2022年01月05日

●「『新しい資本主義』は実現可能か」(第5644号)

 2021年10月4日、岸田内閣が発足しました。岸田元政調
会長は、9月の自民党総裁選に向けた政策集として、「新しい日
本型資本主義」という項目を立て、この言葉を選挙戦のキャッチ
フレーズに使って総裁選を戦い、勝利しています。
 具体的にいうと、新自由主義的政策を転換し、中間層への分配
を手厚くする「令和版所得倍増」を実現する──この政策を目玉
に掲げたのです。そして、10月4日に閣議決定した岸田内閣の
基本方針には、この「富める者と富まざる者の分断を防ぎ、成長
のみ規制改革・構造改革のみでない経済をめざす」という文言が
盛り込まれていたのです。
 この「新しい資本主義創設」は、単なる選挙のスローガンだっ
たのかというと、そうではないようです。それは、総裁選にさか
のぼること3か月の6月11日に、次のようなことがあったから
です。それは、岸田氏が、派閥横断型の「新たな資本主義を創る
議員連盟」を発足させ、岸田氏自身が会長に就任したからです。
 この議員連盟には、菅義偉首相の総裁任期が満了する前に党内
の足場を構築する狙いで、「3A」といわれる安倍晋三首相、麻
生太郎副総理兼財務相、甘利明税制調査会長ら150人近い自民
議員が顔を揃えたのです。しかし、この時点で、新議連の方向性
は定まっておらず、他の党内抗争に利用されて終わりかねないと
足元の岸田派から不満も出ていたといわれます。
 問題はこの「新しい資本主義」とは何かということです。
 岸田氏は「新自由主義からの転換」といっているので、現在の
資本主義が「新自由主義」であって、これが大きな格差を生み出
している元凶であるから、これを転換し、分厚い中間層を育て、
格差のない社会を創るといっているのです。そのためには「経済
を成長させ、多くの富を生み出し、それを公平に分配する」しか
ないことになります。
 確かに、日本経済はこのところさっぱり成長しない。それも、
2年や3年ではない。10年、20年以上にわたって成長してい
ないのです。国民の多くは、日本は世界第3位の経済大国である
ことは意識していますが、「経済がまるで成長していない」こと
を知っている人は少ないと思います。
 これを証明する最も衝撃的なデータが添付ファイルにしてあり
ます。1995年から2015年の20年間の名目GDP成長率
推移のデータです。これによると、世界平均がプラス139%で
あるにもかかわらず、日本は断トツの世界最下位のマイナス20
%です。日本の一つ上にドイツがいますが、その成長率はプラス
30%であってプラス成長です。
 問題は、なぜ成長しないかです。要因はいろいろありますが、
最大の原因は日本がデフレだからです。デフレであるのに、最悪
のタイミングで、消費税率を5%から10%へ倍増させたことに
あります。これについてはEJで何回も指摘しています。
 デービッド・アトキンソンという人を知っていますか。
 小西美術工藝社社長で、日本経済の研究を続け、『新・観光立
国論』『新・生産性立国論』など、日本を救う数々の提言を行っ
てきており、BSフジ「プライムニュース」などによく出演して
います。アトキンソン氏は、日本の消費税増税の失敗の原因につ
いて次のように述べています。
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 これまでの消費税増税のマイナスは、人口、とりわけ生産性年
齢人口という最大の消費者の数が減っているのに加えて、給料が
上がらない中で、消費税を増税したことが原因です。3%の消費
税が導入された1989年4月、統計局の調査によると日本人の
給与は平均して4・3%増加していました。もちろん消費税導入
への抵抗はあったでしょうが、給料がそれ以上に上がっているの
で、内需がマイナスになることはありませんでした。
             ──デービッド・アトキンソン氏
─────────────────────────────
 これは実に納得できる指摘です。生産性人口の減少に加えて、
給料が上がっていないのに消費税が増税されれば消費が減るに決
まっています。それにしてもデフレの状況下では増税すべきでは
ないのです。デービッド・アトキンソン氏の指摘は、改めて詳し
くご紹介したいと思っています。
 新しい資本主義の問題では、「デジタル社会論/V」でも述べ
たように、データを資本とする資本主義、資本なき資本主義とい
われる「データ資本主義」の問題もあります。そういうわけで、
今年の第1回のテーマは、次のようにしたいと思います。
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  「新しい資本主義」とは何か。日本経済は成長できるか
     ── データを制する者が世界を制する ──
─────────────────────────────
 コロナはどうなるでしょうか。
 都内在住の内科医は「この冬、日本ではオミクロン株は流行し
ない可能性が高い」と予測しています。この内科医が注目するの
は今冬のデルタ株の流行状況です。「アワ・ワールド・イン・デ
ータ」によると、12月21日に確認された人口100万人当た
りの感染者数は、欧州516人、北米276人です。これに対し
て、南米は40人、アフリカ27人、アジア16人と地域によっ
て大差があります。
 1か月前の感染者数と比較すると、欧州は17%、北米は61
%、アフリカは900%感染者が増加しています。しかし、南米
では7%、アジアは16%感染者が減少しているのです。東アジ
アから西アジアまでアジア全体で感染者が増加しているのは、韓
国、ベトナム、ラオスなど数カ国しかないのです。アジアの多く
の地域では、夏以降にデルタ株による感染が急速に収束し、再燃
していないのです。日本も同様です。内科医の予測が当たること
を祈るのみです。    ──[新しい資本主義/第001]

≪画像および関連情報≫
 ●「10%消費税が日本経済を破壊する」/藤井聰教授
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各国の経済成長率ランキング
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 新しい資本主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする