迫ってみることにします。
野口悠紀雄教授は、エストニアのシステムについて、次のよう
に述べています。
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(エストニアでは)国民1人ひとりが、「国民ID」という番
号を持つ。電子認証(本人確認)とサインをデジタルで行うため
に必要なのはICチップを埋め込んだ「eIDカード}だ。専用
のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力すると、完全に無
料で電子署名を行うことができる。ブロックチェーン上に契約締
結日などのタイムスタンプを記録することによって、故意防止を
実現できる。また、電子署名を半永久的に記録することが可能と
なり、有効期限問題も解消している。
このため、インターネット接続環境とPC、カードリーダーさ
えあれば、あらゆる行政手続きを自宅やオフィスから行える。ほ
ぼ100%の国民に普及している。そして、日常で署名するほと
んどのケースにおいて電子署名が活用されている。
──野口悠紀雄著
『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
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しかし、野口教授がここで述べているのは、ほとんどの国民が
持っている「eIDカード}による電子署名のことだけであり、
全体のシステムがどうなっているのかは不明です。そこで、ネッ
トを探索して、次の論文を入手しました。
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松本茂樹/武田惇共著
スタートタウンを実現するデータ交換基盤”PlanetCross”
https://bit.ly/3omAQyt
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論文執筆者の松本茂樹/武田惇両氏は、日本ユニシス株式会社
の社員で、同社は、ビジネスソリューションを提供するITサー
ビス企業です。同社は、スマートタウンを実現するため、エスト
ニアのデータ交換基盤である「X-Road」に着眼し、その技術を民
間企業向けにカスタマイズして提供する製品を制作しているプラ
ネットウェイ・コーポレーションと協業し、スマートタウンを実
現しようとしています。それが「PlanetCross」です。
エストニアの電子政府は、次の3つのポリシーの実現を図るこ
とを前提に構築されています。
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@デジタルファースト
Aワンスオンリー
Bコネクテッド・ワンストップ
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第1の「デジタルファースト」は、手続き、サービスが一貫し
て、デジタルで完結することです。第2の「ワンスオンリー」は
一度提示した情報は、再度提出することがないようにするという
ことです。第3の「コネクテッド・ワンストップ」は、複数のサ
ービスが連携し、すべてワンストップサービスとして提供するこ
とです。このポリシーを実現したものが、エストニアの電子政府
システムです。
以上によって、結婚、離婚、不動産取引(これらは紙ベースで
の処理が残る)以外の行政サービスの99%が電子化され、24
時間、365日オンラインで利用できます。
「eIDカード}により、定期券、健康保険証、運転免許証、
電子カルテ、電子処方箋、オンラインバンキングが利用できるよ
うになっています。日本が目指している方向と同じです。
それでは「X-Road」とは何でしょうか。
添付ファイルに「X-Road」の概念図を添付しています。図中網
のかかっている部分が「X-Road」です。情報は、それぞれの企業
や機関の独自の情報システムで管理されていますが、接続された
システム間で、それが持つ情報を共有しあうことで、一度入力し
た氏名や住所などの情報の再入力の手間を省き、効率的なサービ
スが実現できるようになっているのです。
また、データアクセスの透明性も確保されており、住民は自分
の情報に関して、誰が、何を、いつ見たかをすべて確認できるよ
うになっています。つまり、「X-Road」とは、分散管理されたデ
ータに対して、インターネットを介して、セキュアにアクセスす
るための基盤なのです。
エストニアでは、2001年から「X-Road」を電子政府を支え
る基盤技術として使ってきていますが、この技術の輸出にも前向
きであり、すでにフィンランドやアゼルバイジャンなどでも、電
子政府サービスの基盤として導入しています。なお、論文には、
次の記述があります。
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「X-Road」の技術はエストニアで開発されてきたが、2018
年からは、フィンランド政府とエストニア政府が共同で設立した
Nordic Institue for Interoperability Solutions(以下、NI
IS)にコア機能の開発と、ソースコードの管理が引き継がれ、
ソフトウェアはMITライセンスのオープンソースソフトウェア
として、公開されている。 https://bit.ly/3omAQyt
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「X-Road」のコア機能は、オープンソースソフトウェアとして
公開されており、それをベースに各国の法制度に合わせたローカ
ライズやカスタマイズをすれば、すぐにも利用できるようになっ
ているのです。
そうであるなら、できたばかりの日本のデジタル庁でも、早速
研究に取りかかるべきです。しかし、NTTのエライ人と酒を飲
みながらでは理解できる話ではないと思います。「X-Road」の話
はまだ続きます。 ──[デジタル社会論V/038]
≪画像および関連情報≫
●いまEstonia X-Road がアツい
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「X-Road」とは、エストニア国内で使われているデジタル
データ連携基盤なんだけどこれが驚くほど優秀。「X-Road」
には各サービスの個人データがセキュアに連携され、そこに
は様々な機関がアクセスできる。誰がいつアクセスしてきた
かなど利用履歴が常に記録され確認できます。どの組織の誰
が閲覧したかなどIDレベルで、個人まで特定できるようで
す。例えば、個人間の連携なんかもできるようで、車の名義
変更なんかも数分でできるようだ。選挙もデジタルID認証
でその場で行える(3割はオンライン投票)。引っ越しした
場合などは、この「X-Road」のデータを書き換えれるだけで
住所変更申請は終わってしまう。もうフェイスブックのプロ
フィールを書き換える程度の手軽さ。。。確定申告はオンラ
インで3分。 https://bit.ly/3iqaesA
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「X-Road」の概念図