ジョセフ・E・スティグリッツ・米コロンビア大学教授が来日し
安倍政権下の経済財政諮問会議に出席しています。2017年3
月14日のことです。
実は、このときとは別の会合で、スティグリッツ教授は、経済
財政諮問会議で安倍首相にある提言をしたことを話しているので
す。その席には、伊藤隆敏コロンビア大学国際・公共政策大学院
教授と、フォーブス・ジャパン編集長の高野真氏が同席していた
そうです。そのやりとりの一部をご紹介します。
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高野:スティグリッツ教授は最近(3月半ばに)来日され、安倍
晋三首相に面会されたそうですね。何を提案されたのですか。
スティグリッツ:主に第3の矢(成長戦略)についてだ。金融政
策が限界に達している、と。マイナス金利を導入した国の中で
も、日本の政策は最も思慮深いといえる。
伊藤:3階層構造方式の金利適用だ(注:基礎残高がプラスの金
利、マクロ加算残高がゼロ金利、政策金利残高=日銀当座預金
がマイナス金利)。
スティグリッツ:非常に熟考されたものとはいえ、政策金利に重
要な役割をゆだねることには懐疑的だ。米国では5%からゼロ
金利に下がったが、投資も増えず、大した効果が出なかった。
ゼロからマイナスとなれば、なおさらだ。欧州でも機能すると
は思えない。(中略)政府債務の期間構造も変えるべきだ。永
久債の発行で金利上昇時の政府債務リスクが減り、景況感も高
まる。また、日本銀行が保有する国債の無効化も提案した。
伊藤:無効にすることなどできない。
スティグリッツ:いや、可能だ。できる。
https://bit.ly/3tHJiKL
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このやりとりのなかで、スティグリッツ教授が「日本銀行が保
有する国債の無効化も提案」といっていますが、この「無効化」
は財務省の誤訳ではないかと高橋洋一氏はいっています。「無効
化」は「cancelling」を訳したものですが、これは「相殺する」
とすべきです。わざとか英語が下手なのかわかりませんが、意味
をかえってわからなくしています。
ちなみに、このとき、スティグリッツ教授は、「消費税の増税
はしない方がよい」と提言していますが、安倍首相は、聞く耳を
もっていませんでした。
ところで、「日本銀行が保有する国債の無効化も提案」とは具
体的にどういうことでしょうか。これについての伊藤教授と、ス
ティグリッツ教授とのやりとりは次の通りです。
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伊藤:永久(に利息がつかない)ゼロクーポン債に組み替えると
いうことか。
スティグリッツ:そのようなものだ。日銀保有の国債の40%以
上を日本政府が保有しているのだから、左ポケットに負債を抱
え、右ポケットに債権を持っているようなものだ。
伊藤:だが、政府と日銀のバランスシートを統合すると、日銀の
負債(銀行券)が政府の負債になる。
スティグリッツ:日本の政府債務残高は対国内総生産(GDP)
比で230%だが、ほとんどが国内資金によって買い支えられ
ている。公的部門に保有されている国債を差し引くと、実質的
には140%程度だ。永久債に組み替えれば、十分対処可能な
範囲である。これは、経済学の基礎理論にのっとった提言だ。
高野:理論上は素晴らしいが、実際には、かなり難しいのではな
いか。
スティグリッツ:いや、私の提言は人々に自信を与えるだろう。
金融にさほど明るくない人は230%という数字に驚くが、方
策は多い。 https://bit.ly/36TUQS8
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「永久債」という考え方もあります。永久債とは、償還期限の
定めがない債券のことです。特徴として永久に利子(クーポン)
が支払われます。通常の債券よりも利率が高めに設定されている
ことが多く、投資家は長期にわたって高い利回りを得ることがで
きるとされています。
スティグリッツ教授は「永久債と長期債で債務を再構築したら
どうか」といっているのです。仮に100年先に償還が訪れる国
債であれば、少なくとも3世代くらいは、償還費の心配のないこ
とになります。
元本が返ってこない国債が果たして売れるのかという疑問があ
ります。これに関して高橋洋一氏は次のように反論しています。
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ここで「元本が戻ってこない国債に、お金を出すところなんて
あるのか」という疑問が浮かぶかもしれないが、はっきりいって
素人丸出しの考えである。こういう話で「元本が戻ってくるかど
うか」が気になって仕方ない人には、投資はおすすめしない。
投資で重要なのは、どちらかというと元本より利子である。仮
に100万円を投資したなら、その利子がいつ、どれくらい入っ
てくるかというキャッシュフローで考えれば、元本が戻ってくる
かどうかなど、二次的な問題に過ぎない。
──高橋洋一著/あさ出版
『99の日本人がわかっていない新・国債の真実』
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永久債をやっている国はあるのでしょうか。実はさくさんある
のです。リーマンショックのあった2008年以前は、英国など
の先進国で行われていますが、近年では、新興国での発行も、目
立っています。大和総研のレポートによると、なかでも、中国の
2009年以降の累計発行額は878億ドルと世界で最大になっ
ています。だからこそ、スティグリッツ教授が日本に対して提案
したのです。 ──[新しい資本主義/057]
≪画像および関連情報≫
●「財政をめぐる7つのウソ」/大石久和氏
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今回は、思想遍歴の紹介は一時休止にして、正しい財政認
識を獲得するための説明をしたい。この欄でも何度か財政を
論じてきたが、ここにまとめて示すのは、全建会員が正しい
理解を獲得し、安心と自信を持って業務に邁進してほしいか
らである。公共事業=インフラ整備などをやるために建設国
債を発行し続けても、財政破綻など論理的に起こり得ないの
だが、それを否定する「財政破綻論」ばかりがメディアを駆
け巡り、インフラの整備水準が他の先進国から劣後する状況
がつくられてきた。この財政破綻論は、ウソで塗り固められ
ていると言ってもいい状況なのだが、すべてのメディアがウ
ソを垂れ流しているから、人々もすっかりだまされている。
是非一度頭のリセットボタンを押してお読みいただきたい。
(これについての詳しい説明は、筆者(会長)が出演する全
建の講習会で行うこととしているので、楽しみにして参加し
ていただければ幸いである)塗り固められた7つのウソこれ
らのウソとは次に示すとおりである。@「財政を家計にたと
えると」のウソ、A「国の借金」のウソ、B「借金1000
兆円」のウソ、C「国債は後世へつけ回し」のウソ、D「消
費増税しかない」のウソ、E「健全財政が正しい」のウソ、
F「このままでは財政は破綻する」のウソこう並べてみると
財政説明はウソだらけ なのだ。 https://bit.ly/3LjkIWO
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伊藤隆敏教授/スティグリッツ教授/高野編集長