のは、2009年からです。これは私の推測ですが、ビットコイ
ンは、ナカモトサトシというある日本人が、その当時話題になっ
ていた新技術を巧みに組み合わせて作り上げた「先端技術の芸術
作品」ではないかと考えています。
当時話題になっていた新技術とは、公開鍵暗号方式による電子
署名、金子勇氏の開発したP2Pネットワークに基づく中央サー
バーのない「ウイニー」、そして元になる基本技術の特許が切れ
たブロックチェーン技術です。
なぜそう思うのかというと、開発された時期や、利用を可能に
する法律が施行されたり、基本技術の特許の切れた時期が、不思
議に2001年から2004年に集中しているからです。あくま
で私の推測に過ぎないものではありますが・・・。
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◎2001年4月
電子署名及び認証業務に関する法律が施行される
◎2002年5月
「ウィニー」のベーター版2ちゃんねるに初公開
◎2004年
ブロックチェーンの基になる理論の特許が切れる
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ついでに、そんなに重要ではありませんが、面白い話を追加す
ることにします。「ウイニー/Winny」 ──EJは、全角と半角
を混ぜたくないので、カタカナで書いていますが、金子勇氏はウ
イニーを当初、次の左のように書いていたのです。後に右の表記
に改めています。なぜ、そのようなことをしたのでしょうか。
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WinNY ── Winny
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「WinNY」の表記は、明らかにウイニーに先行した「WinMX」を
意識しています。「WinMX」 とは、中央サーバーのあるファイル
交換ソフトのことであり、ウイニーが登場する前、日本で大流行
していたのです。金子勇氏は、この新しいファイル交換ソフトウ
ェアの名称を「WinNY」 とすることで、「WinMX」 の後継である
ことを示し、「M」を「N」、「X」を「Y」と、アルファベッ
トを1つずつ進めることで、「WinNY」 は「WinMX」 を少し超え
るものであると意思表示したのです。
「WinMX」 と「WinNY」 の大きな違いは、同じP2Pネットワ
ークを使いながら、前者は中央サーバーを使い、後者はそれを必
要としないことです。「WinNY」 は、サーバーを使わない、いわ
ゆる「ピュアP2P」であり、当時のネットワークに関心のある
エンジニアは、こぞってそれを目指していたのです。金子勇氏は
その競争に勝利したといえます。これは技術的大勝利です。
しかし、金子勇氏は、「WinNY」 は「WinMX」 を一歩前進させ
たに過ぎないといっているのです。謙虚です。しかもそれを口に
出さず、名称を「WinNY」 とし、上記の「NY」の謎をかけてい
ます。しかし、この謎が解ける人が何人いるでしょうか。
しかし、2004年5月10日、金子勇氏は、著作権法違反幇
助の疑いにより京都府警察に逮捕され、5月31日に起訴されま
す。当時、「WinMX」 を利用した公衆送信権(送信可能化権)の
侵害が横行し、著作権法違反で逮捕者も続出していたなかで、匿
名性が強化されたウイニーへの移行者が後を絶たなかったので、
京都府警は、その開発者を逮捕したのです。裁判所での事件名は
「著作権法違反幇助被告事件」です。
金子勇氏は、ウイニーを使って何かをしていたわけではないの
です。作っただけです。しかし、そのウイニーを悪用して、音楽
CDや映画のコピーなどの著作権法違反を犯す者が増えたので、
そのネットワークを制作した者を逮捕したのです。
しかし、金子勇氏を救おうと、弁護士の壇俊光氏らによる「ウ
ィニー弁護団」が結成され、2ちゃんねるやサイトなどのネット
上で呼びかけをすることで、裁判費用を有志で募ったのです。今
どきの言葉でいえば、クラウドファンディングです。これによっ
て、わずか3週間で1600万円を集めることに成功します。
裁判は検察側、被告側がこぞって上告、最高裁まで争われまし
たが、2011年12月20日、最高裁第三小法廷(岡部喜代子
裁判長)は検察側の上告を棄却。無罪が確定したのです。結局裁
判で無罪を勝ち取るために7年間を要し、金子勇氏は裁判に疲れ
たのか、2013年7月6日、急性心筋梗塞で死去したのです。
それにしても日本は惜しい人を失ったものです。金子勇氏の優
れた理論構築と実装力を認め、ウイニー裁判でも、またそれ以降
も積極的にバックアップし、尽力してきた東京大学情報理工学系
研究科創造情報学専攻の平木敬教授は、ウイニー裁判について、
次のように語っています。
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これは基本的には“ソフトウェアの開発”というものをどう捉
えるかという話しである、と捉えていました。ですから、裁判に
関しても、その点を争点にする必要があるというので、私だけで
は力が足りませんので、例えば(慶應大学の)村井先生ですとか
様々な方のご協力を頂いて、実際の裁判でもそれを主張していき
ました。それから、研究科の中でも、我々が開発するものは、良
いものであればあるほど、世の中に対するインパクトがあるわけ
で、その世の中に対するインパクトをどうやって捉えていくのか
というのを考えていく必要があり、そういった動きは以後強まっ
ていきましたね。私が一番残念だったのは、これだけのソフトウ
ェアであれば、仕事として書いてくれれば、我々が守ることがで
きた。仕事じゃない所で匿名で書いたので、残念ながら東大が組
織として守ることはできなかった。それが非常に残念でした。
https://bit.ly/3jbhskF
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──[デジタル社会論V/049]
≪画像および関連情報≫
●2人のインターネット先駆者が遺したもの
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我々の生活を大きく変えたインターネット。一方で、負の
側面も強調されるようになった。そのひとつに、社会問題に
もなったソフトがある。ファイル共有ソフト、ウィニー。開
発者は当時31歳で、東京大学情報処理工学研究室の助手を
務めていた金子勇だ。
ウィニーは、純粋なP2P(ピーツーピー)を実現するソ
フトである。P2Pとは対等な関係を意味する「ピア・ツー
・ピア」で、中央サーバーを通さず個人と個人が情報を自由
にやりとりし、その情報さえも個人で管理するネットワーク
だ。現在のインターネットは、巨大IT企業などの中央サー
バーが大量の情報を管理。そのサーバーを通さないと、ユー
ザーは情報をやりとりできない。そのため最近では、ある人
気グループの音楽を聴くことができなくなるユーザーが続出
した。アップルやアマゾンが配信を停止したからだ。
ウィニーは、ユーザー同士を結んだネットワークで、情報
やコンテンツが維持されるため、こうした管理や統制は受け
ない。金子は、現在のインターネットの対抗軸となるネット
ワークを、今から20年近く前に世界で初めて実現させてい
たのだ。金子は2002年にウィニーの試作版を匿名掲示板
「2ちゃんねる」に公開する。当時、「2ちゃんねる」は罵
詈雑言が多く書き込まれ、批判の対象になっていた。しかし
金子はその匿名の影に才能が埋もれていると考え、ネットワ
ークを根本から変えうるウィニーの将来を大企業ではなく、
「2ちゃんねる」のユーザーに託したのである。
https://bit.ly/2YSN0Ev
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「ウイニー」P2Pネットワーク