2022年03月03日

●「ロシアがウクライナを攻める理由」(第5682号)

 ウクライナが大変なことになっています。私の手元にはさまざ
まな情報が集まってきています。EJを20年以上書いていると
多くのソースから情報が多く集まってくるのです。そこで、現在
のテーマに関係はありませんが、日刊のEJとしては、週末の2
日間はこのテーマを取り上げることにします。なお、この原稿は
3月2日に書いております。
 今回のロシアの、というよりもプーチン大統領の狙いは、ウク
ライナの主権を奪い、ロシアの支配下に置くことにあります。そ
のため、ロシアは基本的な計画に基づいて、相当前から時期を定
めて実施に移してきています。それに、いずれもオリンピックの
時期に意識してそれを行ってきていると思われます。
 2008年8月のことです。北京夏季五輪開催式の日に、ロシ
アは、隣国ジョージア(旧称グルジア)に侵攻したのです。そし
て2014年3月18日、ソチ冬季五輪のパラリンピック(3月
7日〜16日)の終了直後、ロシア軍はウクライナ南部クリミア
半島に侵入し、半島を併合しています。
 ロシアの基本的な計画とは、ロシアの隣国の親露勢力を焚き付
けて、一定レベルの勢力に育て、その勢力を支援するという名目
で軍隊を送り込むというものです。ロシアの隣国は、もともとは
ソ連邦の一部を構成していたのですから、どこにも一定の親露勢
力というものは存在するのです。
 ジョージアとウクライナに共通しているのは、その親露勢力の
規模が大きく、ともに中央政府の支配の及ばない親露分離派地域
を国内に抱えていることです。親欧米国のジョージアでは、20
08年8月、親露分離派地域の南オセチア自治州をめぐって、政
府軍と自治州の戦闘が勃発したのです。自治州住民に露国籍を付
与していたロシアは、「自国民の保護」を名目にジョージアに侵
攻したのです。
 これとそっくり同じことが、ウクライナで起きているのです。
ウクライナでは、2014年のクリミア併合後、東部のドネツク
・ルガンスク両州で、ロシアの支援を受けた親露派武装勢力が中
枢施設を占拠し、政府軍との大規模戦闘に発展しています。これ
は自然に起きたことではなく、ロシアが時間をかけて親露派を育
ててきたのです。
 ウクライナの場合、ドネツク・ルガンスク両州の親露派が中央
政府からジェノサイド的なひどい弾圧を受けてきたとして、国際
司法裁判所(ICJ)に訴えていますが、ICJは「そのような
事実はない」として、却下しています。しかし、ロシアはその決
定を無視し、あったと主張しているのです。あくまでそれを軍隊
を入れる理由にしているからです。この点ロシアは自国にとって
都合の悪いことは受け入れない中国と一緒です。
 2015年2月に和平合意(ミンスク2)が結ばれますが、ウ
クライナのゼレンスキー大統領は、その具体的履行で行き詰まっ
ていることは確かです。これまでに約1万4千人が死亡し、膠着
状態が続いています。ロシアは両州の親露派支配地域でも約60
万人に国籍を付与しています。
 しかし、ロシアによる今回のウクライナへの特別軍事作戦は、
本日現在、うまくいっていないのです。これは、ロシアにとって
大誤算だったといえます。もともと、ロシアはどのような計画を
立てていたのでしょうか。次の5段階の計画です。
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 1.空港や軍事施設を攻撃し制空権  2月24日実施予定
   を確保する。
 2.ウクライナ軍を包囲し、武装解  2月末まで完了予定
   除・無力化する。
 3.ゼレンスキー現政権を打倒する  2月〜3月初旬予定
 4.新しい権力機構を形成。大都市  3月初旬予定
   から統治に着手
 5.本格的政権をスタート      5月9日の記念日は
                   新政権が祝う予定
            ──3月2日/「テレビ朝日」より
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 この計画によると、2月末には、ロシア軍は、ウクライナ軍を
包囲し、武装解除・無力化されていなければならないのです。し
かし、3月2日になっても、ロシア軍は、制空権はおろか、武装
解除もできていないのです。ただ、ロシア軍が首都キエフを包囲
しつつあります。
 どうしてこうなったのでしょうか。それには、プーチン大統領
の次の3つの誤算があったのです。
─────────────────────────────
    第1の誤算
     ウクライナ軍の戦力を過少に評価したこと
    第2の誤算
     ゼレンスキー大統領の評価を間違えたこと
    第3の誤算
     ロシア軍兵士の士気がきわめて低いレベル
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 第1の誤算について考えます。
 はじめは「3日でキエフは陥落する」といわれたのです。クリ
ミア半島が併合された2014年以来、ウクライナ軍は米軍から
の武器援助や戦力増強訓練などを通じて非常に精強になっている
のです。ロシアは、2月24の宣戦布告後すぐロシア空軍6機が
出撃しています。制空権を奪うためです。
 しかし、ウクライナ空軍MiG−29MU2戦闘機によって、
6機とも撃墜されています。このウクライナ空軍は通称「キエフ
の幽霊/ゴーストキエフ」と呼ばれているそうです。
 それから米国から供与された対戦車砲ミサイル「ジャベリン」
によって、多くのロシア軍戦車が犠牲になっています。これは、
ロシアにとって大きな誤算になったといえます。
             ──[新しい資本主義/第039]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア軍も大被害か/ウクライナ報道では驚愕の数字
  欧米は減速指摘
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   ウクライナに侵攻中のロシア軍は、2月26日、ウクライ
  ナの首都キエフ掌握を狙って一帯での市街戦を続けた。ただ
  ウクライナメディアによると、ロシア軍も戦車100台を失
  うなど大きな被害が出ている模様だ。欧米の当局者からは、
  ウクライナ側の激しい抵抗でロシア軍の侵攻が減速したとの
  見方も出ている。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、
  「私たちは戦う」と徹底抗戦を訴えた。
   AP通信によると、ロシア軍はキエフに向けて進軍を試み
  ており、大規模な攻撃に向けて進路を確保している可能性も
  あるという。砲撃などによりアパートや橋などに被害が出て
  おり、キエフ市当局は市街戦が継続していると住民に警告。
  シェルターに避難するよう呼びかけている。
   ウクライナの国営通信社は26日、保健当局の情報として
  ロシアによる侵攻で子ども3人を含む少なくとも198人の
  ウクライナ市民らが死亡したと報じた。負傷者は子ども33
  人を含む1115人に上るという。
   一方で、インタファクス・ウクライナ通信によると、ウク
  ライナ軍参謀本部は、ロシア軍の戦車約100台、装甲車約
  540台、軍用機16機などを破壊し、ロシア側に3千人以
  上の犠牲が出たと推計している。ウクライナ大統領府のポド
  リャク顧問は26日、ウクライナのテレビ番組で、「キエフ
  とほかの都市への、ロシア軍によるすべての攻撃は撃退され
  た」と主張した。        https://bit.ly/3tGdLrJ
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MiG−29MU2戦闘機.jpg
MiG−29MU2戦闘機
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする