2022年03月04日

●「プーチンには3つの誤算があった」(第5683号)

 ウクライナ問題を今日も取り上げます。プーチン大統領の3つ
の誤算の話を続けます。「第1の誤算」については説明が終わっ
ているので、「第2の誤算」から説明します。
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    第1の誤算
     ウクライナ軍の戦力を過少に評価したこと
  → 第2の誤算
     ゼレンスキー大統領の評価を間違えたこと
  → 第3の誤算
     ロシア軍兵士の士気がきわめて低いレベル
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 第2の誤算について考えます。
 プーチン大統領にとっておそらく最大の誤算というべきは、ウ
クライナのゼレンスキー大統領の人物評価を間違えたということ
でしょう。ゼレンスキー氏は、もともとショービジネスの世界を
通じて、ロシアとも深いつながりがあったコメディー俳優であり
いわば政治のズブの素人だった人です。
 そのゼレンスキー氏を大統領の座に押し上げたのは、「既存の
政治家には国を変えられない」という有権者の強い思いがあった
からで、2019年4月の大統領選の得票率は73%で、現職ポ
ロシェンコ氏を50ポイント近く引き離す大勝利だったのです。
 しかし、就任後はこれといって目立った実績がなく、ロシア侵
攻前の支持率は20%台と低迷していたのです。やはり、政治の
素人のマイナス面がもろに出たという感じです。
 こういうゼレンスキー大統領を見て、プーチン大統領は、この
男なら、ロシアが本気で戦争を仕掛ければ、たちまち国外に逃げ
出すだろうと考えたのです。そうすれば、首都キエフは簡単に落
ちると計算したのでしょう。
 実際に、バイデン米大統領から、国外脱出なら航空機を用意す
ると打診されたそうですが、ゼレンスキー大統領は、「私が必要
としているは弾薬であり、脱出のための足ではない」と拒否し、
今や「国家指導者に求められる最大の責務である国民の保護のた
めに、キエフの地下のシェルターから、ユーチューブを通して、
連日国民を励まし続け、多くの国民の支持を集めています。今や
彼に対する国民の支持率は91%、12月の調査の3倍に達して
いるといわれます。
 第3の誤算について考えます。
 ゼレンスキー大統領の勇気ある行動に勇気づけられたウクライ
ナ軍と国民のモラールアップとは対照的に、大挙侵攻してきてい
るロシア軍の士気が非常に低いのです。その理由として、考えら
れるのは、次の3つです。
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       @ウクライナ侵攻作戦の不徹底
       A兵站体制が不十分/食糧不足
       B装備が古く、各地で敗戦続出
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 第1は「ウクライナ侵攻作戦の不徹底」です。
 ウクライナに向かうロシア軍の多くは、どうやら今回の作戦の
趣旨が知らされていないようです。何のためにイスラエルに来て
いるかわからない兵士も多いといいます。精強として知られるロ
シア軍としては考えられないことです。それは作戦の決定過程に
あるようです。これについては後述します。
 第2は「兵站体制が不十分/食糧不足」です。
 そもそも一週間で片付くと考えていた戦争が今日まで延びてい
るのです。軍を後方で支える兵站体制が不十分であり、食料も不
足しているようです。「ハラが減っては戦はできぬ」で、近代装
備のウクライナ軍から攻撃を受けると、簡単に降伏したり、戦車
や車両を置いて逃げる兵士も多いといいます。また、戦費は10
日分しかないという情報もあります。
 第3は「装備が古く、各地で敗戦続出」です。
 ロシアはウクライナ侵攻前から経済に苦しく、近代的な装備を
整えるのが苦しい状況にあります。そのため、都市攻撃において
空挺部隊の展開が不十分で、ロシア軍の地上部隊がウクライナ軍
の激しい抵抗に遭うという悪循環に陥っています。それにキエフ
攻略のため、約8000キロメートル離れた極東地域から投入し
た東部軍管区の装備はとくに近代化率が低く、ソ連時代の戦車も
あるといわれています。
 ロシアにおいて、国家の物事を決めているのは、プーチン大統
領と次の4人の側近です。添付ファイルの写真(A〜D)で顔が
わかるようになっています。
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   バトルシェフ安保会議書記 ・・・・・・・・ A
   ショイグ国防相 ・・・・・・・・・・・・・ B
   ボロトニコフ連邦保安庁(FSB)長官 ・・ C
   ナルイシキン対外情報庁(SVR)長官・・・ D
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 この4人について、『選択』/2022年3月号は次のように
解説をしています。
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 ショイグを除く4人は旧ソ連国家保安委貞会(KGB)の元将
校であり、1970年代後半から80年代にかけて、レニングラ
ード(現サンクトペテルブルク)KGB防諜部門の同僚だった。
レニングラードKGBはソ連時代、反体制派の弾圧に辣腕を振る
った伝説がある。暗殺、心理工作、サイバー攻撃、諜報活動など
現在のロシアの破壊工作は、レニングラードKGBの経験が起点
になっている。     ──『選択』/2022年3月号より
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 たった5人で決めて、下部組織にまで徹底させるのはなかなか
大変であろうと思います。これが「プーチン密室会議」です。
             ──[新しい資本主義/第040]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチン氏の精神状態に異変?ウクライナ攻撃は
  「密室決定」か
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   ロシアの政治評論家、アンドレイ・コレスニコフ氏は「ウ
  クライナ危機は、帝国主義に増幅されたロシアの愛国主義の
  暗黒の展開だ。ロシアの安保エリートの目標は、帝国復活に
  ある」と指摘した。4人のうち、プーチン氏が最も信頼する
  とされるパトルシェフ書記は、昨年末、メディアに登場し、
  「ウクライナ指導部はヒトラー並みの悪人ぞろいだ。キエフ
  の政権は人間以下の存在だ」と酷評していた。この激しいレ
  トリックは、「ウクライナの極端な民族主義者やネオナチ」
  を糾弾したプーチン氏の開戦演説と重複する。開戦決定や、
  戦争目的をウクライナの非軍事化、中立化、非ナチ化に設定
  したことも、側近らとの「密室決定」だったかもしれない。
  2月に逮捕された反政府系学者ワレリー・ソロベイ氏は「ロ
  シアは、プーチンの国だが、政権はパトルシェフのものだ」
  と述べ、パトルシェフ氏が政権運営の第一人者と分析してい
  た。同氏の長男は4年前、30代で農相に抜擢された。
                  https://bit.ly/3tk9v0G
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プーチンの密室会議メンバー.jpg
プーチンの密室会議メンバー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする