2022年03月01日

●「国債発行して公共事業を実施する」(第5680号)

 政府が1億円の国債を発行し、公共事業を実施するケースにつ
いて考えてみます。前提知識ですが、市中銀行は、日本銀行に対
して当座預金口座を持っており、政府も日銀当座預金口座を有し
ています。この日銀口座預金口座が重要な役割をします。
 まず、第1段階として、この発行される国債を市中銀行が引き
受ける場合、市中銀行が開設している日銀当座預金が1億円減り
政府が開設する日銀当座預金にその1億円が振り替えられます。
なお、この取引プロセスは、民間の預金とは無関係です。
 第2段階として政府は、公共事業の発注企業に1億円の小切手
を交付します。政府発行の小切手を受け取った企業は、自分の取
引銀行に持ち込み、代金の取り立てを依頼します。それと同時に
その銀行は、1億円を企業の口座に記帳します。キーストローク
マネーです。この瞬間に1億円という新たな民間預金が誕生した
ことになります。つまり、政府が国債を発行して借金を増やすと
それと同額の民間預金が創造されるのです。
 第3段階として、銀行から取り立てを依頼された日銀は、政府
の日銀当座預金から、銀行の日銀当座預金へ、1億円を振り替え
ます。この1億円は、さきほど銀行が国債を購入したときに、振
り替えられたものです。
 これに関する記者と中野剛志氏とのやり取りは、次のように展
開されています。
─────────────────────────────
中野:つまり、銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金に振
 り替えられた1億円が、再び銀行の日銀当座預金に戻ってくる
 わけです。赤字財政支出をしても日銀当座預金に変化は生じな
 いわけですから、国債金利も、一切変化しないということにな
 ります。
――あれ?ということは、銀行の日銀当座預金に戻ってきた1億
 円で、再び1億円の新規国債を購入できるということですか?
中野:そのとおりです。このオペレーションは無限に繰り返すこ
 とができるのです。しかも、このオペレーションを回す度に、
 国債発行額と同額の民間預金が増えていくわけです。つまり、
 国債の発行によって民間の金融資産を吸い上げているのではな
 く、財政赤字の拡大によって、民間で流通する貨幣量を増やし
 ているということです。
――これもまた、魔法のような話ですね・・・。
中野:そうですね。ただし、これは、MMTのオピニオンではな
 く、国債発行の実務を説明しているだけの話です。単なる「事
 実」なんです。だから、財務省や主流派の経済学が主張してい
 る「財政赤字の増大によって民間資金が不足し、金利が上昇す
 る」などという現象など起きるわけがない。ましてや、「国債
 を消化できなくなる」などということなどありえないんです。
 そのような誤った主張をするのは、単に「事実誤認」をしてい
 るからというだけのことです。   https://bit.ly/3M67SfF
─────────────────────────────
 ここで、2月10日のEJ第5669号での小林慶一郎氏と中
野剛志氏の議論を思い出していただく必要があります。議論を再
現します。
─────────────────────────────
小林:矢野論文の背景にあるのは、「将来世代にツケを残しては
 いけない」ということだと思うんです。国債は将来世代からの
 前借りで、いずれその金は返さなきゃいけない。これまでのよ
 うに日銀が買い支えられるうちはいいけど、もし将来において
 例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代への
 大きな負担を残すことになる。それは避けたいという矢野さん
 の思いは否定すべきではないでしょう。
中野:違います。国債は将来の増税で償還しなきゃいけないと思
 い込んでいるから「将来世代へのツケ」だと誤解するのです。
 国債の償還は、増税ではなく借換債の発行によって行うべきで
 す。それから、私は制御できないインフレは基本的に「起きな
 い」と考えています。
小林:国債の償還を借換債で出来るなら、国家運営に税は不要と
 いう話になり、まったく同意できません。これは後ほど議論し
 ましょう。
─────────────────────────────
 国債の利払いと償還の問題です。小林氏は、国債の残高を積み
上げていくと、将来制御不能なインフレが起きる恐れがあり、そ
れは将来世代に大きなツケを回すことを意味する──こういって
います。この点において、小林慶一郎氏と中野剛志氏の意見は大
きく異なります。しかし、小林氏は、これについての議論を避け
ているように感じます。肝心なことが議論されていません。これ
についての中野氏の見解は次の通りです。
─────────────────────────────
 よく聞く話ですが、それも誤りです。「国債の償還財源は将来
世代の税金でまかなわれなければならない」という間違った発想
をしているから、そういう話になるんです。だって、自国通貨を
発行できる政府は永遠にデフォルトしないのだから、債務を完全
に返済し切る必要などありませんからね。つまり、国債の償還の
財源は税である必要はなく、国債の償還期限がきたら、新規に国
債を発行して、それで同額の国債の償還を行う「借り換え」を永
久に続ければいいのです。実際、それは先進国が普通にやってい
ることです。だから、英米仏などほとんどの先進国において、国
家予算に計上する国債費は利払い費のみで、償還費を含めていま
せん。ところが、なぜか日本は償還費も計上しているんですけど
ね・・・。             https://bit.ly/3vnrJ3W
─────────────────────────────
 国債の利払い、償還財源について、基礎を知る必要がありそう
です。借換債とは何なのでしょうか。これについては明日のEJ
で研究してみたいと考えています。
             ──[新しい資本主義/第037]

≪画像および関連情報≫
 ●「間違いだらけの財政説明」/大石久和氏
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   番組アシスタントの新保友映です!
   前回に続いて、今回も経済のお話です。「日本の借金は本
  当に1000兆円あるのか」「公共事業費は社会保障費を圧
  迫しているのか」、このあたりのことを大石久和さんに伺っ
  てみました。
  新保:「借金1000兆円」とよく耳にしますが、この言い
  方は正しくないんですか?「今年の予算要求の見込みでいう
  と、国債と借入金を合わせると1250兆円ですから「10
  00兆円の借金」という表現は正しくないとしても、国債や
  借入金があることは間違いないんです。ただその中身を見る
  と借金とは決して言えないし、きちっと説明もされていませ
  ん」(大石)          https://bit.ly/3BZfzQk
  ───────────────────────────
 ●図出典/https://bit.ly/3vniukv
国債発行が通貨供給量を増やす.jpg
国債発行が通貨供給量を増やす
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2022年03月02日

●「国債の発行は本当に問題があるか」(第5681号)

 「ワニのくち」という言葉があります。これは、論文で有名に
なった矢野康治現財務次官の作った言葉だそうです。「ワニのく
ち」とは、歳入(税収)と歳出の差が、ワニのくちのように開い
ていることを例えたものです。矢野財務次官は『文藝春秋』20
21年11月号で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 歳出と歳入(税収)の推移を示した2つの折れ線グラフは、私
が平成10年ごろにワニのくち″と省内で俗称したのが始まり
ですが、その後、四半世紀ほど経っても、なお、「開いた口が塞
がらない」状態が延々と続いています。
 ロスト・デケイズ≠ニも呼ばれるバブル崩壊後の20年ほど
の間は、「財政再建は時期尚早だ。もっと経済がよくなってから
だ」という声が強く、財政健全化の議論が、先送りされがちでし
た。今、標梓されている「経済最優先」も、要するに財政再建は
後回しということです。
 急激すぎる財政再建が経済の腰折れを招きかねないという懸念
ばごもっともですが、日本の財政は(景気がよくても赤字のまま
という)「構造赤字」であり、いわゆるバブル期(1990年前
後)でも、ワニのくちは狭まりはしたものの、歳出と税収が逆転
する(黒字になる)ことはありませんでした。また、安倍政権下
で有効求人倍率が1・6を超えるほどのいわゆる完全雇用状態の
下でも、黒字にはなりませんでした。
 ですから、「経済成長だけで財政健全化」できれば、それに越
したことはありませんが、それは夢物語であり、幻想です。
                ──矢野康治財務事務次官著
『財務事務次官、モノ申す/このままでは国家財政は破綻する』
             『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 矢野財務次官は、東京大学法学部出身の官僚の多い財務省では
珍しく、一橋大学経済学部の出身です。一応経済に関しては専門
家であるわけです。
 「わにのくち」を閉じるには、要するに税収の範囲内で国家運
営をやるのが正しいという考え方に立つ必要があります。いわゆ
るプライマリーバランスもそれと同じ考え方です。
 しかし、これは家計の発想です。国家の財政運営を家計のそれ
に例えています。なぜなら、家計では、収入の範囲内で生活をせ
ざるを得ないからです。
 ここで「国債」というものについて、根本から考え直してみる
必要があります。
 国債とは何でしょうか。
 国債とは「政府の借金である」といわれます。しかし、これが
ときどき「国の借金である」という意味にも使われますが、正し
くは「政府の借金」です。国ではありません。
 問題は「借金」という言葉です。「借金」という言葉はイメー
ジがよくないのです。個人の生活では、借金は、あくまで返済で
きる範囲内でするべきであり、もちろん、約束の期日には、きち
んと返済する必要があります。したがって、国家であれ、政府で
あれ、借金を膨らませるのは良くないことであるという発想につ
ながります。
 しかし、この考え方を改める必要があります。これについて、
高橋洋一氏は「政府の借金」を「個人の借金」ではなく、「企業
の借金」と捉えるべきであるとして、次のように述べています。
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 国債を理解するには、「政府」を「企業」に置き換えて考えて
みるとわかりやすい。「個人」ではなく、「企業」というところ
がポイントである。
 世の中には「無借金経営」だと胸を張る企業もあるようだが、
先祖代々の莫大な資産でもなければ、自己資金だけで起業などで
きない。だから、たいていの企業は銀行から金を借りる。起業し
たあとも、ずっと金を借りるのが普通だ。そのお金で設備投資な
どをして、商売を広げるためだ。新しい機械を入れたり、自社ビ
ルを建てたりするわけである。
 そして、いろんな企業が銀行からお金を借りて商売を広げるほ
ど、取引が多くなる。要はお金が多くやりとりされ、経済が活性
化する。ここで「借金はダメだから、銀行から融資を受けない企
業のほうがいい企業だ」と考える人がいたら、その人は企業活動
の何たるかをまったく理解していないことになる。これでは、経
営者が、すべて悪人になってしまう。     ──高橋洋一著
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
                         あさ出版
─────────────────────────────
 一般企業は、株式会社であれば株を発行し資金を調達(自己資
本)します。それでも足りなければ、銀行借入や社債を発行(他
人資本/いわゆる借金で、政府でいえば、国債発行による資金調
達)して、経営を行います。何も問題はないはずです。
 「歳出」(出ていくお金)は、社会保障、公共事業、防衛、文
教及び科学振興などであり、国債費というものもあります。いず
れも私たちの生活にかかわる必要な出費です。
 「歳入」(入ってくるお金)は、次の2つに分かれています。
─────────────────────────────
              @税 収
              A公債金
─────────────────────────────
 @税収については説明の必要はありませんが、A公債金という
のは、国債の発行額のことです。税収だけでは足りないので、発
行する国債の額を明示しているのです。この公債金の欄には、実
は財務省は「将来世代の負担」と注釈を入れています。財務省と
しては、あくまでも「国債発行は悪」というイメージを植え付け
ようとしているのです。増税への布石です。
             ──[新しい資本主義/第038]

≪画像および関連情報≫
 ●日本国債がそれでも持ちこたえているカラクリ
  ───────────────────────────
   新型コロナウイルスの世界的なパンデミックによって、世
  界経済が停滞している。各国政府は国民を救うため、これま
  での財政均衡の姿勢を崩し、集中的な財政支出を一斉に始め
  た。IMF(国際通貨基金)の調べによると、各国政府によ
  る新型コロナによる経済対策の総額は、10兆ドル(約10
  70兆円)に達しているようだ。6月10日現在の数字では
  あるが、世界の国内総生産に占める財政支出総額の割合は、
  リーマンショック時の2倍以上になるのではないかと試算さ
  れている。
   アメリカでは、総額で約3兆ドル(約320兆円)に達す
  る財政支出が計画されており、EU(欧州連合)でも、コロ
  ナで打撃を受けた国々を支援する総額7500億ユーロ(約
  90兆円)規模の「復興基金」の創設が決まった。
   お金を必要としているのは政府だけではない。企業もまた
  ストップしてしまった収入を社債の発行などによって賄う必
  要があり、今年4月の世界の社債発行額は、1980年以降
  で最高、過去10年の月平均の2・2倍となる6314億ド
  ル(約67・5兆円)になったと報道されている。アメリカ
  も含めてゼロ金利政策が行われている現在、金利の負担はな
  いものの、世界中で国債や社債が発行されている状況は、こ
  れからの世界経済に大きな歪みをもたらすかもしれない。
                  https://bit.ly/3hJd8YR
  ───────────────────────────
矢野康治財務事務次官.jpg
矢野康治財務事務次官
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2022年03月03日

●「ロシアがウクライナを攻める理由」(第5682号)

 ウクライナが大変なことになっています。私の手元にはさまざ
まな情報が集まってきています。EJを20年以上書いていると
多くのソースから情報が多く集まってくるのです。そこで、現在
のテーマに関係はありませんが、日刊のEJとしては、週末の2
日間はこのテーマを取り上げることにします。なお、この原稿は
3月2日に書いております。
 今回のロシアの、というよりもプーチン大統領の狙いは、ウク
ライナの主権を奪い、ロシアの支配下に置くことにあります。そ
のため、ロシアは基本的な計画に基づいて、相当前から時期を定
めて実施に移してきています。それに、いずれもオリンピックの
時期に意識してそれを行ってきていると思われます。
 2008年8月のことです。北京夏季五輪開催式の日に、ロシ
アは、隣国ジョージア(旧称グルジア)に侵攻したのです。そし
て2014年3月18日、ソチ冬季五輪のパラリンピック(3月
7日〜16日)の終了直後、ロシア軍はウクライナ南部クリミア
半島に侵入し、半島を併合しています。
 ロシアの基本的な計画とは、ロシアの隣国の親露勢力を焚き付
けて、一定レベルの勢力に育て、その勢力を支援するという名目
で軍隊を送り込むというものです。ロシアの隣国は、もともとは
ソ連邦の一部を構成していたのですから、どこにも一定の親露勢
力というものは存在するのです。
 ジョージアとウクライナに共通しているのは、その親露勢力の
規模が大きく、ともに中央政府の支配の及ばない親露分離派地域
を国内に抱えていることです。親欧米国のジョージアでは、20
08年8月、親露分離派地域の南オセチア自治州をめぐって、政
府軍と自治州の戦闘が勃発したのです。自治州住民に露国籍を付
与していたロシアは、「自国民の保護」を名目にジョージアに侵
攻したのです。
 これとそっくり同じことが、ウクライナで起きているのです。
ウクライナでは、2014年のクリミア併合後、東部のドネツク
・ルガンスク両州で、ロシアの支援を受けた親露派武装勢力が中
枢施設を占拠し、政府軍との大規模戦闘に発展しています。これ
は自然に起きたことではなく、ロシアが時間をかけて親露派を育
ててきたのです。
 ウクライナの場合、ドネツク・ルガンスク両州の親露派が中央
政府からジェノサイド的なひどい弾圧を受けてきたとして、国際
司法裁判所(ICJ)に訴えていますが、ICJは「そのような
事実はない」として、却下しています。しかし、ロシアはその決
定を無視し、あったと主張しているのです。あくまでそれを軍隊
を入れる理由にしているからです。この点ロシアは自国にとって
都合の悪いことは受け入れない中国と一緒です。
 2015年2月に和平合意(ミンスク2)が結ばれますが、ウ
クライナのゼレンスキー大統領は、その具体的履行で行き詰まっ
ていることは確かです。これまでに約1万4千人が死亡し、膠着
状態が続いています。ロシアは両州の親露派支配地域でも約60
万人に国籍を付与しています。
 しかし、ロシアによる今回のウクライナへの特別軍事作戦は、
本日現在、うまくいっていないのです。これは、ロシアにとって
大誤算だったといえます。もともと、ロシアはどのような計画を
立てていたのでしょうか。次の5段階の計画です。
─────────────────────────────
 1.空港や軍事施設を攻撃し制空権  2月24日実施予定
   を確保する。
 2.ウクライナ軍を包囲し、武装解  2月末まで完了予定
   除・無力化する。
 3.ゼレンスキー現政権を打倒する  2月〜3月初旬予定
 4.新しい権力機構を形成。大都市  3月初旬予定
   から統治に着手
 5.本格的政権をスタート      5月9日の記念日は
                   新政権が祝う予定
            ──3月2日/「テレビ朝日」より
─────────────────────────────
 この計画によると、2月末には、ロシア軍は、ウクライナ軍を
包囲し、武装解除・無力化されていなければならないのです。し
かし、3月2日になっても、ロシア軍は、制空権はおろか、武装
解除もできていないのです。ただ、ロシア軍が首都キエフを包囲
しつつあります。
 どうしてこうなったのでしょうか。それには、プーチン大統領
の次の3つの誤算があったのです。
─────────────────────────────
    第1の誤算
     ウクライナ軍の戦力を過少に評価したこと
    第2の誤算
     ゼレンスキー大統領の評価を間違えたこと
    第3の誤算
     ロシア軍兵士の士気がきわめて低いレベル
─────────────────────────────
 第1の誤算について考えます。
 はじめは「3日でキエフは陥落する」といわれたのです。クリ
ミア半島が併合された2014年以来、ウクライナ軍は米軍から
の武器援助や戦力増強訓練などを通じて非常に精強になっている
のです。ロシアは、2月24の宣戦布告後すぐロシア空軍6機が
出撃しています。制空権を奪うためです。
 しかし、ウクライナ空軍MiG−29MU2戦闘機によって、
6機とも撃墜されています。このウクライナ空軍は通称「キエフ
の幽霊/ゴーストキエフ」と呼ばれているそうです。
 それから米国から供与された対戦車砲ミサイル「ジャベリン」
によって、多くのロシア軍戦車が犠牲になっています。これは、
ロシアにとって大きな誤算になったといえます。
             ──[新しい資本主義/第039]

≪画像および関連情報≫
 ●ロシア軍も大被害か/ウクライナ報道では驚愕の数字
  欧米は減速指摘
  ───────────────────────────
   ウクライナに侵攻中のロシア軍は、2月26日、ウクライ
  ナの首都キエフ掌握を狙って一帯での市街戦を続けた。ただ
  ウクライナメディアによると、ロシア軍も戦車100台を失
  うなど大きな被害が出ている模様だ。欧米の当局者からは、
  ウクライナ側の激しい抵抗でロシア軍の侵攻が減速したとの
  見方も出ている。ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、
  「私たちは戦う」と徹底抗戦を訴えた。
   AP通信によると、ロシア軍はキエフに向けて進軍を試み
  ており、大規模な攻撃に向けて進路を確保している可能性も
  あるという。砲撃などによりアパートや橋などに被害が出て
  おり、キエフ市当局は市街戦が継続していると住民に警告。
  シェルターに避難するよう呼びかけている。
   ウクライナの国営通信社は26日、保健当局の情報として
  ロシアによる侵攻で子ども3人を含む少なくとも198人の
  ウクライナ市民らが死亡したと報じた。負傷者は子ども33
  人を含む1115人に上るという。
   一方で、インタファクス・ウクライナ通信によると、ウク
  ライナ軍参謀本部は、ロシア軍の戦車約100台、装甲車約
  540台、軍用機16機などを破壊し、ロシア側に3千人以
  上の犠牲が出たと推計している。ウクライナ大統領府のポド
  リャク顧問は26日、ウクライナのテレビ番組で、「キエフ
  とほかの都市への、ロシア軍によるすべての攻撃は撃退され
  た」と主張した。        https://bit.ly/3tGdLrJ
  ───────────────────────────
MiG−29MU2戦闘機.jpg
MiG−29MU2戦闘機
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2022年03月04日

●「プーチンには3つの誤算があった」(第5683号)

 ウクライナ問題を今日も取り上げます。プーチン大統領の3つ
の誤算の話を続けます。「第1の誤算」については説明が終わっ
ているので、「第2の誤算」から説明します。
─────────────────────────────
    第1の誤算
     ウクライナ軍の戦力を過少に評価したこと
  → 第2の誤算
     ゼレンスキー大統領の評価を間違えたこと
  → 第3の誤算
     ロシア軍兵士の士気がきわめて低いレベル
─────────────────────────────
 第2の誤算について考えます。
 プーチン大統領にとっておそらく最大の誤算というべきは、ウ
クライナのゼレンスキー大統領の人物評価を間違えたということ
でしょう。ゼレンスキー氏は、もともとショービジネスの世界を
通じて、ロシアとも深いつながりがあったコメディー俳優であり
いわば政治のズブの素人だった人です。
 そのゼレンスキー氏を大統領の座に押し上げたのは、「既存の
政治家には国を変えられない」という有権者の強い思いがあった
からで、2019年4月の大統領選の得票率は73%で、現職ポ
ロシェンコ氏を50ポイント近く引き離す大勝利だったのです。
 しかし、就任後はこれといって目立った実績がなく、ロシア侵
攻前の支持率は20%台と低迷していたのです。やはり、政治の
素人のマイナス面がもろに出たという感じです。
 こういうゼレンスキー大統領を見て、プーチン大統領は、この
男なら、ロシアが本気で戦争を仕掛ければ、たちまち国外に逃げ
出すだろうと考えたのです。そうすれば、首都キエフは簡単に落
ちると計算したのでしょう。
 実際に、バイデン米大統領から、国外脱出なら航空機を用意す
ると打診されたそうですが、ゼレンスキー大統領は、「私が必要
としているは弾薬であり、脱出のための足ではない」と拒否し、
今や「国家指導者に求められる最大の責務である国民の保護のた
めに、キエフの地下のシェルターから、ユーチューブを通して、
連日国民を励まし続け、多くの国民の支持を集めています。今や
彼に対する国民の支持率は91%、12月の調査の3倍に達して
いるといわれます。
 第3の誤算について考えます。
 ゼレンスキー大統領の勇気ある行動に勇気づけられたウクライ
ナ軍と国民のモラールアップとは対照的に、大挙侵攻してきてい
るロシア軍の士気が非常に低いのです。その理由として、考えら
れるのは、次の3つです。
─────────────────────────────
       @ウクライナ侵攻作戦の不徹底
       A兵站体制が不十分/食糧不足
       B装備が古く、各地で敗戦続出
─────────────────────────────
 第1は「ウクライナ侵攻作戦の不徹底」です。
 ウクライナに向かうロシア軍の多くは、どうやら今回の作戦の
趣旨が知らされていないようです。何のためにイスラエルに来て
いるかわからない兵士も多いといいます。精強として知られるロ
シア軍としては考えられないことです。それは作戦の決定過程に
あるようです。これについては後述します。
 第2は「兵站体制が不十分/食糧不足」です。
 そもそも一週間で片付くと考えていた戦争が今日まで延びてい
るのです。軍を後方で支える兵站体制が不十分であり、食料も不
足しているようです。「ハラが減っては戦はできぬ」で、近代装
備のウクライナ軍から攻撃を受けると、簡単に降伏したり、戦車
や車両を置いて逃げる兵士も多いといいます。また、戦費は10
日分しかないという情報もあります。
 第3は「装備が古く、各地で敗戦続出」です。
 ロシアはウクライナ侵攻前から経済に苦しく、近代的な装備を
整えるのが苦しい状況にあります。そのため、都市攻撃において
空挺部隊の展開が不十分で、ロシア軍の地上部隊がウクライナ軍
の激しい抵抗に遭うという悪循環に陥っています。それにキエフ
攻略のため、約8000キロメートル離れた極東地域から投入し
た東部軍管区の装備はとくに近代化率が低く、ソ連時代の戦車も
あるといわれています。
 ロシアにおいて、国家の物事を決めているのは、プーチン大統
領と次の4人の側近です。添付ファイルの写真(A〜D)で顔が
わかるようになっています。
─────────────────────────────
   バトルシェフ安保会議書記 ・・・・・・・・ A
   ショイグ国防相 ・・・・・・・・・・・・・ B
   ボロトニコフ連邦保安庁(FSB)長官 ・・ C
   ナルイシキン対外情報庁(SVR)長官・・・ D
─────────────────────────────
 この4人について、『選択』/2022年3月号は次のように
解説をしています。
─────────────────────────────
 ショイグを除く4人は旧ソ連国家保安委貞会(KGB)の元将
校であり、1970年代後半から80年代にかけて、レニングラ
ード(現サンクトペテルブルク)KGB防諜部門の同僚だった。
レニングラードKGBはソ連時代、反体制派の弾圧に辣腕を振る
った伝説がある。暗殺、心理工作、サイバー攻撃、諜報活動など
現在のロシアの破壊工作は、レニングラードKGBの経験が起点
になっている。     ──『選択』/2022年3月号より
─────────────────────────────
 たった5人で決めて、下部組織にまで徹底させるのはなかなか
大変であろうと思います。これが「プーチン密室会議」です。
             ──[新しい資本主義/第040]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチン氏の精神状態に異変?ウクライナ攻撃は
  「密室決定」か
  ───────────────────────────
   ロシアの政治評論家、アンドレイ・コレスニコフ氏は「ウ
  クライナ危機は、帝国主義に増幅されたロシアの愛国主義の
  暗黒の展開だ。ロシアの安保エリートの目標は、帝国復活に
  ある」と指摘した。4人のうち、プーチン氏が最も信頼する
  とされるパトルシェフ書記は、昨年末、メディアに登場し、
  「ウクライナ指導部はヒトラー並みの悪人ぞろいだ。キエフ
  の政権は人間以下の存在だ」と酷評していた。この激しいレ
  トリックは、「ウクライナの極端な民族主義者やネオナチ」
  を糾弾したプーチン氏の開戦演説と重複する。開戦決定や、
  戦争目的をウクライナの非軍事化、中立化、非ナチ化に設定
  したことも、側近らとの「密室決定」だったかもしれない。
  2月に逮捕された反政府系学者ワレリー・ソロベイ氏は「ロ
  シアは、プーチンの国だが、政権はパトルシェフのものだ」
  と述べ、パトルシェフ氏が政権運営の第一人者と分析してい
  た。同氏の長男は4年前、30代で農相に抜擢された。
                  https://bit.ly/3tk9v0G
  ───────────────────────────
プーチンの密室会議メンバー.jpg
プーチンの密室会議メンバー
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2022年03月07日

●「日本の財政赤字は少な過ぎる!?」(第5684号)

 話を「新しい資本主義」のテーマに戻します。もう一度矢野論
文に目を向けてみます。この財務次官は何か大きな勘違いをして
いるように思うからです。
─────────────────────────────
 我が国の財政赤字(一般政府債務残高/GDP)は256・2
%と、第2次大戦直後の状態を超えて過去最悪であり、他のどの
先進国よりも劣悪な状態になっています。ちなみに、ドイツは、
68・9%、英国は103・7%、米国は127・1%。
 (中略)
 国内に目を転じれば、これはあくまでもマクロで見た数字です
が、家計も企業もかつてない金余り″状況にあります。特に企
業では、内部留保や自己資本が膨れ上がっており、現預金残高は
259兆円(2020年度末)。コロナ禍にあっても、マクロ的
には内部留保のうちの現預金が減っていません。
 また家計においても、マクロ的には、全世帯を所得階層別に5
分割したうち、最も低い所得階層を含む全ての階層で貯蓄が増え
ています。           ──矢野康治財務事務次官著
『財務事務次官、モノ申す/このままでは国家財政は破綻する』
             『文藝春秋』/2021年11月号
─────────────────────────────
 矢野次官は、「家計も企業もかつてない金余り″状況」にあ
ると指摘しています。こんなときに究極のバラマキ″政策であ
る10万円給付などやっても貯蓄が積み上がるだけであり、消費
に回らないと批判しています。
 「最も低い所得階層を含む全ての階層で貯蓄が増えている」と
いうことは、2月14日のEJ第5670号で指摘しているよう
に事実です。しかし、これは「経済の先行きが不安で心配」であ
るからこそ、貯蓄が増えているのです。金が有り余っているから
消費をしないのではないのです。しかし、何か矢野次官のロジッ
クはおかしいのです。
 中野剛志氏と記者の対話に次のようなやり取りがあります。
─────────────────────────────
中野:自国通貨発行権をもつ政府は、原理的にはいくらでも国債
 を発行することはできますが、財政赤字を拡大しすぎるとハイ
 パーインフレになってしまいます。だから、財政赤字はどこま
 で拡大してよいかと言えば、「インフレが行きすぎないまで」
 ということになります。したがって、財政赤字の制約を決める
 のはインフレ率(物価上昇率)だということになります。
――やはり、「財政規律は必要である」と聞いて、ちょっとホッ
 としました。
中野:そうですでよね(笑)。ところで、ここで不思議なことに
 気づきませんか?
――なんでしょうか?
中野:財務省も主流派経済学者もマスコミも、「日本の財政赤字
 が大きすぎる」と騒いでいますよね?しかし、財政赤字が大き
 すぎるならば、インフレが行き過ぎているはずです。ところが
 日本はインフレどころか、20年以上もデフレから抜け出せず
 に困っているんです。おかしいと思いませんか?
――たしかに・・・。
中野:つまり、日本がデフレだということは、財政赤字は多すぎ
 るのではありません。少なすぎるんです。
――財政赤字が少なすぎる・・・。驚くべきお話ですが、理屈と
 してはそうなりますよね。    https://bit.ly/3HNEJmg
─────────────────────────────
 GDP比256・2%の財政赤字──これが非常に問題である
と財務省はいうのですが、本当にそうであるなら、日本はインフ
レになっているはずです。ところが、日本はインフレどころか、
デフレに陥っているのです。
 ところで、デフレとは何でしょうか。
 第2次世界大戦後において、世界中の国の経済政策担当者が最
も恐れていたのがデフレです。ところが日本は、1991年頃に
バブルが崩壊してデフレに陥り、30年経った現在でも、デフレ
から抜け出せていません。第2次世界大戦後、世界で初めてのデ
フレ禍です。しかも、デフレは日本だけです。
 国の経済政策担当者といえば財務省です。現在の日本の経済状
況は、社会の成熟、産業構造の変化、少子高齢化といった要因で
は説明できないのです。しかし、財務省の事務方のトップである
財務次官の財政に関する考え方が、図らずも今回の論文で明らか
になりましたが、この考え方ではデフレを深めるだけで、そこか
ら脱却することはとうてい不可能です。
 なぜ、日本は異常なほど貯蓄が多いのでしょうか。
 それは、デフレと関係があります。デフレは、経済全体の需要
(消費と投資)が、供給に比べて少ない状態が続く現象です。需
要がないということは、ものが売れない状況が続くということを
意味します。つまり、デフレは、物価が下落していくことですか
ら、裏返していえば、お金の価値が上がっていくということを意
味します。デフレとは、持っているお金の価値が上がっていく現
象なのです。
 そのため、デフレになると、人々がモノよりもおカネを欲しが
るようになります。したがって、デフレになると、消費者であれ
ば、モノを買うのを我慢して貯金するでしょうし、企業であれば
投資をして事業を拡大するよりも、内部留保として現預金を貯め
込むことをしようとするはずです。つまり、現在日本に起こって
いることは、デフレが長期化した結果であるといえます。
 ところが財務省の矢野次官は、財政赤字の危機を訴えるだけで
デフレから脱却しようと努力しようとしていないのです。財政赤
字の巨大さを訴えるだけでなく、積極的な財政出動をしてデフレ
からの脱却を図るべきです。財務省は財政赤字の大きさに怯える
のではなく、むしろさらに拡大させるべきです。
             ──[新しい資本主義/第041]

≪画像および関連情報≫
 ●政府の1000兆円の借金はどうやって減らすのか?
  伊藤元重氏
  ───────────────────────────
   日本の財政問題についてさまざまな議論が行われています
  が、全ての議論の冒頭、背景にあるのは、日本はすでに10
  00兆円を超えた借金を抱えていることです。これはもう返
  済する以外にどうにもなりませんから、何とか返済しなくて
  はならない。このことがある意味で、財政健全化、財政再建
  の危機感を煽っています。
   確かに、政府が厖大な借金を抱えていることは大きな問題
  です。借金の返済と金利を払うためだけに財政支出の一部を
  取らなくてはなりませんから、それだけで財政が窮屈になっ
  てしまいます。しかし、それ以上に多くの専門家が恐れてい
  ることは、将来、日本の財政に対する不安感が募り、マーケ
  ットの信任の揺らぎが起こったとき、国債の金利が上がって
  しまうかもしれないということです。
   現在、日本の10年物国債の金利は0.5パーセント前後
  ですが、仮にこれが2.5パーセントまで、2パーセントポ
  イント上がるとすると、1000兆円の2パーセントの金利
  負担になります。大変な額になるわけです。もちろん金利が
  上がったからといって、すぐに金利負担が増えるわけではあ
  りません。過去に発行した国債はすでに金利が決まっており
  新たに発行する分だけ金利が上がるのですから。しかし、金
  利が上がってくると財政が厳しくなることも確かですから、
  できるだけ早くこうした状況を脱却しなければならないとい
  う議論になっているのです。   https://bit.ly/3tsFFqL
  ───────────────────────────
各国名目GDP推移.jpg
各国名目GDP推移
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2022年03月08日

●「クラウディングアウト違っている」(第5685号)

 主流派経済学──私が大学で学んだ経済学もこの経済学ですが
この分野には多数の優れた学者がいます。しかし、MMT(現代
貨幣論)のロジックに立つと、それはきわめて常識的であり、素
人でも理解できるロジックで、正しいように思えます。しかし、
主流派経済学では、多くの場合、それは違うというのです。どう
して、意見がこうも異なるのでしょうか。
 「クラウディングアウト」という経済学の用語があります。こ
れについて、ウィキペディアには次の説明があります。
─────────────────────────────
 クラウディングアウトとは、行政府が資金需要をまかなうため
に大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇する
ため、民間の資金需要が抑制されること。「クラウディングアウ
ト」(crowding out)の字義は「押し出す」という意味である。
                    ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 このウィキペディアの説明をもう少しわかりやすくいうと、次
のようになります。
 政府が大量の国債を発行し、財政出動するとします。この国債
を購入するのは主に銀行です。したがって、銀行から政府へお金
が回ることになります。そうすると、銀行が持っているお金が減
ります。これは、お金の希少性が上がったことを意味します。
 希少性が高くなったお金を融資するさいは、当然ですが、金利
が上昇します。金利が上昇すると、会社の経営者は従来の金利な
ら設備投資をしようかと思っていても、上昇した金利で借りてま
で投資をするべきかどうかを考えるでしょう。その結果、投資を
諦める会社がきっと出てくるはずです。これによって民間の投資
が縮小します。この現象をクラウディングアウトというのです。
 つまり、政府が国債を大量に発行すると、それは市中金利を上
昇させ、民間の経済活動(投資のための資金調達や住宅購入など
の消費行動)に抑制的な影響を与えてしまうことをいうのです。
 ウェイン・ゴドリー(1926−2010)という英国の経済
学者がいます。彼は、英国経済に対する悲観論と英国政府に対す
る批判で有名な経済学者であったといわれます。MMTの主唱者
であるステファニー・ケルトン教授の本に、ゴドリーの財政に関
する考え方の解説が出ています。それは、政府の収支(黒字か赤
字か)がわれわれにどのような影響を及ぼすかを理解するための
シンプルではあるが、非常に説得力のあるモデルです。
─────────────────────────────
    「政府部門の収支」+「非政府部門」 =0
    「政府部門の赤字」=「非政府部門の黒字」
─────────────────────────────
 このモデルはきわめてシンプルです。上記2つの等式は、同じ
ことの裏返しです。経済の片側で赤字が出れば、反対側にちょう
ど同じだけの黒字ができます。経済の片側の支払いが受け取る分
より多ければ、もう一方はまったく同じだけ受け取る分のほうが
多くなるはずです。つまり、マイナスの反対側にはつねに同じだ
けのプラスがあるのです。
 添付ファイルに2組のバケツの絵が3つ(ABC)ありますが
それは、次の3つのことを示しています。
─────────────────────────────
         A ・・・・ 財政赤字
         B ・・・・ 財政均衡
         C ・・・・ 財政黒字
─────────────────────────────
 第1に、Aのバケツを見てください。
 政府は100ドルを私たち(非政府部門)のバケツに入れます
が、90ドルを税金として抜き取るとします。そうすると、政府
は10ドルマイナスになり、私たちは10ドルのプラスになりま
す。この場合、政府部門は赤字になります。重要なことは、財政
赤字は国民の貯蓄を食いつぶすのではなく、増やしていることで
す。政府がこのペースで、赤字支出を続ければ、毎年10ドルず
つ私たちのバケツに貯まっていき、時間が経過すると、それは私
たちの金融資産になります。
 第2に、Bのバケツを見てください。
 これは支出を税収の範囲内にとどめるとします。政府は100
ドル支出し、100ドルを税として徴収します。そうすると、両
方のバケツから黒字は消滅します。これが財政均衡です。日本の
財務省はこの財政均衡を目標としています。プライマリーバラン
スは、この考え方をベースとしています。しかし、これは、家計
とまったく同じ考え方です。
 財政均衡によって経済全体の状況が良くなるのであれば、すな
わち、完全雇用や物価安定が実現すれば、財政均衡に文句をつけ
る筋合いはないのです。しかし、経済の均衡を保つには、財政赤
字による支援が不可欠なのです。
 第3に、Cのバケツを見てください。
 これは、政府が90ドル支出し、税として100ドル徴収する
ケースです。増税をして財政健全化を達成しようとするとこうな
ります。いま財務省が何とかして達成したいと考えているのはこ
の政策です。
 これは政府のバケツから私たちのバケツにドルが流れ込んでく
るのではなく、逆方向に流れ出しています。政府の側にプラスサ
インが付き、私たちのほうにマイナスがついたのです。これを続
けると、政府は黒字化しますが、私たち、すなわち民間は赤字に
なります。
 これは、クラウディングアウトの認識とは逆になります。民間
の貯蓄を食いつぶすのは、財政赤字ではなく、財政黒字というこ
とになるからです。なぜ、この事実を指摘する主流派経済学者は
いないのでしょうか。政府の財政収支には意を払うが、民間のバ
ケツにどう影響するかを全く考えていないのです。
             ──[新しい資本主義/第042]

≪画像および関連情報≫
 ●「クラウディングアウト」は起こらない
  ───────────────────────────
   昨日、大阪で行われた勉強会に参加してきました。いち参
  加者として、ほかの参加者からの質問に答えるという形は、
  とても居心地がよかったです。また、いままでに知ったこと
  を一人の民間人として伝える側に回ることもとても大切なこ
  とだと実感しました。さて、その中で受けた質問に対して、
  ブログでも書いておきます。
   質問は「国債を発行すると、お金が政府に取られるので、
  それだけ民間に回るお金が少なくなるのではないか」という
  質問です。経済学では「クラウディングアウト」(締め出し
  効果)と言われるものです。今までの主流派経済学では「国
  債の発行+政府支出増」という「信用創造の第2の経路」を
  無視しています。そのため、国債を発行しても通貨の供給量
  は増えないという立場を取っています。
                  https://bit.ly/3IMr6VF
  ───────────────────────────
ゴドリーの3つのモデル.jpg
ゴドリーの3つのモデル
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2022年03月09日

●「政府債務ゼロにすると何が起きるか」(第5686号)

 「日本は空前の借金大国、ほとんど返済不能な借金を抱えてい
る。国が破産しなければいいが・・・」──これは現代の日本人
のほとんどが認識しています。そして、いずれ増税のラッシュが
来るに違いないと考えています。
 しかし、MMT(現代貨幣論)の主唱者であるステファニー・
ケルトン教授は、「日本経済はMMTの正しさを世界に証明して
いる」と発言しています。そして、日本の債務は危機でも何でも
なく、日本がその気になれば明日にも返済は可能であるとして、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 たとえば、日本の例を見てみよう。日本の債務の対GDP比は
240%と、先進国で最高だ。2019年9月末時点で日本の債
務残高は、1335兆5000億円と過去最高を記録した。実に
1000兆円を超えているのだ。エンツィ上院議員が1000兆
という単位の借金を聞いたらなんと思うだろうか。恐ろしくたく
さんのゼロが並んでいる。「タイム」誌が、特集するとしたら、
「あなたには1050万円(約9万6000ドル)の借金があり
ます」という書き出しになるだろう。しかしアメリカと同じよう
に、日本も債務の持続可能性については何の問題もない。なぜな
ら日本は通貨主権国であり、日本政府の支払義務をすべて処理し
てくれる中央銀行があるからだ。金利が好ましくない動きを見せ
れば日本銀行が止められるので、金融市場が日本を債務危様に追
い込むことはできない。日本も日銀のコンピュータのキーボード
を叩くだけで、債務をそっくり返済することができる。
               ──ステファニー・ケルトン著
    『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
                        早川書房刊
─────────────────────────────
 1000兆円を超える財政赤字──とんでもない借金ですが、
ここで昨日のEJで説明したA、B、Cの3種類のバケツの話を
思い出していただきたいのです。Aが財政赤字、Bが財政均衡、
Cが財政黒字を表しています。世間一般の評価では、Cの財政黒
字が理想で、次はBの財政均衡、いちばんイメージの良くないの
はAの財政赤字ということになります。
 しかし、本当のところは、非政府部門(つまり、民間部門)の
バケツにドルが貯まるのは財政赤字のときだけです。すなわち、
財政が赤字のときだけに民間部門にドルがもたらされることを意
味しています。銀行に企業や個人から借り入れがあったときに、
新たに預金が生まれるのと同じ、「信用創造の仕組み」が働いて
いるからそうなるのです。
 日本の財務省は、国民を脅かすのに使えるデータ、すなわち、
「巨額の恐ろしい財政赤字」を強調する一方で、その巨額の財政
赤字が民間部門に及ぼすプラスの影響についてはなぜか説明しよ
うとしないのです。矢野論文はまさにそうです。
 「財政黒字」がそんなによいのでしょうか。
 米国のケースですが、政府債務がゼロだったことが1回だけあ
ります。1835年、アンドリュー・ジャクソン大統領の時代が
そうです。FRBの設置が1913年のことですから、中央銀行
が債務を引き受けたわけではないのです。せっせと赤字財政を転
換し、債券保有者にお金を返済したのです。これに10年かかっ
ています。その結果、1823〜1836年は財政黒字だったの
です。それではその間よいことがあったのでしょうか。
 そうではなかったのです。それまでには、経験のしたことのな
い最悪の景気後退に突入してしまったのです。その原因は明らか
です。財政黒字は、経済から資金を吸い上げるからです。財政赤
字はその逆であり、民間の所得、売り上げ、利益を下支えし、景
気を維持するのです。
 次の表は、米国の政府債務の減少率の年と、景気後退の始まる
年を示したものです。これを見ると、政府債務が減少するに伴い
景気後退が始まっていることがわかります。
─────────────────────────────
  政府債務ゼロの期間   債務減少率 景気後退開始年
  1817〜1821     29%    1819
  1823〜1836    100%    1837
  1852〜1857     59%    1857
  1867〜1873     27%    1873
  1880〜1893     57%    1893
  1920〜1930     36%    1829
         ──ステファニー・ケルトン著の前掲書より
─────────────────────────────
 かつての米国の、政府債務を完済するというこの試み、に関し
て、ステファニー・ケルトン教授は、自著で次のようにコメント
しています。
─────────────────────────────
 国家債務の完済は、当初は国をあげてのパレードに催するほど
の偉業と思われた。ホワイトハウスは当初、毎年発表する『大統
領経済報告』で、このニュースを大々的に取り上げるつもりでい
た。だがその後、怖気づき、結局報告書のこの章はひつそりと削
除された。それが明らかになったのは、ナショナル・パブリック
ラジオ(NPR)の経済番組『プラネットマネー』が、政府の秘
密の報告書を入手したからだ。そこには政府が債務をすべて返済
するという、恐ろしいシナリオが描かれていた。ホワイトハウス
はそれを全国民に発表せず、ひっそりと隠した。なぜか。それは
米国債市場そのものを消し去ることの影響を懸念したからだ。政
府高官の多くが国家債務に抱く、愛憎入り混じった感情がまたも
頭をもたげたのだ。ホワイトハウスは国家債務の消滅を願いつつ
米国債をすべて消滅させるようなリスクは負えなかった。
         ──ステファニー・ケルトン著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[新しい資本主義/第043]

≪画像および関連情報≫
 ●コラム:財政赤字は「むしろ良い」、変わりつつある評価
  ───────────────────────────
  [ロンドン2020年1月8日/ロイターBREAKINGVIEWS]
   最近まで、ほとんどのエコノミストは、政府が平常時にさ
  さやかな規模以上に借り入れを膨らませる行為を非難してき
  た。彼らはおおむね政府を信用せず、公的債務が民間投資を
  圧迫するだけでなく、物価を高騰させ、景況感を冷やすと証
  明できる理論を持っていた。ところが今や、財政赤字はそれ
  ほど悪い存在ではない。むしろ、総じて良いとの見解が優勢
  だ。古い考え方が死に絶えたわけではない。政府はいわば国
  家という大きな家族で、収入以上にお金を使うべきでないと
  いう理屈は直観的に訴えかける力がある。ドイツのメルケル
  首相も、こうした価値観を「シュバーベン地方の主婦」たち
  の倹約精神になぞらえている。
   「財政赤字悪玉論」により、ユーロ圏加盟国は平常時に財
  政赤字を国内総生産(GDP)比3%までに抑えるよう求め
  られ、ドイツは「債務ブレーキ」と呼ばれる制度を導入。財
  政赤字がGDPの0.35%に達すると、原則としてさらな
  る政府借り入れを禁じているほどだ。
   依然として少数の政治家(主としてドイツ人)は、大規模
  な財政赤字を計上するのは、単純によろしくないと考えてい
  る。一部の有名エコノミストも同意見だ。ブルームバーグに
  よると、米大統領経済諮問委員長を務めたクリスティナ・ロ
  ーマー氏は最近、大幅な財政赤字の持続は「強力かつ健全な
  超経済大国になるための方策にならない」と発言した。
                  https://bit.ly/3pCFPuE
  ───────────────────────────
ステファニー・ケルトン教授.jpg
ステファニー・ケルトン教授
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2022年03月10日

●「あちらの赤字はこちらの黒字なり」(第5687号)

 「あちらの赤字はこちらの黒字」──これは、ステファニー・
ケルトン/ニューヨーク州立大学教授の本の第4章のタイトルの
名称です。これと同趣旨のことを高橋洋一嘉悦大学教授は次のよ
うにいっています。
─────────────────────────────
 借金というのは、必ず誰かの資産になる。国債は政府の借金だ
が、貸している民間金融機関にとっては「資産」である。民間金
融機関は、国債という資産を買って、利子収入を得ているのであ
る。今ほど低金利では、「利ざやで儲ける」というほど大きな額
にはならない。しかし、わずかでも利子収入を生む「資産」であ
ることには違いない。
 しかも、国債は金融市場の「コメ」だ。だから金融機関は、金
利が低くても国債を買い続ける。借金とは、どこまでいっても、
「借りる側」と「貸す側」の二者関係の話だ。貸し手が喜んで貸
している間は、金利は低いままだが、「なんだか危ないから、も
う貸したくない」という貸し手が増えれば金利は上がる。国債は
金利が低いまま取引されているから、「発行されすぎ」というロ
ジックは成り立たない。やはり単純な話なのである。
                 ──高橋洋一著/あさ出版
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
─────────────────────────────
 一方に借り手がいれば、必ず他方に貸し手がいます。当然のこ
とです。民間部門の中でも誰かの「債務」は誰かの「債権」を意
味しています。「債務」というのは金品を支払う義務ということ
であり、「債権」というのは金品を要求する権利のことです。
 AがBにお金を貸せば、Aは債権者であり、Bは債務者になり
ます。政府が国債を発行して銀行がそれを引き受ければ、銀行が
債権を持ち、政府は債務を負います。債権というのは、土地やお
金などとともに資産に含まれます。したがって、政府が借金をす
ればするほど、民間部門の金融資産は増加するのです。
 ところで、国債の売買はどのようにして、行われるのでしょう
か。政府は予算を立てますが、そのうち税収でまかなえない部分
は、国債を発行してまかなうことになります。その概要について
知っておく必要があります。
 政府の発行した国債は、基本的には銀行や信用金庫、証券会社
など、民間の金融機関が引き受けることになります。政府は国債
をこれらの民間金融機関に売り、その代金が予算に使われます。
以下、整理します。
─────────────────────────────
      @売買者 ・・・・・    財務省
      A購入者 ・・・・・ 民間金融機関
─────────────────────────────
 国債は、どのようにして売買されるのでしょうか。国債は、つ
ねに「入札」によって売買されます。これについて、高橋洋一氏
は次のように解説しています。ちなみに、高橋洋一氏は、かつて
大蔵省(現財務省)時代に、国債の売買を担当してきたことがあ
るそうです。
─────────────────────────────
 国債の入札は多数の金融機関によって行われるが、入札は一度
きりで、その入札額によって買えるかどうかが決定する。国債の
基本単位は「100円」だから、「100円1銭」や「100円
5銭」といった非常に小幅な入札額の競争だ。ちなみに、金融機
関同士では、どこがいくらで入札したかはわからない。入札が出
揃ったら、財務省の担当者は、入札額が高い順に売り先を決めて
いき、発行額に足りたところで切る。それ以下の入札額を出した
ところは、国債を買えない、ということだ。
           ──高橋洋一著/あさ出版の前掲書より
─────────────────────────────
 国債を発行するとき、財務省は、民間金融機関に対して次のよ
うに通達します。「利率1%の10年債を額面1000億円発行
します」。伝えるのは次の3つです。
─────────────────────────────
    @   利率は何%か ・・・     1%
    Aいくら発行するのか ・・・ 1000億円
    Bいつ償還されるのか ・・・   10年債
─────────────────────────────
 国債が買えるかどうかは、民間金融機関の国債担当者の腕の見
せどころになります。基本単位は「100円」であり、もし、基
本単位の100円で額面100億円買うと入札すると、100億
円支払うことになります。実際の入札額は「1銭刻み」になるの
で、入札額は「100円1銭」とか「100円2餞」というよう
になります。財務省の担当者は、入札された額を検討し、財務省
として最もトクなところを選ぶことになります。
 入札の判断を決めるのは「利子」です。このケースでは、金利
は1%で額面に対してかかるので、利回りを考慮して額面を決め
ることになります。金利が1%で100億円買うのであれば、毎
年1億円の利子収入ということになります。100億円買う場合
年1億円の利子収入は変わらないのです。
 銀行の国債担当者が入札額を決める場合、今後金利が下がると
考える場合、入札額を少し高くします。金利が高いうちに確実に
国債を買っておくという判断です。逆に金利が上がると考える場
合は、入札額を少し低くします。このあたりのさじ加減がなかな
か難しいのです。なぜなら、100円で100億円入札する場合
と、90円で100億円入札する場合では、利回りに差が出てく
るからです。添付ファイルの図をご覧ください。
─────────────────────────────
 100億円で1億円の利子収入の利回り ・・・   1%
  90億円で1億円の利子収入の利回り ・・・  1.1%
─────────────────────────────
             ──[新しい資本主義/第044]

≪画像および関連情報≫
 ●【初心者対象】国債って何?/仕組みや利回りを
  分かりやすく解説
  ───────────────────────────
   国債とは、簡単にいうと国が発行する債券のこと。日本国
  が発行する債券は「日本国債」と呼ばれます。債券とは資金
  を借り入れする際に発行される有価証券で、借用証書でもあ
  ります。債券は発行される団体によって呼称が異なります。
   @地方公共団体が発行する債券・・・地方債
   A企業が発行する債券・・・・・・・ 社債
  国家として、社会保障の整備や各種インフラ整備などには税
  金を充てるのが一般的です。しかし、それらの財政支出が税
  収入で賄えなくなると、国は国債を発行して投資家からお金
  を募ります。国の借金の申し出に賛同した投資家が国債を購
  入することで、国にお金が入る仕組みになっています。「国
  債=国の借金」という捉え方が一般的なのは、国家と投資家
  の間にこのやり取りがあるからです。
                  https://bit.ly/3ISTFkm
  ───────────────────────────
 ●図の出典/──高橋洋一著/あさ出版の前掲書より
国債の利回り.jpg
国債の利回り
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2022年03月11日

●「なぜデフレから脱却できないのか」(第5688号)

 ウクライナ問題でこういう情報があります。8日時点で入って
きた情報ですが、ウクライナのゼレンスキー大統領が依然として
ネットを使って国民を励ます演説を続けられているには、それを
支える優秀なスタッフがいるからです。ミハイロ・フェドロフデ
ジタル相(副首相)です。つねに大統領のそばにいて、大統領を
支えている31歳の大臣です。
 ミハイロ・フェドロフデジタル相は、ロシアの攻撃によって、
インターネットが使えなくなることを恐れて、米電気自動車大手
テスラのイーロン・マスクCEOと連絡を取り、衛星を介したイ
ンターネットサービスを維持する方法について、マスクCEOの
アドバイスを受けてそれを実施しています。昨年はじめてデジタ
ル庁を作り、何をしているのかわからないどこかの国のデジタル
大臣とは大変な違いです。
 さて、既に述べているように、政府の発行する国債は民間金融
機関が引き受けます。そのとき、日本の中央銀行である日本銀行
は何をしているのでしょうか。
 日銀が政府から直接国債を買うこともあります。いわゆる日銀
による国債引き受け──財政ファイナンスといいます。しかし、
これは財政法第5条によって、原則的に禁止されています。しか
し、限定的ではあるものの、毎年行われています。
─────────────────────────────
【第5条】すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引
き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを
借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、
国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない。
─────────────────────────────
 それでは、日銀は何をしているのかというと、必要に応じて、
民間金融機関の持っている国債を時価で買い上げています。この
国債の売買は、日銀が金融緩和政策の一環として行う「買いオペ
レーション」と呼ばれています。
 日銀が民間金融機関が保有している国債を買う場合、その代金
は、民間金融機関の持っている日銀当座預金に振り込まれること
になります。この日銀当座預金には原則として利息はつかないこ
とになっています。
 したがって、銀行としては、日銀当座預金としてストックして
おいてもお金は増えないので、それを引き出して企業や個人に貸
し付けようとします。つまり、利子のつくお金に変えようとしま
す。これによって、金利が下がり、世の中に出回るお金が増える
ことになります。
 この世の中に出回るお金と物の量のバランスによって、物価が
決まります。よりお金の量が物の量を上回ると、インフレになり
ますし、デフレの状況下では景気が良くなる可能性があります。
これを「アベノミクス」という政策として実行したのは、安倍政
権であり、「リフレ政策」ともいわれています。
 リフレ政策というのは、インフレにならない程度の水準まで物
価を引き上げるために、金融政策や財政政策を実施することをい
います。世の中に出回る資金の量を増やすなどの方法で、人々が
予想する将来の物価水準を示す期待インフレ率を押し上げること
によって、デフレから脱却しようとする政策です。
 このリフレ政策について、中野剛志氏と記者は、次のやり取り
をしています。
─────────────────────────────
中野:ええ。主流派経済学の何が痛いかというと、「貸出が預金
 を生む」という事実を知らないことなんです。ついでに言って
 おくとですね、「デフレ脱却のため」という触れ込みで、主流
 派経済学者が主張して実行された、いわゆる「リフレ政策」が
 ほとんど効果がないのも当たり前のことなんです。
――そうなんですか?
中野:もちろんです。「リフレ政策」とは、日銀は「インフレ率
 を2%にする」という目標(インフレ・ターゲット)を掲げ、
 その目標を達成するべく、大規模な量的緩和(マネタリー・ベ
 ースの増加)を行うというものです。
  マネタリー・ベースとは、銀行が日銀に開設した「日銀当座
 預金」のことです。銀行が保有している国債や株式を、日銀が
 “爆買い”して、その対価として「日銀当座預金」を爆発的に
 増やせば、銀行は積極的に企業などに貸し付けることで、市中
 の通貨供給量(現金と預金通貨)を増やすことができると考え
 たわけです。(中略)
  ところが、いまはデフレなので借り手がいないわけです。だ
 から、いくら「日銀当座預金」を積み上げても、貨幣供給量は
 増えません。実際、量的緩和で400兆円くらい日銀当座預金
 を増やしたはずですけど、ただ“ブタ積み”されているだけで
 インフレ率は2%には遠く及ばないですよね?
――つまり、「信用創造」を理解していないから、誤った政策を
 実施してしまったと?
中野:そうですね。信用貨幣論と信用創造を理解している人は、
 量的緩和をやる前からこの結末はわかっていました。だけど、
 2001年から2006年まで量的緩和が実施され、さらに、
 2012年に成立した第2次安倍政権のもとで、さらに“異次
 元”の量的緩和が実行されてしまったわけです。
――なんだか、ガックリくるお話ですね・・・。
                  https://bit.ly/3KmOvgI
─────────────────────────────
 2013年6月からスタートした安倍政権によるアベノミクス
は、当初劇的に株価を上昇させるなど、順調でしたが、それは、
第1の矢の「大胆な金融政策」と、第2の矢である「機動的な財
政政策」が効いたからです。だから、消費税の増税などしないで
財政政策をもっと積極的に実施していたら、もしかすると、デフ
レから脱却できたかもしれないのです。
             ──[新しい資本主義/第045]

≪画像および関連情報≫
 ●失敗か成功か、8年弱のアベノミクスで得た教訓
  ───────────────────────────
   アベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、投
  資を喚起する成長戦略という「3本の矢」で構成された。日
  本銀行による国債の大規模購入など異次元の金融緩和政策、
  防災・減災・国土強靱化の公共事業支出が、その中心を担っ
  た。もうひとつの基本的メッセージは、「経済成長なくして
  財政再建なし」だ。公的債務残高約1100兆円(GDP<
  国内総生産>比約2倍)と先進国で突出した最悪水準にある
  財政について、経済成長にともなう税収増を重視して、増税
  などの負担増は極力避ける姿勢をとった。
   安倍首相在任中に2度の消費増税が実施されたが、これは
  第2次安倍政権より前の野田佳彦・旧民主党政権が自民・公
  明との3党合意で決めたものだ。安倍首相自身は終始、増税
  には消極的なスタンスであり、「経済成長を実現すれば、税
  収増を通じて財政健全化の課題は解決する」という論法で一
  貫していた。
   このようなアベノミクスについて、当初描いた将来想定と
  実際の帰結では、どんな相違があっただろうか。それを具体
  的に検証するには、第2次安倍政権が発足当初に、アベノミ
  クスの成果を前提として策定した「中長期の経済財政に関す
  る試算」(2013年8月8日公表)を見てみるといい。こ
  こでの将来推計値と実績値を比較してみよう。まずは、経済
  成長だ。            https://bit.ly/3hK4SHY
  ───────────────────────────
ミハイロ・フェドロフデジタル相.jpg
ミハイロ・フェドロフデジタル相
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2022年03月14日

●「日本は財政破綻するという大ウソ」(第5689号)

 「我々はウクライナを攻撃していない」──ロシアのラプロフ
外相の発言です。3月10日、ウクライナ危機がはじまってから
はじめて行われたウクライナのクレバ外相とロシア外相の会談の
後の発言です。平然とウソをついています。
 外交官が公開の席でこんなウソをついて大丈夫なのかなと普通
の人は思いますが、実はぜんぜん平気なのです。なぜなら、ロシ
アの外交官というのは、自分が明らかにウソだと分かっていても
それを堂々と語る話術があり、それと同時に、周りのみんなもウ
ソだと分かっていることを本人も分かりながら、それでも堂々と
語る技術を徹底的に訓練されているからです。
 彼らのロジックはこうです。「ウクライナのゼレンスキー政権
は過激派のネオナチ政権で、ウクライナ特定地域在住のロシア人
に対して、ジェノサイド(民族大量虐殺)的攻撃を加えているの
で、我々は彼らを解放するために行動しているだけである」。こ
れもほとんどウソですが、ロシアのプーチン政権がウクライナを
攻撃するための大義名分になっています。
 ロシアのウソは論外ですが、日本の経済においてもこういうウ
ソが平然とつかれています。それは財務省のいう次のメッセージ
です。それは、数字としては事実であり、一見ウソには思えない
し、日本の主流派経済学者はこれと同じ意見です。
─────────────────────────────
 日本政府の財政赤字(一般政府債務残高/GDP)は256%
であり、他の先進国よりも劣悪な状態にある。このままでは、財
政が破綻する。         ──矢野康治財務省事務次官
─────────────────────────────
 しかし、この矢野財務次官の主張は間違っています。彼が自分
の主張が間違いであることを知っていて、あえてそういうウソを
ついているのか、本当にそう思っているかはわかりませんが、現
職の財務次官が一般誌にその主張を公開している以上、正しいと
信じていると思います。
 主張が間違いであるというのは、次のような論理展開です。
 国債は政府の借金である。その多くは日本の民間金融機関が引
き受けている。それらの金融機関が「国債は多く発行され過ぎて
いる」と判断したら、当然国債は買われなくなる。そうすれば国
債の金利が上がる。この状態が続くと、需要と供給の関係で、買
う人が少なくなり、さらに金利が上昇する。
 しかし、現在でも国債の金利は低いまま、正常に取引されてい
る。民間金融機関は国債を求めている。ということは、国債は発
行され過ぎていないということになる。
 どうでしょうか。国債は正常に取引されており、財政破綻など
あり得ないことです。
 財政法第4条に次の一文があります。
─────────────────────────────
財政法第4条:国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、
 その財源としなければならない。
─────────────────────────────
 これは、「借金をしないで、歳入(国の収入)だけで、予算を
まかないなさい」といっているのです。こういう国の考え方自体
が、国の財政を家計と同一視していることになります。
 もちろん、そんなことで、国家の財政を運営できるわけがなく
借り入れについては「建設国債」の発行が認められています。つ
まり、インフラ整備や建築などの予算に関しては「建築国債」、
財政運営資金が不足するときは、例外的に「特例公債」の発行も
認められています。ここでいう「特例公債」がいわゆる「赤字国
債」といわれるものです。
 しかし、建設国債も赤字国債も同じ国債です。お金に色はつい
ていないのです。要するに、建設国債も赤字国債も、その年の予
算のうち、税収でまかないきれないものを補うために発行される
のです。そこには、「なるべく借金をさせないようにする」とい
う家計的配慮があります。ここから税収を増やすために、「赤字
国債ではなく増税」という発想が生まれてくるのです。
 これに関して、財務官僚出身の高橋洋一氏は、次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 国債を発行して得た資金は必要な用途に割かれるだけである。
だから、もちろん、金融市場の現場では、建設国債と赤字国債は
同じ国債として扱われており、区別されていない。その証拠に、
もし金融機関で国債を買ったら、自分が買った国債は建設国債な
のか、赤字国債なのか聞いてみたらいい。どっちであるとは答え
られないはずだ。
 建設国債と赤字国債を区分しているのは、政府の予算の中だけ
である。それも、先進国で予算において国債を建設国債と赤字国
債とに区別しているのは、基本的には日本だけだ。
                 ──高橋洋一著/あさ出版
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
─────────────────────────────
 「建設国債は可」という考え方のバックには「モノが残る借金
はよい」という考え方があります。この考え方はおかしいです。
「投資のための借金は可」とすべきです。モノにこだわるから人
に投資するという発想がなく、日本は、世界に比して、教育投資
が大きく遅れています。「赤字国債を発行してまでやることでは
ない」と考えてしまうからです。「建設国債」を作るなら「教育
国債」を作るべきであります。
 日本経済が成長しない原因はデフレですが、そのデフレから日
本が30年も抜け出せない原因は「赤字国債」を忌避する国家の
姿勢にあります。何をいいたいのかというと、赤字国債をなるべ
く発行したくないという考え方があるため、財政の出動を極端な
ほどに抑制しているからです。このことについて、中野剛志氏の
考え方などを参考にして検討していくことにします。
             ──[新しい資本主義/第046]

≪画像および関連情報≫
 ●「赤字国債など総動員」ってまずくない?
  岸田首相発言に違和感
  ───────────────────────────
   「赤字国債をはじめ、あらゆるものを動員する」。就任後
  間もない昨年11月の岸田文雄首相の発言が、気になってい
  た。巨額の経済対策の財源に赤字国債を充てると勇ましく宣
  言しているが、赤字国債は本来なら財源不足を補うため仕方
  なく発行するはずのものである。「動員」してしまうのはマ
  ズいのではないか。官僚や専門家に悪影響がないか聞いてみ
  た。【大久保渉/デジタル報道センター】
   まずは発言を思い出したい。岸田首相は2021年11月
  19日、内閣記者会のインタビューのなかで、経済対策の財
  源に関する質問にこう答えていた。
   「今は緊急時で国民の命や暮らしを守るために必要なもの
  をしっかりと用意しなければいけない。財源については赤字
  国債をはじめ、あらゆるものを動員する」
   インタビューの後半では、別の記者からの財政規律に関す
  る質問に「今は緊急事態」と改めて経済対策の必要性を強調
  し、「財源は赤字国債も含め、あらゆる手段(政府の判断で
  自由に使える)予備費等を総動員して考えていかなければい
  けない」と繰り返した。「あらゆるものを動員」「総動員」
  と威勢はいいが、結局は赤字国債、すなわち借金である。発
  言は、海外メディアのロイターやブルームバーグが当日の電
  子版で「経済対策の財源、赤字国債はじめあらゆる手段を総
  動員」などと報じた。翌日の朝刊では、日経新聞が1面で報
  じ、毎日新聞は5面の一問一答記事の中に盛り込んだ。
                  https://bit.ly/3MVGsd1
  ───────────────────────────
ロシア/ラブロフ外相「我々は攻撃していない」.jpg
ロシア/ラブロフ外相「我々は攻撃していない」
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2022年03月15日

●「MMTは真にブードゥ−経済学か」(第5690号)

 ロシアは、米国の支援を受けてウクライナが生物兵器の研究を
していたと、とんでもないことをいいはじめています。ロシアが
生物兵器を使うための「偽旗作戦」だといわれています。偽旗作
戦とは、攻撃手を偽る軍事作戦の一種で、海賊が「降伏」の旗を
掲げて敵敵を油断させて、逆に相手の船を乗っ取るという行為に
由来します。旧ソ連のお家芸の一つです。
 現在EJで展開しているMMT(現代貨幣理論)も、主流派経
済学者から「トンデモ理論」といわれており、まったく相手にし
ない経済学者もたくさんいます。
 EJでは、MMTを過去にも取り上げており、関連書籍をほと
んど読んでみましたが、実際に行われている経済政策に照らして
みると、MMTの方が納得できる点が多いことは事実です。もち
ろん、MMTのすべてが正しいというつもりはありませんが、ア
タマから反対せず、素直に主張を聞く価値はあると考えます。
 岩村充早稲田大学名誉教授は、もちろんMMTには反対の立場
の主流派経済学者ですが、MMTの主唱者の一人であるステファ
ニー・ケルトン教授について次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 MMTに反発する学界主流派の中には、日本でも有名なポール
・クルーグマンやケネス・ロゴフあるいはロバート・シラーなど
超大物が顔をそろえていますし、実務エコノミストからもサマー
ズ元財務長官とか、ジェローム・パウエル現FRB議長なども攻
撃側に立つという具合です。
 一方で、MMTの主唱者ステファニー・ケルトンは、それまで
ほぼ無名だった1969年生まれの大学教授です。普通なら臆し
そうなものなのですが、私が彼女をすごいなと思うのは、そうし
た権威筋や実権派の面々にひるまず反論するところです。このあ
たりの風景は、はたで見ている分には、彼女があのジャンヌ・ダ
ルクのように映るところもあって、やや不謹慎ながら「よっ、ケ
ルトン!」とでもお声かけしたくなるところもあるのですが、そ
れはやめておきましょう。彼女の主張は、いくら何でも難点が多
すぎるからです。       ──岩村充早稲田大学名誉教授
                  https://bit.ly/3tQCCZF
─────────────────────────────
 著名な経済学者が反対したからといって、その理論が間違って
いることにはならないと思います。もともとMMTを持ち出した
のは、アレクサンドリア・オカシオ・コルテスという米国の若い
下院議員です。彼女は、再生可能エネルギーを100%にするた
めの政策「グリーン・ニューディール」の財源として、MMTに
基づいて、赤字国債の発行を主張しているのです。
 これにノーベル賞受賞経済学者であるクルーグマンは、MMT
を「経済モデルなんてものじゃない」とバカにしたように吐き捨
て、ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏は「ナンセンス」と
切り捨て、米国の経済学者で元財務長官のローレンス・サマーズ
氏は「MMTはいかがわしいブードゥ−経済学」と揶揄していま
す。はじめからバカにしているし、きわめて感情的な反対のよう
に感じます。ていねいにMMTについて検討して出した言葉とは
とうてい思われないものです。
 安倍政権のアベノミクスでは、日銀は、2013年6月から、
インフレ率を2%に設定し、その目標を達成するべく、大規模な
量的緩和政策を実施しています。
 量的緩和政策というのは、中央銀行の行う金融緩和政策のひと
つであり、その目的は、モノが売れず景気が悪いときに金利を下
げることです。反対に景気が過熱したときに金利を上げることを
金融引き締めといいます。金融緩和には次の2つがあります。
─────────────────────────────
           @質的金融緩和
           A量的金融緩和
─────────────────────────────
 @の「質的金融緩和」とは何でしょうか。
 質的金融緩和とは、日銀が保有する国債の保有期間を延ばした
り、国債以外にも買い入れたりする、いわゆる「質的」な手段に
よって、市中に出回るお金を増やすことです。日銀が保有する国
債を長く保有すること、そして国債以外に証券取引所に上場され
ている投資信託など多様な金融資産を買い入れることがここでい
う質的金融緩和です。
 Aの「量的金融緩和」とは何でしょうか
 金利を下げるといっても、金利がゼロになると、それ以上下げ
られないことになります。そこで、日銀は、金融機関が政府から
買った国債を買い取って、金融機関の持つ「日銀当座預金」残高
を増やします。金利はゼロになると、それ以上下げられませんが
日銀当座預金の量ならいくらでも増やせるわけです。そういうわ
けで、日銀の黒田総裁は「かつてない異次元のレベル」と銘打つ
「超金融緩和」を実施したのです。
 結局、日銀は、この量的緩和によって400兆円くらい日銀当
座預金を増やしたはずですが、現在にいたってもインフレ率2%
は達成されていないのです。これは、どのように考えても、政策
の失敗というしかないわけです。しかし、日銀は現在でもこの政
策を続けています。これについて、中野剛志氏は、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 中央銀行は、インフレ対策は得意ですが、デフレ対策は苦手な
のです。ところが、主流派の経済学の教科書には、中央銀行がマ
ネタリー・ベース(日銀当座預金)を操作することで、貨幣供給
量を増やしたり減らしたりしていると書いてあります。恐ろしい
ことに、経済学の教科書は、事実と異なることを教えているので
す。これは、現代の天文学の教科書が天動説を教えているような
ものでしょう。           https://bit.ly/3CBPqav
─────────────────────────────
             ──[新しい資本主義/第047]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀の量的緩和がもたらす致命的な3つの害悪
  小幡績慶応義塾大学大学院准教授
  ───────────────────────────
   まず、日銀が当たり前のようにやっている長期国債の買い
  入れから見ていこう。これも本来は不要である。
   国債買い入れの目的は、金利を低下させることである。だ
  が、本来であれば、これは短期金利のコントロールのための
  手段である。だから、伝統的には世界中の中央銀行が長期国
  債を買い入れることはせず、超短期のコール市場の金利のコ
  ントロールの補助として、短期国債を買い入れてきたのであ
  る。むしろ本来の呼び方である「オペ」(オペレーション)
  という言葉がふさわしい。
   しかし、リーマンショック以降、世界では量的緩和が長期
  国債の買い入れを意味するものとして定着してしまった(も
  ともと「量」とは民間銀行の日銀への当座預金の量であり、
  長期国債の買い入れとは無関係である)。
   ただ、現実的な効果としては強力で、民間における投資活
  動への直接的な金利の影響は、長期金利によるものであるか
  ら、短期金利をコントロールして長期金利に間接的に影響を
  与えるという伝統的な金融政策を超える絶大な力を持った。
  再び、しかし、日銀は、この強力な手段も使い果たしてしま
  い、長期金利を直接目標にしてコントロールを図る、イール
  ドカーブコントロールに移行した。目標を「10年物の金利
  をゼロとする」と宣言してしまっているから、長期金利低下
  効果(上昇させる場合も今後ありうるから正確な用語として
  はターゲット効果)はさらにより直接的である。
                 https://bit.ly/3MEYNe9
  ───────────────────────────
岩村充早稲田大学名誉教授.jpg
岩村充早稲田大学名誉教授
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2022年03月16日

●「どうして、財政出動を躊躇うのか」(第5691号)

 ガソリン価格が高騰しています。ウクライナ情勢の深刻化の影
響を受けて、ガソリンはさらに170円/Lを超えて、高騰する
ものと考えられます。政府は、これに対応するための激変緩和措
置として、石油元売り会社へ5円の補助金を支給してきましたが
ガソリンの高騰が収まらないので、3月から、補助金を5円から
25円に引き上げて高騰を抑えようとしています。
 この政府の措置は非常に姑息なやり方です。「トリガー条項」
を何とか実施したくない政府の意思のあらわれでもあります。な
ぜか。減税は「絶対にやりたくない」からであり、財務省が猛烈
に反対しているからです。これを見ても財務省こそ日本のデフレ
を加速させている張本人であることがわかります。
 トリガー条項を巡っては、政府、自民党、公明党、国民民主党
の間で、ドタバタが続いています。ほとんどの人は、何をやって
いるのか、複雑でわからないと思われるので、簡単に説明するこ
とにします。
 ガソリンは、次のように、ガソリン税と石油税の2つに消費税
が課せられています。完全な二重課税です。税としてきわめて好
ましくないことを平然とやっています。
─────────────────────────────
    ガソリン税 ・・・ 53・8円×消費税10%
      石油税 ・・・   28円×消費税10%
─────────────────────────────
 この「53・8円」のなかには、「25・1円」の上乗せ分が
含まれています。トリガー条項というのは、ガソリンの平均小売
価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、ト
リガーを弾くように25・1円を減税する措置のことです。旧民
主党政権時代の2010年度税制改正で導入されています。しか
し、東日本大震災が発生した2011年に、旧民主党政権が被災
地の復興財源を確保するため凍結を決め、現在も凍結されたまま
なのです。
 今こそこの凍結を解くべきだと国民民主党、公明党が岸田政権
に求めているのです。ところが、岸田首相周辺の財務省出身の取
り巻きスタッフや、財務省が猛烈に反対し、元売りへの補助金を
5円から25円に引き上げて、トリガー条項の凍結解除をやらな
いようにしようとしています。したがって、元売り25円引き下
げは、明らかにこの上乗せ分「25・1円」を意識しています。
 「25円下げるからいいじゃないか」ということのようですが
この上乗せ分25円には消費税10%がかかっており、トリガー
条項凍結解除で25円を減税すると、その消費税部分まで取れな
くなってしまうからです。この対応を見ても、財務省はただのケ
チで、まるで経済というものを理解していません。
 テーマに戻ります。安倍政権のアベノミクスという名のリフレ
政策は、なぜ中途半端に終わったのでしょうか。リフレ政策とい
うのは、デフレ状態を脱却し、インフレにならない程度の水準ま
で物価を引き上げるために、金融政策や財政政策を実施すること
をいいます。世の中に出回るお金の量を増やすなどの方法によっ
て、人々が予想する将来の物価水準を示す期待インフレ率を押し
上げ、デフレから脱却しようとする考え方です。
 リフレとは「リフレーション」のことであり、デフレからは何
とか脱却したが、本格的なインフレには達していない状態のこと
をいうのです。そのための「異次元の量的緩和」です。
 量的緩和とは、金融機関が日銀に対して設けている日銀当座預
金に国債などを買い入れて、資金を供給し、市中のお金の量を増
加させようとする日銀の政策です。
 しかし、日銀が金融機関の日銀当座預金にいくら資金を積み上
げても、銀行がそれを引き出して、企業や個人に融資しないと、
市中に流通するお金の量は増えないのです。ところがデフレでは
資金需要が低いので、銀行から融資を受ける人は少ないので、資
金が日銀当座預金にブタ積みされるだけになっています。
 これについては、添付ファイルをご覧ください。上下2つのグ
ラフがあります。GDP、財政支出、マネタリーベース(日銀当
座預金)の関係を示しています。
 一目見てわかるように、マネタリーベースは、1993年頃よ
り、どんどん増えていますが、GDPは伸び悩んでいます。これ
をみれば、誰だって、マネタリーベースとGDPの伸びとは無関
係であることがわかります。
 しかし、財政支出とGDPは、ぴったりくっついています。こ
のグラフを見れば、財政支出を増やせば、GDPは伸びるのでは
ないかと誰でも思います。したがって、2013年にアベノミク
をはじめるとき、もっと積極的に財政支出を伸ばすという発想が
なぜ出てこないか不思議です。確かに3本の矢のうち第2の矢で
ある「機動的財政出動」があり、財政出動しているのですが、安
倍政権は、5%だった消費税の税率を2回に分けて、10%に倍
増するという愚かなことをしているのです。増税は、いうまでも
なく、金融引き締め政策です。これは、アクセルとブレーキを一
緒に踏むようなものです。
 添付ファイルの下のグラフは、OACD33か国の、1997
年から2015年の財政支出の伸び率にGDPの成長率をプロッ
トしたものです。明らかに財政支出とGDPの成長率には強い相
関があることは明らかです。
 これを見ると、成長率のトップは中国で、日本の成長率は最下
位です。天と地の差です。負けている理由は「財政支出が少なす
ぎる」ということです。こんなことは学者でなくても素人でもわ
かります。縛っている理由は、対GDP比256%の政府の借金
でしょうか。日本では、おそるおそる財政出動しているように感
じます。「そんなものは関係がない」とMMTは主張しているの
です。びっくりするような財政出動をしても、日本はデフレです
から、絶対インフレにはならないのです。財務省と日本の主流派
経済学者は理屈をこねずに反省してほしいものです。
             ──[新しい資本主義/第048]

≪画像および関連情報≫
 ●世界が前代未聞の債務の波に襲われても破綻しない理由
  アレックス・ハドソン氏
  ───────────────────────────
  <世界全体の債務残高は277兆ドルに達し返せる当てもな
  いが、それでも政府は必要な支出を惜しんではいけない>
   いかに私たちが健忘症でも、まだ忘れてはいないだろう。
  わずか10年前までは(少なくともヨーロッパでは)緊縮と
  禁欲、そして徹底した歳出の削減だけが生きる道だったこと
  を。「天気のいいうちに屋根の穴を塞ぎ」、借金を減らして
  経済成長を促せ。それが必須で、借金のし過ぎは取り返しが
  つかないことになる。それこそが常識だった。
   「最新の研究によれば、債務残高がGDPの90%を超え
  ると長期の成長にネガティブな影響を及ぼすリスクが高まる
  そうだ」。10年前に、英財務相となる直前のジョージ・オ
  ズボーンはそう言い、こう付け加えていた。英国の債務残高
  は「2年以内にGDPの90%を超える見込み」だと。
                  https://bit.ly/3J9CTO1
  ───────────────────────────
GDPと財政支出の関係.jpg
GDPと財政支出の関係
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2022年03月17日

●「消費税増税と経済への大ダメージ」(第5692号)

 3月14日の外国為替市場のドル円相場は、次の通りとなって
います。
─────────────────────────────
         1ドル=117円81銭
─────────────────────────────
 前週末午後5時時点に比べ1円10銭の大幅なドル高・円安に
なっています。かつては、ウクライナ危機というような有事には
ドルより円が買われ、「有事の円高」といわれたものですが、今
回は見る影もありません。
 主要国のGDPシェア(ドル建て)を調べると、1995年か
ら2015年の20年間で、日本のGDPシェアは、17・5%
から5・9%に縮小しています。このままでは、日本はとても先
進国とはいえないいベルに転落してしまいます。
─────────────────────────────
           1995年   2015年
       日本  17・5%    5・9%
     アメリカ  24・6%   24・3%
    ヨーロッパ  33・6%   25・0%
       中国   2・4%   15・0%
      その他  21・8%   29・9%
                  https://bit.ly/3KFPMPZ
─────────────────────────────
 なぜ、こうなってしまうのでしょうか。
 それは、どのように考えても、日本の経済政策の失敗にあると
いっても過言ではないと思います。はっきりしていることは、思
い切った財政支出がないということです。
 添付ファイルを見てください。このグラフは、1985年から
2017年までの当初予算と補正予算の公共事業関係費の推移を
示しています。当初予算の棒グラフは青色、補正予算は橙色で表
示されています。
 2009年から2012年までは、民主党政権ですが、このと
きは、民主党が「コンクリートから人へ」のスローガンの下、公
共事業費を大幅に削減したのです。しかし、安倍政権でもグラフ
にしてみると、民主党政権のときと、大して変わっていないので
す。当初予算で見ると、鳩山民主党政権下の公共事業関係費の当
初予算(2010年)よりも、むしろ低いくらいです。やはり、
財政出動に関しては、おそるおそるやっている感じです。
 その結果、国と地方公共団体が実施した社会資本の形成の推移
を調べてみると、日本だけが大幅に公共事業費を削減しているこ
とが明らかです。1996年(平成8年)を100とした数値は
次のようになっています。社会資本とは、いうまでもなく、道路
港湾、公園、病院、学校、保育園などの公共施設の新設や改良な
どを指します。
─────────────────────────────
       イギリス ・・・・ 278・2
       アメリカ ・・・・ 198・7
       フランス ・・・・ 160・8
        ドイツ ・・・・  96・7
         日本 ・・・・  47・4
                  https://bit.ly/3KFPMPZ
─────────────────────────────
 これを見ると、デフレの日本だけが他の先進国の4分の1程度
しか公共事業をやっていないのがわかります。これでは、デフレ
から脱却できるわけがなく、日本の「後進国化」が一段と加速し
ています。
 現在の日本経済の惨状の主要な原因は1989年の消費税の創
設(3%)と、その後30年の間に3回の税率引き上げをやって
税率を10%にしたことにあります。
─────────────────────────────
      1989年 ・・  3%/竹下政権
      1997年 ・・  5%/橋本政権
      2014年 ・・  8%/安倍政権
      2019年 ・・ 10%/安倍政権
─────────────────────────────
 これに加えて、2008年にはリーマンショック、2011年
には、東日本大震災が起きています。消費税の税率の3回の引き
上げのうち、デフレ突入の引き金を引いたのは、1997年の橋
本政権のときの3%から5%の引き上げです。
 日本は、1990年初頭のバブル崩壊によって、資産価値が半
分になるという激しいショックに見舞われています。これによっ
て物価が下落し、デフレ突入の最悪のタイミングの1997年に
消費税を2%引き上げ、それがトリガーになって、そのままデフ
レに突入しています。
 皮肉なことに、消費税の増税は、いずれも自民党政権以外のと
きに決められ、法案化されています。橋本政権のときの5%への
引き上げは、社会党の村山政権のときに決められていますし、安
倍政権のときの2回の引き上げも、民主党の野田政権のときに決
められていたものを安倍政権が実行したものです。もちろん、い
ずれも自民党も賛同して決めたものですが・・・。
 財務省は、自民党政権以外の政権のとき、素人同然の政権幹部
の洗脳を行うのです。「消費増税をしないと、社会保障費が大変
なことになる」と脅し、決断させるのです。とくに民主党政権の
ときの菅内閣、野田内閣はそうです。菅内閣は、消費税増税を公
約にして参院選に大敗していますし、野田内閣にいたっては、当
時野党の自民党と組んで「社会保障と税の一体改革」を決定し、
法案化までしているのです。
 そもそも社会保障の財源を消費税によって行うのは、間違って
います。老齢化の進行によって社会保障は増加の一途をたどりま
すが、消費税でそれを賄うとなると、その都度増税が必要になる
からです。        ──[新しい資本主義/第049]

≪画像および関連情報≫
 ●デフレの主犯は97年の消費税5%増税
  ───────────────────────────
   安倍首相は「デフレ」からの脱却を目指し、@経済がプラ
  ス成長し、Aインフレ率が2%を超えれば、経済が成長して
  いるとして消費税を8%へ引き上げることを狙っている。し
  かしそもそも日本経済がデフレ経済に陥ったのは、1997
  年に消費税を3%から5%に引き上げてからなのである。下
  の図を見ると、GDPデフレーターの値は、97年に消費税
  が引き上げられた翌98年からマイナスに落ち込み、その後
  一貫してマイナス、つまり、デフレが続いていることが分か
  る。ではなぜ消費税が5%に引き上げられたらデフレに突入
  したのか。それは消費税5%増税を期に、国民の賃金が引き
  下げられたからである。下図のように、国民の現金給与総額
  (月平均)は消費税が5%に引き上げられた97年の翌98
  年から、ほぼ一貫して減少を続けていることが分かる。20
  12年には消費税5%増税後の最低を記録している。日本経
  済は97年の消費税5%増税の悪影響から、いまだに脱出で
  きていないのである。
  消費税が5%に引き上げられると物価が上昇する→国民は商
  品の購入を減らす→商品が売れないので企業は商品の価格を
  引き下げる→利益を確保するために賃金を引き下げる・・。
  こうして消費税5%増税で賃金が下がり、商品の価格が下が
  るデフレ経済に突入したのである。
                  https://bit.ly/36fGcVa
  ───────────────────────────
公共事業関係費.jpg
公共事業関係費
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2022年03月18日

●「プライマリーバランス真に必要か」(第5693号)

 最初にウクライナ情勢について述べます。ロシア軍によるキエ
フの攻撃が激しさを増していますが、ウクライナ軍は、当初の想
定よりも、ロシア軍の猛攻を受け止めています。
 ウクライナ軍の善戦を支えているのが「IT軍」の存在です。
「IT軍」とは何でしょうか。14日のWBS(テレビ東京)で
は、IT軍の指揮を執る、ウクライナデジタル庁のボルニャコフ
副大臣(40)のインタビュー映像を伝えています。
 これによると、ボルニャコフ副大臣は、ロシア軍がウクライナ
に侵攻してきた2月24日にIT軍を創設。現在、ある比較的安
全な場所において、IT軍全体の指揮を執っているそうです。I
T軍は、それぞれの場所において、IT軍の参加は登録制で、審
査がありますが、かなり多くのITエンジニアが応募していると
いわれています。
 もともとウクライナは「東欧のシリコンバレー」といわれ、約
30万人のITエンジニアがおり、近年は海外企業の格好の開発
委託先となっているのです。これらのスタートアップ企業のエン
ジニアが、アプリ開発などの技術を使い、それぞれの得意の分野
で、ロシアに抵抗運動を実施しているのです。今やデジタル戦争
の時代です。
 さすがのプーチン大統領は、ウクライナの予想外の抵抗には手
を焼いています。今の状態では、首都キエフは、とても落ちそう
にありません。また、ロシア軍の戦死者も増えており、ロシア国
内でのデモは、どんなに罰則を厳しくしても、今後ロシア各地で
続発すると思われます。ロシアは、当初失脚させるつもりであっ
た現在のゼレンスキー政権の存続を認めて、停戦を交渉するしか
手はなさそうです。
 話を「新しい資本主義」のテーマに戻します。「プライマリー
バランスの黒字化」ということがよくいわれます。プライマリー
バランスというのは、国や地方自治体などの基礎的財政収支のこ
とです。簡単にいうと、「収入と支出のバランス」の話です。社
会保障や公共事業に代表されるような行政が行うサービスにかか
る経費を、消費税などの税収で賄えているかどうかを示していま
す。要するに「収入の範囲内で支出をしなさい」という話です。
つまり、これも国家の運営を家計の収支に例えており、財務省の
間違った考え方です。
 このプライマリーバランスについての中野剛志氏と記者のやり
とりをご覧ください。
─────────────────────────────
中野:プライマリー・バランスとは、税収・税外収入と、国債費
 (国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳
 出との収支のことです。つまり、プライマリ ー・バランスは
 その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でど
 れだけまかなえているかを示す指標ということです。
──プライマリーバランスを黒字化するということは、何を意味
しますか。
中野:このプライマリー・バランスを黒字化するということは、
 歳出を切り詰め、税収を増やすことを意味します。ところが、
 歳出によって民間への貨幣供給が増え、徴税によって民間に流
 通する貨幣量が減るわけですから、プライマリー・バランスの
 黒字化に成功して、税収が歳出を上回るようになるということ
 は民間に流通する貨幣量が毎年減っていくということにほかな
 りません。
――つまり、デフレがもっとひどくなるわけですね。しかも、プ
 ライマリー・バランスの黒字化によって、毎年、民間に流通る
 貨幣量が減るということは、極端に言えば、これをずっと続け
 ると、いずれ民間に流通する貨幣はなくなってしまうことにな
 りますね?
中野:そういうことです。プライマリー・バランスの黒字化とは
 国民を貧困化させることにほかならないのです。20年以上も
 デフレで苦しみ続けたうえに、コロナショックに見舞われた日
 本で、プライマリー・バランスの黒字化をめざすのは“自殺行
 為”に近いわけです。
――“自殺行為”ですか・・・。   https://bit.ly/3IkpsJA
─────────────────────────────
 ところで、岸田政権は、プライマリーバランスについてどのよ
うに考えているのでしょうか。
 岸田首相は、2022年1月14日、政府の経済財政諮問会議
で、プライマリーバランス(PB)について、次のように答えて
います。そのことを伝えるロイターの記事を以下に示します。
─────────────────────────────
[東京/14日/ロイター]岸田文雄首相は14日、国と地方の
基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度
に黒字化するという政府の目標について、現時点において変更が
求められる状況ではないと述べ、目標を堅持する姿勢を示した。
                  https://bit.ly/3qbRHnE
─────────────────────────────
 内閣府は、年初と夏の年2回、今後10年程度のPBの推移な
どを含む経済財政見通しを経済財政諮問会議に提出しています。
実質2%・名目3%を上回る高成長を前提とする「成長実現ケー
ス」と、実質1%・名目1%台前半程度での推移が前提の「ベー
スラインケース」の2つのケースの試算ですが、成長率の実現が
非常に難しく実現の可能性は低いです。しかし、岸田政権は「や
る」といっているのです。
 ノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ教授とい
う人がいます。シムズ教授は、2017年2月の来日講演におい
て、自身の「物価水準の財政理論」に基づいて、「将来不安によ
り支出が萎縮している日本で必要なのは、継続的な財政拡大とイ
ンフレ実現への政治的コミットである。基礎的財政収支(プライ
マリーバランス:PB)黒字化に固執するとデフレから脱却でき
ない」と述べています。  ──[新しい資本主義/第050]

≪画像および関連情報≫
 ●高市氏、PB黒字化目標「凍結に近い状況に」/財務次官の
  指摘を批判
  ───────────────────────────
   次期衆院選(2021年10月19日公示31日投開票)
  を目前に控え、各党の政策責任者らが10日、NHKの討論
  番組に出演した。自民党の高市早苗政調会長は、基礎的財政
  収支(プライマリーバランス)を黒字化するという政府の財
  政再建目標は「凍結に近い状況が出てくる」と述べた。
   高市氏は、岸田文雄首相が国家的な課題に取り組むため、
  「財政の単年度主義の弊害是正」を掲げていることを踏まえ
  「長期的なスパンで取り組むべきことがあるということで、
  これは実質上、一時的にこのプライマリーバランスについて
  は凍結に近い状況が出てくる」と述べた。
   また、財務省の矢野康治次官が今月8日発売の月刊誌「文
  芸春秋」に寄稿し、衆院選や、自民党総裁選での政策論争を
  「バラマキ合戦」と懸念を示したことについて、高市氏は、
  「大変失礼な言い方だ」と批判した。そのうえで「基礎的な
  財政収支にこだわって本当に困っている方を助けない。未来
  を担う子供たちに投資しない。これほどバカげた話はない」
  と述べた。矢野氏の寄稿をめぐっては、岸田首相は10日の
  フジテレビの番組で「いろんな意見が出てくる。これは当然
  あっていいと思う」と述べ、「いったん方向が決まったなら
  ば、関係者には、しっかりと協力してもらわなければならな
  い」と語った。         https://bit.ly/3KTOHnI
  ───────────────────────────
クリストファ・シムズ教授.jpg
クリストファ・シムズ教授
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2022年03月22日

●「少な過ぎる日本の生産的政府支出」(第5694号)

 デービット・アトキンソン氏という人がいます。この人は日本
人以上に日本に精通している在日英国人の経営者です。元々は、
ゴールドマン・サックスのアナリストでしたが、茶道に打ち込み
長野県軽井沢町に所有する別荘の隣家が日本の国宝や重要文化財
などを補修している小西美術工藝社社長の家だった縁で、経営に
誘われて2009年に同社に入社し、2010年5月に会長に就
任している人物です。
 なぜ、日本経済は成長しないのか──これに関して、アトキン
ソン氏は次のように答えています。
─────────────────────────────
 日本は、人口減少と「3大基礎投資」の不足が要因となり、賃
金が上昇せず、経済が成長しない状態に陥っています。この状況
から脱却するには、
 「研究開発」
 「設備投資」
 「人材投資」
という「3大基礎投資」を喚起し、経済を成長させ、その成果で
賃金を上昇させるための経済政策が求められます。つまり、長期
的な経済成長や賃金の引き上げは、あくまでも投資によってのみ
実行できるという経済学の大原則を忘れてはいけないということ
です。           ──デービット・アトキンソン氏
                  https://bit.ly/3MYeAF1
─────────────────────────────
 アトキンソン氏によると、政府の財務支出には、次の2つがあ
るのです。
─────────────────────────────
  A生産的政府支出   Productive Government Spending
  @移転的政府支出 non-Productive Government Spending
─────────────────────────────
 「生産的政府支出」とは、民間企業の生産性に影響を与え、経
済成長に貢献する支出のことです。そのなかには、インフラ投資
や教育が含まれます。「非生産的政府支出」とは、簡単にいうと
社会保障費のような「移転的支出」を意味します。
 添付ファイルを見てください。これは1980年から2019
年までの政府支出の割合を示しているグラフです。赤は移転的政
府支出、青は生産的政府支出をあらわしていますが、2000年
頃から移転的政府支出は増えていますが、生産的政府支出は横ば
いになってます。これについて、アトキンソン氏は次のようにコ
メントしています。
─────────────────────────────
 GDPに対する日本の政府支出の割合は、他国と比較しても決
して低いわけではないのですが、社会保障費以外の予算が異常に
少ないのです。日本では生産年齢人口の減少と高齢化が同時に進
んでいるため、政府支出のうち社会保障費の金額が大きく膨らん
でいます。特に2000年あたりから社会保障費は大きく増えて
いるのに、生産的政府支出(PGS)は抑制されて、ほとんど増
えていません。
 社会保障費などは「移転的政府支出」と呼ばれ、経済成長には
貢献しないと分析されています。一方、インフラ投資、教育や基
礎研究などの政府支出は、経済全体の質の改善・向上につながる
ので、「生産的政府支出(PGS)」と位置づけられ、経済成長
率の改善に寄与することが確認されています。
              ──デービット・アトキンソン氏
                  https://bit.ly/3CVh6XT
─────────────────────────────
 生産的政府支出の先進国の対GDP比の平均は24・4%、途
上国平均ですら20・3%ですが、日本のそれは実に10%以下
です。日本は、高齢者率が世界一高いということも影響している
と思いますが、それにしても低すぎます。
 多くの日本人は、日本という国を実際よりも小さな国と考えて
います。しかし、日本は1億人以上の人口を抱えた世界第11位
の人口大国であり、GDPは560兆円、それに世界第3位の経
済大国です。
 これだけの大国の経済を動かすには、相当規模の金額が必要な
のですが、財務省が仕掛けた「対GDP比256・2%の借金大
国」というプロパガンダに怯えて、投資すべきものに思い切って
投資してこなかったのです。基本的には、入ってくる税収の範囲
内で政府支出をすべしというプライマリーバランスなどに縛られ
ていると、日本はますます貧しい国になりつつあります。
 ここで考えるべきことがあります。政府の支出(歳出)に関し
て多くの人が抱いているイメージは、国には大きな財布というも
のがあって、政府の支出は、その財布から行っているというもの
です。これ、家計の考え方と同じです。しかし、この考え方はお
かしいのです。
 「財政法」の第5条に次の規定があります。
─────────────────────────────
財政法第5条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれ
 を引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行から
 これを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合、
 において国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない。
─────────────────────────────
 この条文の趣旨は、政府は国債の発行に当たって、それを日本
銀行に直接引き受けさせてはならないとしています。もっと専門
的にいうと、政府が貨幣の発行を財源に支出を行ってはならない
ということです。これは「財政ファイナンス」といって、禁じ手
になっています。
 しかし、政府が予算を執行するとき、政府短期証券を発行して
それを日銀に買わせて、財源を賄っています。これは、財政ファ
イナンスではないのでしょうか。
             ──[新しい資本主義/第051]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人の知らない経済政策「PGSを増やせ!」
  ───────────────────────────
   財政出動については必要性を訴える人がいる一方で、反対
  の声を上げるエコノミストも少なくありません。そこで今回
  は財政出動に反対する人の意見を検証し、両者の妥協点を探
  ります。
   特に記事後半の「生産的政府支出(PGS)」の議論に注
  目していただきたいと思っています。「政府支出は経済成長
  に対してマイナスである」という当時のコンセンサスを大き
  く変えたPGS論文が1990年に発表されたことは、日本
  にとってきわめて大切な新しい論点です。
  「反対意見1:政府支出を増やすと、生産性が上がっても、
  労働生産性は上がらない」
   まずはこの意見から説明します。
   改めて、生産性の本質を確認しましょう。生産性は、創出
  された付加価値の総額(=GDP)を全国民の数で割ったも
  のです(1人あたりGDPとも言われます)。さらに分解す
  ると、付加価値総額を働いている人数で割った金額(=労働
  生産性)に、全国民に占める働いている人の比率(=労働参
  加率)をかけたものが生産性です(生産性=労働生産性×労
  働参加率)。労働生産性が1000万円で、労働参加率が、
  50%であれば、生産性は500万円となります。
                 https://bit.ly/3MWygce
  ───────────────────────────
社会保障ばかり増えている.jpg
社会保障ばかり増えている
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2022年03月23日

●「生産的政府支出には財源制約なし」(第5695号)

 永濱利廣氏というエコノミストがいます。第一生命経済研究所
経済調査部首席エコノミストです。よくテレビにも登場しますし
経済の解説も平易でわかりやすく、ていねいです。
 永濱氏もMMTの本を書いていますが、その本で、パナソニッ
クの創業者・松下幸之助氏の言葉を引用して、MMTに関連して
次のように述べています。
─────────────────────────────
 「それが必要であり、やらねばならないことであれば、即刻に
やる。またやってはならないことがあれば、仮に金があってもし
ない/松下幸之助」
 即刻やらなければならないことに関しては、「予算がないので
次の年度まで待ってくれ」と言い訳をするのではなく、財源の制
約なしにやるべきだし、もしやる必要がないことであれば、「予
算が余ったのでムダだけどやります」という役人根性ではなく、
お金があってもやらないという姿勢が求められるというのが、松
下氏の考え方であり、この考え方はある意味、MMTに通じる考
え方と言えるかもしれません。
           ──永濱利廣著/ビジネス教育出版社刊
          『現代貨幣論/MMTとケインズ経済学』
─────────────────────────────
 昨日のEJで述べた「生産的政府支出」(PGS)などは、政
府として即刻やらねばならないことですが、日本政府は、国債残
高の対GDP比が256%もの借金を抱えているので、どうして
も、必要な予算でも抑制してしまうのです。これは、政府が財務
省のワナにはまっているといえます。
 実際問題として、政府が何か新しいことをやろうとすると、必
ず「財源はどうするのか」という議論が起こり、非常にやりにく
くなっています。MMTでは、財源などは気にすることなく、そ
れが将来の経済の成長に寄与すると判断できるものであれば、躊
躇なくやるべきであるとしているのです。
 永濱利廣氏は、MMTの原則として「政府は自国通貨建てで売
られるものであれば、常に購入可能であり、財源成約はない」と
断じています。しかし、これは「政府は無制限に支出すべきだ」
ということを意味していないと断っています。そんなことをすれ
ば、インフレが起きてしまうからです。
 しかし、日本は現在超長期デフレであり、インフレのことなど
心配せず、何でもやれるし、やるべきであります。それは、デフ
レから脱却するためにも必要なことです。
 昨日のEJで、政府の発行する国債を中央銀行である日銀が引
き受ける「財政ファイナンス」は禁じ手であり、財政法第5条で
禁じられているということを述べました。しかし、これはあくま
で建前であり、実際にそれは平然と行われているのです。昨日も
述べたように、政府が予算執行するとき、政府は、政府短期証券
を発行し、それを日銀に購入させて、財源を賄っています。
 この件に関して、井上智洋氏という若い経済学者が、自身のM
MTの本で、意味深なことを述べています。井上智洋氏は、駒澤
大学経済学部准教授で、専攻はマクロ経済学です。井上氏は非常
にわかり易いMMTの本を書いており、そこで「明示的財政ファ
イナンス(Over Monetary Financing)OMF」 というものを紹
介しています。
─────────────────────────────
 財政ファイナンスというのは、政府が貨幣発行を財源に支出を
行うことです。これは実際に行われていることで、MMTの文脈
では、中央銀行がキーストロークによって作り出したお金を、政
府が支出に充てることを意味します。
 ただし、実際には政府支出の財源が租税や国債であるかのよう
に偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり国債を発行
したりすることによって、あたかも財政ファイナンスを行ってい
ないかのような装飾が施されているというわけです。
 OMFは、その装飾をはぎとって、あからさまに財政ファイナ
ンスを実施しょうということです。      ──井上智洋著
     『MMT/現代貨幣論とは何か』/講談社選書メチェ
─────────────────────────────
 意味深な表現というのは、「政府支出の財源が租税や国債であ
るかのように偽装されています。支出と同額の税金を徴収したり
国債を発行したりすることによって、あたかも財政ファイナンス
を行っていないかのような装飾が施されている」の部分です。
 これは何を意味しているのでしょうか。
 実際には、財政ファイナンスを日常的に行っているのですが、
財政法第5条ではこれを禁止しているので、政府支出の財源が租
税や国債であるかのように偽装されているといっているのです。
 そもそも税の考え方がMMTでは異なるのです。税に関して、
中野剛志氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 そもそも、税の考え方が間違っているんです。これまで税金は
政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えら
れてきましたが、MMTによれば、これがそもそもの間違いなん
です。なぜなら、自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいく
らでも国債を発行して、財政支出ができるからです。そのような
政府が、どうして税金によって、財源を確保する必要があるんで
しょうか?そんな必要はないんです。とはいえ、無税にするとハ
イパーインフレになってしまう。だから、税というものは、需要
を縮小させて、インフレを抑制するために必要だと考えるべきな
のです。インフレを抑えたければ、投資や消費にかかる税を重く
する。逆に、デフレから脱却したければ、投資減税や消費減税を
行う。つまり、税金とは「財源確保の手段」ではなく、「物価調
整の手段」なのです。            ──中野剛志氏
                  https://bit.ly/36ss7np
─────────────────────────────
             ──[新しい資本主義/第052]

≪画像および関連情報≫
 ●消費増税は意味なし!・・・日本はMMTの正しさを証明し
  たのか
  ───────────────────────────
   MMTが正しいのならば、変動相場制を採用しており、自
  国通貨を発行できる日本は財政赤字を気にする必要はないわ
  けで、そもそも消費増税をしなくてもよいのだが、なぜ増税
  を実施したのか。
   これまで通り、極力中立的な立場で説明を重ねたいため、
  その理由を財務省が公表している資料から見ていきたい。内
  閣府の『令和元年度年次経済財政報告』には消費増税する理
  由として、財政健全化のほか、社会保障について言及されて
  いる。財務省が公表しているデータによれば、1990年度
  の当初予算において、66・2兆円の歳出のうち、17・5
  %に当たる11・6兆円が社会保障費だった。
   しかし、少子高齢化が進んだことで、2019年度の予算
  では、99・4兆円の歳出のうち、34・2%に当たる34
  兆円を社会保障費が占めており、この30年間で社会保障費
  は約3倍に膨れ上がったことがわかる。19年度予算におけ
  る一般会計歳出101兆4571億円のうち、社会保障費は
  34兆593億円であり、歳出総額の約3割(33・6%)
  を占めるまでになった。基本的には社会保障費は保険料で賄
  うものだが、それだけだと、現役世代に負担が集中してしま
  う。そこで、国債の発行や税金でも賄っているが、国債は子
  どもや孫の世代に負担を先送りにしていることと等しいとし
  て、消費増税によって財政の健全化を図ろうとした。
                  https://bit.ly/3udT5Hy
  ───────────────────────────
永濱利廣氏.jpg
永濱利廣氏
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2022年03月24日

●「税は『財源確保』の手段ではない」(第5696号)

 税金とは「財源確保の手段」ではなく、「物価調整の手段」で
ある──MMTにおける税の考え方です。しかし、主流派経済学
では、税金はあくまで「財源確保の手段」であり、政府が何かを
支出するには、それに対応する財源が必要であり、税による財源
の確保が必要であるという考え方です。
 これは、家計の考え方とまったく同一です。したがって、政府
といえども、税収(収入)を上回る歳出(支出)を続けることは
好ましいことではないと考えます。
 しかし、現実は少し違うのです。ステファニー・ケルトン教授
の本に、2019年の上下両院に軍事費を増額させる法案を成立
させたときのいきさつが次のように出ています。
─────────────────────────────
 たとえば軍事費だ。2019年、上下両院は、軍事費を増やす
法律を通過させた。これによって2018年度に承認した金額を
800億ドル上回る、7160億ドルの支出が認められた。この
支出をどのようにまかなうかという議論は一切なかった。増加分
の800億ドルをどこから調達するかなど、誰も尋ねなかった。
政府の追加支出をまかなうために、政治家は増税もしなければ、
預金者から800億ドルを追加で借り入れることもしなかった。
議会は持ってもいないお金を支出すると約束したのである。それ
ができるのは、米ドルに対して特別な権限があるからだ。
         ──ステファニー・ケルトン著/早川書房刊
    『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
─────────────────────────────
 ここでもう一度MMTが立脚する「信用貨幣論」のことを思い
出していただきたいのです。これについては、2月24日のEJ
第5677号以降で述べています。ここで製造原価がわずか20
円でしかない1万円札が、なぜ1万円としての価値を持つかは、
それで税金が支払えるからであると国家が認めるというのが「信
用貨幣論」の考え方です。
 ここで「モズラーの逸話」について話をする必要があります。
「モズラー」というのは、MMTの創始者といわれるウォーレン
・モズラー氏のことです。この逸話については、EJでは別のテ
ーマのときに紹介しているのですが、簡単に再現します。
 モズラー氏は、子供たちが一向に家事を手伝わないことに不満
を持っていたのです。そこでモズラー氏は、ある日、子供たちに
対して、家事を手伝ったら、その手伝いの度合いに応じて、パパ
の名刺をあげると、宣言します。しかし、子供たちは、それでも
一向に家事を手伝わなかったのです。
 子供たちの意見はこうです。「パパの名刺なんか欲しくないか
ら」です。モズラー氏は「モズラー・オートモーティブ」という
ヘッジファンドを設立した投資家であり、ビジネスマンであれば
名刺を欲しがったかもしれませんが、子供にとってはパパの名刺
をもらっても何の意味がなかったからです。
 そこでモズラー氏は一計を案じます。子供たちに対して次の宣
言をしたのです。「月末に30枚の名刺を納めることを義務付け
る。もし、名刺を納めないと家から追い出すぞ」と。びっくりし
た子供たちは、目の色を変えて家事の手伝いをして名刺を集める
ようになったのです。パパの名刺が子供たちにとって、急に価値
を持つようになったからです。
 あり得ない話ですが、これが「モズラーの逸話」です。この逸
話から、次の3つのことが導けます。
─────────────────────────────
        @納税より先に政府支出がある
        A納税により貨幣は価値を持つ
        B租税は「財源」ではないこと
─────────────────────────────
 第1は「納税より先に政府支出がある」です。
 モズラー氏は、家事の手伝いをした子供たちに対して名刺を渡
しています。これは公共事業を行った業者に対して、お金を支払
うのに似ています。子供たちがパパに名刺を渡すという納税相当
の行為を行うのはその後のことです。
 第2は「納税により貨幣は価値を持つ」です。
 納税によって貨幣は価値を持つようになります。名刺自体は子
供たちにとって価値がないのと同様に、紙幣もただの紙切れであ
り、価値がないのですが、それによって納税ができることによっ
て価値を持つのです。
 第3は「租税は『財源』ではないこと」です。
 モズラー氏自身が自分の名刺を欲しがらないように、政府も紙
幣自体が欲しいわけではないのです。名刺にせよ、紙幣にせよ、
印刷すれば、済む話だからです。租税を徴収しなかったとしても
政府は紙幣をいくらでも印刷できるからです。(参照:井上智洋
著/『MMT/現代貨幣論とは何か』/講談社選書メチェ)
 この3つのうち、「納税より先に政府支出がある」は、MMT
にとって、きわめて重要です。これを「スペンディング・ファー
スト」といいます。主流派経済学では、最初に租税があって、そ
れを財源に政府支出を行うと考えるのに対して、MMTでは、最
初に政府支出があって、国民は、それによって手に入れたお金を
使って納税を行うのです。
 つまり、次の2つのモデルがあるのです。
─────────────────────────────
 「税金+借金」→「政府支出」 ・・ 家計と同一のモデル
 「政府支出」→「税金+借金」 ・・ 通貨発行体のモデル
─────────────────────────────
 上のモデルは、家計と同一のモデルであり、下のモデルは、通
貨発行体モデルです。主流派経済学の考え方として考えても、常
識として考えても、家計と同一モデルに立脚するのが、正しいと
考えます。しかし、じっくりと考えてみると、やはり、ファース
トスペンディングが正しいということになるのです。
             ──[新しい資本主義/第053]

≪画像および関連情報≫
 ●MMTで出てくる『税は財源では無い』の意味
  ───────────────────────────
   ぶっちゃけ、MMT(現代貨幣理論)は理論を名乗っては
  いるが、基本骨子にあるものは極めて単純な現実観察であり
  リンゴが地面に落ちるのを、単にリンゴが落ちたと見たまま
  を述べているだけである。古典派の連中が、地球は平らで端
  は滝になっているとか言うのに対して「地球一周してみたけ
  ど、滝なんて無かったぞ」と述べているだけなのだ。MMT
  が観察したものは簿記会計だとか実際の予算の執行である。
  経済学というのは現実なんて全く見てきていなかったのだ。
   経済学という代物が、市井の人に植え付けてきた固定観念
  には誤りが非常に多く。そして、多くの人はそういう色眼鏡
  を掛けている事に気が付かない。仮に指摘したとしても、本
  当に付けている実感が無いので、素朴に誤った前提で反論し
  てくる。今回はどういう色眼鏡があるのかを解説しつつ『税
  は財源では無い』の意味を判りやすく解説する。
  色眼鏡1:政府は支出するために、資金を調達しなければな
  らない。
   MMTは『税は財源では無い』と述べる。コレには色々な
  意味があるが、コレを聞くと、「予算として使用されている
  だろ?」と普通の人は考える。政府は支出するために資金を
  調達しなければならないという前提だ。だが、実際の予算の
  執行を考えると、そもそも歳入を歳出に使うのは『不可能』
  な事に気が付く。コレをMMTではスペンディングファース
  トと呼ぶ。政府は収入が入る前に支出しているのだ。何かと
  言うと極めて単純な話だ。    https://bit.ly/3IpjV4w
  ───────────────────────────
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ウォーレン・モズラー氏
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2022年03月25日

●「『政府支出』」→『税金+借金』」(第5697号)

 昨日のEJの「モズラーの逸話」に関連する2つのモデルを再
現します。
─────────────────────────────
 「税金+借金」→「政府支出」 ・・ 家計と同一のモデル
 「政府支出」→「税金+借金」 ・・ 通貨発行体のモデル
─────────────────────────────
 ステファニー・ケルトン教授は、この2つのモデルについて相
当悩んだようです。ケルトン教授は、自著のなかで、自分が「政
府支出」→「税金+借金」のモデルを理解するまでのことを次の
ように明かしています。
─────────────────────────────
 「税金+借金」→「政府支出」が支配的な見解になっているた
めに、たいていの人はおそらくそれに近いイメージを持っている
のだろう。国家の財政の仕組みについてじっくりと考えたことの
ない人でも、政府が必要な資金をまかなうには国民のお金が必要
なのだと思っている。(中略)課税と政府支出の実態について、
このような考え方に初めて触れたときには、私もぎょっとした。
 モズラーによると、政府はまず支出をし、それから課税や借り
入れをするという。これは、サッチャーの発言のまったく逆で、
「政府支出→(税金+借金)」という図式になる。モズラーの説
明では、政府は誰か費用をまかなってくれる人を探すことなどせ
ず、さっさと支出することによって自国通貨を生み出す。モズラ
ーはほとんどの経済学者が見落としていたことに気づいた。その
考えは当初独創的なものに思われたが、実は大部分はそうではな
かった。私たちが知らなかっただけだ。モズラーの主張はアダム
・スミスの『国富論』、ジョン・メイナード・ケインズの『貨幣
論』など、経済学の古典にすでに書かれていたものだ(そして経
済学者ものちにそれに気づいた)。人類学者、社会学者、哲学者
なども、はるか昔に通貨の本質や税の役割について同じような結
論に達していたが、経済学者は大きく後れを取っていた。
         ──ステファニー・ケルトン著/早川書房刊
    『財政赤字の神話/MMTと国民のための経済の誕生』
─────────────────────────────
 文中の「サッチャーの発言」というのは、2月25日のEJで
ご紹介した発言で、「国家には国民が自ら稼ぐ以外に収入源はな
い。国家が支出を増やそうと思えば、国民の貯蓄から借りるか課
税を増やすかしかない」というものです。これは「税金+借金」
→「政府支出」のモデルそのものです。
 ケルトン教授の発言で重要なことは、「政府支出→(税金+借
金)」のモデルは、経済学の古典にすでに書かれていたものであ
るという部分です。主流派の経済学者も後になってそれに気がつ
いたが、今さらそれをいうと、自分の理論構築に支障をきたすの
で、MMTをトンデモ理論扱いにしているフシがあります。だか
ら、発言がどうしても感情的になるのです。
 もちろん税は、納税のためにだけあるのではありません。いろ
いろなことに活用できます。これに関して、中島剛志氏と記者の
やり取りは次のように展開されています。
─────────────────────────────
中野:民間経済が成り立つためには、取引や貯蓄など、納税以外
 の目的で流通する貨幣が存在していなければなりません。つま
 り、貨幣をすべて税として徴収せずに、民間に残しておかなけ
 ればならないんです。
  ということは、「財政支出>税収」の財政赤字でなければ通
 貨が流通しないということになります。もっとも、銀行が信用
 創造をやりまくっていたら、財政は黒字になるかもしれません
 が、それはバブルという異常な状況でしょう。ですから、MM
 Tは、「正常なケースは、政府が財政赤字を運営していること
 すなわち税によって徴収する以上の通貨を供給していることで
 ある」と結論づけるのです。
――「財政赤字が正常な状態」というのは驚きですが、たしかに
 そういう理屈になりますね。
中野:しかも、日本は20年もデフレに苦しんでいるわけですか
 ら貨幣供給量を増やさなければならないわけですよね?にもか
 かわらず、日本は一生懸命、財政支出を抑制することで貨幣供
 給量を抑制するとともに、この20年間で3度も消費増税をす
 ることで貨幣供給量を減らす努力をしてきたことになります。
――それでは、デフレから脱却できないのも当たり前ということ
 になりますね。
中野:ええ。「財政赤字をこれ以上、増やすべきではない。政府
 の借金の財源を確保するために、消費税の増税が不可欠だ」と
 いう通説が、あたかも良識であるかのようにまかり通っていま
 すが、これは、信用貨幣論を理解している人間からすれば「デ
 フレを悪化させて、国民をもっと苦しめたい」と言っているに
 等しいのです。
――そうだとすれば、実に恐ろしいことですね・・・。
                  https://bit.ly/3wlWiaF
─────────────────────────────
 ほぼ30年間、まったく経済が成長していない日本──これは
明らかに国の経済政策が完全に間違っています。税は市場から資
金を引き上げ、貨幣量を減らす効果を持ちます。増税は、金融引
き締め政策であり、不況が拡大し、デフレがさらに一層深化する
だけです。「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は、果たしてこ
の状況を変えることができるのでしょうか。
 安倍政権は、「リーマンショック級の出来事があれば消費税率
を引き上げない」といっていましたが、リーマンショックをはる
かに超えるコロナショックが起こっているのに、一度引き上げた
税率を頑なに下げようとしません。矢野財務次官は論文において
「消費税の引き下げは問題だらけで甚だ疑問」であると書いてい
ます。彼らは一度上げた税率を一時的でも絶対に引き下げないと
いっているのです。    ──[新しい資本主義/第054]

≪画像および関連情報≫
 ●支援金の財源は「税金」ではない?経済学の新理論
  MMTを解説
  ───────────────────────────
   米国では世界最多となる150万人以上の新型コロナウイ
  ルスの感染者数が確認されている。今回のコロナ禍で、もっ
  とも大きな影響を受けている国の1つといえるだろう。
   米連邦政府は、新型コロナウイルスへの対策や、企業や家
  計への支援をするために、第2四半期に過去最大の3兆ドル
  (約320兆円)の借り入れをする方針を明らかにしたが、
  これで債務残高は25兆ドル(約2560兆円)の大台を突
  破することが確実視されている。
   このように新型コロナウイルスへの対応に伴い政府の債務
  残高が膨れていく環境下、先ほど紹介した記事のなかで、米
  国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)の元
  議長であったベン・バーナンキは、以下のような考えを披露
  している。
  司会者:FRBが支出に用いたのは税金だったのですか?
  バーナンキ:いえ、税金ではありません。私たちはただ、コ
  ンピューターを使って操作しただけです。
   大学生たちが疑問に思ったポイントは、ここだった。景気
  が悪くなれば、政府が財政出動をするのは教科書通りだが、
  財源を確保するためには税収が必要だと思っていたのに「コ
  ンピューターを操作しただけ」とバーナンキが答えた意味が
  わからなかったという。     https://bit.ly/3wqwJ8v
  ───────────────────────────
MMTを講義するケルトン教授.jpg
MMTを講義するケルトン教授
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2022年03月28日

●「政府と日銀による統合政府B/S」(第5698号)

 なぜ、日本の財政出動は少ないのでしょうか。一般論として考
えれば、それは日本の借金(国債残高)があまりも巨額であるか
らでしょう。少なくとも多くの日本人はそう考えていると思いま
す。借金に借金を重ねると、日本の財政は破綻してしまうのでは
ないかと不安になるからです。
 しかし、思い切った財政出動をしないと、日本経済はデフレか
らいつまで経っても脱却できないのも事実です。国債の発行を少
しでも減らし、プライマリーバランスを黒字にすると、いつまで
もデフレから抜け出せなくなるはずです。しかし、借金が多い財
政がトラウマになって、思い切った財政出動ができないでいると
いえます。
 1995年にデフレが始まったとすると、今年で実に27年に
なります。こんなに長期間デフレに陥っている国は、日本だけで
す。そろそろ「20年デフレ」を卒業して、「30年デフレ」と
いっても過言ではありません。
 本当に日本は財政危機ではないのでしょうか。このことを明ら
かにする必要があります。このテーマは、EJでは何回もやって
いるのですが、以前から「日本に財政問題はない」と主張する高
橋洋一氏の新著も参考にしながら、改めてていねいに考えてみた
いと思います。
 「日本は重い財政問題を抱えている」という人は、何を根拠に
そういっているのでしょうか。これについて、高橋洋一氏は会計
学の観点から、次のように述べています。
─────────────────────────────
 会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた
額を「ネット」という。このうちどちらに着目するかが、ポイン
トだ。ひとことでいえば、財政問題があるといっている人たちは
政府のバランスシートの右側(負債だけ)、つまりグロス債務ま
たはグロス債務残高の対GDP比を見ているのだ。
 政府のグロス債務残高は1000兆円、これはGDPの2倍で
ある。だから「日本は大変な財政問題を抱えている」「財政再建
が必要だ」「そのためには増税と歳出カットだ」と主張している
わけである。
 これほどの財政難のなかで借金がさらに増えては困るから、増
税で税収を増やす一方、政府の支出を減らそう、もっと倹約しよ
うというわけだ。
 これの何がおかしいか。すでに「答え」をいってしまったよう
なものだから、もうわかるはずだ。要するに彼らは、借金だけを
見て騒いでいるのである。     ──高橋洋一著/あさ出版
      『99の日本人がわかっていない新・国債の真実』
─────────────────────────────
 「資産があるじゃないか」というと、財務官僚は必ず「資産と
いっても売れない資産が多い」と反論します。確かに道路や橋な
どは売れないと思います。
 しかし、高橋氏によると、日本政府の資産の大半は金融資産で
あり、売ろうと思えば、すぐ売れるのです。かつて、大蔵官僚で
あった高橋洋一氏がいうのですから、間違いがないことです。た
だ、財務省としては、売りたくないと考えているのです。
 実は日本政府の金融資産は、政府関連子会社への出資金、貸付
金が多いのです。民間企業でも経営が苦しくなってきたら、関連
子会社を処分することはあり得ることです。政府の借金の額が本
当に多くてみっともないと思うなら、そういう政府関連子会社を
いくつか売却すればよいのです。
 しかし、財務官僚の上層部は、絶対にそういう資産は売りたく
ないのです。だから、道路とか橋とかいうのです。本当は売る必
要がない(財政問題はない)からですが、政府関連子会社を売っ
てしまうと、財務省の幹部は、自分たちの天下り先がなくなって
しまうからです。だから、国民に負担を押し付けて、増税や歳出
削減で、財政の見映えをよくしようとしているのです。自分の再
就職先ぐらい自分で探せ!といいたいです。日本がデフレから抜
け出せないのは、財務省に重大な責任があります。実にけしから
んことです。
 2017年のことです。ノーベル経済学賞を受賞したコロンビ
ア大学教授、ジョセフ・スティグリッツ氏が来日し、経済財政諮
問会議に出席したことがあります。そのとき、スティグリッツ教
授は、次の趣旨の提言をしています。
─────────────────────────────
 日本は財政政策による構造改革を進めるべきである。具体的に
いうと、政府や日銀が保有する国債を相殺することで、政府の債
務は瞬時に減少する。   ──ジョセフ・スティグリッツ教授
           ──高橋洋一著/あさ出版の前掲書より
─────────────────────────────
 スティグリッツ教授は「政府や日銀が保有する国債を相殺する
ことで」といっていますが、これは、政府の財務状況を「統合政
府バランスシート」でとらえていることを意味します。日銀は、
政府の子会社であり、民間企業が関連子会社と連結決算をするよ
うに、統合政府のバランスシートはあり得るのです。高橋氏によ
ると、一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるこ
とは海外ではそれが当たり前のことであるということです。
 「日本銀行は独立性がある」とよくいわれますが、これは日銀
が金融政策を執行するときのことであって、政府は、金融政策に
基本的には介入できないのです。しかし、組織的には、日銀は政
府の子会社なのです。
 そもそも国債残高の対GDP比も、日本の場合、国債残高が多
いのは事実ですが、それぞれの国の考え方によって算出された国
債残高を比較したものに過ぎず、必ずしも公正な比較とはいえな
いのです。日本の場合も、統合政府で考えると、政府の債務は、
大幅に減少してしまうのです。したがって、日本に深刻な財政問
題は存在しないということになります。
              ──[新しい資本主義/055]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の問題をはき違えてい「財務省」の大きな罪
  /リチャード・カッツ氏
  ───────────────────────────
   日本の財政赤字は「氷山に向かうタイタニック号」のよう
  なものだという矢野康治財務事務次官の発言で唯一新鮮だっ
  たのは、選挙で選ばれた政府の政策を、水面下での会話では
  なく、影響力のある『文藝春秋』誌上で厳しく批判したこと
  だ。約半世紀前、1978年から財務省は政府が抜本的な歳
  出削減と増税をしない限り「日本は崩壊ししかねない」と、
  首相を脅し続けて自分たちのいいなりにしようとしてきた。
  最近は国債市場の暴落を”ネタ”にしている。財務官僚たち
  は影で、首相を次々と「犠牲」にすることで消費増税を繰り
  返せると影でジョークを言っているほどだ。
   仮に財務省の警告が正しければ、それは国益のためだった
  と言えるだろう。しかし現実には、財務省は何度も間違って
  きたし、かたくなに主張を改めようとしなかった。公平のた
  めに言うと、確かに財務省の見解は多くの高名なエコノミス
  トの間でも共有されている。2012年にはエコノミスト2
  人が、財政緊縮策を実施しなければ2020年から2030
  年までの間に国債の暴落が起こると予測していた。
   1990年代半ば、財務省は橋本龍太郎首相を説得して消
  費税を3%から5%に引き上げさせた。引き上げ幅は健全な
  経済状態では問題にならないほど小さかったが、不良債権の
  肥大化により日本の体力が低下しているというアメリカ政府
  の指摘が無視されていた。    https://bit.ly/3uyUkBz
  ───────────────────────────
ジョセフ・スティグリッツ教授.jpg
ジョセフ・スティグリッツ教授
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2022年03月29日

●「個人の道徳心を経済に持ち込むな」(第5699号)

 国債を大量に発行すると、その利払いや償還のことが心配にな
ります。国債は政府の借金であるので、当然利子を支払わなけれ
ばならないし、返済期限が到来したら、元本を返済しなければな
らなくなるからです。当たり前の話です。
 この場合、国債を大量に保有している日銀は、当然利子が収入
として入ってきます。この利子収入を日銀はどうしているのかと
いうと、国庫納付金として政府に収めているのです。これは政府
にとって「税外収入」になります。
 また、政府の金融資産は、政府系企業への出資金や貸付金が多
いので、そこからも当然利子収入があります。この利子収入と日
銀からの税外収入を合わせると、国債の利払いは賄えてしまうの
です。したがって、利払いについては心配はないのです。
 それでは、元本の償還はどうするのでしょうか。
 国債の元本償還は、民間金融機関に新たに国債を発行して買っ
てもらって支払います。この国債を「借換債」といい、普通の国
債として販売されます。断っておきますが、「建設国債」「赤字
国債」「借換債」と名前は異なりますが、国債は国債であって、
購入する金融機関は単に国債として購入します。建築国債を購入
したとか、借換債を購入したとかの区別はないのです。
 主流派経済学者は、この借換債を「借金を借金で返す」と批判
します。しかし、これは、家計の発想と同じです。既にEJでご
紹介した借換債に関連する主流派経済学者の小林慶一郎氏と中野
剛志氏の次の討論を再現します。
─────────────────────────────
小林:私は矢野論文の背景にあるのは、「将来世代にツケを残し
 てはいけない」ということだと思うんです。国債は将来世代か
 らの前借りで、いずれその金は返さなきゃいけない。これまで
 のように日銀が買い支えられるうちはいいけど、もし将来にお
 いて例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代
 への大きな負担を残すことになる。それは避けたいという矢野
 さんの思いは否定すべきではないでしょう。
中野:違います。国債は将来の増税で償還しなきゃいけないと思
 い込んでいるから「将来世代へのツケ」だと誤解するのです。
 国債の償還は、増税ではなく借換債の発行によって行うべきで
 す。それから、私は制御できないインフレは基本的に「起きな
 い」と考えています。
小林:国債の償還を借換債で出来るなら、国家運営に税は不要と
 いう話になり、まったく同意できません。これは後ほど議論し
 ましょう。            https://bit.ly/3qEdDbv
─────────────────────────────
 国の財政運営を家計と例えると、借金を借金で返すのはまさに
自転車操業であって、やってはいけないことです。しかし、個人
ではなく、企業の場合は、借り換えは、銀行が応じてくれる限り
自転車操業ではないのです。銀行としても、すべて返金されてし
まうよりも、返済可能であれば、借り換えしてくれる方が有り難
いはずです。
 まして国家であれば、企業よりもはるかに信用できるので、ロ
ーリスクローリターンの国債であっても、金融機関としてはつね
に保有しておきたい債権なのです。
 これに関して、高橋洋一氏は、借換債に関して次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 個人レベルで考えれば「借金を重ねるのは悪いこと」となるが
国レベルでは、借金を返すために借金をするのは当然だし、何も
悪いことはないのだ。
 民間金融機関は、国債の償還を受けたら、そのお金でまた新し
く国債を買う。政府は、償還すると同時に新発国債を買ってもら
えるのだから、借金の返済で首が回らない、という事態には陥ら
ない。このように、国債の償還と新規国債の発行は、政府と数多
の民間金融機関の間で、つねにグルグルと巡っている。
 ちなみに、国債入札できる民間金融機関は、銀行から信用金庫
保険会社、証券会社まで240社あまりにのぼる。国債はつねに
引く手数多の状態で、240あまりの民間金融機関が、よってた
かって「売ってくれ」と入札していると考えていい。
                 ──高橋洋一著/あさ出版
      『99の日本人がわかっていない新・国債の真実』
─────────────────────────────
 「財政運営を家計に例える」──これは、何度いわれても、ど
うしてもそのように考える人は少なくないものです。高橋洋一氏
は、大学でマクロ経済を教えるとき、それを「合成の誤謬」とい
う言葉で教えているそうです。「合成の誤謬」とは、個人のレベ
ルでは、正しいことでも、同じことを大勢の人がやったら困ると
いうことです。
 例えば、「倹約」は、個人の生活では正しいことですが、国民
全体が倹約をしだしたら、とんでもないことになります。みんな
が、一斉に節約をし、貯蓄に励んだら、どうなるでしょうか。
 当然、消費が大きく落ち込み、企業の業績が悪化し、給料はダ
ウンし、下手すると、多くの失業者が出ることになる。これが合
成の誤謬です。
 ポール・クルーグマンやクリストファ・シムズなどの著名なマ
クロ経済学者は、「経済政策は無責任にやるものだ」といってい
るそうです。これは「個人レベルの道徳心を経済に持ち込むな」
ということをいっているのです。これは、「合成の誤謬」のこと
を意味します。
 主流経済学者は、できるかぎり国債の発行を抑制すべきである
と主張します。しかし、それをすると、政府が使えるお金が少な
くなり、それが政府需要を圧縮し、公共事業が減少することによ
って、雇用が減少します。個人レベルでは当たり前のことを国が
適用すると、大きな間違いが起きるのです。
              ──[新しい資本主義/056]

≪画像および関連情報≫
 ●「合成の誤謬」と「囚人のジレンマ」の違い
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   合成の誤謬は、「個人にとっては良い行為でも、全体的に
  とっては悪い行為と言えるもののこと」。人は自分にとって
  利益のある行動をしがちですが、それによって全体には不利
  益がもたらされることを言います。
   囚人のジレンマは「理論上では他者と協力した方が明らか
  に利益が大きくなるケースであっても、現実問題として協力
  しない方が得策であるときに、人は自己利益に走るという状
  況のこと」。人は全体よりも個人の利益に走りがちであると
  いう状況を示した言葉です。
   合成の誤謬とは、個人にとっては良い行為でも、全体的に
  とっては悪い行為と言えるもののことです。個人の利益と全
  体の利益が一致しないという意味になり、個人の利益に走る
  ことで、全体の利益が失われるような状況を指しています。
  こういったケースというのは、至るところで見ることができ
  日常生活の中に大いに潜んでいるのです。
   囚人のジレンマとは、理論上では他者と協力した方が明ら
  かに利益が大きくなるケースであっても、現実問題として協
  力しない方が得策であるときに、人は自己利益に走るという
  状況のことです。
   全員が協力すれば最大の利益になるとしても、1人でも裏
  切れば、その裏切った人間だけが最大の得をすると思われる
  ケースでは、誰か1人は最低でも裏切るだろうと考え、各自
  が自己利益に走り、結果的に多くが協力しない状況を迎えま
  す。このような光景は現実で普通にありえるのです。
                  https://bit.ly/36PwzwA
  ───────────────────────────
小林慶一郎氏VS中野剛志氏.jpg
小林慶一郎氏VS中野剛志氏
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2022年03月30日

●「永久債と長期債での債務を再構築」(第5700号)

 3月28日のEJでも述べた通り、ノーベル経済学賞受賞者の
ジョセフ・E・スティグリッツ・米コロンビア大学教授が来日し
安倍政権下の経済財政諮問会議に出席しています。2017年3
月14日のことです。
 実は、このときとは別の会合で、スティグリッツ教授は、経済
財政諮問会議で安倍首相にある提言をしたことを話しているので
す。その席には、伊藤隆敏コロンビア大学国際・公共政策大学院
教授と、フォーブス・ジャパン編集長の高野真氏が同席していた
そうです。そのやりとりの一部をご紹介します。
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高野:スティグリッツ教授は最近(3月半ばに)来日され、安倍
 晋三首相に面会されたそうですね。何を提案されたのですか。
スティグリッツ:主に第3の矢(成長戦略)についてだ。金融政
 策が限界に達している、と。マイナス金利を導入した国の中で
 も、日本の政策は最も思慮深いといえる。
伊藤:3階層構造方式の金利適用だ(注:基礎残高がプラスの金
 利、マクロ加算残高がゼロ金利、政策金利残高=日銀当座預金
 がマイナス金利)。
スティグリッツ:非常に熟考されたものとはいえ、政策金利に重
 要な役割をゆだねることには懐疑的だ。米国では5%からゼロ
 金利に下がったが、投資も増えず、大した効果が出なかった。
 ゼロからマイナスとなれば、なおさらだ。欧州でも機能すると
 は思えない。(中略)政府債務の期間構造も変えるべきだ。永
 久債の発行で金利上昇時の政府債務リスクが減り、景況感も高
 まる。また、日本銀行が保有する国債の無効化も提案した。
伊藤:無効にすることなどできない。
スティグリッツ:いや、可能だ。できる。
                  https://bit.ly/3tHJiKL
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 このやりとりのなかで、スティグリッツ教授が「日本銀行が保
有する国債の無効化も提案」といっていますが、この「無効化」
は財務省の誤訳ではないかと高橋洋一氏はいっています。「無効
化」は「cancelling」を訳したものですが、これは「相殺する」
とすべきです。わざとか英語が下手なのかわかりませんが、意味
をかえってわからなくしています。
 ちなみに、このとき、スティグリッツ教授は、「消費税の増税
はしない方がよい」と提言していますが、安倍首相は、聞く耳を
もっていませんでした。
 ところで、「日本銀行が保有する国債の無効化も提案」とは具
体的にどういうことでしょうか。これについての伊藤教授と、ス
ティグリッツ教授とのやりとりは次の通りです。
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伊藤:永久(に利息がつかない)ゼロクーポン債に組み替えると
 いうことか。
スティグリッツ:そのようなものだ。日銀保有の国債の40%以
 上を日本政府が保有しているのだから、左ポケットに負債を抱
 え、右ポケットに債権を持っているようなものだ。
伊藤:だが、政府と日銀のバランスシートを統合すると、日銀の
 負債(銀行券)が政府の負債になる。
スティグリッツ:日本の政府債務残高は対国内総生産(GDP)
 比で230%だが、ほとんどが国内資金によって買い支えられ
 ている。公的部門に保有されている国債を差し引くと、実質的
 には140%程度だ。永久債に組み替えれば、十分対処可能な
 範囲である。これは、経済学の基礎理論にのっとった提言だ。
高野:理論上は素晴らしいが、実際には、かなり難しいのではな
 いか。
スティグリッツ:いや、私の提言は人々に自信を与えるだろう。
 金融にさほど明るくない人は230%という数字に驚くが、方
 策は多い。            https://bit.ly/36TUQS8
─────────────────────────────
 「永久債」という考え方もあります。永久債とは、償還期限の
定めがない債券のことです。特徴として永久に利子(クーポン)
が支払われます。通常の債券よりも利率が高めに設定されている
ことが多く、投資家は長期にわたって高い利回りを得ることがで
きるとされています。
 スティグリッツ教授は「永久債と長期債で債務を再構築したら
どうか」といっているのです。仮に100年先に償還が訪れる国
債であれば、少なくとも3世代くらいは、償還費の心配のないこ
とになります。
 元本が返ってこない国債が果たして売れるのかという疑問があ
ります。これに関して高橋洋一氏は次のように反論しています。
─────────────────────────────
 ここで「元本が戻ってこない国債に、お金を出すところなんて
あるのか」という疑問が浮かぶかもしれないが、はっきりいって
素人丸出しの考えである。こういう話で「元本が戻ってくるかど
うか」が気になって仕方ない人には、投資はおすすめしない。
 投資で重要なのは、どちらかというと元本より利子である。仮
に100万円を投資したなら、その利子がいつ、どれくらい入っ
てくるかというキャッシュフローで考えれば、元本が戻ってくる
かどうかなど、二次的な問題に過ぎない。
                 ──高橋洋一著/あさ出版
      『99の日本人がわかっていない新・国債の真実』
─────────────────────────────
 永久債をやっている国はあるのでしょうか。実はさくさんある
のです。リーマンショックのあった2008年以前は、英国など
の先進国で行われていますが、近年では、新興国での発行も、目
立っています。大和総研のレポートによると、なかでも、中国の
2009年以降の累計発行額は878億ドルと世界で最大になっ
ています。だからこそ、スティグリッツ教授が日本に対して提案
したのです。        ──[新しい資本主義/057]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政をめぐる7つのウソ」/大石久和氏
  ───────────────────────────
   今回は、思想遍歴の紹介は一時休止にして、正しい財政認
  識を獲得するための説明をしたい。この欄でも何度か財政を
  論じてきたが、ここにまとめて示すのは、全建会員が正しい
  理解を獲得し、安心と自信を持って業務に邁進してほしいか
  らである。公共事業=インフラ整備などをやるために建設国
  債を発行し続けても、財政破綻など論理的に起こり得ないの
  だが、それを否定する「財政破綻論」ばかりがメディアを駆
  け巡り、インフラの整備水準が他の先進国から劣後する状況
  がつくられてきた。この財政破綻論は、ウソで塗り固められ
  ていると言ってもいい状況なのだが、すべてのメディアがウ
  ソを垂れ流しているから、人々もすっかりだまされている。
  是非一度頭のリセットボタンを押してお読みいただきたい。
  (これについての詳しい説明は、筆者(会長)が出演する全
  建の講習会で行うこととしているので、楽しみにして参加し
  ていただければ幸いである)塗り固められた7つのウソこれ
  らのウソとは次に示すとおりである。@「財政を家計にたと
  えると」のウソ、A「国の借金」のウソ、B「借金1000
  兆円」のウソ、C「国債は後世へつけ回し」のウソ、D「消
  費増税しかない」のウソ、E「健全財政が正しい」のウソ、
  F「このままでは財政は破綻する」のウソこう並べてみると
  財政説明はウソだらけ なのだ。  https://bit.ly/3LjkIWO
  ───────────────────────────
伊藤隆敏教授/スティグリッツ教授/高野編集長.jpg
伊藤隆敏教授/スティグリッツ教授/高野編集長
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2022年03月31日

●「なぜ防災関連公共投資を減らすか」(第5701号)

 日本の国債残高の対GDP比が256・2%であることは事実
です。それは、第2次世界大戦後の状況を上回る他のどの先進国
よりも劣悪な状況にあります。しかし、それは第2次世界大戦後
の政治の責任であり、その間のほとんどの政権を担ってきた自民
党に責任があります。つまり、自民党の財政政策が失敗したとい
うことです。もちろんその財政を預かる財務省にも重大な責任が
あります。
 しかし、今般の未曽有のコロナ禍において、少しでも政府が財
政出動をしようとすると、それを財務省は自身の責任を棚に上げ
て、バラマキといって非難し、このままでは日本は氷山に衝突し
てしまうぞと国民に脅しをかけています。
 米スティグリッツコロンビア大学教授は、そんなに財政赤字が
気になるなら、日本政府の財政赤字を「永久債と長期債で債務を
再構築したらどうか」と提案しているのです。しかし、財務省と
日本の主流派経済学者は、その提案を無視し、あくまでプライマ
リーバランスを黒字化しようとしています。聞く耳をもたないと
はまさにこのことです。
 それでは、日本はこれまでどの程度財政出動してきたのかにつ
いて考えてみることにします。メディアがほとんど報道しない事
実です。
 日本の国土の面積は全世界のたったの0・28%です。しかし
全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20・5%が、
その狭い日本で起こっているのです。それに台風などによる水害
などは毎年頻発し、大きな被害が出ています。
 しかし、日本政府は、この20年間、そのような災害対策の予
算を増やしてきたのかというと、そうではないのです。添付ファ
イルに2つのグラフがありますが、上のグラフは、米国、英国、
日本の治水関連予算の推移を表しています。これは、1996年
を100とした場合のグラフですが、米英に比べると、日本は一
貫して下がっています。つまり、日本は必要なことにも財政支出
を制限し、減らしているのです。なぜ日本はここまで財政支出を
絞るのでしょうか。これでは、日本はいつまで経ってもデフレか
ら脱却できないことは確かです。デフレの恐ろしさが、まるでわ
かっていないようです。
 まして今後30年以内の発生確率が70〜80%とされる南海
トラフ地震が、日本経済に与える被害総額は、20年間で最悪の
1410兆円になるといわれています。それなのに、日本政府は
治水関連予算を一貫して下げているのです。長年にわたる財務省
のプロパガンダが政府に効いているのでしょうか。
 コロナ禍においても同じことがいえます。国立感染症研究所の
研究者は、2013年の312人から現在は294人。米国と比
較すると、人員は42分の1、予算は1077の分の1しかない
のです。それに加えて保健所は、1992年には全国に852カ
所あったのですが、2019年には472カ所に減っています。
45%の減少です。その結果、多くの人がコロナで肺炎にかかり
病院に入院できず、自宅で亡くなっています。
 土居丈朗氏という財務省出身の経済学者がいます。土居氏はこ
とのほか、財政再建に熱心で、日本の医療費を減らすために、病
床数を減らすべしとウェブサイトで力説していましたが、そのサ
イトは現在では閉じられています。そしてコロナ禍が収束してい
ない2021年11月に、現職の財務事務次官が、一般誌に「バ
ラマキをやめよ」という論文を出しています。これらの学者は、
偏見を持たず、ぜひ基礎からMMTを勉強をしていただきたいと
思います。
 添付ファイルの下のグラフをご覧ください。これは、2005
〜2015年の日本の分野別論文数の国際比較です。青が日本で
橙色が日本以外の国です。目を覆いたくなるほどの結果です。プ
ラスは、医学、数学、天文学のみで、後はすべてマイナスという
ことになります。このグラフについて、中野剛志氏は、次のよう
にコメントしています。
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 このグラフは、2005年以降のデータですが、国公立大学の
独立行政法人化が始まったのは2004年のことです。運営費交
付金を毎年1%ずつ減らすなど財政健全化に努めたほか、大学を
さんざんいじくり回した結果が、これなんです。
 国富・国力の源泉である学術すらもボロボロになっているわけ
です。近年、日本人がノーベル賞を取ったと喜んでいますが、す
べて過去の成果ですから、これからはもう日本の学術は、ダメに
なってしまうのではないでしょうか。     ──中野剛志氏
                  https://bit.ly/3iGVjdq
─────────────────────────────
 なぜ、それほど、財政赤字が恐いのでしょうか。
 防災分野の公共投資やコロナ禍のような災害に起きれば、たと
え財政が危機的状況にあっても、思い切った手を打つはずです。
なぜなら、それが国家の存亡や生命財産にかかわることであり、
優先して取り組むのが政府の役割だからです。
 しかるに、東日本大震災でも、安倍政権でも、日本は真逆の増
税をやっています。しかも、消費税の税率を倍増させているので
す。中野剛志氏は、こういっています。
─────────────────────────────
 例えば、戦争中に敵から攻められて、自分の国を守るために軍
艦をつくる必要があるけれど、「財政危機が心配だから、戦時国
債を発行しません」という国がありますか?財政健全化のために
は占領されたほうがマシだという判断は普通はないですよ。
                      ──中野剛志氏
─────────────────────────────
 ウクライナの問題において、日本のテレビ局のキャスターのな
かには、「ウクライナのゼレンスキー大統領は、降伏して国民の
命を救うべきだ」と平然という人がいるのです。日本人も落ちた
ものだと思います。     ──[新しい資本主義/058]

≪画像および関連情報≫
 ●病床・保健所を削減しまくってきた理由と今後のあり方
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   新型コロナウイルス感染症の再拡大が懸念されるなか、昨
  年まで進められてきた「病床削減」方針を見直そうという動
  きが出てきました。すでに削減されてきた保健所や感染症病
  床のあり方も問われています。もっとも一連の削減にも理は
  あったのです。増大する一方の医療費をどうするかという問
  いに新型ウイルスが示した「伝染病の脅威は去っていない」
  という警告を加えて我々はどうすべきでしょうか
   日本の病床数が多い理由として常にあげられるのが「社会
  的入院」と重症者用のベッドを軽症者が入院しているケース
  などです。社会的入院は本当は自宅で暮らせる程度の傷病者
  が病院に入っている状態。一人暮らし世帯が増加して在宅だ
  と面倒をみてくれる人がいないとか、公的医療制度のおかげ
  で自己負担分が小さくて済むといからといった理由が考えら
  れます。            https://bit.ly/3LjQB1h
  ───────────────────────────
防災分野/教育分野への公共投資.jpg
防災分野/教育分野への公共投資
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