2022年03月22日

●「少な過ぎる日本の生産的政府支出」(第5694号)

 デービット・アトキンソン氏という人がいます。この人は日本
人以上に日本に精通している在日英国人の経営者です。元々は、
ゴールドマン・サックスのアナリストでしたが、茶道に打ち込み
長野県軽井沢町に所有する別荘の隣家が日本の国宝や重要文化財
などを補修している小西美術工藝社社長の家だった縁で、経営に
誘われて2009年に同社に入社し、2010年5月に会長に就
任している人物です。
 なぜ、日本経済は成長しないのか──これに関して、アトキン
ソン氏は次のように答えています。
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 日本は、人口減少と「3大基礎投資」の不足が要因となり、賃
金が上昇せず、経済が成長しない状態に陥っています。この状況
から脱却するには、
 「研究開発」
 「設備投資」
 「人材投資」
という「3大基礎投資」を喚起し、経済を成長させ、その成果で
賃金を上昇させるための経済政策が求められます。つまり、長期
的な経済成長や賃金の引き上げは、あくまでも投資によってのみ
実行できるという経済学の大原則を忘れてはいけないということ
です。           ──デービット・アトキンソン氏
                  https://bit.ly/3MYeAF1
─────────────────────────────
 アトキンソン氏によると、政府の財務支出には、次の2つがあ
るのです。
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  A生産的政府支出   Productive Government Spending
  @移転的政府支出 non-Productive Government Spending
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 「生産的政府支出」とは、民間企業の生産性に影響を与え、経
済成長に貢献する支出のことです。そのなかには、インフラ投資
や教育が含まれます。「非生産的政府支出」とは、簡単にいうと
社会保障費のような「移転的支出」を意味します。
 添付ファイルを見てください。これは1980年から2019
年までの政府支出の割合を示しているグラフです。赤は移転的政
府支出、青は生産的政府支出をあらわしていますが、2000年
頃から移転的政府支出は増えていますが、生産的政府支出は横ば
いになってます。これについて、アトキンソン氏は次のようにコ
メントしています。
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 GDPに対する日本の政府支出の割合は、他国と比較しても決
して低いわけではないのですが、社会保障費以外の予算が異常に
少ないのです。日本では生産年齢人口の減少と高齢化が同時に進
んでいるため、政府支出のうち社会保障費の金額が大きく膨らん
でいます。特に2000年あたりから社会保障費は大きく増えて
いるのに、生産的政府支出(PGS)は抑制されて、ほとんど増
えていません。
 社会保障費などは「移転的政府支出」と呼ばれ、経済成長には
貢献しないと分析されています。一方、インフラ投資、教育や基
礎研究などの政府支出は、経済全体の質の改善・向上につながる
ので、「生産的政府支出(PGS)」と位置づけられ、経済成長
率の改善に寄与することが確認されています。
              ──デービット・アトキンソン氏
                  https://bit.ly/3CVh6XT
─────────────────────────────
 生産的政府支出の先進国の対GDP比の平均は24・4%、途
上国平均ですら20・3%ですが、日本のそれは実に10%以下
です。日本は、高齢者率が世界一高いということも影響している
と思いますが、それにしても低すぎます。
 多くの日本人は、日本という国を実際よりも小さな国と考えて
います。しかし、日本は1億人以上の人口を抱えた世界第11位
の人口大国であり、GDPは560兆円、それに世界第3位の経
済大国です。
 これだけの大国の経済を動かすには、相当規模の金額が必要な
のですが、財務省が仕掛けた「対GDP比256・2%の借金大
国」というプロパガンダに怯えて、投資すべきものに思い切って
投資してこなかったのです。基本的には、入ってくる税収の範囲
内で政府支出をすべしというプライマリーバランスなどに縛られ
ていると、日本はますます貧しい国になりつつあります。
 ここで考えるべきことがあります。政府の支出(歳出)に関し
て多くの人が抱いているイメージは、国には大きな財布というも
のがあって、政府の支出は、その財布から行っているというもの
です。これ、家計の考え方と同じです。しかし、この考え方はお
かしいのです。
 「財政法」の第5条に次の規定があります。
─────────────────────────────
財政法第5条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれ
 を引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行から
 これを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合、
 において国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない。
─────────────────────────────
 この条文の趣旨は、政府は国債の発行に当たって、それを日本
銀行に直接引き受けさせてはならないとしています。もっと専門
的にいうと、政府が貨幣の発行を財源に支出を行ってはならない
ということです。これは「財政ファイナンス」といって、禁じ手
になっています。
 しかし、政府が予算を執行するとき、政府短期証券を発行して
それを日銀に買わせて、財源を賄っています。これは、財政ファ
イナンスではないのでしょうか。
             ──[新しい資本主義/第051]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人の知らない経済政策「PGSを増やせ!」
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   財政出動については必要性を訴える人がいる一方で、反対
  の声を上げるエコノミストも少なくありません。そこで今回
  は財政出動に反対する人の意見を検証し、両者の妥協点を探
  ります。
   特に記事後半の「生産的政府支出(PGS)」の議論に注
  目していただきたいと思っています。「政府支出は経済成長
  に対してマイナスである」という当時のコンセンサスを大き
  く変えたPGS論文が1990年に発表されたことは、日本
  にとってきわめて大切な新しい論点です。
  「反対意見1:政府支出を増やすと、生産性が上がっても、
  労働生産性は上がらない」
   まずはこの意見から説明します。
   改めて、生産性の本質を確認しましょう。生産性は、創出
  された付加価値の総額(=GDP)を全国民の数で割ったも
  のです(1人あたりGDPとも言われます)。さらに分解す
  ると、付加価値総額を働いている人数で割った金額(=労働
  生産性)に、全国民に占める働いている人の比率(=労働参
  加率)をかけたものが生産性です(生産性=労働生産性×労
  働参加率)。労働生産性が1000万円で、労働参加率が、
  50%であれば、生産性は500万円となります。
                 https://bit.ly/3MWygce
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社会保障ばかり増えている.jpg
社会保障ばかり増えている
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする