的は子育て世帯の支援です。コロナ禍で若年世帯の収入が減り、
支援のニーズは高いはずです。公明党の衆院選の公約ですが、こ
のような政策は、前の政権の菅政権において実施しておくべき政
策だったといえます。はっきりしていることは、その目的が景気
対策ではなく、困窮世帯の支援であるということです。
ところが実施に当たって、岸田政権は、所得制限と半分の5万
円のクーポン券化を求めています。現金を配るのは、バラマキで
あって、死んでもやりたくないという、超シブチンの財務省の意
向が強く反映されています。何しろ、あのバラマキ反対の矢野財
務次官の仕切る役所ですから、こうなるのです。
所得制限を設けるということは、給付先を特定する事務手続き
上、給付までに時間がかかりますし、10万円を現金とクーポン
券に分けるには、クーポン券の印刷など、多くの手間とコストが
かかります。このように総額がわずか2兆円でしかない政策の場
合、年内に現金で配るのがスピーディーであるし、ベストです。
同じ10万円でも年内に届くのと、年を越すのとでは、天と地ほ
ど違うからです。こういうことは安定した高給を保証されている
財務省の役人にはきっとわからないのでしょう。
そもそも、クーポン券にするのは、景気対策にもしたいからで
す。彼らは、現金を配ると、その分貯蓄が増えるだけでムダに終
わってしまうので、せめて景気対策にしたいと考えているからで
す。しかし、これは若年層世帯への支援であり、困窮者支援対策
であって、何よりもスピードが必要なのです。
なお、この10万円給付には「児童手当受給世帯」への仕組み
が使われるので、15歳未満の子供に対しては、申請は不要で、
プッシュ型で届きますが、16歳から18歳の子供の分について
は申請が必要になります。それに所得制限やクーポン券化が加わ
ると一層手続きが面倒になります。
2020年5月の特別定額給付金(国民1人当たり10万円)
の使い道について、ニッセイ基礎研究所による調査では、その要
点について、次のようにレポートしています。
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◎コロナ禍で銀行口座の預金は増加傾向にある。ニッセイ基礎研
究所の調査でも、特別定額給付金の使い道の2位は、「貯蓄」
(26・1%)である。この背景には、経済不安で貯蓄にとど
めていることや、外出自粛により使い道がないために貯蓄にと
どまっていることなどがあげられる。あらためて消費者の意識
に注目して給付金の使い道を捉える。
◎一方、外食や旅行など必需性の低い消費項目に費やす消費者で
は、経済不安のない層が多い。ただし、感染状況の収束が見え
ない中では、いったん旅行などを保留しているために、見た目
上貯蓄にとどまってる部分もあるだろう。なお、給付金を使っ
ているとはいえ、生活費の補填にあてる消費者は、当然のこと
ながら、経済不安が強い傾向がある。
◎「貯蓄が増えているために、お金に困っている人は少ない」と
の見方もあるようだが、少なくとも給付金が貯蓄にとどまる理
由は、主に経済不安の強さによるものである。特に、比較的若
い現役世代については、貯蓄が増えていても、決して経済状況
に余裕があるわけではない。データとして見える事実と背景に
ついて、丁寧に読み解く必要がある。
──ニッセイ基礎研究所上席研究員/久我尚子氏
https://bit.ly/3tPSBJe
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実際問題として、特別定額給付金は指定銀行口座に振り込まれ
るので、すぐ引き出して使わない限り、貯蓄としてストックされ
ます。しかし、特別定額給付金が口座に振り込まれた時点で、手
元の資金を安心して使う場合もあるのです。
定額給付金が大多数の国民の口座に振り込まれた9月の時点で
菅政権になっており、菅首相は首相に就くと、対象地域から外さ
れていた東京都を加えて、直ちに年末に向けて、GOTOトラベ
ルキャンペーンを展開しています。このキャンペーンは、菅首相
が官房長官時代に旗を振ってはじめた事業であるからです。した
がって、実際には特別定額給付金はGOTOトラベルにも十分使
われているはずです。
ところで、たとえ現金給付金が貯蓄に回ったとしても、タイム
ラグで投資が増えるので、景気にプラスの効果をもたらすという
経済の専門家の意見もあります。貯蓄に回ったとしてもマイナス
ではないのです。高橋洋一氏は、これについて、近著で次のよう
に述べています。
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貯蓄に回ってはいけないと思い込んでいるのが間違いです。貯
蓄に回ったら消費の喚起にならないといいますが、そうではあり
ません。(一部略)貯蓄に回ると消費が落ちるという言い方をし
ますが、確かに貯蓄に回った分は、一時的に消費分が落ちます。
しかし、時間が経つとお金はまた回り出します。
貯蓄に回ったお金は、金融機関の貸し出しを通じて投資になる
のです。GDPの構成要素である民間消費が投資になるだけで、
GDPそのものは減りません。消費が減った分は、タイムラグは
ありますが、投資が増えるのです。
だから、消費だけに着目して、「減った、減った」と騒ぐのは
本当におかしなことなのです。経済学でISバランスを勉強しま
す。ISバランスとは、investment and saving のことで、セ
イビングというのは、所得から消費を引いた金額。これが増える
と、investmentが増えると習うはずですが、マスコミも岸田政権
をも公明党も勉強していないのでしょう。 ──高橋洋一著
『岸田政権の/新しい資本主義で無理心中させられる/
日本経済』/宝島社刊
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──[新しい資本主義/第015]
≪画像および関連情報≫
●定額給付金はそんなに悪いのか/ニッセイ基礎研究所
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定額給付金の評判が非常に悪い。私自身は、昨年2008
年8月にこの政策が決まった時から支給されるのを心待ちに
しているのだが、各種世論調査によれば、定額給付金に反対
している人の方が賛成している人よりも圧倒的に多いという
ことだ。
第一の批判は、定額給付金はばらまき政策で好ましくない
というものだ。しかし、そもそも景気対策というのは、多少
なりとも「ばらまき」の性質を持っているものではないか。
景気悪化で急速に落ち込んでいる需要を、お金をばらまかず
に浮揚させることは至難のわざだろう。
定額給付金は景気浮揚効果が小さいという批判も多い。支
給されたお金のかなりの部分は消費されずに貯蓄にまわって
しまうというものだ。私自身、マスコミからの取材に対して
はきまって「定額給付金によるGDPの押し上げ効果は限定
的」と答えてきた。しかし、GDPを押し上げないからとい
って、必ずしも悪い政策というわけではない。
確かにGDPの押し上げだけを考えれば、公共事業のほう
が効果的だ。定額給付金(あるいは減税)を1兆円実施して
もGDPはその何割かしか増えないが、公共事業を1兆円追
加すればGDPは少なくとも1兆円は増えることになる。公
共事業(公的固定資本形成)はGDPの需要項目のひとつだ
からだ。しかし、道路や橋などの施設は作ったらそれでおし
まいではない。それがあまり役に立たないものだとしても、
維持、修理などにかかるコストは後の世代が負担しなければ
ならないのだ。 https://bit.ly/32pAfTZ
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高橋洋一氏