながると考えて戦争を起こしたのです。
 ユーラシア大陸の東側においては、日米同盟によって中国の領
土的な野心を牽制しつつ、東アジアを安定化させる地域大国であ
る中国と米国との協調関係を維持・構築させます。これによって
米国は、東アジアにおいて米中日の勢力均衡を保つバランサーの
役割を演じるべきであるとブレジンスキーは論じたのです
 確かに、世の中はブレジンスキーの予測したように、動いてい
るように見えたのですが、必ずしも米国の思惑通りの展開には、
なっていないのです。
 まず、一番大きな誤算は、このところ米国の覇権が目に見えて
衰えてきていることです。それに中国の台頭です。中国は経済的
にも軍事的にも米国を上回る勢いで、目下国力を伸ばしてきてい
ます。           ──[新しい資本主義/061]

≪画像および関連情報≫
 ●米外交に潜む独善性 対中政策を転換させた男が警鐘
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   ホワイトハウスに陣取る外交・安全保障政策の司令塔(国
  家安全保障担当大統領補佐官=ナショナル・セキュリティー
  ・アドバイザー)といえば、読者の多くはヘンリー・キッシ
  ンジャー氏(ニクソン政権およびフォード政権、98歳)や
  ズビグニュー・ブレジンスキー氏(カーター政権、故人)を
  思い浮かべるかもしれない。2人とも退任後も論客として鳴
  らし、著書の大半が日本語に翻訳された。
   このポストをトランプ政権の前半、2017〜18年に務
  めた、ハーバート・レイモンド(H・R)・マクマスター氏
  (59歳)も骨太の論理構成と透徹した歴史観を基に国家安
  全保障会議(NSC)を切り盛りした。陸軍中将にして歴史
  学者でもある同氏が任期中を振り返りつつ、アメリカと世界
  が現在、直面する数々の脅威を鋭く分析した『戦場としての
  世界:自由世界を守るための闘い』の日本語版が日本経済新
  聞出版から刊行された。訳者の村井浩紀・日本経済研究セン
  ター・エグゼクティブ・フェローに、読みどころを語っても
  らった。
   トランプ政権は2017年12月に発表した文書、「国家
  安全保障戦略」で中国を競争相手と明記し、それまでの歴代
  政権が続けてきた「関与政策」に終止符を打った。党派によ
  る分断が著しい米国にあって、この対中強硬策に対する支持
  は超党派で広がり、現在のバイデン政権にも引き継がれてい
  る。つまりマクマスター氏が率いていた当時のNSCのチー
  ムが米国の対中戦略の歴史的な転換を実現させた。
                  https://bit.ly/3iYkk3M
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スビクネフ・ブレジンスキー氏.jpg
スビクネフ・ブレジンスキー氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(3) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする