2021年12月01日

●「ディーファイ/分散金融とは何か」(第5624号)

 11月18日のEJで「DeFi/ディーファイ」についても少し
述べましたが、今日のEJでは、「ディーファイ」について詳し
く解説します。「DeFi」とは、次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
     ◎「DeFi/ディーファイ」
      Decentralized Finance /分散型金融
─────────────────────────────
 「ディーファイ」とは、ブロックチェーンの仕組みを使うこと
によって、金融機関を介さずに、無人で金融取引を行うシステム
のことです。このシステムでは、信用履歴審査や本人確認なしに
誰でも使えるサービスになっています。
 ディーファイが開発されたの2020年のことですが、その成
長は早く、2021年6月の時点では、提供されているサービス
は240種類をオーバーしています。5月の時点では、ビットコ
インなどの暗号資産の価格が急落したものの、このサービスの利
用者は急増し、前年比3割増の270万人になっています。
 ディーファイに流入した資産総額は、2020年始は7億ドル
程度であったものが、2021年5月には、約860億ドルに成
長しています。
 ディーファイが急速に普及した最大の要因のひとつに、「DE
X」があります。DEXとは次の言葉を略したものです。またし
ても分散型です。
─────────────────────────────
        ◎DEX/分散型取引所
         Decentralized Exchange
─────────────────────────────
 DEXとは何でしょうか。
 DEXとは、イーサリアムのスマートコントラクトを活用して
構築されたP2Pの取引所のことです。暗号資産を扱う場合、通
常は、大手の暗号資産取引所のビットフライヤーやコインチェッ
クのような取引所を使うことになりますが、これらの取引所は中
央集権型の組織であって、手数料が高いのです。
 これに対してDEXは、ブロックチェーン上のプログラムであ
る「スマートコントラクト」で管理されている取引所で、流動性
(貨幣と同義)の供給から、取引の約定に至るまで、一連のプロ
セスのほとんどが、スマートコントラクトで自動的に処理される
のです。
 DEXの代表的存在がユニスワップ(Uniswap) で、ある暗号
資産を他の暗号資産と交換したい場合、ユニスワップに一定量の
暗号資産を拠出すると、アルゴリズムで計算された量の他の暗号
資産を得ることができます。
 ユニスワップは、画期的なシステムであるとして注目されてい
たのですが、「流動性が低い」という問題を抱えていたのです。
「流動性が低い」というのは、数が揃わないので、売買時期が限
定され、希望する数量が揃うかどうか、または捌けるかどうか判
らないものをいいます。
 これに対して「流動性が高い」とは、いつでも売買が可能で、
一度に売買可能な数量の多寡が問題にならないもののことですが
このネックを解消するため、「プール」という仕組みが導入され
それは見事に成功しています。
 プールというのは、流動性の供給者になりたい人は、誰でも任
意の量の暗号資産をプールに預けられる仕組みです。プールして
おくだけで収益を得ることができるのです。この仕組みによって
DEXの資金量が増加し、流動性の問題や取り扱い銘柄が少ない
という問題が解決されています。
 現在、このユニスワップの今年の5月の取引高は約9兆円。こ
れは、日本の大手交換所であるビットフライヤーの1兆8000
億円を大きく上回っています。
 プールに預け入れるとなぜ利益が出るのかというと、預け入れ
られた暗号資産の額に対して、ユニスワップの独自トークン「U
NI」が受け取れるからです。大勢のトレーダーが暗号資産を預
けることによって「UNI」の価格が上昇し、大きな収益が得ら
れるのです。2021年11月現在、の「UNI」の情報を以下
に示しておきます。
─────────────────────────────
   シンボル      ・・・ UNI
   発行上限      ・・・ 1,000,000,000枚
   価格        ・・・ ¥2,435,41
   時価総額      ・・・ ¥1,526,941,555,378
   時価総額ランキング ・・・ 17位
   購入できる取引所  ・・・ 国内になし
                  https://bit.ly/32tWLuy
─────────────────────────────
 ユニスワップに流動性が集まりやすいのは、もうひとつ理由が
あります。ユニスワップでは、中央集権取引所(CEX)のよう
に、暗号資産の上場審査がなく、どのような暗号資産でも上場さ
せることができます。
 しかし、どのようなマイナーな暗号資産でもよいとなると、大
きなデメリットも生じます。具体的には、詐欺コインが上場され
ているケースもあるため、怪しい通貨に手を出してしまい、損を
してしまう人もいます。とくに、ユニスワップなどの分散取引所
(DEX)は金融庁の認可が下りていない取引所であるため、投
資を行うさいは自己責任ということになります。したがって、素
人がユニスワップに手を出すのは、やめた方がよいということに
なります。
 ディーファイのもうひとつの主要なサービスは、レンディング
プラットフォームです。これについては、述べる紙面がなくなり
ましたので、明日のEJで詳しく述べることにします。現在、書
店では暗号資産関連の本が多く販売されています。
             ──[デジタル社会論V/078]

≪画像および関連情報≫
 ●競争激化のなか、分散型取引所(DEX)が大幅に成長
  :チェイナリシス
  ───────────────────────────
   分散型取引所(DEX)は2019年以降、大幅に成長。
  一方で、中央集権型、分散型を問わず、アクティブな取引所
  の数は減少している。チェイナリシスが11月9日発表した
  レポートで明らかになった。暗号資産(仮想通貨)取引所の
  間の競争が激化するなか、トレーダー、特に大規模で熟練し
  た暗号資産トレーダーはイノベーションとスケーラビリティ
  に優れた取引所を好んでいるようだ。「DEX」はきわめて
  高い人気を集めており、これは全般的なディーファイ(分散
  型金融)の爆発的な成長と一致している」アクティブなDE
  Xの数は2019年から大幅に増加している。だが、アクテ
  ィブな暗号資産取引所の数は、2020年8月の845件を
  ピークに2021年8月には672件まで減少した。チェイ
  ナリシスのレポートは暗号資産取引所をビジネスモデルと技
  術インフラに基づいて6つに分類した。中央集中型取引所、
  DEX、顧客確認(KYC)要件が少ないハイリスク取引所
  店頭取引(OTC)ブローカー、デリバティブ取引所だ。そ
  れによると2020年8月以降、大規模なDEXの数と受け
  取った暗号資産の額は飛躍的に増加している。DEXのユー
  ザーは、中央集権型取引所のユーザーよりもはるかに大口の
  取引を行っている。これはディーファイがより大きく、より
  確立された暗号資産市場を持つ国で人気があるためだろう。
                 https://bit.ly/3xwHHHX
  ───────────────────────────
ユニスワップ.jpg
ユニスワップ
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2021年12月02日

●「ディーファイにはリスクがひそむ」(第5625号)

 ディーファイ「DeFi/ディーファイ」、分散金融の主要なサー
ビスの一つは、DEX、すなわち、分散型取引所です。これにつ
いては既に説明が終わっています。主要なサービスのもうひとつ
は「レンディングプラットフォーム」です。
 これをはじめたのは、暗号資産融資サービスのコンパウンドで
主にイーサリアムを利用した暗号資産のレンディングサービスを
提供しており、貸し手と借り手をスマートコントラクトの技術を
使って結びつけるのが特徴です。
 コンパウンドでもユニスワップと同様に「プール」の仕組みを
導入しています。ユーザーがウォレットを経由して、自分が保有
している暗号資産を預け入れたり、暗号資産を借り入れたりでき
ます。借りる場合は、借り入れ額の150%を担保にする必要が
あります。
 借り入れ利率は、暗号資産によって異なり、需給バランスに応
じて変動します。年利はいろいろで、年利6%〜20%になる場
合もあり、通常の金融商品に比べて収益性が高いといえます。
 プールの仕組みが使われるということは、このレンディングシ
ステムは、貸し手と借り手を直接マッチングさせるのではなく、
ユーザーはプールに暗号資産を貯め込むだけでよいのです。この
資金はコンパウンドが預かるのではなく、ブロックチェーン上に
ロックされ、後はプログラムによって管理されます。
 暗号資産をプールに預け入れると、「c Token」 が交付されま
す。これは「債権トークン」とも呼ばれています。cToken には
一定の利率が付与され、暗号資産を引き出すときには、利子が上
乗せされて戻ってくるようになっています。cToken を取引所に
おいて売却することも可能です。
 もし、自分がプールした暗号資産が借り入れに使われた場合は
cToken に加えて、借り入れ利率もつくことになります。202
1年5月現在、コンパウンドのプールにロックされている資金は
約81・5億ドルです。
 ディーファイのこの記事は、野口悠紀雄教授のレポートを参考
に書いていますが、野口教授は、ディーファイに関する日本のプ
ロジェクトはほとんどなく、あわてて手を出すにはリスクがある
と警告し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 金融安定理事会(FSB)は、2019年に分散化金融技術に
関する報告書を公表し、「金融システムの分散化は競争の拡大と
多様性をもらたす可能性がある」と指摘する一方で、「法的責任
の曖昧さや消費者保護に関する不確実性」に言及した。
 日本でも、一部でディーファイが注目されているが、それは高
い収益性を狙うことができるからだ。ウェブにあるディーファイ
関連の記事は、「ディーファイでどう稼ぐか」といったものが多
い。ディーファイが新しい世界を作る可能性はあるもの、現時点
でディーファイが提供するサービスは、ディーファイのの世界に
とどまっており、現実の経済活動とリンクしていない。だから現
在、ディーファイへの投資で高い収益率を挙げられるのは資金が
流入し続けているからだ。その意味ではバブルと言うことができ
る。私が残念に思うのは、日本発のディーファイプロジェクトが
ほとんどないことだ。ディーファイは、将来の金融として大きな
可能性を持っている。        https://bit.ly/3liiGLU
─────────────────────────────
 ネット上でディーファイに関するレポートを探してみたところ
2021年6月21日付、日本経済新聞電子版において、金融工
学エディターの小河愛実氏は、次のレポートを発表しています。
ディーファイは、完全無人のサービスであるので、当然リスクは
高いといえます。似たような仕組みのユニスワップでは、現在、
3つのバージョンのサービスが並列で動いているといわれます。
問題が発生してもシステムを修正できないからです。
─────────────────────────────
 ◎仮想通貨「無人」取引が増加 本人確認不要の分散型金融
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 分散型金融(DeFi/ディーファイ) と呼ばれる暗号資産(仮
想通貨)市場の新しい仕組みが広がっている。仮想通貨の売買や
貸し借りなどを「無人」で提供する。200種類以上の金融サー
ビスがあり、土台となる資産のプールは5月中旬には約9兆円を
超えた。ただ、本人確認なく利用できる匿名性の高さや利用者保
護の仕組みが不十分など、リスクも多い。
 「仮想通貨の乱高下などどこ吹く風という人気ぶりだ」。国内
仮想通貨交換業の関係者はあきれ顔だ。5月はビットコインなど
の価格が急落し利用者が減るなかでもディーファイのサービスの
利用者は増え、1カ月前に比べ3割増の270万人となった。
 仮想通貨を売買する場合、通常は仮想通貨交換業者が管理する
取引所を使う。ディーファイでは取引所など第三者を介さない。
代表的なブロックチェーン、イーサリアムで使われている「スマ
ートコントラクト」というプログラムで運用される「無人」のサ
ービスだ。(一部略)
 プログラムの中身や各種サービスの運用条件などは開示されて
おり、利用にあたって国籍や氏名など個人情報は求められない。
誰でもサービスを使えるほか、新たにサービスを開発することも
自由だ。金融機能が十分ではない国や地域でもネットさえあれば
利用できるので、爆発的に利用が増えている。
 ただ、高い利便性の裏返しで課題は多い。DeFiは仕組み上、サ
ービスを止めたり、補修する権限を持つ人が世界中に無数に散ら
ばっている。ユニスワップは3つのバージョンのサービスが並列
で動いているが、これは一度立ち上げたサービスを止めることが
難しいためだ。安全面の問題などが出てきても、すぐにシステム
を修正できない恐れがある。https://s.nikkei.com/3D6BcwO
      ──2021年6月21日付、本経済新聞電子版
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/079]

≪画像および関連情報≫
 ●分散型金融コンパウンド、非暗号資産企業・金融機関向け
  サービス提供の開始
  ───────────────────────────
   分散型金融(DeFi)プロトコルのコンパウンドを運営する
  コンパウンド・ラボが新会社コンパウンド・トレジャリーを
  設立したことを6月27日に発表した。コンパウンド・トレ
  ジャリーのビジョンは暗号資産(仮想通貨)に関わっていな
  い金融機関の10億人ユーザーに分散型金融の根源的メリッ
  トを提供するための架け橋となることのようだ。
   コンパウンド・トレジャリーは機関投資家や金融機関向け
  にディーファイのコンパウンド・プロトコルのサービスを提
  供するための企業だ。具体的にコンパウンド・トレジャリー
  はカストディ企業ファイヤーブロックスとサークルと協力し
  て、ネオバンクやフィンテックスタートアップ、およびその
  他の米ドルの大口保有者が、秘密鍵管理、暗号資産から法定
  通貨への変換を行うサービスを提供する。
   またコンパウンド・トレジャリーは金利変動を含むプロト
  コル関連の複雑性を排除して、コンパウンド・プロトコルの
  米ドル市場で利用可能な金利にアクセスできるようなプロダ
  クトと資金の流れを構築した。ユーザーは、コンパウンド・
  トレジャリーの口座に米ドルを送金することで、年4%の固
  定金利が保証されるとのことだ。この口座は24時間対応で
  いつでも口座への入金・出金が可能で、最低金額、最大限度
  額固定期間も存在しないとのこと。またユーザーは毎月監査
  可能な詳細な預金残高報告書を入手することができるようで
  ある。             https://bit.ly/3FQwl4w
  ───────────────────────────
ディーファイに預けられている資産総額.jpg
ディーファイに預けられている資産総額
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2021年12月03日

●「ブロックチェーンは進化している」(第5626号)

 今日は金曜日。金曜日のEJは、いつもと違うスタイルで書く
ことにしています。
 私の行きつけの書店は池袋のジュンク堂(丸善)と西武百貨店
の三省堂本店です。どちらも大書店ですが、技術系の書籍数は、
ジュンク堂の方が多いと思います。それにジュンク堂の場合、多
くの椅子が置いてあるので、そこにゆっくり座って本を吟味する
のに便利です。
 場所的には、三省堂は駅の改札口を出て目の前ですが、ジュン
ク堂は東口に出て、少し歩かなくてはなりません。そこで中継地
点として、ジュンク堂の近くの純喫茶『伯爵』(東口店)をよく
利用します。ジュンク堂に行く前か、帰りにそこで休むのです。
今どき珍しい昭和レトロな店で、ゆったりできる喫茶店です。コ
ーヒーもなかなかのものです。
 しかし、コロナ禍の場合、ジュンク堂ではすべての椅子が撤去
され、密にならないように配慮しています。そうなってしまうと
年寄りには長時間本を選ぶのはつらくなるので、緊急事態宣言期
間中はジュンク堂は敬遠していました。
 30日、用事があって池袋に行ったので、久しぶりにジュンク
堂に行ったのです。各フロワーに、ちゃんと椅子は置いてありま
した。6階のコンピュータ関連本のフロアーに行ってみると、添
付ファイルのように、NFTの本がズラリ。ノンファンジブルト
ークンの本で、しかも3冊、相当厚い本です。
 店員にブロックチェーンの本はどこにあるかと聞いてみると、
3段の棚にギッシリ。やはり、ブロックチェーンに大きな異変が
起きているようです。
 2021年12月1日付の日本経済新聞によると、米ツイッタ
ーの創業者、ジャック・ドーシー最高経営責任者/CEOは29
日付で引退を表明し、強い関心を寄せる暗号資産(仮想通貨)の
軸足を移すと表明しています。
 ジャック・ドーシー氏としては、21年1月、暴力を煽動する
投稿が規約に違反するとして、当時約8800万人のフォロワー
を抱えていたトランプ米大統領(当時)をツイッター上から永久
追放した気骨のある人物として知られています。
 ところで、ドーシー氏は、今後何をやろうとしているのでしょ
うか。日本経済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎SNSから仮想通貨へ
 ドーシー氏は、ツイッターの創業を通じて、インターネットの
特性である「オープンで非中央集権」を志向するSNSの構築を
目指してきた。同氏の関心は今、同じく分散型の技術的思想を基
盤とする仮想通貨「ビットコイン」にある。7月、仮想通貨関連
のイベントに登壇した際、同氏はビットコインについて「私が子
どもだったころのインターネットを思い出させる」と述べた。
 ビットコインには、マイニング(採掘)と呼ぶ計算作業を通じ
て消費する電力が環境負荷をもたらす課題がある。10月にはC
EOを兼務してきた米決済大手スクエアを通じて、電力効率の高
い半導体の開発に乗り出す考えを表明した。誰もがマイニングに
参加できる環境を整え、一部の業者に偏る採掘作業を分散させる
構想も示している。──2021年12月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 一口に「ブロックチェーン」といいますが、ブロックチェーン
も進化しているのです。株式会社Ginco の代表取締役、森川夢佑
斗氏は、ブロックチェーンの進化を1・0、2・0、3・0とし
て整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
◎ブロックチェーン1・0/通貨ペイメント
 ビットコインの「P2Pネットワークでのお金のやり取り」と
いうテーマに用途を絞り込んだブロックチェーンである。PоW
のコンセンサスプロトコルをベースに、ブロック生成にかかる時
間や、ブロックチェーンの透明性・匿名性を調整したものが、こ
のブロックチェーン1・0である。
≪代表的暗号資産≫
 ・ビットコイン
 ・ビットコインキャッシュ
 ・ライトコインほか
◎ブロックチェーン2・0/多機能プラットフォーム
 1・0の「通貨ペイメント」に加えて、イーサリアムを参考に
した「アプリケーションの実行環境」として開発されているのが
モデルのブロックチェーンである。これによってさまざまなアプ
リケーションの開発され、豊かなプラットフォームが形成されて
いこうとしている。
≪代表的暗号資産≫
 ・イーサリアム
 ・ネム
 ・ネオほか
◎ブロックチェーン3・0/多機能&高効率プラットフォーム
 イーサリズムをベースに、コンセンサスプロトコルを改良し
て、それらが抱えた問題を根本的に解決するよう解決するよう
開発された次世代型のプラットフォーム型のブロックチェーン
てある。
≪代表的暗号資産≫
 ・イーオーエス
 ・ジリカ
 ・アイコンほか
 ──森川夢佑斗著『これからのブロックチェーンビジネス』
                        MdN刊
─────────────────────────────
 来週からは、中央銀行のデジタル通貨(CBDC)が今後どう
なるのかについて、記述していきます。年内は、デジタル社会論
をこのまま継続してお届けします。
             ──[デジタル社会論V/080]

≪画像および関連情報≫
 ●進化を続けるブロックチェーンは、どの業界に影響を
  もたらすのか
  ───────────────────────────
   仮想通貨の基盤として一躍注目を浴びたブロックチェーン
  だが、この技術は実際にはより広範な可能性を秘めている。
  今後、製造や流通、金融、医療、不動産など、様々な業界で
  の活用が加速していくことになるだろう。そもそもブロック
  チェーンはビジネスにどのようなメリットをもたらすのか。
  事例を交えながらその動向を探ると共に、一人ひとりの働き
  方をも変えていく将来を展望する。
   ブロックチェーンが注目され始めたのは、ビットコインな
  ど仮想通貨の運用を支える基盤技術として用いられるように
  なったのがきっかけだ。だが、ブロックチェーン自体は高い
  汎用性をもった技術であり、製造業や流通・小売業など、B
  2B(企業間取引)を含めた非常に幅広い業界・業態のビジ
  ネスに応用できる。
   そもそもブロックチェーンとはどういうものなのか。簡単
  に言えば「台帳を分散して皆で共有しあう仕組み」である。
  従来のデータベースは中央集権型と呼ばれ、一カ所で集中管
  理されたデータに対して権限を持ったユーザーがアクセスす
  る形態をとっていた。これに対してブロックチェーンはデー
  タそのものをユーザー全員が持つ。さらに新しいデータは一
  定時間ごとに「ブロック」としてまとめられて配布され、積
  み重なっていく。また、それぞれのブロックは時系列で相互
  につながれている。      https://bit.ly/3o75MSQ
  ───────────────────────────
続々と出版されるNFTの本.jpg
続々と出版されるNFTの本
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2021年12月06日

●「FBはなぜ社名変更を行ったのか」(第5627号)

 GAFAの一角に異変が生じています。フェイスブックが突如
社名を変更したのです。10月28日のことです。29日付の日
本経済新聞は、次のように伝えています。
─────────────────────────────
【シリコンバレー=奥平和行】米フェイスブックは28日、同日
付で社名を「Meta(メタ)」に変更したと発表した。2004年
に発足した同社はSNS(交流サイト)を軸に成長してグループ
全体の利用者が36億人に迫るが、企業体質や管理体制への批判
が高まっている。社名変更によってイメージを刷新し、仮想現実
(VR)などの成長領域に注力する。
              https://s.nikkei.com/3xM4Hmo
─────────────────────────────
 フェイスブックは、建前としては、事業の軸足をSNS(交流
サイト)から「メタバース」(仮想空間)に移すことに伴う社名
の変更であることを強調しています。しかし、これは本音ではな
いと考えます。
 私事ですが、私はフェイスブックは使っていません。使ってい
るのは、ブログとツイッターのみです。なぜ、フェイスブックを
使わないのかというと、フェイスブックという企業をあまり信用
していないからです。それに友達に向けてのメッセージもツイッ
ターのように、必ずしもすべての友達に届くとは限らないからで
す。メッセージの表示についても、フェイスブック自体がコント
ロールしているように思えるからです。サイトでの論評を探ると
社名変更の背景について、次のような指摘があります。
─────────────────────────────
 背景には同社が世界で36億人近い利用者を抱える一方、事業
基盤を他社に依存している弱みがある。直近では米アップルがス
マートフォンでプライバシー保護策を強めたことで、主力の広告
事業が直撃を受けた。ザッカーバーグ氏は28日もアップルのア
プリ配信サービスなどを念頭に「選択肢の乏しさと高い手数料が
技術革新を阻害している」と主張した。メタバースではアプリ配
信サービスの運営を他社に開放する方針などを示し、「誰にでも
開かれた仕組み」(ザッカーバーグ氏)にするという。大手IT
(情報技術)企業に対する寡占・独占批判を意識していることを
うかがわさせるが、フェイスブック自身が厳しい状況に立たされ
ている。           https://s.nikkei.com/3ofiOh7
─────────────────────────────
 上記の記事のなかに「フェイスブックは事業基盤を他社に依存
している弱みがある」という記述があります。これは、何を意味
しているのでしょうか。これには、アップルのOSである「iO
S14」と関係があります。ちなみに、私のアイフォーンは現在
は既に「i0S15」にバージョンアップされています。
 「iOS14」に何があったのでしょうか。
 アップルは、6月にiOS14からプライマリーポリシーを変
更し、アプリ側から個人情報を追跡しにくいようにすると発表し
ています。フェイブックは、ブログ上で同社の広告パートナー向
けにiOS14に対する警告を行っています。
 どういうことかというと、アップルの新しいポリシーでは、ユ
ーザーの許可がないと、端末などを識別するためのIDFA(広
告識別子)を収集できなくなり、個人情報の追跡をユーザー側で
簡単に拒否できるようになったのです。
 このアップルの仕様変更の影響は大きいのです。広告プラット
フォームである「オーディエンス・ネットワーク」を使用してい
る開発者と広告主は、iOS14でターゲッティング広告を配信
する機能は大幅に制限されることになります。フェイスブックは
このオーディエンス・ネットワークを利用しているので、打撃は
大きいわけです。オーディエンス・ネットワークからの広告が、
まったく表示されなくなる場合や、表示されても、関連性の低い
つまり広告効果の薄いものになる可能性があるとしています。
 フェイスブックが今回の決断に追い込まれたのにはもうひとつ
理由があります。それは、今年の5月に、フランシス・ホーゲン
氏なる元フェイスブック社員の退職があります。ホーゲン氏は、
グーグルなどで、アルゴリズム部門に携わった後、2019年に
フェイスブックに招聘された人物ですが、民主主義や虚偽情報に
関連するチームの責任者を務めたといいます。
 このフランシス・ホーゲン氏について、2021年10月29
日の朝日新聞デジタルは、次のように述べています。
─────────────────────────────
 米ワシントン・ポスト紙は27日、FBがより感情的な投稿を
流通させるため、絵文字の反応を重視するようにアルゴリズムを
設定していたと報じた。FBは2017年から「怒り」や、「笑
い」などの絵文字による反応に、通常の「いいね」の5倍のスコ
アをつけていたという。19年の内部資料によると、「怒り」の
反応が多い投稿は、誤情報や有害な内容を含む可能性が高いと指
摘があり、FBは社内の議論をへて昨年、「怒り」のスコアをゼ
ロに引き下げたという。
 これら一連の報道のきっかけとなったのが、元FB従業員のフ
ランシス・ホーゲン氏の内部告発だ。米紙ウォールストリート・
ジャーナル紙は先月、ホーゲン氏が持ち出した膨大な内部文書を
もとに調査報道を始め、他の欧米メディアも協力して一斉に報じ
始めた。ホーゲン氏が問題視した点の一つが、FB上で表示され
る投稿の順番を決めるアルゴリズムに関する問題だ。
 FBは18年にアルゴリズムの変更をしているが、ホーゲン氏
は「分断を生むコンテンツを増幅し、さらに集中させている」と
訴えた。ホーゲン氏はまた、FBがザッカーバーグ氏のもとで、
「人間でなく数字重視で、短期的な考えに動かされている」とし
て、構造的な変化が必要だとも指摘している。
                  https://bit.ly/3Eg59fb
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/081]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックの社名変更に勝算はあるか
  ───────────────────────────
   世界で約28・5億人のユーザー数を誇るソーシャルネッ
  トワーキングサービス「Facebook(フェイスブック)」。そ
  の運営元であるメタ(旧フェイスブック)が、最近また話題
  になっている。
   まずは悪い話題だ。プロダクトマネジャーだった元社員が
  同社の上層部はユーザーの安全性よりも自社の利益を重視し
  ているとして、内部告発を行った。米議会の小委員会でも証
  言をして、大きなニュースに。元社員は大量の内部文書も暴
  露しており、欧米メディアが「フェイスブック文書」と呼ば
  れるその内容を次々と明らかにしている。
   さらに、英国でも別の元社員の内部告発者が英議会で証言
  するなど、批判が噴出している。2020年12月には、米
  連邦取引委員会(FTC)が反トラスト法(独占禁止法)違
  反の疑いで同社を提訴するなど、米国のみならず各国で調査
  対象になっており槍玉(やりだま)に挙げられている。同社
  への批判は、16年の米大統領選で国外からの政治的な情報
  工作が指摘されてからずっと続いている。こうした批判が高
  まっている一方で、良い話題になるのかどうかは分からない
  が、同社は社名を変更すると発表した。その名も「メタ」だ
  という。メタというのは「超える」という意味で、Facebook
  は、同社が運営する「Instagram」「WhatsApp」 などのサー
  ビスの一つという位置付けになる。https://bit.ly/3pjP0iF
  ───────────────────────────
看板を変えたフェイスブック.jpg
看板を変えたフェイスブック
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2021年12月07日

●「ケンブリッジ・アナリティカ事件」(第5628号)

 旧フェイスブックがピンチです。慌てて「メタ」と社名を変更
しましたが、そのようなことで対応できるのかどうか疑問です。
フェイスブックの疑惑は、2018年頃に「ケンブリッジ・アナ
リティカを巡る疑惑」があり、EJでもその疑惑について、取り
上げた記憶があります。どんな事件だったか少し振り返ってみる
ことにします。
 ケンブリッジ・アナリティカ社は、個人データの収集と使用、
そしてそれらが、2016年の米大統領選や英国の欧州連合(E
U)脱退に関する国民投票の結果に影響をしたかどうかをめぐる
議論の中心にいたのです。これにフェイスブックが深くかかわっ
ているというのです。いったいフェイスブックは、何をやったの
でしょうか。
 2014年のことです。ケンブリッジ大学の教員のアレキサン
ダー・コーガンなる人物の手によって、フェイスブック上で、性
格のタイプを診断するアプリが開発されたのです。なお、ケンブ
リッジ大学と、ケンブリッジ・アナリティカ社には、何の関係も
つながりもありません。
 このアプリは、それに答えたユーザーのデータだけでなく、回
答したユーザーの友達に関するデータも収集できるように設計さ
れていたのです。全部で27万人がこのクイズに回答し、結果と
して、米国に住む約5000万人分のデータがフェイスブック上
の友達ネットワークを通じてユーザー側にはっきりと意識されな
いままに収集されたのです。問題なのは、そのデータが米大統領
選や英国の欧州連合(EU)脱退に使われたかどうかを別として
このデータがフェイスブック社からケンブリッジ・アナリティカ
社に結果として売却され、第三者に共有されたことです。フェイ
スブックは過去にもそういうことを何回かやっているのです。
 2018年3月22日付のバズ・フィード(Buzz Feed) レポ
ートによると、この件について次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 「グローバル・サイエンス・リサーチ」というファームの調査
員と名乗る、アレクサンダー・コーガン氏は、アマゾンメカニカ
ルターク(アマゾンウェブサービスの一つ)で、コーガン氏が作
成した性格クイズの回答者人を雇った。このアマゾンのサイトで
は、お金を払い、簡潔な仕事を人に提供することができる。ザ・
インターセプトによると、コーガン氏は1ドルか2ドルを支払い
回答者個人のフェイスブックのアカウントで性格クイズを受ける
ようにしたという。
 27万人以上の回答がコーガン氏に渡り、回答者の友達、つま
り何千万人にわたる人のフェイスブック上のデータにコーガン氏
がアクセスできるようになった。コーガン氏は、フェイスブック
とユーザーに、データは匿名化されると伝えていたが、匿名化さ
れていなかった。ケンブリッジアナリティカの集計データと「デ
ータ漏洩した」の人々のデータを活用することを、多くの人が話
題にしている。今となっては削除されたツイートだが、フェイス
ブックの幹部であるアレックス・スタモス氏は、コーガン氏は何
のシステムも壊していないと主張していた。「彼は集めた後にデ
ータの悪用をした。だが、だからといって遡及的に『漏洩』だと
いうわけではない」        https://bzfd.it/3DmYAX4
─────────────────────────────
 フェイスブックが、性格タイプを測定する27万人分のデータ
を結果として第3者に売却したという意味について説明します。
それは、性格アプリの制作者であるアレキサンダー・コーガン氏
が、調査目的で取得したフェイスブックユーザーの27万人分の
データをストラテジック・コミュニケーション・ラボラトリーズ
というファームに売却していますが、そのファームが、現在のケ
ンブリッジ・アナリティカだからです。何となくフェイスブック
社との出来レースのような感じがします。これに関連して、バズ
・フィードレポートは、次のように続くのです。
─────────────────────────────
 このファーム(ケンブリッジ・アナリティカ)が、ユーザーの
データを取得したことは事実だ。フェイスブックはその事実を確
認したにも関わらず、公には認めなかった。フェイスブックの広
報担当者が発表した声明文によると、フェイスブックは法的措置
を用いてケンブリッジ・アナリティカに「不適切に集められた全
てのデータ」を使えないようにするように圧力をかけたという。
フェイスブックの幹部であるアンドリュー・ボスワース氏は、こ
のファームは「法定文書でデータを削除したと証明した」といい
それがこのファームがフェイスブックというプラットフォームか
ら完璧に排除されていない理由だという。
 大統領選挙戦前に、ドナルド・トランプ氏陣営はフェイスブッ
ク広告を使ったキャンペーンに投資していた。ある力を持ったト
ランプ氏支持の政治行動委員会は、反ヒラリー・クリントン氏の
ビデオの指揮を取り、これはケンブリッジ・アナリティカによっ
て判別された特定のオーディエンス層に向けて製作された。
                 https://bzfd.it/3DmNNw3
─────────────────────────────
 今回フェイスブックの実態を暴き、不正を明らかにしたフラン
シス・ホーゲン氏(女性)によると、フェースブックのCEOの
マーク・ザッカーバーク氏は、フェイスブックの議決権を持つ株
式の半数以上を保有しており、会社に対する絶対的支配力を有し
ているといっています。誰も逆らうことはできないのです。「現
在、マークに責任を負わせることができるのは、彼自身だけであ
る」といわれています。
 今回、フランシス・ホーゲン氏が告白したことは、マークの絶
対王国、フェイスブックにとってきわめて深刻な打撃を与えつつ
あります。フェースブックは、そのため、SNSでやっていくの
は無理と考えて、「メタ」に社名を変更したのです。その内容に
ついては、明日のEJで述べることにします。
             ──[デジタル社会論V/082]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックの危険性をあらためて考える
  ───────────────────────────
   アメリカのフェイスブック社が運営するSNSであるフェ
  イスブックが一般ユーザー向けにサービスをリリースしたの
  は2006年。その後、2008年には日本語版がスタート
  し、日本国内でもユーザー数が増加していった。グローバル
  でのアクティブユーザー数(MAU)は、2020年4月時
  点で26億人に達するなど、全世界的に利用されている。フ
  ェイスブックの最大の特徴は、実名登録制を採用しているこ
  とにある。ツイッターやインスタグラムなど他のSNSの多
  くが匿名を許可しているのに対し、フェイスフックは実名登
  録が基本で、出身や勤務先などの個人情報の登録も必要とさ
  れる(どこまで詳細に登録するかは選択できる)。
   総務省情報通信政策研究所が公表している「情報通信メデ
  ィアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、フェイ
  スブックは日本国内の30〜60歳代のユーザーの間では、
  LINEの次に利用されていることがわかっている。そして
  リアルの場で面識のある人同士が繋がっている傾向が高いこ
  とから、他のSNSよりも近況報告などの投稿が多いことが
  特徴だ。ユーザーグループが会社、学校などの属性で分類さ
  れるため、知人や友人も探しやすく、繋がった友達と共通の
  知人を知らせてくれる機能もあり、繋がる人が増えやすい。
                  https://bit.ly/31rEddZ
  ───────────────────────────
ケンブリッジ・アナリティカ.jpg
ケンブリッジ・アナリティカ
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2021年12月08日

●「FB──何が内部告発されたのか」(第5629号)

 2021年10月1日から10月25日にかけて、SNSの雄
フェイスブックについて衝撃的な内部告発があったのです。告発
者は、フェイスブックの元社員のフランシス・ホーゲン(37)
氏です。詳細は次の通りです。
─────────────────────────────
 10月 1日
  WSJに内部資料を大量リーク。WSJは、それを「フェイ
 スブック・ファイルズ」と題して、公開に踏み切る。
 10月 3日
  その衝撃もやまないうちにCBS報道番組「60ミニッツ」
 に単独出演。インタビューに応じる前に、数万ページにおよぶ
 内部資料を米証券取引委員会(SEC)に提出し、株主・マス
 コミ・SECへの同社の報告内容と食い違いがみられる点8件
 の異議申し立てを行ない、調査を要請
 10月 5日
  米上院公聴会で証言
 10月25日
  英議会で証言          https://bit.ly/3dmJ0jG
─────────────────────────────
 フランシス・ホーゲン氏は、一体何を告発したのでしょうか。
多くの記事がネット上に溢れていますが、どれを読んでも、いま
ひとつはっきりしないのです。ただ、はっきりしていることは、
フェイスブックがデータに対して、何らかの操作を加えたことは
確かです。そのために、特殊なアルゴリズムを使用しています。
フェイスブックは、ユーザーを少しでもフェイスブック内に留め
るため、刺激性の強いコンテンツ──例えば「怒り」とか、「分
断」とか、「ヘイトスピーチ」とかに特殊なアルゴリズムを使っ
て、高配点を与え、その議論がフェイスブック内で盛り上がるよ
うにしているというのです。
 確かに、自分の意見に多くの「いいね!」がついたり、高配点
が与えられたことを知ると、それに煽られて、さらに激しい意見
を記述するというようになるものです。なるべく長時間、フェイ
スブック内にユーザーを引き止めておくことに成功すると、広告
を見る確率が高くなるからです。
 人は怒りに駆られるときエンゲージメント(フェイスブックの
場合は、いいね、クリック、コメント、シェア)が最大になるか
らです。フェイスブックはエンゲージメントで広告売上が決まる
ので、利益を追求すると、どうしてもそうなってしまうというわ
けです
 議会での一連の証言を終えたフランシス・ホーゲン氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 私が今日この場にいるのは、フェイスブックのサービスが子ど
もたちを傷つけ、分断をあおり、私たちの民主主義を弱体化させ
ていると考えているからだ。フェイスブックの経営陣はフェイス
ブックやインスタグラムの安全性を高める方法を知っているが、
必要な変更を行ったりはしないだろう。
                ──フランシス・ホーゲン氏
─────────────────────────────
 フェイスブックは、その傘下にあるインスタグラムでも、ユー
ザーに悪影響を与えています。10代女子の13・5%がインス
タグラムで「自殺願望が悪化した」と回答し、17%が「拒食や
過食の摂食障害が悪化した」と答えていることも内部資料で明ら
かになっています。これについて、CBS報道番組「60ミニッ
ツ」で、フランシス・ホーゲン氏は、これについても次のように
コメントしているのです。
─────────────────────────────
 こういう実態がフェイスブック自身の調査で判明したことは超
悲劇というよりほかないですよ。女の子たちは摂食障害のコンテ
ンツに触れ出すと、どんどん鬱を深めていきます。しかも鬱にな
ればなるほど利用をやめるどころか逆にアプリにのめり込んでい
く・・・。そして自分の体がますます嫌いになるという負のフィ
ードバックループ。そこから抜けだせなくなってしまうんです。
               ──フランシス・ホーゲン氏
─────────────────────────────
 ところで、フランシス・ホーゲン氏は、どのような人物なので
しょうか。どのような経緯で内部告発にいたったのでしょうか。
 ホーゲン氏は、オーリン・カレッジで電気・コンピューター工
学を学び、ハーバード大学でMBA(経営学修士号)を取得した
後、グーグル、ピンタレスト、Yelp(イェルプ)などのシリコン
バレー企業で働いた経歴を持つ人物です。
 フェイスブックでは、誤情報拡散防止チームの一員として民主
主義やデマに関連する問題に対処し、その後は、外国政府による
フェイスブックの悪用対策も担当するようになったのですが、2
年近く勤務した後、フェイスブックを去っています。
 フランシス・ホーゲン氏は、途中で問題に気が付き、フェイス
ブックのサービスが、害を及ぼしているという警告を何度も会社
に行っています。しかし、同社ではそうした警告が意図的に無視
されることに気がついたといいます。そして2020年12月に
所属していた誤情報拡散防止チームが解体されると、ホーゲン氏
の我慢は、限界に達したといいます。「本当に、裏切られた気分
だった」と同氏は語っています。
 ホーゲン氏は、持ち出した内部資料を米議会やWSJに提供し
ただけでなく、その一部を5人の州検事総長と米国証券取引委員
会(SEC)に送付しています。そして、ホーゲン氏の代理人弁
護士は、フェイスブック社が財務パフォーマンスに影響する情報
を開示しなかったことについての調査を求めています。
 フェイスブック社は絶体絶命です。その対策のひとつが、「メ
タ」への社名の変更であることは確かです。
             ──[デジタル社会論V/083]

≪画像および関連情報≫
 ●「フェイスブック、自力で変われない」 内部告発者、法規
  制を支持―米
  ───────────────────────────
   【シリコンバレー時事】米インターネット交流サイト(S
  NS)最大手フェイスブック(FB)を告発した元従業員の
  女性が10月5日、連邦議会上院小委員会の公聴会に出席し
  「FBは子どもに害を与え、分裂をあおり、民主主義を弱め
  ている。安全より利益を優先している」と証言した。「FB
  は自力で変われない」とも述べ、法規制の強化を支持する立
  場を示した。
   元従業員フランシス・ホーゲンさん(37)は、子どもに
  有害な情報などへの対策を怠ったとしてFBを告発。公聴会
  では、創業者のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が
  55%の議決権を握り、会長も兼務する統治体制を「非常に
  特異」だとし、経営トップに最終責任があると主張した。小
  委員会はザッカーバーグ氏を追及する構えだ。
   ホーゲンさんは、FBが用いるアルゴリズム(人工知能に
  よる計算)が、怒りなど極端な反応を引き出す投稿を拡散す
  る危険性を会社側は認識していたと指摘。ザッカーバーグ氏
  が拡散を抑える措置の導入を決めなかったと非難した。
   その上で、FBなどSNS企業を監視する専門機関の創設
  を提言。企業が抱えるデータや調査結果を踏まえたルールを
  制定することで、利用者保護や市場の独占防止を図れると訴
  えた。FBの渉外担当幹部は「多くの主張に同意しかねるが
  ルールを作る時であることには賛成する。業界に期待するの
  ではなく、議会自ら行動を起こすべきだ」とコメントした。
                  https://bit.ly/3dquzec
  ───────────────────────────
「60ミニッツ」でのフランシス・ホーゲン氏.jpg
「60ミニッツ」でのフランシス・ホーゲン氏
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2021年12月09日

●「仮想空間メタバースをめぐる課題」(第5630号)

 フェイスブックが「メタ」に社名を変更したのは、2021年
10月28日のことです。フェイスブックの元社員のフランシス
・ホーゲン氏が、10月5日に米上院公聴会、10月25日に英
議会で証言した直後のことです。したがって、社名変更はホーゲ
ン氏の告発が原因と考えられます。社名を変更することによって
イメージチェンジを図るのが狙いではないかというのです。
 もちろんフェイスブックは、これを全否定し、社名変更は、収
益の9割以上を依存する広告事業が転機を迎えているからであり
今後大きな成長が見込めるVR(仮想現実)やAR(拡張現実)
やMR(複合現実)などの関連事業への事業シフトを企図してい
るといいます。なお、SNSとしてのフェイスブックは、そのま
ま存続するそうです。
 確かに、VRやARに使うハードウェアだけでも、市場規模は
2024年には現在の10倍の2970億ドルに達するし、それ
に伴うサービスや広告などに関連する市場を含めると、8000
億ドルに達するという予測もあります。これに関しては添付ファ
イルにしてあるボストン・コンサルティングによる予測グラフを
ご覧ください。
 そもそも「メタバース」とは何でしょうか。
 「メタバース」というのは、ゴーグル型のVR端末を使って、
仮想空間を楽しむというものです。米国のSF作家であるニール
・スティーブンソンが1992年に書いた小説『スノウ・クラッ
シュ』がモデルといわれ、「メタバース」とは、「超越」を意味
する「メタ」と、ユニバース(世界)の「バース」を結びつけた
新造語です。
 しかし、この概念は新しいものではなく、2000年代前半に
は米リンデンラボが提供する仮想空間「セカンドライフ」が流行
し、企業がこぞって広告などに活用しようとしたのですが、人気
は長続きしなかったのです。
 イメージとしては、自分の分身となる「アバター」を使って、
バーチャルの世界で交流したり、戦ったりするゲームが人気を集
めています。「メタバース」がいま関心を集める背景には、高速
通信規格「5G」の普及が今後本格化することもあり、モバイル
通信の環境がさらに進化し、3Dなどデータ量の大きい情報を瞬
時に送れるようになるので、ページや動画を見るだけでなく、空
間を体験できるようになるとみられています。
 このメタバース空間においては、自分の分身のアバターを使っ
て活動することになりますが、これは、単に既存のSNSを代替
するだけでなく、新たなゲームや交流の場が実現されることが考
えられます。
 ここで注目すべきことは、メタバースとNFT(ノン・ファン
ジブル・トークン)との関係です。ビジネス・インサイダー・ジ
ャパンの11月10日のレポートは、このNFTとの関係につい
て、次のように述べています。
─────────────────────────────
 NFT(非代替性トークン)がメタバースの鍵を握っていると
専門家は述べている。NFTによって、人はインターネット上で
単なる賃借人ではなく、所有者になることができる。暗号資産に
関するポッドキャスター、アンドリュー・スタインウォルドは、
「世界は、まだメタバースのごく初期の段階にある」と述べてい
る。(中略)
 そこでは「ギャラリーを作ったり、通常のソーシャルメディア
のように自分の写真を載せたりすることができる。思い通りにク
リエイティブになれる。社交的にもなれるし、近所の人に話しか
けたり、イベントに参加するといったこともできる」。
 でも、NFTや暗号資産がメタバースにどう関係する?
 すべてにおいて関係する!
 NFTとはメタバースの世界の扉を開くデジタルの鍵であると
ポリゴンのNFTおよびゲーム部門の責任者で、シュリアンシュ
・シンは、Decrypt に寄稿した記事に記している。NFT(非代
替性トークン)は、ブロックチェーンに唯一無二のアイテムとし
て保存されているデジタル資産のことで、ビットコインなどの暗
号通貨を支えるのと同じ技術が用いられている。このトークンは
ユーザーにデジタルの世界での所有権を与えるものだ。
                  https://bit.ly/3DpIsEb
─────────────────────────────
 メタバースには問題もあります。
 まず、ハード面の制約があります。VR用のゴーグルは、世界
13億台といわれるスマホに比べると、始まったばかりであり、
VRの広告市場もまだ未確立です。事業基盤そのものが、まだ、
できていないのです。また、仮想空間においては、様々なデジタ
ル資産が取引されますが、マネーロンダリング対策や金融規制が
まだ追いついていないことがあります。SNSでもヘイトスピー
チや政治的プロパガンダなど様々な社会問題が出てきますが、匿
名性を前提とするメタバースでは同様の問題が起きる可能性があ
ります。2021年12月6日付、日本経済新聞では、「メタバ
ース、迫られる法整備/仮想空間での商取引、トラブルを防ぐ」
と題して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 巨大な仮想空間を意味する「メタバース」を巡るビジネスが注
目される中、仮想空間内での商取引などを巡る法律やルールの整
備が課題になっている。
 現行法は所有権の対象を物理的な「モノ」に限るなど、仮想空
間に対応しきれていない面がある。新法を望む声もあるが、仮想
空間の運営企業の責任を重くしすぎるとビジネスの足かせにもな
る。制度作りのバランスが求められている。
         ──2021年12月6日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3ops16u
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/084]

≪画像および関連情報≫
 ●結局のところメタバースとは何なのか?セカンドライフ、
  あつ森との違いは
  ───────────────────────────
   米フェイスブックが社名を「メタ(Meta)」に変更し、少
  なくとも約100億ドル(約1兆1000億円)の投資を表
  明したことで、大きな注目を集めている「メタバース」。マ
  イクロソフトやウォルト・ディズニー、ナイキにソフトバン
  クなど、IT企業だけでなくエンタメや小売業界までが参入
  計画、投資を表明し、市場への期待の高さがうかがえる。カ
  ナダの調査会社エマージェン・リサーチによると、世界のメ
  タバース市場は2028年までに約8289億ドル(約94
  兆円)規模に拡大するという。
   だが、「メタバース」と聞いて、明確にイメージできる人
  は少ないだろう。そもそもメタバースとは、どんなものなの
  か。ITジャーナリストの三上洋さんが話す。
   「メタバースとは、『超(メタ)』と、『宇宙(ユニバー
  ス』を組み合わせた造語で、一言で言えば、オンライン上の
  “共有型仮想空間”のこと。仮想空間の中に人々がアバター
  として入り込んで、相互にコミュニケーションしたり、経済
  生産活動、コンサートなどの娯楽を楽しんだりできる世界で
  す」(三上さん・以下同)これまでにも似たようなものとし
  て、2000年代に大ブームとなった米リンデン・ラボのサ
  ービス『セカンドライフ』や、コロナ禍で一世を風靡した任
  天堂のゲームソフト『あつまれ、どうぶつの森』など、バー
  チャルとリアルを繋ぐ世界はあったが、これらとはどう違う
  のか。             https://bit.ly/3dtY4Md
  ───────────────────────────
VR・AR・MRの市場規模.jpg
VR・AR・MRの市場規模
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2021年12月10日

●「データ資本主義とは何かを考える」(第5631号)

 岸田首相のいう「新しい資本主義」とは、どのような資本主義
をいうのでしょうか。投資家の間で話題になったのは「金融所得
課税の見直し」です。金融所得課税というのは、預金であれば利
子、株式であれば配当、株式を売却した際に得られた利益などに
対して課される税金のことをいいます。
 これを見直すというのですから、投資家にとってはパニックで
す。そのせいか、岸田氏が自民党の総裁に選出されてから、日経
平均株価は8営業日連続で下落しています。これに対して、楽天
の三木谷浩史社長は次のようにツイートしています。
─────────────────────────────
    まったく資本主義が理解できていないのでは?
             ──楽天の三木谷浩史社長
─────────────────────────────
 評判の悪さを気にしたのか、岸田首相は金融所得課税の見直し
を「当分しない」と引っ込めています。しかし、資本主義は本当
に変質しつつあります。それは「データ資本主義」です。これに
ついては、動画があります。野口悠紀雄氏はこれについて次のよ
うに語っています。58秒の動画です。
─────────────────────────────
       ◎データ資本主義/野口悠紀雄氏
        https://s.nikkei.com/3Ex7W3Y
─────────────────────────────
 アルファベットという企業があります。これは、グーグルの持
ち株会社のことです。2015年の設立です。グーグルのグルー
プが巨大化したことによって、グループ企業の持ち株会社を設立
することにしたのです。この企業の2021年6月の時価総額は
約1・7兆ドル。直近の為替レートである「1ドル=115円」
で計算すると、約195兆円になります。これは東証一部上場企
業の時価総額の合計約717兆円(2021年6月末)の27・
1%になるのです。
 同時期のフェイスブックの時価総額は、約1兆ドル(115兆
円)、アルファベットと合計すると2・7兆ドル(310兆円)
になります。これは東証一部上場企業の時価総額の43・2%に
に該当するのです。
 これに関連して、野口悠紀雄氏は、東証一部上場企業の株価の
上昇率をアルファベット(グーグルと同一視)、フェイスブック
と比較して次のように述べています。
─────────────────────────────
 グーグルやフェイスブックは、株価の上昇率も高い。過去10
年間でグーグルの株価は、約8・6倍になった。他方で、日経平
均株価は、約3・2倍だ。
 仮に、グーグルやフェイスブックの株価が今後10年間に8・
6倍、日経平均株価が3・2倍になるとし、発行済み株式数や為
替レートが不変だとしよう。すると、10年後には、グーグルと
フェイスブックの2社の時価総額だけで、東証一部上場企業の時
価総額を上回ってしまう。日本人にとっては信じたくないことだ
が、こうなる可能性は決して否定できない。むしろ、10年より
前にこうした事態が生じる可能性が高い。
              ──野口悠紀雄著/PHP新書
  『データーエコノミー入門/激変するマネー、銀行、企業』
─────────────────────────────
 ところで、グーグルとフェイスブックにアマゾン、アップル、
つまりGAFAに、マイクロソフトを加えたGAFA+Mの時価
総額は約7・5兆ドル(2021年4月2日現在)、現在の為替
レートでは863兆円になります。つまり、東証一部上場企業の
時価総額の合計717兆円を大きく超えているのです。
 GAFAが急成長したのは、SNSを通じて利用者の膨大な個
人データが得られるので、それを広告に結び付けるビジネスモデ
ルを開発することによって急成長したのです。つまり、「データ
を収益化」することに成功したのです。野口悠紀雄氏は、これら
の個人データを「ビックデータ」と呼び、これまで世界をコント
ロールしてきた資金力、あるいは権力よりも、重要なものである
と位置づけています。そして、野口氏はこれを「データキャピタ
リズム」(データ資本主義)と呼んでいます。
 この野口氏の「データ資本主義」に対して、日経記者の竹内弘
文氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 ビッグデータが新たな資本としてお金を生み、稼いだお金を投
じてまたビッグデータを収集する。この新たな資本拡大サイクル
に成功したGAFAは株式市場での存在感を高めてきた。野口氏
の「データ資本主義」は、現在の経済を鮮やかに説明する。デー
タ蓄積を通じた「独占的利潤」そのものは問題ではなく、従来型
の独占禁止法での対応はなじまないという主張も一理ある。
 ただ、欧州連合(EU)の欧州委員会は、検索サービスなどの
競争環境をゆがめているとしてグーグルに競争法(独占禁止法)
に基づく制裁金支払いを命じてきた。米国のリベラル派にはGA
FA分割論が浮上する。国境をまたぐデジタルサービスから生ま
れた税収をどう各国に分配していくかという「デジタル課税」も
税務当局間の協議で大きなテーマだ。プラットフォーム企業の存
在感が一段と大きくなるなか、データが生む利益を巡って国家主
権と衝突する場面は避けられない。自由競争と政策介入との間で
どう最適なバランスをとるのか。新たな知恵が求められている。
                  ──竹内弘文日経記者
              https://s.nikkei.com/3rGH39X
─────────────────────────────
 なぜ、ビックデータというのかというと、それらのデータの一
つひとつは価値のないものですが、これらのデータが膨大な数に
膨れ上がり、蓄積されれば価値が生まれるという性格を持ってい
るからです。来週は、この点についてていねいに考えていくこと
にします。        ──[デジタル社会論V/085]

≪画像および関連情報≫
 ●ビクター・マイヤー=ショーンベルガー著/『データ資本主
  義/ビッグデータがもたらす新しい経済』の書評
  ───────────────────────────
   経済学は近代に誕生した比較的新しい学問であり、社会の
  市場経済と資本主義の仕組みについて探究してきた。しかし
  時代が変わり、社会の仕組みが変われば、自ずと研究対象も
  変わっていく。貨幣や価格の理論を提示してきた経済学は、
  貨幣や価格がその役目を終えたとき、何を探究することとな
  るのか。
   データが貨幣と価格に取って代わったとき、金融資本主義
  はデータ資本主義へと移行する――著者はそう考える。精細
  なアルゴリズムやマッチングシステムの発展により、データ
  リッチ環境が整った社会では、もはや貨幣や価格に縛られる
  必要はなくなる。そうなればそれぞれの嗜好や価値観に沿っ
  た選択にもとづき、より自由な生き方ができるようになるか
  もしれない。著者が思い描くデータ資本主義とは、データや
  システムに人間が服従する未来ではなく、より人間的に生き
  られるようになる未来だ。そしてそこに新たな希望を見るの
  である。
   いろいろな意味で常識を覆される本書だが、議論は理解し
  やすく説得力がある。これからの経済のあり方について、思
  考を深めたい方にぜひ読んでいただきたい。本書を読んでい
  るか読んでいないかで、現代社会に対する見方は大きく変わ
  るはずだ。              ──大賀祐樹氏
                 https://bit.ly/3IrigNm
  ───────────────────────────
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東証一部上場企業とGAFA+Mの時価総額
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2021年12月13日

●「朝日新聞がFBの批判を開始する」(第5632号)

 フェイスブック(現メタ)への批判がなかなか止まりません。
12月10日付、朝日新聞は一面トップ記事で「インスタグラム
『若者に悪影響』把握済み/FBに批判」のタイトルを掲げ、2
面も使って、フェイスブックを批判しています。
 何が批判されているのかというと、フェイスブックが調査でイ
ンスタグラムが若者に悪影響を与えつつあるとの事実を掴みなが
らも、自社の利益を図るために、ほとんど何の手も打っていない
ことがわかったからです。その内部文書の入手した朝日新聞は、
次のように記述しています。
─────────────────────────────
 インスタの若者に対する悪影響については内部告発の元になっ
たFBの内部文書に関連の記述がある。
 2019年11月に社内で共有された、日本を含む6カ国の約
2万人を対象にした調査では、自殺殺望や自傷行為の悩みをかか
える10代の少女の13・5%が、インスタを見ると状況が悪く
なると答えた。身体の悩みを抱える少女の32・4%が状況を悪
くすると答え、「良くする」を上回っていた。
         ──2021年12月10日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 もちろんフェイスブックが、これに対して何もしなかったわけ
ではないのです。対策として「いいね!」の表示・非表示を管理
できるようにしたらどうかというアイデアが出たものの、調査で
は、これによって健康面の数値の変化がないという結果も把握さ
れていたのです。しかし、2021年5月にこの機能は導入され
ています。
 これについて告白者フランシス・ホーゲン氏は、朝日新聞の取
材に対して、次のように答えています。
─────────────────────────────
 若者の健康に対して、何かをやっているかのように見せたかっ
ただけだ。           ──フランシス・ホーゲン氏
─────────────────────────────
 そもそも今回のフェイスブック批判は、ホーゲン氏の内部文書
を基にして、米ウォールストリート・ジャーナル紙が今年の9月
から連載を始めたことに端を発しています。そこでは、フェイス
ブックが有名人を優遇する特別ルールを適用したり、有害な投稿
への対策が不十分であることが明らかにされています。
 「有名人を優遇するルール」──そんなものがフェイスブック
にあったとは驚きです。もし、今回の内部告発がなければわから
なかったことです。なぜなら、有名人を優遇すれば、利益が上が
るからです。その点、メタのザッカーバークCEOは今年の11
月29日に退任したツイッターの創業者、ジャック・ドーシーC
EOと対照的です。ジャック・ドーシーCEOは、2021年1
月、暴力を煽動する投稿が規約に違反するとして、約8800万
のフォロワーを保有していたトランプ米大統領(当時)を永久追
放するという毅然とした処置をとったからです。投稿の規約を犯
せば、超有名人でも切るという姿勢です。フェイスブックは、自
社の利益を何よりも第一に考えており、そういう毅然たるところ
がないという点が批判の対象になっているのです。
 このフェイスブックに対する猛批判に対して、メタのザッカー
バークCEOは、10月に次のように反論しています。
─────────────────────────────
 批判の中心は我々が利用者の安全や幸せよりも利益を優先して
いるという考えだ。まったく事実ではない。問題を抱える10代
の少女の多くは、インスタグラムでは状況が良くなったと答えて
いる。          ──マーク・ザッカーバークCEO
─────────────────────────────
 このようにフェイスブックが批判の嵐に晒されるのには、伏線
があります。2018年3月のことです。フェイスブックは、実
名登録を原則としているSNSであるのに、大量の個人情報流出
事件を起こしています。そのため、フェイスブックの株価は、3
週刊余りで、10%超下落し、株式時価総額は何百億ドルも目減
りしています。ザッカーバークCEOはこの個人情報流出によっ
て、世界の20億人以上の人々のプロフィールの個人情報データ
が不正に取得されてしまった可能性があるとぬけぬけと警告して
いるのです。これは「組織的傲慢さ」そのものといえます。
 ニューズウィーク日本版は、この事件について次のように伝え
ています。
─────────────────────────────
 こうした事態になる前にせめて、SNSの運営につきものの社
会的リスクを評価すべきだった。フォーチュン上位500社の多
くは、環境、社会、企業統治に関わるリスクを検証し、報告する
組織的なCSRプログラムを導入している。やはりSNSを運営
するツイッターは、年2回、凍結した悪質アカウントの数も含む
「透明性報告書」を公開している。ブルームバーグやシマンテッ
クなどのテクノロジー企業やデータ企業も「米サステナビリティ
会計基準審議会」(SASB)の基準に基づき、企業統治その他
について報告している。
 フェイスブックはこうした活動に積極的に取り組んでこなかっ
た。事業や財政上のリスクに加え、環境、社会、企業統治のリス
クも考慮しなければならないというのは今や企業経営の常識だ。
優良企業は社会的責任を果たすだけにとどまらず、社会をより良
くする活動に取り組むことで長期的なリターンを生む「攻めの社
会貢献」を行っている。ザッカーバーグが、フェイスブックは人
と人とをつなぐ善良な企業で、とくに努力をしなくてとも悪とは
無縁、と思うのは大きな間違いだ。自社の事業の影響をモニター
し、自社を取り巻く環境に目を向け、悪質な利用を防ぎ、ユーザ
ーの便益、ひいては社会全体の便益を追求する不断の努力が求め
られる。             https://bit.ly/3IQbilc
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/086]

≪画像および関連情報≫
 ●個人情報流出隠蔽のグーグルやフェイスブックが陥る「大企
  業病」。自ら明らかにしない体質
  ───────────────────────────
   グーグルが米東部時間/2018年10月8日、SNSの
  「グーグル+」を閉鎖すると発表した。50万人超の個人情
  報が外部からアクセスできる状態になっていたが、公表を控
  えていたことを、米ウォール・ストリート・ジャーナル(W
  SJ)がスクープ、その直後に発表した。公表すれば、グー
  グルが議会や規制当局の関心を引き、ブランドが傷つくこと
  を恐れていたとWSJは伝えている。
   グーグルはWSJの報道直後、グーグル+を2019年8
  月末で閉鎖し、継続しないことを発表。理由は「消費者の期
  待に沿うような、成功できるプロダクト(グーグル+)を作
  り、維持していくのには大きな困難がありすぎる」というも
  のだ。フェイスブックの台頭に、検索エンジンであるグーグ
  ルが危機感を募らせ、2011年にスタートしたグーグル+
  があっけなくなくなる。
   しかし問題なのは、個人情報が流出していた恐れがあるの
  に、それを隠していたことだ。グーグル+は、2015年か
  らグーグル+は、2015年から2018年3月にかけての
  長期間、ソフトウエアの欠陥で、外部デベロッパーがメール
  アドレスや、性別、職業、年齢などの個人情報(プロファイ
  ル)にアクセスできるようになっていた。英ガーディアンに
  よると、外部デベロッパーは、データにアクセスできたユー
  ザーの「友達」の情報まで見ることができたという。
                 https://bit.ly/3dIrlmM
  ───────────────────────────
個人情報流失で質問攻めに遭うザッカーバークCEO.jpg
個人情報流失で質問攻めに遭うザッカーバークCEO
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2021年12月14日

●「ディエムは取引データ取得が狙い」(第5633号)

 フェイスブック(現メタ)のやったことで、忘れてはならない
ことがあります。それは「リブラ/Libra」です。 リブラは仮想
通貨──暗号資産です。
 フェイスブックは、2018年の個人情報流出に続き、201
9年にも個人情報流出事件を起こしています。ソニーネットワー
クコミュニケーションズ(株)が運営するセキュリティ通信は、
次の記事を発信しています。
─────────────────────────────
 アメリカのセキュリティ企業であるアップガードは、2019
年4月3日、実名で利用するSNS「フェイスブック」のユーザ
ー情報が、保護されていない状態でアマゾンのクラウドサーバー
上に置かれていることを明らかにした。
 公開されていた情報には、メキシコのメディア企業であるカル
チュラ・コレクティバの保持していたフェイスブックユーザーの
アカウント名や過去に投稿したコメント、「いいね」などのリア
クションといった5億4000万件以上のデータが含まれていた
と見られる。この指摘を受けたフェイスブック社は同じく3日、
クラウドサーバー上に保管されていたデータベースの削除を行な
ったとしている。          https://bit.ly/3lXIqNQ
─────────────────────────────
 こういう騒ぎを引き起こして世界中の世間の信用を損ねたフェ
イスブックは、突如暗号資産「リブラ」を発表したのです。20
19年6月のことです。暗号資産といえばビットコインが頭に浮
かびますが、リブラは、ビットコインのように、現実の通貨に対
する価値が大きく変動しないことが特徴です。このような暗号資
産を「ステーブルコイン」といいます。ステーブルコインであれ
ば、送金の手段に使えることになり、世界の通貨に大きな影響を
与えることになります。
 ましてフェイスブックの利用者は、世界で20数億人といわれ
ていますし、もしリブラを使うことが便利であれば、多くの人が
使うことになります。これに加えて、世界には銀行口座を持てな
い人が17億人いるといわれています。これらの人もリブラを使
うことが十分考えられるので、これによって巨大な通貨圏が形成
されることになります。その通貨圏は、世界のあらゆる国の通貨
圏を大きく上回ることになります。
 リブラ発表までのフェイスブックは不祥事続きで、フェイスブ
ック自体の信用が大きく揺らいでいたのです。そんなときに、一
体フェイスブックは、何を目的にしてリブラをやるとして発表し
たのでしょうか。
 フェイスブック自身は「多くの人に便利な支払い手段を提供す
る」といっています。そういう目的自体はいいことですが、フェ
イスブックは公益団体ではなく、私企業であり、何か他に狙いが
あるに違いないと考えられます。
 そもそもリブラはどういう仕組みのスティーブルコインなので
しょうか。
 学習院大学特別客員教授、櫨(はじ)浩一氏は、次のように解
説しています。
─────────────────────────────
 ビットコインなどの多くの暗号通貨では、通貨の価値は需給関
係で決まっている。暗号通貨は、一定のルールに従って安定的に
供給されるが、需要はさまざまな要因で変化するため、これらの
暗号資産の価値は非常に変動が大きい。価値の変動が大きいこと
は、これらの暗号資産を通常の取引に使うためには大きな障害で
ある。また、ビットコインなどの暗号資産の中心的な保有目的が
「投機」になってしまった原因でもある。
 これに対して、テザー、ユーロ・テザー(EURT)のように
価値を米ドルやユーロにリンクさせることで、価値を安定させる
ステーブルコインと呼ばれる暗号通貨がある。リブラもその一種
だ。テザーやユーロ・テザーが米ドルやユーロという単一の通貨
に連動し、ベネズエラのマドゥーロ大統領がはじめたペトロは、
同国の石油や天然ガスなどの埋蔵資源が価値の源泉になっている
のに対して、リブラはより価値の安定した通貨バスケットにリン
クするように計画されている。   https://bit.ly/3EOiprS
─────────────────────────────
 通貨を発行する場合、「シニョリッジ」(通貨発行益)という
ものが得られます。シニョリッジとは、政府・中央銀行が発行す
る通貨・紙幣から、その製造コストを控除した分の発行利益のこ
とです。「シニョール」(seignior)とは古いフランス語で中世の
封建領主のことで、シニョリッジとは領主の持つ様々な特権を意
味しています。
 それなら、リブラは、シニョリッジ狙いなのかというと、そう
とは考えられないのです。というのは、リブラの場合、その発行
団体であるリブラ協会は、通貨の発行額と同額の準備資産を保有
するとしているからです。この仕組みでは、どうしても収益率が
低くなります。なぜなら、この準備資産は流動性の高いもので準
備する必要があり、リブラの発行には同額のリブラが必要になる
からです。こうなると、フェイスブックの狙いはひとつ、取引デ
ータの獲得にあるのではないかと考えられます。つまり、マネー
のデータの取得とその利用です。
 しかし、リブラの発行に対して、世界的な大議論が起きたので
す。具体的には、世界の金融当局が、総力を挙げて、これを潰し
にかかったのです。それは、すさまじい潰しの圧力です。フェイ
スブックは不祥事続きなのに、また騒ぎを起こすのかという批判
も多くあったと思われます。
 結局、リブラは「ディエム/Diem」に名称変更して、計画を大
きく後退せざるを得なくなったのです。またしても、名称変更で
す。しかし、計画を中止したわけではなく、次の機会を狙ってい
ると思われます。しかし、その後、コロナ騒ぎもあって、ディエ
ムは音なしで動いていませんが、来年は動き出すと思われます。
            ──[デジタル社会論V/087]

≪画像および関連情報≫
 ●【ディエム】フェイスブックへの不信感を乗り越えられるか
  ───────────────────────────
   フェイスブックはかなり早い段階で、支払いの世界で「素
  早く行動し破壊」することはできないと悟った。金融には信
  頼が必要だが、フェイスブックは、2019年、当時リブラ
  (Libra)と呼ばれ、今ではディエム(Diem) と呼ばれるこ
  ととなったステーブルコインプロジェクトを発表した時、ま
  ったく信頼されていなかった。
   ソーシャルメディアの同社は、偽情報の拡散を可能にした
  と指摘されており、ケンブリッジ・アナリティカのスキャン
  ダルは、同社がユーザーデータの制御能力を失っていること
  を露呈した。これは、リブラの議論に大いに関わる要素だ。
  フェイスブック主導のデジタル通貨構想の発表から2年、暗
  号資産の世界でははるかな時間と考えられるような時を経て
  ディエムに対応するデジタルウォレット「Novi」の準備が進
  められている。しかし、規制当局や一般市民が、グローバル
  決済手段を生み出そうとする民間企業主導の取り組みを受け
  入れ、使っていきたいと考えるかは、いまだに不透明だ。
   「私たちは公平なチャンスに値する」と、フェイスブック
  の金融サービスを率いるデビッド・マーカス氏は8月18日
  ブログに記した。しかし、トラストレス(信頼できる第三者
  を必要としない)なブロックチェーン基盤のサービスであっ
  ても、評判や、市民からの信頼は重要なのだ。
                 https://bit.ly/3dJFHDm
  ───────────────────────────
櫨(はじ)浩一教授.jpg
櫨(はじ)浩一教授
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2021年12月15日

●「各方面からのリブラ潰しの強圧力」(第5634号)

 フェイスブック(現メタ)がリブラを発表したとき、何が起き
たかについて、少し詳しく見ていくことにします。
 まず、起きたのは、各国政府・中央銀行が、リブラに対する規
制を強化すべきと訴えたことです。米下院サービス委員会のマキ
シン・ウォーターズ委員長は、リブラ発表当日の6月18日に、
リブラの開発計画中止の声明文を公表しています。これに合わせ
て、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁(当時)も高い基
準の規制の必要性を説いています。
 さらに、7月16日には米上院銀行委員会、17日には米下院
金融サービス委員会において、公聴会が開かれています。いずれ
もこれはきわめて素早い対応であるといえます。
 フランスのブリュノ・ルメール経済・財務相は、次のようにリ
ブラ反対を表明しています。
─────────────────────────────
 現状のままでは、ヨーロッパへのリブラ導入を許可すること
 はできない。    ──ブリュノ・ルメール経済・財務相
─────────────────────────────
 2019年10月18日、G7は、ステーブルコイン(価格変
動を抑えるために法定通貨の価値に準拠するデジタル通貨)に関
するワーキンググループの調査結果を発表し、リブラについて次
の問題点を指摘しています。
─────────────────────────────
 ステーブルコインは、グローバル決済を効率化し、その発展に
貢献する可能性がある。一方で、その規模に関係なく、マネーロ
ンダリング対策、サイバーセキュリティ、データ保護などの懸念
点がある。普及が世界規模となる場合には、国家の金融政策や経
済の安定性、国際的な通貨システムにまで影響を及ぼす可能性が
ある。               https://bit.ly/3rV5515
─────────────────────────────
 これに続いてG20も「リブラを当面認めない」ということで
合意しています。なお、時の米大統領トランプ氏は、「仮想通貨
のファンではない」「仮想通貨は貨幣ではない」などとツイート
を発信したうえで、フェイスブックのリブラプロジェクトについ
て、「ほとんど地位も信頼性もない」と批判し、米国の規制当局
が同社に規制を課すことを示唆したうえで、次のコメントを公に
しています。
─────────────────────────────
 フェイスブックをはじめとする企業が銀行になりたければ、新
しい銀行免許(Banking Charter) を模索し、他の国内銀行と国
際銀行同様に、すべての銀行規制に従わなければならない。
              ──トランプ米大統領(当時)
─────────────────────────────
 さらに、欧州の主要5カ国の動きについて、日本経済新聞は、
次のように報道しています。
─────────────────────────────
【ベルリン=石川潤】独仏などの欧州の主要5カ国は、2020
年9月11日、デジタル通貨への厳しい規制を求める声明文を公
表した。法や規制上の問題などが解決するまでは、欧州連合(E
U)内での発行を認めないとしたうえで、準備金の運用などに厳
しい制限を課すことが柱だ。声明文をもとに、欧州委員会は23
日にもEUとしての規制案をまとめる。独仏のほか、イタリア、
スペイン、オランダが提案に加わった。5カ国の念頭にあるのが
ユーロなどの法定通貨を価値の裏付けに発行するデジタル通貨、
ステーブルコインだ。米フェイスブックのデジタル通貨構想「リ
ブラ」が浮上したことで、欧州各国の警戒が強まっていた。
 声明文には、デジタル通貨が金融の安定や決済の効率性、公正
な競争などを損なってはならないという原則を明記した。そのう
えで、規制の枠組みを作るうえで国の主権や金融政策に配慮し、
消費者保護を優先すべきだとの考えを示した。
              https://s.nikkei.com/3yi9a0A
─────────────────────────────
 このように、欧米が総力を上げてリブラを潰しにかかったのは
リブラがそれだけ重要な影響力を持つということを意味していま
す。その重要な影響力には次の2つがあります。
─────────────────────────────
   @とても規模の大きい通貨圏が形成されるということ
   Aリブラは電子マネーではなく、暗号資産であること
─────────────────────────────
 第1は、規模の大きい経済圏ができるということです。
 既に述べたように、フェイブックの利用者は世界で約20億人
それに銀行口座を持たない17億人が加わると37億人、約1億
人しかいない円の利用者の最大36倍の経済圏が形成されること
になります。半分強としても20億前後の経済圏が誕生してもお
かしくはないのです。もし、リブラの使い勝手がとても良いとし
た場合、円を使わず、リブラを使う日本人も増えるはずです。
 第2は、リブラは暗号資産、通貨であるということです。
 重要なことは、リブラは電子マネーと違い、通貨であるという
ことです。中国の電子マネーのなかには、アリペイなど、利用者
が10億人レベルのものは既に存在しています。しかし、電子マ
ネーは、現在の銀行システムの上に作られているので、経済圏を
形成することはあり得ないのです。なぜなら、電子マネーの受け
取り者は、それを使って何かの支払いに使うことはできないから
です。使用は1回限りであり、転々流通することはないのです。
 しかし、リブラは暗号資産、つまり、仮想通貨です。既存の銀
行システムの外にあり、それはブロックチェーンによって独立し
て運営されます。したがって、通貨圏を形成できるのです。
 多くの場合、暗号資産は使いやすく、低コストで送金・決済で
きるなど、多くの人に使われる可能性があります。しかも、電子
マネーのように、スマホなどでも使えるので便利です。
            ──[デジタル社会論V/088]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックのリベラは「大きくて悪い」電子マネー
  なのか?
  ───────────────────────────
   私は、リブラに関する技術的、法的、政治的、そして高度
  な分析結果を数多く見てきた。その多くは、価値のある内容
  だったが、今のところ、実際にターゲットとされる利用者の
  ことは、ほとんど語られていない。つまり、リブラ白書が言
  うところの銀行口座を持たない人たちだ。しかしどうも、リ
  ブラが目新しく、興味をそそられ、重要に感じる人たちとは
  カテゴリーが少し違うようだ。しかし、誰もこのことを語ろ
  うとしない。これほど多岐にわたって、しかも深く追求でき
  る議論の宝庫であるにも関わらず、実際の利用者について触
  れられないというのは奇妙だ。
   白書では、「銀行口座を持たない人」は17億人と推定さ
  れている。しかしこの数字は・・・、怪しい。このデータは
  世界銀行のグローバル・フィンデックス・データベース/2
  017から引用している。「それなら信頼できる最新のデー
  タなのだろう」と思われるかも知れない。たしかにそうだ。
  しかし、この同じ白書に、2014年から2017年の間に
  「銀行口座を開設」した人の数は5億5100人とも書かれ
  ている。リブラが運用を開始するときまでに「17億人の銀
  行口座を持たない人」は半減する計算になる。それは銀行の
  お陰ではなく、電子マネーのプロバイダーのお陰である。
                 https://tcrn.ch/33mQIsm
  ───────────────────────────
米上院公聴会でのリブラの説明.jpg
米上院公聴会でのリブラの説明
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2021年12月16日

●「何が変更されたか/FBディエム」( 第5635号)

 フェイスブック(現メタ)のリブラの発表に一番ショックを受
けたのは実は中国です。どうしてでしょうか。まず、この点につ
いて考えてみます。
 リブラの最初の構想によると、主要通貨による通貨バスケット
制が採用されていたのです。バスケットに採用される通貨の割合
は次の通りです。
─────────────────────────────
            米ドル ・・ 50%
            ユーロ ・・ 18%
            日本円 ・・ 14%
           英ポンド ・・ 11%
       シンガポールドル ・・  7%
─────────────────────────────
 もし、リブラがこれらの通貨の価値を安定的に維持することに
成功すると、多くの国の国民がリブラを使うようになります。リ
ブラの利用には国境はなく、スマホさえ使えれば、どこの国の国
民も使えるからです。
 問題なのは、弱小国通貨がリブラへの大規模なキャピタルフラ
イト(資本逃避)を起こすことです。中国がショックを受けたの
は、その点です。これについて、野口悠紀元雄氏は、新著におい
て次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうした視点でリブラを見ると、中国人民元への影響も考えら
れる。中国では不動産の私有が認められないなど、資産の保有に
大きな制約が課されている。このため、富裕層は、資産を外国で
保有したいと考えている。人民元からの資本逃避は、中国政府が
つねに直面する重大問題なのである。実際、2013年には、人
民元からビットコインへの大規模な資金流出が起きた。
 リブラの出現に最も強い危機感を抱いたのは、実は中国だった
のではないだろうか?リブラが広く使われるようになれば、中国
からの資本流出が生じ、中国経済は深刻な危機に陥る可能性が高
いからだ。しかし、欧米の政府・中央銀行は、リブラを取り潰し
にかかっている。これを見て一番喜んだのは中国かもしれない。
                    ──野口悠紀雄著
    『CBDC/中央銀行デジタル通貨の衝撃』/新潮社
─────────────────────────────
 リブラを発表すれば、米国の金融当局が強い抵抗を示してくる
ことを予め予測していたフェイスブックで、リブラの開発推進を
仕切るデビット・マーカス氏は、2019年10月23日、ブル
ームバークとのインタビューで、次のように話しているのです。
これは、米議会に対する一種の脅しです。
─────────────────────────────
 5年以内の未来に、我々が良い解決策を見つけられなければ、
基本的に中国が「彼らがコントロールするブロックチェーン上で
稼働するデジタル人民元によって」世界の大部分を再配線する。
                ──デビット・マーカス氏
                 https://bit.ly/3EShab3
─────────────────────────────
 つまり、リブラを拒否すれば、中国のデジタル人民元が世界の
ほとんどを支配することになるというのです。実際問題として、
中国はリブラの普及を警戒し、2019年からデジタル人民元の
研究と実証実験を加速させ、来年の北京冬季五輪までに一定のメ
ドをつけるとされています。デビット・マーカス氏が予測した5
年後とは2024年です。
 しかし、フェイスブックは圧力に屈したのです。2020年4
月16日、フェイスブックはリブラの大幅方針変更を発表してい
ます。通貨主権を損なう恐れがあるという懸念に対して大幅に譲
歩したかたちになります。しかし、その詳細については、正確に
はわかっていません。
 野口悠紀雄氏の新著によると、わかっている大きな変更点は次
の3つです。
─────────────────────────────
 1.「リブラ」という通貨の名称を「ディエム」に変更する
 2.交換レートを固定させた複数のデジタル通貨を発行する
 3.ブロックチェーンを許可型ネットワークのみに限定する
─────────────────────────────
 第1は暗号資産の名称の変更です。
 「リブラ/Libra」 は、天秤座という意味ですが、「ディエム
/リブラDiem」は「日」を意味しています。リブラに比べると、
地味な名称です。それはフェイスブックが巨大企業であり、提供
供するマネーのネットワークの強大さが警戒されるからです。
 第2はデジタル通貨の複数化です。
 リブラでは、複数の法定通貨のバスケットに裏付けられた単一
の暗号資産を予定していましたが、ディエムではデジタル通貨の
複数化を狙っています。これについて野口悠紀雄氏は、次のよう
に説明しています。
─────────────────────────────
 当初計画では、複数の法定通貨のバスケットに裏付けられた単
一の仮想通貨を発行することとしていたのだが、その代わりに、
各国・地域の通貨と交換レートを固定させた複数のデジタル通貨
を発行する。例えば、米ドル、ユーロ、英ポンド、シンガポール
ドルなどに裏付けられたリブラを発行する。それぞれのステイブ
ルコインは、価値が保たれるよう、優艮な資産と短期国債の準備
費産によって裏付けられる。 ──野口悠紀雄著の前掲書より
─────────────────────────────
 第3はネットワークの許可型です。
 これはどのブロックチェーンを採用するかの問題です。これに
関しては、技術的内容を多く含むので、明日以降のEJにおいて
取り上げ、詳しく説明します。
            ──[デジタル社会論V/089]

≪画像および関連情報≫
 ●フェイスブックのリブラ、「ディエム」に名称変更 ──
  その背景と意図
  ───────────────────────────
   フェイスブックが主導して立ち上げたリブラ協会は202
  0年12月1日、同協会が開発を進めるデジタル通貨「リブ
  ラ」の名称を「Diem(ディエム)」に変更すると発表した。
  Diemは、ラテン語で「day(日)」を意味する。
   スイス・ジュネーブに拠点を置くリブラ協会は2019年
  米ソーシャルメディア大手フェイスグックが主導して、設立
  された。フィナンシャル・タイムズが先月報じた記事による
  と、リブラ協会はドル連動型のステーブルコインを2021
  年に発行することを目指している。
   これまでの経緯を振り返ると、2019年6月、1年以上
  におよぶ極秘の開発と研究を経て、フェイスブックはデジタ
  ル通貨構想「リブラ」を発表。当初、リブラは複数の法定通
  貨で構成されたバスケットに裏付けられたステーブルコイン
  を想定し、世界中でその利用を拡大させることを目指してい
  た。しかし、同構想は世界中の規制当局からの反発を招き、
  各国の議員らは、リブラ構想を十分に把握し、ある程度の規
  制・監督を行い、金融の安定性にリスクを及ぼさないことが
  確認できるまで、すべての開発を中止するよう求めた。その
  結果、同協会に参加を表明していた複数の金融サービス企業
  は、規制上のリスクを理由に、同協会設立前にプロジェクト
  から脱退した。        https://bit.ly/3EP0QYA
  ───────────────────────────
野口悠紀雄教授の新刊書.jpg
野口悠紀雄教授の新刊書
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2021年12月17日

●「『許可型ネットワーク』とは何か」(第5636号)

 昨日のEJでの「リブラ」から「ディエム」への3つの変更点
を再現します。1と2の説明は終わっており、3について説明す
ることにします。
─────────────────────────────
 1.「リブラ」という通貨の名称を「ディエム」に変更する
 2.交換レートを固定させた複数のデジタル通貨を発行する
→3.ブロックチェーンを許可型ネットワークのみに限定する
─────────────────────────────
 「3」の「許可型ネットワーク」とは何でしょうか。
 ブロックチェーンには、基本的には、次の3つのタイプがあり
それぞれ特色があります。
─────────────────────────────
        @  パブリックチェーン
        A プライベートチェーン
        Bコンソーシアムチェーン
─────────────────────────────
 @の「パブリックチェーン」とは何でしょうか。
 これは「誰でも参加できるネットワーク」です。管理者がいな
いので、ネットワークの参加には許可も資格も不要であり、参加
の数にも制限のないブロックチェーンです。
 Aの「プライベートチェーン」とは何でしょうか。
 これは管理者が存在していて、ネットワークの参加には管理者
の許可が必要になります。「選ばれた管理者」だけが参加してい
るので、ネットワークを維持するための決まり事を少なくでき、
迅速な合意に至ることができます。このブロックチェーンは、銀
行などの金融機関に応用できます。
 Bの「コンソーシアムチェーン」とは何でしょうか。
 「コンソーシアム」とは、企業や組織が共同体となって何かに
取り組むときに使われる言葉です。複数ではあるが、管理者がい
るという点で、プライベートチェーンの一種であるとみなすこと
ができます。
 リブラにおいては、2019年6月に公表されたホワイトペー
パーによると、軌道に乗せるための一定期間、リブラ協会のメン
バーがコントロールする許可型ネットワーク、すなわち、プライ
べートブロックチェーンとしてスタートするが、5年後には非許
可型ネットワーク、すなわちパブリックチェーンへ移行するとし
ていたのです。しかし、ディエムにおいてはその記述がなくなっ
ています。そうなると、ブロックチェーンの運営は、リブラ協会
(ディエム協会に改称か)が行うことになります。
 これによって、ディエム協会は、ディエム利用者の個人情報は
もとより、取引情報も得ることができるようになります。この問
題について、野口悠紀雄氏は、中央銀行や政府に情報を握られる
よりもマシであるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 では、秘密鍵を得るための本人確認は、どの程度厳格なものに
なるか?
 リブラのホワイトペーパーでは、現実の人物と結びつけない形
で秘密鍵を与えるとしていた。しかし、その後マネーロンダリン
グに対する批判が高まったので、確認が強まる可能性もある。た
だ、この詳細はまだ分からない。
 しかし、仮に強まったとしても、詳細な個人情報が、中央銀行
や政府によって取得され管理されることにはならない。もちろん
民間の主体だから問題ないというわけにはいかない。そして現在
プラットフォーム企業が持っている個人情報より詳細で正確なデ
ータが、プラットフォーム企業の手に渡ることも否定できない。
しかし、個人情報を守るという観点からすれば、中央銀行デジタ
ル通貨よりは、こちらの方が望ましい。中央銀行デジタル通貨の
場合には詳細な個人情報が国家の手に渡ることになり、それが国
民管理の手段に使われかねないからだ。この点が、デジタル人民
元などの中央銀行デジタル通貨との大きな違いだ。
                    ──野口悠紀雄著
    『CBDC/中央銀行デジタル通貨の衝撃』/新潮社
─────────────────────────────
 少し難しい話になりますが、管理者のいるプライベートチェー
ンについてもう少し詳しく述べることにします。なぜなら、これ
が、デジタル人民元をはじめとする中央銀行によるデジタル通貨
CBDCのベースになるものだからです。
 パブリックチェーンとプライベートチェーンの大きな違いは、
合意形成の処理速度です。ビットコインに代表されるパブリック
チェーンでは、PоW(プルーフ・オブ・ワーク)という合意形
成を行いますが、これは一つの処理が終了するまでに約10分を
要しています。しかし、プライベートチェーンでは「PBFT」
という合意形成を行います。
─────────────────────────────
     ◎PBFT
      Practical Byzantine Fault Tolelance
─────────────────────────────
 実は、PоWは合理的であるように見えて、次のような問題点
があるのです。
─────────────────────────────
 @高性能なコンピュータや、巨額な資金を持つマイナーがマ
  イニングを有利に行うしくみになっていること
 A計算能力が高く、悪意を持ったグループがネットワークの
  過半数を占めると、不正が行われる懸念がある
─────────────────────────────
 現在、PоWは、この指摘通りになっています。ビットコイン
のマイニングには誰でも参加できますが、高性能のコンピュータ
を保有するマイナーには、事実上勝つことは困難です。これにつ
いては、来週のEJで、に考えることにします。
            ──[デジタル社会論V/090]

≪画像および関連情報≫
 ●ブロックチェーンの市場規模の拡大/KPMG
  ───────────────────────────
   ブロックチェーンは2008年に理論が発表され、200
  9年に稼働したビットコインと同時に誕生した技術であり、
  現在はビットコインやフィンテックの範囲を超え利用が拡大
  しています。IDCジャパン株式会社が2018年9月に発
  表した「世界/国内ブロックチェーン関連市場予測」による
  と、世界のブロックチェーン関連支出額は2018年の15
  億ドルから、2022年には117億ドルへと順調に成長し
  日本国内の支出も、2018年の49億円から2022年に
  545億円へと急速に拡大するとされています。中でも支出
  額の大きいユースケースには、クロスボーダー決済、来歴管
  理、貿易金融/ポストトレード決済が挙げられています。
   最近では、ブロックチェーン関連のニュースも見ない日は
  ないくらいです。振り返ると、4年前の2014年には仮想
  通貨の範疇でまれに語られるのみであったブロックチェーン
  が2015年にフィンテックの盛り上がりと共に注目を集め
  各経済団体のコメントや企業の取り組みとして語れるように
  なりました。ブロックチェーンを取り扱うと発表した企業の
  株価暴騰が続発したのも、現在代表的なブロックチェーンプ
  ラットフォームであるイーサリアムのβ版が公開されたのも
  この時期です。        https://bit.ly/3DZjEDk
  ───────────────────────────
プライベートチェーンからパブリックチェーンへ.jpg
プライベートチェーンからパブリックチェーンへ
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2021年12月20日

●「PоSという合意形成メカニズム」(第5637号)

 2021年もあと2週間です。早いものです。コロナ、コロナ
で丸2年が過ぎようとしています。今年のEJは、「デジタル社
会論」と題して、3部に分けてここまで記述してきています。こ
のテーマは今年いっぱいで終わりますが、来年は北京五輪があり
いわゆるCBDC、中央銀行デジタル通貨が大きな話題になる可
能性があります。中国のデジタル人民元が何らかの具体的な動き
を見せると思われるからです。
 中国だけではないのです。スウェーデンのCBDCである「e
−クローナ」も実用化に近づきつつあります。日本を含む各国も
CBDCの研究や実証実験を積み重ねています。そういう意味に
おいて2022年は、CBDC元年になる可能性があります。
 そもそもブロックチェーンというものは、何らかの電子的な資
産である「デジタル・アセット」の所有権を登録しておき、その
所有権を安全かつ即時に移転させるのに適した仕組みを提供して
くれます。そのデジタル・アセットの応用例が、ビットコインな
どの仮想通貨です。
 「ブロックチェーンは金融業務に親和性がある」という日銀出
身で駒澤大学経済学部教授の中島真志氏は、金融業務とブロック
チェーンの関係について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 従来、金融機関では、誰がいくらの資金を口座に保有している
かといった残高記録や、株式や債券が誰から誰に売買されたのか
といった取引記録を電子データとして管理してきました。つまり
この「デジタル・アセットの所有権の登録と移転」というのは、
まさにこれまで金融機関が業務として行ってきたことにそのまま
当てはまるものなのです。
 こうしたことから、ブロックチェーンの技術は、金融業務とは
かなり親和性が高いものとみられており、この技術を使ったさま
ざまな試みが行われています。金融分野のなかでも、特に国際的
な送金や証券決済(株式などの資産の移動)については期待度が
高く、既に各国でいくつかの実証実験が行われています。国際送
金や証券決済は、銀行や証券会社など金融の中核的な機関が担っ
てきたいわば「金融の本丸」あるいは「金融の本流」としての業
務であり、この部分に実際にブロックチェーンの応用が行われれ
ば業務の革新やコストの抜本的な削減などの面で、そのインパク
トはかなり大きいものとみられます。     ──中島真志著
 『アフター・ビットコイン/仮想通貨とブロックチェーンの
                 次なる覇者』/新潮社刊
─────────────────────────────
 ブロックチェーンなどの「技術」と、「金融」を組み合わせる
造語に「フィンテック/FinTech」 という言葉があります。現在
このフィンテックが金融機関に急速に拡大しつつあります。その
適用分野は、次の10分野に及んでいます。
─────────────────────────────
 @キャッシュレス決済          E融資
 A仮想通貨               F保険
 B投資・資産運用・ロボ・アドバイザー  G送金
 Cクラウド・ファンディング       H金融情報
 Dソーシャル・レンディング       I個人財務管理
─────────────────────────────
 このように並べてみると、そのほとんどが既に行われているも
のばかりです。それは、フィンテックがいかに金融業務に大きな
影響を及ぼしているかがわかります。
 さて、ブロックチェーンには、ビットコインなどの管理者のい
ない「パブリックチェーン」の他に、管理者のいる「プライベー
トチェーン」(コンソーシアムチェーンを含む)があります。問
題は、このプライベートチェーンの合意形成アルゴリズム(コン
センサス・アルゴリズム)について知る必要があります。
 管理者のいないコンセンサスアルゴリズムは「PоW」ですが
この合意形成には、高性能なコンピュータを何台も揃えて計算す
る必要があり、膨大な電気代を要するという問題点があります。
 これに対して、プライベートチェーンの合意形成には、次の3
つがあります。
─────────────────────────────
   @ PоS(プルーフ・オブ・ステーク)
   A PоI(プルーフ・オブ・インポータンス)
   BPBFT(ビザンチン・フォールト・トレランス)
─────────────────────────────
 @のPоSについて説明します。
 PоSは「保有の照明」という意味があります。ネットワーク
上の資産(仮想通貨など)の保有量が大きく、保有期間が長い人
ほど、マイニングの難易度を下げて、マイニングに勝利しやすく
する仕組みです。もし、不正をすれば資産の価値が下がるので、
そういう人はそういう不正をしないだろうという考え方に基づい
ています。PоSについて、既出の中島真志教授は、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 PоSにおけるマイニングは「鋳造」(minting) と呼ばれ、
コイン保有量と保有期間の掛け算で表される「コイン年数」が大
きいほど、鋳造が容易に行える仕組みとなっています。ビットコ
インと同様にマイニングが必要ですが、完全な総当たり式ではな
く、そのユーザーのコイン年数に応じて計算すべき範囲が狭くな
り、結果として鋳造に成功しやすくなる仕組みとなっています。
 このためPоSは、PоWにみられたように高性能なコンピュ
ータを揃えて、膨大な電気代を費やすといったことをしなくても
よいというメリットがあります。しかし一方で、資産の保有量が
重要となるため、資産の流通が滞ってしまうというデメリットが
あります。      ──中島真志著/新潮社の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/091]

≪画像および関連情報≫
 ●プルーフ・オブ・ステークの概要
  ───────────────────────────
   プルーフ・オブ・ステーク(以下PоS)は、PоWの代
  替システムにあたるものであり、アルトコインの一つである
  ピアコインで初めて導入されました。PоSは文字通り訳す
  ならば「資産保有による証明」という意味であり、コインを
  持っている量(Stake) に応じて、ブロック承認の成功率を
  決めることを基本としています。イメージとしては、PоW
  は保有する計算パワーである仕事量が大きい人ほどブロック
  承認の成功率が高いことに対して、PоSは資産保有量が大
  きい人ほどブロック承認の成功率が高くなています。
   PоSはこのようなアルゴリズムであるため、PоWの問
  題点の一つとされている「51%問題」(悪意のある特定の
  個人やグループが採掘速度の51%以上を支配してしまうと
  不正に二重支払いが可能になってしまうという状態)に対し
  てより強力であるとされています。その理由のひとつ目とし
  て、より多くのコインを有していないとブロック承認の成功
  確率を上げることができないので、そもそもコインを入手し
  なくてはならず、攻撃にかかるコストが高いということが挙
  げられます。二つ目として、非常に多くのコインを保有しな
  ければならないので、攻撃されたことによりコインの価値が
  下がってしまうため、自分自身の持つコインの価値も下がっ
  てしまい、攻撃を行うインセンティブがあまりないという理
  由もあります。         https://bit.ly/3J46jNG
  ───────────────────────────
中島真志教授.jpg
中島真志教授
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2021年12月21日

●「PBFTという合意アルゴリズム」(第5638号)

 プライベートチェーンのコンセンサス・アルゴリズムの種類を
再現します。@の「PоS」の説明は終わっています。
─────────────────────────────
   @ PоS(プルーフ・オブ・ステーク)
 → A PоI(プルーフ・オブ・インポータンス)
 → BPBFT(ビザンチン・フォールト・トレランス)
─────────────────────────────
 AのPоIについて説明します。
 PоIは「重要性の証明」の意味を持っており、PоSの欠点
を補った仕組みといえます。PоSは、仮想通貨などの保有量や
保有期間に加えて、直近の使用頻度の高い人ほどマイニングの難
易度が下がる仕組みになっています。つまり、ネットワーク内の
貢献度の高い人にブロック作成の権限を与えています。
 PоSの欠点とは、マイニングを有利にするには、資産の保有
量と保有期間によって決まるので、なるべく資産を動かさないよ
うにする傾向があります。PоIのマイニングのことを「ハーベ
スティング」といいますが、ハーベスティングを行うさい、有利
な条件としては、アカウント内の残高と取引量の多さの2つであ
り、これに基づいて計算されます。
 PоW、PоS、PоIという3つの合意形成の仕組みは、い
ずれも悪意のある参加者がいることを前提として、厳格な方式で
不正を排除するという点、有利不利の差はあっても、ネットワー
クのすべての参加者(ノード)にブロックの生成権限があるとい
うことでは一致しています。
 しかし、これらの3つの仕組みでは、どうしても時間がかかる
ため、リアルタイム性に欠けるという点や、取引の完全性を完全
には確保できないという問題点があります。この取引の完全性の
ことを「ファイナリティの問題」と呼んでいます。このファイナ
リティについて日本銀行のサイトでは、おおよそ次の趣旨の説明
があります。
─────────────────────────────
 @ファイナリティのある決済とは、それによって期待通りの金
  額が確実に手に入るような決済のことである。
 A具体的には・・・・
  用いられる決済手段について、(1)受け取ったお金が後に
  なって紙くずになったり消えてしまったりしないこと。また
  決済方法について、(2)行われた決済が後から絶対に取り
  消されることがない。      https://bit.ly/3Fa9ykh
─────────────────────────────
 こんなことは、金融決済では当たり前のことですが、ビットコ
インの仕組みでは、このファイナリティが十分ではないといわれ
ているのです。
 これに関して最近注目が高まっているのが、Bの「PBFT」
です。
─────────────────────────────
     ◎PBFT
      Practical Byzantine Fault Tolelance
      実用的ビザンチン・フォールト・トレランス
─────────────────────────────
 既に述べているように、PоW、PоS、PоIはネットワー
クのすべての参加者(ノード)に、基本的にはブロックの生成権
限があります。しかし、PBFTでは、ノードの一部の信頼でき
る「コアノード」に権限が集中している点が違います。これにつ
いて、中島真志教授は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 PBFTでは、一部の信頼できるコアノードによる合議(しか
も一定割合の合意のみでよい)によって取引承認が行われるため
迅速かつ確実な価値(資産など)の移転が可能となつている点が
メリットです。つまり、コアノードによる迅速な取引承認により
一定時間内に多くの取引処理を進めること(高いスループット)
が可能となっています。また、コアノードによる合議によって次
のブロックが生成されるため、「ブロックチェーンの分岐」(フ
ォーク)という問題が発生せず、取引が承認された時点で、直ち
に「決済完了性」(ファイナリティ)が得られることも大きなメ
リットです。金融分野での利用を考えた場合には、@大量の取引
をリアルタイムに処理できることと、Aファイナリティを早期に
確保することは必要不可欠でかつ重要な要素となります。こうし
た特性から、PBFTは金融取引と相性がよいものとみられてお
り、金融分野の実証実験では、このPBFTが比較的多く用いら
れています。                ──中島真志著
  『アフター・ビットコイン/仮想通貨とブロックチェーンの
                  次なる覇者』/新潮社刊
─────────────────────────────
 中島真志教授の本から、PBFTの仕組みの図解を添付ファイ
ルにしています。PBFTは、ノードを「アプリノード」と「コ
アノード」に権限を分けています。コアノードは、取引を検証す
る権限を持つノードであり、アブリノードは、取引を行うことは
できますが、検証の権限は持っておらず、「非検証ノード」とい
われています。
 トランザクション(取引)から承認の流れを簡単に記すと次の
ようになります。アプリノードで、トランザクションを行い、リ
ーダーにそのトランザクションを送信します。リーダーは、トラ
ンザクションを受信して、それをコアノードに転送します。そし
て、コアノードでは、そのトランザクションを検証し、承認して
ブロックを生成するという順序になります。このコアノードによ
る合意は、一定割合の合意でもよいことになっています。
 このPBFTの方式であれば、金融分野でもブロックチェーン
を使うことが可能になり、CBDCは実現できます。これによる
と、ファイナリティを確保できるので、決済速度のスピード化が
実現します。       ──[デジタル社会論V/092]

≪画像および関連情報≫
 ●ブロックチェーン技術とファイナリティと可用性はトレード
  オフの関係に
  ───────────────────────────
   ブロックチェーン技術の大きな特徴である可用性と、金融
  系システムで求められる決済の確定性(ファイナリティ)の
  間にはトレードオフの関係があります。日本銀行が行った実
  験結果は、このことを確認する内容となっています。
   ブロックチェーン技術を情報システムに適用する場合に話
  題になることが多い言葉が「ファイナリティ」です。ファイ
  ナリティとは、元々は金融業界の用語で「決済の確定」を意
  味します。ブロックチェーン技術に対してこの言葉が用いら
  れるのは、決済処理の挙動が確率的であるブロックチェーン
  技術に対して、「ファイナリティがない」と表現する場合で
  す。ファイナリティが問題になる背景には、ビットコイン、
  イーサリアム、ネム/ミジンなどのブロックチェーン技術が
  実現している一貫性と、金融機関が情報システムに求めてい
  る一貫性の種類が異なるという事情があります。そこで、最
  近は金融機関が求める強い一貫性(ファイナリティ)を提供
  する製品も出ています。以下、その両者を比べていきます。
   ファイナリティについて議論するには、合意形成アルゴリ
  ズム(コンセンサスアルゴリズム)の違いを知る必要があり
  ます。ブロックチェーン技術は、複数のノード(コンピュー
  タ)を協調動作させる仕組みが必要ですが、その役割を果た
  すのが分散合意アルゴリズムです。https://bit.ly/3yTkQHD
  ───────────────────────────
中島教授作成のPBFTの図.jpg
中島教授作成のPBFTの図
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2021年12月22日

●「リナックス主導プライベートBC」(第5639号)

 話を整理します。ブロックチェーには中央管理者がいない「パ
ブリックチェーン」と、管理者のいる「プライベートチェーン」
の2つがあります。ビットコインは、パブリックチェーンに属し
ていますが、このチェーンでは、チェーンとしての決済に時間の
かかることから、銀行などの金融機関がブロックチェンを採用す
る場合のネックになります。
 そこで注目されるのがプライベートチェーンです。各金融機関
やIT企業では、ブロックチェーンにおける中心的な位置取りと
それによる顧客の獲得と囲い込みを目指して、激しい開発競争を
繰り広げています。その代表的な金融機関向けのブロックチェー
ンを2つご紹介することにします。
─────────────────────────────
      @ハイパーレッジャー・ファブリック
      AR3コンソーシアム開発「コルダ」
─────────────────────────────
 第1は「ハイパーレッジャー・ファブリック」です。
 これは、リナックス財団の開発によるブロックチェーンであり
金融業界向けのブロックチェーンとして、その標準化を目指して
いますが、これにはIBM社が深く関与しています。
 いくつか関連知識の説明が必要です。そもそも「リナックス/
Linax」 とは何でしょうか。
 リナックスは、オープンソースのOS(オペレーション・シス
テム)です。ウインドウズやマックOSと同じOSですが、無料
で使えるところに大きな特色があります。
 リナックスは、フィンランドのヘルシンキ出身の米国のプログ
ラマであるリーナス・トーパルズ氏によって開発され、1991
年に最初のバージョンが公開されています。最初はPC用のOS
として作られましたが、今ではスーパーコンピュータ、サーバー
組込みシステム(携帯電話やテレビなど)など、大小さまざまな
システムで使われています。
 それでは、「オープンソース」とは何でしょうか。
 オープンソースとは、ソフトウェアを構成しているプログラム
である「ソースコード」を無償でネット上に一般公開することを
いいます。そうすることによって、誰でもそのソフトウェアの改
良や再配布が行なえるようになります。世界中のプログラマの知
恵を借りることにより、より優れたソフトウェアが出来上がるこ
とになります。
 リナックス財団とは2000年に設立された非営利の技術コン
ソーシアムです。その組織として目的とされることは、次の点に
あります。
─────────────────────────────
 クローズドなプラットフォームと対抗するための、様々なサー
ビスを提供することで、リナックスの成長を促進する。
─────────────────────────────
 リナックス財団は、金融業界向けのブロックチェーンの標準化
を目指し、それに世界30以上の先進的なIT企業が協力してい
ます。つまり、世界中のITエンジニアの知恵を借りて、よりよ
いものを作り上げようとしているのです。
 「ハイパーレッジャー・ファブリック」のコンセンサスアルゴ
リズムは、PBFT系のものを使っており、金融機関以外の製造
保険、不動産契約、IоT、ライセンス管理、エネルギー取引へ
の応用を目指しています。このプロジェクトについて、駒沢大学
経済学部教授の中島真志氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 このプロジェクトでは、ソフトウエアを構成しているプログラ
ムである「ソースコード」を、無償で一般公開する「オープンソ
ース」の仕組みをとっているため、誰でもそのソフトウエアの改
良や利用を行うことができます。これにより、一般に開放された
使いやすい仕組みとなっているため、金融界の多くの実証実験で
は、このハイパーレッジャー・ファブリックが使われています。
 同プロジェクトには、取引所関連では、ドイツ取引所(フラン
クフルト証券取引所を運営)、DTCC(米国の証券決済機関)
CMEグループ(米国のデリバティブ市場を運営)などが参加し
ています。また、銀行からは、米国勢として、IPモルガンチェ
ース、BNYメロン、ステートストリートなどが、欧州勢として
は、ABNアムロ、BNPパリバ、BBVAなどが参加しており
今後の展開に中心的な役割を担っていく可能性が高いものとみら
れます。なお、わが国からは、富士通、日立、NEC、NTTデ
ータなどのベンダーが参加しており、これらの先を通じて、日本
の金融機関へも技術導入が進んでいくものとみられます。
                      ──中島真志著
  『アフター・ビットコイン/仮想通貨とブロックチェーンの
                  次なる覇者』/新潮社刊
─────────────────────────────
 ソラミツという日本の企業があります。ソラミツといえば、こ
の「ハイパーレッジャー・ファブリック」の仕組みを利用し、独
自のブロックチェーン「ハイパーレッジャー『いろは』」によっ
て、カンボジア政府に協力してカンボシアの仮想通貨「バコン」
を実現させています。「バコン」については、既にEJとして、
「デジタル社会論T」として取り上げています。
─────────────────────────────
 2021年3月8日付、EJ第5442号「カンボジア/バコ
ンに日本の技術」          https://bit.ly/3EduxRV
        〜2021年3月26日付、EJ第5457号
「『いろは』のどこが優れているか」
─────────────────────────────
 このように、日本のIT企業もがんばっているのです。とくに
金融機関が対応できるプライベートチェーンの開発については、
日本は世界をリードできる存在になりつつあります。
             ──[デジタル社会論V/093]

≪画像および関連情報≫
 ●ソラミツ、デジタル通貨の発行・運用を可能にするエンタ
  ープライズサービスUNKAI/雲海を発表
  ───────────────────────────
   ソラミツがオープンソースブロックチェーンの「ハイパー
  レジャーいろは」を利用し、ビジネスでの活用にも耐えうる
  環境を新たに構築。ハイパーレジャーいろはの基本機能に加
  え、複数の追加機能や、オプションサービスを提供するエン
  タープライズレベルのサービス・パッケージを発表。
   ソラミツ株式会社(代表取締役社長:宮沢和正、本社:東
  京都渋谷区、以下ソラミツ)はシステムインテグレーターや
  サービスプロバイダー向けにデジタル通貨発行プラットフォ
  ームとなるエンタープライズサービス”UNKAI/雲海”
  をリリースしました。
   UNKAI/雲海は、リナックス・ファウンデーションが
  主催するオープンソースブロックチェーンプロジェクト「ハ
  イパーレジャー・プロジェクト」にソラミツがオリジナル開
  発者として提供したブロックチェーンプラットフォームハイ
  パーレジャーいろはを基にして作られたUNKAIベースパ
  ッケージに追加機能を付加する、エンタープライズレベルの
  サービス・パッケージです。ソラミツとカンボジア国立銀行
  が共同開発した世界初の中銀デジタル通貨「バコン」の技術
  も決済モジュールとして組み込まれており、ユーザーは複数
  のモジュールを組み合わせることで、世界で最初に中央銀行
  デジタル通貨発行システムとして利用されたセキュアかつ高
  品質な仕組みを短期間で構築することができます。
                  https://bit.ly/3e9kyma
  ───────────────────────────
リーナス・トーバルス氏.jpg
リーナス・トーバルス氏
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2021年12月23日

●「金融機関向け分散台帳技術コルダ」(第5640号)

 昨日のEJで、金融分野の実証実験で使われている2つの代表
的ブロックチェーンを再現します。@についての説明は終わって
います。
─────────────────────────────
      @ハイパーレッジャー・ファブリック
    → AR3コンソーシアム開発「コルダ」
─────────────────────────────
 第2は「R3コンソーシアム開発『コルダ』」です。
 まず、「R3/アールスリー」とは何でしょうか。
 R3は、米国の技術系スタートアップ企業です。本社はニュー
ヨークにあり、他にロンドン、シンガポール、香港、日本(日本
はSBIとの合弁会社)などにオフィスがあります。2014年
の設立です。
 R3は、2015年9月に「R3コンソーシアム」を組織しま
したが、これには世界中の主要銀行80行以上が、参加していま
す。米国勢としては、バンク・オブ・アメリカ、シティバンク、
スタートストリートなど、欧州勢では、ドイツ銀行、バークレー
ズ、UBS、クレディスイスなど、日本勢としては、みずほ銀行
三菱UFJ銀行、三井住友銀行などが参加しています。
 それでは「コルダ」とは何でしょうか。
 「コルダ/Corda」 は、R3コンソーシアムが開発を進めてい
るブロックチェーンであり、金融業界向けに特化した「分散型台
帳技術」のことです。この技術は、「DLT」ともいわれます。
DLTとは次の英語の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
      ◎分散型台帳技術
       Distributed Ledger Techonology
─────────────────────────────
 ここでいう「ブロックチェーン」と「分散型台帳技術」はどう
違うのでしょうか。どちらも単純に「ブロックチェーン」と考え
てもらってもいいのですが、ブロックチェーン関連の書籍では、
2つを使い分けている著者もいます。ただ、クライアント・サー
バーモデルのような中央集権型ネットワークとは異なり、特権的
なノードを必要としないため、公平なネットワークを構築するこ
とが可能です。ただし、権限に応じてその役割が制限されます。
中島真志教授はコルダについて、次のように書いています。
─────────────────────────────
 コルダは、金融取引に特化して開発されているだけに、金融機
関にとって使い勝手がよい仕様となっています。たとえば、「デ
ータ共有モデル」をとっており、取引データについては、ネット
ワーク内へのブロードキャスト(一斉送信)は行わず、取引の当
事者(売り手と買い手)間など、「知る必要のある範囲内」での
み共有される仕組みとなつています。これにより金融機関にとっ
て重要な取引のプライバシーを守ることができます。
                     ──中島真志著
 『アフター・ビットコイン/仮想通貨とブロックチェーンの
                 次なる覇者』/新潮社刊
─────────────────────────────
 つまり、コルダでは中央管理者はいませんが、そうであるから
といって、取引の承認のためにPоWのような作業を行うことは
ないのです。合意形成の方法は、次の2つによって行われます。
いずれも、合意を形成して承認する行為は、参加するノード全員
ではなく、取引の当事者(ノード)に任されています。
─────────────────────────────
         @有効性コンセンサス
          validty consensus
         A一意性コンセンサス
         uniqueness consensus
─────────────────────────────
 @の「有効性コンセンサス」とは、過去からの取引履歴や保有
残高などの取引の有効性の関係者の必要な署名がなされているか
どうかを確認することをいいます。これに対してAの「一意性コ
ンセンサス」とは、同じ資産による二重払い(ダブル・スペンデ
ィング)が行われていないことを確認することです。
 コルダにはもうひとつ大きな特色があります。それは、オープ
ンソフトウェアとして開発されていることです。つまり、ソース
コードが公開されているのです。コルダは、そのソースコードを
もとに主として金融機関向けに開発され、「コルダ・エンタープ
ライズ」として提供されています。なお、エンタープライズとは
企業向けという意味です。
 R3の創業者であり、CEOでもあるデービッド・E・ラッタ
ー氏は、ウォールストリートとITで、35年のキャリアを持っ
ていますが、コルダ開発に当って次のように述べています。
─────────────────────────────
 金融機関に入ってその仕事ぶりを見たとき、ビジネスプロセス
をもっと改善できると感じました。そこで、もっとシームレスで
セキュアな金融サービスを作ることが自分の使命であると強く考
えるようになり、それが現在のR3の仕事につながっています。
R3は、縦割りのデータを排除して効率を高め、リスクを下げな
がら、収益性を向上して、ビジネス同士を橋でつなげています。
 現在、グローバルのペイメント(支払い)のマーケットでは、
1日あたり25億のトランザクションがあるという。今後もトラ
ンザクションが増えることを考えると、ブロックチェーンのプラ
ットフォームでスケールアップしていく必要があり、パフォーマ
ンスの向上や高い可用性も求められる。そのブロックチェーンの
プラットフォームとして高く評価されているのが、R3が開発を
主導するコルダである。   ──デービッド・E・ラッター氏
                 https://bit.ly/3qic8OV
─────────────────────────────
            ──[デジタル社会論V/094]

≪画像および関連情報≫
 ●分散型台帳技術「コルダ」の仕組みと特徴/旗手友和氏
  ───────────────────────────
  旗手友和氏:はい、よろしくお願いします。私、普段、こう
  いうライトニングトークみたいなものやらないので、簡単に
  自己紹介します。最近転職して、とある企業で、R3のコル
  ダというものをやり始めました。いわゆるプライベート型の
  チェーンなので、ここにはあまり馴染みのある人はいないか
  なと思いますが。
   私自身はどちらかというと、イーサリアムとか、ビットコ
  イン・コアというパブリック型のほうが好きです。例えば、
  先ほど発表いただいたイーサリアムのERC725なんかも
  以前公開講義でチラッと言ったことがあります。ぜんぜん簡
  単なところだけですが。
   あと、将来はトークン・エコシステムみたいな、DEXで
  いろんなものがすべてつながって、トークンでやりとりする
  とか、アトミック・スワップだとか、そういうのでいろんな
  チェーンがつながって、暗号通貨において1つの経済圏みた
  いなものができていくのを楽しみにしてますし、私自身それ
  を目指しています。とりあえず今は、企業に勤めてることも
  あるので、コルダの話を簡単にしていこうと思います。
   コルダは、簡単に言うと、一般的に金融機関向けとして使
  われるプラットフォームです。R3自体は、金融機関以外の
  もっと汎用的なところも目指してるんですが、やっぱり金融
  機関のエンジニアが多く集まったので、まずは金融のところ
  から押さえていこう、という経緯でできたものです。
                  https://bit.ly/3slMdst
  ───────────────────────────
デービット・ラッター氏/R3CEO.jpg
デービット・ラッター氏/R3CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(2) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月24日

●「デジタル人民元の狙いは何なのか」(第5641号)

 「デジタル社会論/V」では、ひたすらブロックチェーンにつ
いて書いてきています。それは、2022年から中国が本格展開
するとみられる「デジタル人民元」の脅威について明らかにした
いからです。
 中国は、2021年9月24日に「暗号資産の全面禁止」を打
ち出しています。9月26日付の「北京時事通信」は、これにつ
いて、次のように報道しています。
─────────────────────────────
【北京時事】中国が暗号資産(仮想通貨)の全面禁止を打ち出し
た。同国は法定通貨で主要国初となるデジタル通貨「デジタル人
民元」を来年にも正式に発行する見通し。競合相手となりかねな
いビットコインなど民間の暗号資産を事前に締め出し、導入に万
全を期す狙いがあるとみられる。
 中国人民銀行(中央銀行)は24日公表した通知で、暗号資産
が投機をあおったり、詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)な
どの犯罪の温床になったりしていると批判。「暗号資産は法定通
貨ではない」として、流通や使用を禁じる新たなルールを明らか
にした。関連サービスの提供も「違法な金融活動」と認めない方
針だ。               https://bit.ly/3H5ieJw
─────────────────────────────
 中国は、2022年からデジタル人民元を正式にスタートさせ
る気でいるので、その前に中国政府が把握できない暗号資産を締
め出す狙いがあるのではないかと思います。
 ところで、中国は、「デジタル人民元」の発行で一体何を狙っ
ているのでしょうか。
 それは、ズバリデジタルの世界での「基軸通貨」を狙っている
と思います。なぜなら、世界を支配するには、軍事と通貨の世界
での覇権(基軸通貨)を握ることです。現在は、米国が、この2
つを握っており、文字通り世界一になっているのです。中国は軍
事面ではまだ米国にかなわないので、基軸通貨の方で主導権を取
ろうとしているのです。
 この問題について、ジャーナリストで東海大学教授の末延吉正
氏とニッポン放送アナウンサーの飯田浩司氏が対談をしているの
で、ご紹介します。
─────────────────────────────
飯田:基軸通貨として、原油もすべてドルで決済している。そこ
 はやはりアメリカの強みの源泉ですか?
末延:それはそうですよ。ドルが基軸になって、どちらかと言う
 と、人民元は下駄を履かせた状態で来ている。しかもまだ中国
 の情報がオープンになっていないということは、世界経済全体
 のリスクでもあるわけです。情報公開をしない独裁体制の中国
 が、デジタル通貨の基軸を、自分たちのデジタル人民元で広げ
 て行く。例えばASEANの国が寄って行くという形なると、
 ものすごいパワーになります。
飯田:ASEANの国が。
末延:日本の関係者なども、わかっている人は「まずい」と思っ
 ていますよ。ただ、経済界のなかを見ても、「とりあえず中国
 は商売が早いから」とまだ言っている人がいるけれど、それは
 どうなのかなと。やはり情報が公開されないと本当のマーケッ
 トは成立しません。ある意味では国家資本主義でしょう。政治
 はあのまま独裁体制で、そういうところがイニシアティブを取
 るというのは、改めて言いますが、危険だと思います。
飯田:このニュースについてスタッフと打ち合わせをしていて、
 スタッフが素朴に言っていたのが、「いきなり政府の意向で、
 “銀行口座のお金は全部ゼロ”のようなことをされてしまうと
 いうこと?」と言っていましたが、「おお」と思いました。
末延:何でもありになってしまうのですよ。そこが、怖いわけで
 す。中国は、政府が全部コントロールできる社会です。一般の
 人々が経済を動かしているシステムや、民間が政府をウォッチ
 するということができませんから、恐ろしい話です。
                 https://bit.ly/3mu9btM
─────────────────────────────
 デジタル人民元の中国側の狙いの第1は「国境をまたぐ資金移
動への監視強化」です。そして第2は人民元の国際化ないしデジ
タル人民元通貨圏の形成です。
 しかし、中国は自己矛盾を抱えています。中国は、経済と資本
フローを政府が統制しています。しかし、これが、人民元が国際
決済通貨として普遍的に使われるようになる流れと相反するので
す。2019年に中国は、世界の輸出の13%を占めましたが、
中央銀行の外貨準備における比率はたった2%前後です。この現
状が不満で、ドルが国際通貨システムを支配する状況を批判し続
けています。そのため、遮二無二人民元の国際化を図ろうとして
デジタル人民元(CBDC)を米国よりも早期に開発し、それに
よるデジタル人民元の国際化をはかり、デジタルの世界での基軸
通貨を狙っていることは確かです。
 しかし、中国が本当にドルと互角に渡り合える武器が欲しいの
であれば、最も早く簡単な方法があります。それは、市場開放と
規制緩和を進め、人民元を外国人がデジタル方式であれ、他の形
態であれ、保有したがる通貨にしていくことです。
 しかし、中国は、中国共産党政権を維持するために、市場開放
と規制緩和を警戒しています。習近平国家主席の政府指導型の金
融システムへのこだわりが、人民元が国際決済通貨として受け入
れられる上で大きな障害になっているわけです。
 京都大学・公共政策大学院岩下直行教授は、「デジタル人民元
が米国の基軸通貨を脅かすとは思えない。ブレトン・ウッズ体制
が崩壊してからも米国の世界経済におけるプレゼンスが大きかっ
たから、ドルは基軸通貨として利用され続けている。実際にドル
は利用していて便利であり、これがそう簡単に崩れるとは思えな
い」といっています。なお、今年のEJは、12月28日までお
届けします。       ──[デジタル社会論V/095]

≪画像および関連情報≫
 ●中国脅威論に異議あり/関志雄・経済産業研究所フェロー
  ───────────────────────────
   ついこの間まで悲観論一色だった中国経済論がいつのまに
  か楽観論へ、さらには脅威論へと変わった。「人民元切り下
  げの大合唱」が「切り上げ待望論」に取って代わられ、「誰
  が中国を養うのか」に象徴される食糧不足論が一転、中国の
  農産品輸出が、日本の農民に脅威を与えるという過剰論に変
  わった。IT革命の影響に関しても、中国がデジタル・デバ
  イドに陥るどころか、蛙が飛ぶように、一挙に日本を抜いて
  先進国に躍進するのではないかという推測が盛んになってい
  る。このように、これまで過小評価されてきた中国が、急に
  過大評価されるようになった。
   中国脅威論を支えているのは中国がすでに巨大な生産力を
  持つ経済大国になっているという神話である。中国経済の実
  力を客観的に評価しようとすると、次の3点にとくに注意を
  払うべきである。まず、中国経済の実力は生産の伸び率では
  なく、その規模に反映される。確かに、この20年間中国は
  年率10%に近い高成長を続けてきた。しかし、GDPで見
  ると、中国の経済規模は日本の4分の1に止まっており、中
  国の人口が日本の10倍に当たることを考えると、一人当た
  りGDPは日本の2・5%程度に過ぎない。購買力平価(い
  わゆるPPP)で見ると、中国のGDPは4倍ほど大きくな
  るが、他の途上国のGDPも大幅に上方修正されることにな
  るためこれを考慮しても中国の一人当たりGDPランキング
  は140位から128位にわずかだけ上昇しただけに過ぎな
  い。             https://bit.ly/3pmwTd8
  ───────────────────────────
末延吉正氏.jpg
末延吉正氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(3) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月27日

●「デジタル人民元発行の3つの狙い」(第5642号)

 今年のEJの発行は、今日を含めてあと2回です。2回で大き
なテーマを扱っても必ず中途半端になるので、断片的な話になり
ますが、来年にも本格的な動きがあるとみられる「デジタル人民
元」の話をすることにします。なお、この記述には、元日銀局長
・山岡浩巳氏のレポートを参考にさせていただきます。
 中央銀行によるデジタル通貨の発行に関して、「CBDC」と
「DCEP」という言葉がよく使われます。どのように違うので
しょうか。
─────────────────────────────
     ◎CBDC
      Central Bank Digital Currency
     ◎DCEP
      Digital Currency Electronic Payment
─────────────────────────────
 「CBDC」は、一般的に「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれ
デジタル人民元は、「中国のCBDC」と呼称されています。な
お、デジタル人民元は「DCEP」とも呼ばれるのです。この点
を注意しないと、頭が混乱します。
 中国は、2020年4月から、深せん、蘇州、雄安新区、成都
において、デジタル人民元のテスト発行を実施しています。世界
第2の経済大国である中国が、テストであるとはいえ、CBDC
の発行を行ったのですから、それは大ニュースになります。
 中国は、なぜデジタル人民元を発行するのか。その狙いは一体
何でしょうか。「中国の狙いは、デジタルの世界で人民元を基軸
通貨にする」とよくいわれますが、これについては既に述べてい
るように、次に示す主要通貨の現状のプレゼンス(2019年)
を見る限り、ほとんど不可能なことであるといえます。
─────────────────────────────
      IMF/SDR   外為取引    外貨準備
  米ドル  41・73%  88・3%  61・63%
  ユーロ  30・93%  32・3%  20・36%
  人民元  10・92%   4・3%   1・97%
    円   8・33%  16・8%   5・41%
 英ポンド   8・09%  12・8%   4・43%
                 https://bit.ly/3FwhMUi
─────────────────────────────
 それでは、デジタル人民元の真の狙いは何なのでしょうか。次
の3つの理由があるといわれています。
─────────────────────────────
       @民間の決済インフラへの牽制
       A決済の情報を当局が把握する
       B国是の人民元国際化への貢献
─────────────────────────────
 @は「民間の決済インフラへの牽制」です。
 中国の決済インフラといえば、アリペイやウィーチャットペイ
があります。現在では、そのユーザー数はともに10億人を上回
り、世界最大のモバイルネットワークになっています。
 中国が真から脅威と思っているのは、米国でもヨーロッパでも
なく、自国民です。自国民が反政府の旗の下で立ち上がり、天安
門事件のような騒ぎになるのを恐れているのです。
 しかし、アリペイやウィーチャットペイは、すでに国家を超え
る規模になりつつあり、それらは民間のパワーであるため、その
取引内容などの情報は、国家権力をもってしても、詳細を把握す
ることは困難になりつつあります。そういう意味において、デジ
タル人民元の狙いはその牽制にあるという考え方が@です。
 Aは「決済の情報を当局が把握する」ことです。
 既に中国当局は、IT技術を駆使して、国民一人ひとりの思想
や行動を把握しています。そのなかにあって、これまで最も把握
しにくかったのは決済情報の把握です。もし現金が使われている
と、匿名なので情報の把握は困難です。そこで国の通貨である人
民元をデジタル化すれば、中国当局がそのすべてを把握できるよ
うになります。
 Bは「国是の人民元国際化への貢献」です。
 中国にとって「人民元の国際化」は国是です。中国の重要な政
策課題は、14億人にも上る国民の生活を中長期的に維持し、向
上させていくことにあります。中国は既に多くの一次産品(産出
される製品の中で、自然から採取されたままの状態であり、加工
されていない物のこと。食料や鉱物資源など)において、世界第
1位の輸入国になっています。中国としては、これらの決済にお
いて、ドルなどの外貨に依存し続けることは、経済リスクを高め
ることになると考えています。なぜなら、これらの外貨と人民元
の交換レートは、海外の経済や政策などの影響力を強く受けるこ
とになるからです。
 中国は「通貨のデジタル化」は必然と考えています。そのため
デジタル人民元で世界に先行することによって、人民元の国際化
を強め、決済通貨としてのプレゼンスを高めたいと中国は考えて
いるようです。
 中央銀行が暗号資産を発行するとき、民主主義国では、暗号資
産に対して、いかにして現金同様の匿名性を与えるか腐心するも
のです。しかし、中国の場合、デジタル人民元を発行することに
よって、必要に応じて情報やデータを収集できるようにしたいと
いう意図が窺われ、そのため、ブロックチェーンや分散型台帳技
術を使う必要はあまりなく、これまで同様の集中型の技術を使っ
た方が馴染みやすいと考えられる──元日銀局長の山岡浩巳氏は
こう述べています。
 いずれにしても、来年2月4日から開催される北京冬季オリン
ピックを機会に中国は、何らかのかたちで、デジタル人民元を発
表するものと考えられ、注目を集めています。今後もデジタル人
民元の動きには目が離せないと考えます。
             ──[デジタル社会論V/096]

≪画像および関連情報≫
 ●デジタル人民元は人民元国際化の切り札となるか
  ───────────────────────────
   中国は、デジタル人民元の発行を、人民元国際化の起爆剤
  とする狙いがあると考えられる。それは、従来の人民元国際
  化の試みが上手くいってこなかったという経験を踏まえたも
  のでもあるだろう。以下では、中国の人民元国際化の歴史を
  紐解いてみたい。
   中国が海外で人民元の利用を拡大させる人民元の国際化を
  強く意識し始めたきっかけは、2008年のリーマン・ショ
  ック(グローバル金融危機)とされる。その際には、米中関
  係は今ほどには悪化しておらず、中国が生き残りをかけて米
  国の金融覇権から脱するために、人民元の国際化を進めよう
  としていたのではない。それは、純粋に経済的な利益の観点
  からだった。
   海外との貿易や証券取引等が事実上の基軸通貨であるドル
  建てで実施されていると、国あるいは中央銀行は、ドル調達
  に支障が生じることで、経済活動が混乱しないように、不測
  の事態に備えて外貨準備でドルを手厚く保有しておく必要が
  生じる。ところが、ドルを大量に保有していると自国通貨、
  中国の場合には人民元に対してドルの価値が下落した場合に
  大きな評価損が発生してしまう。その際、貿易や証券取引等
  で人民元建てが広がれば、中国は外貨準備の中でのドルの構
  成を減らすことができ、評価損のリスクを下げることができ
  る。             https://bit.ly/3szmFYM
  ───────────────────────────
デジタル人民元実証実験.jpg
デジタル人民元実証実験
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(5) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月28日

●「『デジタル円』構築3つの問題点」(第5643号)

 駒澤大学経済学部教授の中島真志氏の本によると、日銀は19
90年頃から「中央銀行によるデジタル通貨の研究」を始めたそ
うです。日銀の金融研究所で、その秘密のプロジェクトは「電子
現金プロジェクト」と名付けられていたそうです。
 1990年といえば、PCは既に幅広く使われていましたが、
インターネットは使われておらず、一般家庭も含めての本格的普
及は1995年からです。ただ、ニフティサーブ(現ニフティ)
をはじめとする「パソコン通信/BBS」は、当時の先進的ビジ
ネスパーソンの間では広く普及していたのてです。
 1996年にソニーが開発した非接触ICカード技術の「フェ
リカ」が登場。2001年にはJR東日本の「Suica/ スイカ」
に採用され、これをきっかけに、交通系の電子マネーが普及しつ
つあった時期でもあります。
 そんなとき、日銀が「電子現金プロジェクト」をはじめたとい
うのです。中島真志氏は、当時若手の研究員としてこのプロジェ
クトメンバーとして参加していたのです。これについて、中島教
授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 金融研究所が、金融に用いられる新しい技術について研究を行
うのはごく当然のことですが、この研究は「eキャッシュや最新
の暗号技術を使えば、中央銀行が電子マネーを発行することが可
能なのではないか」という基本的な問題意識の下で進められまし
た。通貨の発行形態がその時々の技術に依存する以上、新しい技
術が出てくれば、それを利用した通貨(電子化された通貨)が出
てくるのが当然ではないかという考えが、研究を進める根底には
あったのです。基礎的な研究ではありましたが、当時「日本銀行
が電子現金の発行に向けた研究をしている」などと騒がれると大
変なことになりますので、関係者には厳しい緘口令が敷かれまし
た。それからすでに25年以上を経ており、もう時効になってい
ると思いますので、ここでオープンにすることとします。
                     ──中島真志著
 『アフター・ビットコイン/仮想通貨とブロックチェーンの
                 次なる覇者』/新潮社刊
─────────────────────────────
 このプロジェクトで、暗号学者との打ち合わせがあったのです
が、そのさい次の3つの問題点が浮かび上がったのです。
─────────────────────────────
  ◎第1の問題点
   現金の持つ「転々流通性」をどのように確保するか
  ◎第2の問題点
   現金の「匿名性」をどこまで確保する必要があるか
  ◎第3の問題点
   デジタル通貨は複製が可能で何回でもコピーできる
─────────────────────────────
 第1の問題点は「現金の持つ『転々流通性』をどのように確保
するか」です。
 銀行口座から現金を下ろし、その現金で買い物をして、店に現
金を支払ったとします。店は受け取った現金を含めて支払いに充
てます。その支払いを受けた業者はその現金で商品を仕入れるな
ど、現金を発行主体である銀行に戻さずに利用者から利用者へ、
転々と流通させていくことを「転々流通」といいます。現金が持
つ特性であり、普通の電子マネーではできないことです。
 例えば、「Suica/スイカ」 は、電車に乗る以外、使える店が
限られているうえ、ある店で支払われた「Suica/スイカ」 はそ
れを仕入れなどには使えず、発行元に戻されてしまいます。これ
を「クローズド・ループ型」といいます。
 第2の問題点は「現金の『匿名性』をどこまで確保する必要が
あるか」です。
 「匿名性」は現金の最大のメリットです。これをなくすと強い
抵抗が予想されます。しかし、安全性を考えると、偽造などの問
題が発生したとき、それがどこで発生したか知ることができるよ
うにしておく必要があります。しかし、これを実現するには、相
当高度で複雑な暗号技術が必要になります。中島真志教授は「匿
名性」について次のように述べています。
─────────────────────────────
 この匿名性については、今般のデジタル通貨についても問題と
なる可能性があります。すなわち、中央銀行がデジタル通貨のブ
ロックチェーンを管理すると、すべての取引記録を中央銀行が持
つことになるため、中央銀行があらゆる個人や企業の支払い履歴
のデータを見ることができる立場になります。こうしたことが許
されるのかという点が問題となる可能性があります。
         ────中島真志著/新潮社刊の前掲書より
─────────────────────────────
 第3の問題点は「デジタル通貨は複製が可能で何回でもコピー
できる」ことです。
 デジタルデータというのは、基本的にどのようにしてもコピー
できる特質があります。特殊技術でコピーされることを防いだと
しても、それを超える技術は必ず開発され、イタチごっこになり
ます。そのように考えるとき、「ブロックチェーン」というのは
まさに画期的な発明であるといえます。
 デジタルデータを扱いながら、取引をブロックごとに確定させ
前のブロックの要素を次のブロックに取り入れることによって、
偽造や二重使用を防ぐことを可能にしており、「複製される」問
題を解決しているからです。
 2021年1年間にわたって「デジタル社会論」について書い
てきました。しかし、それでも書くことはいくらでもあります。
新年のEJは、タイトルこそ変更しますが、技術のテーマが多く
なると思います。2021年のEJは今日で終わります。新年は
5日からスタートします。読者の皆様、どうか良いお年をお迎え
ください。    ──[デジタル社会論V/最終回/097]

≪画像および関連情報≫
 ●日本で動き出した「デジタル通貨」プロジェクト
  ───────────────────────────
   以前に中国政府が取り組んでいる中央銀行発行のデジタル
  通貨(CBDC)プロジェクト(DCEP)について紹介し
  たが、これはデジタル通貨の実験プロジェクトとして4都市
  (後に+1都市)をターゲットに、テンセントなどの民間の
  サービス事業者を経由してデジタル通貨での決済や送金など
  を可能にする仕組みだ。
   CBDCメリットの1つとしては、処理のデジタル化によ
  り従来の現金に比べて通貨の流通をスムーズにすることが挙
  げられる。「すでにキャッシュレス決済などでデジタル化が
  実現できているじゃないか」という声があるかもしれないが
  これらサービスや銀行間でやり取りされるお金とは一種の借
  入金のようなものであり、サービスを提供する事業者側の信
  頼性でもって残高が担保されているに過ぎない。
   一方で、現金は中央銀行が発行主体として価値を保証する
  もので、CBDCとは中央銀行が“お墨付き”を与えたデジ
  タルな通貨という点で一般的なキャッシュレス決済サービス
  とは異なっている。このCBDCだが、DCEPの話題を皮
  切りに2020年後半に入り大きく盛り上がりを見せつつあ
  る。1つは欧州で、キャッシュレス化の進展により国内取引
  金額の1%程度まで現金流通量が減少しているスウェーデン
  ではCBDCの「イー・クローネ」のプロジェクトが進んで
  いることが知られているほか、欧州全体でも2021年半ば
  をめどに具体的な実証実験に踏み込む動きがあるという。
                 https://bit.ly/3mxQK7x
  ───────────────────────────
日本銀行.jpg
日本銀行
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(7) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする