2021年10月01日

●「エストニア電子国民になれる資格」(第5583号)

 斎藤大樹さんという人がいます。現在、エストニアの首都タリ
ンに在住しており、2016年にタリン工科大学物理学科に入学
し、在学中にはエストニア小型人工衛星開発や修士研究に従事し
つつ、コンサルティング会社を設立しています。2018年夏に
タリン大学を卒業し、エストニアでビジネスをしたい人のサポー
トの仕事を行っています。
 この斎藤大樹氏がエストニアについて貴重なレポートをネット
にアップロードしています。野口悠紀雄教授の意見に加えて、こ
のレポートを通して、エストニアの電子政府について書くことに
します。このレポートについては、28日のEJの関連情報で一
部をご紹介しています。
 エストニアは、「イー・ガバメント」と呼ばれる国民データー
ベースにより、国民はICチップ付きカード(国民ID)によっ
て、全ての行政サービスを受けることができます。実際に国民の
96%がインターネット上で所得税申告を行うなど、行政インフ
ラのIT化が進んでいるのです。
 この国民IDカードは、パスポート、公的身分証明書、運転免
許証、健康保険証などとして機能し、本人確認に使われているの
です。完全に日本のデジタル庁がこれからやろうとしていること
を先取りしています。この国民IDの利用回数は、一日平均数回
以上といわれています。なぜかというと、銀行口座アクセスなど
民間サービスの本人確認に使われているからです。
 面白いのは、エストニアでは、「イー・レジデンシィ」という
制度によって、世界中の人々に「バーチャル国籍」を発行し、電
子国民になることができます。安倍前首相も、2018年1月に
この制度によって、エストニアの「バーチャル国籍」をプレゼン
トされています。これについて、エストニア公共放送が安倍首相
の顔写真付きで次の記事を報道しています。
─────────────────────────────
 ◎Japanese Prime Minister becomes Estonian e-resident
                 https://bit.ly/39R1vL6
─────────────────────────────
 ところで、エストニアの「バーチャル国籍」を取得することに
よって、何ができるのでしょうか。もちろん本来の国籍が変わる
わけではありませんが、大きなメリットとして、日本にいながら
簡単にエストニアで会社を設立することができます。
 この制度の専用ページによると、2021年5月18日現在、
約150の国から約3万3千人が「電子国民」を申請していて、
約5000の企業が立ち上げられています。電子国民の申請費用
は、100ユーロ(約1万3000円)です。
 エストニアというと、元大相撲力士の把瑠都(バルト)氏が記
憶に残っていますが、一時タレントとして活躍していたといわれ
ますが、2019年にはエストニアの国会議員になっています。
 このエストニアについて、斎藤大樹氏は、エストニアの印象に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 まるで国全体がスタートアップ組織のようだ。しかし、国が打
ち出す電子国家としてのイメージとは裏腹に、実際には多くの人
がいまだに現金を使っていたり、ネット投票を利用していなかっ
たりと、後進的な部分もまだまだ残っている。だからこそ、この
先エストニアという小国がどのような世界を見せてくれるのか期
待できるのである。             ──斎藤大樹氏
                  https://bit.ly/3zUsdNE
─────────────────────────────
 日本の場合は、マイナンバーを銀行口座と紐づけようとしてい
ます。これが実現できると、特別給付金などが迅速に行えると政
府は宣伝しますが、とくに日本の場合、特別給付金などを国が簡
単に支給するはずはないし、そもそもマイナンバーのような制度
を中央集権的な仕組みでやることに無理があるのです。
 実は、エストニアも、現在の仕組みになる前の2007年に、
システムが大規模なアタックを受けて情報漏洩事故が発生し、制
度の見直しを迫られたのです。その結果、取り入れたのが「エッ
クス・ロード(X-Road)」です。
 「エックス・ロード」とは何でしょうか。
 「エックス・ロード」について、斎藤大樹氏は次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 X-Road は、エストニアのバックボーンになっている。目には
見えるものではないが、エストニアの電子国家実現に極めて重要
な役割を果たしており、国のさまざまな公共および民間セクター
の電子サービス情報システムを調和して機能させることが可能で
ある。エストニアの「イー・ソリューション」環境には、一般向
けに幅広くサービスが含まれているが、各サービスにはもちろん
独自の情報システムが存在する。X-Road はそれらの分散された
データベースを安全に連携させるプラットフォームであり、転送
を確保したり、すべての送信データをデジタル署名などで暗号化
したりすることで記録できる。
 言い換えれば、複数の行政システムへの書き込み、大規模なデ
ータセットの送信、情報システムでの検索を同時に実行できるツ
ール、それが X-Road である。また、さらなる拡張を念頭に置い
て設計されているため、新しいイー・サービスやプラットフォー
ムができれば、それを統合して、規模を拡大することも可能であ
る。       ──斎藤大樹氏  https://bit.ly/3kLkWeJ
─────────────────────────────
 野口悠紀雄氏は、エストニアはブロックチェーンを活用した仕
組みを作っているといっていますが、斎藤氏のいう「エックス・
ロード」は、果たしてブロックチェーンなのでしょうか。これに
ついては、大事なポイントであるので、来週のEJではこの点を
検証していくつもりでおります。
             ──[デジタル社会論V/037]

≪画像および関連情報≫
 ●イー・デジデンシィ徹底解説
  ───────────────────────────
   2014年12月にローンチされたイー・レジデンシィ。
  2019年時点で世界の登録者は50000人を超え、日本
  からも約2500人のイー・レジデント(電子国民)が誕生
  しています。安倍首相もイー・レジデントの1人として登録
  を受けていることは有名です。
   一方で日本人の多くが、まだまだイー・レジデンシィのメ
  リットやデメリットを本当の意味で理解せず、とりあえず取
  得している方が多いかと思います。
   今回、現地エストニア在住者の視点から、2019年最新
  版のイー・デジデンシィ事情を大解説し、取得のメリット・
  デメリットや、どんな人がイー・レジデンシィを取得するべ
  きなのか、解説していきたいと思います。
   イー・レジデンシィは、エストニア政府の電子プラットフ
  ォームを自国民のみならず、外国人向けに開放したプログラ
  ムです。意外に思われるかもしれませんが、エストニア政府
  自身は、e-Residency のために何か新しい技術を開発した訳
  ではありません。
   自国に元々存在していた技術を、そのまま外国人に開放し
  ただけのことなのです。ただし、この大胆な政策を取れるの
  もエストニア共和国の強みだと思っています。では、イー・
  デジレンシィを取得し、イー・レジデントになると、どんな
  恩恵を受けることができるのでしょうか?解説していきたい
  と思います。          https://bit.ly/3EZ3XOf
  ───────────────────────────
エストニア/電子国民をプレゼントされた安倍前首相.jpg
エストニア/電子国民をプレゼントされた安倍前首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月04日

●「『X-Road』の正体とは何か」(第5584号)

 エストニアのブロックチェーンといわれる「X-Road」の正体に
迫ってみることにします。
 野口悠紀雄教授は、エストニアのシステムについて、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 (エストニアでは)国民1人ひとりが、「国民ID」という番
号を持つ。電子認証(本人確認)とサインをデジタルで行うため
に必要なのはICチップを埋め込んだ「eIDカード}だ。専用
のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力すると、完全に無
料で電子署名を行うことができる。ブロックチェーン上に契約締
結日などのタイムスタンプを記録することによって、故意防止を
実現できる。また、電子署名を半永久的に記録することが可能と
なり、有効期限問題も解消している。
 このため、インターネット接続環境とPC、カードリーダーさ
えあれば、あらゆる行政手続きを自宅やオフィスから行える。ほ
ぼ100%の国民に普及している。そして、日常で署名するほと
んどのケースにおいて電子署名が活用されている。
                     ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 しかし、野口教授がここで述べているのは、ほとんどの国民が
持っている「eIDカード}による電子署名のことだけであり、
全体のシステムがどうなっているのかは不明です。そこで、ネッ
トを探索して、次の論文を入手しました。
─────────────────────────────
                  松本茂樹/武田惇共著
  スタートタウンを実現するデータ交換基盤”PlanetCross”
                 https://bit.ly/3omAQyt
─────────────────────────────
 論文執筆者の松本茂樹/武田惇両氏は、日本ユニシス株式会社
の社員で、同社は、ビジネスソリューションを提供するITサー
ビス企業です。同社は、スマートタウンを実現するため、エスト
ニアのデータ交換基盤である「X-Road」に着眼し、その技術を民
間企業向けにカスタマイズして提供する製品を制作しているプラ
ネットウェイ・コーポレーションと協業し、スマートタウンを実
現しようとしています。それが「PlanetCross」です。
 エストニアの電子政府は、次の3つのポリシーの実現を図るこ
とを前提に構築されています。
─────────────────────────────
       @デジタルファースト
       Aワンスオンリー
       Bコネクテッド・ワンストップ
─────────────────────────────
 第1の「デジタルファースト」は、手続き、サービスが一貫し
て、デジタルで完結することです。第2の「ワンスオンリー」は
一度提示した情報は、再度提出することがないようにするという
ことです。第3の「コネクテッド・ワンストップ」は、複数のサ
ービスが連携し、すべてワンストップサービスとして提供するこ
とです。このポリシーを実現したものが、エストニアの電子政府
システムです。
 以上によって、結婚、離婚、不動産取引(これらは紙ベースで
の処理が残る)以外の行政サービスの99%が電子化され、24
時間、365日オンラインで利用できます。
 「eIDカード}により、定期券、健康保険証、運転免許証、
電子カルテ、電子処方箋、オンラインバンキングが利用できるよ
うになっています。日本が目指している方向と同じです。
 それでは「X-Road」とは何でしょうか。
 添付ファイルに「X-Road」の概念図を添付しています。図中網
のかかっている部分が「X-Road」です。情報は、それぞれの企業
や機関の独自の情報システムで管理されていますが、接続された
システム間で、それが持つ情報を共有しあうことで、一度入力し
た氏名や住所などの情報の再入力の手間を省き、効率的なサービ
スが実現できるようになっているのです。
 また、データアクセスの透明性も確保されており、住民は自分
の情報に関して、誰が、何を、いつ見たかをすべて確認できるよ
うになっています。つまり、「X-Road」とは、分散管理されたデ
ータに対して、インターネットを介して、セキュアにアクセスす
るための基盤なのです。
 エストニアでは、2001年から「X-Road」を電子政府を支え
る基盤技術として使ってきていますが、この技術の輸出にも前向
きであり、すでにフィンランドやアゼルバイジャンなどでも、電
子政府サービスの基盤として導入しています。なお、論文には、
次の記述があります。
─────────────────────────────
 「X-Road」の技術はエストニアで開発されてきたが、2018
年からは、フィンランド政府とエストニア政府が共同で設立した
Nordic Institue for Interoperability Solutions(以下、NI
IS)にコア機能の開発と、ソースコードの管理が引き継がれ、
ソフトウェアはMITライセンスのオープンソースソフトウェア
として、公開されている。      https://bit.ly/3omAQyt
─────────────────────────────
 「X-Road」のコア機能は、オープンソースソフトウェアとして
公開されており、それをベースに各国の法制度に合わせたローカ
ライズやカスタマイズをすれば、すぐにも利用できるようになっ
ているのです。
 そうであるなら、できたばかりの日本のデジタル庁でも、早速
研究に取りかかるべきです。しかし、NTTのエライ人と酒を飲
みながらでは理解できる話ではないと思います。「X-Road」の話
はまだ続きます。     ──[デジタル社会論V/038]

≪画像および関連情報≫
 ●いまEstonia X-Road がアツい
  ───────────────────────────
   「X-Road」とは、エストニア国内で使われているデジタル
  データ連携基盤なんだけどこれが驚くほど優秀。「X-Road」
  には各サービスの個人データがセキュアに連携され、そこに
  は様々な機関がアクセスできる。誰がいつアクセスしてきた
  かなど利用履歴が常に記録され確認できます。どの組織の誰
  が閲覧したかなどIDレベルで、個人まで特定できるようで
  す。例えば、個人間の連携なんかもできるようで、車の名義
  変更なんかも数分でできるようだ。選挙もデジタルID認証
  でその場で行える(3割はオンライン投票)。引っ越しした
  場合などは、この「X-Road」のデータを書き換えれるだけで
  住所変更申請は終わってしまう。もうフェイスブックのプロ
  フィールを書き換える程度の手軽さ。。。確定申告はオンラ
  インで3分。          https://bit.ly/3iqaesA
  ───────────────────────────
「X-Road」の概念図.jpg
「X-Road」の概念図
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月05日

●「XMSが使われる/X-Road」(第5585号)

 「X-Road」の正体を追って行くと、技術的にはかなり難解であ
り、データーベースの専門知識も必要なので、あまり深入りはし
ないことにします。しかし、理解が必要な部分は、デジタル庁に
よる日本のシステムの開発のこともあるので、重要なポイントに
ついては、多少難解でもわかるよう説明します。
 エストニアでは、システム開発に当たっては、次の2つのこと
が、ルールとして共有されています。
─────────────────────────────
          1.重複を避ける
          2.ノーレガシー
─────────────────────────────
 第1のルールは「重複を避ける」です。
 日本の場合、縦割り組織の弊害として、各省庁で似たような目
的のシステムをバラバラに構築し、結局、使われなくて、無駄に
なっています。エストニアの電子政府システムでは、重複開発を
避けることを目的として、データベースの複製を許さず、多数の
システムをどうしたら連携させることができるかに知恵を絞り、
「X-Road」を開発したのです。つまり、「重複を避ける」ことを
システムアーキテクチャに落とし込んでいるわけです。
 第2のルールは「ノーレガシー」です。
 エストニアでは、13年以上古いシステムは使わないことが、
ルールになっています。なぜかというと、新旧のシステムが混在
してしまうと、新しい情報システムの構築や改修の難易度を高め
てしまうからです。
 日本の場合、みずほ銀行のシステムトラブルの惨状がまさにレ
ガシーシステムこだわった結果といえます。システムの開発者が
企業を去っており、何度も改訂を施しているので、現状がどうい
うシステムになっているのか誰もわからなくなっているのです。
 昨日のEJの添付ファイルにつけた「X-Road」の概念図を見る
と、公共セクターや民間セクターなどのそれぞれの自律的なシス
テムの共通基盤として「X-Road」が機能するというかたちになっ
ています。この「X-Road」に関して、日経BP社で2006年ま
で科学記者を務めたITジャーナリストの星暁雄氏は、次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 エストニア電子政府では徹底して分散型のシステムによるリア
ルタイムな情報連携を重視しているのです。同国のウェブサイト
によれば、この「X-Road」は2000種以上のサービスが利用し
ており、900以上の組織が日常的に使っていて、2013年の
1年間で2億8700万クエリを処理したそうです。
 各種政府機関はそれぞれ「独立に最適な技術を利用」しつつ、
他のシステムと連携できます。「X-Road」のプロトコル仕様書に
よれば、内部的には「SOAP1.1」、「WSDL1.1」など、XMLウェ
ブサービスの技術を用いています。汎用性の高いXMLベースの
プロトコルを使い、政府機関が抱える多数のデータベースを連携
しているのです。
 「X-Road」は、2001年に導入されたということですが、S
OAP、WSDLは当時登場したばかりの技術でした。新技術の
取り入れについても、エストニア政府はチャレンジャーと言える
でしょう。     ──星暁雄氏  https://bit.ly/3Fbc36A
─────────────────────────────
 技術的な内容ですが、注目されることは「X-Road」にはXML
ベースのプロトコルが使われていることです。これは重要なこと
です。ところで、「XML」とは何でしょうか。
 XMLは、SGMLという言語から派生したマークアップ言語
のひとつです。マークアップ言語とは、文章を構造化するための
言語です。文章を構造化するとは、「ここはタイトル部分です」
「ここから本文が始まります」「ここは非常に重要な部分です」
など、人間であれば直感的に理解できる事柄を、タグや記号で表
示し、コンピューターに認識させることをいうのです。
 SGMLは、異種のコンピュータ間で文書の互換を行うための
もので、文書のもつ「章見出し」「節見出し」「本文」などの論
理構造を「タグ」と呼ばれるもので記述することができます。つ
まり、文書の構造を重視している言語です。
 HTMLという言語があります。これもマークアップ言語で、
HTMLもSGMLからの派生言語のひとつです。ウェブサイト
を構築する言語として知られていますが、現在では、ウェブサイ
トの構築には、XMLが使われることが多いのです。なぜかとい
うと、かつては、ウェブサイトを見るのは、PCに決まっていま
したが、現在ではPCだけではなく、スマホやタブレットなどの
デバイスでも見るからです。
 それでは、HTMLとXMLはどう違うのでしょうか。
 簡単にいうと、HTMLは指定されたタグを使うことになって
おり、タグによって表示されるデザインが決まっているので、H
TMLには一部デザイン情報を含んでいます。そのため、人間に
とっては見た目はきれいでもマシン側ではわかりにくいのです。
 しかし、XMLは、タグは自分で作ることができ、あくまでデ
ータを記述する言語なので、文書中のデータをわかりやすくした
り、データを交換したりできます。マシンに情報をわかりやすく
効率よく伝えるための言語といってよいといえます。アプリから
みてもXMLは使いやすいのです。だから「X-Road」にはXML
が使われているのです。
 XMLは、インターネットを経由して複数のアプリケーション
間でデータをやり取りするのに適した構造を持っています。この
ため、膨大なコンテンツの中から一定のルールに基づいて情報を
抽出したり、複数のウェブサービスを組み合わせたアプリを制作
したりするさいには非常に便利であり、多くのデータベース間の
連携をとる必要のある「X-Road」には、XMLは、便利なマーク
アップ言語であるといえます。
             ──[デジタル社会論V/039]

≪画像および関連情報≫
 ●【初心者入門】XMLとは何?HTMLとの違いは?
  徹底解説!
  ───────────────────────────
   XMLとHTMLは、同じマークアップ言語です。マーク
  アップ言語とはタグとデータ(値)という形式で作られ文章
  を構造化する言語のことを言い、XMLとHTMLで基本的
  な文章の作り方は変わりません。
   ただしHTMLはブラウザに向けて作られており、ブラウ
  ザが読み込むためのタグで構築する必要があります。一方X
  MLはタグをユーザーが独自に決定できるなど自由度が高く
  ブラウザで表示させるため以外の使い方もできる言語です。
   HTMLはブラウザに表示するための言語で、XMLは、
  データの構造がカスタマイズできるためさまざまなアプリケ
  ーションでも使われる言語という点が、大きく異なっていま
  す。先にも述べたように、XMLは自由にタグを設定できる
  言語です。自由にタグを設定でき、入れ子構造も可能なので
  カスタマイズ性の高いデータファイルを作成することができ
  ます。データを蓄えられるファイルとしてCSVもよく使わ
  れていますが、CSVはデータの関連付けをする機能がない
  ので何列目の情報はAであるといった情報を一緒にサーバサ
  イドなどに渡してあげる必要があります。文字コードの情報
  も同様で、どの文字コードで読み込むかといった情報がない
  場合は正しく読み取れない可能性もあるのがCSVファイル
  です。それに対してXMLであればデータはどのようなデー
  タかの関連付けもされていますし、冒頭のタグで文字コード
  を指定することも可能です。   https://bit.ly/3F5vVYy
  ───────────────────────────
データ記述言語/XML.jpg
データ記述言語/XML
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月06日

●「既に8回のみずほのシステム障害」(第5586号)

 2021年9月30日のことです。みずほ銀行が、またしても
システム障害を起こしたのです。今年に入って8度目です。10
月1日付の日本経済新聞は次のように報じています。
─────────────────────────────
◎みずほ銀、今年8度目障害/外為取引387件に遅れ
 改善命令から1週間で
 みずほ銀行で30日午後、システムの不具合により、387件
の外国為替取引に遅れが出た。主に法人顧客の送金が滞ったが、
大半は同日付で処理ができるめどがついたというが、一部は翌月
に持ち越す可能性がある。詳細な原因は特定できていない。みず
ほで顧客に影響の出るシステムの障害が明らかになるのは今年に
入って8件目。9月22日に金融庁がみずほのシステムを実質管
理する業務改善命令を出したばかりだった。
         ──2021年10月3日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 昨日のEJで、エストニアでは、システム開発に当たっては、
「ノーレガシー」というポリシーを掲げ、13年以上古いシステ
ムは使わないことにしている事実を指摘しています。
 そのとき、みずほグループのシステム障害の惨状についてふれ
ましたが、今日のEJではその問題について考えます。なぜなら
日本では、政府や大企業、とくに金融関係企業のシステム開発は
みずほだけでなく、いずれも似たようなところがあり、障害がい
つ起きても不思議ではないからです。
 今年に入ってからのみずほのシステム障害は、まさに惨状その
ものです。2月28日にATMが通帳を吸い込み、出てこない障
害が発生すると、3月には3回の障害が起きています。3日、7
日、12日です。
 そして、8月23日には全店の窓口取引を中止し、そして23
日にはATM130台が一時停止しています。9月に入っても、
8日に、機器の不具合でATM100台が一時停止し、30日に
外国為替取引に遅れが生じています。実に8回にわたるシステム
障害です。したがって、惨状のレベルを超えています。
 みずほフィナンシャルグループは、旧第一勧業銀行、旧富士銀
行に旧日本興業銀行が加わって、誕生したメガバンクです。19
99年のことです。大物同士の統合なので、発足前から母体3銀
行の主導権争いが激化していたのです。
 発足当時、3行はそれぞれ、次の大型コンピュータシステムを
保有していました。
─────────────────────────────
   第一勧業銀行 ・・   STEPS/  富士通
   日本興業銀行 ・・  C−base/   日立
    旧富士銀行 ・・     TOP/日本IBM
─────────────────────────────
 この3つの巨大なシステムをどのようにして統合化するかです
が、普通は顧客や預金などの情報をどれかひとつのシステムに全
て移行する「片寄せ」という方法を採用します。
 しかし、当初みずほグループは、旧3行が使っている異なるシ
ステムをそのままに生き残らせ、「ゲートウェイ・システム」と
称する方法をとったのです。つまり、キャッシュカードは旧行の
ものをそのまま使い、それをATMに入れると、中継プログラム
によって旧行のシステムにつながり、処理ができるというもので
す。つまり、3行のシステムはそのままです。
 続いて、旧第一勧銀の富士通のシステムと富士銀行のTOPを
並立させ、別のコンピュータでつなぐことが決まったのですが、
これはあえなく失敗し、システム障害を発生させてしまったので
す。これが発足後最初のシステム障害です。
 その原因は、旧第一勧銀のステムの一部に、1971年に第一
銀行と日本勧業銀行が合併したときに作られたとみられるプログ
ラムにあったのです。そのプログラムは「COBOL」で書かれ
ていたのです。COBOLは80年代にはさかんに使われていた
言語ですが、2000年には、それを使いこなすエンジニアは激
減していたのです。
 これを機に旧興業銀行は、旧第一勧銀の富士通のシステムと富
士銀行のTOPを並立させる方式に反対し、自社システムのベン
ダーである日立製作所にも声をかけて、新システム「MINOR
I」を開発することになったのです。
 「MINORI」は、日立、富士通、日本IBMにNTTデー
タまで加わった4社の体制で開発されています。全面稼働したの
は、2019年7月16日朝、「MINORI」は全面稼働した
のです。そのときの模様について、日経XTECHは、次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 みずほフィナンシャルグループ(FG)が20年越しで悲願を
達成した。2019年7月16日朝、新しい勘定系システム「M
INORI」が全面稼働した。1999年8月に第一勧業、富士
日本興業の旧3行が統合を発表しておよそ20年。2度の大規模
なシステム障害を経て、情報システム面でようやく「ONE M
IZUHO」を推進する体制が整った。
 みずほFGは2019年7月13日午前0時から同7月16日
午前8時にかけて、MINORIへの移行に向けた最後の作業に
臨んだ。移行期間中はATMやインターネットバンキングなどを
停止していた。7月16日午前11時時点で、オンラインサービ
スに目立ったトラブルは起こっていない。MINORIへの万全
を期すため、みずほFGは2018年6月から始めた口座データ
などの移行を、全9回に分けて進めていた。今回はその最終回で
対象はみずほ信託銀行の勘定系システム「BEST」で管理して
いたデータだった。みずほ信託銀行のデータ移行が無事完了し、
MINORIは全面稼働した。    https://bit.ly/3a1IyG0
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/040]

≪画像および関連情報≫
 ●これから「みずほ銀行」に起こる、ヤバすぎる現実・・・シ
  ステムの「爆弾」を誰も処理できない
  ───────────────────────────
   これら2度の致命的な障害に懲りて、みずほは前述した新
  システム「MINORI」の開発に着手したというわけだ。
  いや、金融庁の叱責と業務改善命令に押される形で、着手せ
  ざるを得なかったというほうが正しいだろう。2011年6
  月のことだ。
   MINORIは、約4000億円の費用をかけて8年後の
  19年7月に完成した。業界では、「史上初めて、銀行が自
  社の勘定系システムを全面再構築した」と話題になった。だ
  が、どうやら実態は異なる。一から作り直した「新築」では
  なく、既存の「塔」をさらに建て増しした「改築」だったと
  考えなければ、説明がつかない謎があるのだ。先に触れたC
  OBOLがいまだに使われているのである。
   「ITベンダーの間では、かねて『なぜみずほは、わざわ
  ざ高齢のエンジニアを雇ってまでCOBOLを使い続けるの
  か』が疑問視されていました。MINORI導入時にCOB
  OLを使った部分をなくして、別のプログラム言語で書き換
  えてもよかったはずなのに、それもしなかった。それはつま
  り、なくさなかったのではなく『なくせなかった』のではな
  いか。勧銀時代から抱える古い重要プログラムやデータが、
  いまだにMINORIの内部で生きているからではないか。
  そうとしか考えられないのです」(前出・佃氏)
                  https://bit.ly/3FnYVLs
  ───────────────────────────
「MINORI」全面稼働.jpg
「MINORI」全面稼働
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年10月07日

●「MINORIの障害コボルが原因」(第5587号)

 「MINORI」は、総費用約4000億円かけて、8年間の
年月を費やし、2019年7月に完成しています。金融業界では
「史上はじめて銀行が自社の勘定系システムを全面再構築した」
と話題になったものです。
 「MINORI」は、2020年11月までは何とか動いてい
たのです。しかし、2020年11月30日にシステム障害を起
こしています。そのときの様子を日経XTECXは、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 みずほ銀行は2020年11月30日、同日午前9時過ぎから
法人向けのオンラインバンキングサービスで障害が発生している
ことを明らかにした。原因は調査中で、復旧のめどは立っていな
い。みずほ銀行の「みずほe−ビジネスサイト」に一部の利用者
がログインできない状態が続いている。同行は、ログインできた
場合も、手続きに進めないといった声が出ていることについても
認めた。11月30日午前11時50分時点でツイッターなどの
SNS(交流サイト)では「月末なのに手続きできない」「どう
したらいいのか」といった困惑の声が多数書き込まれている。
                  https://bit.ly/3AbE3mT
─────────────────────────────
 このシステム障害を経て、MINORIは2021年2月28
日に大規模なシステム障害を起こすのです。このときは、ピーク
時にはATMの7割に相当する4318台が稼働を一時停止した
のです。これに伴い、ATMが通帳やキャッシュカードを取り込
むトラブルが合計5244件起きています。ATMやインターネ
ットバンキング「みずほダイレクト」の一部取引もできなくなっ
ています。以来、MINORIは、昨日のEJで述べたように、
10月1日まで計9回のシステム障害を連発しています。
 どうして、完成したばかりのMINORIが、ここまで頻繁に
システム障害を起こすのでしょうか。
 その原因は、旧態依然たるプログラミング言語「COBOL」
にあります。以前のシステムがCOBOLが原因で起きており、
新システムでは、当然別のプログラミング言語で書き換えるべき
であったのに、どうしてCOBOLをMINORIでも使い続け
たのでしょうか。おそらく、COBOLを残さざるを得なかった
事情があったのではないかと考えられます。これについて「週刊
現代」は、次のように書いています。
─────────────────────────────
 事実、全面改修を経たはずのMINORIのシステム構成は、
不自然なほど複雑怪奇だ。普通預金を司る機器は日本IBMが作
るが、その上で走るソフトは富士通が作る。他行との接続を司る
システムは、機器を日立と富士通が作ってソフトをNTTデータ
が作る。各業務のシステムをベンダーが分割して作り、さながら
怪物「キメラ」のようになっている。
 これが意味するのは、おそらく2011年に金融庁から業務改
善命令を受けた時点で、みずほのシステムは根本的な再構築がも
はやできない状態だった可能性だ。古い部分と新しい部分が幾重
にも折り重なり、さらに開発元も複数のベンダーにまたがってい
た。しかも、この時すでにみずほは延べ3000億円近くをシス
テム改修に投入していた。20年以上も、二人三脚を続けてきた
ベンダーを切り捨て、一から作り直すわけには、いかなかったの
だ。いまや、システムの全容を知る者は、みずほにも、ベンダー
にもいない。  ──「週刊現代」  https://bit.ly/2WGOyAR
─────────────────────────────
 この原因を作ったのは、秋草直之氏という人物です。秋草氏は
ソフトウェアエンジニア出身で、90年代に富士通の社長を務め
辣腕で鳴らした人物です。この秋草氏が勧銀に「STEPS」を
売り込んだのです。秋草氏は、勧銀に勘定系システムの開発とメ
ンテナンスを請け負うことによって、勧銀から安定的に巨額のカ
ネを引き出す仕組みを作っています。年々コストが膨らむ仕組み
であり、勧銀内部ではそれを懸念する声もあったのですが、この
ときの富士通は、経産省の後押しがあり、勧銀としては受け入れ
ざるを得ない状況にあったのです。
 みずほのシステムは、富士通の「STEPS」が中心となって
おり、統合当初は、勧銀がSTEPSに一本化しようとして、興
銀と富士銀の反対に遭い、MINORIを開発することになった
経緯は既に述べています。それにしても、2019年に新規に開
発したはずのMINORIが、システム障害を多発するのは異常
な状態であるといえます。これに対して、金融庁は、どのような
検査をしてきたのでしょうか。
 金融庁は、システム障害が起きるたびに検査強化を打ち出して
きています。6月15日に公表された、第三者によるシステム障
害特別委員会の報告書によると、「勘定系システムMINORI
の設計などに欠陥はなかった」としています。しかし、現実にシ
ステム障害は異常なほどの高頻度で起きています。
 これに関して、金融庁はどのように対応するのでしょうか。雑
誌『選択』はこの問題について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「金融庁がみずほに業務改善命令」。主要メディアが一斉に報
じたのは9月22日だ。そのなかでは、みずほのシステムを金融
庁の管理下に置くという、システムの公的管理にも触れていた。
 しかし、いま、生じている実情からすれば、「システムの公的
管理」に深い意味はない。「監督官庁がシステムを管理しても、
障害は阻止できない」(大手銀行システム部門担当者)からだ。
 むしろ、現状、深刻化しているのはみずほFGという企業の信
用力の失墜である。このまま、システム障害の原因究明ができな
い状態が続くと、みずほFGにはいかなる事態が待ち構えている
のか。          ──『選択』/2021年10月号
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/041]

≪画像および関連情報≫
 ●3メガバンクの「みずほ」だけシステム障害が頻発する理由
  ───────────────────────────
   日本の3大メガバンクの一つであるみずほフィナンシャル
  グループ(FG)傘下のみずほ銀行とみずほ信託銀行は20
  21年8月20日、システム障害により一時全国の店舗窓口
  で振り込みや入出金ができない状態に陥ったと発表した。み
  ずほ銀行では2021年2月末から短期間に4回のシステム
  障害が発生し、6月に「第3者委員会」が再発防止策を発表
  したばかりである。
   8月25日付け読売新聞は、次のように報じている。「今
  年に入ってみずほ銀行で相次ぐシステム障害について、金融
  庁は、いずれも2019年に稼働した新たな中枢システムに
  起因するとの見方を強めている」「障害が起きにくい最新鋭
  のシステムとされたが、逆に構造が複雑になり、トラブルの
  温床になる皮肉な結果となった。旧3銀行の『縄張り意識』
  も、いまだに影を落としている」
   さて、バブル崩壊後、国際競争力を得るためには規模の拡
  大が必要不可欠であることから都市銀行の再編が行われた。
  その結果、2001年には、旧三井銀行の流れをくむさくら
  銀行と住友銀行とが合併し、三井住友銀行が発足した。20
  02年には、第一勧業銀行、日本興業銀行、富士銀行が合併
  し、みずほ銀行が発足した。2006年には、東京三菱銀行
  とUFJ銀行とが合併し、三菱東京UFJ銀行(2018年
  に三菱UFJ銀行へ商号変更)が発足した。
                  https://bit.ly/3uE9ntf
  ───────────────────────────
みずほ/2月28日のシステム障害.jpg
みずほ/2月28日のシステム障害
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2021年10月08日

●「みずほグループは今後どうなるか」(第5588号)

 みずほ銀行は、MINORIの底なし沼から脱却することはで
きるのでしょうか。
 一番心配なのは、みずほFGという企業の信用力が低下するこ
とです。みずほFGのようなメガバンクの信用力が低下すると、
次のようなことが懸念されると、ある有力外資銀行の幹部は指摘
しています。
─────────────────────────────
 メガバンクの信用力が懸念される事態になると、国際金融市場
からみずほは外される恐れがある。    ──某外資銀行幹部
─────────────────────────────
 具体的には何が起きるのでしょうか。
 それは、ドル資金の調達難です。銀行の信用力が低下すると、
ドルの調達コストが跳ね上がって高くなり、事実上ドルの調達が
できなくなります。これを防ぐためには、信用を補完して支える
しかないのです。具体的には、みずほ銀行の国による公的管理で
す。日銀による信用補完という手もあります。公的なバックボー
ンがあれば、ドル資金の調達問題は緩和されるからです。しかし
そこまでいくと、経営陣は当然の代償として、経営責任を追及さ
れ、引責で総退陣を迫られるのは必至です。
 このようなさなかに、みずほFGの前社長で、現在、取締役会
長を務める佐藤康博氏(旧日本興銀出身)の言動に批判が集まっ
ています。危機感が欠如しているのです。『選択』10月号はこ
れについて、次のように書いています。
─────────────────────────────
 会長就任後、念願の経団連副会長になり、「見るからに有頂天
だった」(財界関係者)。後任の坂井辰史社長については悪口、
批判を言い放題だったが、みずほFGがシステム障害を繰り返し
深刻な経営問題を抱え込んでからは一変。
 「坂井はよくやっているという擁護論を唱え始めた」(全国紙
記者)同記者は「システム障害で坂井氏が引責辞任となれば、開
発時から社長を務めた自分も責任を問われるという計算を働かせ
て、態度を変えた」とみる。仮に会長辞任となれば経団連副会長
も辞職しなければならなくなるからだという。
 8月のシステム障害発生から間もない休日に、佐藤氏が経団連
御用達といわれる神奈川県のスリーハンドレッドクラブで経営者
仲間とゴルフに興じていたことも、財界関係者の間で不評だ。佐
藤氏は名誉職ではなくみずほFGのれっきとした取締役会長だ。
財界関係者も「こんな時にねえ」と緩んだ行動に鼻白んでいる。
   ──『選択』/2021年10月号/経済/情報カプセル
─────────────────────────────
 企業には「オペレーショナルリスク」というものがあり、それ
ぞれの企業は、それに備える対策を公表しています。みずほFG
は、オペレーショナルリスクについて、ウェブサイトで次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 当グループでは、オペレーショナルリスクを「内部プロセス・
人・システムが不適切であること、もしくは機能しないこと、ま
たは外生的事象が生起することから当グループに生じる損失に係
るリスク」と定義しています。
 当グループのオペレーショナルリスク管理は、当社が統括して
います。具体的には、オペレーショナルリスクについて、システ
ムリスク、事務リスク、法務リスク、人的リスク、有形資産リス
ク、規制・制度変更リスク、レピュテーショナルリスクの各リス
クを含む幅広いリスクと考え、これらのリスクに関する当グルー
プの基本的な方針を定め、主要グループ会社の管理を行い、合わ
せて、当グループ全体のオペレーショナルリスクの状況をモニタ
リングし管理する態勢となっています。
                  https://bit.ly/3FkpdOq
─────────────────────────────
 みずほFGの定義によると、オペレーショナル・リスクとは、
「システムが不適切であること、もしくは機能しないこと」と明
確にしており、現在、みずほFGで起きていることは、オペレー
ショナルリスクそのものということになります。
 もし、オペレーショナルリスクの可能性が高まると、銀行は自
己資本の算定方式が厳しくなり、自己資本比率が大幅に下がるこ
とになります。そうすると、引当金などの大幅な積み増しが必要
になり、銀行は深刻なリスクに見舞われることになります。
 エストニアのシステム構築のポリシー「ノーレガシー」の反対
を行く極端な例として、みずほグループのシステム障害について
書いてきましたが、みずほのトラブルは、現在でも、一向に収ま
る気配を見せていません。何しろ業務改善命令直後の9月30日
にシステム障害を起こしているからです。まさにMINORIの
泥沼地獄そのものです。このみずほグループのシステムの惨状に
ついて、野口悠紀雄教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 みずほの場合、レガシーシステムの一般的な問題に加え、縦割
り組織と経営者の無理解という2つの要因が問題を悪化させた。
 みずほの元のシステムである旧第一勧業銀行のシステムは19
88年に稼働を始めたものだ。当時は、ATMの24時間稼働も
インターネットバンキングも、携帯電話による振り込みサービス
も存在しなかった。その後、これらのサービスを追加していった
が、20年以上にわたって一度も見直さなかった設定があり、こ
れが問題を引き起こした。そして、システム担当者も、こうした
問題があることに気付いていなかった。さらに、障害が起きたと
きに適切に対応できなかった。つまり、巨大なシステムはブラッ
クボックス化していたわけだ。       ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/042]

≪画像および関連情報≫
 ●「緊急メール」に誰ひとり動かず みずほ銀障害、顧客軽視
  の風土浮き彫り
  ───────────────────────────
   「ATMのエラー発生が多発しています」。報告書による
  と、2月28日午前10時15分、業務委託先の管理センタ
  ーからみずほ銀行の6つ以上の部署へ430件のエラーを検
  知したとの緊急メールが送られたが、対応に動く担当者はい
  なかった。通帳やキャッシュカードがATMに取り込まれる
  トラブルは最終的に5244件発生したが、それを想定でき
  なかった。
   複数の部署の担当者は午前11時12分にはATM前で顧
  客が立ち往生していることをSNS上の情報で把握。休日対
  応で人員の限られた問い合わせ電話はパンクし、顧客は動く
  に動けない状況で7時間以上待たされたと申告した顧客もい
  た。みずほ銀がホームページに「後日銀行から連絡するので
  立ち去って構わない」旨のメッセージを掲示したのは発生か
  ら約6時間後の午後3時58分。問題を把握した後も掲載文
  を誰が書くか決まらず、書いた文案への各部署からの反応も
  ないなど作業は停滞した。
   みずほ銀はリスクを過小評価していた。同行の障害対応は
  5段階あり、不特定多数の顧客に重大な迷惑が及ぶ例は頭取
  に報告が上がる最重要ケース「S」だ。だが、午後1時前に
  ようやくシステム部門が社内に送った報告メールは、特定の
  顧客に軽微な迷惑をかけたとする「A2」。藤原弘治頭取が
  障害を知ったのは午後1時半、インターネットニュースを通
  じてだった。          https://bit.ly/3acU7tK
  ───────────────────────────
佐藤康博みずほ取締役会長.jpg
佐藤康博みずほ取締役会長
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2021年10月11日

●「デジタル庁/着手前にトップ交代」(第5589号)

 岸田政権が誕生して、あの接待漬けのデジタル相、平井卓也氏
は、デジタル相を外れることになり、新しく牧島かれん衆院議員
が平井氏の後を継いで、デジタル相に着任しています。しかも、
デジタルだけではなく、「デジタル/規制改革/行革」の3つを
担当するのです。
 ところで牧島かれん氏とはどのような人物なのでしょうか。
 牧島かれん氏は、3人大臣に採用されている「魔の三回生」の
一人で、河野太郎氏の父、河野洋平氏の「神奈川17区」を引き
継いで2012年に初当選しています。牧島氏の父の牧島功氏は
神奈川県議で、神奈川県連の重鎮です。
 したがって、牧島氏は、れっきとした河野派であり、今回の総
裁選では河野太郎総裁実現のために熱心に汗をかいています。そ
れでいて大臣になれた稀有の存在です。それはそれとして、牧島
氏のデジタルの経験はどうなのでしょうか。
 実は、牧島氏はデジタル政策に通じた若手議員として知られて
いたのです。平井前デジタル相が主宰する自民党デジタル社会推
進特別委員会の事務局長として、2020年6月11日にはDX
推進などを盛り込んだ政策提言も取りまとめています。なかなか
のデジタル通のようです。当然デジタル関連の業者は、将来デジ
タル業務に関わる人物をリサーチしています。
 実は、この牧島かれん大臣もNTTから接待を受けているので
す。『週刊文春』/10月14日号は、その事実をスッパ抜いて
います。もちろん大臣になる前であり、それが問題になるという
わけではありませんが。まして、平井氏と一緒にやっていたので
あれば、業者の目にとまらないはずはありません。
─────────────────────────────
 実はNTTの内部資料によれば、牧島氏も、19年6月13日
と昨年6月9日の2回、NTTの秘書室長からKNOXで接待を
受けている。牧島氏が苦手の食材も明記され、料金は1人5万円
「最も高いコース」(NTT関係者)だという。
 折しも、牧島氏は党デジタル社会推進特別委員会の事務局長と
して、2回目の接待直後に当たる昨年6月11日、DX推進など
を盛り込んだ政策提言を取りまとめている。デジタル関係に精通
した若手議員として、業界で知られていたのだ。
 牧島氏の回答。「会食を伴う意見交換を行ったのは事実です。
(飲食費を)支払った記憶はございません。政治家として様々な
方と意見交換を行うことは重要であり、問題ないといと考えてい
ます」         ──『週刊文春』/10月14号より
─────────────────────────────
 それにしても平井氏とNTTと仲は親密であるようです。しか
し、NECは嫌いであるようです。KNOX(ノックス)という
のは、NTTグループが経営する接待用の会員制レストラン(東
京・港区)のことです。
 ここで、NTT、NECの2社の名前を出しましたが、これら
は前にも述べたように、「エスアイヤー/SIer」と呼ばれる
業者です。SIerは、コンピュータの仕組みがメインフレーム
からオープンシステムに移行したことによって登場した業者のこ
とです。このSIerについて、野口悠紀雄教授は次のように述
べています。
─────────────────────────────
 メインフレームの場合には、1社のみのハードウエアおよびソ
フトウエアで構成されることが多かった。それに対してオープン
システムでは、マルチベンダーとなる場合が多い。「ITベンダ
ー」とは、企業が必要とする情報機器やソフトウエア、システム
サービスなどを販売する企業のことだ。
 このようなオープンシステムを組織化する役割を担ったのが、
SIer(システムインテグレイションを行う業者)である。さ
まざまなべンダーのソフトウエアやハードウエアを統合する。
 有力なSIerとして、富士通、日立製作所、NTTデータ、
NTTコミュニケーションズ、NEC、IBM、日鉄ソリューシ
ョンズなどがある。
 なお、ITベンダー、SIベンダー、SIerなどという名称
の違いについて、明確な定義はない。経済産業省の「DXレポー
ト」は、「ベンダー企業」という名称を用いている。
                     ──野口悠紀雄著
      『良いデジタル化/悪いデジタル化/生産性を上げ
       プライバシーを守る改革を』/日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 デジタル庁は、いくつもの巨大な国家プロジェクトが仕事とし
て出てくる可能性のある組織です。したがって、SIerとして
は、そのトップや幹部はもとより、将来そういう仕事に就くと思
われる若手についても、あの手この手で接近を図り、接待しよう
とします。ITに詳しく、自民党デジタル社会推進特別委員会の
事務局長を務める牧島議員などが早くからSIerの目にとまっ
ていたのは当然のことです。
 問題は、日本の場合、組織とSIerの関係が固定的になって
しまうことです。なぜそうなるかというと、組織のトップがIT
の知識が乏しく、契約になると、そのSIerに丸投げしてしま
うことが多いのです。みずほの「MINORI」には、SIer
として、日本IBM、富士通、日立、NTTデータなどが加わり
それでいて、どの社も、MINORIの真の全容を把握できてい
ないという驚くべきものです。本当のことを知る者は誰もいない
というブラックホールのような恐ろしさです。したがって、何が
起きても不思議はないのです。
 税金が使われる国会議員の場合、業者との食事会、宴会、懇談
会などは、飲食が伴う場合、ワリカンでもやめるべきです。SI
erと情報交換したいのであれば、あくまで会議で行うべきであ
ると考えます。どうしても飲食したいのであれば、それは役所の
費用で行うべきです。そうすれば、何も問題は起きないのです。
             ──[デジタル社会論V/043]

≪画像および関連情報≫
 ●SIerはなくなる?!
  ───────────────────────────
   ネットでは良くない話が多いSIerですが、これからI
  Tエンジニアを目指す方にとっては、有力な就職先の候補で
  す。「将来、SIerが無くなる」と言われれば、気になる
  のは当然でしょう。
   しかし、SIerは、多くの企業にとって大事なパートナ
  ーです。そう簡単には無くなりませんが、今のままのSIe
  rでは、将来性はないかも、、、
   そこで今回は、将来性のあるSIerとは、どのようなS
  Ierなのか、ITエンジニアを目指す方に、SIerの将
  来性について解説します。
   最近のネットでは、SIerに関する良くない話題が多く
  取り上げられています。そのような記事を目にして、SIe
  rの将来性に疑問を持たれ方が多いのでは、、?
   しかし、SIerは、企業の情報システムを支える重要な
  必要な存在です。また、SIerが持っている情報システム
  開発する知識やスキルは、簡単には代えられません。
   まずは、このようなSIerの概要について解説します。
  SIerとは、
   システムインテグレーターを意味する「SI」に「〜する
  人」という接尾辞「er」を付けた和製英語。SIerは、
  「エスアイヤー」と読みます。SIerとは、企業や官庁な
  どで使われている情報システムの企画、構築、運用を請け負
  うIT企業を指す言葉。日本では、情報システムを運用して
  いる会社はたくさんありますが、自社で企画や構築をできる
  会社は多くありません。ほとんどの会社が、専門のIT企業
  であるSIerに発注しています。
                  https://bit.ly/3v972XD
  ───────────────────────────
牧島かれんデジタル担当相.jpg
牧島かれんデジタル担当相
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2021年10月12日

●「X-Roadはブロックチェーンではない」(第5590号)

 話をエストニアの「X-Road」に戻したいと思います。エストニ
アの電子政府では「X-Road」が国民の生活に浸透しており、国民
に貢献しています。
 日本では、病院に行って診察を受けると、医師が処方箋を病院
のコンピュータを使って患者の目の前で作成し、プリントアウト
して紙で渡されます。患者はその紙の処方箋を調剤薬局に持って
行き、そこで薬を調剤してもらいます。当然調剤には時間がかか
るので、そこでかなり待たされることになります。したがって、
病院に行く日は完全に一日仕事です。
 われわれは、そういう診察から薬を調剤薬局でもらうまでの長
いプロセスに慣れてしまっているところがあります。そもそも処
方箋自体がコンピュータで作成されるのであれば、それを印刷す
ること自体が無駄なことです。
 病院の医師が、コンピュータで、ある特定個人の処方箋を作成
すると、その内容を公認のすべての調剤薬局に作成とほぼ同時に
届けることができます。患者は、どこでも都合の良い調剤薬局に
行けば、そこで薬を受け取れるのです。ただし、全国民がセキュ
リティの厳しい本人確認ができるカードを保有していることが条
件になります。
 しかし、エストニアでは、斎藤大将氏によると、この医療問題
については、次のようになっているのです。
─────────────────────────────
 「X-Road」開発の貢献はエストニアにとって大きい。病院、診
療所、薬局などのシステムやデータベースが連携することで、処
方箋情報が即座に薬局で確認できたり、異なる病院・診療所での
治療・検診において、患者のこれまでのデータを参照することが
可能となった。これは患者のデータが国民IDに紐づけられてい
ることも関係している。
 また、裁判所、警察、検察、刑務所、弁護士などのシステムと
データベースも連携され、裁判プロセスの効率化も実現され始め
ている。このことが、844年分の労働時間を節約すると言われ
る理由であろう。          https://bit.ly/3aDHF6R
─────────────────────────────
 ここで明らかにしなければならないのは、「X-Road」とブロッ
クチェーンとの関係です。「X-Road」は果たしてブロックチェー
ンなのかということです。
 ブロックチェーンを簡単にいうと、非中央化された分散データ
ベースで、合意プロトコルを通じて更新されます。ネットワーク
上の全てのノードは平等であり、データベースの完全なコピーを
所持しています。データベースに格納されたブロックは暗号学的
ハッシュ機能でリンクされます。
 これに対して「X-Road」は、オープンソースのデータ連携レイ
ヤーで、組織がインターネット上でデータ連携することを可能に
します。つまり、「X-Road」は中央管理された情報システム間の
分散統合レイヤーで、安全に標準化されたサービスの提供と消費
の方法を提供するのです。「X-Road」はデータ連携をする双方の
匿名性、整合性、互換性を保証します。
 こまかなことは難しくなるので比較は避けるとして、ブロック
チェーンと「X-Road」の共通している点は、データをリンクする
暗号化ハッシュ機能だけです。それ以外は、あまり共通点はない
といえます。自転車も自動車も車輪がありますね。しかし、自転
車が自動車の前にあったからといって、自動車は自転車を元にし
ているといわないように、「X-Road」はブロックチェーンを基盤
として使っているわけではないのです。つまり、ブロックチェー
ンと「X-Road」はそういう関係です。
 「X-Road」はブロックチェーンを基盤として使っていない──
エストニアに在住する斎藤大将氏もこれと同じ考え方です。斎藤
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンと「X-Road」の共通要素は、どちらもデータ
のリンクに暗号化ハッシュ関数を使用するところにある。逆に言
えば、これ以外での共通点はあまりない。元来のブロックチェー
ンと「X-Road」では、使用目的が異なる。
 暗号化ハッシュ機能はブロックチェーンが生まれる以前から存
在している。つまり、暗号化ハッシュタグを「X-Road」で使って
いるからといって、「X-Road」がブロックチェーンを基盤として
いることにはならない。
 「X-Road」はエストニア政府が開発した情報連携プラットフォ
ームだが、MITライセンスのもとにオープンソースとして公開
されている。「X-Road」とブロックチェーンを混同している人が
日本でも多く見られるが、「X-Road」の根底のシステムがブロッ
クチェーンというのは間違った認識と言える。
                  https://bit.ly/3al3xnj
─────────────────────────────
 エストニア政府では、システム開発に当たって、「システムの
『重複を避ける』」というポリシーがあります。このポリシーを
守るために、データベースの複製を許さず、多数のシステムを共
通のシステム間連携基盤「X-Road」で連携した分散型システムを
構築したのです。つまり、「X-Road」は「重複開発を避ける」と
いうルールをシステムアーキテクチャに落とし込んだ結果といえ
ます。このような取組は、政府横断的なITガバナンスが効いて
いなければ実現できない方法といえます。
 また、エストニア電子政府では徹底して分散型システムによる
リアルタイムな情報連携を重視し、各政府機関はそれぞれ「独立
に最適な技術を利用」しつつ、他のシステムと連携が可能になっ
ています。
 エストニア政府は、「X-Road」の売り出しにも熱心であり、そ
れを仲介するプラネットウェイ・コーポレーションという企業も
あります。日本政府は「X-Road」を参考にすべきです。
             ──[デジタル社会論V/044]

≪画像および関連情報≫
 ●日本初!X-Roadとブロックチェーンを商用実装した、 コー
  ルセンター向けワンストップサービスを開発・運用開始!
  ───────────────────────────
   ニチガスはIT先進国エストニアの技術である“X-Road”
  と、仮想通貨などでの応用例が多いブロックチェーンを活用
  したコールセンター向けワンストップサービスの自社開発に
  成功し、実運用を開始いたしました。本サービスは、X-Road
  とブロックチェーンを、商用に実装した日本初の取り組みで
  す。将来的には、本サービスおよびシステムの販売、そして
  本サービスを起点にあらゆるサービスのワンストップ化とス
  トレスフリーな世界の実現を目指します。
   本サービスは、システム内で複数に分散しているデータベ
  ースをプラネットウェイ社のX-Road 技術である「プラネッ
  トクロス」によって高度に安全を担保しながら統合し、当社
  提携のコールセンターにおいて、お客さま情報の検索と受付
  業務の一元的な運用を可能にしました。一般的に、分散する
  データベースの統合には膨大なコストと時間がかかりますが
  「プラネットクロス」を活用することで、コストと時間をか
  けずにデータ統合およびデータ交換基盤の構築を実現させ、
  かつ複数システム間で相互に安全なアクセス方法を確立する
  ことができます。また、ブロックチェーン技術によって、各
  データベースへのアクセス権の管理だけでなく、アクセスロ
  グを改ざん不可能な状態にすることで、部外者の情報アクセ
  スを遮断することができます。  https://bit.ly/3amIgcL
  ───────────────────────────
斎藤大将氏/エストニア在住.jpg
斎藤大将氏/エストニア在住
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2021年10月13日

●「ビットコインは誰が発明したのか」(第5591号)

 ハッシュ値、ブロックチェーン、X-Road──難しい話が続いて
います。一言でいうと、わかったような、わからないような話の
オンパレードです。しかし、今後のデジタル技術のことを考えて
ブロックチェーンについては、理解しておくべきです。
 EJでは、2014年9月1日から、53回にわたってビット
コインを取り上げました。その同じ年の2月、ビットコイン取引
所のひとつ、マウントゴックスが破綻したのです。多くの人は、
「ビットコインは終わった」と考えたと思います。
 しかし、これは大間違いであり、ビットコインは、今でも生き
残っています。2021年10月11日現在の1ビットコインの
価格は次の通りです。
─────────────────────────────
      1ビットコイン=623万6310万円
         ──2021年10月11日現在
─────────────────────────────
 マウントゴックスが破綻したとき、時の財務大臣麻生太郎氏が
いった次の言葉は有名です。
─────────────────────────────
 いつかは破綻すると思っていた。あんなものが長続きするか
 と考えていたが、意外と早かった。──麻生財務相(当時)
─────────────────────────────
 よく考えると、麻生氏は2012年から財務大臣を務め、その
後7年間もずぅーっと財務大臣の席を独占したのです。その間、
日本経済は、株価は上がったものの、経済は低迷し、現在も依然
としてデフレのままです。財務大臣の責任重大ですが、本人はま
るで責任を自覚していません。
 しかし、一概に麻生氏だけを批判できないのです。欧米の経済
の専門家でも、当初はビットコインについて、次のように見当外
れのとらえ方をしていたからです。
─────────────────────────────
◎「ビットコインは通貨ではなく、オランダで17世紀にバブル
 を引き起こしたチューリップのようなもの」  ──欧州中央
       銀行(ECB)ヴィトル・コンスタシオ元副総裁
◎「ビットコインは極めて投機的な資産である」
           ──ジャネット・イエレン元FRB議長
◎「ビットコインは詐欺的で、最終的には破滅する」
  ──JPモルガン・チェース/ジェイミー・ダイモンCEO
─────────────────────────────
 上記のJPモルガン・チェースのダイモンCEOだけは、ビッ
トコインの本当のことがわかったとき、「『ビットコインは詐欺
的』といったことは後悔している」と反省の弁を述べています。
 これほどの金融の大物でさえ間違えるビットコインには、比較
的古い技術といわれるブロックチェーンという技術が使われてお
り、この技術がわかりにくいのです。何しろ、ブロックチェーン
は、「特定の管理者が存在しないのに、非中央集権システムを構
築できる」という凄い特色を持っているのです。
 ブロックチェーンは、誰が開発したのでしょうか。
 ネットで調べてみると「ナカモトサトシ」なる名前が出てきま
す。しかし、「ナカモトサトシ」は、ビットコインの開発者であ
り、彼はブロックチェーン技術を使って、ビットコインを開発し
たのです。2008年のことです。なお、ナカモトサトシの正体
は今もってわかっていません。日本人であるか、ないかも含めて
正体は不明です。そして、ナカモトサトシは、ブロックチェーン
の開発者ではありません。なぜなら、彼は、そのとき既に存在し
ていたブロックチェーン技術を使ってビットコインを開発したか
らです。
 そうすると、ブロックチェーンの開発者は誰なのでしょうか。
 ネットで探してみたのですが、見つかりませんでした。ただ、
次の記事を発見したので、参考までにお知らせします。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンテクノロジーの元となったアイデアは、19
91年という早い時期に、Stuart HaberとW. Scott Stornetta
がデジタルドキュメントにタイムスタンプを付けることによって
日付が遡ったり、改竄されたりを防ぐという、計算上の実用的な
ソリューションとして紹介されました。
 このシステムでは、暗号化され、鎖のように繋がったブロック
を使用してタイムスタンプの付いた文書を保存し、1992年に
はマークルツリーが設計に組み込まれ、複数の文書を、1つのブ
ロックにまとめることが実現し、より効率的になりました。しか
しながら、このテクノロジーは使われず、ビットコインが誕生す
る4年前である2004年には特許も切れました。
                  https://bit.ly/3Dt5Lxf
─────────────────────────────
 ブロックチェーンの本質は、データベースです。データベース
とは、データを保存し、改ざんや消失がないように保管し、必要
なときに読み出したり、消去したりするシステムのことです。
 ブロックチェーンは、P2P(ピア・ツー・ピア)ネットワー
クを用いて管理する「分散台帳」を採用しています。これはきわ
めて特徴的です。ビットコインの取引は、過去から現在まですべ
てを記録して、公開されています。データをチェーンのようにつ
なげて、誰も公開・閲覧できる状態にしておき、お互いに監視さ
せるしくみを取っているのです。
 このブロックチェーンの特徴について、岡嶋裕史氏は、その特
徴を次の3つにまとめています。
─────────────────────────────
        @分散型データベースである
        A   非中央集権型である
        B書き込み専用・改ざん困難
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/045]

≪画像および関連情報≫
 ●ますます進化するブロックチェーン技術!今後の動向は?
  ───────────────────────────
   ブロックチェーンはビットコインを端緒に、仮想通貨の基
  盤技術としてまたたく間に、その名を社会に知られるように
  なりました。しかし企業経営者の方も含め、ブロックチェー
  ンはIT社会のごく一部で用いられている特異な技術と思わ
  れている節もまだあるようです。
   ブロックチェーンは今や、仮想通貨のみならず、医療、芸
  術、ビジネスシーンなどさまざまな分野で変革を成し遂げる
  ものとして、さらなる研究開発が進められています。本稿で
  は、ブロックチェーンの基本的な仕組みから、今後の技術革
  新の動向について解説します。
   ブロックチェーンはビットコインに代表される仮想通貨に
  よって一気に知名度が広まりましたが、その歴史は意外にも
  古く、1990年に暗号学の学会でその源流を垣間見ること
  ができます。ビットコインが台頭する以前から、ブロックチ
  ェーンの考え方はアカデミズムやビジネスなど広い分野で流
  通している技術であったといえるのです。
   2016年の経済産業省の調査によると、ブロックチェー
  ン関連技術の潜在的な市場規模は67兆円と試算されていま
  す。これは国内医療・福祉業界の約68兆円に並ぶほどの大
  きな市場規模です。このようにブロックチェーンは政府が採
  用するほど信頼性が厚く、さらなる研究開発が期待されてい
  る技術なのです。        https://bit.ly/2YvGgfD
  ───────────────────────────
JPモルガン・チェース/ダイモンCEO.jpg
JPモルガン・チェース/ダイモンCEO
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2021年10月14日

●「ビザンチン将軍問題とは一体何か」(第5592号)

 ブロックチェーンについては、非常に多くの本が出版されてい
ます。そのなかで、野口悠紀雄教授の本は、わかりやすさで群を
抜いていると思います。その一冊である『ブロックチェーン革命
/分散自律型社会の出現』(日本経済新聞出版社)は、次のよう
な興味ある文章で始まります。
─────────────────────────────
 人が新しい技術に出会ったときの反応は、それがどんなもので
あれ、つぎの3つの段階を経る。
 第1段階。こんなものはまやかしだ。こんな凄いことができる
のなら、世界はひっくり返ってしまう。だから、これはインチキ
でペテンだ。悪質な詐欺かもしれない。誰かが、ひと儲けを企ん
でいるのだろう。引っかかったら、後で大変な目にあう。クワバ
ラ、クワバラ。賢い人は、こんなものには手を出さない。
 第2段階。ひょつとすると、何か大変なことが起きているのか
もしれない。うまく対応しないと、後れをとる。気の早い連中は
すでに走り出しているから、私もじっとしてはいられない。しか
し、この得体の知れないものは、一体何なのだ?
 第3段階。このすばらしい技術は世界を変えた。私が最初から
考えていたとおりだ。 ──野口悠紀雄著/日本経済新聞出版社
      『ブロックチェーン革命/分散自律型社会の出現』
─────────────────────────────
 革新技術で野口教授のいう3段階を踏んだものはたくさんあり
ます。代表的なものは、飛行機、インターネット、ビットコイン
(ブロックチェーン)などでしょう。
 飛行機の初飛行を成功させたライト兄弟──ウィルバー・ライ
トとオーヴィル・ライトの兄弟が動力飛行機の初飛行に成功した
のは、1903年のことです。しかし、そのわずか2年前の19
01年、ウィルバーが、キティホークからデイトンに帰る列車の
なかで、弟のオーヴィルに次のようにいっているのです。
─────────────────────────────
 これから1000年たっても、人類が空を飛ぶことはできな
 いだろう。           ──ウィルバー・ライト
─────────────────────────────
 これは、まさに上記の第1段階です。空を飛ぶために様々なこ
とを試したライト兄弟ですら、その2年前には空を飛ぶことを絶
望していたのです。
 それどころか、飛行機については、ライト兄弟が初飛行に成功
した後でも、多くの人がこの大ニュースを信じなかったのです。
大学教授をはじめとして、多くの科学者が「機械が空を飛ぶこと
はあり得ない」という内容のコメントや論文を発表していたので
それがわかります。それほど画期的なことだったのです。
 インターネットについても同様です。「地球のどこにでも無料
でメールが送れるというが、そんなことが本当にできれば、世界
はひっくり返ってしまう」といって信じない人が多かったといわ
れます。
 ブロックチェーンやビットコインについても同様のことが起き
ています。ある科学者は、冷静に、次のようにいって、反論して
います。
─────────────────────────────
 互いに信頼できない人々が形成するコンピュータ・ネットワー
クが機能しえないことは「ビザンチン将軍問題」として知られて
いる。この問題を解決する方法は存在しない。したがって、ビッ
トコインの仕組みは成立し得ない。
   ────野口悠紀雄著/日本経済新聞出版社の前掲書より
─────────────────────────────
 「ビザンチン将軍問題」とは何でしょうか。ビットコインをテ
ーマにして書いたときにEJで取り上げていますが、ここでもう
一度取り上げることにします。
 レスリー・B・ランボート博士という、分散システムの先駆的
研究で知られる米国の計算機科学者(数学者)がいます。ランボ
ート博士は、2014年にチューリング賞を受賞しています。こ
のランボート博士が「ビザンチン将軍問題」について論文を書い
ているので、以下にご紹介することにします。
 ビザンチンの将軍3人が、それぞれ兵を率いて、敵軍を包囲し
ています。各部隊はそれぞれ離れた場所に陣取っていて、情報の
やり取りは、伝令を相互に送るしか連絡できないとします。戦況
は敵がなかなか強くて、3人の将軍が率いる軍隊が一緒に攻めれ
ば勝利できるものの、1つ部隊でも攻撃をやめて撤退すると、敵
軍に負けてしまうとします。つまり、攻撃か撤退かを3人の将軍
が一致して同意しないと勝てないわけです。
 しかし、将軍のなかには裏切り者がいて、敵に寝返っているか
もしれないのです。裏切り者の将軍は、他の将軍が「攻撃」の提
案を受けると、それを「撤退」の提案にすり替えて別な将軍に伝
達するかもしれないのです。そうなると、一部の将軍は、攻撃命
令と撤退命令を両方を受け取ることも考えられます。そうすると
全員攻撃だと思っていたら、攻撃すると、攻撃には一部の部隊し
か参加せず、敵に負けてしまうかもしれないのです。
 添付ファイルの図は、裏切り者1名を含む3人のビザンチン将
軍のケースをあらわしています。「A」に関しては、将軍2が裏
切り者である場合で、この場合、将軍1は将軍2と将軍3に「攻
撃」を提案しますが、裏切り者の将軍2は、将軍3に「撤退」を
伝えます。メッセージを改ざんしたのです。将軍3は「攻撃」と
「撤退」の伝令を受け、混乱します。
 「B」に関しては、将軍1が裏切り者のケースです。将軍1は
将軍2には「攻撃」、将軍3には「撤退」を提案します。将軍2
と将軍3も伝令を交換しますが、提案が一致せず、将軍2と将軍
3は混乱してしまいます。これでは戦争は負けということになり
ます。それでは、どういう条件が整ったとき、一斉攻撃ができる
のでしょうか。引き続き、明日のEJで考えます。
             ──[デジタル社会論V/046]

≪画像および関連情報≫
 ●ビザンチン将軍問題
  ───────────────────────────
   ビザンチン将軍問題は、東ローマ帝国(ビザンティン帝国
  ビザンチン帝国)の将軍たちがそれぞれ軍団を率いて、ひと
  つの都市を包囲している状況で発生する。将軍たちは、都市
  攻撃計画について合意したいと考えている。最も単純な形で
  は、将軍たちは攻撃するか撤退するかだけを合意決定する。
  一部の将軍たちは攻撃したいと言うだろうし、他は撤退を望
  むかもしれない。重要な点は、将軍たちはひとつの結論で合
  意しなければならないということである。つまり、一部の将
  軍だけで攻撃を仕掛けても敗北することは明らかで、全員一
  致で攻撃か撤退かを決めなければならないのである。また、
  将軍たちは、それぞれ離れた場所に各軍団を配置しており、
  メッセンジャーを相互に送ることで合意を目指す。
   問題を複雑にさせているのは、一部の将軍たちが反逆者で
  あって、時折最適でない戦略に票を投じたりして混乱させる
  ことである。例えば、9人の将軍が投票するとして、その内
  の4人が攻撃に投票し、別の4人は撤退に投票した場合、9
  9人目の(反逆者でもある)将軍は、撤退に投票した将軍た
  ちには撤退票を送り、攻撃に投票した将軍たちには攻撃票を
  送ることができる。         ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2YI4aFj
  ●図の出展/https://bit.ly/3avF8eI
  ───────────────────────────
3人の将軍のケース.jpg
3人の将軍のケース
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2021年10月15日

●「ビザンチン将軍問題の解決の原則」(第5593号)

 ビザンチン将軍問題の続きです。将軍が4人のケースについて
考えてみます。添付ファイルをご覧ください。
 将軍1が3人の将軍に「攻撃」を提案します。この3人の将軍
のうち、将軍2が裏切り者です。将軍2は、将軍1の提案である
「攻撃」の反対の「撤退」を将軍3と将軍4に伝えるとします。
この場合、将軍2、将軍3、将軍4には、どういう情報が伝えら
れかについて以下に示します。
─────────────────────────────
        将軍1  将軍2  将軍3  将軍4
    将軍2  攻撃   −−   撤退   撤退
    将軍3  攻撃   撤退   −−   攻撃
    将軍4  攻撃   撤退   攻撃   −−
                註:将軍2が裏切り者
─────────────────────────────
 少しわかりにくい表ですが、裏切り者の将軍2は別として、伝
えられた情報を将軍3と将軍4について見ると、将軍3、将軍4
ともに、「攻撃」が2、「撤退」が1の情報が入っています。い
ずれも「攻撃」の方が多いのです。したがって、この場合は「撤
退」を伝えた将軍2が怪しいとして、「攻撃」を選択することに
なると思います。ランボード博士らの研究によると、次の原則が
成立するのです。
─────────────────────────────
 裏切り者の将軍がN人のとき、誠実な将軍が「2N+1人」
 以上の場合、誠実な将軍同士の判断が一致できる。
─────────────────────────────
 このケースの場合、裏切り者のNは1人であり、誠実な将軍は
3人(2+1)ですから、誠実な将軍同士の判断が一致できるの
です。
 なぜ、このビザンチン将軍問題が重要なのかについて、佐藤一
郎こ国立情報学研究所アーキテクチャー科学研究系教授は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 ランポート博士は、このビザンチン将軍問題を耐故障性のある
分散システムにおける同意問題として考えた。ここで言う分散シ
ステムは、複数のコンピュータが協調することで1台のコンピュ
ータではできないような処理を実現するものとする。いま話題の
クラウドコンピューティングも、分散システムの一形態にすぎな
い。また、同意とは複数のコンピュータで同じ値を持つことであ
る。同意したい値を通信で他のコンピュータへ送ればいいと思う
かもしれないが、コンピュータは壊れることがあるし、複数のコ
ンピュータがあればそれだけ壊れるコンピュータも増える。故障
しても、そのまま止まれば対処のしようがあるが、動き続け、し
かも、間違った通信や処理を始めると非常にやっかいな問題とな
る。つまり、ビザンチン将軍問題では、故障しても止まらずに、
間違った動作を行うコンピュータを裏切りの者の将軍に見立て、
他の正常なコンピュータを誠実な将軍に見立てることで、複数の
正常コンピュータが同じ値を持つ方法やその条件を扱ったという
わけだ。              https://bit.ly/3vegM2z
─────────────────────────────
 このビザンチン将軍問題とブロックチェーンの関係について、
ブルーバックスの『ブロックチェーン』の著者である岡嶋裕史氏
は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 二人の将軍問題(ビザンチン将軍問題のこと)とは、要塞を攻
撃する二つの軍が、同時攻撃を行えば勝利、攻撃タイミングがず
れれば敗北という状況で、どう攻撃開始時間を合意するかという
問題である。
 どちらの将軍に決定権があるのか、決定したとして、相手にど
う伝えるのか、伝わらなかったらどうするのか、伝わったか伝わ
らなかったか不明な場合はどうか、敵軍による諜報活動により嘘
の攻撃時間が伝えられたのではないかなど、考えなければならな
いことは無数にある。
 ビザンチン将軍問題は、これを二者間の問題ではなく多数の参
加者間の問題に拡張したもので、コンピュータに限らず分散シス
テムで合意形成を行うときに必ず考慮しなければならない問題で
ある。ブロックチェーンでは、ブロックの追加が合意の証であり
ブロックの追加が繰り返され、チェーンが伸びるほどに、過去の
ブロックに対する合意が覆される可能性は、限りなくゼロに近づ
く。すなわち将軍の数が増えるほど、攻撃の合意が形成されやす
くなるのだ。        ──岡嶋裕史著/ブルーバックス
『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』
─────────────────────────────
 ビザンチンの将軍問題を解決したのはブロックチェーンといわ
れています。ビットコインの開発者であるとされる「ナカモトサ
トシ」なる人物は、ビットコインを開発するためにブロックチェ
ーンの仕組みを取り入れたことは間違いないと思われます。
 ナカモトサトシの正体は不明ですが、私は日本人に間違いない
と思います。なぜなら、もし、外国人であるなら、「サトシ」と
いうような難しい名前を使うはずがないからです。
 もうひとつ、私がナカモトサトシが日本人だと確信するのは、
ビットコインは、ピア・ツウ・ピア・ネットワーク(P2P)を
使いますが、これは2002年頃に日本に登場したファイル交換
ソフト「ウィニー」に非常によく似ており、ナカモトサトシはそ
の原理に注目したのではないかと考えます。
 それに加えて、ブロックチェーンの特許が2004年に切れて
いるのです。P2Pネットワーク、ブロックチェーンの特許──
使える技術のすべてが、ビットコインが発表された2008年前
後にすべて揃っています。ナカモトサトシがこれに関心をもった
ことは、まず間違いないと思います。
             ──[デジタル社会論V/047]

≪画像および関連情報≫
 ●ビザンチン将軍問題とは?その意味やブロックチェーンとの
  関係をわかりやすく解説
  ───────────────────────────
   暗号資産(仮想通貨)について調べていると、「ビザンチン
  将軍問題」という単語をしばしば見かけるかもしれません。
  ビザンチン将軍問題とだけ聞くと暗号資産(仮想通貨)とはな
  んの関係もなさそうですが、実はブロックチェーンとビザン
  チン将軍問題には深い関わりがあるのです。誤解を恐れずに
  簡単に言うと、ビザンチン将軍問題とは「複数人で合意形成
  を図る際、その一部の不正や不具合が生じ得る時に、全体で
  の正しい合意形成ができなくなる可能性がある」という問題
  です。
   ビザンチン障害(またはビザンチン故障)とは、ビザンチ
  ン将軍問題が原因となって起きた不具合のことを言います。
  分散型のネットワークにおいて合意形成を図るためには、こ
  のビザンチン障害が起きないようにする必要があります。
   ビザンチン・フォールトトレラント性とカタカナにすると
  わかりにくいが、これは「Byzantine Fault Tolerance」 を
  を訳したもので、「ビザンチン・フォールトトレラント性が
  ある」とは「ビザンチン将軍問題が生じたとしても、全体と
  しての合意を形成できる」ことを意味します。
   では、もう少し具体的に見ていきましょう。
   かつてヨーロッパにビザンツ帝国(ビザンチン帝国)とい
  う帝国がありました。
   ある時、ビザンツ帝国の将軍9人がある都市を包囲して攻
  め落とそうとしていましたが、どうやら9人の将軍がそれぞ
  れ持つ部隊9つが全て協力して攻めないとこの都市は落とせ
  そうにありません。1部隊でも欠けると攻撃は失敗してしま
  い痛手を負うことになってしまいます。
                  https://bit.ly/3oXqPYV
  ───────────────────────────
ビザンチン将軍問題4人のケース.jpg
ビザンチン将軍問題4人のケース
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2021年10月18日

●「ウイニー開発者金子勇/不幸な死」( 第5594号)

 2000年前後の話です。いわゆるパソコンは、多くの家庭に
普及し、多くの人がインターネットを使い始めていた時代です。
マイクロソフトのOSのバージョンでいうと、ウインドウズ98
の時代です。
 当時「ウインMX」というファイル交換ソフトが日本で流行し
ていたのです。これは、「ナップスター」という音楽共有ソフト
の互換プロトコルを使い、中央サーバー型のファイル交換機能を
備えたファイル交換ソフトです。「ナップスター」は、1999
年に公開された「ナップスター」というファイル共有ソフトの名
称であり、そのソフトを開発した企業の名称でもあります。イン
ターネットを通じて個人間で音声ファイルの交換を行うことがで
きるファイル共有ソフトです。
 中央にサーバーがあります。そこにアクセスすると、どういう
ファイルが交換できるかわかります。ファイルには所有者が明記
されています。Cさんは、Aさんの持っているファイルが欲しい
とします。この場合、ファイルの交換自体はAさんとCさんの間
で行います。つまり、ファイルを共有するのではなく、お互いに
所有するファイルを交換するのがウインMXの特色です。
 ウインMXでは、サーバーに、誰がどのようなファイルを持っ
ており、いつ、どのようなファイルを交換したかという記録が残
るので、違法な行為をすれば発見されやすいといえます。
 「ナップスター」にしても、「ウインMX」にしても、目指し
ていたのは、中央サーバーを使わないピア・ツウ・ピア・ネット
ワーク(P2P)でのファイル交換ソフトの実現です。しかし、
それが、なかなかうまくいかなかったようです。それを開発した
のが「ウイニー」です。
 「ウイニー」では、中央サーバーがなく、ファイルの交換は、
「ウイニー」によって形成されたP2Pネットワークのなかのコ
ンピュータ同士で行われます。ファイルは、暗号化された状態で
交換されるので、誰がどのファイルを持っているのか、自分の所
有するファイルを誰がダウンロードしたのか、わからないように
なっています。これは「障害に強く、匿名性が高い」をクリアす
るよう配慮されていると見られます。
 「ウイニー」の仕組みは実際のところ、かなり複雑です。どの
ようにしてファイルを検索し、入手するのかに関心のある人は、
日経XTECHの次の記事を読んでください。
─────────────────────────────
          高橋健太郎氏/日経ネットワーク
    「ウイニーの仕組み/匿名を強化したソフト」
              https://bit.ly/3APaU1a
─────────────────────────────
 「ウイニー」の開発者は、2ちゃんねるで「47氏」という名
称で有名になった人物です。本名は金子勇氏といい、不幸なこと
に2013年の夏に亡くなっています。「WIRED」は、「日
本が失った天才、金子勇の光と影」というタイトルで、冒頭次の
ように紹介しています。
─────────────────────────────
 とあるソフトウェアエンジニアが42歳という若さでこの世を
去り、8年が経とうとしている。31歳でブロックチェーンの先
駆けたるP2P技術を実現し、34歳で京都府警に逮捕された。
無罪を勝ち取るまでに7年かかり、カムバック後、心臓の病で、
あっという間に天国へ。もしも生前の彼が、いかんなく能力を発
揮していたら?あるいは彼がいまも生きていたら・・・。仮想通
貨に一喜一憂する日本のIT業界に、ぽっかり空いた「金子勇」
という穴。その大きさを語り告ぐために、若きフォロワーが奮闘
している。             https://bit.ly/30vif9x
─────────────────────────────
 金子勇氏は、茨城大学工学部情報工学科を卒業し、博士研究員
として日本原子力研究所に勤務。地球シミュレータ向け、ソフト
ウェアの研究開発に従事しています。2000年から2001年
にかけて、情報処理推進機構(IPA)の未踏ソフトウェア創造
事業の一つ「双方向型ネットワーク対応仮想空間共同構築システ
ム」に参加しています。
 2002年1月、東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報
学専攻情報処理工学研究室(数理情報第七研究室)特任助手(戦
略ソフトウェア創造人材養成プログラム)に任用されます。その
同年5月にピュアP2P型の通信方式を持たせたファイル共有ソ
フト、ウイニーの最初のベータ版を電子掲示板サイト「2ちゃん
ねる」のダウンロードソフト板で公開したのです。
 その後の顛末について、「WIRED」は、次のように記述し
ています。
─────────────────────────────
 2002年に発表されるや否や爆発的に普及したファイル共有
ソフト「ウイニー1/Winny1」は、データ転送における優れたア
ルゴリズムに加え、高い「匿名性」を実現していた。それゆえ、
一部のユーザーが違法に入手した映画や音楽などの商用データ、
果てはコンピューターウイルスまで、ウイニーにアップロードし
世界中に拡散するという事件が頻発。その結果、ウィニー1の開
発者である金子までが(厳密にはウイニー2を開発したかどで)
「著作権法違反幇助」の嫌疑をかけられ、2004年に逮捕、起
訴される。             https://bit.ly/3p2bZAb
─────────────────────────────
 金子勇氏の逮捕は非常におかしいです。ユーチューブに著作権
法違反の動画がアップされるたびに、ユーチューブの開発者が逮
捕されることと同じだからです。
 いずれにせよ、この金子勇氏は、日本人には珍しい大変な天才
プログラマであり、ナカモトサトシと関係があるのではないか、
いや、ナカモトサトシ本人ではないかともいわれているのです。
そのあたりのことをさらに追及していきます。
             ──[デジタル社会論V/048]

≪画像および関連情報≫
 ●池田信夫氏/エコノMIX異論正論
  ───────────────────────────
   2013年7月6日、ファイル共有ソフトウイニーの作者
  金子勇氏が急性心筋梗塞で死去した。享年42歳。あまりに
  も早い死だった。警察が彼を逮捕し、ウイニーを葬り去った
  ことによって日本が失ったものは限りなく大きく、もう取り
  戻すことはできない。
   ウイニーは、2002年に開発されたP2Pソフトウェア
  である。P2Pというのは、インターネットでサーバを介さ
  ずにパソコン同士で直接ファイルをコピーするシステムで、
  1999年にアメリカで開発されたナップスターが最初であ
  る。これは著作権法違反として禁止されたが、その後も世界
  各国でP2Pソフトが開発された。
   ウイニーもその一つだが、著作権法違反に問われるおそれ
  があるため、金子氏(当時は東大助手)は2ちゃんねるに、
  「47」という匿名でプログラムを投稿した。これは大量の
  データをコピーするために、多くの中継点に部分的なキャッ
  シュ(一時コピー)を残し、次にコピーするときはそのキャ
  ッシュを集めて速度を上げるなど、当時としても先進的な技
  術を使っていた。
   しかし、ウイニーを使って映画をまるごとコピーするなど
  の事件が頻発し、一時はネット上の通信量の半分以上をウイ
  ニーが占めた。ウイルスができてパソコンのデータを流出さ
  せる事件も起こり、京都府警のパソコンもウイニーのウイル
  スに感染して容疑者の名前などのデータが流出した。
                  https://bit.ly/3j4vyUC
  ───────────────────────────
金子勇氏.jpg
金子勇氏
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2021年10月19日

●「ビットコインは先端技術集結作品」(第5595号)

 ビットコインが発明されたのは2008年、使用が開始された
のは、2009年からです。これは私の推測ですが、ビットコイ
ンは、ナカモトサトシというある日本人が、その当時話題になっ
ていた新技術を巧みに組み合わせて作り上げた「先端技術の芸術
作品」ではないかと考えています。
 当時話題になっていた新技術とは、公開鍵暗号方式による電子
署名、金子勇氏の開発したP2Pネットワークに基づく中央サー
バーのない「ウイニー」、そして元になる基本技術の特許が切れ
たブロックチェーン技術です。
 なぜそう思うのかというと、開発された時期や、利用を可能に
する法律が施行されたり、基本技術の特許の切れた時期が、不思
議に2001年から2004年に集中しているからです。あくま
で私の推測に過ぎないものではありますが・・・。
─────────────────────────────
   ◎2001年4月
    電子署名及び認証業務に関する法律が施行される
   ◎2002年5月
    「ウィニー」のベーター版2ちゃんねるに初公開
   ◎2004年
    ブロックチェーンの基になる理論の特許が切れる
─────────────────────────────
 ついでに、そんなに重要ではありませんが、面白い話を追加す
ることにします。「ウイニー/Winny」 ──EJは、全角と半角
を混ぜたくないので、カタカナで書いていますが、金子勇氏はウ
イニーを当初、次の左のように書いていたのです。後に右の表記
に改めています。なぜ、そのようなことをしたのでしょうか。
─────────────────────────────
          WinNY ── Winny
─────────────────────────────
 「WinNY」の表記は、明らかにウイニーに先行した「WinMX」を
意識しています。「WinMX」 とは、中央サーバーのあるファイル
交換ソフトのことであり、ウイニーが登場する前、日本で大流行
していたのです。金子勇氏は、この新しいファイル交換ソフトウ
ェアの名称を「WinNY」 とすることで、「WinMX」 の後継である
ことを示し、「M」を「N」、「X」を「Y」と、アルファベッ
トを1つずつ進めることで、「WinNY」 は「WinMX」 を少し超え
るものであると意思表示したのです。
 「WinMX」 と「WinNY」 の大きな違いは、同じP2Pネットワ
ークを使いながら、前者は中央サーバーを使い、後者はそれを必
要としないことです。「WinNY」 は、サーバーを使わない、いわ
ゆる「ピュアP2P」であり、当時のネットワークに関心のある
エンジニアは、こぞってそれを目指していたのです。金子勇氏は
その競争に勝利したといえます。これは技術的大勝利です。
 しかし、金子勇氏は、「WinNY」 は「WinMX」 を一歩前進させ
たに過ぎないといっているのです。謙虚です。しかもそれを口に
出さず、名称を「WinNY」 とし、上記の「NY」の謎をかけてい
ます。しかし、この謎が解ける人が何人いるでしょうか。
 しかし、2004年5月10日、金子勇氏は、著作権法違反幇
助の疑いにより京都府警察に逮捕され、5月31日に起訴されま
す。当時、「WinMX」 を利用した公衆送信権(送信可能化権)の
侵害が横行し、著作権法違反で逮捕者も続出していたなかで、匿
名性が強化されたウイニーへの移行者が後を絶たなかったので、
京都府警は、その開発者を逮捕したのです。裁判所での事件名は
「著作権法違反幇助被告事件」です。
 金子勇氏は、ウイニーを使って何かをしていたわけではないの
です。作っただけです。しかし、そのウイニーを悪用して、音楽
CDや映画のコピーなどの著作権法違反を犯す者が増えたので、
そのネットワークを制作した者を逮捕したのです。
 しかし、金子勇氏を救おうと、弁護士の壇俊光氏らによる「ウ
ィニー弁護団」が結成され、2ちゃんねるやサイトなどのネット
上で呼びかけをすることで、裁判費用を有志で募ったのです。今
どきの言葉でいえば、クラウドファンディングです。これによっ
て、わずか3週間で1600万円を集めることに成功します。
 裁判は検察側、被告側がこぞって上告、最高裁まで争われまし
たが、2011年12月20日、最高裁第三小法廷(岡部喜代子
裁判長)は検察側の上告を棄却。無罪が確定したのです。結局裁
判で無罪を勝ち取るために7年間を要し、金子勇氏は裁判に疲れ
たのか、2013年7月6日、急性心筋梗塞で死去したのです。
 それにしても日本は惜しい人を失ったものです。金子勇氏の優
れた理論構築と実装力を認め、ウイニー裁判でも、またそれ以降
も積極的にバックアップし、尽力してきた東京大学情報理工学系
研究科創造情報学専攻の平木敬教授は、ウイニー裁判について、
次のように語っています。
─────────────────────────────
 これは基本的には“ソフトウェアの開発”というものをどう捉
えるかという話しである、と捉えていました。ですから、裁判に
関しても、その点を争点にする必要があるというので、私だけで
は力が足りませんので、例えば(慶應大学の)村井先生ですとか
様々な方のご協力を頂いて、実際の裁判でもそれを主張していき
ました。それから、研究科の中でも、我々が開発するものは、良
いものであればあるほど、世の中に対するインパクトがあるわけ
で、その世の中に対するインパクトをどうやって捉えていくのか
というのを考えていく必要があり、そういった動きは以後強まっ
ていきましたね。私が一番残念だったのは、これだけのソフトウ
ェアであれば、仕事として書いてくれれば、我々が守ることがで
きた。仕事じゃない所で匿名で書いたので、残念ながら東大が組
織として守ることはできなかった。それが非常に残念でした。
                  https://bit.ly/3jbhskF
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/049]

≪画像および関連情報≫
 ●2人のインターネット先駆者が遺したもの
  ───────────────────────────
   我々の生活を大きく変えたインターネット。一方で、負の
  側面も強調されるようになった。そのひとつに、社会問題に
  もなったソフトがある。ファイル共有ソフト、ウィニー。開
  発者は当時31歳で、東京大学情報処理工学研究室の助手を
  務めていた金子勇だ。
   ウィニーは、純粋なP2P(ピーツーピー)を実現するソ
  フトである。P2Pとは対等な関係を意味する「ピア・ツー
  ・ピア」で、中央サーバーを通さず個人と個人が情報を自由
  にやりとりし、その情報さえも個人で管理するネットワーク
  だ。現在のインターネットは、巨大IT企業などの中央サー
  バーが大量の情報を管理。そのサーバーを通さないと、ユー
  ザーは情報をやりとりできない。そのため最近では、ある人
  気グループの音楽を聴くことができなくなるユーザーが続出
  した。アップルやアマゾンが配信を停止したからだ。
   ウィニーは、ユーザー同士を結んだネットワークで、情報
  やコンテンツが維持されるため、こうした管理や統制は受け
  ない。金子は、現在のインターネットの対抗軸となるネット
  ワークを、今から20年近く前に世界で初めて実現させてい
  たのだ。金子は2002年にウィニーの試作版を匿名掲示板
  「2ちゃんねる」に公開する。当時、「2ちゃんねる」は罵
  詈雑言が多く書き込まれ、批判の対象になっていた。しかし
  金子はその匿名の影に才能が埋もれていると考え、ネットワ
  ークを根本から変えうるウィニーの将来を大企業ではなく、
  「2ちゃんねる」のユーザーに託したのである。
                  https://bit.ly/2YSN0Ev
  ───────────────────────────
「ウイニー」P2Pネットワーク.jpg
「ウイニー」P2Pネットワーク
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2021年10月20日

●「ブロックチェーンはPоCである」(第5596号)

 ブロックチェーンについて書かれた本のなかで、少し変わった
本があります。ブロックチェーンを技術というよりも思想ととら
えているのです。この本の冒頭には次の記述があります。
─────────────────────────────
 ブロックチェーンの本質は、技術にはありません。その思想に
あります。今まで多くの方がブロックチェーンの技術を語ってき
ました。システム会社が最新のテクノロジーだと宣伝し、新しも
の好きの人々はバズワードとしてのブロックチェーンを追いかけ
ました。仮想通貨を入口に、金融システムの技術として注目する
人が増え、一時はマスコミも競うように技術名ばかりを伝えまし
た。でも、なかなか本質的な議論は聞こえてきません。この技術
が結果的にもたらす、社会思想についての議論です。
 結論を申し上げます。ブロックチェーンは人類に、管理者のい
ない社会をもたらします。それは、私たちがまだ見たことのない
世界です。これまでのような、特定のボスを中心とした中央集権
型の組織が崩れ、個々の人間は自律した存在となります。
 このうねりはブロックチェーンの登場と同時に始まりました。
もう止まることはありません。        ──坪井大輔著
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
                      翔泳社/SE刊
─────────────────────────────
 ブロックチェーンについて書かれた本のほとんどは、野口悠紀
雄教授の本も含めて、ブロックチェーンの技術について解説し、
それは多くのことに応用できると説いています。しかし、具体的
な応用事例はビットコインだけです。
 それでもその実用化に向けて、金融機関をはじめとする実証実
験が行われているという反論がありますが、それは「PоC」に
過ぎないという意見があります。「PоC」とは何かについては
次の説明があります。
─────────────────────────────
 PоCとは、「Proof of Concept」の略語であり、日本語では
「概念実証」「コンセプト実証」と訳されるのが一般的です。ま
たより広く「実証実験」と呼ばれることもあります。その役割は
新たなアイディアや企画、構想(コンセプト)に対し、それが実
現可能なのか、目的とする効果や効能が得られるのか、市場に受
け入れられそうなのか、といったことを、本格的にプロジェクト
を開始する前に検証することです。
 ここで重要なのは、単に「机上で検討を重ねる」のではなく、
検証のための「ものを作り上げ」「実際に使ってもらう」という
実験的なアプローチを行う点にあります。
                  https://bit.ly/3aPJLQV
─────────────────────────────
 この説明では、いまいちはっきりしませんが、本来「PоC」
は、医薬品業界における新薬の開発において使われる言葉です。
新薬の開発は、まず基礎研究を行って新たな候補物質を見つけ出
し、その有効性や安全性を動物実験で確認した後、人に対する有
効性と安全性を確認する臨床試験を行います。この臨床試験の一
部が「PоC」と呼ばれており、有効性や安全性を確認できたこ
とを「PоCを取得した」というのです。
 つまり、ブロックチェーンの実証実験というのは、そのレベル
なのです。つまり、使えるかどうかわからないが、実験して試し
てみようというレベルだと坪井大輔氏はいうのです。
 医薬品業界以外のケースを上げると、映画業界のケースが上げ
られます。たとえば、長編映画を製作する場合、同様のコンセプ
トの短編映画を作る場合があります。この短編映画を関係者に見
せることで、映画化権の取得や出資者へのアピール、役者の説得
などを行うのです。いわばテストマーケティング的なことを「P
оC」といいます。
 テストマーケティングといえば、ターゲットとなる顧客層に試
用品を配布し、そのフィードバックをもらうことで、技術面や使
用上の問題点を明らかにしつつ、その後の販売戦略の立案などに
活かすことも一種の「PоC」です。
 しかし、坪井大輔氏がブロックチェーンの応用として掲げてい
るケースは、きわめて具体的であり、なるほどと納得できるもの
が多いので、この坪井流ブロックチェーン論についてご紹介して
行きたいと思います。
 坪井大輔氏は、ブロックチェーンについて、重要な発言をして
います。
─────────────────────────────
     ブロックチェーンはビジネスになっていない
─────────────────────────────
 「PоC」の段階では、まだ本格的なビジネスになっていない
のです。確かに仕事は増えており、エンジニアも集まってきてい
ますが、テストマーケティングをしている段階では、ビジネスと
して定着していないのです。
 つまり、注目を集めながらも、みんながわっと飛びつく段階に
はいたっていないといえます。こうしたブロックチェーンの現況
について、坪井大輔氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 一体どうしてでしょう。ブロックチェーンはどうして、本格的
なじ晋及のステージに進んでいないのか。私は日々、IT業界だ
けでなくいろいろな産業の方々とお話をさせてもらっていますが
その中で、ブロックチェーンに関してみなさんが感じている壁が
あるように思います。それは、「なぜ今ブロックチェーンを導入
する必要があるのか」「なぜ既存技術ではダメでブロックチェー
ンならいいのか」という疑問です。すなわち、「Whyブロック
チェーン?」という問いにうまく答えられていない、ということ
です。         ──坪井大輔著/翔泳社の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[デジタル社会論V/050]

≪画像および関連情報≫
 ●ブロックチェーンの市場規模
  ───────────────────────────
   ブロックチェーンは、「AI」「IоT」と並んで、DX
  (デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有
  望技術の一つです。
   DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕
  組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、
  大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンに
  おけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニ
  アの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更と
  いった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体
  を大きく変える可能性として期待されています。
   その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決
  できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネス
  のみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めて
  います。
   その背景として、もともとは Fintech(フィンテック、金
  融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号
  通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコイン
  を支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近
  年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで
  応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになって
  きました。           https://bit.ly/3FZj5vt
  ───────────────────────────
坪井大輔氏.jpg
坪井大輔氏
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2021年10月21日

●「米SECビットコインETF承認」(第5597号)

 本稿執筆時の2021年10月20日、ビットコインに関する
凄いニュースが飛び込んできました。日本経済新聞電子版は次の
ニュースを伝えています。
─────────────────────────────
【ニューヨーク=大島有美子】米国で暗号資産(仮想通貨)のビ
ットコイン先物に連動した上場投資信託(ETF)の取引が電子
取引を手がける米NYSEアーカ取引所で始まった。米ETF大
手のプロシェアーズが運用する商品で、米証券取引委員会(SE
C)の承認を得た。ビットコインそのものの利用拡大を期待した
投資マネーも流れ込み、ビットコイン価格も上昇した。
 米で仮想通貨先物に連動したETFが上場するのは初めて。プ
ロシェアーズのマイケル・サピア最高経営責任者(CEO)は、
「証券会社に口座を持ち、株式やETFの購入に慣れている多く
の投資家にビットコインへの投資機会を提供するものだ」と上場
の意義を強調した。現物の仮想通貨のように投資するためのウォ
レット(電子財布)を持たなくても仮想通貨の価格に連動した運
用ができる。         https://s.nikkei.com/3n9Tasj
─────────────────────────────
 現在、ビットコインに関しては、世間的には「怪しいもの」と
いう印象がまだ消えていません。10月13日のEJの冒頭でも
当日の1ビットコインの価格を公表しましたが、その後も価格は
上がっているのです。20日現在1ビットコインの価格は731
万円で100万円以上値上がりしています。史上最高値です。
─────────────────────────────
     10月11日 ・・ 623万6310円
     10月20日 ・・ 731万3873円
─────────────────────────────
 なぜ、こんなに値上がりしたかです。それは、10月15日に
ビットコイン先物ETFが承認されるという情報がブルームバー
グによって報じられたからです。今回、ビットコイン先物に連動
したETFは、米ETF大手のプロシェアーズが運用する商品で
正式名称は、次の通りです。初日の取引で、すでに4・85%値
上がりしています。
─────────────────────────────
   プロシュアーズ・ビットコイン・ストラテジ−ETF
─────────────────────────────
 ETFというのは何でしょうか。
 ETFというのは、日本でいうと、日経平均株価や東証株価指
数(TOPIX)などの動きに連動する運用成果をめざし、東京
証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託のこと
です。ETFは次の英語の頭文字を並べたものです。
─────────────────────────────
         ETF
         Exchange Traded Funds
─────────────────────────────
 日本では、日銀が日経平均株価を支えるため、ETFを購入し
ていることは有名ですが、2021年に入ってから、買い入れが
変化しています。
 2020年度の日銀の決算で、上場投資信託(ETF)がどの
くらい増えているかについて、朝日新聞デジタルは、次のように
報道しています。
─────────────────────────────
 日本銀行が27日発表した2020年度決算で、総資産(21
年3月末時点)が前年比18・2%増の714兆5566億円と
過去最高になった。コロナ禍で打撃を受けた経済を支えるため、
金融機関への貸出金などが増えたため。上場投資信託(ETF)
の保有額も過去最高で、日本最大の株式保有者になったとみられ
る。資産の7割超を占めるのは国債。政府が経済対策で出した国
債の買い入れなどで、前年より9・5%(46兆2471億円)
増の532兆1652億円。企業への融資を金融機関に促すため
貸出金も前年の2・3倍の125兆8402億円と膨らんだ。E
TFは、同20・7%増の35兆8796億円。株価上昇の含み
益で、時価ベースだと51兆5093億円だった。
       ──2021年5月27日付、朝日新聞デジタル
                  https://bit.ly/3pgj3cL
─────────────────────────────
 ビットコインそのものを買うには抵抗がある人も、ビットコイ
ンに連動したETFであれば、購入してみようと思う人は多いは
ずです。そもそもこれまでビットコインETFが認められている
国は、カナダとバミューダ(2021年2月)、そして今回の米
国です。これで信用が一気に高まることは確かです。
 どうしてかというと、ETFにすることで、ビットコインの扱
いが、より便利になるという点です。また、それは、手軽に分散
投資できたり、取引所でリアルタイムに売買を行えるという、メ
リットです。ただ、ETFの審査は非常に厳しく、米国の証券取
引委員会は、ビットコインなどの仮想通貨に対しては、これまで
は何度もETFの申請を却下してきたのです。
 ちなみに日本では、ビットコインETFを扱っている取引所は
ありません。しかし、米国が承認したとなると、国内でビットコ
インETFを扱う可能性が大きくなります。したがって、取り扱
い開始後、素早く入手し取引するためには、今のうちに取引所の
口座を開設しておく必要があります。
 それよりも、投資するために、もっと重要なことがあります。
それは、ビットコインが何であるか、よく理解することが重要で
す。そのためには、ブロックチェーンが理解できていなければな
りません。ビットコインETFの情報は、20日現在では情報は
あまりありません。これについては、さらに情報が集まりしだい
再び取り上げる予定です。明日からは、ビットコインを理解する
ためのブロックチェーン技術の核心に迫ります。
             ──[デジタル社会論V/051]

≪画像および関連情報≫
 ●焦点:ビットコインETF、「規制当局の壁」越えられるか
  ───────────────────────────
   ビットコイン価格は昨年1500%急騰しており、過熱す
  る同資産の関連商品に対する、投資家の旺盛な需要をかき立
  てている。多くの企業が、ビットコインを広くリテール市場
  へと開放することになるETFをわれ先に立ち上げようと躍
  起になっている。
   だが規制当局は厳しい問題提起を行っており、投資ファン
  ド5社は今週に入り、ビットコイン先物に連動するETFの
  設定計画を延期し、理由として米証券取引委員会(SEC)
  の懸念表明を挙げた。
   「ビットコイン取引に関わる企業に対する監視を、SEC
  が一段と強めるとみている」と、コンプライアンス管理会社
  インテリジャイズのディレクターである、マーク・バトラー
  氏は語る。「投資家は用心すべきだ。うますぎる話は、おそ
  らく本当に眉唾ものだ」申請書類によれば、SECは少なく
  とも14件の異なるビットコインETFまたは関連商品につ
  いての申請を保留している。
   いくつかのファンドはすでに申請を却下された。SECは
  3月、ビットコイン取引所「ジェミニ」を運営するキャメロ
  ンとタイラーのウィンクルボス兄弟によるETF上場申請を
  却下した。同兄弟の投資ファンドは直接ビットコインに投資
  することを目指している。一方、他のファンドは、米取引所
  に最近上場したビットコイン先物に期待を寄せていた。
                  https://bit.ly/3vrPq9n
  ───────────────────────────
ビットコイン先物ETF.jpg
ビットコイン先物ETF
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2021年10月22日

●「ブロックチェーン支える4つ技術」(第5598号)

 改めてブロックチェーンとは何でしょうか。一般的にいうと、
ブロックチェーンは次のように捉えられています。
─────────────────────────────
     ビットコイン=ブロックチェーン=暗号資産
─────────────────────────────
 はっきりしていることがあります。ブロックチェーンとは技術
であり、それは、暗号資産、ましてビットコインに限った技術で
はないことです。
 坪井大輔氏は、ブロックチェーンを次の4つの技術を組み合わ
せたものであるとしてとらえています。
─────────────────────────────
       @暗号化技術
       Aコンセンサスアルゴリズム
       Bピア・トウ・ピア(P2P)
       CDLT(分散型台帳技術)
─────────────────────────────
 第1の技術は「暗号化技術」です。
 暗号というと、ひと頃は特殊の世界の話だったはずですが、イ
ンターネットが普及した現在では、ビジネスのために、生活のた
めに、暗号化は不可欠な技術になっています。普段やり取りして
いるメールにも暗号化が行われています。暗号技術とは、データ
の内容を第三者にわからない形式に変換すること、またその変換
したデータを元に戻すための技術です。
 坪井氏は、暗号化技術とは、一対一のトランザクション、一回
のやり取りごとにその取引の記録が暗号化されることを意味して
いる技術であり、「1回の取引ごと」、1トランザクションのセ
キュリティ対策に不可欠なのが暗号化技術であることを強調して
います。
 暗号化技術に関連して、必ず理解しておく必要があるのが「ブ
ロック管理」といわれる手法です。このブロック管理を坪井氏は
次のようにたとえています。
─────────────────────────────
 たとえば引っ越しの際の食器を運ぶことを考えてみましょう。
食器が割れたり、傷むことに対し十分に注意するには食器を1点
ずつ紙などで包んでそれぞれ同サイズをビニール袋に入れます。
そしてビニール袋入りの食器類を数点まとめてダンボール箱に詰
めて、その後、そのダンボール箱をガムテープで止めて、中身は
「皿」「グラス」などと書いて保管する。そんなイメージです。
それぞれ安全に梱包した一つひとつのものを集めて一個の箱にま
とめて、箱にまた封をする、というのがブロック管理です。
              ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
─────────────────────────────
 ビットコインの場合、このブロックのなかに約4200件の取
引データが入ります。取引が行われたら、その取引記録を暗号化
します。これらの暗号化されたデータが約4200件貯まったら
封をします。それを確定させるまで約10分かかります。世界中
で発生するビットコインの売買や送金などの取引データをストッ
クし、ブロックを閉じます。これを時系列に繰り返すのです。
 そして、このブロックを順番にチェーンのように、つないでい
くのです。これがブロック管理というものです。
 第2の技術は「コンセンサスアルゴリズム」です。
 コンセンサスアルゴリズムとは「合意形成」ということです。
合意形成といってもいろいろあります。企業などでは、トップが
OKならそれで終わりというケースもありますし、民主主義国の
議会では、多数決で合意が形成されます。
 ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの場合、そのブ
ロックチェーン参加者に「PоW」(プルーム・オブ・ワーク)
という計算作業(ワーク)をさせ、そのブロックの中のデータが
改ざんのない、正しいものであるという承認(プルーフ)を取る
のです。誰が計算作業を行うのかというと、そのブロックチェー
ンに参加しているコンピュータが行うのです。ビットコインの場
合、正解に一番早く達したコンピュータには、あらかじめ決めら
れている量のビットコインが与えられるので、大変な競争になり
ます。一体どのような数を求めるのかについて、野口悠紀雄教授
は次のように書いています。
─────────────────────────────
 その計算は、ブロック内の取引と直前のブロックの取引に関連
したある数(ナンス)を見出すものだ。その正解を見出すための
効率的なアルゴリズム(計算手順)は存在しない(であろうと信
じられている)。総当たり式に可能な数を一つ一つ確かめていく
しかないのだ。したがって、いつか解は見つかるが、それまでに
大変な量の計算を強いられる。このように、大変な労力をかけな
ければならない作業を課すことを「プルーム・オブ・ワーク」と
いう。ただし、正解が見つかれば、それが正しいことは簡単に確
かめられる。      ──野口悠紀雄著/ダイヤモンド社刊
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
─────────────────────────────
 このPоWに参加するコンピュータを「マイナー/発掘者」と
呼んでいます。おそらくビットコインにおいて、いちばんわけの
わからないのはこのPоWであると思います。しかし、このあた
りのことを逃げないで調べないと、ブロックチェーンを理解する
ことは難しいと思われます。
 実は、マイナーの大半は中国の事業家であり、中国の独占状態
になっていたのです。しかし、中国が仮想通貨ビジネスを全面禁
止にしたことで、現在はビットコイン・マイニングにおける中国
のシェアはゼロであり、現在では米国がトップになってきていま
す。今後、ビットコインは米国中心に発展していくものと考えら
れます。ブロックチェーンの4つの技術のうち、BとCは来週の
EJで述べることにします。──[デジタル社会論V/052]

≪画像および関連情報≫
 ●プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)とは?
  ───────────────────────────
   プルーフ・オブ・ワークとは、ビットコインを初めとした
  暗号資産(仮想通貨)の取引や送金データを正しくブロック
  チェーン(block chain) につなぐための仕組みです。一般
  的な金融商品と異なり、ビットコインなど暗号資産(仮想通
  貨)の多くを支えるシステムは中央に管理機関を持っている
  わけではありません。そのため、間違いなく売買や送金を成
  立させるためには、中央の監視者がいなくても容易に改ざん
  できないような仕組みが必要となります。プルーフ・オブ・
  ワークでは、必要な「計算」を成功させた人が、そのデータ
  を「承認」して正しくブロックチェーンにつなぎこむ役割を
  担う仕組みとなっています。
   ある取引や送金が発生したとき、そのデータは、他の人に
  よって承認されることで初めてブロックチェーンにつながれ
  ます。この承認作業とは、ブロックチェーンにデータをつな
  ぐのに適したパラメータの値を計算する作業です。まず、い
  くつかの取引や送金のデータがブロックとしてまとめられま
  す。ブロックをブロックチェーンにセットするためには、ナ
  ンス(Nonce) と呼ばれる答えの値を計算で発見する必要が
  あります。いち早くナンスを求められた人は、他の計算者に
  答えを発表して正しいかどうか判断してもらいます。計算結
  果が正しいと認められれば、計算を行った人がブロックチェ
  ーンへのつなぎこみの権利を得て、報酬として暗号資産(仮
  想通貨)を手に入れるのです。  https://bit.ly/2XxccA5
  ───────────────────────────
あるマイナーのコンピュータ群.jpg
あるマイナーのコンピュータ群
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2021年10月25日

●「マイニングとは何をしているのか」(第5599号)

 坪井大輔氏によるブロックチェーンの4つの技術を再現して、
ブロックチェーンの謎に迫っていきます。
─────────────────────────────
       @暗号化技術
     → Aコンセンサスアルゴリズム
       Bピア・トウ・ピア(P2P)
       CDLT(分散型台帳技術)
─────────────────────────────
 Bの「コンセンサスアルゴリズム」の続きです。
 坪井大輔氏は、この「コンセンサスアルゴリズム」に対してこ
ういっています。
─────────────────────────────
 まず、1件のトランザクションに対して、セキュリティ対策を
とる。その1件1件をまとめたブロックについてもセキュリティ
対策をとり、なおかつ、ブロックにまとめる際にそのこと自体に
対してみんな大丈夫だよねという確認をとる。セキュリティ対策
が何層にもなっているのがブロックチェーンの特徴です。
             ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
   『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
─────────────────────────────
 ビットコインの仕組みで、一番違和感を感ずる部分が、この合
意形成、マイニングです。あるブロックを決めるとき、ビットコ
インのシステムは、参加しているコンピュータに対して、ブロッ
クの計算検証を呼びかけます。参加するかどうかは、コンピュー
タの自由ですが、多くのコンピュータがこの計算検証に参加しま
す。そして、一番早く正解を出したコンピュータには、予め決め
られているビットコインが与えられる仕組みになっています。こ
れがPоW(プルーフ・オブ・ワーク)です。
 これは私の考え方ですが、多くの書籍は専門的なことを伏せよ
うとしているので、かえってわからなくなるのです。どのような
計算なのか。これについて、実際にマイナーがやっていることに
踏み込んで説明しているのが、ビッコインの研究家の高木奏氏で
す。高木氏は、『ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT
革命』(扶桑社刊)の著者です。
 一体どんな計算をするのか──高木氏は、これにズバリ答えて
います。例えば、次のような計算を要求するのです。
─────────────────────────────
   ハッシュ値がゼロ11個ではじまるナンスを求めよ
─────────────────────────────
 そのうえで、プルーフ・オブ・ワーク」について、次のように
説明しています。
─────────────────────────────
 「採掘」(マイニング)は、ビットコインの取引データをブロ
ックチエ−ンに書き込む”手伝い”をするプロセスではあるが、
その実態は「ひたすら決まったハッシュ値が導き出されるように
任意の変数を関数に当てはめる」だけの不毛な計算処理だ。が、
この無駄な労力こそが、「プルーフ・オブ・ワーク」の源泉であ
り、不正の抑止力になっている。   ──高木奏著/扶桑社刊
    『ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命』
─────────────────────────────
 ハッシュ値がゼロ11個ではじまるナンスとは何か。ナンスの
説明をすると難しくなるので、ナンスそのものをお見せします。
─────────────────────────────
 ◎2010年12月某日の計算の解答
 000000000003ba27aa200b1cecaad478d2bOO432346c3f
 1f3986da1afd33e506
 ◎2014年 5月某日の計算の解答
 00000000000000005fd146bfd8ccf2bO8cb13eecca39ce49f
 3d1c23d6917e7e5
─────────────────────────────
 よく見ると、2010年12月某日の冒頭のゼロは11個、4
年後の2014年5月某日の場合は16個になっています。0は
増える傾向があり、これについて、高木奏氏は、次のように解説
しています。
─────────────────────────────
 ちなみに、ハッシュ値の計算に要する時間は「約10分」と決
められている。採掘に使用されるすべてのCPUの処理能力が高
まっても、必ず10分程度かかる。頭に「0」が17個並ぶハッ
シュ値が平均7分で導き出されてしまうようになったら、次から
は自動的に難易度を上げて「0」が18個並ぶハッシュ値の計算
に切り替わるだけ。こうして採掘に要する時間を一定に保つこと
で、ビットコインの発行量の増加スピードを一定に保ち、同時に
改ざんを防止しているのだ。     ──高木奏著/扶桑社刊
    『ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命』
─────────────────────────────
 それでは、マイナーたちが、それほどまでにコンピュータの性
能を向上させ、大量の電気代を使ってまで、マイニングに精を上
げるのかというと、1位になると、予め決められている量のビッ
トコインを褒章としてもらえるからです。5年ごとにビットコイ
ンの額が減る仕組みになっており、現時点では、2040年まで
は、次の額のビットコインが支払われることになっています。
─────────────────────────────
      2020年 ・・  6・25BTC
      2040年 ・・ 3・725BTC
─────────────────────────────
 現時点でマイニングに勝利すると、現在の市場価格は1ビット
コイン、約700万円であり、4000万円以上のビットコイン
をもらえることになり、ビジネスとしても成立するといえますが
2040年以降になると、もらえる額は半額になってしまうこと
になります。        ─[デジタル社会論V/053]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインの採掘(マイニング)とは
  ───────────────────────────
   ビットコインは、一定期間ごとに、すべての取引記録を取
  引台帳に追記します。その追記の処理には、ネットワーク上
  に分散されて保存されている取引台帳のデータと、追記の対
  象期間に発生したすべての取引のデータの整合性を取りなが
  ら正確に記録することが求められます。
   その整合性を取る作業はコンピューターによる計算で実現
  できるのですが、膨大な計算量が必要となります。分散され
  て保存されている1つの大きな取引台帳のデータも、追記対
  象の取引のデータも、すべてを正確に検証してから追記しな
  ければならないのです。
   そこで、ビットコインでは、この追記作業に有志のコンピ
  ューターリソースを借りています。余っているコンピュータ
  ーの計算能力を借りることによって、膨大な計算を行い、み
  んなで共有する1つの大きな取引台帳に追記を行っているの
  です。
   この追記作業の手伝いをしてくれた人、追記作業のために
  膨大な計算処理をし、結果として追記処理を成功させた人に
  は、その見返りとしてビットコインが支払われます。つまり
  追記作業を手伝ってビットコイン全体が健全に運用されるよ
  うにがんばってくれたことへの報酬として、ビットコインが
  支払われるのです。この報酬は、新たに発行されたビットコ
  インによって支払われます。つまり、通貨の新規発行がこの
  瞬間に起こるのです。      https://bit.ly/3GfSw5n
  ───────────────────────────
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ビットコイン/マイニング
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2021年10月26日

●「ビットコインはどうはじまったか」(第5600号)

 坪井大輔氏によるブロックチェーンの4つの技術を三たび再現
します。
─────────────────────────────
       @暗号化技術
       Aコンセンサスアルゴリズム
     → Bピア・トウ・ピア(P2P)
     → CDLT(分散型台帳技術)
─────────────────────────────
 第3の技術は「ピア・トウ・ピア(P2P)」です。
 これについては、ウィニーに関して相当詳しく述べていますの
で、要点だけを述べることにします。P2Pに関しては、ナカモ
ト・サトシ氏は、あるもの、すなわち、ウイニーをそのまま利用
したものと思われます。通貨の場合、中央サーバーが障害を起こ
したら、大変な混乱が起きてしまうからです。坪井大輔氏自身は
P2P技術について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ウィニーは扱ったファイルには問題がありましたが、テクノロ
ジー的には素晴らしかったです。誰かが取り仕切って音楽配信を
していたわけではなく、個人間でやっていた。中央集権ではない
システムです。ビットコインのようなものを15年間ぐらい前に
やっていたわけです。このときのP2P技術がブロックチェーン
に使われています。     ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
   『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
─────────────────────────────
 ブロックチェーンの場合、取引データが発生するごとにP2P
につながっているすべての参加者のPCに同じデータが流れ、そ
れぞれが確認されて取引が完了します。これらの取引データがひ
とつのブロックとして完成し、承認されたというデータもP2P
に流れます。
 第4の技術は「DLT(分散型台帳技術)」です。
 DLTというのは、次の英語の略です。
─────────────────────────────
       DLT/分散型台帳技術
       Distributes Ledger Technology
─────────────────────────────
 このDLTの利点は、データがP2Pネットワークに参加する
多くのPCに分散されていることです。1つや2つが改ざんされ
ても圧倒的多数のPCには、改ざんされていないデータが残って
いることです。坪井大輔氏は、DLTの最大の利点などについて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 DLTの最大の利点は、データ改ざんへの強さです。万が一、
どこかでデータ改ざんが起きたとしても、ほかのほとんどでは改
ざんされていない。たとえば私が悪人だったとして、善人のパソ
コンに侵入して、分散型台帳を書き換えたとする。でも残りの圧
倒的多数の台帳は改ざんされていないから、比較すればあれ?お
かしいぞ?となる。そうすると全部の参加者が一斉に台帳を書き
換えない限り、改ざんは事実上不可能になる。だから、ブロック
チェーンは、改ぎんできないことを担保されているといわれるわ
けです。    ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊の前掲書より
─────────────────────────────
 現在、EJでは、そもそもブロックチェーンとは何なのかにつ
いて、根源的なものを解明しようとしています。話が、ブロック
チェーンになったり、ビットコインになったりしますが、ブロッ
クチェーンの最大の運用例はビッコインしかないので、それは仕
方がないのです。
 そもそもナカモト・サトシなる人物によるビットコインの理論
は、2008年10月31日に、あるメーリングリストに発信さ
れています。そのメールの内容は、今でも見ることができますし
次のPDFで入手できます。
─────────────────────────────
      ◎ビットコイン論文
       https://bitcoin.org/bitcoin.pdf
─────────────────────────────
 このビットコインのはじまりの模様について、25日のEJで
ご紹介した高木奏氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ナカモト氏は誰なのか?いまだにゴシップ筋の強い関心を集め
ているが、このメーリングリストでは誰もそれを詮索した気配は
ない。彼らの関心はナカモト論文の中身にしかなかった。
 メーリングリストの参加者がナカモト氏に疑問を投げかけ、ナ
カモト氏が答えるというやりとりが14通ほど交わされているが
2008年11月17日を最後にナカモト氏からのメールは途絶
える。最後のメールにはこう書かれていた。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「ビットコインのソースコードは、もうすぐできる。メイン
 ファイルが必要なら送るよ。フルバージョンのリリースはも
 うすぐだ」。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                 ──高木奏著/扶桑社刊
    『ヤバイお金/ビットコインから始まる真のIT革命』
─────────────────────────────
 2009年の年が明けた2009年1月8日のことです。ナカ
モト氏は「Bitcoin v0.1 released」 という新たなメールを発信
します。ビットコインがリリースされたことを知らせるメールで
す。そして、このメールが発信される5日前に「最初のビットコ
イン」が生まれ、1月9日からは次々とビットコインの採掘、す
なわち、マイニングが行われるようになったことがわかります。
ビットコインは、このようにして、始まったのです。
              ─[デジタル社会論V/054]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインキャッシュとは?誕生の歴史や時価総額、
  送金時間などを解説
  ───────────────────────────
   ビットコインキャッシュはその名称からも分かるように、
  ビットコインと切っても切れない深い関係がある。ビットコ
  インキャッシュは、ビットコインのハードフォークによって
  誕生した仮想通貨だ。ハードフォークとは「通貨分裂」や、
  「通貨分既」などと呼ばれるもので、簡単に言えば、もとも
  と存在した仮想通貨(この場合はビットコイン)がルールを
  変えた新仕様の仮想通貨(この場合は、ビットコインキャッ
  シュ)に分かれることを指す。
   ビットコインがスタートしたのは2009年1月で、ビッ
  トコインキャッシュがハードフォークによって誕生したのは
  2017年8月のことだ。ビットコインの8年半後に誕生し
  た新しい仮想通貨ということになる。
   ビットコインキャッシュのハードフォークが起こったのは
  仮想通貨の取引が世界的に増加したことがきっかけだ。送金
  ・取引完了にかかる時間が、長くなってきたことで、ハード
  フォークすることになった。
   処理速度を改善する方法をめぐり、ビットコイン関係者の
  間で議論は分かれた。具体的には、既存ソフトウェアを改良
  することで解決を目指そうとする派閥と、ビットコインの基
  幹技術「ブロックチェーン技術」における「ブロック」の容
  量を大きくすることを目指す派閥との間で対立が起こったの
  だ。前者はビットコインの開発者グループ、後者は仮想通貨
  取引の承認などによって報酬を得ているマイナー(採掘者)
  が中心だった。         https://bit.ly/2XI6mMv
  ───────────────────────────
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ビットコインとマイニング
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2021年10月27日

●「マイニング種々のスタイルがある」(第5601号)

 ビットコインの話です。デジタル化の進む社会において、現代
人は、「デジタルの芸術品」ともいうべきビットコインのことを
もっと詳しく知る必要があります。なぜなら、いずれ通貨は必ず
デジタル化されるからです。
 2009年1月3日に一番最初のブロックが作られています。
当然マイニングが行われ、PоWの勝者が決まったはずです。そ
の勝者がナカモト・サトシ氏であるかどうかはわかりませんが、
勝者はPоWのリワードとして、50BTC(ビットコイン)が
もらえたはずです。
 このリワードの額は、新たに約21万ブロックが作成されるご
とに半減していく仕組みになっています。2012年11月には
25BTC、2016年7月には12・5BTC、それ以来、約
4年が経過し、2020年7月には6・25BTCになっていま
す。現在のリワードはこの価格です。2024年になると、リワ
ードは、3・725BTCに下げられることになっています。
 そして、そもそも発行されるビットコインの上限が決まってい
て、2100万BTCになると、もうビットコインは発行されな
い仕組みになっているのです。これらはすべてプログラムに組み
込まれており、管理者なしでも決められたことが実行されます。
 つまり、ビットコインは、基本的にはPоWでしか入手できな
いものなのです。狭き門です。しかし、一般人がPоWで手に入
れるのはほとんど不可能ですので、取引所でそのときの時価で各
国通貨で手に入れるしかないのです。
 現在1BTCの価格が高騰していますが、ビットコインを入手
する場合、ビットコインの最低単位「1Satoshi」 単位で購入す
ることになっています。
─────────────────────────────
 1BTC・・・・・・・・・・・     1ビットコイン
 0.01BTC ・・・・・・・・  1センチビットコイン
 0.001BTC ・・・・・・・   1ミリビットコイン
 0.000001BTC ・・・・ 1マイクロビットコイン
 0.00000001BTC ・・        1Satoshi
─────────────────────────────
 現在、ビットコインやブロックチェーンに関しては、多くの書
籍が出版されています。そのほとんどを購入して読みましたが、
それらの書籍は、ビットコインとは何か、ブロックチェーンはど
のような技術かについて説明しているだけで、必ずしも具体的で
はないのです。
 例えば、マイニングは個人レベルで参加することが絶望的に思
えますが、必ずしもそうとはいえないのです。マイニングをビジ
ネスとして捉えてみた場合、それに参加する方法は色々あるので
す。それについて説明します。マイニングには、次の3つの方法
があります。
─────────────────────────────
         @  ソロマイニング
         A プールマイニング
         Bクラウドマイニング
─────────────────────────────
 第1は「ソロマイニング」です。
 「ソロマイニング」は、自分のコンピュータを使って、1人で
マイニングする方法です。
 ソロマイニングでは、暗号資産(仮想通貨)のマイニングに成
功すると報酬をすべて自分のものにでき、成功する回数が増えれ
ば報酬が一気に増えることがあります。その一方で、マイニング
に成功しなければ全く報酬が得られず、マイニングに使う電気代
や設備代などのコストだけがかかってしまいます。
 ソロマイニングでは、膨大な計算を高速に行うための高性能な
コンピュータを準備し、専用のソフトをダウンロードしてうまく
稼働するように調整しなければなりません。そのため、コンピュ
ータの組み立てやマイニングソフトを調整するための知識など、
専門的なスキルが必要になります。
 第2は「プールマイニング」です。
 複数のマイニング参加者が協力してマイニングする仕組みであ
る「プール」というものがあります。このプールに参加して、マ
イニングを行うのが「プールマイニング」です。自分のコンピュ
ータの計算能力をインターネット経由で提供し、提供した仕事量
に応じて報酬を受け取るという方法もあります。
 マイニングに成功するとプールの管理者が報酬を受け取り、参
加したマイナーの仕事量に応じて報酬が分配されます。そのため
ソロマイニングに比べてマイニングに成功するチャンスが増え、
安定した報酬を得やすくなる利点があります。
 第3は「クラウドマイニング」です。
 マイニングを専門にしている企業(マイナー企業)にマイニン
グを任せるのが「クラウドマイニング」です。この方法であれば
マイニングに関する専門的な知識や、コンピュータの専門的なス
キルがなくてもマイニングに参加できます。
 一方、クラウドマイニングのスキームには、マイナー企業に出
資して報酬を得るものから、マイニングマシンをレンタルしてマ
イニングに参加するものなど、さまざまな形態があります。
 実は、ビットコインの総発行量の上限である2100万BTC
は、2018年5月の時点で、約1700万BTCがマイニング
されています。残りの約400万BTCが今後のマイニングの報
酬として支払われる予定で、上限に達するのは2140年頃にな
る見込みです。
 このように、マイニングひとつとってもそれぞれ工夫すれば、
多くの人が参加できる方法があり、ビットコインの仕組みは本当
によくできていると思います。これをナカモト・サトシ氏がすべ
てプログラミングしたとすれば、ナカモト・サトシ氏は大変な天
才プログラマーであるといえます。
              ─[デジタル社会論V/055]

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)におけるクラウド
  マイニングとは?
  ───────────────────────────
   クラウドマイニングとは、ビットコインなどのマイニング
  と呼ばれる作業を行うマシンを遠隔利用することです。クラ
  ウドマイニングのサービスプロバイダーに申し込んで、マシ
  ンのマイニングパワーを購入します。そのマシンを使ってマ
  イニングを行い報酬を獲得することで、そのうちの一部を配
  当のような形でプロバイダーから暗号資産(仮想通貨)を受
  け取ることができます。クラウドマイニングとは、マイニン
  グを行う企業への投資であると言えます。
   そもそも、マイニングとはビットコインを初めとする暗号
  資産(仮想通貨)の取引データが正しいことを承認し、ブロ
  ックチェーンにつなぎこむ作業です。つなぎこむのに適した
  値をいち早く計算できた人が、報酬として暗号資産(仮想通
  貨)を受け取れます。報酬を用意することで、承認作業に参
  加する人がいなくならないようにしています。
   しかし、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)が普及
  するにつれ、個人レベルでマイニングを成功させることが難
  しくなってきました。計算速度を高めるために、マイニング
  に参加するマイナーはマシンパワーを増強する必要がありま
  す。その競争が進んだ結果、強力なマシンを大量に接続し、
  膨大な電力を消費しないと、マイニングで利益を得られなく
  なったのです。マシンの購入や管理コスト、さらには多額の
  電気代をまかなえる企業だけが、マイニングへ参加できるの
  が現実です。そこで登場したのがクラウドマイニングです。
  資本力で企業に太刀打ちできない個人でも、手軽にマイニン
  グによる利益を得られるべく、マイニング参加企業を通じて
  間接的に報酬を受け取る仕組みと考えられます。
                  https://bit.ly/2ZmB3aV
  ───────────────────────────
マイニング・マシン.jpg
マイニング・マシン
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2021年10月28日

●「仮想通貨中国全面中止の影響探る」(第5602号)

 2018年5月20日、米マイクロソフトの共同創業者である
ビル・ゲイツ氏は、ビットコインについて、次のように発言して
います。
─────────────────────────────
 資産クラスとしてビットコインは何も生み出さないので、その
価値が上がることを期待すべきではない。ビットコインへの投資
は生粋の“大馬鹿理論”greater fool theory of investment に
よるものだ。  ──ビル・ゲイツ氏 https://bit.ly/316tTIg
─────────────────────────────
 “大馬鹿理論”とはよくもいったりです。彼は、値上がりをし
ているものを実態にかかわりなくひとまず買って、遅れて買おう
とする馬鹿な人に高く売る、これがあちこちで起きて、価格が上
がるという構図を意味しています。
 世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏もビットコイ
ンについて、「殺鼠剤を2乗したようなもの」と意味不明の酷評
をし、注目を集めています。
 しかし、坪井大輔氏は、投資家がビットコインに投資する根拠
はあるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 実は、投資家がビットコインに投資をする根拠といえるものが
一つだけあります。何かというと、発行数が限られているという
事実です。ビットコインというのは非常によく練られていて、イ
ンフレを防止するために発行する量が最初から決まっています。
際限なく増え続ければ一つ一つの価値は下がっていきますから、
これを防ごうとする設計になっています。ある時点で、最終的に
もうビットコインはつくられない状態まで行くのです。
 このタイムリミットについてお話すると、2140年で発行予
定量100%になるように設計されています。ここを過ぎたらも
うビットコインは新しく発行されることはない。何かトラブルで
も起きない限り、2028年には98%、2032年に99%に
達するはずです。      ──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
─────────────────────────────
 ビットコインに関してもうひとつ気になっていることがありま
す。それは中国が仮想通貨を全面禁止にしたことです。2021
年9月24日のロイターは、次のように報道しています。
─────────────────────────────
[24日 ロイター]─中国当局がついに暗号資産(仮想通貨)
に関連する全ての取引と採掘(マイニング)を禁止すると発表し
た。これによりビットコインをはじめとする主要仮想通貨の価格
は軒並み下落し、株式市場で仮想通貨やブロックチェーン技術の
関連銘柄にも売り圧力がかかっている。https://bit.ly/3pG8YWB
─────────────────────────────
 中国政府が、仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)産業の取り締ま
りを発表するたびに、仮想通貨関係者の間で出回るジョークがあ
ります。それは「中国はすでに18回も仮想通貨を禁止にしてい
る」というものです。
 しかし、今度はどうやら本気のようです。とうとうあらゆる活
動が非合法化されています。そればかりか、この禁止ルールを実
行面でさらに徹底する方針も打ち出されているからです。中国人
民銀行は、仮想通貨取引の促進を違法行為とみなした上で、中国
国内からの海外プラットフォームを利用した取引など、違法行為
に関与した人物・団体は誰でも厳罰に処すと宣言しています。国
家発展改革委員会は、マイニング事業を段階的に消滅させるため
全国的な取り締まりを開始するとしています。
 なぜ、中国を気にするかというと、マイナーには中国人の事業
家が圧倒的に多いからです。英ケンブリッジ大学の指標によると
ビットコインマイニングの年間電力消費量は約130テラワット
時と、アルゼンチン一国の電力消費量を上回るといわれます。
 そこで、比較的安価で電力が利用できる中国に、マイナーが集
まることになったのです。とくに、内モンゴル自治区や新疆ウイ
グル自治区などの石炭が豊富な地域や、四川省や雲南省などの水
力発電所がある地域です。
 英ケンブリッジ大によると、中国がビットコインを生み出す能
力は、2019年9月時点で世界全体の75・5%を占めていた
のです。その後比率は低下したが、2021年4月でもなお46
%と半分近くあったといいます。
 今後中国人マイナーはどうなるのでしょうか。野村総合研究所
エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、NRIのコラム
に次のように書いています。
─────────────────────────────
 中国国内での、暗号資産のマイニングが禁じられることは、マ
イナーにとってまさに寝耳に水だった。内モンゴル、青海省、四
川省などでマイニング業者の廃業が相次いでいるとされる。それ
でも、海外の大手マイナーらは、中国からコンピューターを他国
に移転させ、ビジネスを続けようとしている。これは、「マイニ
ング大移動」とも呼ばれている。主な移転先は、化石燃料が豊富
な隣国カザフスタンや米国、カナダなどとされる。
 ただし、マイニングに用いられるコンピューターは揺れると損
傷しやすいため、慎重に輸送する必要がある。また、原油価格高
騰や人件費高騰によって輸送コストも高まっている。そこで新品
のコンピューター1台を海外に運び出す際には、約1万2000
ドル(約132万円)かかる場合もあるという。そうした高い移
転コストを支払っても、中国からコンピューターを移転して、マ
イニングを続ける業者が多いのである。https://bit.ly/30ZGTPL
─────────────────────────────
 確かに、ビットコインには2100万ビットコインという上限
があり、インフレを防止する仕組みになっています。したがって
値上がりする余地は残されているのです。
              ─[デジタル社会論V/056]

≪画像および関連情報≫
 ●中国のマイナーが国を追い出されて向かう先
  ───────────────────────────
   暗号資産(仮想通貨)マイニングに対する中国の取り締ま
  りによって中国のマイナーは移転先を世界中で探している。
  北米がマイナーを呼び込んでいるという報道もあるが、今の
  ところ、はっきりとした勝者はいないようだ。マイニング機
  器のホスティング施設建築にかかる時間やエネルギー費用、
  人件費、税制度、気候、政治やビジネス環境といった要素に
  よって、マイナーが移転のルートを計画するのが困難になっ
  ていると、業界関係者は語る。北米が主要移転先の1つであ
  ることは確かだが、中央アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッ
  パが将来的には手強い競争相手となるか可能性もある。暗号
  資産業界には、このような展開を喜ぶ人たちもいるだろう。
  世界中にハッシュパワーがより分散し、中国のマイナーがビ
  ットコインネットワークに過剰な影響力を持つことへの懸念
  が和らぐ可能性もあるからだ。3月以降に中国の取り締まり
  によってオフラインとなったハッシュレートの約25%は最
  終的に北米に、25%はカザフスタンやモンゴル、ロシアの
  一部などの中央アジアへと移転するだろうと、シアトルにあ
  る暗号資産マイニング企業ルクソールのCEO、ニック・ハ
  ンセン氏は予測している。ハッシュレートの15%はラテン
  アメリカに、10%はEU圏の国々に、旧式のマイニング機
  器の一部は中国から脱出できずに、残りはオンラインに復帰
  しないだろうと、ハンセン氏はみている。
                  https://bit.ly/3nqvoZ6
  ───────────────────────────
ビル・ゲイツ氏.jpg
ビル・ゲイツ氏
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2021年10月29日

●「アプリを構築できるイーサリアム」(第5603号)

 「DAO」という考え方があります。「DAO」とは、次の英
語の頭文字であり、「ダオ」と読みます。
─────────────────────────────
     ◎DAO/自律分散型組織
      Decentralized Autonomous Organization
─────────────────────────────
 DAOとは、分散型で、自律的に機能する組織を意味していま
す。従来の組織では、中央に意思決定をする組織や人がいて、そ
の決定したがい、組織が運営されています。これに対してDAO
では、中央の組織の代わりとして、ルールが存在するのです。こ
のルールに基づいて活動を行い、中央の組織がなくても、自動化
された運営ができます。
 このDAOに関して、坪井大輔氏は「次世代の世界観」として
次のように説明しています。
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 DAOは、今の時代の次に来る世界観を表しています。それは
ブロックチェーンやAI、ロボットなど、つくられたシステムが
私たち人間を自動的に使う世界です。
 システムが私たちを使うとはどういう意味でしょうか。ここで
ビットコインを思い出してください。ビットコインは、ある企業
が運営しているわけではありませんね。でもその中でとても大き
なお金が回っていて、人々はビットコインをめぐつてざわざわと
心動かされ、ときに行動も左右されている。システムで組まれた
自律して分散された仕組みが金融業界の中で僕らを使っている。
システムに人間が動かされているわけです。
 ブロックチェーンの可能性を考えるには、原則的にこの視点に
立つ必要があります。今後どうやって、自律的・自動的に動くシ
ステムをつくり、このシステムを組織化して、その周りに人間が
いるという状態をどう実現するか。これこそがブロックチェーン
の本当の意味での可能性です。──坪井大輔著/翔泳社/SE刊
     『WHY BLOCK CHAIN/なぜ、ブロックチェーンなのか』
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 この問題は、実は「イーサリアム」が関係しています。少しで
もビットコインやブロックチェーンに関心のある人であれば、こ
の「イーサリアム」という言葉を聞いたことがあると思います。
 このイーサリアムについて、あの堀江貴文氏は、2014年4
月に、自身のブログ「イーサリアムやべぇ。。。」というタイト
ルで、イーサリアムの可能性について、書いています。その一部
を紹介します。
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 つまり、ビットコイン型のプロトコルで重要なのは一番長いブ
ロックチェーンが正しいブロックチェーンだとネットワークの参
加者が合意しているということなのだが、そのブロックチェーン
にコインの金額や受取人などの取引情報ではなく、契約(スマー
トコントラクト)を記述してしまおうという仕組みがイーサリア
ムだ。改めて、公開鍵暗号方式とビットコイン型のブロックチェ
ーン方式の認証システムのコンボの凄さを思い知ったよ。。。
            堀江貴文氏 https://bit.ly/3bhIxOz
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 この事実を明かしているブログによると、当時堀江貴文氏は、
イーサリアムを購入しており、1800倍の価格に跳ね上がった
とされています。しかし、イーサリアムの秘密鍵を忘れてしまっ
て動かせなくなってしまったようです。イーサリアムでは、秘密
鍵を使ってトランザクションにデジタル署名をするので、秘密鍵
はお金の所有権をあらわしているのです。秘密鍵を再度取得する
ことはできません。
 そういうわけで、「イーサリアム」について、知る必要があり
ます。「イーサリアム」とは何でしょうか。
 イーサリアムは、ビットコインと同じブロックチェーンを利用
する暗号資産(仮想通貨)のひとつであり、2021年5月時点
では、ビットコインに次ぐ時価総額2位の地位を占めています。
ビットコインとイーサリアムとはどう違うのでしょうか。
 イーサリアムは、スマートコントラクト機能を備えた分散型ア
プリケーションプラットフォームです。つまり、イーサリアムで
アプリをつくれるとお考えください。イーサリアム上で使われる
通貨は、「イーサ」(Ether) といい、イーサリアムを利用する
際にかかる手数料を「ガス」(Gas)と呼びます。
 イーサリアムは、ビットコインよりも複雑な取引や契約が行え
るようになっています。取引の承認に使うブロックの生成間隔も
ビットコインは約10分であるのに対し、イーサリアムは約15
秒と短く、大量の取引をより速く行うことが可能です。
 イーサリアムの大きな特徴は、スマートコントラクト機能によ
り、ブロックチェーン上にアプリケーションを記録したり、契約
の内容を保存したりできることです。それでは、スマートコント
ラクトとは何でしょうか。
 スマートコントラクトとは、あらかじめ決められた設定によっ
て自動的に実行されるシステムのことです。スマートコントラク
トは、よく自動販売機に例えて説明されます。
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        @ユーザーがお金を入れる
        A飲みもののボタンを押す
        B希望の飲み物か出てくる
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 この流れを「ユーザーと自動販売機が契約した結果」とみるの
です。そうすると、お金の投入とボタンの選択は契約行為であり
この行為が行われたときのみ、自動販売機はサービスを提供する
ことになります。つまり、スマートコントラクトとは、ある行為
に紐付いた結果にいたるまでの契約の自動化をするためのもので
あって、イーサリアム・ブロックチェーンにはこの仕組みが備わ
っているのです。      ─[デジタル社会論V/057]

≪画像および関連情報≫
 ●DAOとは何ですか?
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   分散型自律組織の概念を世界で初めて経験したのは、消滅
  前にベンチャー キャピタル ファンドとして運営されていた
  「The DAO」でした。ほとんどのベンチャー キャピタルファ
  ンドとは異なり、オープンソースコードによって運営されて
  おり、典型的な管理構造や取締役会はありませんでした。D
  AOのようなソリューションの設計の背後にある意図は、人
  間が運営する従来の組織で発生する可能性のあるエラーと資
  金の操作の数を減らすことです。
   DAOは、世界中の誰もが資金の管理ミスを心配すること
  なく、世界中のどこからでもプロジェクトに投資できるよう
  にすることを目的としていました。さらに、DAOはトーク
  ンの所有者がプロジェクトに投票できるようにします。
   DAOの成功は、記述されたコードに大きく依存していま
  す。このコードが適切に記述されていない場合、DAOは悪
  用される可能性のある脆弱性に、さらされる可能性がありま
  す。サイバー犯罪者は、DAOのセキュリティの脆弱性を悪
  用し、1億5000万ドル相当のETHの損失を引き起こし
  ました。DAOの失敗にもかかわらず、分散型自律組織の概
  念は長年にわたって人気が高まっています。この種の組織は
  最終的には従来のビジネス構造よりも望ましいものになると
  考える人もいます。これは、DAOが効果的に動作するため
  に依存しているブロックチェーンベースのコンポーネントに
  よるところが大きい。      https://bit.ly/3Cn1HhT
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イーサリアム.jpg
イーサリアム
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | デジタル社会論V | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする