2022年01月14日

●「レーガノミクスが支持される理由」(第5650号)

 1970年代の米国は、深刻な不況に見舞われ、国民にとって
それは大惨事であったといえます。それは、第二次世界大戦後の
経済ブームの終わりを示し、米国は高い失業率とインフレの組み
合わせであるスタグフレーションに苦しんでいたのです。
 そのとき米国の有権者は「経済を好転させてくれる政治家」を
求め、時の大統領のジミー・カーターを追放し、元ハリウッド俳
優でカルフォルニア州知事のロナルド・レーガンを大統領に押し
上げたのです。
 ロナルド・レーガン大統領の評価は、昨日のEJでも詳しく見
た通り、現在においても非常に高いといえます。それは、もはや
神話的大統領ともいえるリンカーンに次ぐ地位を占めているとい
うのですから驚きです。
 それは、単なる人気ではなく、大統領在任時の業績であるレー
ガノミクスが高く評価されてのことです。つまり、新自由主義政
策が評価されているのです。確かに、米国はこの政策によって、
いわゆる「双子の赤字」を抱える結果になったのにもかかわらず
レーガン大統領の評価は高い支持を集めています。
 なぜ、それほどまでにレーガノミクスが支持されるのかという
と、ロナルド・レーガン、ジョージ・ブッシュ(父)、ビル・ク
リントンと続く3人の大統領が、それなりの良い仕事をやってい
るからです。それには米国にとって、いくつかの幸運も力を貸し
ているといえます。
 1981年1月20日に大統領に就任したレーガン大統領は、
小さい政府にするために社会福祉関連予算を削減し、「強いアメ
リカ」を実現するために軍事費を増大させ、所得税の最高税率を
引き下げるなど、公約の新自由主義的政策を次々と実施に移しま
す。そのため、レーガン大統領の8年間の財政収支は次のように
大きな赤字になっています。
─────────────────────────────
◎米国の財政収支/レーガン大統領時   単位:10億ドル
         歳入    歳出   国防費   収支
 1981   599   678   158  ▲79
 1982   618   745   185 ▲128
 1983   601   808   210 ▲207
 1984   667   851   227 ▲185
 1985   734   946   253 ▲212
 1986   769   990   273 ▲221
 1987   854  1004   282 ▲149
 1988   909  1064   290 ▲155
─────────────────────────────
 レーガノミクスと称されるサプライサイドを重視する経済政策
は、レーガン政権の副大統領を務めたブッシュ(父)が1984
年の大統領選で勝利し、1985年に大統領になって、引き継い
で行われています。
 実は、このブッシュ(父)政権時代には、2つの大きな政治的
出来事があったのです。その一つは、1990年の湾岸戦争であ
り、もう一つは1991年のソ連邦の崩壊です。
 ブッシュ(父)大統領は、1990年8月にイラクのクウェー
ト侵攻に端を発し、翌91年1月に米欧軍を主力とする多国籍軍
として米国は戦争に参加しています。
 1991年12月、ソビエト連邦共産党が解散し、連邦構成共
和国の主権国家としての独立が起こります。これは、ソ連との冷
戦の終わりを意味します。レーガノミクスによる国防費の増加は
ソ連への大きな圧迫となったことは確かです。
 しかし、経済の悪化が足かせとなり、ブッシュ(父)政権は2
期目の選挙で敗れ、4年で終了しています。ちなみに、ブッシュ
(父)政権時の財政収支は、次のようになっています。
─────────────────────────────
◎米国の財政収支/ブッシュ大統領時   単位:10億ドル
         歳入    歳出   国防費   収支
 1989   991  1143   303 ▲152
 1990  1032  1253   299 ▲221
 1991  1055  1324   273 ▲269
 1992  1091  1381   298 ▲290
─────────────────────────────
 1993年に大統領に就任した民主党のビル・クリントンは、
徹底的に米国経済の立て直しに全力を尽くします。クリントン大
統領は、@財政赤字削減の最重視、A政府部門における規制緩和
や職員数削減などを通じての効率化の促進、B投資促進による生
産性向上に尽力しています。この政策は「クリントノミクス」と
呼ばれることもあります。
 このクリントノミクスを効果あらしめたのは、冷戦の終結によ
る国防費の圧縮です。クリントン政権時代の8年間の財政収支は
次のようになっています。
─────────────────────────────
◎米国の財政収支/クリントン大統領時  単位:10億ドル
         歳入    歳出   国防費   収支
 1993  1154  1409   291 ▲255
 1994  1258  1461   281 ▲203
 1995  1351  1515   272 ▲164
 1996  1453  1560   265 ▲107
 1997  1579  1601   270  ▲22
 1998  1721  1652   268   69
 1999  1827  1703   274  124
 2000  2025  1788   289  236
─────────────────────────────
 これによると、米国の財政収支は1998年から黒字に転換し
双子の赤字のひとつ、財政収支の赤字は解消しています。幸運も
あったものの、レーガノミクスは、この時点で成功を収めている
といえます。       ──[新しい資本主義/第007]

≪画像および関連情報≫
 ●クリントノミクス(アメリカ)
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   クリントノミクスとは、1993年に「アメリカの変革」
  を訴え当選した民主党のビル・クリントン大統領が掲げたマ
  クロ経済政策のことです。主な内容は、政府の産業協力拡大
  と財政赤字削減です。第40代のレーガン大統領、第41代
  のブッシュ大統領(父)は共和党でしたが、第42代のクリ
  ントン大統領は、久々の民主党の大統領です。そのため、経
  済政策の面での方針が共和党時代と大きく異なります。
   民主党は共和党と違って、徹底的なケインズ主義の政党で
  す。「政府は経済問題に積極的に参入すべき」という主張を
  持っています。しかも、クリントン時代はアメリカとソ連が
  対立した「冷戦」が終わっていますから、それまでのように
  軍事にお金をつぎ込まなくてもよくなりました。そのため、
  レーガン、ブッシュ大統領の共和党政権が軍事に重きをおい
  たのに対し、クリントン政権は経済に目を向けました。冷戦
  時代、軍事に割かれていた大幅な予算は削られ、代わって公
  共投資にお金がつぎ込まれるようになったのです。
   さらにクリントン政権は、積極的に対外政策を行ない、N
  AFTAの締結、APECへの積極的な参加などがその代表
  例といえるでしょう。これには二つの意図があると考えられ
  ます。一つは、冷戦後の世界においてアメリカが再び主導権
  を握ろうという意図、もう一つは強気の外交によって貿易赤
  字を解消し国内経済を好転させようという意図です。
                 https://bit.ly/3JOPWoC
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ビル・クリントン元米大統領.jpg
ビル・クリントン元米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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